【怪物記 第八話】



 怪物記 

   何も知らぬことは最も幸福である
              ――西洋の諺


 日常に迫る恐怖というフレーズはよく使われる。
 その迫ってくる恐怖というものは犯罪であったり病気であったり、人によってはラルヴァにもなるだろう。
 しかし、本当に迫ってくるのは恐怖のほうなのだろうか?
 日常が、自分自身が恐怖へと迫ってしまったのではないだろうか?
 この【失踪事件】はそんな話だ。

 ・・・・・・

「これはまた何とも、徹底的だな」
 私は屋敷の一室に入り、開口一番そう呟いた。
 ここはH県某市にある日本屋敷だ。敷地面積はそれなり、錦鯉の十匹も住んでいそうな大きな池が掘られた庭があり、購入しようと思ったら一億二億では足りないだろう。
 もっとも、今だったらその値段で買えるかもしれない。いわくつきの物件の値は下がるものだ。
「本当に……徹底的だ」
 私はまた呟いて、室内に視線を巡らせた。
 他の部屋に通じる襖と部屋の壁に埋め込まれた押入れがある、以上。
 それだけ。
 室内にあるものはそれだけだ。他には何もない。
 ここはこの屋敷の主の居室であったはずだが、彼の所有物は何も残っていない。机はない、椅子もない、箪笥もない、本棚もない、テレビもない、金庫もない。念のために押入れを開けてみても、中には布団の一枚もない。
 これは単にこの部屋の主が物を多く置くことを好まなかった、などという厳格な理由ではないだろう。
 窃盗。この部屋のものが全て盗まれている。
 付け加えるならばそれはこの部屋だけでなくこの屋敷全体に言えることで……再度付け加えるなら人も、だ。
 一週間前の一月五日。この屋敷に集まっていた人間は全員失踪した。屋敷中のほとんどの物と共に。
 それだけならばまるで夜逃げだが、どう考えてもこの屋敷の住人たちには夜逃げする理由がない。むしろされる側なのだから。
 ならばこれは窃盗事件と誘拐事件ということになるだろう。
 しかし何十人という人間を連れ去り、家中の物を持ち去るなどという芸当がただの人間にできるわけはなく、自然と犯人は限定される。
 つまりはラルヴァ、もしくは異能力者。
 どちらにしてもこの国では双葉学園の処理すべき仕事の範疇であり、犯人がラルヴァなら同行する必要があると考えたので私はここにいる。
 しかし……。
「参ったな」
「見当がつかないんですか、学者さん?」
「……ああ」
 久留間君に尋ねられ、私は不甲斐なくもそう答えるしかなかった。
「人を連れ去るだけなら【笛吹き】というラルヴァがいる。盗むだけなら【スティーラー】というラルヴァがいる。しかしどちらもとなると該当するラルヴァが思い当たらない」
 何体かいないでもないがここまで鮮やかに人も物も持っていくラルヴァは思いつかない。
「まして事件当日の夜。この屋敷からは誰も出ていないのを門前に仕掛けられた監視カメラが確認している」
 監視カメラに残された映像によれば、翌日の朝に異常を察した外部の人間が屋敷に入るまで誰も出入りしたものはいない。
 お陰で随分と真相の調査が難しくなり、監視カメラが仕掛けられなければならない屋敷で起きた事件だということが拍車をかける。
 ここは……。
「暴力団の屋敷で起きた事件だというのに、争った形跡一つないというのが本当に難しい」
 ここはH県某市の某暴力団組長、対外的には不動産会社社長の邸宅だった。
 この組では恒例行事として組長の誕生日には屋敷に幹部一同が揃って会食する催しが開かれていたらしい。意外にもアットホームだが、それが裏目に出た。
 今年も例年通りに幹部達が屋敷に集まり……そうして組長含めて全員失踪したからだ。
 翌朝になっても上司が戻ってこないことに異常を察した組員達は組長の屋敷に集合。彼らがそこで見なかったものは綺麗さっぱりもちさられた家財道具と、自分たちの上司だった。
 彼らはこの一件に事件性を感じ、警察には連絡せず自分達で捜索を行っていた。が、暴力団が大きく動いた時点で何かあったと警察に知らせることになり、警察を通じて双葉学園もそれを知ることとなった。
 事件の異様さからこの事件はラルヴァ事件と断定。
 かくして久留間戦隊が派遣され私も同行した、というわけだ。
「何十人もの人間と家中の物を持ち去るなんて芸当はラルヴァ以外に出来ないからな」
「異能力者って線はないんですか? この暴力団に恨みをもつ人間に雇われた、とか」
「……人間だったらゴミ箱まで持ち去りはしないだろう」
 屋敷にはゴミ箱が一つも残っていなかった。それどころか、宴席で振舞われた料理の痕跡もまるでない。作った痕跡も、食べ残した痕跡も、だ。
「死出蛍の事件を覚えているかね?」
「はい、たしか学者さんと一緒に行った最初の任務ですね」
「あのときの私は残された銃痕などの痕跡からラルヴァの特徴を推定したが、今回はまるで痕跡がない」
「こんなに物と人がなくなってるのにですか?」
「なくなっているから、だ。痕跡も残さずに消えているから特定する手がない」
「痕跡が残ってないのが特定する手がかりに……あ! やっぱり人間が犯人でゴミ箱までなくなってたのは証拠隠滅のためって可能性が!」
「ない。どちらにしても人間がやるにしては徹底的過ぎる。さっき少し覗いてみたが天井の埃までなくなっていたぞ」
 どうしてそこまでするのか。この訳のわからなさ加減は人間の仕業とは考えにくい。
「特定範囲のものを一瞬で消滅させる能力、という線も家や少々の家財道具が残っているせいでない。指定して消せるならゴミや埃まで消した理由がわからない」
「……この事件、ミステリーすぎて面倒くさいですね」
「ミステリーは頭を使わされるからな」
 その上に謎解きの手がかり足がかりすらないのはどうしたものか。正直お手上げだ。
 どこかにわかりやすい手がかりの一つも落ちてはいないものだろうか?

 ・・・・・・

 ・OTHER SIDE

「ハァ……ハァ……」
 この屋敷を調べているらしい人間たちの目を逃れて、彼はその部屋に忍び込んだ。
 彼の進入した部屋も他の部屋同様に物が一切なく、畳が敷かれているだけだった。この部屋には何もないはずだ。
 しかし彼は部屋の中を進んで一枚の畳の横にしゃがみこみ、その畳を持ち上げて床から引き剥がした。
「あった……!」
 床の上に彼は何かを見つけ、その何かを服の内側にしまいこんだ。そうして彼は目的を果たし、屋敷から立ち去ろうとして……廊下からの足音を耳にした。
「!?」
 誰かが彼のいる部屋に近づいている。屋敷を調べている人間の一人だろうか?
 彼は見つからないよう身を隠そうとして、その部屋には身を隠せるものなど何一つないことを思い出した。
 三つ隣の部屋の障子を開く音が聞こえた。しかし、障子はすぐに閉じられ再び廊下から足音が聞こえる。次いで、二つ隣の部屋の障子が開かれる音が聞こえた。
 まるで、怪談の亡霊のように一つ一つ部屋を調べて近づいてくる足音。彼は、その人物が自分を探して部屋を調べていると確信した。先刻の畳を引き剥がす音や声を聞かれていたのだ、と。
 彼は狼狽し、どうすべきかを必死に考えた。
 見つかるわけにはいかない。絶対に、絶対にこれを持って逃げなければならない。
 緊張に汗腺は開き、心臓の拍動が増し……不意に胸の痛みで自らの懐にあるもののことを思い出した。
 懐に手を差し入れ、それを取り出す。
 それはL字型の黒い鉄塊……トカレフという種類の拳銃だった。
 ――これで相手を撃てばその隙に逃げられる?
 それは本末転倒の思考であり、銃声を聞きつけた人間が集まる可能性も高かった。しかし、追い詰められた彼の精神に選択の余地はなかった。
 すぐ隣の部屋の障子が開かれてすぐに閉じられ、足音はついに彼のいる部屋の前へと迫った。
 そうしてその人物の影が彼の部屋の障子に映りこみ、部屋の障子が開かれ――
「うわぁぁあああッ!?」
 開かれた瞬間、彼は目を閉じてトカレフの引き金を引き絞った。何度も何度も、弾が出なくなるまで引き金を引く。
 そうして八発の弾丸が放たれ、部屋の中に硝煙が立ちこめる。
「う、うぅ?」
 腕に残る痺れでトカレフを手放すことも出来ない。しかし彼は恐る恐る目を開け、自分の発砲の結果を確かめようとした。

 彼が場慣れした人間だったなら、目を開ける前に血の匂いがしないことに気づいただろう。
 もっとも、場慣れした人間なら発砲の際に目を瞑るような真似はしないだろうが。

「えぇ……?」
 目に映った光景に、彼は思わず間の抜けた声を上げた。
 自分が撃ったはずの人物は、見た目傷一つなくそこに立っている。
 ――全部はずれて、え、でも……
 彼の動揺の原因はその人物が無事なことではなく、その人物の容姿そのものだった。
 長い髪、彼より少し高めの背、そしてメガネをかけた……若い女学生だった。
「なんで、ッ!?」
 彼が疑問を口にしたとき、女学生は彼が手にしていたトカレフをその細い指で掴んで、あっという間に取り上げてしまった。そのまま手馴れた動作で彼の手をとり、後ろ手に拘束してしまった。
「いまいち、状況が飲み込めないのですが……」
 女学生は彼を拘束したまま問いかける。
「貴方は何者ですか?」

 それは彼が言いたい台詞だった。

 ・・・・・・

「今、銃声が聞こえたような」
「聞こえましたね。まぁ、暴力団のお屋敷ですしそういうこともありますよ」
 ある、か?
「……まぁ、いいか。ところで他の場所を調べてるメンバーから何か連絡は?」
「ありません。何かあったら連絡してくるはずですし……何もないってことですね」
 今回の調査では久留間戦隊のメンバー全員がこの屋敷を調べているわけではない。ここを調べているのは私と久留間君ともう一人。あとの三人は念のために市街の他の場所を調べている。
「夕方になったら一度ここに集合する手筈ですからそれまでに手がかりの一つも見つけておきたいんですけど……」
「ないものは、ない」
「そうですよね……。あ、学者さん。話は変わるんですけど」
「ん?」
「あのときクリスマスパーティーに来てた外国の女の人って誰なんですか?」
 そういえばあの日は珍しくリリエラが混ざっていた。しかも自己紹介もせずパーティーのノリに任せて飲み食いしていた。久留間君が後で疑問に思うのも当然だろう。
「彼女は私の助手だ。都合十数年の付き合いになる」
 自分で言って、ああそんなにもなるのかと少し驚いた。
「助手さん、ですか。それも十何年も……あれ? 学者さんっていつから学者さんだったんですか」
 ……いつからだろうか。あの島にいたときも学者といえば学者だったが、生態学者になったのはあの島を出てからだ。
「学者になってからは十年前後、だったはずだ」
「あたしくらいの頃にはもう学者さんは学者さんだったんですね。すごいなぁ」
 久留間君の年齢はたしか十八。たしかにその頃には学者だった。最初に赤壁を見たのもあの時分だったか。
 自分が学者になった時期のことを考えていてふと、久留間君はいつから異能力者だったのだろうかと気になった。
「そういえば、久留間君はいつから双葉学園に?」
「十八年前からです」
 十八年前か……十八年?
「では……」
「はい。あたしは生まれた頃から異能が発現していたタイプだったのですぐに学園都市に住むことになりました。三期新入生ですね」
 三期とは二十年前の一九九九年に生まれた異能力者を一期と数えての三期目という意味だ。もっとも、一九九九年の異能力者大量出生以前に異能が発現していた場合もあるので厳密には違うのだが。
「生まれた頃からこの環境だったお陰でそれまで過ごしていた『日常』とのズレっていうのを体験しないで済みました。十八年かけて自分の異能も練磨できましたし、あたしは運が良かったです」
 運が良かった……か。
 彼女が言う『日常』とは自身とその周囲を取り巻く環境全てだ。
 異能に目覚め、双葉学園に籍を移した少年少女の多くはそれまでの『日常』との違和を感じて悩む。なぜならそれは単に居場所が変わるというだけでなく、それまで生きてきた世界とは違う世界の『日常』――異能やラルヴァのある『日常』に身を置くということだからだ。
 私もかつて何度か同じ体験をした。
 それは苦しいことだが、ないほうがいいというものでもない。
 新たな『日常』の中でも依って立つのは自らの基礎となる幼き日々の『日常』に他ならないのだから。この私でさえも幽かに覚える子供の頃の記憶があるから今の私でいられる。
 だが、彼女にとっての『日常』はずっとここだった。
 最初から異能があり、ラルヴァがあり、異能を用いて人に牙剥くラルヴァと戦うのが『日常』。
 彼女のそれは古い異能力者の一族の『日常』とも似ているようで、異なっている。
「久留間君は学園を卒業したらどうする?」
 私は確かめるように久留間君に尋ねた。
「う、高校三年のあたしへの進路相談ですか?」
「そんなところだな」
「うーん、きっと双葉大学に進学して、大学を出てからはどこかの対ラルヴァ部隊かフリーランサーになると思います」
 まだ大学を卒業した人があんまりいないからはっきりとはわからないんですけどね、と彼女は付け加えた。
「……そうか」
 それは半ば予想のついた答えだった。幼い頃からの訓練と教育の結果、久留間君の『日常』は異能で戦うことに天秤が傾きすぎている。
 それこそ『ビースト無敗の久留間戦隊』と呼ばれるほどに、あの七色件の事件で極めて冷静に人間《スピンドル》との戦いを繰り広げるほどに。
 あるいはこうして頻繁に学園都市の外の事件の解決に派遣されるのも彼女の性向ゆえかもしれない。久留間君ほど、狂っているわけでもないのに戦いを苦にしない学生はあまりいない。
 それが幸か不幸かは私が判断することではないだろう。彼女に聞けば幸福だと答えるだろう。
 ならそれでいいと思う一方で、クリスマスや元日の彼女の姿を思い出してしまう。
 同時に、彼女が進もうとしているのと同じ道を歩んでいるアルフレドさんのことも思い出される。
 ……将来を、未来を決めるのは天秤を少し揺らしてからでもいい。そう考えて私は彼女にあることをもちかける。
「久留間君、もしよかったらだが……八雲の家庭教師をやってみないか?」
「八雲ちゃんの家庭教師、ですか?」
「ああ。今は私や知人が見ているが、全員八雲とは少し年が離れているのでね。春から双葉学園に通わせるつもりではいるが、その前にもっと年の近い人間とコミュニケーションをとったほうがいいと思ったのさ」
 方便ではあるが、いつかはそれが必要と思っていたのは事実なので嘘とも言い切れない申し出だった。
「そうですね……時間が空いているときでしたら喜んで受けさせてもらいます」
「ありがとう」
 私の申し出が久留間君に受け入れられたちょうどそのとき、部屋の襖が開いた。
「リーダー、ここにいますか?」
 やってきたのは他の部屋を調査していた久留間戦隊の一人で、メンバーで唯一メガネをかけている人物だった。
 彼女の手はなぜか二十前くらいの青年を取り押さえていた。
「藤乃、その人は?」
「屋敷に忍び込んでいました。怪しいから捕まえたんですが……」
 この屋敷は我々が調査している間はこの組の上部の組からの通達で我々以外の出入りは禁じられている。暴力団の屋敷で他の事件現場同様に封鎖ができるのかは少し疑問だったが、どうやら何らかのコネクションがあったらしく封鎖は出来ていた。
 ただ、禁じられてはいても侵入する者は侵入するようだ。
「あ、怪しいのはお前らだ!? 組長の屋敷で何してる! 何なんだお前ら!?」
 青年は必死に逃れようともがくが、その程度で一般人が身体強化系の拘束を解けるわけもない。しかも拘束しているのが若い女性であるため、そのギャップで少し気が動転しているようだ。
「……ふむ」
 十中八九、彼はこの屋敷の暴力団の人間だろう。となれば事件についての手がかりを彼から得ることが出来るかもしれない。
「我々は雇われた人間だ。まぁ……探偵のようなものだと思ってもらえばいい」
 『政府に属する異能力者学園の異能力者と研究者だ』などとはもちろん言えず、私はともかく久留間君達を警察や暴力団の組員と言うには無理があるので探偵ということにしておこう。
「こんな女学生ばっかりの探偵事務所がどこにある!!」
 しまった。こっちも無理があった。
 私がどう言い訳を続けようか悩んでいると、久留間君が青年に近づきそっと彼の懐に手を入れた。
 懐から取り出したのは一本のナイフ。久留間君はナイフの刃を厚薄両側から掴んで――縦《・》に割った。
「ヒッ…………!?」
「女子高生ですけど、こういうことができるから探偵ですよ?」
 探偵は普通そんなことできんだろう。
 青年は久留間君のデモンストレーションに恐怖を覚えたのかガクガクと足を震えさせている。次いで、怯えるような眼差しで自分を取り押さえている久留間戦隊のメンバー――たしか藤乃君だったか――に視線を向けた。視線を向けられた彼女が、なぜか手に持っていた拳銃をグシャリと握りつぶしたので彼の顔面はいよいよ蒼白となった。……彼女達なら暴力団の組員で通せたかもしれない。
「君はここの関係者だろう? 事件について幾つか聞きたいことがある。答えてもらえるか?」
 この流れだとまるで脅迫のようだと考えつつも尋ねると、青年は首を縦に振った。
「ならまずは一つ目、ここは事件翌日に踏み込んだときにはもうこの有様だったのか? 持ち出したり、持ってきたものは?」
 首を横に振った、否定。
「二つ目、君は拳銃を持っていたが、事件当日にここにいた人間も拳銃を持っていたか?」
 少し悩んだ後で首を縦に振った、肯定。
「三つ目」
 質問を重ねる。それはほとんどがわかっていたことの確認作業に過ぎず、これといって新たな手がかりは得られない。
 そんな質問を十ほど重ねた後で、今回の件について資料や調査でわからないことを尋ねてみた。
「去年の誕生日の宴席では何も起きなかったのか」
「な、何か起きたとは聞いてない、それに……そのころはまだ組長もここには住んでなかった」
 ……何?
「この家に住み始めたのは去年からか?」
「あ、ああ。組長の前の屋敷が火事で使えなくなって、丁度うちの持ってる物件で出来のいいこの屋敷があったから……」
「その辺りを詳しく聞かせてもらいたい」

 この屋敷は元々ある老夫婦の持ち物だったらしい。
 ところが老夫婦は不幸なことから多額の借金を背負ってしまう。借りた先には今回の事件に遭った暴力団の傘下の事務所が絡んでおり、何度も追い込みをかけられ老夫婦はついには家財道具一式を持って夜逃げしてしまう。
 残っていたのは箪笥など僅かばかりの家具と、屋敷や土地の権利書だった。
 夫婦に金を貸していた者達は夜逃げされたことに腹を立てたが、残されていた権利書を手に入れたことで結局は借金の利子以上のプラス収支となったので夜逃げした老夫婦を追うことはしなかった。
 そうして事務所の手元にこの屋敷が転がり込んだのと丁度同じころ、親元の暴力団のトップである組長が偶然にも火災で家を無くすこととなる。
 この家を手に入れていた事務所はこれ幸いと広く造りもいいこの屋敷を組長に上納した。組長自身もこの屋敷をいたく気に入り、新居とすることに決めたという。
 そうして今年の一月五日、この屋敷で組長を含めた幹部一同が行方不明になった。

「それで組長にこの屋敷を上納した傘下の事務所というのが」
「うちだ……。だから何とかするためにこの屋敷に行ってこいってアニキが……」
 ……何とか……か、なるほどな。
「そういう経緯があったんですか。……あれ?」
 久留間君が何かに気づいたように呟いた。
「じゃあこのお屋敷ってその老夫婦と組長達で二回も人がいなくなってるんですね」
「…………」
「そうですねリーダー、地縛霊のようなラルヴァが関わっているのかもしれません」
「リーダー? 地縛霊? らるヴぁ? あんたら何言って……」
 …………なるほど、なるほど、なるほど。
 久留間君の言葉で全貌がわかってしまった。要は、そういうことなのだろう。外部からの侵入者ではない。地縛霊でもない。もっと大層なものがこの事件の犯人だ。
「最後に一つ聞きたいんだが」
「な、なんだ?」
「この屋敷の障子や襖は前の住人のときから変えてないのか?」
「あ、ああ。痛んでる様子もないし柄がいいからって組長が気に入ってそのまま……」
 確定した。消えたものと消えていないものの違いが確定した。
 同時に、背筋に言い知れぬ悪寒が走る。
 私が気づいたように、あちらにも『私が気づいたこと』を気づかれ始めている。
「…………」
「学者さん?」
「学者さん? あんたらやっぱ探偵じゃないんじゃ……」
 私は無言のまま、襖に手をかけて開けようとした。
 しかし軽いはずの襖はびくともしない。まるで頑丈な鍵で封でもされたように閉ざされている。
「……遅かったか」
「学者さん、どういうことですか?」
 久留間君も異常に気づいたらしい。
 私は観念して、気づいてしまった真相を語り始める。
「抗体の働きは知っているかね?」
「えっと、病気にならないように病原菌をブロックするものですよね?」
「少し違う。病原菌やウィルスなどに付着し、それを食う体内の細胞への目印になるのが抗体の役割だ。言うなれば、自己と非自己の指標だ」
「はぁ、それが何かこの事件に関係があるんですか?」
「もう一つ付け加えて例を挙げよう。例えば食事を摂った後、胃は食物を消化するために胃液を分泌するが、それは胃を溶かしたりはしない。自分の体であるために粘膜でコーティングされているからだ」
「…………」
 久留間君の表情から疑問に思う様子が消えた。つまりは、この事件はそういうことだ。
「おい、訳がわからないぞ! 抗体だの胃だの、どういうことかはっきり言ってくれ!」
「この屋敷で消えたのは人間とゴミと家財道具と服などといった持ち込まれたもの。そして残っていたのは昔からこの家にあった障子に襖と、庭と、この屋敷そのものだ。つまりは」
 窃盗や誘拐などではなく、自己と非自己を識別して非自己だけを全て食った。それがこの事件の犯人。つまりは。

「この事件の犯人は――この屋敷そのものということだ」

 私が叫んだ瞬間に屋敷は化けの皮を剥がし、牙を剥いた。
 腹の中の獲物を食い尽くすために。

 ・・・・・・

 怪物記 第八話 『家袋《イブクロ》』

 ・・・・・・

 ウツボカズラはその形状と生態から植物の中でも有名な食虫植物だ。 
 昆虫を蜜で死地へと引き寄せ、自らの体内に落としこみ、ゆっくりと消化する。
 この屋敷ラルヴァはウツボカズラと同じである。立地や趣、広さといった人間の好む条件で人間を引き寄せ捕食するために進化したラルヴァなのだろう。
 正体を現して我々を捕らえた屋敷が外部に面する廊下の鎧戸を悉く閉じる音が聞こえる。これで屋敷の内外が完全に隔絶されてしまったようだ。
「ど、どうなってんだこりゃあ!?」
「どうなってる、と言われてもさっき言った通りだが」
 ここはもはや屋敷の形をしたラルヴァの腹の中だ。屋敷以外のものは全て捕食される。
「簡潔に言えば、君の上司達が消えたときと同じ状況と言うわけだ。このままだと食われて死ぬな」
「そうさせないためにあたし達がいるんですけど、ね!!」
 久留間君の行動は早かった。襖を身体強化系の尋常ならざる脚力で蹴り砕いて退路を開く――はずだった。
「!?」
 しかし、同じ厚さの鋼鉄でも軽く打ち貫く久留間君の一撃は襖の厚紙一枚破ることが出来なかった。
「なんらかの防御手段が取られているのか」
 どうやら物理攻撃では壊れないらしい。そうでもなければ事件当日に屋敷から誰一人逃すことなく捕食することなど出来るはずもない、か。
「……こういう物理法則無視した相手って苦手ですね」
 エレメントであり物理攻撃が効かない死出蛍のときも苦労していた。こういった手合いは身体強化系らしい身体強化系の鬼門のようなものか。
「しかし、久留間君の力でも脱出できないのはまずいな」
「でも学者さん、内側からどうにもできなくてももうじき他の調査をしてるメンバーとの合流ですから、あの子達が来れば……」
「あちらもそれを知ったら待ってはくれんだろうさ」
 私の言葉に反応したのか、言葉の直後にそれは起きた。
 室内の壁や天井から無数の釘が射出され、我々へと降りかかってくる。自分が蜂の巣にされる姿を幻視したが、
「破ッ!」
 私と青年を襲った釘は全て久留間君の手足によって叩き落とされた。毎度のことだが、久留間君がいない場合の私はどれだけ死んでいるのだろうか?
「久留間君、助かった。あやうくそこの畳や藤乃君のように全身に釘が刺さってヤマアラシになるところだっ…………」
 改めて室内を見回す。
 私、無事。
 久留間君、無事。
 青年、無事。
 畳、釘が刺さってヤマアラシ。
 藤乃君、釘が刺さってヤマアラシ。
 人間釘バットがそこにいた。
「……」
 どうやら飛んでくる釘を避けられなかったらしい。上着には数十本の釘が突き立ち、外見的特徴だったメガネにも突き刺さっている。
 さらに次の瞬間、襖を突き破って廊下に飛び込んできた何か――人間大の庭石が彼女を弾き飛ばした。
 どうやらこのラルヴァは釘や庭石のように邸内の物、つまりは自分の体を武器にして獲物を捕食するらしい。それに……、ってそんな考察をしている場合ではなく。
「久留間君」
「どうかしましたか学者さん?」
 いや、どうかしましたかじゃないだろう。
「藤乃君が」
「私がなにか?」
「!?」
 声の方向に振り向くと、全身釘だらけの藤乃君がケロリとした顔で立っていた。…………何故?
「あ、藤乃。服が釘だらけよ」
「すみませんリーダー。少し数が多くて私では避け切れませんでした」
 藤乃君は答えながらパンパンと服を払う。するとポロポロと釘が落ちていった。随分と簡単に、まるで衣服に引っかかっていただけというように。
「藤乃は避けるの苦手だからね」
「お恥ずかしい限りです」
 言いながらメガネに刺さっていた釘を引き抜いた。その下の眼球はおろか瞼にも傷一つなく、「メガネが駄目になったから買い換えなければ」、などと呟いている。
「……久留間君、彼女の異能は本当に身体強化か?」
「身体強化系以外の異能力者がうちにいるわけないじゃないですか」
 それはまぁ、そうなのだろうが。
「藤乃もあたしと同じで普通の身体機能強化異能ですよ。ただ藤乃は頑丈さなら久留間戦隊随一ですからバズーカくらいなら平気で拳銃なんて豆撒きくらいにしか効きません。例えばトカレフで撃たれても何ともなりませんね」
「照れます」
「なるほどそれでさっきも…………って本当に何者なんだよお前らぁ!?」
 彼女らが何者か知っている私でも今回ばかりは青年と似たような感想だった。
「それはそうとリーダー。今の庭石のお陰で襖に穴が開きました。ここから出られます」
 藤乃君が指し示した襖には大穴が開いていた。今の一撃が庭石だったことを考えると庭まで一直線に出ることができるはずだ。
「どうしますか学者さん?」
「どうするもこうするも……」
 屋敷の中はこのラルヴァのキルゾーンそのもの。一先ず脱出するしかない。
「出よう」
「わかりました」
 久留間君は私と青年を両の手にそれぞれ抱え上げる。
 そして藤乃君が久留間君に先行する形で穴から飛び出す。
 しかし相手もそれを待ち受けていたらしく、先刻に倍する釘と庭石が藤乃君に襲い掛かる。
 藤乃君はそれを避けきれず、ほとんど全ての攻撃を受けて吹っ飛んでいったが……その隙に我々を抱えた久留間君が穴から飛び出した。
 残った相手の攻撃を巧みにかわし、庭へと続く道を一直線に駆けていく。藤乃君もすぐに復帰し、久留間君に続いた。
 そうして我々は廊下の鎧戸に開いた大穴を潜り抜けて庭へと飛び出し、久留間君はそこから一跳びで庭の塀を乗り越えて邸外へと脱出した。
 藤乃君も途中で何度か庭石に撃ち落されていたがなんとか邸外へと脱出できた。
「これで一安心か……ッ」
 久留間君に降ろされて道路に足をつけると鈍い痛みが走った。
「学者さん、それ……」
「一つ掠っていたらしい。まぁ、大した傷じゃないからすぐ治る」
「…………」
 それにしても、閉じ込めておいたのにわざわざ自分で穴を開けて脱出ルートを作ってしまうとは間の抜けた話だ。
 人間の言語を理解できる程度に知能はあったはずだが、それでもあんな愚行をしでかしたのは普通の人間なら殺せる釘の段階で我々が生き残っていたからだろう。釘で殺せなかったためにより威力の高いであろう庭石を持ち出してあの有様だ。
 何故そんな無様なことになったのかと言えばあのラルヴァは人間に対しての対処法はあっても異能力者に対しての対処法は心得ていなかったからだ。私の記憶にないことも含めて恐らくは新種のラルヴァだったのだろう。
 異能力者を見たことも聞いたこともない、そういうラルヴァも今の世の中には多く潜んでいるということか。
「それでリーダー、このラルヴァはどうしますか?」
「一番スマートなのは会長みたいに大火力の異能力者の出動を要請して外部から破壊することね。来れるかわからない人だけどルール君なら綺麗にやれそうだし、だけど……うーん」
「何か問題でも?」
「ねえ藤乃。このラルヴァのカテゴリー……何かな?」
「それは……」
 屋敷は見ての通りデミヒューマンではない、実体があって傷もつく以上はエレメントでもないだろう。ならこのラルヴァのカテゴリーは……。
「ビースト。それなのにあたしが何も出来ないっていうのがちょっとね」
「ビースト無敗の久留間戦隊の名に傷がつくと?」
「違いますよ学者さん。そんな看板に執着があるわけじゃないし、第一負けてはいないですけど……」
 彼女は服が穴だらけの藤乃君と私を順に見て……それから屋敷を睨みつけた。
「なんだか、イライラします」
 苛々か。久留間君にしては珍しい物言いだな。
「ですがリーダー。我々の能力ではあれに有効打を与えることはできません」
 パーティメンバー全員がオーソドックスな身体強化系である久留間戦隊には物理攻撃しか攻撃手段がない。だから通常のビーストラルヴァ相手には無類の強さを誇るが、こういった特殊な性質の相手には弱い。しかしながら。
「手がないわけじゃない」
「どんな手ですか?」
「あれには物理攻撃は効かない。しかし釘や庭石といったあのラルヴァ自身の攻撃はあのラルヴァの体に傷をつけていた」
 藤乃君と一緒に畳もしっかりヤマアラシになっていたからな。
「つまりあのラルヴァは『自身』と『それ以外』を識別して『それ以外』の物理攻撃は全てシャットアウトしているわけだ。『自身』の攻撃で体を傷つけてしまうのは恐らく性質上しようのないことなのだろう」
 言うなれば、抗体の逆だ。
「なら、あのラルヴァ『自身』の体を武器にしてあのラルヴァを壊せばいい。それだけのことだ」
「なんだ、簡単な方法があったんですね……あれ?」
「……耳もよかったか」
 屋敷ラルヴァは路上での話が聞こえていたらしく、それに対応する手段を講じた。
 屋敷の屋根瓦という屋根瓦を全て剥がし、それを塀と屋敷の屋根の間に敷き詰めてまるでドームのような新たな屋根を作り出した。
 もう周囲の環境に自らの正体を隠すこともせず、明らかな異常を振りまきながら自分の身を守ることに注力している。
 本当に、人間的な知能だ
「これじゃ壊せないですね。屋敷の外に欠片でも落ちてれば……藤乃、まだ服に釘引っ掛かってない?」
「すみません、塀を越えるときに上着ごと捨ててしまいました」
 久留間君なら釘一本あればそれを使って内部に侵入するための穴くらいは開けるだろうが、釘の一本も無いのでは仕方ない。
 もっとも、釘以外のものならあるのだが。
「あれの一部ならここにもある」
「え? どこにあるんですか学者さん」
 どこにあるか。そう尋ねられた私は先刻までの一連の出来事で茫然自失となっていた青年に近づき、その肩をポンと叩いた。
「ところで君。そろそろ君がここに忍び込んだ本当の理由を教えてはくれないか?」
「?」
「……!?」
 久留間君が不思議そうに首を傾げ、対照的に彼はこちらの言いたいことに気づいたのか顔面が一層蒼白になった。
「さ……、さ、さっきも言っただろ! この件を何とかするために……」
「上の組から出入りを禁止されているところに忍び込んで、何を何とかする気だったのかね?」
「……! そ、それは」
「当ててみせよう。君は上司の命令でここにあるものを盗みに入った」
 その言葉に彼の顔からさらに血の気が引くのを見て、私は自分の推測を確信した。
「それがなくなっていればいい。だがもしもあって、それが残っていることが上の組の人間に知られれば……ただではすまないからだ」
「学者さん、それ、ってなんですか?」
 それが何か。彼がこの屋敷で盗まなければならなかったのは何か。そして、事件の後のこの屋敷に残っていたものは何か。それは……。

「権利書だよ。この屋敷の」

「前の家主が夜逃げしたとき――それもこの屋敷に食われたのだろうが――権利書は残っていた。他のものは殆ど一切合財がなくなっていたというのに、だ。もしも今回の失踪でもそれがまた残っていたら、見つかったら……どうなる?」
 前の家主のことも合わせて上の組に知られればどうなるか。
「今の家主だった組長達が前の家主と全く同じ形で失踪したのだとしたら? 『おい、ひょっとしてこの屋敷に何か原因があるんじゃねえのか?』という話にならないとも限らない。場合によっては責任追及は屋敷を提供した君達に及ぶことになる」
 甚大な被害が出ているのに振り上げた腕を振り下ろす先が見つからずにいて、辛うじて振り下ろせそうな先が見つかればどうなるか。
 もっとも、本当に屋敷が原因だったので振り下ろす先としてはそれなりに妥当なのだが。
「君達はそれを避けたかった。だから……忍び込んで権利書を盗んだ。『権利書も含めて全部なくなってます。これは前の家主の件とは違います。関係ありません』……と言うわけはないだろうが、少しでも関連性を消すための工作をしたかった」
 それがどの程度効果を上げるかはわからない。しかしこの事件の異常な事態に藁をも掴む気持ちでやったのだろう。
 半分は私の推測混じりだったが、彼の顔を見ればそれがある程度は正解であることは知れた。
「でも学者さん、今その話をする意味はあるんですか? 事件が終わってから話せばいいことじゃないですか」
「いや、これは今言わないといけないことだ。なぜなら」

「権利書はあの事件の後にも残っていた……ということは権利書もあのラルヴァの一部ということだ」

 その言葉を聞いてからの久留間君の動作は流れるようだった。
 彼の懐に手を差し入れて紙のようなもの――権利書を奪い、それを門扉に押し当て権利書を挟む形で門扉へと拳撃を見舞った。
 権利書越しに炸裂したストレートはその威力を余すことなく門扉へと伝え、轟音と共に屋敷全体が揺らす。
 一瞬の沈黙――そして内部から爆発するように門扉は木っ端に砕け、微塵に粉砕された。
 次いで砕けた門扉の破片を楔にして屋敷の壁を破砕し、砕けた壁を放り投げて屋根を撃ち抜く。
 屋敷を使って屋敷を壊し、壊した屋敷でまた壊す。その繰り返しで屋敷ラルヴァは見る間に解体されていく。
 屋敷ラルヴァも釘や庭石で応戦してはいるようだが、さっきまでも通じなかったのにお守りが必要な重り二人のいない今の久留間君に通じるわけもなかった。
 さらに藤乃君まで参加して屋敷を解体していく。
 屋敷からは怪獣映画で聞くような豪快な破壊音が途切れることなく聞こえてくる。
「…………」
 青年はあんぐりと顎を落として驚愕している様子だった。無理もない。私もここまで豪快にやるとは思わなかった。どれだけ苛々してたんだ久留間君。
「まぁ、今回の件に関しては調査報告と一緒に少し進言しておこう。上の組からの君達への制裁も軽くはなるはずだ。交換条件というのもなんだが、この事件の真相は吹聴しないでもらえるかね?」
「…………」
 彼は聞こえているのかいないのかわからない様子だったが、ある意味ではこの光景が一番の口止めになるだろう。

 かくして購入しようと思ったら一億二億では足りない豪邸(ただし本物のお化け屋敷)は三十分経って他のメンバーが合流したときにはただの瓦礫の山になっていた。

 ・・・・・・

 久留間君の活躍で今回の【失踪事件】は解決した。
 しかし、今回の一件では疑問と少々の不安も残った。
 人間並みの知能を持ち、今の時代に適応し、人間社会に物件という形で自らの存在を潜ませたラルヴァ。それがあの一体だけだと誰が言えるのか。
 ひょっとすると、この世界にはあれと同種のラルヴァが数多く存在するかもしれない。それに気づかず、人々は自らの日常をあのラルヴァの中で過ごしているかもしれないのだ。
 そして同じことはラルヴァ以外にも言えるだろう。
 日常が、自分自身が恐怖へと迫ってしまった。
 この【失踪事件】はそんな話だったのだ。


 怪物記 第八話
 了

 追記。
 久留間君が家庭教師になったことを八雲自身も喜んでいた。今日も授業を受けるかたわら、セイバーギアで一緒に遊んでいる。まるで仲の良い姉妹のようであった。
 私の選択が二人にとって幸福であることを願う。


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最終更新:2010年02月13日 03:55
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