【壊物機 第五話】


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 壊物機 第五話 『交差する長短針』



 人は運命を避けようとしてとった道でしばしば運命に出会う
              ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ      

 ・・・・・・

 溜まっていた会社の業務も一段落し始めた十一月のある水曜日。俺が会社に出勤すると妙な手紙が俺宛に届いていると部下が報告してきた。
「妙な手紙? あからさまな不幸の手紙でも届いたか?」
「いえ、普通のエアメールなんですが……その、差出人が」
「差出人?」
 部下の言わんとすることがよくわからず首を傾げる。差出人が変ってのはどういうことだ? 当選したばかりの黒人大統領から手紙でも届いたか?
「ま、百聞は一見にしかず。自分で見れば一発だな。その手紙は?」
「社長のデスクの上に置いておきました」
 部下と別れて執務室に入ると、たしかにその手紙は俺のデスクにあった。
 外観は国際郵便用の高い切手が貼ってある以外はただの手紙だ。宛先が書かれた表面にも何もおかしいところはない。
 俺は手紙をひっくり返して問題の差出人の名前が書かれた裏面に目を通し……こりゃ妙な手紙だと思われても仕方ない。
 差出人の名前はこう書かれていた。

“レオナルド・ダ・ヴィンチより”

 たしかにこれは変な手紙だ、ジョークレターとしか思えない。開封する前にゴミ箱に捨てられても仕方がないレベルだ。
 しかし残念なことに俺にはそういう名前の知り合いがいた。
 レオナルド・ダ・ヴィンチ。
 俺がウォフ・マナフを手に入れたために敵対することになった狂芸術家集団マスカレード・センドメイルの首領。人型ロボット兵器『無欠なるウィトルウィウス』とアンドロイド『最も美しいモナ・リザ』を連れて俺に戦いを挑んできた男……ではなく男装の仮面女。
 最終的には苦戦の末に俺が勝利し、センドメイルが俺とウォフを狙うこともなくなった。
 それ以来会うこともなく、連絡も何もなかったのだが……。
「何かあったのか?」
 俺は封筒を開封し、中の手紙に目を通しはじめた。
“親愛なるラスカル・サード・ニクス君へ”
 すげえ、普通の文面なのにジョークに見える。親愛ってなんだ、親愛って。
“先月の一件でウィトルウィウスを君に壊されてしまってからずっとウィトルウィウスⅡの製造にかかりきりだったが、それもようやく完了した。睡眠時間は一日三時間以下だったし費用も天文学的にかかって個人資産が随分と削れたが満足な出来だ。これなら君に壊されたウィトルウィウスⅠも成仏できるだろう。君も君に壊されたウィトルウィウスⅠの冥福を祈ってくれ”
 …………恨み言ばっかりじゃねえか。つうか、トドメはお前の自壊装置だっただろ。あと成仏ってなんだ、成仏って。
“さて本題に入ろう”
 ああ、恨み言が本題じゃなくてよかったよ。
“あの一件で私は君に借りを作ったままだった。だからその借りをそろそろ返したい”
「……あれか」
 借り、というのは俺とダ・ヴィンチの戦いの最中、『武器は使わない』と明言していたダ・ヴィンチがレーザー砲でウォフ・マナフをぶち抜いたことだ。お陰でウォフがしばらく半分死んでいた。
 しかし『武器を使わない』なんて約束は元からする必要のない口約束で、命がけの真剣勝負の最中だったのだし気にするほどもないものだ。しかし俺が冗談でペナルティがどうのと言ったらダ・ヴィンチは律儀に借り一つとカウントしたらしい。儲けた。
「で、どういう形で返してもらえんのかね、と」
“二つ用意したのでどちらか一つを選んで欲しい”
「…………」
“その一、情報。永劫機にも関わる耳寄りな情報。
 その二、金。白紙の小切手。
 XXX―XXXX―XXX―XXX―□”
 文面には二つの事柄と妙に長い電話番号が書いてあった。
“情報が欲しいなら番号の最後に1を、金が欲しいなら2を押してくれたまえ”
 ……どこの視聴者参加型クイズ番組だ、とは思いつつも俺はデスクの上にあった電話に手を伸ばし、番号をプッシュする。
 XXX―XXXX―XXX―XXXの、
「2、と」
「君は空気の読めない男だな」
 俺が最後の番号をプッシュしようとした正にその瞬間、執務室の扉を開けて仮面女――ダ・ヴィンチが乗り込んできた。
 Why?
「……おい、実は俺を狙ったドッキリか?」
 いきなり人のオフィスに仮面をつけた変な女が乗り込んでくるなんてシチュエーションには流石の俺もドッキリだ。
「フッ、そろそろ手紙が届く頃だろうと思って欧州からやってきたのさ。君が執務室に出勤してからは扉の前で張り込んでいた」
 どれだけ暇人なんだこいつは。
「待て。こんな半分はあやしさで出来ていそうな仮面女が社長室前の廊下にいて社員が誰も動かないってのはどういうことだ」
 つまみだすか即銃殺されてもおかしくないだろ。
「ああ、それは彼女に協力してもらった」
 ダ・ヴィンチが開かれたままの扉を指差すと、見慣れた眼帯と見慣れない手袋のポンコツがこそこそとこっちの様子を窺っていた。
「ウォ~フ~?」
「あ、あのですねご主人様、センドメイルとは手打ちになったって聞いてましたし、ウィトルウィウスもいないしおみやげももらったからいいかなって……ハッ!」
「おみやげ、ねぇ」
「も、もらってませんよ!? ブランド物の高級手袋なんてもらってませんよ!?」
 もらってるじゃねえか。その手袋は見覚えないぞ。
「ウォフ、あとで四回」
「よ、四回ですか……恥ずかしいけどわかりま」
「四回転……廻す」
「どこの関節を!?」

 ウォフとのいつも通りのやりとりを差し挟んで、ダ・ヴィンチとの会話を再開した。
「話を戻すがラスカル君。普通そこで金は選ばないだろう。君の人生を左右するかもしれない情報と比べれば金銭なんて……」
「お前の部下が倒壊させた支社と、お陰で駄目になった商品と、死んだ社員の家族への手当て、ついでにアルフレドが爆破したリムジン。総額でどのくらいになるかわかるか?」
「…………ああ、わかった。大サービスだ。情報を一つおまけしよう」
「金は?」
「それで永劫機に関わる情報のことだが」
 無視しやがったこのアマ。
「十二体目が完成し、永劫機が全機ロールアウトしたという話だ」
「……へぇ?」
 聞いていた通り永劫機は十二体か。そして悪心の言っていた化物の十二体目も完成した、と。
「超科学技術者ネットワークのそれなりに深いところで流れた噂だ。噂どおりなら私と君が戦ったあの日から何ヶ月も前に永劫機全十二機は完成し、その全てが世に放たれたらしい。もっとも君のウォフ・マナフは何年も前に世に出ていたがね」
「ああ……。にしても数ヶ月前? 随分と噂になるのが遅かったな」
「それだけ永劫機関連の深度が深いということさ。超科学のネットワーク深部でこれなら裏側の世界でも表層に浮かんでくるのは何年後かわからないな」
 ……どうも実感がわかない。俺が永劫機の、というかウォフと悪心のマスターだからかもしれないがそんなに大層でもない気がする。
「で、情報ってのはそれだけか? 役に立つ情報だったがそれだけじゃ大した情報とは」
「君達以外に二体ほどこの合衆国にいる」
「……番号は?」
「十と十二、アバドンロードとメフィストフェレスと呼ばれている機体だ」
 アバドンロードとメフィストフェレス、二体とも悪心が知らなかった機体。それも番号から推測して性能は永劫機の中でも最高クラスと見て間違いない。戦えばどう考えても分が悪いだろうし、能力は……。
「あぁ、能力は聞かんでくれよ。私だってそこまでは知らないさ」
「そうかい。ま、やっぱどうでもいいわ。合衆国に他の永劫機がいるっつっても戦うとは限らねえし、何よりこの広い国じゃ会うかもわからねえ」
「戦うとは限らない、か。それはどうかな」
 思わせぶりに、ダ・ヴィンチは呟いた。
「どういう意味だ?」
「さてさて、どういう意味かな?」
 ……このアマ。
「そのことは一先ず置いておこう。次はおまけの情報のほうだが……ところでラスカル君。君は何でも願いが叶うとしたら何を願う?」
「金」
「……俗物だなぁ、君は」
 うるせえ。お前に経営に悩む隙間産業の気持ちがわかるか。
「で? それがどうかしたのか?」
「実はだね、四つ集めればどんな願いでも叶うという曰くつきのマジックアイテム『断片』がこの合衆国に……」
「興味ねえ」
「疑っているのかい? しかしこれは」
「事実だろうとそんなもんはいらねえ。さっきも言っただろうが。俺が欲しいのは金くらいだ、働けば手に入るのにわざわざそんな危ない橋を渡るわけがねぇ」
「……案外堅実な人間だが、それでもいいさ。君が望もうと望むまいと」
「|時感狂化発動《マッドタイム・スタート》」
 時感狂化を受けたダ・ヴィンチは唐突に意識を失った。
 さてと、この仮面女が意識取り戻してまた何か思わせぶりな台詞を言う前につまみ出すとしようか。
 俺はもうこれ以上面倒な騒動になんて巻き込まれたくないからな。

 水曜日の朝はそうして過ぎていった。

 ・・・・・・


 ダ・ヴィンチに続く二人目の珍客は翌日木曜日の昼に顔を見せた。
「ラス君……久しぶり」
「よう。けどラス君言うな関節廻すぞ」
 昼食とアフタヌーンティーの丁度中間ほどの時間に懐かしい顔――アルフレドが俺のオフィスに顔を店に来た。
「日本で会って以来か。ここ最近はお前の噂も聞かなかったがどうかしてたのか?」
「ちょっと、深手を負ってね……一ヶ月ほど療養してたんだ」
 たしかによく見れば顔に細かい傷跡があり、動きもどこかぎこちない。異能治療もある裏側の世界でこれならよほどの重傷だったってことだろう。
「負けたのか?」
「もしそうなら……それが噂になってる。でも、……負けてもおかしくない相手だった」
 そりゃ大層な相手だ。
「で、わざわざ快復のあいさつか? 見たところまだ治ってもいねえみたいだが」
「違うよ……治っててもわざわざあいさつに来たりはしないから。大体君はお見舞いにだって来てないだろう……? 用件は別」
 それから「少し面倒くさいことかもしれないけど」と前置きしてアルフレドは用件を切り出した。
「アリバイ屋を……探してくれないかな」
「アリバイ屋?」
 アリバイ屋とは『誰某は何年の何月から何月まではどこそこにいました』というアリバイを売る商売だ。その精度は個々のアリバイ屋によるが、腕のいいアリバイ屋なら周辺への根回しも含めて完璧に書類的証言的事実をそう塗り替えてしまう。
 経歴詐称から裁判用のアリバイ作りまで裏側での用途は幅広い業種だ。
「そんなもんお前が自分で探せばいいじゃねえか」
「僕は……どうも裏側の事務職の人達からは苦手に思われてるみたいだから……。探してるって感づかれたら夜逃げされちゃうんだよ……」
 ……まぁ、こいつが尋ねていったら殺しに来たと思ってもおかしくないからな。十割こいつ自身のせいだが。
「わぁったよ。で、アリバイ屋に用意させるアリバイのリクエストは?」
「二〇〇四年の三月から今月までのアリバイ。出来れば日本の研究者の徒弟って設定が好ましいかな」
「……随分と細かい注文だな。しかも二〇〇四年からで研究者? ってことはお前用じゃないんだな」
「僕はアリバイなんて要らない……。ただ……、受け持っていた仕事のアフターサービスでちょっと……ね」
 こいつが深手を負うほどの仕事の、か。
 その仕事自体に興味が無いでもないが好奇心は猫を殺すとも言うしな。詮索はよしておくか。
「わかった。その条件をクリアできるアリバイ屋を探しておく。見つかったら連絡を入れる、仕事用の連絡先でいいんだよな?」
「うん……。ありがとうラス君」
「礼を言うならラス君って呼ぶのやめろ。日本でお前にそう呼ばれてからたまにウォフがそう呼んでくるから鬱陶しい」
 しかも上から目線のからかい可愛がり口調。あんなにむかついたことはない。
「仲が、良いみたいだね」
「…………」
「ごめん……」
 俺の無言から何を読み取ったのか苦笑して謝ると、アルフレドはオフィスを後にしようと背を向けた。
 そこで、何かを思い出したように振り返る。
「そうだ……。お礼代わりになるかはわからないけど……この国にある『断片』ってマジックアイテムの……」
「いらん。帰れ。礼は金でくれ」
 余計なことを言われる前に言葉を突っ返して追い払った。
 俺はもう面倒な騒動になんて巻き込まれたくないからだ。

 だが、ダ・ヴィンチに続いてアルフレドからも『断片』という名前が出たことに俺は嫌な予感がしていた。
 まるで逃れようのない何かの内でしか動けていないような気色の悪い感覚を覚えながら、木曜日の昼は過ぎていった。


 ・・・・・・

 そうして、金曜日の夜に。

 アメリカ西海岸、カリフォルニア州にミーティットという古い港町がある。
 二十世紀前半から交易に使われていた街で、今でも日中の埠頭は多くの船舶が接岸し食料品や雑貨などの荷を積み降ろし、陸に人が、海に船が集まり賑わう健全な港だ。
 しかし、夜となればその様相は大きく変じる。
 日中の人目がある時間帯では荷降ろしできない代物。大なり小なり法に触れる違法な代物を扱う者達が秘密裏かつ公に利用する。
 そういった企業や組織はそれなりの数に上り、俺の経営するニクス社もその一つだ。
 許可の取れている一般の銃器などは昼間にも動かせるが、異能にまつわる巨大銃器などはそうもいかないため夜の港を活用している。巨大銃器が重すぎて空輸に適さないので船舶に頼るしかないといった事情もある。
 今夜もうちの会社が所有する輸送船舶が接岸し、他の船舶同様にガントリークレーンを使ってコンテナを下ろしている。
 俺はその様子を眺めて、手元の積荷リストに目を通す。
「88mm対物狙撃銃《ドラゴンキラー》六丁、大口径ハンドガトリング砲《ゴブリンスイーパー》二十丁、大型銛射出式水中銃《マーマンピアッサー》十三丁、あとはそれぞれの弾がコンテナ単位で二つずつか」
「……あ、あの、ご主人様? 初めてドラゴンキラーを撃ったころから聞きたかったんですけど、ご主人様の会社のオリジナル製品って誰が命名してるんですか?」
「もちろん俺だ。カッコイイだろ?」
「……ネーミングセンス小学生並みだこの人」
 ウォフが小声で何か言ったがよく聞こえない。たぶん「ですねー」とかだろう。
「ちなみにアルフレドの能力名は黒色反応炉《ブラックエンジン》って言うんだがそれも俺が命名した」
「アルフレドさんかわいそう!?」
 よく聞こえないがやっぱり「ですねー」とかだろう。カッコイイからな。
「ところでどうしてご主人様の会社はドラゴンキラー以外にも変な商品がいっぱい出てくるんですか?」
 どうしてと聞かれてもな。
「真っ当な武器は大手がもっと高性能で大量生産してるからな。中堅のうちは巨人用銃器みたいな隙間産業でやってくしかねえんだよ。つうか、元々お前を買ったのだってお前に使われてる技術で隙間から一歩踏み出すきっかけにするためだったのにお前ときたら……」
「あ、そういえば量産型永劫機生産のために検査とかされましたね。あれってどうなったんですか?」
「結論から言うとガラクタしかできない」
「ひどい!?」
「ウォフ・マナフのボディはうちでも作れる。でもな、お前みたいに人型を取らせたり時計に戻したりはできない。何より思考回路兼動力炉の時計はうちの技術部じゃお手上げだった。つうかもう訳わからん」
 永劫機の機能の中枢は核の懐中時計に集中している。あれと比べれば他の手足は枝葉のようなものであり、実際何度か手ひどく壊れても時間が経てば自動で修復されていた(もっともウォフ・マナフはウォフと悪心の相互補完システムになっているらしいので一方の懐中時計を破壊されても再生できるのだが)。
 その懐中時計が永劫機の人工知性を司り、巨体を動かすエネルギーを生み出し、様々な時間制御能力を発揮させている。どう考えても現代科学、どころか超科学でも可能か怪しい技術だ。
 何より、『対象の残された時間を削ってエネルギーとする』永劫機の大前提が理解不可能だった。『残された時間』などという今は存在せず未来にしかないものを対価に莫大なエネルギーを生み出すそのシステムは成り立たせる仮説すらも立てられないと、うちに所属する超科学技術者は言っていた。
 永劫機の脳にして心臓である懐中時計はブラックボックスとしか言いようがないってことだ。
「本当に……お前ら永劫機って奴は何なんだ?」
「えーっと、人類?が作り出した?秘密?兵器?ですよ?」
「わかってないのが丸わかりの発音だな」
 ウォフは途中で放り出されたからか知ってることが少ない。それは悪心も同じなので永劫機が何なのかってところはあいつも知らなかった。
「あ。でも誰かが『兵器』であると同時に『望みしヒトが望みを叶える手段』でもある、って言ってましたね」
「……誰が?」
 『望みを叶える』という部分が昨日一昨日と聞いた『断片』の名前が脳裏を掠めたが、それよりもウォフが誰からそんなことを聞いたのかが気になった。
 が、
「お、思い出せません」
 ポンコツだったなこいつ……。
「しかし、永劫機が『望みしヒトが望みを叶える手段』……ね」
 なら俺は何を望んでいる?
 元々はうちの会社のためだったがそれはもう無意味だ。
 センドメイルや刺客と戦うための力や永劫機の情報を探しはしたが、あれが永劫機で叶える望みなら本末転倒もいいところだ。
 俺が永劫機で叶えたい望みってのはなんなんだ?
「まぁ……どうでもいい、か。荷降ろしも終わったし欠品もなさそうだ。そろそろ帰るぞ、ウォフ」
「はい、…………?」
 不意にウォフが振り返って海を眺める。つられて俺も目を向けるが海上には先刻と変わらず埠頭に接岸している十数隻の船と出航、あるいは入港のために航行する数隻の船があるだけだ。
「どうかしたのか?」
「なんだか変な気配が……」
「お前がそんなに勘が鋭いとは思わなかったな。つうかこれまでさんざっぱらセンドメイルやアルフレドに奇襲を食らいまくってた奴にそんなこと言われても、ッ!?」
 俺の言葉の途中でそれは起きた。
 突然の爆発音。
 立ち上る水柱。
 そして、横っ腹や船底に大穴を空けて沈没する船舶。
 それらが意味するのは、
「魚雷だと!?」
 魚雷《トーピード》――船舶を行動不能、ひいては撃沈するために造られた兵器。
 そんなもんを、この湾内で撃った奴がいる。
「どの船だ! 戦艦なんざいるわけもねえし、原潜が潜れる深さでもねえぞ!」
「ご主人様、あれです!」
 ウォフが指さした先にそれはあった。
 水中から突き出した一枚のヒレ。鮫か海豚のものに見えるそのヒレは、決してそのどちらかのものではなかった。
 なぜならヒレの両脇には三連装の砲門を備えた艦砲が並び、時折水中から覗く鱗は金属の光沢が混ざっていた。あれが鮫や海豚のわけはない。あれは……。
「ラルヴァか……!」
 ウォフの、永劫機の気配にでも釣られて寄ってきたか。いやそれなら最初に無関係の船を沈没させた理由がわからない。
 むしろ、あの船が原因なのか? この時間帯にこの港で船を動かす連中は何か妙なものを運んでいるのが普通だ。あの船にも何かが……。
 いや……、相手の目的が何にしても今は……。
「しゃ、社長!?」
「うろたえてもいいがまずは逃げろ。海から距離をとって安全な場所に避難しろ。……俺はもう死亡手当てを工面するのはうんざりだ」
 寄ってきた部下に言い放ち、避難指示を他の社員にも伝えるように命じた。
 俺も一緒に非難してもよかったが……少し状況がまずい。この港にはまだうちの船もある。放っておけば何もかも壊されかねない。
 なら、やるしかねえ。
「ウォフ・マナフを出すぞ。応戦だ」
「はい!」

 ――好機は既に逸した
 ――青春は既に過ぎた
 ――時、既に遅く、気づけば喪いしものなり

 ――時は、掌中より滑り落ちる

 俺が式文を唱えるとウォフの体が変形を遂げる。
 少女の容姿が分解され、ウォフを構成していた弾機と発条と歯車と螺子は新たな形――瑪瑙の巨人の姿を作り上げる。
 即ち、永劫機午前六時の天使――『時感狂化』のウォフ・マナフの姿を。
『いきます!』
「ウォフ! 右から二つ目のコンテナを開けろ! 大型銛射出式水中銃《マーマンピアッサー》が収まってる」
『了解!』
 ウォフ・マナフが巨大な右腕で荷降ろしされたばかりのコンテナをこじ開け、中からドラゴンキラーほどではないが人から見れば十二分に長大な銃器を取り出す。
 ドラゴンキラーが対物狙撃銃《アンチマテリアルライフル》を巨大化させたものなら、こちらは名前の通りに水中銃を巨大化させたもの。水棲の巨大ラルヴァを相手にするため火薬ではなく圧縮空気で人間大の銛を射出する兵器だ。
 元の用途が水中から水中に向けて撃つ仕様な上に射程もサイズのわりに長くはない代物ではあるが、水深十メートルまでなら陸から撃っても皮膚をぶち抜ける。
 ウォフ・マナフが右腕でマーマンピアッサーを構え、海面を裂くヒレのすぐ下に狙いをつける。
「地対水の有効射程は百二十メートルだ、引きつけて撃つぞ」
『はいッ……!』
 サメもどきは陸上のウォフ・マナフに気づいたのか進路を変えてこちらに迫ってくる。好都合だ、そう思いかけて、
『目測、三百、二百六十……!?』
 先にあちらの射程権に入ったのかヒレの両脇の砲門が動き、直進するままこちらに砲撃を仕掛けてくる。
 その砲弾はウォフ・マナフに当た……らなかった。明後日の方向にあった船が砲弾により穴を開けられて火を噴いた。
『ご、ご主人様!?』
「……落ち着け、あんなバランスの悪いもんがそうそう狙い通りに当たるか」
 あのサメモドキは普通のサメより二回り大きいのが関の山。が、あいつが背中に載せた砲門は不似合いにデカイ。かつての艦船が強力な砲を載せるために巨大化したように、砲門に見合ったサイズがなければ安定した砲撃なんてできるわけがない。
 あのアンバランスな砲、ましてや高速航行中の砲撃となればその命中率は推して知るべし、だ。
「目測再開だ」
『は、はい! 百八十、百六十……』
 距離が縮まるにつれ少しずつあちらの砲弾もウォフ・マナフに近づいてきた。十メートル、五メートルと着弾点が近づく。
 間もなくウォフ・マナフ本体をサメモドキの砲弾が捉えるだろう。だがその前に
『……百二十!』
「撃ェッ!!」
 サメモドキを射程距離に捉えたウォフ・マナフの発射したマーマンピアッサーが命中した。
 対水棲ラルヴァ用の巨大銛は容赦なくサメモドキの皮膚を貫き、肉を抉り、内臓を破壊する。
 だが、
「まだ動きやがるか」
 サメモドキは苦しげな苦鳴をあげて水中へと潜る。明らかに沈んだのではなく、潜ったのだとわかる潜水だった。
 サメモドキの潜った波紋が消えた後の海面には奴が傷口から撒き散らした赤とも黒とも、血とも重油ともつかない液体だけが浮かんでいる。
『逃げたんでしょうか?』
「……違うな」
 潜水状態ではあの砲は使えないだろうし、陸上のウォフ・マナフに魚雷は届かないし魚雷程度の速度なら避けられる。対地攻撃ミサイルでも積んでるなら話は別だが、あのサイズにこれ以上武装を載せるのは物理的に無理だ。
 だから一見あのサメモドキには何もできないように見えるが……。
「サメモドキはこちらが攻撃も窺い知ることもできない深さで陸に接近してから急浮上、至近距離で砲撃を浴びせかけるつもりだ」
『ど、どうすればいいんですか? そんなの手の打ちようがないですよ?』
 ……普通にさっさと海面から距離をとるって手もあるが、今回その手はとらない。次の攻防でケリをつける。
「今のサメモドキの位置はわからなくても海面に近づけば直前で位置はつかめる。そしたらまた銛をぶちこんでやれ。あっちの砲は海面に出なけりゃ使えないがこっちのマーマンピアッサーは水中のサメモドキを狙える」
 それに……まだ他の手がないでもない。
『わかりました!』
 ウォフ・マナフが新たな銛をセットしたマーマンピアッサーを海面に向け、ウォフが海面下に目を凝らす。
 それきり俺もウォフ・マナフもサメモドキも音を立てず、ただ静かにその瞬間を待っている。今この港にはただ潮風と埠頭をうちつける波の音だけが流れている。
「チッ、港だってのにまるで西部劇だ。胃が痛くなる」
 俺の舌打ちも呟きも風に流れ、また港は静寂に包まれ……?
 ……何でこんなに静かなんだ?
 俺やウォフ、うちの社員以外にもここには大勢の人間がいたはずだ。そいつらの声は何も聞こえない。
 何だ、これは? あのサメモドキが何か仕掛けたのか?
 違う。いくらなんでもこれは能力の系統があのサメモドキとは違いすぎる。
 ならこいつは……。
『ご主人様!』
 俺の思考を中断させるようにウォフが警告を発した。海面には、徐々に勢いを増す水泡が浮かんでいる。
 直後に海中から何かが急上昇し――
『発射!』
「……違うッ! それじゃねえ!」
『え!?』
 時既に遅く、ウォフ・マナフの指は引き鉄を引いていた。
 射出された銛は空中で海中から飛び出したそれと交差して海中に没した。
『魚雷!?』
 射角の合っていない、ただ単に高速で水中から飛び出してまた落下する、的外れにも限度がある魚雷。
 だが、その魚雷の及ぼした効果は最悪だった。
「野郎、攻撃に使えない魚雷を囮にしやがった!」
 こちらの攻撃のタイミングを外してサメモドキは海中から姿を現し、先手を取って至近距離でこちらに砲門を向ける。
 命中すればウォフ・マナフでも破砕できるほどの巨大な砲門。
「だがな……」
 それを載せた砲塔は回転してこちらを向き――そこで停止する。
「時感狂化《マッドタイム》は――発動《スタート》してんだよ!!」
 生憎とこっちの奥の手は先手を取られても後手に回らねえ!
『マスター、三発目を……』
「セットする暇はねえ! リミット解除でぶん投げろッ!!」
『了解!』
 永劫機《ウォフ・マナフ》がセーブしていた契約者の時間吸収を基準値へと開放する。
 一瞬後にウォフ・マナフは本来の出力を取り戻し、二瞬後に人外の膂力で銛をサメモドキに投擲した。
 銛は時感狂化で思考が停止したままのサメモドキの脳髄を穿ち、その思考を永遠に停止させた。


『か、勝てました……』
「……武器が手元にあったのは不幸中の幸いだった。そんなに強い相手でもなかったし、な」
 少なくともマスカレード・センドメイルの異能力者よりは随分と格が落ちる上に、皮肉にもあの面倒ごとのせいで永劫機での戦いにも慣れてしまっていたらしい。あのサメモドキに負傷一つなく勝てたのはそのことが大きい。
 しかし無傷で勝ちはしたがあのサメモドキには強さとは別に妙なところがある。あの胴体と砲のアンバランスさだ。ラルヴァが進化の道筋として選択した形態にしてはいびつで、マスカレード・センドメイルのような技術者が作ったにしては整合性がない。
「ウォフ、あいつの死骸を岸に上げてくれ」
 俺は詳しく見てみるためにウォフに指示を出した。ウォフ・マナフは港の隅に束になって置かれていたロープで海面に浮かぶサメモドキの死骸を引き寄せ、陸に揚げる。
 はたしてサメモドキの奇妙さは俺の予想を上回っていた。
「……こいつ、何だと思う?」
『サメのさいぼーぐ、ですか?』
 鮫のサイボーグ。正解。そうとしか見えない。
 水面下に覗いていた鋼の装甲からアス某の鋼鉄魚群と同種の機械かと思ったが、間近で見れば装甲とまだらになるように生の鮫肌がある。
 ヒレの両脇に砲門があるのは見ての通り。下腹部には穴が開いていたので、どうやらここが魚雷の発射口らしいと知れた。
 頭部はまるで子供の落書きのような有様で、右目だけがロボットを思わせるセンサー義眼になり、左目は死んだ魚の濁った瞳を覗かせている。
 こいつが何なのか。どうしてこの港を襲ったのか。はっきり言って何もわからない。
 わかるのはこいつが自然とこうなったのではなく何者かの手によって改造されてこうなったということだけだ。
『ご主人様、これが何かはわからないですけど、戦闘は終わったんですよね?』
「…………」
 どうだろうか?
 たしかにサメモドキは倒した。海中に他の何かが潜んでいる気配もない。
 しかし依然として人の声は聞こえない。異常事態は続いている。
「……とりあえずウォフ・マナフは戻さずにこいつの時間を食っておけ。それと、念のために水中銃《ピアッサー》から|対物狙撃銃《ドラゴンキラー》に持ち替えておけ」
『わかりました』
 ウォフ・マナフは倒したサメモドキの時間を吸収し、時計の内部に燃料として蓄える。曲がりなりにもラルヴァ、今回の戦闘の代償を支払っておつりくらいはくるだろう。
『時間吸収完了、…………あれ?』
 あのサメモドキの襲撃を察知したときのように、ウォフが海のほうを見て何かに気づいたような仕草をした。
「……おい、今度は何だ」
『ご主人様、なんだか変な感じがします。アレから……』
 アレ、と言ってウォフが指差したのは海の上に浮かぶ箱のようなものだった。
 いつの間にそんなものが漂っていたのか。恐らくは最初に沈んだ船に乗っていたものだろうが……。
「…………」
 箱そのものに見えない糸で引かれるように、俺は海に浮かぶ箱に近づいた。
 近づくとそれが箱ではなくアタッシュケースであることに気づいた。海に放り出されたときに浮くようになっているタイプのものだ。
 アタッシュケースは波に揺られて埠頭に近づき、やがてコツンと岸にぶつかった。
「……ウォフ」
 俺が声をかけるより少し早く、控えていたウォフ・マナフが元からそうする気だったかのように手を伸ばして海上のアタッシュケースを拾い上げた。
『ご主人様、やっぱりこれ、なんだか変な気配がします』
「……なんとなくだがそんな気はするな」
 正直、嫌な予感しかしない。だが、ここでこれを開けずに放り捨てるのは最悪だとも、予感が告げていた。
 俺は間違いなく面倒なことになるだろうと確信しながら……ケースを開けた。
 中に入っていたのは一枚の石ころだった。
 丁度、四角い石版のようなものを四分割したのではないかと思える欠けた模様の描かれた正確に四角い石ころ。
 『断片』――としか言いようの無い物品だった。
「……なぁ、ウォフ。やっぱり俺はドッキリにでもかけられてるんじゃねえか?」
『だとしたら、私もセットですね……』


「ドッキリなのは俺だってーの。折角こんなところまで足を伸ばしたのにあの船は変な鮫に沈められてるしお目当ては人手に渡ってるし。
 すげーよねこれ。しかも拾い主が永劫機コンビっぽいしさ。何これ悪魔ちゃん? 俺ってばドッキリかけられてる?」
『貴方にそんなことをする理由は全人類の誰にも1ピコグラムもないでしょうね。だから違います』


 振り向くと、そいつらはそこにいた。
 恐ろしく目立つ赤いジャケットを地肌の上に羽織った長い黒髪の東洋人。
 その傍らには夜闇に溶け込むような漆黒と決して夜に混ざらない金色の装飾が施された――竜と時計を模した人型機械。
 今までどうやって気配を消していたのかわからないほどに、そいつらは存在を主張している。
 だからこそ、そいつらの出現はまるで俺自身が時感狂化にかけられたようなコマ落としの唐突さだった。
『ご、ご主人様……!』
「……、落ち着け」
『でもご主人様、あの機体は……』
「わかってる」
 あの黒い機体は永劫機だ。
 悪心のデータになかった容姿だから一番機のツァラトゥストラか後期生産シリーズ。ダ・ヴィンチの情報が正しければ今この合衆国にいる永劫機は……。
「そいつは、アバドンロードか?」
『……違います』
「ヒッヒッヒ、よりによってあの虫と間違われてやんの。ちょいと面白いなぁ悪魔ちゃん」
『いいえ全く』
 どうやら間違いだったらしい。|蝗の王《アバドンロード》らしくないデザインで違う気はしていたが、出来ればそうであって欲しかった。なにせ、そうでないなら残っているのは……。
「なら、メフィストフェレスか……」
「ヒヒッ。正解」
『ええ。私の名前はメフィスト。|メフィストフェレス《愛すべからざる光の君》』
 十二番目の機体。最強最後の……永劫機。
「ついでに俺の名前は我楽糜爛ってえのよ。お見知りおきをってね」
「ガラク、悪人《ヴィラン》ねぇ。偽名みたいな名前だ」
『悪党《ラスカル》のご主人様が言うのはどうかと……』
 うるせえ。
「へぇ、あんたはラスカルって言うのか。なんか世界名作劇場みたいな名前だっての」
 言ってる意味がよくわからん。それはそうとコイツはさっきから発音のおかしな英語をベラベラと……『~っての』が口癖か何かみたいに聞こえるぞ。
「それで? そっちのでかい永劫機は何て名前だい? 悪魔ちゃんは知ってる?」
『いいえ。私も見たことのない永劫機です……それだけでどの機体か予想はつきますけどね』
 予想、ね。
「こいつは……『時間重複』のロスヴァイセだ」
『嘘ですね。ロスヴァイセとは何度か顔をあわせていますがそんな馬鹿みたいに大きな図体はしてませんでしたよ』
 速攻でバレたか。まぁ、元からする意味もあまりないブラフだったが。
『私は自分で名乗りました。あなたも自分で名乗るべきではないですか? ウォフ・マナフ』
『……もうわかってるんじゃないですか』
 ああ、わかっているんだろうな。
 ウォフが永劫機午前六時の天使、『時感狂化』のウォフ・マナフであることも。
 プロジェクトの途中で放り出された未完成品だということも。
 その性能が決して十二番目のメフィストフェレスには届かないということも。
「……お前らは何が目的でここに来た?」
 あちらがウォフの正体の予想をすぐにつけたように、こっちも相手の目的はヴィランの最初の言葉で予想がついている。それでも確認するためにあえて質問した。
「んー? 俺の目的はあんたの手の中にある『断片』」
 やはり、コレが目的か。それならこいつをさっさと渡してこの場は……。
「とあんたの時間と永劫機、かねぇ?」
「!?」
 今、……何て言った?
『貴方の目的はその『断片』だけでは?』
「予定変更。この永劫機とのバトルは虫野郎とのりターンマッチの練習になるかもしれないからさぁ。それに、時間と永劫機を頂けばこっちの戦力は増強だって。高確率で勝てそうだし丸儲け丸儲け」
『……はぁ。貴方はいつも思いつきだけで動いてますね』
「それが俺の個性だっての。どうよ悪魔ちゃん? 俺みたいに自由な男はカッコイイと思わない?」
『いいえ全く』
「わぁすげえショック」
 そうしてヴィランはケラケラと笑う。
 傍から聞いているだけならまるで冗談のようなヴィランとメフィストフェレスの会話。だが、
「…………」
 永劫機と軽口を交わしながら、薄く開いた瞼の奥でヴィランはこちらの様子を虎視眈々と伺っている。
 こいつは冗談みたいなことしか言ってないが……冗談一つ言ってない。全部本気で言ってやがる。
 そういや悪心のところで他の永劫機と戦ったときの勝率の話をしたな……こいつらを相手にしたときはどのくらいだ?
「ハッ……どうせ高くはねえだろうけどな」
『ご主人様……』
「やるぞ、ウォフ。こんなわけのわからねえ展開で死んでたまるか」
『……はい!』
 88mm対物狙撃銃《ドラゴンキラー》を構えた瑪瑙色のウォフ・マナフが俺の前に歩み出て、漆黒のメフィストフェレスと対峙する。
 相手に倍する巨体を誇り、長大な銃器を手にしたウォフ・マナフ。
 それでも、発せられる威圧感は漆黒が勝っていた。
「そんなデカブツ担いでるってことは準備万全ってことかい? まー、そうじゃなきゃ対永劫機戦の練習にもなりゃしないだろうからねぇ、っと」
 ヴィランが両腕を流れるように動かし、まるで武術の自然体のような体勢をとる。
 メフィストフェレスもシンクロするように両腕を動かせ、自然体を取り――両腕からクロームの輝きを放つ長剣を生やした。
『――時を刻みし針なる剣』
「こっちも獲物を出して準備万端……さぁて」
 ヴィランとメフィストフェレスが上体を傾け、前傾姿勢をとった。スタイルはまるで違うが獲物に飛び掛る肉食獣を連想させる。
 その姿勢がヴィランとメフィストフェレスの臨戦態勢であり、次の瞬間には闘争が始まるのは明白だった。

 これから後、悪党《俺》と悪人《ヴィラン》は何度か戦うことになる。
 俺の人生で最も因縁深い敵、我楽糜爛。
 ただし、この一戦目に限って俺とあいつに縁はなかった。
 俺は碌に知りもしない『断片』が原因の騒動に巻き込まれた被害者で。
 あいつは

「そんじゃまぁ、『断片』と時間と永劫機……全部纏めて頂くってのよ!!」

 ただの強盗だった。


 壊物機
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