【ロボ娘に恋した少年】


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 ロボ娘に恋した少年





 ロボットコンテストまであと一日。
 第三科学部、その部長である佐藤《さとう》千代子《ちよこ》は頭を抱えていた。
 千代子はビン底メガネにダボダボの白衣を着こんでいて、『ちんちくりん』という言葉がよく似合う女子高生の女の子だ。背が低く、出るべきところも出ていない。色気の欠片も無い。
 だがそのかわり頭は良く、数々のロボットを造ってきた彼女ではあるが――
「人型ロボットが……造れない!」
 それが彼女の大きな悩みになっていた。
 千代子は部室で挽いたブラックコーヒーをがっつりと飲みほし、パソコンの画面に映し出された設計図に目を向ける。
 そんな様子でロボットを徹夜で造り続ける千代子を見て、部員の天井《あまい》亜芽《あめ》は後ろからそっと毛布をかけてやった。
「もう、少し休んだほうがいいですよ先輩」
 千代子はぶるんぶるんと爆乳を揺らし、童顔で可愛い顔をしている亜芽をじろりと睨む。
「休んでなんかいられないわ。あと一日よ、明日なの。いまだに設計図もできやしないってのに」
 そう言って背伸びをする千代子を見て、亜芽は苦笑するしかなかった。
 ロボットコンテスト優勝は千代子の悲願だと、亜芽は知っている。学園が主催するかなーり小規模なコンテストではあるが、学園中の超科学能力者が自前のロボットの出来を競うというものだ。
 だが、残念なことに千代子には人型ロボットを造るだけの技能は無い。
 もっとも、学園の中でも限り無く人に近いロボットを造るなんて、ほぼ一個人である学生には不可能だ。逆に言えば人型ロボットを完成させれたならば、優勝はもらったも同然なのだという。
「あの二年C組にいる、デタラメメイドロボのようなものを造らないと駄目なのよ! わかる? あたしは廊下を歩くあれを見て絶望したわ! あたしがいつも造ってるこんなお掃除ロボットなんて、あれに比べたら学研の付録レベルだわ!」
 千代子は発狂したように頭を抱えて立ち上がり、部室に転がっているガラクタ――いや、人型ではない小型ロボットたちをガンガンと蹴り始めた。
「ああー! やめてください先輩! おちついて、おちついてください。ほら、おっぱい触っていいですから!」
「ふーふー。ああやわっこい」
 亜芽は千代子を後ろから抱きついて押さえつけ、千代子は亜芽の大きな胸に包まれてようやく落ち着きを取り戻したようだ。
「大丈夫ですよ先輩。こういうロボットが造れるんですからきっと優勝できますよ」
 亜芽はなだめるようにそう言った。
 実際部室に放置されているロボットたちは女子高生が個人で造ったものにしては出来すぎるものである。
「これなんかいいじゃないですか。女性型AI搭載のお掃除ロボット『D-64』!」
「ああー駄目駄目。人工知能は女なのに見た目ぶっさいくなんだもん」
 二人が視線を移したのは、部屋の隅でホコリをかぶっているものであった。千代子の言うとおり、そのロボットは卵型の白いボディに、三つの車輪とマジックハンドがくっついているだけの代物である。その簡素なデザインは軽量化、量産化には向いているのだが、ロボットコンテストなどにはとても出せるものではない。
 だがこれは現状の千代子の技術的には、最高傑作である。
 その理由は人間の女の子をベースとした人工知能である。学園に在籍する人気の高い女生徒たちの人格を基盤として造られたものだ。
 だがデザインを人間そっくりの造形にしあげるのは千代子には無理で、結果、中途半端な作品となってしまったのだ。千代子はそのお掃除ロボット、『D-64』を失敗作として黒歴史扱いにしていた。
「でも、さすがに後一日でこれより出来がいいロボットを造るなんて無理じゃないですかぁ?」
 亜芽にそう言われ、千代子はどうしたものかと腕を組む。
「確かに、人工知能だけは過去最大の出来なんだよねー。でもやっぱり造形の問題が……」
 ぐぬぬと地団駄を踏み、どうにもならない問題に千代子は憤る。すると、なんとなく、亜芽はぽつりと言葉を漏らした。
「見た目がよければいいんですけどねぇ……。どうにかして可愛く着飾れば……。ああ、このロボットにメイド服着せるとかどうですかー?」
 場を和ませようと冗談で亜芽はそう言う。だが、千代子はそれを聞いてぱちんと指を鳴らしたのである。
「それだ亜芽! よくぞ言った。いいことを思いついたぞ!!」
「え?」
 いきなりテンションを上げた千代子に、亜芽はぽかんとするだけしかなかった。
「これで美少女型お掃除ロボットが完成するぞ。ロボットコンテストもあたしが優勝だ!」




 ◇◆◇◆◇◆◇




 蔵丹《ぐらに》悠人《ゆうと》は飢えていた。
 何に?
 女に、である。
 そういう言い方をすれば身も蓋も無いのだが、多くの男子がそうであるように悠人もまた、恋人を作りたいのであろう。
 彼は高校二年生になった今でも、彼女の一人も出来ていないのである。
(ああ、女の子とお付き合いしたい……。可愛い女の子といちゃいちゃしたい……)
 そう頭の中で願っても、現実は非情で、学園には美少女がたくさんいるが誰も自分の相手をしてくれはしない。
(モテてーなー)
 ぼんやりとしながら悠人が中庭を歩いていると、ふと人影が目の前に見えた。
 そして、目を疑った。
 目の前には見たことも無いような美少女が箒を持って掃除をしていたのだ。
 長い金髪に、フリルのたくさんついた白いドレスを身にまとい、胸は大きくスタイルもいい。顔は、まるで人形のように綺麗だった。
 そんな美少女がなぜか学園の中庭で箒を持って掃除しているのである。そんな摩訶不思議な光景に、思わず悠人は頬をつねってこれが夢なのかどうか確認する。
(痛い……ってことは夢じゃない。ってことは理想の美少女が目の前に――いる!)
 悠人は胸を高鳴らせた。
 夢にまで見た金髪美少女が目の前にいるのだ。どうにかしてお近づきになりたい。
 悠人は勇気を振り絞り、その美少女に話しかけることにした。
「や、やあキミ。こんなところで何してるの?」
 すると、ようやく美少女は悠人に気付いたようで、ふっと彼のほうを振り向く。
 青く輝く瞳が悠人を見つめる。
「わたくしはお掃除を、シテイルのデス」
 美少女はそう悠人の質問に答える。
 だが、その言葉は妙にぎこちなく、片言のようだった。見た目通りに外国の子なのかな、悠人はそう納得する。それでもどうやら日本語は理解しているようなので一先ず安心だ。
「きみ見かけない顔だね。この学園の生徒じゃないよね?」
「ハイ。ですがわたくしはこの学園で生まれたのデス」
(学園で生まれた……?)
 どういう意味だろうか。この双葉区で生まれ育ったって意味なのだろうか。だとすると片言なのは少し変だな。
 不審に思いながらも、悠人はその疑問を口には出さなかった。
 なんだかそういう細かいことを気にしてしまったら、幻のようにかき消えてしまうのではないかと思えるほどに、その美少女には現実味がなかった。
 まるでファンタジーに出てくるお姫様のようである。
「あの、俺は蔵丹悠人っていうんだ。きみ名前は? よかったら教えてよ」
 普段悠人がこうして積極的に女の子に話しかけることは無い。それゆえに女子と付き合えないのだから。
 だが今回はそういうわけにはいかない。
 今、この期を逃したら、彼女は二度と自分の目の前に姿を現さないんじゃないか。そんなことを思ってしまう。
「わたくしの名前はD――いえ、ドロシーというのデス」
「ドロシー……」
 なんて可愛い名前なんだろう。
「ドロシーちゃん。俺と、俺と付き合ってください!」
 悠人は何を血迷ったのか、突然そんなことを言い放った。
 自分でも何を言い出したのか、悠人本人も理解できない。一目惚れというのは厄介だ。その根底には理屈はなく、自分でもわからない行動をとってしまうものである。
 ドロシーは唖然としているのだろうと思ったが、なぜか彼女は無表情であった。
「あ、あの……」
 我に返った悠人は、おそるおそるドロシーの顔を伺う。
「ダメです……」
「な、なんで!」
 なんでもへったくれもない。いきなり見知らぬ男子に告白して、オーケーする美少女などまずいない。だが、ドロシーはそういう意味で駄目と言ったわけではなかった。
「わたくしは、ロボットですカラ」
 ロボット……。
 その一言は衝撃的で、悠人の頭をゆすぶるには十分だった。
 だが、人型ロボットというのはこと双葉学園においては決して珍しいわけではない。 
 ここは人外魔境の双葉学園。怪物と人間が交流することができるなら、ロボットと人間だって愛し合うことはできるはずだ。
 今悠人はそんなことを考えていた。
 恋は盲目。
「ろ、ロボットだっていい! 俺はキミを好きになってしまったんだ!」
 普段の自分ではありえない情熱的なアプローチをし、悠人は思わず彼女の手をとった。たとえロボットでも、その美しい姿は嘘じゃない。それだけで悠人にとってドロシーを好きになるには十分な理由であった。
 だが、その瞬間悠人は違和感を覚える。
 手に取ったドロシーの白く綺麗な手が、|ブレていた《・・・・・》のである。
 まるで映像にノイズが入ったかのように、目の前の彼女の手が歪んだのだ。
「え? え?」
 悠人が混乱していると、どこからともなく女の叫び声が聞こえてくる。
「こらードロシー! 勝手に外に出るんじゃないわよ!」
 そう叫び中庭に現れたのは白衣姿のちんちくりんな女生徒であった。その女生徒はドロシーの背を押し、無理矢理どこかへ連れて行ってしまおうとしていた。
「お、おいあんた。その子は今俺と――!」
「うっさい。もうすぐコンテストが始まるのよ。バカは下がってなさい!」
 白衣の女生徒の剣幕に気圧され、悠人は何も言えなくなってしまう。咄嗟に二人を止めようと思ったが、二人はものすごい速さで走っていき、すぐに姿が見えなくなってしまった。
 こうして悠人の恋は一瞬で終わってしまった。
 ロボットでもいい。彼女と仲良くなりたかった。
「ドロシーちゃあああああああああああああああああああん!」
 悠人は大きく叫ぶことしかできなかった――




 ◇◆◇◆◇◆◇








「せんぱーい。これほんとに大丈夫なんですか?」
「はん。大丈夫よ、あたしの作戦は完璧なんだから」
 ロボットコンテストの会場で、千代子と亜芽は美少女型お掃除ロボット『ドロシー』のメンテナンスをしていた。
「だってそれ、|本当は《・・・》あのお掃除ロボット『D-64』なんですね」
「今はドロシーだよ。少なくともコンテストが終わるまではね。これだけ美少女なんだから優勝間違いなしだわ」
 自信満々にそう言う千代子に呆れかえり、亜芽は大きく溜息をついた。
 そう、この美少女の姿をした、悠人が惚れてしまったロボットの正体は千代子が造ったただのお掃除ロボット『D-64』である。
 本来なら卵型で車輪が三つとマジックハンドで構成されている簡素で無骨な、ただのどこにでもあるロボットだ。
 その『D-64』がなぜ美少女の姿をしているのか、それは――
「これ、だって、ただの立体映像《ホログラム》ですよね……?」
 そう、千代子がとった苦肉の策とは、そのお掃除ロボットに美少女の映像を張りつけることである。幸い高性能の立体映像を作る技能を持ち合わせていた千代子には、それが容易であった。
「そう、これでこの不細工な造形の『D-64』を美少女『ドロシー』に見せることができるのよ。これで審査員のハートもイチコロね!」
「ぜったいばれると思います……」
 亜芽はそう呟くが、千代子には届かない。


 そうして当然の如く、千代子はごく普通にホログラムがバレてしまい、ごく普通に落選したのであった。





 ◇◆◇◆◇◆◇



 それから。
 美少女ロボット『ドロシー』を探し求め、悠人は毎日のように中庭に足を運んだ。
 だがいつ行っても、そこには不細工な造形のお掃除ロボットが落ち葉を処理しているだけだ。
 しかし、不思議なことにそのお掃除ロボットはいつも悠人の後ろをくっついて回っている。
 不細工で簡素で無骨なロボットにつきまとわれ、悠人はうんざりしているのであった。
(ああ、こんなのに好かれてもしょうがねーよな。ドロシーちゃんどこ行ったんだろう)
 中庭には悠人の溜息と、お掃除ロボットの駆動音が虚しく響くだけである。
 「なあ、お前。こんなとこ掃除してねーで。たまには俺んちとかも掃除してくれよ」
 そう悠人はゴンゴンとロボットと叩く。
 「了解しシマシタ」
 その片言の機械音声はどこか嬉しそうで、どこかで聞き覚えがあるような気がする。
 悠人はほんの少しだけそう思った。



 (了)







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