【クラスメイトの話をしてみようと思う】


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【クラスメイトの話をしてみようと思う】


――クラスメイトの話をしてみようと思う。

 彼女の名前は久遠千里。勉強は学年トップクラスで運動はそこそこ出来るほうだ。もっとも、化物ぞろいのこの学園からしてそこそこであるのだから、おそらく一般的な学園にいけばそれはそれは恐ろしいことになるのではないかと私は思っている。
 さて、容姿のことについて少し言及してみようと思う。眼鏡をかけているけれど近視ではなく極度の遠視のとのことだ。理由は彼女と親しくなって知ったことではあるのだが、実のところ親しくなったこととその理由を知ったことには少々の因果関係が生じるので後述させてもらおうと思う。
 家族構成には両親と兄が一人居り、少年が好きで仮面を被り、奇行が目立つと以前耳にしたことがある。他人の噂に無関心な私も知っていることなのでよほど有名なことなのだろう。
 そんな彼女であるが、クラスの取りまとめる役を教師から仰せ付かっている。世話好きと言うわけではないが教師からの覚えがよいせいの弊害なのか、クラスでは浮いた私、そしてアクリスと組まされることが多々ある。あだ名は委員長。
 いわゆるところの「せんせー○○ちゃんがひとりでーす」「じゃあ仕方ないわね。○○ちゃんの班に」というやつである。
 ……自分で言ってて悲しくなってきたのはここだけの話だ。
 昔はこんなこと慣れっこだったはずなのに。私を弱くしたのはアクリスなのでいつかきっと責任を取ってもらうこととしよう。
 まあ、そんなわけで、こんなわけで、私と彼女の接点はそういったところから始まった。おかげさまでアクリスが私以外で一番多く会話をしていると言う、恐らく可哀想な人ともいえるのかもしれないがそれは天命として諦めてもらうこととしよう。
 何故かって、私が、アクリスが、シロちゃんが、彼女のことをもう大切な友人と思っているからだ。
 それでも最初の頃は事務的で、どこか冷たい印象のあった人なので、だからこそ今日はその話をしようと思う。
 そんな彼女と、初めて一緒に戦った日のことを。
 そんな彼女が、どんな人か知った日のことを。
 私達が『トリオ+1』と呼ばれるきっかけになった事件を、今日はその話しをしようと思うのだ。

「絶望的ね」
 最初に“それ”を見た久遠さんの一言。それに私も思わず頷いた。
 眼下にはゆうに百を越すラルヴァの群れ群れ群れ。大規模な討伐遠征と聞いた私たち――双葉学園の生徒が大規模とは言え主戦力はまた別としてチームごとに班を分け、それぞれの戦力ごとにバランスよく配置されていたはずなのだが何故か私たちの眼下には百で済めばいいと思えるだけのラルヴァ。どこで間違えたかは分かっているのでこの際簡単に説明しておくことにする。
「あ、おいしそうなキノコだよ!」
「こーら! そっちは急斜面になっ……きゃぁぁぁぁぁ」
 と、言うことである。お分かりいただけなら幸いだ。
 もう少し注釈するなら、思わず手を伸ばした私も一緒に落ちたとか、ついでに斜面から落ちた際に足を痛めたとか、アクリスが持って降りてきたキノコがやたらラルヴァを興奮させる匂いを発していたとか、そのキノコを真っ先に取り上げようとしたラルヴァのこめかみにアクリスが正拳突を入れたとか、入れた相手がラルヴァの群れの長で群れ全体がいきり立ったとか、とりあえず襲ってきた三匹くらいを完膚なきまでに痛めつけたとか、本当に些細なことが重なり、おかげさまでその間に私はシロちゃんの背中に乗り久遠さんと高台に逃げることが出来たのだが、何はともあれ本当に、本当に些細なことが重なったとしか自分に言い聞かせたくないようなことが起きて今に至っているわけである。
 だから少しだけニュアンスを変えてこの状況を言ってみよう。運命的。何か素敵な響きがした。……それだけだった。

「困ったわね」
 久遠さんが呟く。本当に困ったというよりも面倒くさいという顔だ。
「元を正せばアクリスが悪いけど落ちた私も悪いし……」
 足を捻って動くことができてなくなった私を責めようしないのは久遠さんなりの心遣いなのか少し分からなかった。
「んーとりあえずー私がどっかーんてやるからその間に二人はピューっだよ」
 私たちに少し送れて高台に上ってきたアクリスが突然言い放った。私は意味が分かったのでそれを否定する意味で何も答えなかった。ただ久遠さんは最初、その意味を理解できずに少し考え、
「あんた馬鹿でしょ」
 と一蹴した。
「そうなの?!」
 などと言いながら心底意外そうに答えたアクリスが本気のつもりだったのは私には最初から分かっていた。
「先に言っておくんだけどさ……」
 この絶望的な状況で久遠さんが言うとすれば私たちへの不平や不満だろう。私はそう思っていた。アクリスとシロちゃんならここを生きて帰る事が出来るだろう。
 でも私は?
 そして久遠さんは?
 例え、さっきの作戦を使ったとしても私と久遠さんの生存率は五分もない。まして足を痛めた私はまず生きて帰ることはできないだろう。そもそもアクリスだけを置いていくのも虫が良すぎる話だ。
 アクリスとシロちゃんでなら下にいるラルヴァを殲滅するということも可能だったかもしれないが私たちに牙が向かないとも限らない。もっともそれも全て戦闘を押し付けるなんて少し虫のいい話だけれど。
 だからわりとそんな絶望的な状況になったからこそ、彼女は、久遠さんはきっと私たちに、最後になるかもしれない不平不満をぶつけてくる、そう思っていた。
 でも、違った。
 結論から言えば彼女はこの状況を絶望的だと答えた。ただし、私と違う意味でだ。そこから違っていたのだ。
 私は「もう助からないかもしれない絶望的な状況」。
 彼女は「全員助かるけど手順が絶望的に面倒くさいからやだなー」。
 ということだった。もっともそれは後から聞いたことでは在るのだが。
 だからこそ「先に言っておく」の後に続く言葉を聞いた後にすぐに飲み込む出来なかった。
「凄く面倒くさいし疲れるから覚悟しておいてよね」
 とため息交じりで呟くなんてこと。

 久遠さんは肩で大きくため息をつく。
「とりあえずここを切り抜ける」
「うん、だから私が道をどっかーんって」
「いや、それロスでかすぎるから。それに全部倒す? アホらし。それこそ面倒よ」
 こんなぞんざいな言葉を使っただろうかと思わせるような言葉遣いだった。
「『あんた』と『私』と『織式部さん』、それとシロちゃんの「四人一緒」でならここを切り抜けられる」
「うんうん……うん?」
 アクリスが首を傾げて疑問符を継ぎ足した。
「四人……一緒……?」
「そ。四人一緒。貴女の『我、命ず』、織式部さんの『共有者』、シロちゃんの機動力、そして――」
 そういって彼女は眼鏡を外す。視点がずれたので目を細めたのか、本当に面倒くさくて呆れたような目をしたのかよく分からなかったがそれは初めて見た表情だった。
「私の『戦眼』。この四つを合わせればここを切り抜けられる。誰一人欠けることなく」
 私はその時に初めて彼女の能力を知った。戦場において真価を発揮する能力。一般的に“千里眼”と呼ばれるもの。その進化系とも言われたその能力を。
「作戦は簡単よ。面倒くさいけどね」
 そういって彼女はもう一言だけ笑いながら付け加える。「まあアクリスに丸投げするけど」と。そこで初めて私は彼女の笑顔を見た気がしたのだった。

「それじゃ行ってみましょうか」
「おうさ!」
「うん」
『開放、右の戦術眼』
 久遠さんがその異能の片翼を開放する。それは千里を見通す神の目。
 それを私が『共有者』で引き受け、アクリスに再共有する。
 全方位全天位の視覚野。普通の人間ならば処理しきれないものだ。能力者で在る久遠さん自身、完全な形での発動は無理だと答えた。でも一つだけ可能にする裏技があったのだ。
「それじゃアクリス」
「あいよ!『我、命ず――』」
 術の起動と同時に共有者を使い、強制的に介入する。そしてそれをそのまま久遠さんへと受け渡す。普通なら出来るはずのない芸当――私という仲介者とお互いの意思がなければなしえないことだった。
『汝、命ず――』
 久遠さんが呟く。これは命令ではなく契約。聖なる誓いの言葉。
「その使ってない頭をたまには使え!」
 ……酷い言葉だった。
 刹那、私を通し膨大な情報が行き来する。本来、久遠さんだけ処理しきれない視覚情報をアクリスに分けて送りつけたのだ。
「お? おおお?!」
 と、同時にあがる驚きの声。
「なにこれすごいよ! なんか私が私で私じゃないみたいになんだかよくわからないけどすっごいよ!」
 私もアクリスがなにを言っているかよく分からなかった。
「ん、うまくいったわね。これがあれば対人だろうが対ラルヴァだろうがあんたの性能があれば傷一つ負うことはないはずよ。何せ“全てを見通して”いるんだから」
 簡単に言えば人が踏み入れられる“神の視点”ぎりぎりの感覚なのだそうだ。もっとも私は介在するだけなのでまったく分からない。これを知っているのは本来の持ち主――とは言っても今回はバックアップに回っているのでこの“神の視点ぎりぎり”の感覚を久遠さんは知らないだろう。なので恐らくこの感覚を知った人間はアクリスが始めてなのかもしれない。
「私はあんたのバックアップに回るからあとはシロちゃん」
「キュ?」
 今まで相手にされず寂しげにしていたシロちゃんがうれしそうな声をあげる。
「私と織式部さんを背負って運んでもらえるかしら? さっきと情勢は変わってないけれど条件は大きく変わったわ。今なら最小限度の道筋を“導いて”逃げることができるから誰かを犠牲にとかそんなことせずに行けるわ」
「キュキュ!」
 とどこか誇らしげに胸を張ったかと思うと白い狼のような姿に変化する。それにまたがる私と久遠さん。
「それじゃアクリス、いきましょうか」
「アイサー! ボス!」
 そうして私たちは高台を駆け下りる。
 最小限の道を“導き”突き進む。たまに道を塞ぐラルヴァも居たがアクリスに一瞬で倒されると、そこにまた新たな道が生まれる。まるでそこに最初から道があったかのように。
 それは見ているだけの私にとってジグゾーパズルがどんどんはまっていくのを見ているだけのようだった。
 そして絶望的かと思えたあの場をほんの数分で無傷で駆け抜けた。
 そう、誰一人としてかけることなく。

 そしてこれが私たちの始まりだった。
 これから長く続く私たちの始まり。
 もっともあとで色々怒られることになったのだが、これから先、さらに怒られる事件が起きたのでそんな意味でも記念すべき日の始まり。
 それと事を終えた彼女の一言が印象的だったことを覚えている。
「今日は大変だったね。迷惑かけてごめんね」
「あーマジ面倒くさかったわ。まあいいけどね」
 一仕事後に伸びする姿はよく見たことがあったけど内心はいつもこんな感じだったのだろうか。
「あの、もしかしてキャラ作ってたりしてたの?」
「んな、面倒くさいことするわけないでしょ。人と角を立てるのが面倒くさくて誰とでも公平に接してただけよ」
 そういうのをキャラを作るというのではないのだろうかと思ったが押し黙ってみた。
「じゃあどうしてアクリスには必要以上に突っかかったりしてたの?」
「んー? あーあれね。私さ、面倒くさいことが嫌いなんだけどさ、実のところ面倒くさいことよりも理解できないことがあったらそっちを優先するのよ」
「?」
「ちょっと説明しづらいか。まあ簡単に言うと、あの子は変だから見てて面白いってことよ」
 と、二度目の笑顔を私に見せてくれたのが少しうれしく思えた。
 そして、そんな久遠さんもちょっと変だよ、というのはもう少し仲良くなってから言おうと、私はちょっとだけ思うのでした。

 最後になったが前述の通り彼女のあだ名は「委員長」。
 そう、あだ名なのである。もちろん呼び出したのはアクリス。
 では「本当の委員長」が他に居るのをみんなは知っているのだろうか?
 少なくとも私と久遠さんと委員長だけは知っている。本当に変な話だ。

                                  ―了―

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