【エヌR・ルール 紹介SS】


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           ルール・リッチ・スゥイートハート

              1

 醒徒会会計監査のエヌR・ルールは人造人間である。
彼を製造した兵器開発局は、世界平和を企む謎の秘密結社である。 エヌR・ルールは人間の自由の為にラルヴァと戦うのだ!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだそれは」
 銀髪のマッシュールームヘアに真っ青の派手なサングラスがトレードマークの少年、エヌR・ルールは呆れたように目の前の少女を見つめていた。
「なにって貴方のキャッチコピーじゃない。ルールくんってあの濃い醒徒会のメンバーの中では一番影薄いじゃない。全然喋らないし。生徒のみんなも貴方のことよく知らないと思うの」     
 彼女の言うことは真実で、彼は兵器開発部の超人計画で生まれた人造人間だ。人間の製造は禁止であるため、兵器開発部は即座に取り潰され、彼は他の異能の生徒同様にこの学園で暮らすことになったのである。そのハードな出生と寡黙で機械のような冷徹な雰囲気があまり人を寄せ付けない。しかしこの少女、長谷部亮子はそんな彼に突然話しかけてきた。長いポニーテールが似合う健康的な少女で、クラスでも中心的な存在だった。
 ルールと長谷部は夕日が差し込む放課後の教室で向かい合うように座っていた。端から見れば仲のいいカップルに見えるのかもしれないが、ルールは自分の時間を割かれて少し不機嫌のようだ。
「だからなんだというんだ長谷部くん」
「だーかーらー。今度あなたの特集を組ませてよ、ほら、あたし新聞部だし」
 長谷部亮子は新聞部の部長で、彼女の組む特集は今までかなりの部数を誇っていた。しかし。
「最近はうちの新聞の売り上げが悪くなってきたのよ。なんというかマンネリというか。何か意外性が足りないのよ。このままじゃ飽きられて誰も読まなくなっちゃうわ」
 長谷部は深い溜息をつく。しかしルールは意にも解さず文庫本を開いて眺めていて、まったく聞く耳を持ってないようだ。
「そんなものはぼくに関係ないだろう。見世物になるのはごめんこうむるね」
「いいじゃないケチンボ。大体うちらの売り上げの5%は醒徒会に収めることになってるの知ってるでしょ。あんたも会計なら売り上げが少なくなるとそっちも困るのわかるでしょ」
「会計ではない、会計監査だ。あのバカと一緒にするな」
「あのバカって成宮くんのこと? 仲良くしなさいよ、醒徒会選挙であんたらまさかの同票だったんだから」
「ふん。余計なお世話だ」
「それもネタになるわね。『人造人間と銭ゲバの確執! 醒徒会の複雑な人間関係』とかどう?どう? 」
 長谷部は目を輝かせながらルールに顔を寄せる。
「悪趣味だな。スキャンダルをネタにしだしたら新聞も終わりだよ」
 そんなことを言われて、長谷部は少し頬を膨らませる。
「むー。わかってるわよ冗談よ。誇り高い新聞部がそんなことするわけないでしょ。それに他人を気にも留めないあんたがそんな風に人のことを言うなんて、実は成宮くんに一目置いてるんじゃないの」
 そんなことを言われてルールは少し考える。たしかに成宮金太郎の能力は戦闘にまったく約に立たないが、会計としては最高の実力を発揮するができる。能力を差し引いても彼の財テクは並大抵ではない。それは会計監査であるルールが一番よく知っている。
「それにルールくんって今三年生ってなってるけど実際はまだ生まれて二年くらいでしょ。案外大人ぶってる癖に子供っぽい成宮くんやあのロリ会長とも馬が合うんじゃない」
 そう言われルールはきょとんとした様子だ。確かに醒徒会のメンバーといるとき、彼は実に自然体でいられるのだ。そのことに彼は自分では気づいていない。
「どうだかな」
 故に彼はそんなそっけない言葉を返すだけだった。
「それで、どうなの。取材は受けてくれるの? 」
「ふん、勝手にするがいいさ。ただし――」
 ルールはおもむろに教室の窓を開け、身を乗り出した。その行動に長谷部はぎょっとする。
「ぼくを捕まえられたらな」
 そう言ってルールは窓から飛び出した。長谷部は慌てて駆け寄り、窓の下を覗く。
「ちょ、ルールくん! ここ三階――って、あ!」
 ルールは三階から飛び降りたのにも関わらずごく普通に地面に着地していた。人造人間である彼は基本の身体能力が常人とは異なるのだ。
「じゃあ長谷部くん。ぼくは取材なんてごめんだからね」
 窓から覗く長谷部を小ばかにするようにひらひらと手を振っている。
 そして立ち去るルールを長谷部は唖然と見送っていた。

           2

(あーあ。なんで私って素直に話しかけられないんだろ)
 長谷部は窓から立ち去ったルールの背中を見つめながら溜息をついた。
 取材という建前がなければ興味のある男子に話しかけられないなんて、と自己嫌悪に陥っている。勿論新聞部の売り上げが悪いというのは本当のことではあるが、それならば美少女である会長の御鈴や副会長の水分のほうが部数を稼げるであろう。しかし彼女らではなくルールに取材を申し込んだのは、単純に長谷部自身の興味が強いからだったからだ。
(なぜかわからないけど彼から目を離せないのよね。もっと彼のことを知りたいわ)
 恋愛経験の乏しい長谷部は、まだこれが恋愛感情なのかたんなる新聞部としての好奇心によるものなのか判断がついていなかった。
 ルールが立ち去ってしまったので、彼女も寮に戻ろうと鞄を肩にかけて席を立つ。
 しかしなにやら視線を感じて彼女は教室の扉の方に顔を向ける。そこには数人の男子生徒が立っていた。彼らはガタイがいいが、お世辞にも上品とは言えない雰囲気をもっていて、ニタニタといやな笑い顔をしている。彼らを見て長谷部は不快な表情を隠そうともしない。
「あ、あんたたちラグビー部のロクデナシじゃない。何の用よ」
「ずいぶんな言いようだな新聞部さんよ。しかしまさかアンタがあの化け物に興味があるなんてな。たまたま通りかかっていいものが見れたよ」
 そう言うのはニット帽を被っている男、ラグビー部部長の谷崎だった。彼は威圧的な雰囲気を放つ、いわゆる不良と呼ばれる人種だ。
「べ、べつに個人的に好意があるわけじゃないわよ。ただ取材なだけで・・・・・・それに彼は化け物じゃないわ。生まれ方が違っても私たちと同じ人間よ」
 図星をつかれて長谷部は谷崎から目を逸らす。彼の言うことは否定できないが、それでもこんな下種な奴にそんなことを言われる筋合いはないと長谷部は思っていた。
「ふーん、取材ね。じゃあよ、あいつの横暴を新聞で糾弾してくれよ。俺らラグビー部はあいつのせいで部費がほとんど入ってこねーんだけど。これって職権乱用じゃないのか」
「何言ってるのよ、それはあんたたちが部活もしないで部室にたむろしてるだけだからでしょ! それに部費をお菓子やゲームにばっか使ってたんだから当然よ! 」
 長谷部は逆に谷崎らに食ってかかる。その怒りはジャーナリストの正義故か、ルールのことを思ってなのかは彼女にもわからない。ただ彼らに対する怒りだけがあった。しかし――
「あまり舐めた口聞くなよ糞アマ」
 谷崎は何を思ったか、すっ、と指を額にあてる。
 その瞬間彼女の怒りは一瞬で恐怖に変ることになる。目の前に閃光が輝いたかと思うと、雷が落ちたかのような轟音が耳をつんざいた。激しい音と光で視界を奪われ、何が起こったのか理解できなかったが、長谷部はいま、そこにあったものが無くなっていることに気づく。
「机・・・・・・」
 そう、長谷部が座っていた椅子と机がそこに存在しなかった。しかし床に焦げ跡が残り、そこからは少し煙りが出ていた。長谷部の顔が青ざめる。
「な、何したのよあんた」
「これが俺の異能だよ長谷部ちゃん。俺はこれを『E・スパーク』と呼んでいる。空気中に存在する微量の電気を一点に集め、増幅させて放つ。これを食らったものは跡形も残らず消え去るのさ、たとえ相手が人間であろうと化け物であろうとな」
 ギラギラとしたケモノのような目で谷崎は長谷部を睨みつける。彼女はもはや恐怖で足が竦んで動けない。彼女もまた異能者ではあるが、レベルは低く、かつ戦闘向きではないために谷崎のような高レベルの能力者に立ち向かう術はない。
「俺はよー、あの糞すかしたルールの野郎が大嫌いなんだよ。それにあいつは人造の化け物だ。ラルヴァと大した違いもないだろ。だからお前を人質にさせてもらうぞ長谷部。奴が俺に大人しく屈服して部費を大量に回すならお前も無傷で解放してやるよ。くくくく」
 谷崎はまるで悪魔のように笑いながら長谷部の肩に手をかけた。

            3

 それからほどなくして、ひょろりと細長いシルエットがその教室にやってきた。
 エヌR・ルールである。
(ふん、忘れ物をとりに戻ってきたが、どうやら長谷部くんは帰ったようだな)
 間の悪いことに、既に谷崎たちが去った後であった。ルールは自分の机に忘れた文庫本をとりにきたのだ。その本はメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』である。何度も何度も読み返したあとがあり、かなりぼろぼろになっている。彼は小説をこの本以外に読んだことがないのだ。彼と同じような境遇である本に出てくる人造の怪物になにか思うことがあるのかもしれない。しかし彼はすぐに異変に気付く。
 当然だ。そこにはさっきまであったものが無いのだから。彼の机の前の席が綺麗さっぱり消えていたのだ。最初は誰かが悪戯か何かの用事でどこかに持っていったのかとも考えたが、妙な焦げ跡と臭いがそこには残っていた。ルールは腰を屈めて焦げ跡を指につけてじゃりとしゃりと擦る。それだけで誰かがここで能力を行使したことに彼は思い至った。
(空気がぴりぴりしている。これは電気系能力の残留――)
 人造人間である彼の感覚は最高レベルにまで高められている。機械でさえわからない空気中の微量な性質の変化でさえ彼には感じ取れるのである。そして彼の脳には全校生徒の名前や顔、能力に至るデータが全て収められている。電気系能力で机を消し飛ばすほどの力を持つ者はそんなに多くはない。せいぜい百人程度だ。しかしそれだけではまだ特定できない。
 ルールは次に他に何かが残っていないかあたりを見回した。すると、床には少しだが足跡が残っていた。数名の足跡があり、複数人がここに来たことになる。ルールはその足跡を見つめる。その足跡から靴のサイズを測り、個人を特定しようというのだ。常人には到底不可能だが、人造人間である彼に不可能の文字はなかった。
(電気系能力者でこの靴のサイズは不良分子のラグビー部部長の谷崎だけだ。そしてこの靴跡の人数はラグビー部の人数と同じ、そして一つだけ女子生徒の靴跡そこに重なっている)
 ルールは消し去られた机の跡に目を向ける。そう、そこは長谷部亮子がさっきまで座っていた場所である。
(まったく、だからぼくに話しかけるなと言ったんだ! )
 ルールの表情に変化はない。しかしその拳は強く、硬く握り締められていた。


           4

 双葉学園の部室棟の外の片隅にある、落書きだらけのこじんまりとしたその建物がラグビー部の部室である。ほかの部にも距離を置かれてそのような日の当たらない場所に彼らはいる。しかし彼らにとってそれは好都合だった。誰の目にも触れられない彼らの聖域なのである。その部室の中もやはり乱雑としており、ゲームや食べ物や雑誌が散乱し、ラグビーの道具などそこには無かった。その部室にいるのは部長、谷崎と五名の部員。そして手を縛られて座らされている少女、長谷部亮子だった。
「まったく、お前も災難だな。あんな化け物に関わってるからこんなことになるんだぜ」
 と、下品に笑いながら谷崎は長谷部を見下ろし、ぷかぷかとタバコをふかしてる。校則違反、法律違反だ。しかしお構いなく他の部員も皆タバコを吸い、中にはビールを飲んでいるものもいる。勿論双葉学園にそんなものが売っているわけもなく、どうやらそれらは教員から盗んだものらしい。そんな彼らを長谷部も負けずと睨み返す。
「あ、あんたたち覚えておきなさいよ。あとで絶対に新聞に書いてあんたたちの悪行を――」
「はっ、まだそんなノンキなこと言ってるのか。このままタダで帰すわけねーだろバーカ。二度と逆らえないくらいにトラウマ残してやるよ」
 部員の一人がバカにしたようにそう言う。その一言で彼女はまた絶望に沈む。
「しかし谷崎さん。ルールの野郎はどうやって呼びだすんだ」
「そうだな、夜にでもここのおびき寄せるとするか。ラブレターの一つでも書いてな。今、あいつは長谷部がいなくなったことにも気づいてないだろうしこっちから伝えない限り俺らのことはわかるまい」
 それを聞くと、部員の一人はニヤリと口を歪めた。
「ってことはそれまでちょっと時間があるな。どうです谷崎さん。すこしこの女で楽しみませんか」
 ひひひと下品に笑いながら、舐めるように長谷部を見ている。長谷部はあまりの不快感に背筋がぞくぞくとする。谷崎はくいっと顎をしゃくり、
「俺はこんなガキに興味はない――が、まあお前らの好きにしてかまわんぞ」
 そう言った。その言葉を合図に部員の一人が長谷部に飛び掛った。長谷部はその時、涙を流しながら、全てを諦めた。
 しかしその刹那、この絶望の世界は凄まじい破壊音と共に破られた。
 何事かと長谷部に飛び掛った部員の一人がその破壊音の元、部室の入り口に目を向けた瞬間彼の目には暗黒しか映らなくなる。吹っ飛んできた鉄製の扉が彼の頭に思い切り当たったのである。彼はそのまま失神してしまった。谷崎を初め、他の部員も何が起きたのか理解できなかった。ぶち破られた扉の向こうに見えるそのシルエットに、その場の全員が見覚えがあった。
「ふん。すまんな、少々ノックが強すぎたようだ」
 そこに悠然に立っているのは、やはりエヌR・ルールだった。
 ノックというには荒々しい、それどころか鉄製の扉には拳の型が刻まれていた。その恐ろしいまでの攻撃力に誰もが唖然としていた。
「ルール・・・・・・くん」
 ルールが現れたことで、長谷部は安堵し、少し表情が柔らかくなる。そんな彼女を、ルールは普段では聞けない、優しい口調で彼女に話しかける。
「大丈夫かね長谷部くん。ぼくが来たことによって、ここは地球上で最も安全な場所になった。安心するがいい」
 と、冗談なのか本気なのかわからないことを言い、長谷部は少し笑ってしまう。
「ちっ、どうやらお前を見くびっていたようだなルール。まさかここまで早く俺たちに気づくとはな」
 谷崎は余裕の表情で呟く。しかし、他の部員たちはルールの怒気に満ちた雰囲気を感じ取り、固まってしまっている。そんな彼らに谷崎は睨みをきかせる。
「おいてめえら何ぼさってしてやがる。とっととこの化け物をボコれ。それとも今すぐここで消し炭になりたいか! 」
 怒鳴りながら、少しだけ指先に電気を集め、ばちりと爆ぜさせる。それを合図に部員らはラグビー部であるにも関わらず、金属バットを持ち出した
 ルールの存在と、谷崎の脅しにより恐慌状態になった彼らはなりふり構わず咆哮と共にルールにバットを振り上げた。
「あ、ルールくん危な――」
 長谷部の言葉がい終わらないうちに金属が何か硬い物に当たる独特な音が室内に鳴り響く。長谷部は驚いて目を瞑ってしまっていたが、目を開けたときに更なる驚きを受けることになる。
「な、なんだこいつ・・・・・・」
 部員たちもそんな声をあげる。なぜならルールの頭を直撃したはずの金属バットが、逆に折れ曲がってしまっているからである。ルールは相変わらず無表情だ。彼は立ちすくむ部員から金属バットを奪い取り、それを針金でも畳み折るかのようにぐにゃぐにゃと曲げてしまった。そしてそのまま金属バットだったものを部員の頭に叩きつける。そして横から攻撃してきた残りの部員たちも同じように彼に蹂躙された。
 これには長谷部も声を失う。人造人間である彼の、圧倒的なまでに純粋な力を前にしてまともな反応が出来る者は少ない。しかし、この中で谷崎だけがまだ余裕の表情を保っていた。
「さすがは最強と言われる醒徒会の一人なだけあるなルールよ。さすがは人造人間。さすがは化け物」
「谷崎、何故きみはそこまでして悪行を重ねる」
「はっ、単純な話だ。力があるからさ。この生まれ持った力をくだらねえ世界平和のために使うなんて真っ平だ。俺は選ばれた強い人間だ。お前だってそうだ。どんな人間が努力しても手に入らない力をお前は持っているんだ。それを他人のために使うなんて馬鹿げてると思わねえか。どうだルール、俺と手を組まないか。俺とお前が組めば、醒徒会、いや、この学園を支配できるぞ」
 しかしルールはゆっくりと首を横に振った。
「残念だがそれはできないし、不可能だ。それに、ぼくは醒徒会では最弱なんでね。そんなぼくより圧倒的に弱いキミが太刀打ち出来る相手ではないさ」
 そうきっぱり断ったが、谷崎は特に何も思っていないようだった。
「はっ、そいつは残念だぜルール。やっぱり化け物とは相容れないようだな。だが、こうしてだべってるおかげでこっちのエネルギーは満タンだぜ! 」
「あ、ルールくん逃げて! 」
 長谷部は谷崎の思惑に気づいた、彼はこうやって手下に襲わせたり喋ったりしているうちに空気中の電気という電気を集めていたのだ。長谷部がルールに危険を知らせるのは間に合わず、ばちり、という音と共に谷崎の目の前に巨大な電気の玉が現れた。谷崎の異能、『E・スパーク』である。それは人間ほどの大きさであり、あれをまともに食らえば、人の身体などつま先も残らないだろう。
 バチバチと火花を散らすそれを見て、長谷部はまたも絶望的な表情になっていた。
 だが、その災害レベルの異能を前にしてもルールの表情は相変わらずクールで、汗一つかいていない。まるで、こんなものは問題ではないように。
「そんなすかした表情もこれでお別れだな。この力でお前とその女を跡形も無く消し去れば証拠は残らない。俺に逆らうやつは誰もいなくなる」
「やってみろ。あとお前な、そのニット帽似合ってないぞ」
 その言葉でぶち切れた谷崎は容赦なく電気の玉をルールに向けて炸裂させた。巨大な雷が目の前に落ちたような閃光と轟音が部屋を振るわせる。長谷部はとっさに目を瞑ったためにある程度大丈夫だったが、直接見ていれば失明するほどの光だ。
 部屋は焦げた臭いと煙が充満していた。轟音のせいでまだ長谷部は耳鳴りを起こしていてまったく状況が掴めない。しかし、あの攻撃を食らえばルールの生存は絶望的だと思い、彼女は顔を伏せた。
 煙が晴れ、谷崎はルールが立っていた場所を見つめる。やはり、そこには何一つ残っていなかった。そう、何も無かった。長谷部もそれを確認し、再び顔を伏せた。しかし谷崎は眉を細める。そこにはあまりにも何も無かったのだ。普通は残るであろう燃えカスすらそこにはなかった。これは有り得ないことだ。谷崎は理解できなかったが、あの電気玉を受けて生きているはずがない、光と同じ速度で放たれるあれを避けることも出来るはずがない。
 そしてそれが起こった。
 空中に何やらきらきらと光る無数の粒のようなものが見える。
「なんだ、これは――」
 谷崎が初めて上げる驚嘆の声に反応し、彼女もそれを見る。その光の粒子は一箇所に集まっていき、何かを形作っていく。それは明らかに人の形だった。やがて光の粒子を纏うシルエットから声が聞こえてきた。
「ふん。この能力を行使することになろうとはな。ぼくの真の力を見せるのは生徒相手では醒徒会の彼ら以外を除いてはキミが初めてだよ」
 その平坦な声は、間違いなく、人造人間エヌR・ルールだった。
「ルールくん! 」
「驚かせてすまなかった長谷部くん。これがぼくの異能、ぼくを造った研究者たちは『ザ・フリッカー』と呼んでいた」
 人造の存在である彼に異能が備わることは奇跡に近かった。そしてその能力もまた、奇跡のような力だ。原理は誰にもわからないが、身体を自由に粒子分解することができ、その再構築も自由自在で、まさしく光のちらつきのように彼は存在を不安定にすることが可能なのである。
「なんなんだよてめえ、まじ化け物かよ、死ね、死ね! 化け物おおおお!」
 自分の攻撃が無駄だということに焦りを感じて谷崎は小さな『E・スパーク』を連射してルールに何度も当てる、が、それも徒労でしかなくルールの身体は吹き飛ぶたびに再び元の形に戻ってしまう。とうとうエネルギーが切れたのか、谷崎は息を切らしながらその場にへたり込む。
 谷崎を見下ろしながら、ルールは高らかに宣言する。
「喫煙、飲酒、窃盗、校内暴力に拉致監禁、暴行未遂、、無許可での生徒に対しての能力の行使、この全てが校則違反だ」
 今さらそんなことを言われ、谷崎はぽかんとしている。しかしルールは尚も続ける。
「醒徒会の権限をもって、今、この瞬間、ラグビー部を廃部にする! 」
 そして両手を広げ、部室の床に手を置いた。谷崎は嫌な予感がして思わず叫ぶ。
「な、何をする気だお前、やめろ! 」
「廃部になったらこの部室はもういらないだろ。ぼくの能力は何も自分にしか使えないってわけじゃないんでね――」


                5

「あれぇー、いつのまにラグビー部ってなくなったんだ。知らなかったから部費の決算のまとめが狂っちまったぜ」
 醒徒会室のオファーに腰を下ろしながらパソコンと睨めっこしているのは会計の成宮金太郎である。彼は一件ごく普通の少年にしか見えないが、個人で莫大な資産をもつ財テクの達人である。さらに凄まじいのはその彼の能力『ザ・ハイロウズ』だ。相手の総資産と金運の上下を視覚で認識できるため対ラルヴァの戦闘で約に立つことはないが、もしかしたら誰よりも恐るべき存在なのかもしれない。金の力というのは世界を動かしているものの一つだからだ。
「おいルール。お前ラグビー部が退部してたの知ってたか? 」
 成宮は首だけを傾けて後ろにいるマッシュルームヘアの少年、エヌR・ルールに視線を向ける。ルールはソファに腰掛けて文庫本を開いていた。
「ふん、当たり前だ。ぼくが直接退部届けを受け取ったんだからな」
「ちょ、おま、 だったらオレに報告しろよな! 」
「悪かったな。少しばかりお前の存在を忘れていたよ」
「てめえ、いい加減にしやがれ! 」
 そう毒を吐きながらも、成宮はパソコンに向かい修正を始めた。
「あらあら、二人とも相変わらず仲がいいのね」
 おっとりとした口調でそんなことを言うのは副会長の水分理緒である。ルールと同じくソファに座りながら紅茶を飲んでいる。一挙一動に気品が感じられる。
「仲良くねーよ! 」
「仲良くありませんよ」
 と否定の言葉が重なったために、また水分はくすくすと笑ってる。案外彼女の言ったことは的外れではないのかもしれない。
「でも成宮くん、ラグビー部が廃部になったのは有名な話よ。なんせ突然部室が消滅したってことらしいから。成宮くんももっと学園の話に耳を傾けるといいわ」
「なんだよその怪談めいた話。ほんとかよ」
 彼女が言うとおりに、ラグビー部の部室は完全に跡形も無く消え去った。それは谷崎の『E・スパーク』のように消し炭さえも残さない完璧な消滅。まるでそこに最初から何もなかったかのようであった。何が起きたのか教師たちは谷崎や他の部員たちに事情を聞こうとしたが、何か恐ろしいものでも見たのか、恐怖で何も語ることは無かった。
「しかし、そんなことって宇宙人の仕業じゃない限り出来る奴は限られてくるよな。・・・・・・おいルールお前まさか――」
「何を言っているのだ成宮。ぼくがそんな野蛮なことするわけないだろう」
「けっ、よく言うぜ。まあ連中は悪い噂しかきかなかったからな。こっちもいなくなってすっきりするってもんだがな」
 彼らがそんなやり取りをしているとコツコツという音が聞こえてきた。誰かが醒徒会の扉をノックしたのだ。どうやら客が来たらしい。
「あら、誰かしら」
「ぼくが見てきます」
 ルールは立ち上がって扉に向かった。扉を開けると、見慣れた顔があった。
 可愛らしいポニーテールが特徴の長谷部亮子がそこに立っていた。
「長谷部くん・・・・・・」
 それがルールには意外なことだった。彼の戦闘を見た大概のものは彼に恐怖して、二度と関わりを持とうとすることはない。
「長谷部くん、キミは――」
 ルールが何かを言おうとしたのを長谷部の行動が塞ぐ。彼女は両の掌を彼の頬に当ててこう言った。
「捕まえた」
「は?」
「だから、捕、ま、え、た、の! 約束、覚えてないの? 」
 長谷部は少し怒ったように頬を膨らませている。
「約束・・・・・・ああ」
 彼は先日の会話を思い出した。そう、あれは――
「『ぼくを捕まえたら取材受ける』って言ったじゃない。だから、今日はその約束守ってもらおうかと思って」
 そんな無邪気な彼女の笑顔を見てルールは少しだけ口歪ませて「ぷっ」と笑った。彼がこんな風に笑うのを見たものはあまり多くない。
「あ、今笑ったでしょ! 」
「わ、笑ってない! 断じて笑ってなどいない! 」
 そうむきになって否定するルールを長谷部はころころと笑いながら見ていた。
「いやーまさかルールくんの笑い顔が見れるなんて思ってもみなかったわ。これは来たかいがあったわ」
「うるさい、それより早くどこか落ち着ける場所に行かないか」
「え、なんで?」
 ルールの言葉に長谷部は少しドキっとした。
「なんでって取材なんだろう。ぼくは忙しい身なんでね。手早く頼むよ」
「あ、取材受けてくれるのね」
「勿論だ、約束は守ろう」
「じゃあその前に一つだけ、これは新聞部の取材しゃなくて私個人の質問なんだけど」
「いいぞ、なんでも答えてやろう」
 長谷部は一拍だけ置いて、勇気を出してその言葉を切り出した。
「ルールくんって、好きな子とかいる? 」

                                      了   


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ツールボックス

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