【danger zone6~黒白黒~hei bai hei~終編1】


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【danger zone6~黒白黒~hei bai hei~終編】

 百は小さな荷物を受け取った。

 スパイラル・ラルヴァの一群による双葉島侵攻事件。
 島内での機動迎撃を受け持ち、単独で三体のスパイラル・ラルヴァを破壊した風紀委員会機動七班の全距離攻撃者《オールレンジアタッカー》、戸隠流忍者の飯綱百《いずなもも》は更なる行動の準備をしていた。

 ラルヴァとの戦闘が続く中を、何かものすごく怖い物に追っかけられているような速さで百の居る廃校舎まで駆けて来た中等部制服の少年は、醒徒会から来たと言っている。
 たぶん醒徒会の方角から来たんだろうと思った百に、彼はへっぴり腰で全長九十センチほどの黒いソフトケースを手渡した。
 よほど島内を飛び回り光弾を撃ちまくるスパイラル・ラルヴァが怖かったのか、それとも今、目の前でクロムの輝く小太刀を剥き身でブラ下げた飯綱百がもっと怖いのか。
 少年が廃校舎の一室に駆け込んできた時、百は反射的に彼を慧海直伝の肩撃《ショルダーチャージ》ち当身で壁に叩きつけた。
 ニ方のコンクリ壁が迫る部屋の隅に少年の体を押し付けて両手足の自由を奪い、悲鳴を上げられぬよう彼の口に左の拳を突っ込みながら右手の小太刀で喉を切り裂こうとした。
 疑わしきは殺す。
 フォローもバックアップも無い単独行動中の忍には当たり前のこと。
 今回は目撃者を消す必要は無いと聞いているので、百はそれに応じて危険となりうる可能性のある対象の排除のみに努めた。
 ソフトケースに付いていた戸隠忍者装束のご当地キティちゃんストラップを見て、彼が慧海から聞いていた届け屋だと気づいた百は小太刀を下げ、喉を塞いでいた拳を抜く。
 そのどちらかだけでも人間を五秒で沈黙させることが出来る、小太刀の切っ先を下げている現在の状態からでも九秒もあれば充分。
 相手が人間じゃなくラルヴァなら相手相応、寿司屋の時価といったところか。
 少年はしばらく自分の顎と喉をさすって首がまだ胴の上に乗っかってることを確かめていたが、生きてればやらなきゃいけない自分の仕事を思い出したのか中等部制服のポケットから電子生徒手帳を取り出し、届け物に付属した風紀委員会装備受領書を赤外線通信で送信した。
 百は受信したファイルを自分の電子生徒手帳に表示させ、タブレット機能付きの液晶画面に親指を押し当てる。
 ペーパーレス化が進んだ官公庁で最近になって普及し始めた指紋と静脈、脈拍波形による生体認証サインは朱肉をつけて捺すハンコに馴染んだ大半の日本人にはまだ馴染めなかったが、物心ついた時から紙ではなく電子データの書類に慣れた世代の百や慧海は特に抵抗もなく、三文判より確実な証明方法として便利に使っている。
 装備受領書には双葉区内および本土の緊急出動地域における超法規的な武器の所持、携帯、使用許可証が三枚綴りになった、通称「ブタ箱を出られるパス」が添付されていた。
 略してブタ三枚《バラ》と呼ばれる武器許可証と装備受領書に捺印した百が少年の電子生徒手帳にファイルの本部保管用コピーを返送すると、伝票を確認した届け屋の少年は挨拶もそこそこに廃校舎から走り去っていった。
 風紀委員長山口・デリンジャー・慧海の補佐官として何度か醒徒会の会議に出席したことのある百は、どこかで見たような気がする少年だと思ったが、きっと気のせいだと判断し、届物《プレゼント》の開封を始めた。
 廃校舎の一室でコンクリの床に正座し、製図用具が入っていそうな耐熱ナイロン製ソフトケースのジッパーを開け、雅楽器の演奏か愛撫を思わせる恭しい手つきで中身を一つひとつ床に並べて内容確認をしていた飯綱百は、届け物に来た少年が落としていった赤いマフラーに気づいた。
 遺失物の取扱いは風紀委員会機動七班の管轄外だけど後で生徒課にでもに届けようと思い、百は赤いマフラーを忍服の懐に仕舞った。

 醒徒会の庶務役員、早瀬速人はスパイラル・ラルヴァと風紀委員の戦闘が行われている双葉島の中を駆けた。
 慧海から依頼された届け物の用を果たすべく、光弾を乱射しながら突進するラルヴァが風紀委員会の一班二班による誘導攻撃を受けている北東工業団地地区で、ラルヴァが発するオレンジ色のレーザーみたいな奴が頭や腹を掠める中を走り抜けた。
 彼は風紀委員長の慧海が電子生徒手帳で一方的に送りつけてきた座標と、タッチペンと手書き機能で書いたおっそろしく下手な字の住所に従い、双葉島工業団地内にある大きなトタン倉庫に店を構えた鉄工所に到達した。
 双葉学園風紀委員会装備部第三別室。
 それを示す物が見当たらない倉庫兼工場、風雨に晒され読み取りにくい看板には町田機工とだけ書かれている、早瀬は周囲と住所表示をもう一度見回した後、閉め切られたシャッターを恐々と叩いた。 
 何度かノックした後に錆びの浮いたシャッターが引き剥がすような音と共に開き、中から作業ズボンにランニング姿の大男が胡麻塩頭を掻きながら出てくる、が、早瀬の顔を見るなりシャッターを叩き閉めた。
 早瀬が涙目になってもう一度シャッターを叩き、再びシャッターを開けて出てきた不機嫌な顔にチビりそうになりながらも、電子生徒手帳の画面に学生証ページを表示させ、見せる。
 この寒空にランニング一枚で浅黒く毛深い肌を晒している筋骨逞しき男は、学生証と早瀬の顔を交互に見て一つ鼻を鳴らした。
 避難命令が出たというのに酒臭い息を吐きながら工場に居た初老の大男は、早瀬に背を向け黙って半開きになったシャッターの中に入っていく。
 古びた外見に似合わぬ大規模な加工機械が並ぶ工場の中、焼酎のパックや湯呑みで散らかった作業台の上にあったソフトケースを掴み、黙って早瀬に押しやった。
 一言も口を利かずニコリともしないオッサンから受け取る物を受け取った早瀬が、ほうほうの体で逃げ帰ろうとする目の前を、風紀委員会の委員が通った。
 武術や戦技に秀でた風紀委員会第二班に居る短髪巨躯の男、柔道の重量級選手のような外貌、見た目通り講道館の帯を持っている。
 風紀委員の出動服である作業着上下に防弾チョッキに似た対異能ベストを引っ掛けた彼は工場の中に強面《こわもて》のオッサンを認め、立ち止まって敬礼をした。
 礼儀より仲間同士の親愛といった感じの挙手礼。

「社長、こないだのアレ、週末あたり試運転できる?」

 さっきまで仏頂面だった風紀委員会装備部別室の主は、途端に豪気な笑顔を見せる。

「あぁ、軍用のパワードスーツより百九十%のスペックアップは保証するぜ、装甲のカーボンは今、釜で焼いてっから」

 胡麻塩頭の大男は、技術や作品のことになるとつい多弁になる自分を恥じるように「さ、そういう訳だからしっかり働いてこい!若者よぉ!」と、目の前に居た早瀬が耳を押さえたくなるような胴間声を上げる。
 ゴツい風紀委員は「じゃ、あとで酒持ってツラ出すよ~」と言って走り去った。
 どうやら自分が眼中に無いことを知った早瀬はオッサンに慌しく一礼すると、事前に聞いていた届け先に荷物を持っていくべく駆けだした。

「落とすなよ、ボウズ!」

 初めて自分にかけられた言葉、後ろから聞こえた雷鳴のような声に、早瀬は更に足を速める。

 早瀬が装備部のオッサンに怒鳴られている頃、廃校舎の一室で装備の到着を待っていた飯綱百は物音ひとつたてずやってきた風紀委員に、ついさっき百が小太刀で両断し活動停止させたスパイラル・ラルヴァを引き渡した。
 風紀委員会第十班。
 通称「ヒトケタ」と呼ばれる一班から九班、体力自慢の実行部隊連中と、フタケタと呼ばれる知能戦スタッフの境目にある班。
 十班は風紀委員会の情報収集と分析を受け持つ諜報班、その構成はリーディングやトレースの異能者やデータ解析に高い能力を持つ非異能者まで様々。
 そして百の目の前に居るのは十班の中で証拠保全と情報源確保を目的とした諜報委員のひとり、紺色のツナギ作業服を着ている彼女は紛れも無く戦闘系の風紀委員。
 諜報十班委員の半分は理系の情報処理者、残りの半分は10の語呂合わせから貂《テン》と呼ばれる火事場のカッパライ屋に近い集団で、戦闘の最前線まで貴重なラルヴァや異能者犯罪の証拠物件を確保しにやってくる。
 貂《テン》が盗む対象物の内容は新鮮なラルヴァの死体や情報が詰まったメディアやファイル、また遺伝子情報を採取できる使用済みコンドームなど様々、そして人間《ナマモノ》の略取も行う。
 双葉学園に敵対する異能者やラルヴァ、あるいは学園内にある別系統組織に先駆けて重要品を確保し、先に取られた時には実力で強奪するドロボウ連中。
 その性質を活かし、先日はラルヴァによって捕らえられた双葉学園の生徒を見事に奪還している。
 捕捉されることなく接近、侵入する能力と逃げ足の速さで諜報十班の執行委員達、貂《テン》の右に出る者はそうそう居ない。
 貂《テン》はイタチ科の中でも最も身体能力の優れた種、日本に棲息する他の多くの土着生物を上回る素早さと餌を選ばぬ雑食性で、狙った獲物を盗み取り、食い尽くす。

 現在、百の前で両断されたスパイラル・ラルヴァに保存用の簡易プラスティネーション液を噴霧している女の子は双葉学園の二年生、風紀委員会第十班班員、白鳥結栄《しらとり ゆえ》。
 背は百七十センチを少し超えるほど高く手足は女のコにしては太い、控えめな胸と黒いショートヘアが似合う中性的な顔は風紀委員会の諜報実行班よりも陸上部にでも居そうな姿。
 体の四肢があらゆる工具に変化するという身体強化異能を持つ彼女が幼い頃から研鑽を重ねた能力は「函《はこ》破り」
 通販の手提げ金庫から軍事基地内部の隠匿品庫まで、異能科学品を含めたあらゆるセキュリティシステムを破ることを生きがいとしている少女。

「人の作ったものが人に壊せないわけはない」という自身の理論を実証し続けている白鳥結栄《しらとり ゆえ》に開けられない函《はこ》は無く、恵まれた体力と持久力を持つ彼女に脱せない檻も無いと言われている。
 この長身で四肢強健な少女は、力の有り余った奴の多い風紀委員会で時々開かれる総合格闘技大会で常に上位を占める少林寺拳法の有段者でもある。
 彼女の体に刻まれた術は異能工具の使いこなしや奇跡的な開錠を可能とする指先だけではない、緻密で堅牢な函《セキリュティ》を破るのに最も効果的なスキルが"力任せの破壊"だった例はとても多く、彼女はそのため幼少の頃より少林寺拳法の正拳と蹴を黙々と磨いている。
 自らを「鍵屋の娘」と称する白鳥結栄は、ある世界的セキュリティ・コンサルタント会社の令嬢。
 彼女は小学校高学年くらいの頃から学校にも行かず広大な自室に集めたあらゆる鍵や防犯システムの破壊に耽り、どこかに出かけては開錠と不法侵入を繰り返す日々を過ごしていた。
 国内外のあらゆる函を荒らし尽くした白鳥結栄はある日、日本国政府が作り、とても厳重な鍵で閉ざされていると聞いた函《ハコ》、双葉学園にやってきた。
 鉄壁を誇る双葉島のセキリュティを破り、学園の生徒課までアポ無しで不法侵入してきた彼女は機密保持のためそのまま身柄拘束され、学園内の更正施設に収容された。
 白鳥結栄はその日の内に監房を脱し、今度は一般生徒の立ち入りが禁じられた醒徒会棟にやってきた、再び檻に連行され、異能を封印され厳重な監視下に置かれながらも彼女は脱走する。
 ブチこまれ、獄を抜け、函をこじ開けて会いに来る、それを何度か繰り返した函破りの少女はある日、双葉学園で最も堅い函のひとつである風紀委員棟にやってきた。
 白鳥結栄はその日から双葉学園の生徒、そして風紀委員会の委員となる。
 風紀委員長の山口・デリンジャー・慧海が担当した入会審査は、不法侵入常習犯の白鳥結栄、彼女の手を見ただけで決まった。
 少林寺拳法の正拳を撃ち続けて硬くなった手の甲と、いかに電子機器が進化しようと、開錠作業には必須の生まれたての赤子のような掌。
 慧海は彼女自身の多面性を顕すような手を見た時、学園と風紀委員会に利益をもたらす人材を選別する風紀委員長としての判断より先に直感した。

「この少女が持っているいくつもの仮面《ペルソナ》を全てあたしのモノにしたい」

 まぁ見た目もアイマスの菊地真みたいでカワイかったし。
 現在は双葉学園の二年生、そして風紀委員会第十班"貂《テン》"の一員として、その立場を追われる側から追う側に変えながらも、ひたむきに函を破り続ける白鳥結栄。
 あらゆる鍵を壊し、いかなる獄をも破る函開けの天才を函に仕舞ったのは幾重にもかけられた鍵ではなく、函の中身が宿す抗いがたき魅力。
 風紀委員面接で慧海が抱いた直感、白鳥結栄もまたそれと同じ気持ちだった。
 無口で感情を表に出さず不法侵入の取調べでもロクに喋りもしなかった白鳥結栄が、悪鬼とも射殺狂とも言われる山口・デリンジャー・慧海の審問を受けたときに発した言葉はただひとつ。

「…可愛い…」

どうしても、どうしようもなくこの娘が欲しくなった慧海が風紀委員会への入会を半ば強制的に、そして情熱的に押し付けた時、白鳥結栄はただ黙って頷いた。
 後に十班の貂《テン》として望むモノを必ず手に入れる風紀委員と呼ばれることとなる白鳥結栄は、手始めにとんでもないものを盗んでいったらしい。

 諜報十班の実行委員、"貂《テン》"の白鳥結栄は飯綱百に背を向けながらしゃがみこみ、黙々とスパイラル・ラルヴァの保管作業をしている。
 機動七班の百ともよく共同訓練をし、何より同じクラスで一緒に学生生活を送ってる友達である白鳥結栄が、不意に口を開き一言だけ呟いた。

「六班がちょっとキツい」

 クラスでも口数少なく他人に関心を抱かない白鳥結栄が他の風紀委員《クラスメイト》について話すことは珍しい、百の顔を覆う忍び頭巾から露出した眠そうな半眼が少しだけ動く。
 通信の傍聴や現場から離れた対策本部の割り振りではわからない、実際に戦闘してる人間の顔を直に見た人間からもたらされる生の情報。
 班は違えど同じ風紀委員として死地を共有したり一緒に遊びに行ったりした仲間。
 異能で心の中や体調を透き通してもわからないことがわかる。
 友達の額に流れる汗がどういう汗かぐらいのことはわかる。

 百や白鳥結栄、そして風紀委員長の山口・デリンジャー・慧海が所属しているのはO組。
 双葉学園の中でも風紀委員を始めとする対ラルヴァ、対異能者出動要員のために特設された、教室もカリキュラムも他クラスと隔絶されたクラス。
 設立当初の目的や理念、宣伝文句はそうだったが、それだけで各学年ひとクラス分の人数を充足させるのは難しく出動にも対外活動にも縁遠い普通の生徒もけっこう居る。
 戦闘組織ではなく学び舎である双葉学園で、学生の本分とは言いがたいラルヴァや異能者相手の治安出動《ドンパチ》にかまけているO組の風紀委員達は一般生徒に頭が上がらない。
 逆にOクラス以外のクラスに所属する風紀委員も大勢居るが、どうやら同じ風紀委員でも、そういう"普通クラス"に所属しているメンバーのほうが学園内での扱いがいいらしい。
 Oクラスに所属する風紀委員が風紀委員会に入った経緯は様々で、泥酔していつのまにかサインさせられていた奴や借金でクビが回らず命を売りに来た奴、また異能犯罪組織から非公式な契約金で引き抜かれた人間も居る。
 中にはしばしば犯罪者を匿っていた昔の外人部隊みたいにラルヴァをブッ殺したその足で入会窓口に駆け込んできた異能者も居たが、平穏な暮らしを営んでいたラルヴァとのケンカの末、過剰防衛で殺害した彼はそのまま双葉島の神奈川側対岸、久里浜少年院に設置されている異能者専用監房に直送され、現在は隣接する横須賀刑務所の終身独房に引っ越したらしい。

 廃校舎の最上階の窓からは、風紀委員棟と直結し他クラスから分離独立した双葉学園O組区画が見える。
 その中で普通のクラスと一部を共有している敷地は、校舎棟に囲まれた異能者専用運動場。
 侵入ラルヴァに対する主戦場として重武装の三班が派手な砲撃、狙撃戦をしている各運動部のグラウンドが表庭なら、裏庭に相当する土敷きの更地。
 異能が人間の意思によって肉体から発生する物である限り、あらゆる状況下での安定した発動のため異能者には体力作りが欠かせない。
 戦闘傾向の異能を持ちながら基礎体力に欠けた奴の異能を慧海やその仲間の風紀委員達は「ションベン異能」と呼んでいる。
 不摂生者の小便のように切れが悪くダラダラと流れ出るだけの異能、少なくとも慧海が知っている限り、いかに強力な異能だろうとションベンが脅威になったことなど一度も無い。
 小便を引っかけて来る奴は蹴りの一発も入れれば、小便漏らしは攻撃の相手ではなく自分のズボンを濡らすだけ。
 現在、異能グラウンドの警戒は風紀委員会の第六班が担当している。
 六班は見習い期間が明けた新人風紀委員の中で戦闘技能委員の候補者が最初に配属され、実戦の中で各班への適性を験す教導班。
 治安出動や通常勤務の謝礼として学園内食券が支給される位で、一応の建前では現金報酬の類が出ることもない風紀委員会の実戦《ステゴロ》組に好んで入会を希望する生徒が集まる六班は通称「ろくでなし班」
 治安出動や校則執行、諜報等、風紀委員会の実行委員になる過程は教導六班に所属するだけでないが、主に風紀委員長の慧海や六班の班長が選別した"見所のある奴"が六班に所属し、実戦の中で適性を磨く。
 風紀委員会の鬼っ子を養成する六班への配属基準は本人の希望と審査者によって選別される戦闘適性《キル・インスティクト》。
 どうやら命の値段が安そうな人間が選ばれるらしい。
「なまじ名前が書けたから 紙キレ一枚で地獄行き」というエリア88の台詞がよく似合うロクデナシの候補生たちが、異能実習訓練場でスパイラル・ラルヴァとの実戦《ほんばん》を行っていた。

 異能者がラルヴァ対策における戦闘や研究をする現場職の候補なら、双葉学園の非異能者は将来的に異能者を指示使役し管理する人材となりえる生徒。
 そして何より異能やラルヴァとは係わらぬ官民の世界で実績を上げ、国家内にある異能関連セクションの遥か上位から双葉区と双葉学園の存続を左右する子供たち。
 異能者より若干優遇されている非異能生徒が心身を養うスポーツグラウンドが表で、異能者が本土の一般人から秘匿されながら"ラルヴァ殺し"の術を得る土敷き広場がちょっと狭く日当たり悪い裏手なのはしょうがない。
 異能によって拓かれる進路はラルヴァや異能者との戦いや接触、そして異能の研究、それは人間同士のそれや既存技術に比していささかニッチな世界。
 人類を滅ぼす力を持つ…という形容はラルヴァや異能者の世界ではチートの商標だが、兵器は既に前世紀の冷戦時代にそれを通過し、今や陳腐な宣伝文句。
 異能のみならず数多の技術技能によって動いている社会の中で、異能という習得の過程がスッポリ抜け落ちている特異なスキルには自らの努力や才能研鑽で得た能力との間に根本的な差異が存在し、世の中での立ち位置もそれに応じたものとなる。
 異能のグラウンドは壁に囲まれていた。
 グラウンド周辺の校舎によって外部の人間から隠され、不意の攻撃から守られ、周りを囲う建物と雨天時に張る簡易テント状の屋根によって雨や雪、海風や日差しからさえガードされた異能の子供達。
 異能訓練グラウンドを囲う建物の隙間からは非異能者のスポーツグラウンドが見える。
 何も与えられず何にも守られることなく、風雨に晒されながら自らの心身を鍛える非異能者の前には無限の海が広がっていた。

 双葉学園が異能者を集約させた目的のひとつであるラルヴァおよび反社会的異能者との戦闘、その技量を日々磨く訓練グラウンドで、文字通りそこをホームグラウンドとする風紀委員会の教導班、第六班が戦闘を行っていた。
 双葉学園に編入後、自発的に風紀委員会に入ったが、事実上慧海のスカウトに近い扱いだった飯綱百も無印の見習いからサポート委員になる前、短いながら六班に居たことがある。
 教導六班に配属されて三日目に模擬戦で忍びの体術である骨法を使って教導六班の班長を当身でダウンさせた百は、班長自身の推薦で風紀委員会の精鋭、機動七班のサポートへと配属された。
 中学の頃は宿禰《すくね》という自称の四股名を持つ学生力士でもあった班長とは、班を違えた今でも模擬戦を時々やるが、百はあれ以来なかなか勝たせて貰えない。
 一応、彼にも金平坂太《かねひら さかた》という本名はあるが、彼は四股名の宿禰《すくね》で呼ばれることを好み、今ではO組の出席も四股名で取る。
 百九十センチを越える身長に百二十キロの体重、高等部三年O組の教導六班班長、宿禰はベンチプレスで百八十キロのバーベルを軽々と持ち上げ、百m走は十三秒を切る。
 体重の利で押すと思いきや柔軟で身軽な動きで慧海や百をヒョイと投げ飛ばし、銃弾顔負けの"鉄砲"を打つ教導班長にして接近戦熟練者の力士、宿禰の異能は「ちゃんこ番」
 心身鍛錬の基礎である食事を司る異能者、その内容はちゃんこ鍋や和食に留まらず、煮込みから肉料理、スイーツまでなんでも来いの料理趣味人。
 栄養を重視しつつ「同じ釜の飯を皆で楽しく食べる」という戦闘集団にとって非常に重要な部分を担う美味なる料理の達人で、異能はほんのちょっとの仕上げ。
 その能力の正体は満腹、空腹中枢の操作。
 激しく体を使ったり心労を重ねたりして食欲を失った人間の胃袋に眠る、生存本能と気力を呼び覚ます。
 人間が生きてる限り必ずブチ当たる悩みの多くは美味い物を腹一杯食って仲間と楽しい時間を過ごせば、解決はせずとも先の見通しができるようになる。
 相撲部屋のちゃんこ番や軍隊食堂のシェフ、スポーツ選手宿舎の寮母が異能に依らず当たり前に持っているスキルでもある。
 双葉学園の風紀委員は軍隊のような共同生活をしているわけではなく各々が自分の寮で暮らしていて、共同で食卓を囲むという制度は無い。
 それでも日が暮れる頃には風紀委員棟の食堂「宿禰屋」に学食も賄いもある風紀委員がどこからともなく集まり、広い和風の座敷で班長のちゃんこを楽しんでいる。
 中学時代に幾つもの相撲部屋から勧誘を受け、双葉学園では人を和ませる料理の腕を発揮し、異能者やラルヴァの制圧と強健な風紀委員の育成で数多くの実績を持ちながら、教導六班班長、宿禰の将来の夢が漫画家だってんだから世の中わからない。
 相撲も料理も異能戦闘も一生漫画を描いて暮らすための資金稼ぎ、漫画で稼ごうという考えは毛頭ないらしい。
 肝心の漫画の腕はといえば、絵もストーリーもそつなくそれなりに筆も早いが、持込みのたびに「何かが足りない」「華がない」と評されている。

 廃校舎の最上階に登った百は、鞘も柄も黒く染めた伊賀拵えの小太刀を壁に立てかけ、それ自体が武器になる分厚い鉄鍔を足場替わりにして屋上に出た。
 遠くに風紀委員会第六班の班員、百と同じ二年O組の椿三十《つばき みそ》が刃渡り三尺八寸の日本刀を振っている姿が見える。
 教導班の訓練出動服であるジャージ姿に不似合いな鞘も柄巻きも鮮やかな朱色の長剣を得物とする、腰に届かんばかりの黒髪が綺麗な娘。
 ほっそりとした体で背はそれほど高くなく、胸もおっぱいの歌では限りなく正解に近いとされるBカップ。
 顔はクールビューティーという形容が似合う端正な容貌だが、それに似合わずよく笑いよく喋り、口から出る言葉は不遜で不真面なものばかり。
 椿三十は数ヶ月前のある雨の日、あちこち破れ黒染めが褪せた男物の紬《つむぎ》着物に濡れそぼったボロ布のマントを羽織り、長い朱色の一刀を差した姿で、奇跡的に警察の類に捕まることなく双葉学園にやってきた。
 柄を含めれば五尺、彼女の身長である百五十五センチに届かんばかりの野太刀は、椿三十が平凡な剣道少女だった中学生の時に彼女を襲ったラルヴァが持っていた武器らしい。
 薩摩示顕流《さつまじげんりゅう》剣士の娘として生まれ、剣術を学業や遊びとの両立で心身を健やかに育成する最良のフィットネスと考える父親に育てられた椿三十。
 中学生の彼女を襲った災難は、この世の生ける者全てを斬るという観念に思考を侵され、自らを殺さんと刃を向けてきた者《ラルヴァ》によってもたらされた。
 ラルヴァというヒトであってヒトでない者を知った衝撃も、人斬りというもうひとつの剣の世界に生まれて初めて触れた感覚には遠く及ばなかった。
 咄嗟にラルヴァから刀を奪い、長く重い太刀の意思に従うかのようにラルヴァを斬り殺し、そのラルヴァの悪い夢を終わらせてやった彼女は三尺八寸の大剣に導かれるように家を捨て学校や故郷を捨て、刀一本を担いで旅に出た。
 無宿渡世の末に双葉学園に来る前には田舎の寒村を食い物にしていたラルヴァ組織に剣技と口先三寸で入りこみ、雇われ異能者をやっていたという。
 その村で勢力を競っていたラルヴァ組織と異能者集団、その片方に与しながら対立を裏で後押しし双方を自滅させた椿三十はラルヴァと異能者の血と暴力に嫌気が差し、戦闘のみならずラルヴァや異能者との平和共存に関しても積極的な活動を行っていると聞いた双葉学園の門を敲いたが、ラルヴァに深く係わったことで入学を許された学園の平穏に一ヶ月と耐えられず、学生生活をしている間もずっと手放さなかった朱鞘朱柄の長剣一本を担いで風紀委員会の入会受付窓口にやってきた。
 慧海による入会審査を問題なく通過して配属された風紀委員会教導六班。 
 飯綱百を始めとする猛者揃いの班で椿三十は自分が井の中の蛙だったことを知る。
 それは落胆ではなく、歓喜だった。
 彼女と同時に教導六班に入った新人風紀委員、全距離戦闘者《オールレンジアタッカー》候補の飯綱百は三日で六班を卒業したが、椿三十は肉弾戦では風紀委員会トップクラスと言われる六班班長に接近戦特化型の剣術戦闘者になる素養を見込まれ、教導班に居続けている。
「名前通りのオミソにはなりたくねぇわね」が口癖の少女剣士も班長以下の手強い面々の中では、うっかりしてるとすぐに取り残される。
 実際は双葉学園に入学する前から悪名を響かせ、教導六班に入ってからも実績を挙げ続ける彼女を巡って武術エリートの二班とゲリラ戦の精鋭である機動七班の間で椿三十の争奪戦が繰り広げられたことを彼女は知らない。
 彼女を教導六班に留め置いている班長、宿禰が言うには、真面目な人間をからかうのが好きで不真面目な人間をおちょくってばかりいるヒネクレ者の椿三十には、接近戦闘者のみならず教導者としての資質があるという。
 学園入学以前には自らを異能者と称して諸国を流れ、用心棒代を稼いでいた椿三十には現在、観測された異能は存在しない。
 彼女の得物である三尺八寸の野太刀は、常に根源力を発散し続ける非常に稀有な根源力発生体であることが入学後の調査でわかった。
 洗鉱前のウラニウムのように放射発散する根源力は双葉学園にある他の異能関連物に比して多量ではないが、放射し続ける根源力は尽き枯れることもなく、発生の数値は極めて安定している。
 決して折れず曲がらず刃毀れもしない太刀が鉄の亜種なのか何らかのテクノロジーによって作られた合金なのか、それともラルヴァの一種なのかはわかっていない。
 根源発する大剣は、それをただ「三尺八寸《さんぱち》」と呼んでいる椿三十にしか扱えない。
 それは異能ではなく、重く長い刀を扱わせるために神様が土を捏ね作ったような椿三十の身体能力。
 百十センチを超える刃渡りと分厚い刀身、鋼鉄より大きい比重により通常の刀の二倍を超える重さの太刀。
 竹刀なら何本分になるかもわからぬ刀、剣道や居合いでは都大会に出られる腕前の剣士が手にしてもその重い刀は打撃すら出来ず、豪腕が自慢の身体強化者が握れば長い刀は脇の甘い大振りとなり、素手の武道者にあっさり内懐に入られる。
 そして中学までやっていた剣道の試合では良くて市大会準決勝程度の平凡な剣士だった椿三十が朱鞘の刀を手にした時、三尺八寸の大剣は大斧となり剃刀となり鞭となり、彼女に従う獣の如き長刀はラルヴァや異能者との戦いの舞台を自在に舞う。
 根源力発生体という発見されて間もない物体ゆえ、中上級ラルヴァに対しての攻撃力が未知数の大太刀を扱う事を可能としたのは、どっかからタダで貰える異能ではく、椿三十の稀有な筋肉骨格構造と、薩摩示顕流剣士の娘として幼子の時から木刀を握り一日も欠かすことなく繰り返した骨肉砕けんばかりの素振り。
「たっぷり遊んでちょっとは勉強して、一日の始まりと終わりに剣術トレーニング、それが美容と健康の秘訣」が口癖だった父に隠れて行っていた、成長期の体にはオーヴァーワークな素振りと自作の巻藁相手の乱取りは、常に何かに渇き何かを求めていたが、それが何なのかわからなかった椿三十が己の衝動に従った物。
 彼女が出会うべくして出会った三尺八寸の太刀によってもたらされる世の全てを割らんばかりの斬撃は、椿三十が自ら得た力だった。
 寝る時にさえ抱いて眠る三尺八寸の刀が手元に無い状態でラルヴァや異能者との戦闘を行ったことも何度かあるが、椿三十はその場にあった住宅鉄骨やバス停の標識、そして口先と奸知で危機を切り抜けている。
 既存の才能や能力とは色々な法則が異なる異能に関してすぐに下卑た喩え話をする風紀委員長の山口・デリンジャー・慧海はよく椿三十をからかった。

「このカタナは異能の"外付け"だな、ほら、オンボードのLANとかビデオカードがアホだったりブッ壊れた時に買い足す奴だよ」

 椿三十はそれを聞いて「ハッ!」と笑い、「外付けは玄人志向だ、そう思わないか? 慧海ちゃんよ」と切り返す。
 PCにやたらと役にも立たぬパーツをつけたがる慧海は「玄人志向は安っぺーんだよ!」と負け惜しみを言った。
 何物にも囚われず、御されることのない異能無き剣士、椿三十は言葉の斬り合いに関しては風紀委員長より一枚上手らしい。
 椿三十はよく模擬戦の時間、暇になると慧海を誘って音速で自分に向かって飛んでくる弾丸を刀で叩き落とす遊びをしている。
 小太刀の居合い抜刀と動態視力にかけては自信のある飯綱百が調子に乗って真似をしたが、成功率は今のところ二回に一回。
 百が言うには超音速の弾丸がスイカくらいの大きさならば連射で食らっても、中に詰まった"脳ミソ"ごと両断できるらしい。
 そんな弾はイラクの多薬室大砲《スーパー・ガン》くらいしかないと慧海は思ったが、百が出来ると言ったことなら必ず出来るんだろう。

 飯綱百は廃墟となった旧校舎の屋上から、さほど離れていない異能実習グラウンドで三尺八寸の太刀を振る椿三十を見下ろした。

「なるほど、これは大変そうですね~」

 他の班員や班長が異能グラウンドとその周辺に展開する中、大剣を持った椿三十は回転する大型ラルヴァ相手に堂々と斬り結んでいる。
 実戦に放り込んで班員の適性を洗い出す教導班の班員や班長にとって、これもまた生きた教育。
 単独でラルヴァを制圧したという実績を作れば、以後の彼女自身の学園内における自由度が上がる。

「でも、実戦と訓練を何から何までおんなじだと思ってると、危ないですよ~」

 全盛期のマイク・タイソン並の短時間労働で三体のラルヴァを仕留めた百と比して、大太刀一本で今まで生き延びてきた椿三十の戦闘技量が特別劣っているわけではない。
 ただ、戦闘の場所をある程度自由に設定できた上に、他委員のサポートや高度精神感応能力者春奈・クラウディア・クラウディウスのオペレートを受けながら制圧速度優先の攻撃をしてきた百と違って、椿三十が立ち会っている訓練場は避難学生保護のため支援攻撃が受けられず、すぐ近くでスパイラル・ラルヴァが起こした衝突で建物の一部を壊し、コンクリとガラスの破片が散乱している。
 他の委員は、校舎地下の避難室《シェルター》に退避させたと思いきや、サークル部室棟に大量に残っていた生徒達のケツを蹴っ飛ばしながら避難させていた。
 各サークルの部室が連なる長屋状態の部室棟、一人暮らしのボロ寮に帰るくらいなら、校則に反しながらも殆どそこに暮らしているような部員は多い。
 そういう連中の大半はラルヴァ襲来だけでなく台風やテロ等の有事が起きると寮や避難所ではなくサークル部室に篭り、半ば現場の野次馬、半ば我が家での実況観戦気分でTVやPCにかじりついている。
 二〇〇八年に調布で行われた不発弾解体の時にも、避難指示が出ているにも係わらず現場近くの自宅から実況スレにレスしたり、人っ子一人居なくなった街の風景を自室から撮ってmixiに貼ったりした奴はゴマンと居た。
 多くはプレハブやコンテナハウスで強力な攻撃を受ければ一気に炎上しそうなサークル棟、今回ばかりは人的被害防止のためサークル管理者から徴発したマスターキーを使用し、事前に鍵交換された部屋は蹴り破り、土足で中まで押し入った風紀委員によって、ひきこもりの野次馬を部室から追い出させて貰った。
 その中で野鳥研究会は住み心地よさそうに整然と片付けられた部室はとっくに無人で、早いうちに避難を終了した様子、部長の賢明さと危機管理意識の高さが窺えるものだったとか。
 一般人が居る中で危険種ラルヴァと会敵した時は、まず生徒や住民の安全確保に人員を割かなくてはならない。
 他の班員が総出でケツの重いサークル棟住人を燻し出している間、単独戦闘に慣れた椿三十がスパイラル・ラルヴァの迎撃制圧を任された。
 飛び道具を使ったラルヴァと剣士との交戦、足場の状態は悪い、まだ椿三十の得物である三尺八寸の大剣だから渡り合えているが、小太刀使いで機動力勝負の百があの場所に居たら、危なかったかもしれない。
 平均台の上で戦っているような状態、相手は空高くというわけでもないが、一応飛んでいる。
 椿三十の額に、うっすらと汗が滲んでいた。

 百は忍び服の頭巾の中、耳に装着したハンズフリーの骨伝導カナル無線機を音声起動させ、顔なじみの六班班長、宿禰を呼び出した。

「三十《みそ》ちゃん、ちょっとわたしがちょっかい出したほうがいいみたいですね~」

 異能訓練グラウンドを担当する六班の班長、宿禰はその巨体でサークル棟から逃げる生徒達の盾になりながらも、教導班の班長として椿三十の単独戦闘には常に気を配っていた。

「そうっすね、ちょうど飯綱くんを呼ぼうとしてたとこっす、そろそろ危ないと思うんで」

 戦闘が一段落し、高所から全体を俯瞰している百は彼女の苦境に気づいたが、自分の仕事をしながら片手間に見てても物事を広く大きい視野で見ることの出来る奴は居る。
 百は無線機で対策本部を呼び出した、回線を繋いだ後、自身のオペレーターである春奈・クラウディア・クラウディウスに言葉ではなく数字とアルファベットの羅列を伝える。
 機動七班のコールサインと百のパーソナルサイン、電子生徒手帳のGPSに表示された現在地座標、標的座標、攻撃を表すアルファベットの符丁に至急許可を求める記号をつけ加える。
 すぐに攻撃許可《クリア・ファイア》の返答が帰ってきた、現場の人間にとって指揮者の決断の早さは優れた立案指示を上回る福音となる。
 百は機動迎撃者《インターセプター》として本部の指揮に依らず自立的な標的選定と攻撃の許可は得ていたが、他班のナワバリにブチ込むなら一報入れておいたほうがいい。
 ついさっき受領したばかりの、まだ実戦では見せたことのない新装備による百の攻撃、あんまりビックリさせてもいけないし。
 合わせて数秒で攻撃許可要請のやりとりを終えた百は骨伝導カナル無線機を切り、背中から襷掛けにしていたケースを下ろした。

「さっそく遠距離攻撃《アウトレンジ》ですね、うまくいくかな~」

 装備部の別室から早瀬速人によって届けられたソフトケース。
 ジッパーを開けた百は中身を取り出し、先ほど内容確認した後にしまいこんだ軽金属と樹脂の部品を再びコンクリの床に広げ、結合作業を始めた。
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