【超刃ブレイダー@2019 act.01】


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 街中がバレンタイン一色に染まる双葉区へ一台の車がやってきた。黒塗り、スモークガラスの高級車は、普段より華やかに飾りたてられた街に違和感をまき散らし、一直線に学園へとやって来た。
 そこから二人の男女が降り立つ。車と同じく黒のスーツで身を包んだ、一目で学園の関係者ではないわかる二人組だった。何せパッと見は社会人のふりをした小学生の女の子と、安い三流ホストなのだ。車との不釣り合いな印象も相まって、構内を行き交う学生達の注目の的になっていた。
「五年ぶりか、変わらないなあ」
 ホスト風の男が口を開いた。シャツのボタンは一番上まで留め、ネクタイまできちんと締めているのに、その言動にはどこか安っぽさと軽薄さがにじみ出ている。
「先輩は大学部にはいかなかったから、一〇年ぶりくらいですか? お互いとし……」
「藤倉、少し黙れ。さもないとその口が二度と開かないように片結びにしてやるぞ」
「……ラジャーっす」
 一方女の方は、小柄な体躯と幼い作りの顔立ちとは裏腹にずいぶんと刺々しい空気を放っている。それは紛れもなく微妙な年齢に達した大人のれでぃが、触れられたくない話題を封殺するときの殺気そのものだった。
 こうして唐突に現れた二人の卒業生、柴咲《しばさき》結衣《ゆい》と藤倉《ふじくら》俊彦《としひこ》は、数年ぶりに双葉学園へ入っていった。

       ◆       ◆       ◆

「単刀直入に申し上げます。我々の目的は、高等部を卒業したあともラルヴァと戦っていく意志のある生徒のスカウトです」
 名刺の交換も早々に、結衣はいきなり自分たちの目的を告げた。二人が今対面しているのは、この双葉学園の理事長・双葉《ふたば》管理《すげとし》である。
「スカウトねえ。宮内庁《あんたがた》が一番、伝統や家格にこだわると思ってたが」
 管理は渡された名刺と、結衣たちを交互に見やる。宮内庁式部職祭事担当三課室長――結衣の名刺にはそう書かれていた。日本各地の霊的守護地に異能者を配置し、管理してきたのが宮内庁式部職祭事担当二課だったはず、新たに異能者を招き入れて何をしようというのか。
「防衛省に異能者を独り占めされたくないって事らしいんですよ。ただ旧家の連中もプライドが高いから、ポッと出の新参と一緒にされたくないって」
 探るような管理の視線に気付き、藤倉が明け透けに内情を口にする。ただの考え無しの行動というより、旧家に対する反感が強いらしく、その口調は突き放すように冷たい。
「藤倉」
 結衣も本心では同じような事を想っているようで、立場上の制止を掛けたあとその言葉を引き継いで言った。
「そのような事情で我々のような中途半端な家格の若輩がトップに据えられた訳です」
「なるほどな」
 改めて二人とその肩書きを見比べて管理は得心した。
 柴咲は古来より京都を守ってきた家のなかでは、かろうじて上から数えた方が早い上の中といったところの家だ。藤倉も東北の旧家をまとめる家の分家筋で、家格としてはせいぜい上の下が妥当である。末席でも上部の連中を加える事で宮内庁の顔を立て、真の上層部はこれまで通り二課に固めるという事だろう。
「だからこそ上の者には口出しさせません。我々が求めるのは、戦う力と、何より意志を持つ人材です!」
 結衣の瞳からはそういった部分を呑んだ上で、強力な組織を作ろうという意志が感じられた。
「やはり、真崎春人の事が?」
 悪趣味だと知りつつ、管理は一〇年前異能にまつわる戦いで命を落とした学生の名を口にした。異能を持つ子供達が既に成人を迎えつつある現在、教育者としては異能者を駒とした派閥争いに子供達を巻き込みたくない。末端とはいえ組織のトップに立つ人間として、目の前の結衣がどのような反応を見せるか見極めるためだ。
「……彼の事は、確かにきっかけであるのは否定しません。しかし、単純な復讐心だけで振るう力ではなく、第二、第三の彼を作らない為の力が欲しいと思います」
 結衣は突然出てきた名前に一瞬の動揺を見せる。けれどそれを取り繕ったりせずに、真摯な言葉を返してきた。
「一つ条件がある。今はまだ授業中だから見学だけにしておけよ」
「ありがとうございます」
 静かに退室する二人を見送って管理は思う。
 自分の教育理念は間違って居なかったと。

       ◆       ◆       ◆

 時間が掛かる事を見越して午後一番に会談を設定してもらったというのに、ほんの十数分であっさりスカウトの許可が出てしまった。管理氏は見学の許可を出してくれたが、ウロウロしてもしょうがないとう事で放課後までの時間は各々自由行動となり、結衣は島の外れの資材置き場へとやってきていた。
 本当なら討伐チームを組んでいる生徒からめぼしい者をリストアップしたりといった作業があるはずなのだが、藤倉が気をきかせてくれたらしい。
 そこは一部が切り立った崖のようになっていて、頂上には一振りの剣が突き刺さっている。
 超刃ブレイダー――いや、彼女にとってはバカでスケベで、それでもどこか憎みきれない真崎春人の墓標である。
「なぁ、そんなに我は頼りなかったか?」
 そこに春人の体が眠っていない事は承知で、結衣は語りかける。
 春人は自分がブレイダーとして戦っていた事を、最後まで結衣に知らせなかった。
 もしあの頃の自分が風紀委員として春人を捕まえられるくらいの力を持っていたら、友人として、異能者としての信頼を得られていたら、今とは違った結果があったかも知れない。
 結衣は何も知らずに、魂源力が多いという資質にあぐらをかいていた当時の自分が許せなかった。
 だから卒業後は実家に戻り、苦しみから逃れるように、けれど決して忘れないために、死に物狂いで特訓を重ねた。
「もっと、早く本気になれば良かったのかな?」
 しかし今はもう何もかもが手遅れだった。
 開祖を超えると称される程の異能の腕も、素直に伝える事が出来なかった想いも。
 自分はここに来るまで、十年もかかってしまった。
 チョコレートを用意するようになってからは一ニ年だ。
 そうしている間にも確実に時間が流れていた事を告げるように、剣の根本には既に花とチョコレートと思しき包装が添えられている。
「あの子の、だよね……」
 結衣は最後にそう呟きその場を後にする。
 やはり今年もチョコは渡せなかった。

       ◆       ◆       ◆

 学園に戻り藤倉と落ち合う予定の場所へ向かう途中、当の藤倉は何故か構内を走り回っていた。
「何の騒ぎだ?」
「あ、先輩丁度良いところに」
 この短時間で何をどうしたらそうなるのかわからないくらい、身なりがボロボロになっている。
「実は風紀委員だった頃の後輩に頼まれまして、嫉妬団があちこちで起こしてる私闘を止めるのに協力してたんですよ」
「何!? まだ存在してるのか、ヤツ等は」
 嫉妬団といえば、結衣が風紀委員を務めていた一〇年前から恋人が沸き立つイベント毎に発生する訳のわからない集団である。結衣自身も、それこそ数えるのがばからしくなるなる程の団員を捕まえたが、結局壊滅させるどころか、首謀者の特定すらできなかった。苦い思い出の一部である。
「同時多発的な存在ですから。構成員であれば誰でも首謀者となる可能性がありますよ」
 得意そうな藤倉の説明を聞きながら、つい私闘の仲裁に参加する流れに乗ってしまっている事に気が付いた。
「詳しいな」
「……昔のことっすよ」
 自分達の力を知ってもらう良い機会だと、結衣はそう自分に言い聞かせる事にした。風紀委員に身を置きながら嫉妬団に荷担していた疑いのある部下の事も、とりあえず後に回す事にした。

       ◆       ◆       ◆

 思い返してみれば、これは必然だったのかも知れない。二階堂叉武郎は、目の前に立ちはだかる男――超刃ブレイダーを前にしてそんな事を思っていた。
 事は数分前にさかのぼる。
 叉武郎はバレンタインの街をパトロールしていた。全ての女性の騎士を自任する叉武郎にとって、女性が想いを寄せる相手に告白するバレンタインデーは特別なものだった。チョコを貰ったりバレンタインデートを楽しむ女性の笑顔を、嫉妬団を名乗る無法者から守らなければならないのだ。
 そして実際に嫉妬団は実にわかりやすく、カップルに対していちゃもんを付けていた。
 手を繋ぐのがやっとといった初々しいカップルを、黒ずくめの服装で全身固めた二人組の男が取り囲んでいる。
「待て、嫉妬団! お前ら恥ずかしと思えないのか?」
「何者だ!」
 カップルを取り囲んでいた二人組が振り返る。
「二階堂叉武郎……全ての女性の騎士だ!!」
 叉武郎は目配せして、カップルに逃げるよう指示した。男の方がすぐそれに気が付き、彼女の手を引いて駆けだした。これで大丈夫。彼もまた恋人を守る騎士として立派に役目を果たせるだろう。
 あとは目の前の無法者を、風紀委員に突き出すだけだ。
「ふざけやがって」
「そうやって女に媚びを売ろうってか、『このヒーロー野郎がぁ!!』」
 嫉妬団の一人が放った声が、衝撃波となって叉武郎を襲う。叉武郎はとっさに持っていた鞄でガードする。威力は普通に殴られたのと大差はないが、ノータイムで攻撃できるのはなかなかのアドバンテージだ。
(なめてかかるのは危険だな)
 叉武郎は持っていたアタッシュケースを開いた。彼の能力は魚と合体変身するというモノであり、鞄の中は学園の技術を応用して作られた水槽になっている。その中に納められた魚に手をのばす。
「合体変身!」
 叉武郎の体が光に包まれ、その姿を魚の意匠を残した超人へと変える。ただその手には、とある事件以降手に入れた剣が無かった。
 その剣――聖剣ブレイダーは何故か嫉妬団の男の足元に顕現していた。
「悪いな、叉武郎。だが俺の魂はこっち側なんだよ。さあ俺を使え!」
 嫉妬団の男は突然の展開に付いていけず、仲間やブレイダーや叉武郎の間で視線を泳がせる。
「ファーストキスさえできずに死んでいった俺の心が叫ぶんだよ! リア充なんて許せないってなあ!!」
 そんな男に剣の姿のブレイダーが呼びかける。その魂からの叫びに通じるモノを感じたのか、嫉妬団の男は意を決したように頷き、目の前に突き刺さる喋る剣を手に取った。
 その瞬間、剣から放たれた魂源力が男の身体に絡み付き全身を飲み込んだ。
「お、おい……大丈夫かよ、葛城」
 何か大変な事になっている仲間を案じて、声を武器にする男が叫ぶ。
「ああ、心配すんな」
 しかし剣を持った男は、不思議と落ち着いた様子で答えた。そして光が割れ、中から剣を構えた人影が現れる。
「「これが」」
「嫉妬と」
「リビドーの」
「「超刃ブレイダー・バレンタインバージョンだ」」
 紫とピンクの毒々しい色彩を放つ怪人がそこにいた。
「何が聖剣だ、この悪霊め! 成仏させてやる、登竜門《ドラゴンズ・ゲート》!」
 叉武郎は光の壁を抜け、龍化形態《ドラゴニック・フォーム》へと変身した。フェンシングを得意とし、普段剣で闘う事に慣れている自分が剣無しで闘うなら、身体を半魂源力化したこの姿で一気に畳みかけるしかない。
「ふん、剣を持たない剣士に何ができる? 経験の差を教えてやるぜ!」
 その思惑に気が付いているのか、バレンタインバージョンのブレイダーはゆっくりと剣を構えた。
 超刃ブレイダーと二階堂叉武郎、かつてブレイダーが大死霊に取り込まれていた時以来の直接対決である。

       ◆       ◆       ◆

 結衣達二人は、一際激しい戦闘が繰り広げられていると通報があった現場へとやってきた。闘っているのは嫉妬団と、それを止める為に現れた者ということだが、どちらもかなり戦闘向きの異能の持ち主のようだった。
「変わりましたね、昔は異能を使った喧嘩なんて滅多に見られなかったモンでしたけど」
 街中で派手に闘う連中を結構遠くから野次馬が取り囲み、なかなか近づくことができない。
「もうニ〇年だからな、増加後の第一世代がやんちゃ盛りな年代さ」
 小柄な身体を必死にねじ込み、結衣は中心へと進んでいく。そのときほんの一瞬だが、中心で闘っている人影が目に入った。
「……あれは!?」
「どうしました? 先輩」
 そんな事あり得るハズがない。
 しかし一瞬とはいえ、闘っている異能者の片割れは確かにブレイダーの姿をしていた。
 そう思った瞬間、結衣は必死に駆けだしていた。
「あ、ちょっと先輩待ってくださいよ。

       ◆       ◆       ◆

 いつの間にか大きくなってしまった騒ぎの中心で、叉武郎は必死に闘っていた。
 しかし嫉妬の炎を灯し、リビドーを滾らせるブレイダーにはまるで歯が立たない。
「つ、強い……」
 ついに叉武郎は膝を付く。その瞬間、背中から登竜門《ドラゴンズ・ゲート》が現れ龍化形態《ドラゴニック・フォーム》へと変身するのと逆回しで変身がとける。
「当たり前だ。俺とお前では剣の先に見るモノが違う」
 ブレイダーは叉武郎を見下ろして、ゆっくりと近づいてくる。
「自己満足の為に剣を振るうヤツが言うなぁ!」
 叉武郎は最後の気力を振り絞り立ち上がった。
「お前がやってる、全ての女性の為っていう方がよっぽど自己満足なんだよ。それに気付いてないからお前はダメなんだ!」
 ブレイダーはその気力ごとぶった斬るように、大きく剣を振り上げた。
「さあ眠れ、起きた頃にはこの虚しい一夜も終わ……わぁ!?」
 そして切っ先が叉武郎に触れる寸前、その場にいた全員が突如現れた縄に縛り上げられていた。
「これは、柴咲流……!? バカな、ヤツはも卒業してるハズ」
 急に現れた縄に持ち上げられながら、ブレイダーは縄の根本を視線で追いかける。
「驚いたのはこっちじゃ!」
 つられて叉武郎も視線をやると、そこには小さな身体に巨大な威圧感《プレッシャー》を背負った小柄な女性が立っていた。

       ◆       ◆       ◆

「お、お前がいなくなったと……。一〇年経って、やっと……、やっと認められたというのに……」
 結衣の頬には涙が伝っていた。何故か記憶にある姿と色が違うが、実際に動いているブレイダーを目の前にして、いろんなモノが吹き飛んだ。社会に出ると決めたとき必死で取り繕った言葉遣いも、昔のものに戻ってしまっている。
「まぁ、なんだ……俺もいろいろあってな」
 だからこそ余計に、春人のあっけらかんとした態度に腹が立つ。こっちはみっともない泣き顔まで見せているというのに、なんで死んでいる当の本人はあんなに普通にしているのか。
「封魔縛鎖陣」
 結衣は春人を縛り上げている縄に魂源力を流した。特定のパターンで魂源力を流す事により、相手の異能を無効化する。この一〇年間で身に付けた柴咲流の奥義の一つだ。
 嫉妬団に乗り移っていたブレイダーが追い出され二つに分かれるが、エレメントラルヴァさえ拘束する封魔縛鎖陣の前では逃れる術はない。
「まさか、お前に捕まる日が来るなんてな」
「これが一〇年の進歩というものじゃ」
 やっと捕まえた。なんだか目的とは真逆の成果な気もするが、結衣の中で一〇年前は掴むことすらできなかった春人をとらえたことに妙な達成感が沸き上がる。
「もっと別のところが成長してれば良かったのにな」
 胸を張る結衣の身体を見つめ、春人がしみじみつぶやいた。
「と、突然何を言い出すんじゃ!」
 本当に春人は変わらない。バカでスケベで、あの頃のままだ。
「せっかく墓参りに行ってやったというのに。ほれ、供えるのを忘れておったわ」
 そんな春人の相手をしていると、この一〇年など無かったような気さえしてくる。
(今なら、あの頃の気持ちで渡せるかもしれない)
 結衣はさっき渡せなかったチョコを春人の胸の中に押し付けた。
「ほう、この時期にチョコレートを」
 春人はそれを手にとってニヤリと口角をつり上げる。
「か、勘違いするなよ。時期的にたまたま買いやすかっただけじゃ」
「それで手作りまでして、不器用ながら包装までするのか」
 春人はわざと見せつけるように、渡されたチョコの包みを細部までねっとりと見渡した。
「だ、だからそんなんじゃないぞ、バーカ、バーカ」
 結衣は最早まともに顔を合わせられなくなって、昔のように真っ赤にした顔をうつむけた。
「ありがとな」
 その瞬間、春人は今まで見せたことのない穏やかな笑みを浮かべた。
 それを天から降りてくる光が包み、ゆっくりとその魂を天へと昇らせて行った。
「……じゃあな相棒」
 叉武郎は短い間ではあったが、肉体を共有した相手に別れを告げた。ろくな事が無かったが、春人からはいろんな事を教えてもらったような気もしないでもない。

       ◆       ◆       ◆

 その後私闘に異能を使い騒ぎを大きくしたとして、叉武郎はこってり風紀委員に絞られた。はじめに嫉妬団に襲われていたカップルが取りなしてくれなかったら、停学になるところだっただろう。
 いろいろ疲れ果てた叉武郎が部屋に戻ると、当然のように部屋の真ん中に剣が一本刺さっていた。
「おう、遅かったな。ホラ、見ろよ。ユリカは毎年手作りのチョコを供えてくれるんだぜ」
 寮の床やカーペットを問答無用に傷つけた凶刃は、見せびらかすように置かれたに置かれたチョコの包みを自慢する。
「……何故貴様がここにいる?」
 いろいろと言いたい事はあったが、まず叉武郎はそれを確認したかった。あのいかにも成仏するような別れのシーンは何だったのか?
「あの程度でこの俺が昇天すると思うなよ。俺の煩悩は一〇八まであるぞ!」
「いや、それ普通だからな」
 つまりこいつがこの世に未練を残している限り、また今回のような事が起きないとも言い切れないのだ。
「良いから成仏しろ」
 叉武郎の呟きは、未だに自慢を垂れ流している駄剣《だけん》には届かなかった。


 戦え! 負けるな! 二階堂叉武郎。
 悪《ブレイダー》が滅びるその日まで。




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