【遠藤雅と飼い猫と逢洲等華】


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  この作品から戦列復帰します!
  またよろしくお願いします

  スレ出没の本人証明として、一昨年投稿して削除してもらったものを再アップします



   遠藤雅と飼い猫と逢洲等華


 思い返せば兆候というものはそれなりにあったと思います。
 みくがまだ僕の部屋にいた頃の話です。僕はアイという黒猫を飼っていますが、梅雨の終わり際だったでしょうか、アイがいつもと違う調子で鳴くのです。
 高い声で、僕を求めるよう色っぽく鳴くのです。
 緑色のつぶらな瞳で僕を見つめ、何か誘うよう鳴き声を響かせます。椅子に座っている僕の足に、体をスリスリさせます。何だろうと思って背中を撫でてやると、アイは僕にお尻を高く突き出すのです。
 みくは、それを信じられないといった感じで、顔を真っ赤にして眺めていました。
「みく、アイは何を言ってるの?」
 耳まで赤くなっている彼女は、ずかずか近寄ってきて僕の頭をフライパンでぶん殴ります。
「知らない! 私は知らないんだから! ああもう節操のない!」
「痛いよみく。節操のないって、どういう意味?」
「私の口から言わせないで、ばかぁ!」


 それから数日が経ちました。
 みくがどういうわけか失踪してしまい、寂しい日々が続いていました。あっつい真夏の日に朝食を作るのはかったるいです。だからといってミルクをかけたシリアルはすぐに飽きます。
「朝ごはんがいない。みく、帰ってきてくれぇ」
 もう死にそうです。一人暮らしがこんなにかったるいとはと思ってもみませんでした。料理も掃除も何でも喜んでしてくれた幼な妻の存在が、今になって大きいです。
「僕が悪かった。おねだりのちゅーとか一切無視した僕が悪かった。いっぱい可愛がってあげるから、早く帰ってきてくれ・・・・・・」
 毎朝こんな風にして、僕は一人ぼっちの起床を迎えています。自分ひとりだけだったら朝食を取るのも面倒に思い、ずっと布団の中でくたばっていたのかもわかりません。
 だけどそうするわけにもいきません。飼い猫がいるからです。それも二匹。
 黒猫に加えてオスのキジ猫も仲間に入りました。ひょんなことから僕が治癒で病気を治し、彼もまた僕になついたようです。と、猫たちの世話があるために僕は毎朝起き、額に汗を滲ませながらごはんを用意してやるのです
「お前たちは他人から飯をもらって、気楽でいいなー」
 みくに聞かれでもしたら蹴っ飛ばされそうなことを、キャットフードにがっつく二匹を見下ろしながら呟いたものです。
 このオス猫がまた困った奴でした。行動の一つ一つが豪快なのです。キャットフードなど差し出した瞬間に食い尽くします。魚など丸呑みです。部屋では背の高い家具を飛び移り、僕の顔面にフライングボディアタックをかましてくれます。大切にしているエレキベースを倒され、大きな傷をえぐられたときにはもう泣くしかありませんでした。
 ジャズベがぁ! アルバイト頑張って買ったジャズベースがぁ――っ!
 高校時代、こっそりバイトに励んでようやく手に入れることのできたフェンダーの立派なものです。フローリングに涙を落とす僕を尻目に、キジ猫は悠々と部屋を歩き回っています。ご飯ヌキにすんぞ駄猫。
結局そんな可哀そうなことをするわけにもいかず、泣く泣くこの悪ガキにキャットフードをてんこ盛りにして差し出したというわけです。何の悪びれもなく、ご機嫌な様子でエサを頬張るその態度に、理不尽の最たるものを垣間見ました。


 これが僕の最近の日常です。しかしそんな平穏な夏休みをぶち壊す、大きな出来事がありました。
 冒頭に述べたように、アイの様子がおかしいのです。僕はアイのことが大好きですから、よく喉元を触ってあげたり、抱っこしてあげたり、膝の上に乗っけてあげたりします。
 そして妙なことに気づきました。乳首がものすごく張っていたのです。
 数日前にはそんな様子は見られません。何かの病気じゃないかと、そりゃあもう不安になりました。
 それから不安に拍車をかけるよう、僕は大きな変化を目の当たりにします。アイの食欲が一段と向上したのです。
 山盛りをかきこむ暴食猫と並び、アイもまたキャットフードてんこ盛りをぺろっと平らげます。こいつら僕より物を食ってるんじゃないかと思うと、軽くぞっときます。
 とにかくアイの身に何かが起こってる。猫に関してはみくが詳しいはずなのですが、色々あって現在彼女は僕のもとから姿を消しています。本当に惜しいことです。
「マサって付き合ってる人いないんでしょ? だったらその、いいんだよ? 私と、その」
そう上目遣いでもじもじ何か言い出した小学生のマセガキに、
「そうだなぁ、付き合うならおっぱい大きい子がいいな。手のひらにずっしり乗っかる柔らかおっぱい!」
なんてふざけて言い返したのが悪かったのでしょうか? 本当にごめん。そりゃ愛想もつくよね。
 話が逸れてしまったけど、とにかく僕はアイのことについて質問できる、「猫の専門家」を捜していました。


 表に出てだらだら汗をかくのが馬鹿らしくなってくるぐらいの、かんかん照りの正午でした。 
部活棟の空き地に、やはり彼女はいました。
「久しぶりじゃないか遠藤雅。お前も猫たちも元気にしてるか?」
 わんさかと群れる猫に囲まれ、ふわふわ気持ちが緩んでいるのは逢洲等華さんです。
 後になって知ったのですが、この子、学園の風紀委員長なのだそうです。
 与田の研究所に単身乗り込み、僕を救うため戦ってくれた黒髪の女剣士。そんな素敵な少女が裏で素行不良の学生をシめ、全裸の同級生を追い掛け回し、危なっかしいもう一人の風紀委員長の手綱を握っていると聞き、すごい人なんだなと感心させられました。
 ぱっと見たところ、端整な顔立ちをした美少女にしか見えません。真面目そうなのにスカートが短いのも、どこかエッチでいいです。
「うん? どこを見てるんだ遠藤雅。暑さで気が緩んでるのか。今から叩きなおしてやってもいいんだぞ?」
 そう不敵な笑みで「黒陽」を突きつけられ、僕は萎縮してしまいます。なるほど逢洲等華のスカートは鉄壁であるとは、よく言ったもんです。
「ところで何か用か。猫娘が帰ってきたのか? それならばぜひモフモフさせてほしい」
「残念ながら妻とは今も別居中です。そうじゃなくて、飼い猫について聞きに来たんです」
「ああ、前言ってた黒猫のことか。どうかしたか」
「いや、最近妙に食欲があって、お乳が張ってて。いったい何があったのかなぁってひいっ!」
 そのとき、たまらず僕は目を丸くします。
「詳しく、詳しくその話を聞かせてくれないか・・・・・・」
 剣豪少女は黒髪を前に垂らし、髪と髪の間からギヌロと僕を睨むよう見上げています。ゴゴと言う効果音が彼女の背後から蠢いています。
「話します! 白状しますっていうか、ちゃんと一から十まで話しますから、そんな目をしないでください!」


 逢洲等華さんから話を聞き、僕は卒倒しかけました。
 ふらふら目を虚ろにして住宅街を歩き、帰宅すると、僕はアイのもとへと駆け寄ります。
「お前、お腹の中に子供がいるのかい?」
 そうきいた瞬間、どこかアイの瞳からハイライトが消え、薄く笑ったような気がしました。僕もほとんど、同じような顔をしてアイと向き合っていたと思います。
 何てことでしょう。意味がわかりません。どうして家の中に閉じ込めているはずのアイが、妊娠をしているのでしょうか?
「まさか!」
 もう思い当たる節は一つです。ベッドの上で惰眠を貪っている、駄猫のほうを向きます。キジ猫は栄養価の高いものをたらふく食べているためか、前より一回り太った気がします。そんなやりたい放題な暴れ馬が、まさかアイを妊娠させるなんて・・・・・・。
「とんでもないロクデナシだよお前は!」
 手塩にかけて育てた愛娘を陵辱された気分です。このバカ!
『なら何故去勢させなかった! そんな状態じゃ当然交配は起こるだろう! バカヤロウはお前だ遠藤雅!』
 はい、おっしゃるとおりです。馬鹿野郎はどうみても私です。悪いのは僕です。何も言えねえ。
「ごめんねアイ。何もできなかったお父さんを許して」
 床に這いつくばって泣く僕の頬を、アイが舐めてくれます。彼女も悲しい微笑を浮かべながら、僕を慰めてくれます。それが余計に辛くて、僕は身が張り裂けんばかりの慟哭をあげました。


 夏真っ盛りのある熱帯夜。
 アイは元気な三匹の仔猫を産みました。母子ともに健康。
 どうなることかとやきもきさせられましたが、無事に終わって何よりです。万が一のときのため、いつでも『治癒』を行使できるようスタンバイしておりましたが、杞憂に終わったようです。
 アイが苦しみながらお産に入ったそのよそで、父親はぐうぐう寝息を立てております。これが自分の娘を孕ませた野郎だったら、ぶん殴って己の血を見せているところです。
 万が一アイが仔猫の面倒を見なかったときのため、へその緒を切るハサミなど色々と準備はしていました。そういう知識を教えてくれたのも、すべてあの猫大好き・剣豪少女のおかげで・・・・・・。
 ガキン!
 突然炸裂した形容しがたい金属音に、僕は思わずと絶叫していました。
「何? 何が起こったの」
 あたふたしながら、玄関のほうを向いたときでした。
 鉄製の扉に黒いバツの字が浮かび上がったのです。バツの字はだんだんとフォントが大きくなり、やがてドアはそのまま四つに分断されてしまいました。
 がこんがこんと大きな音を立てて崩れ落ちたドアの向こうに、逢洲等華さんが「黒陽」と「月影」を両手に構えているのを見ました。白く輝く二本の抜き身が、僕を体の芯から凍りつかせます。鋭い眼光がまさに猛獣のごとく、闇夜をバックにして浮かび上がっています。
「ぎゃあ――っ!」
 どうみても襲撃されています。善良な武士が悪代官の計略にはまり、あっという間に命を落とさんとするときの心境はこのようなものなのでしょう。風紀委員に成敗される心当たりなど当然ありません。
「ごめんなさぁい! 二度と逢洲等華さんのパンツを見たいなんて思いませんから!」
「お前は何を言っている? それより仔猫ちゃんを見せてくれ。 早く、早く、早く!」
 そう言いいながら、ずかずか僕の部屋へ入っていきました。「らめぇ、もうこれ以上女の子に入られたくないの」。ひどく困惑しながら、僕はその背中を追います。


 その後、逢洲等華さんは産まれたての仔猫をほくほくとした笑顔で、いつまでもいつまでも眺めていました。
 お乳にむしゃぶりつく仔猫たちをダンボール越しに見守るその横顔は、さながらお母さんのようです。いつもの、どす黒い瘴気のごとく殺気が全身からにじみ出ているあの逢洲等華さんとは思えません。慈母愛に満ちています。
 彼女が好きな人は、こういう側面に魅かれるのでしょうか。残念ながら僕にはまったくわかりません。それよりも床に落ちている物騒な凶器を早く持ち帰ってほしいです。怖いので。
 その後、彼女は夜遅くまで僕の部屋に居座っていました。
 けっしてやましい意味ではありません。彼女は無類の猫好きなのです。


『ねね、マサマサ。きいてきいて』
『なんだいみく。洗濯物ならもう無いよ』
『これ見てほしいの』
『うん・・・・・・? 母子手帳? これどっからもってきたオモチャなんだい?』
『このあいだお医者様のところに行ったらね、三ヶ月ですって』
『ははは冗談言ったらいけないよみく・・・・・・。僕は、僕は何も』
『この歳でお母さんになるなんて思わなかったナ。名前何にしようか? えへへ』
『NOぉおおお! 僕は何もやってない! そこまで人の道踏み外してない!』


 寝汗をぐっしょりかいて、フトンから飛び上がったときほど生きた心地がしなかったことはありませんでした。
 こんなのが正夢になったら嫌です。
 でも、現実味を帯びていてすごく怖い。
 そんなことを考えつつ、僕はアイたちの眠るダンボール箱を見ます。部屋の暗がりの中、みんな眠っているのか物音一つしません。僕の隣でキンタマを天井に向けて寝ているのは、その子たちの父親です。
 まずは仔猫の名前を考えてあげよう。
 どんな名前がいいかな?



 おわり

 フェードアウト
 画面隅でみくさんが「何よ」と睨む



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