【Avatar the Abyss 前編 死姫蛍】


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 1/

 双葉学園都市、とある打ち捨てられた廃工場。そこは今、濃密な魂源力の波動に満ちていた。
 そこにいるのは二人の学園生徒。
 お互いに、小さなゲーム端末を手にしている。そのゲーム機自体はどこにでもある只のポータブルゲーム機だ。だが、そのはずなのに、そのゲーム機からは濃密な、そして強大な力が放出されている。
 液晶モニターから浮かび上がる幾重もの文字が魔方陣を描く。そして空中に投影されるデジタライズな映像が、濃密な存在感をもって実体化する。
 それは例えるなら神々かあるいは悪魔、もしくは精霊、魔獣……そういった幻想上の生物だ。いや、それは正しくは無い。なぜならその手のものは確実に現実として存在する事を、双葉学園の生徒達は知っている。
 だがそれでも……これはあくまでも幻想上だ。架空だ。空想だ。妄想だ。
 なぜならば、そう、なぜならば……二人の液晶モニタに表示された文字はそれぞれ、【歯車大将《ハグルマダイショウ》】【ミセリゴルテ】である。ならば彼らはこのラルヴァを召喚したのか。
 だが、現れたモノは……もしもその二体の強力なラルヴァについて聞き及んだものが見るなら首を傾げるであろう。
 大きさ3メートルはあろうかという巨大な一枚の歯車、それから腕が伸び、鎖を持つという巨体と。
 2メートルを超える長く大きい、両刃の斬首剣。
 どちらも、実在するそのラルヴァとは、共通項を持ちながらも大きく違う姿を持った、何かだった。歯車大将は歯車で出来た老兵のデミヒューマンラルヴァであり、ミセリゴルテは小さな介錯短剣の形をしたラルヴァだ。だがここにあるのは違う。違うモノだ。
「すげぇ……!」
 少年の一人が、それを陶酔の表情で見上げる。
「俺たち、異能者だ……!」
 片方の少年もまた同じだ。それぞれが、自分のゲーム機から現れたそれを見上げている。感動と、陶酔と、歓喜と、そして……嗜虐に満ちた愉悦に打ち震えて。
 ぱち、ぱち、ぱちと拍手の音がそこに響く。そしてその拍手の主が心からの賛辞を述べる。
 白いワンピースのドレスに、抜けるように白磁の肌、真っ白な髪の毛。白い闇、と称するのが妥当だろうか。少女はただ、笑顔でそこに立っていた。
「おめでとう、二人とも。これで君たちは異能の力を得た。そう、ゲーム世界で「神」であった君たちは、現実においてもその力を行使できるものとして選ばれた。君たちは、まさしく神……異能者となったのです」
 拍手の主、その少女の言葉には不思議な説得力があった。聞くものの正常な意思を拭い去るかのような、そんな響きだ。
「……俺たちが……」
「異能者……神……!」
 確かな実感に、拳を握り締める少年達。彼らはこの異能学園都市双葉に住みながら、ただの一般人であった。力を望みつつも得られない、落伍者……少なくとも、本人達はそう思っていた。たった今までは。
「もはや君たちを馬鹿にするものはいない。いえ、いたとしてもいなくなる。君たちがその力で叩きのめせばいい、ただそれだけです」
「ああ……」
「俺たちはついに……!」
 異能者に。選ばれしものになれたのだ。もう誰も自分達を邪魔するものはいない。無力感に打ちひしがれることも、劣等感に苛まされることも無い。
「ですが」
 少女は笑う。
「神は二人もいらない……そう思いませんか?」
 その少女の言葉に、
「言われるまでも無い」
「ゲームでの決着、ここでつけようか」
 少年二人は、獰猛な顔つきで互いを見る。巨大な歯車が、その鎖を握りしめ、振り回す。巨大な斬首剣を、少年が握り締める。
 そして、戦いが始まる。その姿を少女は陶酔の表情で眺める。
「そう、戦うのです。あなた達は神に選ばれ、神となり、その力を、その姿を、仮想現実を越え現実世界にて奮うもの!」
 鎖と剣のぶつかり合う音が響いた。そしてその轟音に負けぬ声が大気を奮わせる。

「君たちに、【仮想神格《アヴァター》】の誉れあらんことを!」




 Avatar the Abyss

 前編 死姫蛍



 2/

 那岐原新《なぎはら あらた》は、『ベルゼブブアーマー』にて連敗記録をまた更新した。
「……」
 がっくり、とうなだれる。これでついに一度に五十人「抜かれ」を達成である。
「ていうか、俺これ苦手なんだよ……」
 ロボットのコクピットを模した筐体から出る新。その鮮やかなる惨敗ぶりにギャラリーが笑顔と喝采で出迎えた。
(なんだこのイジメ)
 そもそも、新はゲームはそれなりの腕がある。だがこれだけはどうにも不向きなのだ。何故ならば、常に邪魔が入る。
(お前のせいだ)
 新は未だにゲーム筐体にへばりついている、少女を恨めしそうに見やる。
 金髪の少女だ。ひらひらと飾り布のついた、巫女服を洋風に作り直したようなミニスカートの服を着込んでいる。その姿は空中へと浮き、そしてまるで幻影のようにリアリティが薄い。
 彼女の名は、ベルと言う。
『えー? なんでよ。なんでだよ。というかお前が下手だからいけないんだぞ』
(これに限ってはお前がもう色々と邪魔するからだろうが、わめくし画面の前に出るしっ!)
 口に出さず、心の中で罵倒する新。そもそも「彼女」は他人には見えない。だからうっかり口に出すと変な人として見られてしまうのだ。
『だってさぁ。私がモデルなんだから、こりゃ燃えなきゃおかしいってもんだよ。なのにお前はいつまでも下手で……』
 さて、ベルゼブブ・アーマーズをさして「自分がモデル」というこの少女は何者なのか。それは簡単だ。一言で言えば、那岐原新の妄想である。いや、妄想というとイメージが悪いので訂正すれば、「想像上の友達」といえばいいだろうか。
 |想像上の友達《イマジナリィ・フレンド》。それは幼い子供たちに見られる特有の性質である。絵本のキャラクター、ぬいぐるみや人形、そして見知らぬ誰か。そういった想像上の友達、自分にしかみえない何かを幼少時に持っている人間は意外と多い。
 だが、それは成長するにしたがっていなくなるものである。だが新には、未だに想像上の友達が此処に断固として存在していた。しかも、新本人にも制御できないほどの確固たる人格を持って、だ。
 これが那岐原新の異能、「想像上の友達がものすごいリアリティを持つ」というものである。
 当然、あくまで想像の産物であるから、現実における力は皆無であった。ラルヴァと戦うなどはまさに夢のまた夢。おまけにこれは新にしか見えない感じられない代物なので、他人から認識されることも無い。よって対外的には、新は異能者ではなく一般人扱いのままであった。
 彼女は、「自称」ベルゼビュート。蝿の悪魔の化身、と言い張っている。だから、『ベルゼブブアーマー』を自分がモデルと言い張っている。新に言わせれば、彼女自身も蝿の悪魔ベルゼブブがモデルにすぎないのではあるが。
(とにかくもう帰るぞ。まったく、他のゲームする金なくなったじゃん)
『なら働けばいいだろ、バイト探しなよ』
(働いたら負けだと思っている)
 少なくとも、学園を卒業して就職しなきゃならなくなるまでは、働く意味などないと新は思う。労働は社会人の義務であるが学生にとって義務ではないのだ。学生の本分は遊ぶことなのだ。
 そして出来れば就職しても、頭脳・肉体ともに労働の必要な職業には就きたくないと思っている。理想は、ラノベ作家か漫画家、あるいはゲームクリエイターなどだ。
『出た、駄目人間だよこれ』
「うるさい」
 ゲーセンを出て、街中。ついつい言葉に出してしまう。
「……っと」
 新は携帯電話を取り出し、耳に当てる。
「はい、もしもし」
『なにがもしもしー、だよ。小心者』
「うるさい」
 これが、想像上の友達と話す時の、新が編み出したコツだ。携帯電話で他人の話しているようにみせかけ、ベルと話す。これなら周囲から「なにあれ、ひとりでぶつくさ言ってる、見えない何かと話してるわキャハハキモーイ、黄色い救急車呼んでー」と言われなくても済むという寸法だ。傍から見たらただ電話をしているようにしか見えないのだから。
 ……確かに小心者というのは否定できなかった。
「仕送りは計画的に使わないといけないからな。今日でゲーム代使い切ったし」
『じゃあご飯代削ればいいだろ。あと光熱費』
「それは最終手段だ」
『けちんぼ。あー、やだねやだやだ、引きこもりのオタ君は。だから友達少ないんだよお前』
「うるさい。友達なら沢山いるよ」
『ケーブルで繋がった顔も知らない沢山の友達?』
「そうだよ」
 ベルが言っているのはようするにインターネット上の友達、というやつだ。
『……暗っ』
「引いてんじゃねぇ」
『実態もわかんないのにそんな友達って言えんの?』
「実体がないのはお前も一緒だろ」
 新以外には誰にも見えない。これでせめて触ることが出来るのなら別だが、そういう都合のいいことはないのがまた新にはつらかった。健全な青少年として。
『まあそりゃそうなんだけどね。でもお前ももっと友達増やせよ、私がいらなくなるぐらい』
「……お前が居るのは、だからか?」
 新は聞く。今まで何度も繰り返した問いだ。
 想像上の友達がいなくなるのは、子供の世界が広がるせいだ、という話がある。子供は自分の世界が狭い。家の中、自分の部屋、あるいは近所の公園、その程度だ。世界は限られている。そして親が忙しくてかまってもらえなかったり、幼稚園にいかなかったり……などだとさらに接する世界は少なく、小さい。
 だから、想像上の友達はやってくる。子供と遊び、彼らの心を守るために。
 故に、少しずつ大きくなり、世界が広がり、友達が増えると……想像上の友達は去っていくのだ。
『さあね、私にもわからないな。普通なら、お前くらい友達がいれば私はもういなくなってるはずなんだが』
 新にも少ないが友人はそれなりにいる。いや、たとえ友人が少なくとも、普通の少年のように他人と接することが出来るなら、とっくに想像上の友達はいなくなるのだ。
 だが、彼女は未だにここにいる。
「やっぱり、俺の異能のせいか」
『どうだろ。お前はどう見ても他人からしたらただの無能者だし、それに私が異能による存在なら、もっとこう、強かったりしてもいいよね』
「まったくだ」
 新は苦笑する。自分にしか見えない話し相手を作るだけの異能など、無人島に遭難した時ぐらいしか役に立たないだろう。
「まあ、なるようになるさ」
『だね』
 学生寮が見えてくる。新は自分の部屋へと向かった。


 新の部屋は、可もなく不可もなくといった平凡な一人部屋の寮である。
 日当たりは良好。トイレと風呂はある。ただしユニットバスだが。キッチンはそんなに大きくは無いがとりあえずの不自由は無い。そんな部屋だ。
「さて……と」
 しかし、休日は暇なものだ。わざわざ外に遊びに行く金もないし、仕方ないからネットゲームをすることにした。
『お、GAO?』
 ベルがそのゲームの名前を呼ぶ。
 新がやっているのは、『ゴッドアバターズオンライン』というオンラインゲームである。「君も神々になれる!」というのがキャッチフレーズだ。
 プレイヤーは古今東西の神々や悪魔、あるいはラルヴァといったキャラクター……アヴァターを選び、そのキャラを好みにカスタマイズさせていく。そしてアヴァター同士で喋ったり戦ったり、敵モンスターを倒したりしていくという、基本的なネットゲームだ。
 新の操るアヴァターは、当然……というのもあれだが、蝿の魔王ベルゼビュートを基本としたものだ。ベルは女の子型にカスタマイズしろと煩かったが、さすがにそこは譲れなかった。デザイン的には擬人化し、クリーチャー型ヒーローのような蝿である。だがあまりにもベルがごねるので、別アカウントでもう一体、女性型も作ってしまったのだが。
『ヴェルゼでいくんだ』
「ああ」
 ヴェルゼとはそのアヴァターの名前である。正しくは†ヴェルゼ†と表記される。本当は素直にヴェルゼ、と付けたかったのだが先約がいてその名前を付けられなかった。だから名前の前や後に記号をつける。これはネットゲームで実によく使われるテクニックだ。いや、テクというほどのものでもないのだが。
 ログインし、PC画面が切り替わる。大理石造りの街。ギリシァ風な神殿チックな町並みが続いている中に、ヴェルゼは降り立つ。


ログインしました


葛竜:おーっす
マキシマム☆ミ:ノ


 ログインした場所はちょうど、仲間たちの溜まり場だった。ギルドメンバーの二人がいて、挨拶してくる。


†ヴェルゼ†:どもー


 それぞれ、クトゥルー型のアヴァターと、キメラ型のアヴァターだ。他のメンバーは来ていない様だ。まあ、土曜日とはいえまだ日も高いしそれは仕方ないだろう。


マキシマム☆ミ:あと二人ほど居れば狩りいけるんだけどな
葛竜:命さん、今日デートらしいし無理っしょ
マキシマム☆ミ:リア充は氏んでくださいね^^
葛竜:俺に言われても困る!
†ヴェルゼ†:ははは
†ヴェルゼ†:つか今日は疲れたし俺。また負けた
マキシマム☆ミ:ベルアー?
†ヴェルゼ†:そ
葛竜:何人抜かれた?
†ヴェルゼ†:聞いて驚け50人抜かれ
マキシマム☆ミ:ありえねー!
葛竜:天才すぐる・・・


 自分の恥というものはなぜか自慢したくなるものである。というか笑いのネタとして昇華しない限り完璧な負けだからだろうか。新も例に漏れず、ベルアーでの敗北を二人に話していた。


マキシマム☆ミ:何か面白いことねーかなー
マキシマム☆ミ:お前双葉学園だろ? あそこは色々とすごいと聞くけど
†ヴェルゼ†:あ、うん……まあ変態は多いかな
葛竜:らしいな。うちのトコじゃ変態都市双葉って恐れられてるぜ
人工島だし、変人巣窟島と書いてアルカトラズとか……
†ヴェルゼ†:じゃあそこにいる俺は何だ
マキシマム☆ミ:同類?
葛竜:類友?
†ヴェルゼ†:お前らとの友情も今日限りですね
†ヴェルゼ†:つーかPVいくかゴルァ!? やんぞオルゥァ!
†ヴェルゼ†:くぁwせdrftgyふじこlp;@
マキシマム☆ミ:ぉk、落ち着け
†ヴェルゼ†:まあ実際……そんなに劇的なあれとかねーよ


 少なくとも、ろくな異能を持たない新にとってはそうである。ベルの存在は幼い頃からともにあったので今更ではあるし、それに……何かあったとしても、異能やラルヴァの事を話すことは出来ないのだ。
 双葉学園のPCやネット機器などには特別製のセキュリティが設けられており、守秘義務に反する書き込みなどをすると強制的に改竄、シャットダウンされる仕組みになっている。都市伝説レベルの話としての怪物、つまりラルヴァなどに関する書き込みはまだ許されているらしいが、どこからどこまでがボーダーラインなのかは、少なくとも新にはよくわからない。モンスターにラルヴァの名前が使われていたりするあたり、案外とラインは低いのかもしれないが、しかし触らぬ神に祟りなし、ということで新はそのことについては最初から話したり関わったりしないようにしていた。


葛竜:どこもやだね、世はこともなし、ってやつ?
†ヴェルゼ†:刺激ねーよなー。ネットの中ぐらいか、刺激は
葛竜:でも最近ちとマンネリだなあ。めぼしいイベントもねーし
マキシマム☆ミ:いや、でも今度新マップくるとか聞いたぜ
葛竜:マジで?
マキシマム☆ミ:ああ
マキシマム☆ミ:オリュンポスMAPだっけ
へー、ギリシァ系?
葛竜:それよりもコキュートスMAPの続きマダー?
マキシマム☆ミ:次アンテノラだろ
葛竜:いやコキュートスの次はカイーナ
マキシマム☆ミ:そだっけ?


 そうやってたわいない雑談で時間を潰す。
 そして日がくれて夜になった。そろそろ空腹を覚え始めた頃、新はふと声を上げる。
「あ、思い出した」
『何が?』
「昼間! ゲーセンが目的じゃなくて塩と味噌切らしてたから買いに行ったんだった!」
『……あ』
「あじゃないよ、お前がゲーセンでベルアーやりたいって言うからだろ!」
 乗ってしまった自分はとりあえず棚に上げておく新だった。あわててキーボードを打つ。


†ヴェルゼ†:わり、ちょっと買い物言ってくる
マキシマム☆ミ:なんだよ、メンバーそろって狩りいくってのに
†ヴェルゼ†:すまん、埋め合わせ今度するから
葛竜:おう、おつー
マキシマム☆ミ:おつー
鈴:ノシ

トオノ さんがログインしました

ジャッカル㍊:またなー
トオノ:がおー
裸神:おっつん
†ヴェルゼ†:またー

ログアウトしました



 アプリケーションを落とし、PCを待機状態にする。
 背伸びをひとつして、そして財布を持って新は外に出る。
「まだ少し寒いな」
 四月の中旬。春とはいえ、海に囲まれている双葉島の夜の風は少し冷たい。
『私にはわからないな。でもこの季節は好きだ。命の息吹を感じる』
「命の息吹ねえ……悪魔がねえ」
『何言ってんの。私の原型はカナアンの豊穣神、生命を司る神だよ? 館の主、ベル・ゼブル』
「名前多いな」
 ベルゼブブだのベルゼブルだのベルゼビュートだのベルゼバブだのと、実に多いものである。
『神様なんてそんなものだよ。いろんな力、存在の多様な面を人間が見て名前と形を決めてる。同じ神様でも色々と変遷してて、でもだからといって前の姿や名前が消えるわけじゃない』
「人間にもいろんな面があるのと同じ、か」
『だね。神様って特に色んな姿を取る事もある。そういうのをね、ヴィシュヌ神が多様な姿をもって人間界に降りた事から、アヴァタールって言うんだ。あのゲームのアヴァター、あるいはネット仮想人格のアバターの語源だね』
「へえ」
 新は感心する。自分の空想の生み出した産物でしかないはずの彼女が、よくもまあこれだけの知識を持っているものだ。
『だから私は悪魔でもあるけどむしろ神様なんだ。わかったら褒め称えろ。そして今日の夕食はトンカツに』
「はいはい」
 さらりと流しながら新は歩く。
『あれ? そっちじゃないよ』
「こっち、近道なんだよ」
 スーパーへの近道として、廃工場を通る。ここを行けばかなりのショートカットになる。
 街から外れているので街灯からは遠い。月明かりがなければ進むのは難しいだろう。
『小心者のくせにこういうのは平気なんだな、お前』
「小心者言うな。対人関係にデリケートなだけだ」
 そう言いながら歩いていくと、新の視界に光るものが見えた。
「ん、なんだ……?」
 そこにむかって歩いていく。新が拾い上げたのは、ゲーム機にさす拡張メモリカードだった。
『……』
 ベルの押し黙る雰囲気に、新は聞く。
「どうした?」
『なんだろう……それ、なんか嫌な感じがするよ。私、それ嫌いだ。ねぇ、捨てようよそれ』
「そうは言ってもな……」
 記されたデザインからいって、GAOの拡張メモリカードのようだ。
「ゲームのヤツだし、拾って帰っても損はないだろ。チェックしてみて変だったら捨てればいいし」
『うん……』
「さ、とっとと行くか」
 そして廃工場を抜け、新はスーパーへと向かった。




 3/

『味噌と塩だけってのも味気ないよね』
(金に余裕ないって昼間も言っただろ)
 カートに味噌と塩、それもなるべく安いやつを入れつつ、色々と見て回る新。貧乏人の買い物で重要なのは、今必要でなくとも格安のものを見つけたら確保しておくことだ。特に肉や魚の場合、冷凍保存が効くので半額商品は確保しておくに越したことが無い。反対に野菜は、半額ラベルを貼られていたらその日か翌日には食べてしまわないといけない。野菜は冷凍すると凍りついた水分が野菜の細胞組織を破壊し、見るも無残なべちゃべちゃになってしまうからだ。
「豚ミンチが三十%引き、か……確保して待つかそれとも……」
 思えばずいぶんと貧乏がしみついたものだと思う。
 そうして悩みながら歩いていると、
『新っ、前々!』
「え?」
 前から買い物かごをもった女の子が来ているのに気づかなかった。
「うわっ!」「きゃっ!」
 盛大にぶつかり、買い物かごの中身、そしてバッグの中身が散乱する。
「あ、ごめん!」
「いえ、こっちも余所見してましたし……」
 女の子は落ちためがねを拾い、かけ直す。黒い髪を後頭部で束ねた、地味めだが綺麗な女の子だった。
 少し怯えた感じで、おずおずと新に向かって謝り、目を伏せたまま散乱した荷物を片付け始める。
「あ、混ざってしまいましたね……えっと、こっちがこれで……あれ?」
 少女は、新のバッグから落ちたメモリーカードを手に取る。
「これ、ゴッドアバターズの……?」
「え、君もやってんの?」
「あ、はい。……あなたもですか?」
「うん。Geburahサーバーで」
「うわ、私もなんですよ! ゲブ鯖!」
 先ほどまでとは打って変わった態度で明るく喋る少女だった。
「こないだの討伐イベントとか参加しました? あれ私参加したんですけど、途中で死んじゃってそれでおいてけぼりになっちゃったんですよみんな移動早すぎで、PTともはぐれたりして大変で。到着したら中ボスあらかた討伐されてたけど大ボスのグラビトンが強くてですねー、私遠くから見るしかなくて、そしたら中ボス召喚ですよ? それでもうてんやわんやで、あでも中ボスの鬼蜘蛛から宝箱が出て、それになんとSSSレアのっ」
「あ、いやちょっと落ち着いて、みんな見てるからみんなっ」
 マシンガントークでまくし立てる少女を必死に制止する新だった。周囲の目が痛い。
「あ、そのごめんなさい。GAOの話できる人、あまりいなくて……」
 顔を赤くしてうつむく。なんというか、あわただしいと新は思った。
「まあ、とりあえず片付けなきゃ……」
 いそいそと買い物かごに荷物を戻す。周囲の人たちは興味をなくしたか、それぞれ自分の買い物へと戻っていった。
「あの、これ」
 少女がメモリーカードを渡してくる。
「ああ、ありがとう」
「えと……その」
「?」
 もじもじと何かを言いたげにしている少女。やがて意を決したように彼女は言う。
「えっと……キャラ名、なんていうんですか? あ、私は……ルキオラ、って」
『さすがゲーマー。本名よりキャラ名で自己紹介かっ』
 ベルが後ろで言っているのを無視して、新も言う。
「……ええと、あ。俺はヴェルゼで。あ、でもその名前とれなかったから記号付。ええと、こう書くの」
 街で配られているポケットティッシュの紙を取り出し、その裏の白い部分に「†ヴェルゼ†」と書く新。
「かっこいい名前ですね」
「あ、えーと、いやあ……ははは」
「じゃあ、帰ってから入ったら話しかけてみます。今晩入ります?」
「まあ、その予定だけど……」
「それじゃ、またあとでっ!」
 そういい残し、少女は立ち去る。
「……」
『……』
「なんかすごかったな」
『というか、これって逆ナン?』
 二人はただ取り残されて呆然としていた。






 4/

ログインしました


ルキオラ:こんばんわー


「早っ!?」
 新は家に帰ってログインする。驚いたことに、ログイン後すぐにメッセージが飛んできた。
『友達いなかったんだねー、彼女』
「そういうこと言うんじゃありません」
『おお、友達いない同士、通じるものがあるわけだ』
「黙らっしゃい」
 言いながら、新はキーボードを叩く。


†ヴェルゼ†:こんばんわ。先ほどは失礼しました
ルキオラ:いえいえ、こちらこそ
ルキオラ:私あまり人と話すの得意じゃなくて……
ルキオラ:迷惑じゃなかったですか?
†ヴェルゼ†:いえ全然
†ヴェルゼ†:というかすごい偶然でびっくりでしたよ
ルキオラ:まったくです^^
ルキオラ:少女漫画みたい

 反応しながら移動する。溜まり場にメンバーたちは居ないようだが、いつ戻ってくるか判らない。仲間たちに応対しつつ彼女とも話すと、いつ文章を誤爆してしまうかわかったものではないからだ。
 適当な部屋の中に入り、あらためて会話に集中する。


†ヴェルゼ†:レス遅くてすみませんした、ちょっと移動してたもので
ルキオラ:いえいえ^^
ルキオラ:狩りですか?
†ヴェルゼ†:いや
†ヴェルゼ†:街中だとログが埋まるんで
ルキオラ:あー、ですよねー
†ヴェルゼ†:だから建物に移動と
ルキオラ:なるなる
ルキオラ:引きこもるわけですね!
†ヴェルゼ†:……違います


『……テンション高いな』
「典型的なネットでキャラ変わるタイプか」
 新たちは思い出す。最初に彼女とスーパーでぶつかった時はいかにも内向的なタイプだった。


ルキオラ:ヴェルさんはアヴァターは何型なんですか?
†ヴェルゼ†:えーと、ベルゼビュートタイプで、蝿の魔王の
ルキオラ:ほほう! だからヴェルゼなんですね!
†ヴェルゼ†:安直だけどね
ルキオラ:かっこいいですよ

トオノ さんがログインしました

ルキオラ:私は死出蛍型です。かなりデコっちゃってあまり原型ないですけど
†ヴェルゼ†:へぇ
トオノ:にゃー
ルキオラ:名前も蛍をラテン語読みしてつけたんですよ
†ヴェルゼ†:そうなんだ
ルキオラ:はい^^


『どこかの安直過ぎる人とは大違いだな』
「いいからお前ちょっと黙れ」
『そうは言うけどお前がプレイしてる間私は暇なんだよ』
 その言葉に、新は手を伸ばしてテレビのリモコンを取り、スイッチを入れる。
「テレビでも見てろ」
『わかった。あ、チャンネルは4にしてくれ』
 いちいち注文が多かった。
 新は買ってきた半額ラベルの貼られてあるチキンカツ弁当を開け、食べながらキーボードを叩く。この程度の並行作業は、慣れているネットゲーマーなら造作も無い事であった。


ルキオラ:でも双葉の人と会うとかめずらしいですよね
†ヴェルゼ†:だな。他にもいるとは思うけど、俺は会った事無いなあ
トオノ:がおーノシ
裸神:おう、またなー
ゴールドジャック:おつ
†ヴェルゼ†:またー

トオノ さんがログアウトしました

ルキオラ:ないんですか
†ヴェルゼ†:ああ、全く会った事無い。世間は広いんだか狭いんだか
ルキオラ:ですね^^
ルキオラ:まあこれも何かの縁ってことでPT組みます?
†ヴェルゼ†:いいよ
†ヴェルゼ†:今別に入ってないし
ルキオラ:やったー^^
ルキオラ:わーいノノ
ルキオラ:じゃあどこで待ち合わせします?


『……ほんとテンション高いというか別人だね』
「いやまあ、そうは言うけど俺らだって彼女の素知らないし。つーか見知らぬ人とリアルでいきなりこんだけ打ち解けろっても無理だろ」
 新は言う。人間、いきなり他人と対話するというのは難しいものだ。だがこの壁がネットではあっさりと崩れ、すぐに話せるのは顔と名前を隠している匿名ゆえのアドバンテージだろうか。
「ま、俺だって似たようなもんだよ。そんな別にヒキコモリとかじゃないけど、親しくないヤツとそんなに関わりたくないし」
『自分本位の現代っ子だなぁ、お前』
「いいんだよ。俺は自分の届く範囲で十分。世界は狭くてもいいんだ、そこの居心地がよけりゃあそれで」
 モニターの中では、人型の光が近づいてくる。おそらくこれが死出蛍のアヴァターをカスタマイズした、ルキオラだろう。


ルキオラ:そうだ、こういう話聞いたことあります?
†ヴェルゼ†:何?
ルキオラ:都市伝説……っていうか噂なんですけど
†ヴェルゼ†:うんうん
ルキオラ:リアルでも、アヴァターが使えるっていう話
†ヴェルゼ†:……え? なにそれ
ルキオラ:なんでもですね? 上位ランカーとか、一部の条件、イベントクリアした人には……
ルキオラ:ログインしない現実でも、アヴァターに変身できるとか呼び出せるとか
ルキオラ:そんな噂が一部であるんですよ
†ヴェルゼ†:へー……俺は聞いたこと無いな
ルキオラ:まあ都市伝説ですけどね。でもそれも少し信憑性あるんですよ
ルキオラ:ヴェルゼさんならわかると思いますけど……
ルキオラ:ホラ、私達双葉の生徒でしょ
†ヴェルゼ†:ええと、それってつまり
†ヴェルゼ†:「そういうこと」なの?

 セキュリティに引っかかるのでルキオラも詳しく言っていないが……新は、彼女が何を言いたいかを察した。
 現実で、アヴァターのような力が使える、呼び出せる、変身できる。それはつまり、だ。
『異能が使えるようになる?』
「そういうことかもしれないな」
 この手の話は実はかなり多い。力を持たない双葉の一般生徒たちが、異能に目覚めるためのアイテム、儀式、等々……
 一般生徒の無力感、劣等感、羨望、嫉妬……そういった渦を巻く感情がそのような噂を次から次へと広めているのだろう。たとえば、初等部の生徒達が好んで遊ぶセイバーギアという玩具には持ち主の異能をセイバーを通じて発現するという性質がある。それを学園側では小学生たちの異能教育に利用しているのだが、「セイバーギアの機能は一般人でも異能を引き出す」というデマが広がったことがあった。そして高校生や大学生までもが買いあさり売り切れ続出という事件が起きたのだ。
 それくらい、力の無い生徒達の潜在的な劣等感は深いものがある。だがそれは人と人が共に暮らす以上は仕方のないことなのかもしれない。
「異能があっても使い道がわけわからん俺みたいなのもいるけどな。というか本当は異能ですらなくて一から十まで俺の妄想の産物じゃねーのお前」
『かもしれないな。だがそれはそれでものすごい事だ、単なる妄想の現像をさもここにいるように思い描く、それを異能を使わずになしえているのならお前の脳はかなり無駄に覚醒してる天才だよ。誇っていい』
「無駄に役に立たない天才だな!」
 まさに脳細胞の無駄遣いという奴だろう。


ルキオラ:うん、そういうことなんじゃないかって……
ルキオラ:双葉内限定の板じゃその話とか結構話題だよ
†ヴェルゼ†:ふうん……
ルキオラ:ええと……条件クリアした人には、運営からアイテムもらえて
ルキオラ:それを使えば現実でも神になれる、って
†ヴェルゼ†:うわうそくせぇ
†ヴェルゼ†:で、そのアイテムって何
ルキオラ:メモリーカードとかチップとかそんな噂
ルキオラ:さっきのヴェルさんが落としたあのカードがそうだったりして
†ヴェルゼ†:ないないそれはない
ルキオラ:ですよねー
ルキオラ:まあただの噂ですよ
ルキオラ:双葉学園の七不思議!
†ヴェルゼ†:七つどころじゃない!


 そういう話を繰り返す二人。ゲーム内の情報交換から学校などの私生活の話、他愛のない雑談……と、大いに盛り上がった。
『へぇ、珍しいな』
 ベルが言う。新は溜まり場などでの雑談で長く話すことはあるが、それは多くの場合、多人数での話だった。一対一の会話を長く続けるという事はあまりない事だった。
「言われてみれば、確かに」
 一対一で会話を続けていくと、そのうち息苦しくなるというか、話題がなくなるというか。だが今回はそういうことがなかった。ずいぶんと長く話し込んだものだ。初対面なのに。いや、初対面だからこそ互いの話題が新鮮だったからだろうか。



ルキオラ:あ、そろそろ寝ないといけない時間だ
†ヴェルゼ†:そう?
ルキオラ:うん
ルキオラ:ごめんなさい
†ヴェルゼ†:いやいいよ
ルキオラ:今日は楽しかったです^^
ルキオラ:それじゃまた明日
ルキオラ:会ってくれます?
†ヴェルゼ†:うん
ルキオラ:わーい!
ルキオラ:今日は話し込んでて行けなかったけど
ルキオラ:一緒に色々回りましょう
†ヴェルゼ†:了解
ルキオラ:それじゃ

ルキオラ さんがログアウトしました



「……ふう」
 彼女のログアウトを確認し、大きく息をついて背伸びをする。肩が凝った。
『お疲れ様、だね』
「ああ」
 腰を上げ、キッチンにいき冷蔵庫をあける。オレンジジュースが残っていたので、それをコップについで一気にあおる。
「げふぅ」
『うわ親父くさっ』
「いちいちうるさい」
『はいはい、どーせ私ゃ小姑だよ』
 そのベルの言葉を聞き流しながらPCの前へと戻る新。その目に、置いていたメモリカードが留まる。
「……」
 さきほどの話を思い出す。よくある都市伝説、いやデマ話だ。
 異能を手に入れるという噂話。そのためのアイテム。腐るほどある話だ。だが腐るほどあるようなものならば、話のタネに試してみるのもいいのではないか?
 そんな好奇心が新の心に生まれる。新は、そのカードを手に取る。黒いメモリーカード。ロゴがプリントされている以外は、ごく普通のものだ。おどろおどろしい魔法陣だとか、そういう類のものは描かれてなどいない。そのシンプルさが逆に興味をそそる。
「入れてみるか……」
 そしてPCの端子に近づけて……
『やめろ!』
 ベルが大声をあげる。その剣幕に思わず新は手を止めた。
『……やめといたほうがいい。なんだか判らないけど、私にはそれが不吉なものにしか思えないんだ』
「……そうなの?」
 どこかの本で読んだが、想像上の友達は守護霊的な力も持つらしい。そんな彼女が不吉というのだ、もしかしたらそうなのかもしれない。
『ものすごいウィルスかもしれないし』
「……ああ、その可能性もあるか」
『ああ、そうだ。そんなのを使うのは危険すぎる』
 確かに一理あった。壊れてしまえば元も子もない。
「じゃあ学校のPCにさしてみるか」
『誰かーっ! ここに外道がいる!』
 ベルは外に向かって叫ぶ。当然、ベルの声は誰にも届くことはない。それは当然本人もわかっている。
 その姿を見て新は苦笑する。さっきは様子が少しおかしかったが、どうやら調子は戻ったようだ。
「さて……と」
 新はPCの前に座る。
「レベル上げとくか」
『宿題は?』
「明日するさ」
『わー、この中毒者《ジャンキー》』
 那岐原新は、かなり駄目人間だった。





 5/


 ノートPCを閉じる。
 ほう、と軽く一息つく。思えばかなり長く話し込んでいた。こういう経験はかなり珍しい。
 ゲームでいろんな人と話すタイプだ。だけどここまで一人の相手と長時間話していたのはとても珍しい。そして、楽しかった。
 だが、だからこそ陰鬱になる。楽しい仮想現実の時間があればあるほど、その後の現実が重い。
 ずっとゲームの中にいたい。あるいは、現実がゲームだったならいいのに、と思う。

「その願い、現実のものとなりますよ」

「!?」
 彼女の思いに、ありえない返答が返された。あわてて振り向く。
 一陣の風が吹く。窓を内から閉めて鍵を開けていたはずなのに、窓は大きく開け放たれ、桜の花びらが部屋の中に舞っていた。
 そこに立つ見知らぬ少女の姿。
 白いワンピースのドレスに、抜けるように白磁の肌、真っ白な髪の毛。白い闇、と称するのが妥当だろうか。少女はただ、笑顔でそこに立っていた。
「おめでとうございます、ルキオラさん、いえ……篝乃宮蛍《かがりのみや・ほたる》さん」
「あなたは……?」
 恐る恐る尋ねる。恐怖はある。警戒もする。だが不思議なことにそれは一秒ごとに氷解していく。まるで夢の中ではどんな荒唐無稽な出来事も違和感無く受け入れてしまう、そんな感覚が彼女の心に溶け込み、なにもかもを溶かして流す。
「ゴッドアバターズオンラインの運営のものです。見事に条件クリアされたあなたに、これをお届けにきました。どうぞお受け取りください」
 封筒にを少女はルキオラ……蛍に差し出す。蛍はそれを恐る恐る受け取る。
「条件クリア……? でも私、何も」
「こちらが規定しているステータス・レベルをクリアしてアヴァターを育てている事、他にもいくつかありますが。一番確実なのは、あなたがトラブルを抱えていること、そしてそれは今のあなたではどうにもならないこと。そして……」
 少女は笑う。深く深く、まるで深淵のような闇を湛えて。
「双葉学園都市に住み、力を、異能の力を欲する……無能力者であること、ですよ」
 その言葉に、蛍の胸は激しく突き動かされる。
 当たっている。確かに今、蛍は悩みを抱えているし、それに……異能者への憧れも強い。
「まさか、これは……」
 先ほどのゲームでの会話が思い出される。
「はい」
 あわてて封筒を開ける蛍。そこから出てきたのは、一枚のメモリーカード。
「あなたは、神になれるのです……そう、神のごとき力と姿を持つ、異能者に。そう、あなたは……」

 ノートPCに、メモリーカードを突き刺す蛍。紫電が走り、火花が散る。
「!?」
 液晶モニターから浮かび上がる幾重もの文字が魔方陣を描く。
「ぁ――あああああああああああああああ……!」
 蛍の口から声が漏れる。溢れる力の奔流が総身を振るわせる。髪の毛を止めていた髪留めが解れ、その長い黒髪をたなびかせる。まるで何十何百もの蛍があつまるかのような燐光を放ち、そして空中に投影されるデジタライズな映像が、濃密な存在感をもって実体化する。
 巨大な、美しい、光り輝く女性の姿が彼女の背後に立つ。そして笑う。凄絶に、妖艶に。温度の無い、冷たい光を……死を誘う光を放ちながら。
 その名は。その仮想神格の名は……

「ルキオラ・モリス・フィリアレギス……【死姫蛍】」






                  To Be Continued...Next Game




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