【真琴と孝和 奇妙な凸凹コンビ 3-4 後】


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――午前10時20分 渋谷
 渋谷駅構内には平日の昼間だというのに、学生の姿が目立った。双葉学園のように休みになってしまっている者は除くと、制服を着崩したり、年齢に不相応な格好をしていたりと極めてだらしない風体が目立つ。先程の電車の学生もそうだが、最近は規律が甘くなったのだろうか簡単に学校を抜け出せて、それを厳しく咎め立てしない風潮が成り立ってしまっている。
 このように無駄且つ不必要に子どもを甘やかすから、悪意の有るラルヴァが跋扈し、それを命懸けで排除する同年代の学生達の横で、何も世の中が分っていないあのような学生達が幅を利かすようになる。全く以てろくな世の中ではない。
「さて、絵理ちゃんに一観ちゃん。何処行くかねぇ」
 真琴達男1人女4人は改札を抜けると、出入り口に向かって駅構内を歩きながら、千鶴は絵理と一観にこう言う。
「はい、最初に洋服を見に行きたいと思います。色々なお店を回ってみたいと思うんですよ」
「結構調べたもんね、かわいらしい服とか見たいよね」
 絵理と一観は顔を合わせながらこんな風に言って千鶴に答えた。
「真琴ちゃんはどうする?」
 2人の答えを聞くと、千鶴は真琴にも話を振る。真琴だけは特に目的も無く、半ば強引に千鶴に連れ出されたこともあるので、千鶴は一応聞いてみることにした。
「そうだなぁ……折角渋谷に来たんだし、絵理ちゃん達と洋服とか着るものを見てみたいと思う」
 真琴の返答に千鶴は意外な表情を浮かべた。
「おおお、じゃあ真琴ちゃんは絵理ちゃんや一観ちゃんと洋服見て来なよ。私と三浦は駅近くのカフェで珈琲でも飲んでいるからさ」
「千鶴は来ないの?」
 千鶴の言葉に真琴は当然のように聞き返すのだが、
「うーん、何か私は可愛い服を着るのが柄じゃないしさ。スタイルも良くないしね」
 真琴の質問に彼女は即答でこう返した。千鶴は確かにスレンダーなのだが、顔の造詣は美人の域に入る。明るく取っつきやすいために男女問わず友達が多いが、着飾って黙っていれば確実に男なら声の掛けづらい部類だろう。
「真琴ちゃんも行かないと言ったら、私が付いて行こうと思ったけど、真琴ちゃんが見に行きたいなら見守りついでに楽しんできなよ」
 にっこりと微笑みながら千鶴はこう言うと、真琴は彼女に背中を押されて千鶴に手を振られる。何処となく、孫の世話を押し付けられた祖父母のようなそんな気持ちと共に。
 千鶴が真琴の肩をポンと置きながら、絵理と一観にこう言い置いた。
「絵理ちゃんに一観ちゃんは真琴ちゃんに付いて行って、迷子にならないように楽しんできなよ?」
「分りました!」
「はいっ♪」
 あれよあれよと目的が決まってしまった真琴は釈然としない気持ちで一杯だったが、取り敢えず微笑んだ顔で絵理と一観を見据える。
「……まぁ、私も行きたいところが出来たので、ついでに私の買い物も付き合ってね?」
「了解しました」
 絵理と一観にニコニコと微笑まれながらお辞儀までされると、流石に真琴も嫌な思いはしない。だが、流されそうになった真琴も寸前で踏みとどまった。
「ちょっと待て、そう言えば三浦君と千鶴はその間何しているの?」
「今日暑いし、私と三浦は絵理ちゃん達の買い物が終わるまで、駅の近くのカフェでアイス珈琲でも飲んでリラックスしているよ」
 ああ、アレだ。行動が既に決まっているって事は、三浦に千鶴は買い物の付き合いは声に出さないが本気で面倒臭ぇんだな。真琴は心底そう思いながらも、決して声にも表情にも出さず軽く溜息だけ付いた。
「じゃあ真琴ちゃん、買い物終わったらカフェで合流しましょ?」
「わかったよ。じゃあ絵理ちゃんに一観ちゃん、行こうか?」
 千鶴と真琴は手を振って二手に分かれ、それぞれ別方向に歩みを進めていった。
「ごめんなさい真琴先輩、私達のお買い物に付き合わせてしまって」
 二手に分かれて歩き出した時分、絵理は申し訳なさそうに真琴にこんな事を言う。
「ん? いや、私も洋服とか見たくなったからだよ。気にする事はないよ」
 真琴は微笑みながら絵理の言葉に返答して、付け加えるようにこう言い置いた。
「でね、ちょっと私も見たいところがあるから、付いてきてくれると嬉しいかな」
「何処に行くんですか?」
 絵理の問い掛けに真琴は一言、明確で簡潔な返答を彼女にする。
「ランジェリーショップ」
「ら…ランジェ……!」
 真琴の極々普通で当然のように言う真琴の言葉に、絵理は頬を一気に真っ赤に染めた。
「え…絵理ちゃん、何で恥ずかしがっているのよ……そう恥ずかしがられると、私まで恥ずかしくなる……!」
「え、絵理っ! 女性用下着じゃないっ! わ…私達も、もう少し大きくなったら着けるんだし……」
 思いもよらない絵理の赤面に真琴も一観も少々動揺したが、苦笑いを浮かべて絵理は慌てながらも平静を取り戻そうとしていた。

「……ほええぇ……」
 渋谷駅を出て通りを歩いていると、真琴を中心にして何度も声を掛けられた。
「お姉さん、今から俺達と遊びに行かないかい?」
「お呼びじゃないわ」
 真琴が鉄扇を広げて箒で掃く仕草をしながら、男の声掛けを駆逐しつつ通りを歩くのだが、真琴の容姿が目立つのか声掛けは執拗なものだった。
「お姉さんかわいいねぇ。俺達暇だからさ、遊ぼうよ」
「貴方達がジャニーズレベルの顔の造詣なら考えるよ?」
 声掛けする男達も執拗なものだが、それを掴んでは投げるようにいなして躱す姿に、絵理と一観は驚きと共に見つめていた。
「お姉さん美人でスタイル良いよねぇ、超好み! 暇なら今から遊ばない?」
「ごめんなさい、生憎私は好みじゃないし、暇じゃないんだ?」
 鉄扇を優雅に仰ぎながら、声を掛けてくる男達を掃いて捨てるように駆逐していく。平日とは言え今日の渋谷の通りには、軽薄な男が余りにも多かった。
「お嬢ちゃんかわいいねぇ、おじさんと遊びに行こうか」
「絵理に触るなっ!!」
「帰れロリコン!」
 中には立派な身なりをした壮年サラリーマンが、絵理にこう声を掛けて真琴と一観に引っぱたかれて駆逐されたりする一幕もあったが、総じて言える事は真面目に仕事を勤しんでいる店員やサラリーマンにOL、普通に買い物や遊びに来ている者達を除けば、老若男女ろくな者が居ない事だろう。
(ああ、うぜぇ!! クズしか居やしねぇ!! 拍手がオッパイ眺めている方がよっぽどかわいいわ!)
 心底でイライラし始めた真琴だが、絵理と一観の手前顔に出すことは我慢している。今日の主役は絵理と一観で、彼女達が楽しむのを見守るのが仕事なのだから。折角楽しみにしていたショッピングで、嫌な思いはさせたくないからだ。
 だが、それでもイライラし始めたのも否めない事実であるため、挙動不審に成らないように目だけで周囲の風景を見渡し、ある閃きが浮かぶとそこに向かって絵理と一観を連れて行く。
「ねぇお姉さん、一緒に遊ぼうぜ?」
「フフフ……貴方、私達とこの店に入ってくるつもりなの?」
 後ろを見返りつつ緊急避難と言わんばかりに、さっと見つけたランジェリーショップに入った。
「え……うっ……」
 流石にランジェリーショップに入られると、彼氏か余程の厚顔でもない限り退散せざるを得ない。先客の女性客達の冷たい視線が効いたのか、最後にしつこく声を掛けた男は渋々その場を退いた。
 軽薄な男を駆逐した真琴は、ランジェリーショップに入って一つ大きく深呼吸、苦笑いを浮かべつつ絵理と一観にこう断りを入れた。
「やれやれ……これでちょっとは落ち着くか。ゴメン絵理ちゃんに一観ちゃん、予定変更して先にこの店を見て良いかな? ちょっと落ち着いてからにしたいんだけど」
「気にしないで下さい」
「大丈夫ですよ」
 笑顔で真琴のお願いに答えた彼女達に、真琴は「ありがとう」と笑顔で答え、店の奥の方に歩みを進めた。
 店舗の広さはそれ程大きくはなかったが、女性下着専門店の名に恥じずショーツにブラジャー、ガーターベルトストッキングの三点セットは勿論のこと、ビスチェにベビードール、ロング・ミニのスリップ、下着としてのキャミソール、ペティコートと恐らく大まかなランジェリーの種類は全て揃っていた。また色も各種多種多様の物が揃っており、この様に品揃えが良い事もあって来店する女性客も多く、真琴達が店に入った時も客の数は多かった。
 真琴は絵理や一観に断わった後、展示されている商品を手触りで確かめつつ、店内を2周ほど見て回った。
「真琴さん楽しそうだね」
「そうだね」
 だが、絵理と一観の表情は直ぐに変った。
「!……え…絵理、見てみこの値段」
 一観は目に入った値札を見て驚き、絵理の服を引っ張って話しかける。当然物にもよるのだが、ブラジャーにショーツ、ガーターストッキングのワンセットで5000円というのはザラだった。中には一万円を越える物もあり、絵理と一観の想像の域を遙かに凌駕したのだろう。
「高っ! 高いよっ!!」
「……多分、私達が買おうとしている洋服が2・3着買えるよ、きっと」
 驚きつつ一観は真琴の姿を目で追う。彼女は商品を見て気に入ったのか、ハンガーに綺麗に収まっている黒のレースの三点セット(ショーツ・ブラジャー・ガーターベルトストッキング)と、黒のミニ・ペティコートを手に取り、そのまま会計カウンターに持っていった。
「……黒い下着……」
「幾らするんだろ」
 真琴が会計を済ますまで、絵理と一観は唖然としながら見つめているだけしかできなかった。


――渋谷、同時刻のカフェ
「私はアイス珈琲のLにミルフィーユ」
「俺は…アイス珈琲のLとチーズトースト」
 真琴達と別行動を取った三浦と千鶴は、当初の予定通りにフランチャイズのセルフサービス型のカフェに入って早速注文をする。千鶴も美人の域に入る顔の造詣だが、三浦の持つ絶大な威圧感と存在感が真琴の様に軽薄な声掛けに頭を痛める事無く、真っ直ぐに目的の場所まで来ることが出来た。
 注文した物が準備時間の余り要らない千鶴は、自分の注文した物を受け取るとカフェの二階フロアに上り、フロアの空調が良く効く隅のソファーのある席に陣取る。平日の午前中と言う事もあり、渋谷ではあるものの二階フロアには客は疎らなのだが、居ると言えば外回りの営業のサボりだろうか、サラリーマン数人が千鶴の居る席の、真逆で外の風景が眺めることの出来るカウンターに座っているだけで、彼女の周りには人は居なかった。
 暫くすると三浦も注文した物をトレイに載せて持って来て、千鶴の座っている位置の対の場所に腰を掛けた。
「絵理の買い物を真琴さんに押し付けちまったようで、何か悪い気がするなぁ」
「あはは、仕方ないさ。真琴ちゃんには悪い気はするけど、三浦がピッタリとくっついて行く訳にもいかないし、私はオシャレなんて柄じゃないしねぇ」
 三浦が席に腰を掛けると、千鶴はアイス珈琲にガムシロップとミルクを入れながらこんな事を言うのだが、三浦はさり気なくこんな事を言ってみる。
「勿体ないなぁ、如月は性格良いし美人なのに。男を選り取り見取り出来るレベルじゃんか」
「あれぇー?」
 いつもの女の尻を追い掛けるような、嫌らしさの滲み出る言葉とは真逆の三浦の言葉に、千鶴でも目を見開き口もポカンと間抜けに開きながら彼の言葉を聞いていた。
「おいおい、そう言う褒め言葉は真琴ちゃんに言えよ」
 だが直ぐに表情を戻し、三浦を窘めるように一言言い置く。
「私が居るからって、真琴ちゃんに暑苦しく付きまとうだけじゃダメだぞ。それに真琴ちゃんからサングラス貰ってるんだろ? 十分脈有りじゃねぇか」
「いや……真琴さんにそんな事言ったら、何か嫌われそうでなぁ」
 三浦の聞き慣れない、あまりに純情地味た発言に一気に千鶴の表情が崩れ、本人も我慢出来なかったのかニヤケてしまう。
「はははは……でも、真琴ちゃんの三浦の第一印象は悪かったからねぇ。そうじゃなきゃ、『強制退場』させられる事なんて無いもんね……何処に飛ばされたよ?」
「それを言うなって如月……女子更衣室だよ」
 くすくすと笑いながら、千鶴は話を続けるように言葉を付け加える。
「ふふふふふふ……大体気に入らない者は、男女問わずプールに叩き落とされるんだけど、よっぽどイラッと来たか、咄嗟に飛ばされたかのどっちかだねぇ。私の知っている中では、今まで多く飛ばされているのは大学部の討状先輩とC組の拍手かな?」
 そして千鶴は思い出し笑いでもしたのか、含み笑いをしながらこんな事を言う。
「くくく……でね、前に拍手が私の70㎝台のぺったんこな胸を見て溜息付いたんだよ、もの凄く哀れみの目でね。イラッときて氷漬けにでもしてやろうかって思ったけど、流石にそうはいかないから、真琴ちゃんにプールに飛ばして貰った事もあったなぁ」
 楽しそうに話す千鶴の言葉に、流石の三浦も苦笑いしかできなかった。下手すれば自分も拍手のような事をされかねないからだ。幸い、今まで一度もプールに落とされた事は無いのだが、同じ様なことは受けた事はあるから笑い話では済ませられない。そんな三浦にストローでアイス珈琲を啜りながら、からかうような口調で千鶴は追撃する。
「で、三浦はオッパイ触っちゃったんだ?」
「触らねぇよ!!」
 流石の三浦も千鶴の追撃に耐えかねたか、少し声を出して全力で否定する。
「ははは……ごめんごめん、ちょっとからかいすぎたな」
「流石に俺はそこまでしない……まぁ、触りたいけど」
 三浦も珈琲を口に含んで飲み込むと、軽く溜息を付いてもう一度話に戻る。
「でも何だ、私は彼氏居ないし、興味もないよ?」
「不思議なのはさ、美人で誰とでも気さくに接する如月が、彼氏が居ないって言うのも不思議なんだよなぁ」
 不意と出た三浦の言葉に、千鶴は表情を変えずに即答した。
「ああ、私は当分彼氏作る気無いからね。付き合ったこともないよ」
 千鶴の返答に三浦は意外そうな表情を浮かべて彼女の顔を見つめた。誰とでも気さくに接することが出来、男女問わず友達の多い千鶴には彼氏が居てもおかしくなかったからだ。
 三浦からしてみれば、このような容姿的にも良好で社交的な人間なら、容易に自分好みの異性と交際できるのではないかと思えるからだ。
「あ、『意外』って思った?」
「思う、最早釈然としないレベルで。如月はいろんな奴と、それも性別関係無しに気さくで社交的なイメージが強いからな。俺の中では」
 心底不思議がる三浦のストレートな言葉に、千鶴は思惑を持ち合わす笑みと共に低い口調で言い放つ。

「私ね、昔義理の父親に悪戯されそうになって、男に興味もてないの」

「え?」
 千鶴の行き成りの爆弾発言は、三浦を完全に動揺させるだけの破壊力があった。だが、当の千鶴は表情を微塵も崩さずに言葉を続ける。
「それでね、私の『魔力』の潜在能力で、氷漬けにして殺しちゃった」
「お…お前……如月何言って……」
 周囲に人が居らず、店内のBGMが比較的大きいとは言え、千鶴の発した言葉の意味は、場に相応しくない程の余りにも重いものだった。
 三浦は千鶴の言葉に、まともな反応が出来ずに呆然としているが、当の千鶴は構わずに話を続ける。
「言葉通りよ。忘れもしない小学一年の時、あのクソ野郎は私を散歩に連れ出すと橋の下で私の服を破り、ショーツを引きちぎって陰部に手を掛けたの」
 次々と出る千鶴の言葉に、最早三浦は眼を見開き絶句して、何も言葉を発することが出来なかった。
「気が付いたら無意識に印を結んでいて、あのロリコンクソ野郎は漫画のように氷像になっていたわ」
 絶句している三浦を他所に、千鶴は笑いながらこんな風に言い切った。
「あの『母』と呼べる女は、私のボロボロの服装を見て目が醒めたらしいわ、再婚は失敗したってね」
 千鶴は一切表情を崩さず、含み笑いを浮かべたまま三浦を見つめている。時折珈琲を啜りミルフィーユを口に含みながら、Tシャツの胸元を幾度か引っ張るようにして涼し気にする仕草をしている横で、複雑で青ざめている三浦はゆっくりと珈琲を啜り無言でチーズトーストを囓っている。
 店内に流れる本来はアップテンポのJ-POPの、穏やかでスローペースに流れるインストゥメタルが、とても場違いではないかと思える程呑気に聞こえてくる。
「……如月、どうしてそんな、お前に取っちゃあ黒歴史やトラウマな事を俺に言うんだ……?」
 沈黙に耐えかねた三浦はチーズトーストを飲み込み口を拭うと、息を整えて至極もっともな質問をぶつけてみた。
「私は単に、三浦の疑問に答えただけだよ」
 しかしながら千鶴の返答は三浦の期待していたものとは程遠い、極めて簡潔なものだった。三浦は口を半開きに開けたまま、千鶴の表情を眺めているだけしかできない。当の千鶴は表情を崩さずにそのまま話を続けた。
「世間では『謎の凍死』って言われて警察もお手上げだったらしいわ。だって凍死だもの、真夏にさ。で、それに双葉学園が目を付けて、初等部から双学に入学して現在に至るわけ」
 千鶴はこれだけ言うと、締め括りとしてこんな事を言い置いた。
「男が嫌いな訳じゃないけど、今の内は自分から彼氏を作る気はないわね。男の子から好きだって言ってきてくれるのなら別だけど」
 三浦を置いてけぼりにしたまま、千鶴は話を言い終えてもう一度珈琲を口に含んだ。
「じゃあよ如月、お前のお袋さんはどうしてるんだ?」
「ああ、あれは埼玉で暮らしてるんじゃないかしらねぇ? 月にいっぺん金と洋服持ってくるから、生きてるんだろうけど?」
 あっけらかんとした千鶴の返答に三浦は言葉が詰まるものの、辛うじて言葉を紡いでいく。
「お袋さんの事、嫌いなのか?」
「好きな訳無いだろ。実の父親が交通事故死した翌年に新しいお父さんよって、男作るような女だよ? しかも、その男に犯されそうになったんだしね!」
 ミルフィーユを口に含み、一口アイス珈琲を口にして喉を潤すと、千鶴は一度息を吸って三浦と目線を合わす。
「でも私が真に言いたいのはね、別に私の過去を聞いて貰ってお涙頂戴って訳じゃないんだ」
 三浦の顔に千鶴は顔を寄せて、声を潜めた。
「あの学校の生徒は一部を除けば、ほぼ全員異能者と考えて良い。やっぱこう言う能力を持っている奴には、バックグラウンドが私以上に仄暗い事が多いんだよな」
 含み笑いの表情とは打って変わった真剣な表情で三浦を見つめながら、千鶴は小声ながらもしっかりと言葉を紡いでいく。
「お前が懲りずに女の尻を追っかけるのは勝手さ。でもな、三浦が『尻を追い掛ける女子』や、『一目惚れした真琴ちゃん』がそんな過去を持っていても、何ら不思議じゃないって言ってるんだよ」
 ここに来て千鶴の言葉にようやく三浦も表情を変えた。
「真琴さんも、やっぱ酷い過去を持っているのか?」
 そんな三浦の疑問に、千鶴はこう言って返す。
「さぁ? まぁ電車事故は酷い過去なのかも知れないけどね。だけどそれはお前が真琴ちゃんの信頼を得て、本人が打ち明けるような空気を作るしか、聞くチャンスはないと思うぞ」
 千鶴のあっけらかんとした自分の過去話の衝撃との影響がまだあるのか、三浦はこう指摘されると「ぐぬぬ」と口を真一文字に閉じたまま唸るものの、肝心の言葉が出ない。
「もしかしたら、真琴ちゃんはお前が他の女の子にデレてるのを見て不快に思ってるかもしれんよ? その内背後からプスーッとか?」
 そう言って千鶴は刃を突き刺すような仕草を三浦に見せつけると、三浦は少し身震いする。戦闘の場数が多く三浦に隙が無くても、テレポーテーションを持ちうる真琴が相手なら、本当にやられかねないからだ。
『私としてはさ、無闇に他の女の子のお尻を追いかけるのは、もう止めてほしいんだよね』
 三浦はサングラスを貰った時の真琴の言葉を思い出した。流石に千鶴にここまで言われると、何を言わんとしているかを嫌と言うほど理解できる。
「信頼を得るには、もう他の女にデレデレしない事が必要最低限と思うがね」
「わーってる! 分っているぜ如月」
 チーズトーストをガツガツと頬張りながら、千鶴の言葉に反論するように答える。
「本当かぁ? 三浦が前にクラスメイトの風鈴ちゃんに声かけて、あの娘が脱兎の如く電動車椅子で逃げたのはっきりと覚えているよ?」
「大丈夫だって如月、俺真琴さんに『他の女子の尻を追い掛けるな』って言われたし、真琴さんに一目惚れしてからそう言うの興味なくなったし」
 懸念するように言う千鶴の言葉を意に介さない三浦はこう言い置くが、彼の発言に千鶴は驚いた。
「……お…お前よ、その言葉の意味を理解しているか?」
「ん? 真琴さんの苦情じゃないのか?」
 だめだ、コイツ早く何とかしないと……千鶴はアイス珈琲を啜りながら眉を顰めて三浦を顔を覗くと、珈琲を飲み終えたのと同時に深く溜息を付き、彼女は静かに席を立つ。
「如月? 何処行くん?」
「……おかわりのアイス珈琲を買ってくるのよ……」
 それだけ言い置くと、千鶴はそのまま階段をおりていった。
(あのアホは女の尻を良く追い掛ける割に、鈍いんだな。真琴ちゃんは少なからず好意を持っているというのに)


――正午 渋谷 真琴と絵理・一観の買い物チーム。
「ランジェリーショップからは、落ち着いて買い物できたね」
「そうですね」
 ランジェリーショップで真琴が買い物をした後、ウィンドウショッピングも含めて色々な店を回って買い物を楽しむ。ランジェリーショップを出てからは軽薄な男達の声掛けも無く、自分の欲しかった洋服が手に入り、ゆっくりとショッピング出来た事で絵理と一観は満足気だった。
 3人は買った洋服をバックに入れ、円を囲むように立ち止まって会話している。
「絵理ちゃんに一観ちゃん、もう買い物は終わりなのかな?」
「はい」
「そうですね。おかげで行こうと思ったお店には、全部行けましたよ」
 真琴の言葉に絵理と一観は嬉しそうに答え、笑顔で顔を見合わせた。取り敢えずの一段落が付いた真琴は、喜んでいる絵理と一観を見ながら軽く溜息を付く。
「そう言えば真琴さん、ちょっと良いですか?」
「なんだい?」
 軽く溜息を付き、軽く息を吸っている真琴に、思い出したように絵理は尋ねる。
「まだ、遊べる時間……ありますか?」
 一歩引いて真琴の表情を覗きながら申し訳なさそうに聞く絵理だが、真琴はにっこりと微笑みながら彼女に答える。
「大丈夫。携帯電話からの呼び出しもないし、今日一日はお休みだからね」
 真琴の答えにもう一度絵理と一観は顔を見合わせ、嬉しそうに声を上げた。
「一度行きたい所があるんですけど、大丈夫ですか?」
 そして一観がこんな事を言う。絵理は兎も角として、一観の人となりはある程度知っている真琴は、いかがわしい所ではないだろうと思うからだ。
「あんまり変なところじゃなければ大丈夫だよ、一観ちゃん」
 取り敢えず釘を刺す意味で真琴がこう言うと、
「秋葉原にも行きたいなって思ってたんです」
 一観は一言、真琴にこう返答してみた。秋葉原か。見た目は大規模な電気街だが、その実は未だ世界一のオタク経済中心地の魔都であり観光地……瞬時に真琴の脳内で思考が整理される。家電量販店の横でそびえるアニメ専門店や同人誌専門店の店舗ビルディングは昔の場末的な妖しい雰囲気よりも、興味が無くても脚を踏み込みたくなる空気を漂わせている。
 またメイド喫茶などの『コスプレ飲食店』も隆盛しており、秋葉原の歩道には客引きのメイドの恰好をした女の子が立っている。
 真琴が一瞬、秋葉原に行くのを躊躇ったような素振りを見せたのは、あくまで週二回だがメイド喫茶にアルバイトに行っているからであるのと、姉の美沙と共に『趣味』としてよく立ち寄るからだ。街中あちこちに張り出されている男女問わずの二次元キャラクターのポスターは、千鶴は秋葉原によく立ち寄るので理解しているが、何も知らずに行くには少し『引く』位の雰囲気は否めない。
 ただし、元々の市場の名残から有る数々の飲食店や、パーソナルコンピュータの周辺機器や高性能の部品、記憶媒体に加え、ソフトウェアの品揃えを見るに近年目覚ましい発展を遂げる池袋の電気街化に比べても、未だその地位は不動である。
「じゃあ、行ってみるかい? ちょっと趣味が合わないかも知れないけど」
「大丈夫ですよ。本とかの品揃えが凄いらしいですし……その、同人誌って言うのにも興味有りますし」
 真琴の言葉に答えるように絵理は一言言い置く。真琴は何となく分った、多分美沙が少なからず自分の趣味を絵理や一観に見せていたんだなと。
「だけど、一度お兄さんが居る所に行くよ? そこで少し涼んでから、お昼ご飯食べて出発だ」
 絵理と一観は『はい』と答えると、三浦と千鶴が待っている喫茶店に向かうことにした。

 待ち合わせ場所である喫茶店に入ると、外気の気温と鑑みると些か寒いくらいに冷えている。暑い渋谷の屋外を歩き回った彼女達には、涼しいよりも寒い感覚だった。
「一観ちゃん、絵理ちゃん、真琴ちゃんお帰り~♪」
 真琴が2人の居る喫茶店に入り、2階席に向かうと千鶴は真琴達の名前を呼び手招きをする。昼頃にもなると千鶴達が入店した時のがら空きな店内とは打って変わり、主だった席の殆どは埋まっていた。真琴達3人が座れる程席も空いて無く、とても休めそうにはなかった。
「どうだった? 買い物は」
「目的の物は買えたんだけど、何というかナンパが多かったね」
 千鶴は『きゃはは』と笑いながら真琴の言葉を聞く。
「真琴ちゃんなら、かわいいしオッパイ大きいから、ナンパも多そうだしね」
 千鶴の茶化す言葉に真琴はカッと顔が紅潮し、三浦はムッとする表情を浮かべる。流石に絵理は苦笑いを浮かべる事しかできなかった。
「さてと、流石にここじゃ全員が居れないから、何処かに行こうかねぇ?」
「コホンッ……千鶴、今から秋葉原に行こうと思うんだけど、大丈夫?」
 一つ咳払いをして、気を取り直して真琴は絵理と一観に希望されたことを言って見ると、千鶴は楽しそうな笑顔を浮かべる。
「アキバかぁ、皆で遊びに行くのも良いねぇ」
 千鶴はこう答えると、座ってムッとしている三浦に視線を送りながらこう言い放つ。
「私は大丈夫だよ、三浦はどう?」
「……ん? あ…ああ、俺も大丈夫だ」
 心此処に非ずな三浦だったが、千鶴の問い掛けに答えた彼は少々戸惑いつつも、彼女の誘いに同意する。それと同時に千鶴は三浦を見ながらニヤニヤしながら彼を見る。あからさまな真琴への一方的な嫉妬だったのが面白いのだろう。
「大丈夫だね。一観ちゃんと絵理ちゃんはどう?」
「あ……それが、私達が行きたかったので、真琴先輩に言ったんですよ」
 絵理の言葉に千鶴は一瞬口をあんぐりと開けたが、直ぐに戻して真琴の表情を覗く。
「……絵理ちゃんと一観ちゃんがヲタ化……」
「馬鹿な事言ってないで行くよ、千鶴っ! こんな所で屯っても邪魔なだけだし!」
 真琴はこう言い放つと、千鶴と三浦のトレイなどをさっと片付けて喫茶店を後にした。


――12時半 神田明神。
 喫茶店を出た面々は、なるべく人目の付かない裏道に入ると、真琴が全員の身体に触れて自らの『自己転移』と『他者転移』で一気にテレポートをする。双葉区ではありふれた能力発動だが、双葉区以外では極力人目に晒さないようにする為にする方策である。
 テレポートする場所として神田明神は秋葉原に程近く、また明神のど真ん中でもない限りそれ程人目に付く事もない。普段真琴は秋葉原にバイトで来る時は、大体が神田明神を拠点にして移動する事が多く、帰りは公衆トイレなど人目の付かない場所から双葉学園に戻る。
「今更だけど、真琴さんのテレポートは凄いよなぁ」
 テレポートで神田明神に移動した後、真琴を見ながら思わずこんな事を口にする。だが当の真琴は少しだけ息が荒く、少々顔が紅潮していた。
「だ…大丈夫? 真琴さん」
「大丈夫だよ三浦君…んんっ…ちょっとだけ疲れただけだから」
 三浦は真琴の能力の動力源を知らない。暑い中外を歩き回り、休憩しないで自分を含めた5人を転移させた事で少しばかり疲労が重なり、疲れてしまって息が上がったのだ。
「少しだけでも休めば良かったんだけどね、私は体力無いから」
 掌を三浦に向ける仕草をして『大丈夫』と意思表示をすると、真琴は一回背伸びをする。
「体力付けるために、学園のトレーニングルームで器械運動やスクワットで鍛えてはいるんだけどね……腹筋が締まるだけで体力が付いた実感がしない」
 こう真琴が洩らすと、微笑み混じりに三浦にこういう。
「さて折角の休みなのに時間が勿体ない、早速遊びに行こう」
「そ…そうですね」
 場の空気に重きを置いたのか、真琴はこれだけ言い置くと神田明神の境内を歩いていく。だが真琴の体力切れは此処にいる面子の誰の目にも明らかだった。

「三浦君、態々私に付き合わなくても良いんだぞ。遊んできても」
「いや、俺も付き合いますよ」
 真琴の体力切れを見切った千鶴によって、取り敢えずゲームセンターに涼みに行くついでに遊びへ行く運びとなった。だが、当の真琴はゲームセンターの場末にあるソファー型のベンチに座らされていた。一行は千鶴の『冷気』で真琴の周囲を涼しくし、絵理に軽くヒーリングをされた上でベンチに座らせて彼女を休ませることにしたのだ。
 秋葉原は電化製品やソフトウェア、二次元・三次元の所謂『萌え』の数々ばかりではなく、ゲームセンターも数多くある。新作が出ればそのロケテストが行われたり、いち早く導入される。また池袋等の万人向けなレジャースポット化は成されていない為、ナンパ目的などいかがわしい目的の者も少なく、比較的落ち着いてゲームが出来る。
 千鶴は真琴に能力を使った後は格闘ゲームの対戦台に座ってゲームに興じ、一観と絵理は所謂『体感ゲーム』に興じている。それだけなら良いのだが、『真琴がナンパされた』と言う事が気になったのか三浦が彼女の近くにいた。
「真琴さん、取り敢えずミルクティーで良かったんですよね」
「……ありがとう」
 三浦は真琴に缶のミルクティーを渡すと、彼は少しだけ距離を置いて真琴の横に座った。
「俺は最近のゲームは付いていけないんですよ。如月や絵理はそうでもないようなんですが」
 三浦の言葉を聞いた真琴は、苦笑いを浮かべている。
「いや……それにしても申し訳ないです。絵理の買い物に付き合わせちまって」
「ううん、絵理ちゃんにも言ったけど、私もついでに見に行っただけだから気にしないで」
 三浦の初対面時の馴れ馴れしさがない静かで、それも緊張感と共に出る言葉は、当初あった真琴のあからさまな嫌悪感丸出しの対応とは違う、ある種の自然な会話を成立させていた。
 プルタブを折り曲げて缶を開封した真琴は一口二口とミルクティーを口に含みながら、背もたれに深く寄りかかり、三浦の方に顔を向けた。
「それにしてもさ、やっぱりサングラス似合っているじゃない」
「え? あ、ありがとうございます」
 急に話を振られた三浦は、単純にこんな事しか返答できなかった。
「三浦君を見ていると思うんだけど、千鶴って社交的な人間だなって思うよね」
「そうですね……多種多様、男女問わずに気さくで、俺も不思議だなって思うんです」
 口から出た一つ一つを言葉として出すのだが、三浦は緊張しているのか真琴の言葉に答える、もしくは三浦の言葉に真琴が答えると、そのまま会話が途切れてしまう。
「俺、真琴さんをカフェテラスで初めて見た時、どうにもこうにも気になっちゃって、如月に教えて貰ったんですよ」
 そんな中での三浦の思いがけない言葉に、真琴は言葉を返すことが出来なかった。
「まさか隣のクラスの人だって聞いたときは嬉しかったけど、直ぐに声は掛けられなかった。やっぱ、色んな女子の尻を追い掛けたのが、ここに来てツケで回ってきたんだなーって」
 真っ直ぐに言う言葉だったが、自嘲と苦笑いと共に言う三浦の言葉に、真琴も言葉が見つからなかった。
「入り口越しから見てみたいって教室に行ったら、笹島が俺を見て『消えろドスケベ野郎、死ね!』って追い掛け回されたこともあったんですよ。あの時は参りました」
 苦笑いと共に紡がれる三浦の言葉を聞くと、思わず真琴は吹き出してしまう。2-Cの委員長である笹島輝亥羽ならやりかねないなと。普段はそこまで酷くはないのだが、その時はたまたま虫の居所が悪かったのだろう。
「ははははは、委員長ならやりかねないな。あの娘大人しくしていると、ルックス的にかわいいんだけどねぇ」
「あの時は、本当に恐ろしかった。普段は悪くない顔の造詣なんだろうけど、あれは最早般若! 般若の形相で追っかけ回されたときは死ぬかと思いましたよ」
 少々オーバーアクション気味に説明する三浦の言葉に、真琴は腹を抱えて笑い出す。笹島の場合はただの言い掛かりの時もあるのだが、大体が的を得ている事が多い。笹島の眼には三浦は真琴に限らず、2-Cの女子を物色しているように見えたのだろう。
「で、その後で如月に言われましたよ。『ああ、笹島には気をつけろ』って。あれはある種の『当たり屋』だからって……」
 流石の真琴も笑いを堪えることが出来なかった。笹島も笹島だが、思いの外酷い千鶴の笹島に対する形容詞に。

「まぁでも、絵理は最近俺を見て『最近変ったね』って言ってくるんですよ。他の女の子に興味沸かなくなったし、やっぱり変ってきてるんですかねぇ? 俺」

 女子にデレデレしていた時のような軽い雰囲気が皆無の、真面目で真剣に言い置く三浦の言葉に、真琴は茶化す言葉や皮肉は自然と思いつかなかった。
「絵理ちゃんが言ってるんだから、変りつつあるんでしょうよ」
 真面目に言い置く三浦への真琴の返答は、シンプルでストレートな物だった。
「ま! 私としてはデレデレしない三浦君は嫌いじゃないよ」
「あはは……褒められてるんだか、けなされてるんだか分らないや」
 互いに顔を見合わすと、思わず2人とも笑ってしまう。
「バカだね、褒めてるんだよ」
 真琴はそれだけ言うと、貰ったミルクティーにもう一度口を付けた。

「三浦君、何しているの?」
 十分くらい経った頃だろうか、三浦はソファーから立ち上がると小銭入れを取り出して自動販売機の前に立つ。
「ああ、俺ちょっと小腹が空いちゃって」
 見れば最近はあまり見掛けないインスタントラーメンの自動販売機だった。
「カップラーメン食べるのかよ」
 一瞬真琴は眉をしかめて、嫌味を込めて言ってみる。個人の自由と言ってしまえばそれまでだが、食べ方によって相当だらしのない画になりかねないのが嫌なのだ。
 現在のゲームセンターの立ち位置はレジャースポットであり、『脱衣麻雀』等のアダルトな部分をある程度排除して、女性も入りやすい明るい雰囲気を重視している事が多い。だが、今と昔も変らない部分と言えばこういったカップラーメンの自動販売機や、ハンバーガーやフライドポテトの自動販売機と言った所だろう。それでも自動販売機などはオシャレな物に成ってはいるのだが。
「ガッツリいく気分じゃないんですが、何か腹に入れようと思って。『肉』なら尚良いんだけど」
 だからと言って、女の子達と遊びに来てそれはないんじゃねーか? しかも、横で食べられても画的にきついんだよ。真琴はそう思いつつ、硬貨投入口にコインを入れようとした三浦に声を掛ける。
「待って買わないで! ならさ、丁度良い『肉』の『アキバ名物』がある。行くかい?」
 今にもカップラーメンを買いそうだった三浦を止めて、真琴はこんな風な提案をする。
「そんな物が有るんですか。行きますよ、美味い肉関連は好きなんですよ」
「じゃあ決まりだね、早速行こうか」
 乗り気な三浦の返答を聞いた真琴は立ち上がって一度背伸びをする。
「おお、初めてかも。真琴さんと2人で行動するの」
「みんなで遊びに来て、横でカップラーメン食われるよりは断然良いさ。それに、食べることは疲労回復に繋がるしね」
 それだけ言うと、真琴は片手で鉄扇を開きながら微笑んだ表情と共に三浦に手招きして、『早く』と催促するように彼を誘導した。
 店内を闊歩する、引き締まった筋肉質の男と、小柄で華奢な巨乳の女の子が並んで歩く画は嫌でも目立っていた。特に三浦と真琴の顔と胸には、己が自覚できる程に視線が突き刺さっている。
「見てみ? 三浦君すっごい目立っているよ」
「……真琴さんもね」
 鉄扇をパタパタと扇ぎながら茶化す気満々の真琴に、落ち着いて突っ込む三浦。真琴は思いの外真面目な三浦を見て、口元に扇子をかざして声に出して笑ってみせる。
 だが、一頻り笑ったところで真琴は鉄扇で口元を隠したまま、顔を少しだけ傾けて鋭い瞳で三浦を見つめた。
(三浦君、気付いたか?)
(ああ)
 至極小声で三浦に声を掛け、彼も真琴に相づちをする。好奇または性的で眺める視線とは明らかに異質な、名状しがたい気配と共に自分達を見据える視線を感じた。
 気持ちの悪いくらい背中にはっきりと感じる、自分達を捉えて放さない後方から感じる視線はある種の恐怖感さえ漂わしてくる。真琴と三浦は雑談をする素振りをしつつ、目立たないように店内を見渡してみた。
 店内に居る人は多かったが、自分達を好奇や性的な目で見る面々や、他人が行なっているゲームのプレイを覗いている者に紛れて、異様なまでに鋭い視線を送っている者が居ることを確認できた。
(真琴さんの知り合い?)
(まさか。あんな気持ちの悪い知り合いなんて居るものか)
 扇子で扇ぎながら真琴は三浦と二・三言葉を交わす。いくら双葉学園の異能者であっても、気持ち悪いものは気持ち悪い。だが、実際にこの様なストーキングじみた気持ちの悪い事をされても、真琴や三浦に出来る事は殆ど無いと言って良く、気にするだけ無駄なのだから。堂々とテレポートする訳にもいかず、また例え言い寄ったとしても『身に覚えがない』、『自意識過剰』と言われてしまえばそれまでであり、無視する事が得策と結論づけた。
(俺達を狙っているのか?)
(バカ言わないで、私達は『テレポート』で移動したんだ。しかも、予定を変更した秋葉原にだぞ!?)
 2人はそうと決めると何事もなかったかの如く、階段を下りてゲームセンターから早急に且つ落ち着いて外に出ることにした。

3-5に続く



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