【eXtra > エクストラ(表) part2】


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 午後八時頃、喜多川教授との悪夢のようなミーティング、通称「ジャッジメント・タイム」を命からがら抜けてきた俺は繁華街にある大きなゲームセンターにいた。奴等が根城にしているらしいゲームセンターだ。

 そのゲームセンターは大手ゲームメーカーの直営で、店内も広々としていて照明も非常に明るく清潔なイメージだ。ゲームセンターというよりはアミューズメントセンターと言うべきだろう。古き良きビデオゲームよりもUFOキャッチャーやその他プライズゲームが中心の店だ。俺も何度か来た事がある。男子諸君はUFOキャッチャーの練習をするといいぞ。それは間違いなく君にとって有益な結果になる(異性関係において)。

 十分程店内をぶらぶらしているうちにお目当てのゲームは見つかった。大型のマシンなので目立つ。人だかりが出来ているから、さぞ人気のゲームなのだろう。じゃあゲームを見つかるまでに何故十分もかかったかといえば、俺は店に入ってから暫くの間、UFOキャッチャーの巨大ピカチュウぬいぐるみと格闘していたからだ。もちろん取ったけどな。千円かけて。
 ピカチュウを脇にかかえた二十一歳がマシンに近づく。
 『ベルゼブブ・アーマーズ』は対戦台で二セット、計四台設置されていた。数人並んでいたので、俺はその最後尾に並び、あたりを見回す。こいつらみんなどちらかのチームのメンバーなのだろうか。俺はマシンの近くにあるターミナル(ここでICカードを買ったり、その戦績をチェックしたり、機体やパーツを購入、取り替えする)に置いてあった、このゲームのパンフレットを手に取り、読むふりをしながら周囲を伺う。
 どうやらこの周辺の人間はみな知り合いらしく、プレイヤーに声をかけたり、待っている人間同士で話し合っていた。資料を読んだ限りでは二チームは相当いがみあっているようだし、二チームがこの場に混在しているわけではないようだ。
 次に能力を使って周囲を見たが、これといって情報は得られない。俺の能力は、人の生死に関する情報は得られない。未来の情報も得られないので、人がいつ死ぬかなんてこともわからないし、生年月日や年齢なんてものもわからない。だから俺がこの場で得た情報は、この場でゲームにふけっている人間全員童貞であるということと、昨日自慰をしたという事だけ。要するに何も有益な情報は得られない、と。

 そうこうするうちに俺の番が回ってきた。見慣れないピカチュウを抱えた大学生の姿に周りの連中の奇異の視線が突き刺さるがそんな事は気にしない。シートに滑り込むと、コインを投入し、機体を選択する。ICカードは金がもったいないので買っていない。
 とりあえず、露骨にゴツい、見るからに重装甲で体中からミサイルやビームを撃ちそうな機体を選ぶ。俺は離れたところからちまちまと相手を削り、相手の心も削るような戦法と機体を好む。

 <READY GO!>

 試合の開始を告げる文字がディスプレイに表示される。ツインスティックを握りながら、俺は妙な高揚感に包まれていた。


 「ねえ、ピカチュウのデカイニーサン。見かけない顔だけど、大学生? アンタこのゲームやりこんでるの? 強いじゃん」
 ゲームを始めてからおよそ三十分。俺が一試合終えて、列に戻った時に話しかけてきた奴がいた。年齢は例によってわからないが、身長は一六○ちょっと。ニキビ面で人懐っこそうな笑顔を浮かべるそいつは、まあ中学生か高一だろう。腕に炎の形のようなワッペンをしていた。よく見れば、ここにいる連中は一人残らず同じワッペンをしているのだ。どうやら事情が見えてきた。
「ああ、まあ大学生だよ。このゲームをやるのは今回が初めてだけどな」
「え、マジ!? すげーツエーじゃん! あんた何者?」
 年上に対して口の聞き方がなってないが、素直なのはよろしい。
「昔似たようなゲームをよくやってたからな。そういやこのへんの奴等みんなそのワッペンしてるけど、何?」
「よく気付いたじゃん! 俺達は泣く子も黙るチーム『ナイトファイア』なんだぜ。アンタも聞いた事あるだろ?」
「へえ、お前等が『ナイトファイア』なのか」

 ビンゴ!コイツ等はやはりチームの一つ、『ナイトファイア』だったわけだ。自称:泣く子も黙る連中がなんでゲームばっかしてるのかはわからんが。ゲーマー集団かよ。

「おお! スゲーな俺達のチーム! 大学生も知ってるんだってよ!」
 坊ちゃんの言葉に周囲が沸き立つ。そんな嬉しいのかお前等。
「ところでさ、お前等のリーダーの沢渡翔って今居ないの?」
「リーダーじゃねえ! ヘッドだ! あとヘッドを呼び捨てにすんな! ついでに俺はお前じゃなくてツヨシだからな!」
 言葉の全てに感嘆符がついていて面白い。
「それは悪かったな。で、そのタートルヘッドは居ないのか?」
「タートルヘッドじゃねえよ! そういや、今日はまだいらっしゃらないな、ヘッド。普段ならもうとっくの昔にいらしているはずなんだが………」
 大学生の俺はため口で高一の奴は敬語かよ! 俺を見上げてるくせに! お○○○○ほっかむりのくせに!

「ふうん、じゃあもうちょっと待ってみるかな。ところでなんでお前等このゲームにそんなはまってるんだ?」
「おもしれーじゃん!」
 ニキビ面のツヨシ(童貞)はそう言うと屈託なく笑った。俺の考えは杞憂だったのだろうか。これならばいいんだが。


「ストーリーだよ。ストーリー。『ベルゼブブ・アーマーズ』の根底のストーリーがたまらないんだ。低能力の異能者や一般人が強い異能者ぶっ飛ばすなんて最高だろ?」
 俺とツヨシが話していると、後ろから声がした。えらく攻撃的でトゲのある声だ。
「あ、ヘッド! チイッス!」
 ツヨシが九十度腰を曲げて頭を下げる。俺は声の主の顔を見た。間違いなく、それは資料にあった男、沢渡翔だ。もっとも、髪が赤くなっていたが。まあ、この人髪赤く染めちゃって、不良ですわよ奥様。怖い。
「で、ツヨシ。このピカチュウを脇に抱えた男は誰だ?」
「えっと、大学生です。コイツ無茶苦茶強いんですよ『ベルアー』! 俺等みんな歯が立たなくて」
 妙な略し方だな。

「ご紹介にあずかりました、通りすがりのポケモンマスターこと、八十神九十九、双葉大学三年です。よろしく〜」
「へえ、大学生か。面白いな、俺とやってみるか?」
 俺は出来る限りの軽薄な態度と敬語で挨拶をしたがろくに聞いちゃいねえ。
「それは光栄でござるな。是非一手ご教授願いたい」
「変な奴だな……。まあいい。お前等! どけ、俺とこのピカチュウがやるから」
 号令一つで皆慌てて沢渡に道をあける。どうやらコイツはチームじゃ絶対的らしい。
 ピカチュウ、お前このゲームやるか?任天堂製じゃないけど。
 俺は脇に抱えた黄色い相棒に語りかけながら沢渡翔とは反対側のシートに腰を下ろした。まあ勝てる勝てないは問題じゃない。問題なのは奴がストーリーが面白いと言い切った事にある。問題は深刻だ。

 コインを投入して、機体を選択、俺はずっとゴツい砲撃機体だけ。奴はICカード利用らしく、カスタマイズ機体だ。全身赤のボディペイントにスマートなボディ。初心者の俺にはそれだけで相手の特徴は全くわからない。

 <READY GO!>


 まあ、案の定と言うべきかわからないが俺は負けた。意地で一本取ったが、さすがにやり込んでいるらしい沢渡には敵わない。しょうがないと思って席を立った俺に話しかけてきたのはツヨシだった。
「あんたやるじゃん。ヘッドから一本取るなんてよ」
「ああそうかい。まあ負けたけどな。いや、悔しくないよ? 全然悔しくないよ? 初心者だからしょうがないとか自分自身に言い訳してないよ?」
「うちのヘッドに勝とうなんて無理無理。一本取れただけでも凄いよ」
「いや、実際僅差だったぜ、あんたは強いよ」
 俺とツヨシの会話に入ってきたのは沢渡。何か妙に嬉しそうな顔をしていた。初心者狩ってそんな嬉しいか?
 俺だったら嬉しいだろうけど。
「なんだ、もう負けたのか?」
「まさか! 俺はこいつら相手じゃいつまでも席を離れられないからな。俺はあんたに用があるんだ」
「へえ、そいつは光栄だな。で、用っていうのは?」
「一週間後、ある人間と対戦して欲しいんだ。このゲームで」

「……事情を説明してもらおうか?」
「俺達の事を知っているのなら、『エグゾースト』の事も知ってるな?」
「ああ、まあな」
「『エグゾースト』の連中はカスっすよ! あの脳筋集団ども!」
 ツヨシがエキサイトして言い捨てる。だが残念ながらコイツからも知性の輝きは感じられない。
「黙ってろツヨシ。だったら話が早い。一週間後、俺達『ナイトファイア』と『エグゾースト』はあるものを賭けて対戦することになっているんだ」
「あるものっていうのは?」
「ここだよ、ここ」
 そうして奴が指したのは地面。この場所そのものということか?
「今は偶数の日は俺達『ナイトファイア』奇数の日はあいつら『エグゾースト』が使う事になってんだけどよ。それじゃあカッタルイからさ。ここらでケリつけようかと思ってよ。しかも平和的だろ?」
「ま、確かに殴り合いで決めるよか余程いいな。で、なんで俺なんだ?」
「規定じゃそれぞれリーダー以外の代表を立てる事になっててよ。強い奴を探してたのさ」
「で、俺ってわけか」
「そうだ、受けてくれるだろ?」
「アンタ、ヘッドが頼んでるんだぞ! 断るわけないよな!」

 さて、ここで俺はどうすべきか。
 どちらか一方に肩入れしすぎるのは得策ではない。だが、ここで話を受ければ、『エグゾースト』とは自然と対立する流れになっても今回の問題の本質に近づけるという気がする。何故この二チームは対立しているのか、対立を解消するにはどうすればよいか。そして奴等の異能コンプレックスを如何にして取り去るべきか。

 ま、虎穴に入らずんば何とやら。という奴か。やるだけやってみるさ。

「わかった。いいぜ、やあってやるぜ!」
 俺は微妙に声をダミ声にしつつ親指を立てた。サムズアップ。
「………。そうか。それはよかった。じゃあ、試合の日まで一日置きにここに来るんだな。みっちり仕込んでやるぜ」
「オーケーヘッド」
「それと。間違っても奇数の日はここに来るなよ。『エグゾースト』の奴等がいるからな」
 オーケー(童貞)ヘッド!

 まあ初日で奴等に食い込めたのは良しとすべきだろう。問題は『エグゾースト』についてだが、こうなった以上は本人達に接触せずに情報を集めるより他に無い。
 俺はそんな事を考えながらゲームセンターを後にした。




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