【双葉学園怪異目録 第四ノ巻 黄色い救急車】


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 双葉学園怪異目録

 第四ノ巻 黄色い救急車




「容疑者は心神喪失により、犯行時の出来事を覚えてなく、責任能力に問題があり……」
 判決が下される。
 異能の力にて犯罪を犯した異能犯罪者。しかし、彼はその制御できぬ自らの力に食われ、暴走し、精神を喪失していた。故に責任能力を問うことはできず、未成年である事も考慮され、無罪となったのだ。
 どんな罪を犯そうと、子供は守られるべきである。人権とはその為にあるのだ。ましてや自らの力に飲まれた犠牲者である少年を責めることなど誰に出来ようか!
 法は死者のためにあるものではない。生きる者のためにあるのだ。
 未来の無い犠牲者、死者よりも更生の可能性のある加害者、生者。そしてその異能で双葉学園に、人類に貢献できるであろう異能者を守るのは至極当然の事であり、そこに議論の余地などない。ないのだ。
 被害者の家族、残された者たちの涙。だがそれも未来への尊い犠牲である。仕方ない、仕方ないことなのだ……。


「うまく行きましたね」
 人のいないバーにてニヤニヤと笑うのは、少年の弁護をした弁護士だ。異能犯罪事件を専門に弁護する彼は、異能者の存在の重要性をよく知っている。そこを上手く突き、将来的に体制の役に立つ可能性を示唆すればよいのだ。ましてや、「彼もまた力に飲まれ暴走しただけの犠牲者である」と責任能力の有無を主張すれば実に容易い。
「まったくです先生」
 黒服の男達がアタッシュケースに札束を入れて机の上に置く。それを弁護士は笑いながら受け取る。
「今後も坊ちゃまをごひいきに」
「いや、それはなんと言いますか」
 弁護士が苦笑する。
「今後とは……物騒ですね、また起こされるのですか?」
 その言葉に、少年はへらへらと笑う。
「つーか、俺、力に飲まれて暴走ってヤツだし? 一度でそれが克服されたらそれっぽくねーじゃん?」
「確かに……そうですが」
「まあしばらくは大人しくしといてやるけど? ついつい力が暴走してガキをヤっちまっても、仕方ねーし? 俺、狂ってるから。うおおおお、力が暴走してしまうううう、って」
「ははは……」
 弁護士は札束を数えながら苦笑する。何時の時代も変わりはしない。こうやって守られるべき者は守られていくのだ。

「……ん?」
 ふと、バーに響くクラシックの音にまじり妙な音が耳に届く。
 これは……救急車のサイレンだろうか。その耳障りな音が近づいてくる。どんどん、どんどんと。
 ピーポー、ピーポー、ピーポー……
「うわああああっ!?」
 そして破砕音。バーの壁が破壊され、そこから黄色い何かが突き出してくる。
「な、何だっ!?」
「救急車だとぉっ!?」
 それは黄色く塗られた救急車だった。
 救急車のドアが開き、黄色い手術衣とマスクで身を包んだ医者・看護士達が十数人現れる。
 そしてその中でひときわ目立つ、、長髪の男が逆光の中、黄色い白衣をたなびかせて現れた。
「狂ってる。狂ってる狂ってる来るってる狂ってる……そう、あなたを狂ってる! そんな……通報一回謝礼五千円! お呼ばれうけて、我々通報!」
 微妙にちぐはぐな言葉を叫ぶ黄色い医者たち。手に持ったメスやクスコなどの医療器具を盛大にガチャガチャとならし、不協和音を響かせる。
「な、なんだ……お前らは!」
「ただの……医者ですよ、ククク、キィハハハハハハァ……!」
「キー!」
 医者や看護婦達が黄色い奇声を上げる。まるで特撮の悪の秘密結社の戦闘員たちのような、悪夢めいた光景だ。
「狂気とは救いだ。人は苦しみ絶望したとき、狂気に救われる。狂気とは……安らぎである。だが……貴様は違うなぁ……ククク、キカカカカ……クェカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!」
 黄色い医者は笑う。笑う。笑う。
「まさか……」
 弁護士はその狂態を目にして、とある噂話を思い出す。
 精神病患者や、狂人を捕らえ、鉄格子のついた病院へと収容すると噂される黄色い救急車。そしてそれらを率いる、謎の医者……
「貴様……ドクターイエロー! 実在したのか……!?」
 その言葉に対し、黄色い医者は仰け反り、狂ったように笑う。
 だが何故だ。弁護士も少年も黒服たちも、精神に異常はきたしていない。発狂などしていないのに、何故このような怪人たちが現れるのだ。
「なんだよ、なんなんだよこいつら……!」
 少年が恐怖に泣きながらわめく。それに対し、黄色い医者はメスを突きつけて叫んだ。
「偽りの狂気を盾に己が悪意と罪を正当化する……駄目だ、駄目だなぁ、それは……許されない、許されなァい!!」
 そう、彼らは狂気を演じた。狂気を騙った。狂ったふりをした。
「だが許す。虚言癖はァ、立派なァァァァ病気ィだぁあああああああ! キミには入院がぁ、必要ァアアアアア!!」
 黄色い看護士がカルテを書きなぐる。
 死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死……
 文章になってない、死という文字の羅列を書きなぐる。笑いながら叫びながら書きなぐる。
「さあ、手術に時間だァァァ。貴様の狂気、そのぉ病巣……摘出するェアアアアアアアアア!!」
「キィィイイイイイイイイ!!」
 その言葉に、黄色い医者たちが一斉に襲い掛かった。





「……と、そんなことをしてるらしい」
「うそくさー。というかそれは本当に医者なの?」
 病院からの帰りの途中。デパートのレストランでパフェを食べながらさやが言ってくる。ごもっともな意見だった。
 ちなみに虫歯になった歯は乳歯だったので麻酔かけて引っこ抜いただけで処置は終わり。さすがは永遠の子供の妖怪だ。だが生えてくる歯は永久歯なのかそれともまた乳歯なのか、ちょっと興味深い。どっちだろうか。いやどうでもいいことではあるが。
「ちなみに俺があの先生と出会ったのは、ベッドの下の男に殺されかけた時だった」
 寮に入居した時にいきなり襲われたのだ。そんな時に窓の外に現れた、メスを全身に仕込んで仰け反って笑う真っ黄色な医者はホラー映画のモンスター以外の何者でもなかった。
 黄色い救急車、そしてドクターイエロー。精神病患者を収容し、そして狂人や、狂気を隠れ蓑に悪事を働く者達を狩るマッドヒーロー……という噂話。まさか実際に居たとは俺も驚いた。
「意外とバイオレンスな人生送ってたのね」
「ただの被害者だよ俺は」
 戦うなんてもってのほか、一歩先生たちが来るのが遅れたら死んでいたし。しかし登場シーンはベッドの下の男よりはるかに怖かった覚えがある。もう慣れたけど。
「どこまで本当なんだか、それ。そもそも最近、そんな事件あったっけ?」
「さあ。あくまで噂だしなあ」
 都市伝説とはそんなものである。何処までが本当で何処からがウソかなど、わかりはしない。ただ確実なのは……
「あの先生なら何やっててもおかしくないってことかな」
「そこらのラルヴァよりよほど怪異だよねあの人」
 全くだ。俺は同意しながらホットケーキを食べる。あれはよほどのことがない限り関わっちゃいけないタイプの人だろう。
 適度に距離を保つのが一番いいのだ。それが怪奇な隣人達、怪異との付き合い方だ。
 俺は俺の人生を行く、ただそれだけである。

『……容疑者は心神喪失により、犯行時の……』

 テレビからそんなニュースが流れてくる。
 ふと、救急車の音が聞こえた気がした。
 たぶん、気のせいだろう。






 了

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