【異能力研究室の補講】


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 異能力研究室の補講

※この話は『異能力研究室』シリーズをシェアさせて頂いた、一周年企画コンペ作となります。この場を借りて、シェアを快諾くださった作者様へお礼を申し上げます。


 2019年の某日。この日の『異能力研究室』講義は、いつもと異なる雰囲気に包まれていた。
 教室の窓は一つ残らずカーテンで遮られ、外の様子を見る事はできない。例えカーテンを開けたとしても、窓にはラルヴァ襲来等の緊急時用に用意されたシャッターが降ろされており、やはり外の様子を窺うのは不可能だ。それにも関わらず窓は常にガタガタと音を立て、今にも外れて、どこかに飛んでいきそうな不安を覚える。ドアも同様に、頻繁に音を立てている。まるで、校舎全体が揺らされているかのようだ。
 教室内の生徒がこの事態にざわめいている中、教員証でどこかと通話していた講師が、話を切り上げて学生の方へ向き直った。
「えー、どうやら訓練中だった学生が、制御に失敗して異能を暴発させてしまったようだ。醒徒会が動きだしたらしいし、それほど時間もかからずに解決するだろう。それまで、各自今の場所で待機していてほしい、とのことだ」
 相変わらずざわめきが止まない学生達と、不穏な事が起こっているに違いない外の気配との両方を無視して、講師は言葉を続けた。
「このままこうしていても仕方がない、今週の講義を始めよう……丁度いいことに、今回の講義は『異能力の制御』についてだ」




 ようやく喧騒が収まった学生達に対して、講義が始められる。
「異能をコントロールする、と言っても、人によって異能には様々な種類があり、実際の制御方法は千差万別だ。だが、だいたいの異能には、ある共通する制御方法……というよりも、根底にある概念、と言ったほうがいいかな。そういったものが存在する。手っ取り早く言ってしまうと『イメージを浮かべる』ということだ」
 それだけの言葉で、異能を持つ受講生はだいたい納得したようだ。だが数名、疑問符や腑に落ちない表情を浮かべている学生もいる。
「それって『集中しろ』とか、そういう精神論の話ですか?」
「精神論というよりは、もっと実際的なことになる。例えば、身体を動かすこと、もしくはモノを考えること。それと同列に、異能を使うこと、というものが並んでいると考えたほうがいい。皆、『背中に三本目の手が生えた』という場面を思い浮かべて欲しい。分かりにくければ『まったく知らないスポーツや踊りを始めた』でも構わない。はじめは、どのようにすれば想像通りに動くのかさっぱり分からないだろう。だが、試行錯誤やトレーニングを続けていくうちに、腕の動かし方が分かってくる。頭の中のイメージに近い動きが出来るようになる。これと同じ事が、たいだいの異能にも言える。もし『ぼーっとしている』ことが発動条件の異能があったとしても、その状態になるためのコツはあるだろう。この『イメージする』という訓練は、異能を持っていると推測されるがまだ未覚醒の学生に対するカリキュラムに、暫定的ながら取り入れられている」
 ここまで話したところで、学生の一人から「知り合いは、目覚めた異能をすぐに使いこなせていたけれど、これはどういう事なんでしょう?」という疑問が出た。
「そういう状況は、異能力者の覚えている技術と、目覚めた異能の特性とがかみ合った場合に多く見られる。例えば、格闘技を習っている人間が、格闘ゲームであるような『気の球』を出す異能に目覚めた場合を考えて欲しい。格闘技を習っているうちに、気合の入れ方や、それを発散させる技術について習っていて、それが『気の球』を出すプロセスと似たようなものだったとすれば、どうだろう。これまでに身につけた技術の応用で、すぐにその異能を使いこなせるようになってもおかしくない。さっきの例を挙げれば『三本目の手が生えた後、四本目の手も生えた』とか『後から似たようなスポーツを覚えた』といった場合を考えてもらえば分かりやすいと思う」
 疑問を投げかけた学生は納得したように着席したが、講師はさらに続ける。
「もっとも、時折それとはまったく関係なく、無意識に異能を使いこなせてしまう人間も居る。これは、元々身体が『異能の使い方』をおぼろげながら分かっている、と考える説が有力視されている」
 これまでと異なる方向に話が飛び、困惑している学生をよそに、話が続けられる。
「元来、人は生まれながらに『どのように二つの脚で歩くのか』及び『どのように水の中を泳ぐのか』ということが分かっている、という説がある。それと同じように、生まれた時から、もしくは異能に目覚めた時から、既に異能の使い方が分かっている……という例が、少なからず報告されている」
 ここで、静かに聞いていた学生の一人からツッコミが入った。
「『なぜ異能の使い方を覚えているのか』っていうことについては、分かっているんですか?」
「問題は、そこだ。なぜ使い方の記憶を持っているのか、等の根元的な疑問については未だ分かっていない。もっとも、先ほどの例で挙げた『歩き方を覚えている』という現象も解明できていない以上、これは異能の研究に関わらず、人体科学全体の課題だろう……初めから使い方が分かっているからといって、訓練しなくて良い、という訳ではないぞ。多くの場合は、訓練によって異能によって発生する効果が上昇することが確認されている」

 そこまで話して、周囲から質問が挙がらないかを確認する。細かい二三点に回答した後、講義は後半戦へ移行した。まだ外では不穏な気配が続いているようで、状況が終了すれば自動的に上がるようになっているシャッターも、降りたままだ。



「さて、異能を制御するために重要なことは述べたが……それでは『異能が制御できなくなってしまう』ための条件は、何が挙げられるだろうか。大きく分けて2つ考えられるが」
 講師のその問いのうち、一つ目は簡単に、複数の生徒から同じ答えが出た。
「集中できないような何かが起こった、とか」
「その通り。極端に興奮したり、落ち込んだり。スポーツや勉強と同様、精神状態によっては本来の異能を発揮できないばかりか、最悪、使えなくなったり暴走してしまったりする場合がある。時折、プロ野球のピッチャーでも予期しないビーンボールを投げてしまうように」
 学生に、喩えがあまりピンとこなかったのに少し落胆しながら、講義は続けられる。
「今、外で起こっているのもそういった何かだろう。もしくは、『異能で出来ること』と『異能でやろうとしたこと』が食い違ってしまったせいかもしれない。『コップに水を入れるために、ダムを開放した』と言えばいいだろうか。現場を見てないから、なんとも言えないが」
 今度の喩えは学生達に納得してもらえたようだ。続いて『二つ目』について学生達は考えているが、なかなか答えが出てこないらしい。しばらく、教室が静まり返った。
「二つ目だが……少し趣旨がずれるかな。『目覚めた異能が、そもそも制御できる物でなかった場合』が該当する。人は何もしなくても、勝手に心臓を動かし、酸素を身体中に分配する。そういった活動と同じように『勝手に使い続けてしまう異能』に目覚めてしまった場合が当てはまる。この中に、自分の意思で心臓を止められる人間は居ないと思うが……」
 周囲からくすくすと笑い声が漏れるが、講師のほうはいたって真面目な様子で、話を続ける。
「……極端な例を挙げてみよう。例えば『朝の挨拶をされた時、挨拶をしてきた相手に不幸が降りかかる』そんな異能を持つ人間が居たとする……ああ、ここでは細かい原理は抜きにして欲しい、あくまで例として適当に挙げているだけだから……異能に目覚めてしまった人はどうしようもできない。異能が勝手に『不幸にしてしまう』訳だからね。せいぜい、挨拶されないよう注意するか、もしくは人と会わないように引きこもるしかない。これは流石に極端すぎるが、異能が、使い手を縛ってしまうことも十分ありえるんだ」
 教室が、再び静まり返った。
「そういった場合は、異能を使えなくするということも考えなくてはいけない。もっとも、今のところそのために採れる手段は少ない。超科学で作られた専用の封印装置を使うか、もしくは『異能を封じる異能』を持つ人間に頼み込むか。後者は、風紀委員でそういう異能を持つ人が居たと聞いた事がある……自分が持ってないものを他者が持っている、ということ自体は、憧れの対象だろう。だが異能は『普通とは異なる力』であるだけで、便利なものばかりとは限らない。もう分かっているかもしれないが、改めて、覚えておいて欲しい」


 この時点で授業時間は終了したが、外の厳戒態勢が解かれないため、いくつかの質問を受け付けた。そのうち、別の場所で制御しているだろう窓のシャッターが開けられ、非常事態が終了したことを告げる。それと同時に、学生証経由で授業時間の変更についても通知された。
「外の方では終わったようだな……それでは、ここまで。他の授業に遅れないように」



 ******************



 私は教室を出て自室へと戻る途中、先ほどまで講義で話した内容について考え事をしていた。
(異能が使うものの精神状態に左右されるなら……いや、そうでなくても、特殊な状況に置かれている学生達に対する精神的なケアは重要な課題だ。だが、現状それが十分に出来ているとは言いがたい)
 頭の中でめぐらせている内容は、まるで先ほどまでの講義の続きを行っているかのようだった。ただ、あまり学生達には言えないような内容が含まれているが。
(理由はいくつか存在する。恐らく一番大きなものは『状況が特殊すぎる』ということだろう。思春期の少年少女に対する情操教育と、兵士に対する精神のケア。これを両立させなければいけない……私が知る限り、これまで人類はそういった状況に直面したことは無い。これまで教育者達は『自分達が知らないことを知っている子どもたち』の教育にさんざん苦労してきた。今の状況はそれの極北と言っていい)
 向かいから歩いてくる人と衝突しそうになったのを危うく回避しながら、思案を続ける。
(異能というものを知らないで育った大人には、まず難しい。1999年以降に生まれてこの島で育った者は、殆どは成人になってもいない。1999年以前は異能者の数が少なすぎ、そこから教育者となった者はさらに数えるほどだろう。1999年には子どもで、その後何かのきっかけで異能に目覚めた大人……も、まだ教育者としては経験が浅い。考えてみれば、今は過渡期もいいところだ)
 そこまで考えたところで、特に何の気も無しに廊下の窓へ視線を移した。
 窓の下、校庭兼訓練場のそこで、大柄な男が小柄な男子学生を背負っている様子が見てとれる。小柄な学生のほうは気絶している様子で、大柄な男の方は全裸だった。
(たしか、彼は……)
 今年の醒徒会メンバー、龍河弾《たつかわ だん》。全裸、で思い出した訳ではない……とすると、背負われている彼は、先ほどまでの騒動の中心人物か。なにやら話をしているようだが、ここからは口の動きが僅かに見えるだけで、声は聞こえない。
 彼にも、この学園に来た理由と、醒徒会役員となってやりたいことがあるのだろう……だが、
(彼らにばかり、任せるわけにはいかないな)
 いくら理由をつけようと、彼らにそれなりの理由や覚悟があろうと、本来自分達がやるべきことを、やらなくていいという事にはならない。
 そう考え再び歩き始めると、すぐ自室に到着した。ドアを開け、慣れた椅子へと座り込む。誰も見ていないのを確認してため息をつくが、心の中に暗いものはない。

「……よし」
 一言そう言って気合を入れなおし、自分の仕事を続けるため、机の上に置きっぱなしとなっていた資料に手をつけた。



※この話は筆者の解釈と想像による創作であり、D設定の域を出るものではありません。また、元シリーズ作者様の解釈とも異なる可能性があるのをご承知ください。






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