【danger zone6~黒白黒~hei bai hei~終編2】


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 百が手早く、そして慎重に組み立てたのはバーネット・クロスボウ。
 初速千五百フィートを超える矢《ボルト》を打ち出し、一射で羆《ヒグマ》を殺すことができる狩猟用弓。
 弓の両端にある滑車によって強力かつ効率的に矢を撃ち出すコンパウンド構造のクロスボウ。
 クロスボウが合法所持できる日本でも入手不可能なバーネット社の上位機種で、すっごく高価い。
 異能者やラルヴァに鋼を撃ち込むことで根源を停止させ、異能を凍結させる根源堰止能力者の飯綱百。
 風紀委員長であり、飯綱百の全距離戦闘者《オールレンジアタッカー》訓練の責任者である慧海は、彼女を全距離戦闘者にすべく遠距離の攻撃手段を検討し、当初は百に鋼芯弾丸の銃を撃たせようと思った。
 長身で手も大きく、慧海より発射反動に強い百のために取り寄せたグロックのマシンピストルを百自身は喜んで撃ってたが、鉛と鉄の弾頭は鋼を撃ち込んで根源を停止し、異能を止める能力の発動効率がよくなかった。
 そこで生徒課長の都治倉喜久子が自分のオモチャ箱に入ってたクロスボウで慧海が自宅のガレージで作った鉄製のシャフトと鏃《やじり》の矢を撃たせたところ、良好な異能発動結果が出た。
 遠くの敵に対して弓で鋼矢を撃って根源を停める戦法については、日本国や双葉学園が異能の研究をする四百年ほど前から、百の故郷である藜《あかざ》の忍び里では実戦投入されていて、限られた状況では有効とされている。
 敵地に潜入する忍は刀すら持たず、クナイを二本、手裏剣を三枚、食料は飢渇丸を一日三粒といった感じに、自身を徹底的に軽量化する、弓を携える余地など無い。
 補給がすぐに受けられて、かつ重装備を携行出来る味方陣地内での戦闘においてのみ、弓矢による根源堰止は有効であるとされていた。
 百は藜の忍び里で古式十字弓と和弓、近代クロスボウの操法については一通りやっていて、今回も少し磨きをかければよかっただけ。
 遠距離狙撃は慧海が百に速成で叩き込んだが、神奈川の米陸軍狩猟愛好会《ロッド&ガンクラブ》を訪問し、プロ射手の元で一緒に学んだクロスボウ特有の操法は慧海が百に教えられることのほうが多く、百が忍術修行の一環として習得していた現地調達の籐椅子や楓の枝で作る手製弓の技術には米軍のクロスボウ・ハンターも目を瞠っていた。
 慧海と百はクロスボウの実戦投入を決定し、生徒課長の都治倉喜久子によって予備を含めて五挺のバーネット・クロスボウが発注された。
 バーネット社の熟練職人が製作したクロスボウの各パーツはガンスミスである慧海の母によって組立《アセンブル》され、各部の摺り合わせに加えて命中率の向上と弓の強化、そして現場での分解結合を速やかに行うための構造改良が施される。
 北米カンザス州で特製されたクロスボウは、慧海の実家デリンジャー・ファミリーが私的な外出のため所有している自家用機ミグ31ファイアフォックス戦闘機で双葉学園まで届けられた。
 操縦してきたのは慧海の父親クリント・デリンジャー・キャラハンだったが、ミグ31は双葉島上空で届け物を投下した後で直ぐに反転し、マッハ3の速度で飛び去っていった。
 カンザスからパパが来ると聞き、昼から空を見ていた慧海と父親の三ヶ月ぶりの対面は一.五秒で終わる。
 自分の初恋の人が来ると知り、朝から屋上で望遠鏡を持って待ち構えていた生徒課長の都治倉喜久子は四秒ほど顔を見ることが出来た。
 慧海の母はその後、五挺で合計八十万ドルの請求書をキッチリ送ってきたが、喜久子が見る限り、百の体格と射撃の癖に合わせ、特に咄嗟に棍棒替わりに使っても精度が落ちない耐久性を重視して成型したグラスファイバー複合樹脂のライフルストックだけでもそれくらいの金がかかっている。
 五挺のうちの一挺は携帯性の高いピストルグリップタイプで簡易分解すればアルト縦笛《リコーダー》くらいのケースや制服ブレザーの内ポケットに納まる。
 通常クロスボウに使われるカーボンシャフトとは異なる、百の根源堰止異能に特化した安来鋼の矢《ボルト》は、大田区の鉄鋼圧延材工場に二万本を発注した。

 飯綱百は組み立て終わり弦《ストリング》を張ったクロスボウ上部のレイルにキヤノンのデジタル・ライフルスコープを取り付けると、ソフトケースの中に挟んであったメモ紙を見ながら、マウントの締め付け強度を慎重に調整する。
 狙撃対象をデジタル画像で投影する照準器《スコープ》、精密狙撃の精度ではまだ光学スコープに及ばないが衝撃や温度差に強くラフな扱いに耐え、色々なオマケ装備もついている。
 照準線の上下左右については事前に百自身の試射で調整《ゼロイン》した状態がデフォルト数値としてメモリーに入っていて、ある程度の精度は確保されている。
 正式配備を数日後に予定していた飯綱百の遠距離攻撃専用装備《アウトレンジウェポン》、バーネット・クロスボウは百の全距離攻撃者としての出動を鑑み、戦闘の渦中にある工業団地内にある装備部別室で緊急の最終調整が行われた。
 戸隠忍者の百は身軽さが勝負の機動迎撃にクロスボウは過剰装備とも思ったが、慧海からの押し付けプレゼントは遠距離攻撃の手段が必要になるのを見越したように届けられた。
 戦況の読みについてはまだまだいいんちょーには敵わないなと思いながら、百は訓練や調整でさんざん撃ったクロスボウを早速、使用することにする。
 初めての実戦投入には今まで重ねた訓練には無い不確定要素も多く、何より風紀委員会の友達である椿三十と学園生徒達の安全がかかった重責の武器使用。
 それなのに、これほどまでに気分が高揚するのはなぜだろう。
 一連の組み立て作業を三分弱で終えた百、急いでる時には二分少々まで短縮できる、オープンサイトでスコープ装着を省略するなら五十秒くらい。
 百は一度、廃校舎の屋上に立ったまま無造作にクロスボウのデジタル・スコープを覗いた。
 不安定な立射姿勢からのスコープ画像で椿三十とスパイラル・ラルヴァの姿がデジタル画像の端から端に揺れる。
 スコープに付属した赤外線距離測定器《レンジファインダー》とGPSデータリンクによって測られた距離と風向風力、気温湿度他のデータがスコープ画像の上部に表示された。
 クロスボウを一旦足元に置いた百はそれらの情報を記録する狙撃手必携のログブックをソフトケースの外ポケットから取り出しながら、狙撃ポイントを慎重に決定する作業を開始した。
 廃墟の屋上、コンクリートが低い庇《ひさし》状になっている場所を見つけた百は、そこに潜り込む。
 護衛を兼ねた観的手無しの単独狙撃、射撃線の確保より突然の外敵出現に対処できることを重要視して位置を選別した、そして何より友達を救うため一刻も早く撃つこと。
 双葉学園の校舎に最もよく使われている素地のコンクリートに近い色彩の忍び服を着た百は地面にペタリと寝る伏せ撃ちの姿勢を取り、クロスボウのライフルストック根元にあるスイッチを入れた。
 ストック内部のウォームギアと繋がったフックによって、人力では到底引けない二七〇ポンドの弓に張られた滑車弦が電動で引かれる。
 通常のクロスボウに装備される電動の弓引き機は結構な音がするが、HDDの流体軸受けを流用した静音加工で携帯電話のバイブレーション程度の音がするだけ。
 パワーより連射製を重視したい時には、スチールの弓ではなく炭酸ガスの発射装置に取替えることも出来る。
 百はソフトケースに十本ほど入っていた高張力鋼の鉄矢を一本取り出してタングステンの鏃をねじ込んだ後、完全に研磨された矢溝《レイル》に滑り落とした。
 狩猟用クロスボウに通常使われるカーボン矢より直進性は若干落ちるが、強度を確保しつつどんどん薄く作れるようになった近年の鉄鋼技術のおかげで、かなり良好な精度を出せる。
 うつ伏せの姿勢ではどうしても邪魔になる、慧海から見ればとても贅沢なDカップの胸に苦心しながら百は草鞋履きの両足を開き、両肘をコンクリートの上にレストさせ、ストックに頬を当てて伏せ撃ちの姿勢を定めた。
 濃灰色の忍び服は山中で狙撃者の姿を隠す偽装服ギリースーツのようにコンクリートに溶け込んだ。
 十メートルも離れて見るととても人が居るように見えないのは忍び服の濃灰色ではなく、微動だにしない百の狙撃姿勢。
 安全な射場で撃つクロスボウ競技射撃とは若干異なる技術、一般の狙撃兵がこの体勢を習得するには二十週間の訓練が必要だと言われるが、百にとっては藜の忍び里で会得した隠れ術の応用。
 秦の時代、それまで心技体が求められる武術とされた長弓に替わり登場した弩と呼ばれる古式クロスボウは弓であって弓でない、個人の技量がさほど求められぬ殺傷武器と言われ、中世の教会では使用を禁じられたという記述さえ存在する。
 そして誰でも殺せる武器は、稀な使い手が扱うと恐るべき兵器になる。
 スタンダードでも射程距離は四百メートルを超え、七百メートルくらいまでなら殺傷可能なストッピングパワーを維持するバーネット・クロスボウには、百の技量に合わせた強化が施されていて、八百メートル先のボディショットを可能とし、到達距離は一キロを越える。
 射程距離に関しては大口径ライフルに一歩譲るが拳銃や自動小銃では到底かなわない。
 冒険小説の名作「高い砦」では、拳銃一丁でテロリスト集団と対峙することとなった主役達が、拳銃の射程外に居るゲリラと手製の十字弓《クロスボウ》で戦闘を繰り広げ、窮地を脱している。
 それから五十年ほどの時が経った二〇一九年、拳銃はほんの少しの進化を遂げ、素材化学と工作技術の影響を強く受けるクロスボウは大幅に性能向上した。
 百の根源堰止能力については、以前慧海と百がちょっとしたデート気分で横須賀の米海軍小銃射撃場に行き、鉄芯弾丸を七千メートル先まで到達させるブローニングM2重機関銃を遊び撃ちした時の測定で、二千八百メートルまで異能停止の性質が減衰しないことを確かめている。
 ただ、構造的にすべて鉄で作れない上に質量の制約がある弾頭は異能発動には向かないようで、人やラルヴァの根源を止めるに足る能力を発動させるには、現状ではクロスボウで特製の鋼矢を撃つのが最適だった。
 廃校の屋上、狙撃者となった百は、狙撃情況が記録、転送されるデジタルスコープを覗きながら、伏せの姿勢でゆっくりと吐いた息を止めた。
 分解されたクロスボウの収まったケースを肩から下ろしてから、随時発射可能となるまで五分強。
 あと少し短縮できるな、と思いながら視線の焦点をデジタルスコープ画像の十文字《レティクル》照準に合わせる。
 静姿勢射撃において最も障害となる鼓動に同調した体の微かな上下動、百は心臓と地面を挟む分厚い脂肪のクッションのおかげで照準のブレは少なかった。
 ソビエトやベトナム、そして旧日本軍、女性の狙撃兵が英雄的活躍をした例は数多くある。
 この胸が狙撃の役に立つこともあるなと思いながら、百は意識して一分間五十五回に制御した拍動が産み出す自らの生命の動きを指先に通わせ、他者の生命を断つ引金《トリガー》に指をかけた。

 異能実習グラウンドでスパイラル・ラルヴァに単独で立ち向かう椿三十、彼女の耳に挟んだ骨伝導カナル無線機が起動した。
 聞こえてきたのは機動七班に所属するクラスメイトの声。
 椿三十が知る限り最も手強く、そして信頼に足る異能者の声。
 椿三十が大好きな、飯綱百の声。
 とっても大好きなおっぱい忍者ちゃんの声。
 おっぱいの声!

 「三十ちゃん、ちょっと頭下げてください」

 狙撃体勢のまま無線通信を終えた百は、デジタルスコープのファインダーに微動しながら映る十文字《レティクル》の中心をスパイラル・ラルヴァの回転軸に合わせ、風向やラルヴァの移動状況を含めた微量補正をする一連の作業を一瞬で終わらせた後、トリガーに息を吐きかけるように指を染み込ませた。
 トリガーとリンクで繋がった弦留鉤《ストッパー》が弦を弾き、解き放つ。
 張り詰めた弦がヴァスとテノールの中間に近い撥弦音とソプラノの滑車回転音を発てながら矢を押し出した。
 軍用自動小銃くらいのドンっという反動、甲高いが消音拳銃より遥かに小さな音量。
 忍び頭巾で覆われた百の両目は眠そうな半眼のまま。
 クロスボウは発射され、射るというよる撃つという表現が相応しい衝撃と共に鋼の矢が飛んでいった。
 ナイロンの矢羽根と柔軟性の高い鋼鉄の矢柄で風の抵抗を柔軟にいなしながら、銃弾とは法則の異なる緩い放物線軌道を描く。
 瞬時に身を沈めた椿三十の頭上をバーネット・クロスボウの鋼矢が秒速五百メートルを超える速度で通過し、目標に深く突き立った。
 百の放ったあらゆる根源の河を堰き止める鋼が、根源力によって制御されたスパイラル・ラルヴァの回転を停止させる。
 この有機生物とも無機物ともつかないラルヴァは、機械が燃料や電力によって得る動力と制御を根源力の供給によって成していた。
 百の根源停止異能によって根源供給を停止させられ制御能力を失ったラルヴァが、体内に残留した根源力で駆動する動力のみの存在となって暴走を始めた。
 額に汗を滲ませたままずっと無表情だった椿三十は、船の櫂漕ぎに似た八艘構えで下げていた太刀の切っ先を持ち上げ、柄頭を頬の辺りに持ってきた。
 水平に伸ばした白刃、彼女の端整な顔一面に耳まで裂けたような笑みが広がる。
 三尺八寸の牙を持つ獣の顔。

 不意に彼女は双葉学園に入る前、ラルヴァ組織と異能者集団のふたつを敵に回すこととなった、ある田舎町での出来事を思い出した。
 人の心を荒ませる空っ風が吹く、北関東の田舎町にある小さな商店街。
 ごく短いメインストリートの向こう側から群れを成し、突進してくるのは異能の聖剣や銃で武装した七人の異能者とラルヴァ。
 こっちは全身に傷を負いながら独り、そして一振りの太刀。
 ほとんど反りの無い太刀、鞘を放り投げるように抜刀した椿三十は獣と化し、狂乱の衝動に憑かれた七人の間を駆けた。 
 彼女が商店街の端から端まで走りぬけた後、七人の異能者とラルヴァに生き残った者は誰一人居なかった。
 北関東の寒村にある、とても小さな駅前銀座で起きた地元のならず者達によるつまらぬ斬り合いは、一迅の風と共に通り過ぎた鋼の獣によってあっさりと幕切れとなった。
 椿三十の全身があのときのように脈打つ、彼女の体格には大きすぎる三尺の太刀に血が通い、熱を発しているような感覚に襲われる
 自分に流れ、自らを動かしめ、そして鋼に命を与えているのはわたしの血ではなく、この刀に流る血なのかもしれない。
 あの時も笑っていた、笑いながら斬った。
 放浪時代からずっと愛用している黒革の編み上げ安全靴で地を蹴った椿三十は烏《カラス》を思わせる甲高い笑い声を上げ、濡れ羽色の髪をなびかせながら、自分の何十倍の大きさと力を持つ物体にまっすぐ突っ込んでいった。
 制御能力無きままの暴走で過熱した巨大なラルヴァと、哄笑と共に太刀を構えて突進しつつも頭の中は冷厳に、そして荒涼と澄み渡った椿三十。
 猪突猛進もまた怜悧な判断あってのもの、いかに力があろうとアタマを失った獣は獣ですらない、狩りを行う獣は賢く、そして冷たい。
 椿三十が内に構えていた三尺の太刀を横に伸ばし、そのまま横走りに近い体勢で走り続けながら腰を捻る
 真横に流した太刀の切っ先が風を切り、鋭く鳴った。
 笑う椿三十と共に、刀も笑っている。
 人間の筋肉の中で最も強い力を発揮する背筋の捻転で、たった一本の刀を持った異能無き少女は巨大なスパイラル・ラルヴァに横薙ぎの太刀を叩きつけた。
 根源漲る太刀はその鋭き刃で回転の円環を断ち切り、その質量で軸を叩き折る。
 根源停止で制御を喪ったスパイラル・ラルヴァは回転軸の両断で動力を失くし、ふたつのガラクタとなって転がった。
 介錯の達人が首を斬り落とした時に似た削いで磨いたような斬り口は、百が板バネの小太刀で両断したスパイラル・ラルヴァより綺麗に切れている。
 三尺八寸の剣を抱く牢人、椿三十の親友である忍びの飯綱百に対するちょっとした見栄、そして剣に生きる者の矜持。
 暗赤色のスパイラル・ラルヴァが見せる鮮やかな赤の切断面、皮一枚残して胴体に開いた口はまるでこの無機ラルヴァが笑っているかのようだった。

 パックリと笑うスパイラル・ラルヴァを背に、朱塗りの鞘を拾って太刀を納めた椿三十はニヤニヤしながら遠く廃校舎の屋上に居る百の方を振り向いた。
 撃たれた時の倒れ方と、その場を狙撃するのに最も理想的な場所を考えれば狙撃者の位置はわかる。
 瓦礫の影に伏せ、姿すら見えない飯綱百の居る場を迷わず凝視する椿三十。
 手を振ってもよく見えない距離なので、朱鞘の長刀を振って高く笑った。
 デジタルスコープ越しに見える、椿の花が咲いたような笑顔に飯綱百は思わず魅せられそうになる。
 自分の獲物を取られたとか体面を傷つけられたとか、椿三十がラルヴァ殺しを自らの劣等の代償と勘違いした"弱い人間"なら百と友達にはなっていない。
 ラルヴァ殺しは遊戯やスポーツではない、前に出て戦ったのは自分たちでも、その仕事は支援した風紀委員達や避難に協力した生徒たちによって成し遂げられたという事を二人は知っていた。
 もしも百がクロスボウの誤射や手裏剣の失投で椿三十に怪我や失敗をさせたとしても、後で百のDカップおっぱいを揉ませてもらえればチャラ。
 おっぱいの大きい奴に悪い奴は居ない、百の胸は百自身が知らない所でまた役に立っていたらしい。
 風紀委員長の山口・デリンジャー・慧海に関してはそれは無理なので、椿三十はそういう時、慧海の金髪を解いて編み編みさせてもらってる。
 百と椿三十に背を向け、ずっとサークル棟住人の避難支援をしていた六班班長の学生力士、宿禰は両断され地に墜ちるスパイラル・ラルヴァに背を向けたまま両腕を頭上に差し上げ、両手の指先を触れさせ、頭の上で大きな丸を作った。
 教導班の班長を務める宿禰は、来年に控えた双葉学園卒業と念願の漫画家デビューに当たって、椿三十を後継の教導班長と決めた自分の判断が間違っていなかったことを確信した。

 飯綱百は初めての実戦投入で良好な結果を出したバーネット・クロスボウに満足し、プライベートでもひとつ買おうかなと思った。
 今回は弓が矢を撃ってくれた、クロスボウの性能に助けられてラルヴァを倒したようなものだけど、もっと訓練を重ねて、弓ではなく自分自身が主となって弓を扱い、矢を放てるようにならなくてはいけない。
 銃で撃つのではなく腕で撃つ、百の憧れである風紀委員長、山口・デリンジャー・慧海の魔弾に近づきたい、そう思った。
 再来週にはクロスボウの矢《ボルト》より太く長い銛《スピア》を炭酸ガスの圧力で撃ち出す水中銃《スピアガン》が届くことになっている。
 射出物の長さと質量の関係で、飛距離と射程距離はクロスボウの半分くらいしか出せないが、太い銛は根源停止の能力は強く発動できて、連射、速射性能に優れている。
 当然、根源を停止した後にラルヴァ、人間問わずトドメを差す武器としても優秀なものになる予定。
 学ぶことが多いのはいいこと、百は既に慧海から課せられたクロスボウと水中銃の操作習熟訓練とは別に、矢や銛を射出せず手で投げ撃つ弓道の体術、打根技の修行を自発的に始めていた。
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