【双葉学園体育祭の開会と1000m走】


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

双葉学園体育祭の開会と1000m走


 秋のある日、学園都市はいつになく活気に沸き、早朝から街の空気は既に起きていた。
 それは今日から開かれるイベントとそれに参加する学生達によるものだろう。
 双葉学園全学対抗体育祭。双葉学園だけでなく、学園都市全体を使った大規模なイベント。
 『外』から見られないように結界の範囲内ではあるが、校庭を、体育館を、公道を、地下を、海を、空を使って生徒達が競い合う。
 大きな祭りが始まろうとしていた。

『今日は天気にも恵まれ、絶好の体育祭日和だ!』
 学園都市各所に設置されたスピーカーから双葉学園醒徒会会長藤御門御鈴の開会宣言が聞こえてくる。
 『外』の体育祭では全校生徒がグラウンドに集まって、校長の挨拶など諸々の開会式辞を聞くものだがこの全学対抗体育祭ではそうはいかない。
 小等部から大学までの全生徒が参加すると、単純に数が莫大なものになるからだ。とてもではないがグラウンドに集まりきれない。学年単位でさえ日本中の異能力者や関係者の子供を集めた双葉学園の生徒数は普通の学校より遥かに多いのだ。
 そのような事情で、開会の挨拶を聞く場所は自由である。先ほど述べたように街の各所にスピーカーがあるし、商店街などに設置された大会中継用の大型のスクリーンからも式を見ることは出来る。
と言っても生徒の多くはグラウンドや体育館、教室などに自分達で集まって聞いている。主な理由は「その方が体育祭らしい」からだろう。
『本日、私たち醒徒会は体育委員会と共に運営に回るが、それでも今日という日を楽しみに待っていたぞ!』
グラウンドに設えられた壇上で御鈴は、直接聞いている生徒達と、スピーカー越しに聞いている学生達に呼びかける。
『なぜなら! 今日はみんなの本気が見れる日だからだ!』
胸と声を張りながら、彼女は言う。
『この体育祭は体の強さだけでなく自分の全てで競うものなのだ! 異能の力も、知恵も、運だってそうだ! みんなの強さを、みんなの一生懸命を私たちにも見せて欲しい!』
 彼女は息を整え
『それでは、スポーツマンシップと双葉学園精神に則り……』

『これより! 双葉学園全学対抗体育祭を開催する!』

 体育祭の開会を宣言した。

 ・・・・・・

 この体育祭が『外』の学校の体育祭と大きく違う点は二つ。
 一つは赤か白、どちらのグループに属するかを生徒個人で選択できること
 もう一つは異能の使用がほぼ全面的に許可されていることだ。逆に使ってはいけない競技に但し書きがつくくらい、異能の仕様は前提となっている。
 その一例がこの競技である。
 『1000m走』。
 いかにも普通の競技名だが、普通ではない。
コースこそただの1000mトラックだが、この競技において重要なのは走者である。
 赤白一人ずつ順番にレースを行い、最終的に勝った人数の多い組がポイントを獲得する。
そしてこの競技でもやはり走者間での異能を用いた妨害が許されている。
 先刻からトラックには交戦による激突音や爆発音が響き渡っている。
 競技の傾向としては大きく分けて2パターン。
 戦いながらゴールまで走るか、相手を倒してから走るか。
 前者はお互いに身体強化系だった場合に起こりやすく、後者はどちらかが非身体強化系であった場合に起きやすい。単純に走れば身体強化系に分があるからだ。
 ゆえに、非身体強化系はスタート直後……お互いの距離が近い時に一撃で身体強化系を沈めるべく動き、身体強化系はそれをいなしてのKOを狙う。
スターターピストルの破裂音は文字通り引き鉄となるのだ。
 そうして競技は進んで、最終走者の順になった。
 奇しくも勝数は12ずつの引き分け。
 最終走者の勝敗で競技全体の勝敗が決する、見る側としてもやる側としても力の入らざるを得ないカードとなった。
 しかし、仮にこの時点で勝敗がどちらに傾いていたとしても、やはりこの勝負は注目を受けていただろう。
 競い合う選手二人がその理由。
 赤組の代表は白東院迦楼羅。名門白東院家の令嬢であり、ラルヴァ討伐でも活躍する魔剣使い。
 白組の代表は久留間走子。身体強化系能力者のみで構成されたチーム『久留間戦隊』の隊長であり、主にビーストラルヴァ相手に功績がある実力派。
 お互いに実戦要員として名を知られた猛者同士。この組み合わせには注目が寄せられた。
余談だが、裏で開催されているトトカルチョではこの勝負に対する掛け金は平均よりむしろ少ないものだった。勝負がどちらに転ぶかわからないからだ。
 なお、この競技だけでなく全競技に言えることだが、安全策は取ってある。救護班は常に控えているのは勿論、異能に対してもセーフティーが掛かる場合がある
 今回の場合も然り。白東院迦楼羅の異能魔剣、霊弓陰摩羅鬼は相手の機能を停止させる呪い、その呪いは心臓や脳に当たれば即死してもおかしくないものだ。それゆえ、競技中は神道系魔術による禊が行われており、呪いが致命になることを防いでいる。

「よろしく!」
「よろしくお願いいたします」
二人の選手は1000m走のレーンに着く前にお互いに挨拶し握手を交わした。
「こうして直接話すのは初めてだっけ? 何度か同じ現場には出ていたけど」
「そうですね。戦う姿はこれまでも拝見しています。『ビースト無敗』の久留間さん。ですが……」
 迦楼羅はそこで言葉を切って、走子の目を見据えた。
「私、今年は妹が見ておりますので――誰であろうがブチ抜かせてもらうぜ?」
 口調を一変させた迦楼羅に対して走子は怯むでもなく、
「うん。良い勝負をしよう。あたしも今年は見てくれる人がいるから負けられないよ」
 自然な口調でそう言った。
 火花を散らす、という空気とは少し違う。お互いに鋼の空気を擦り合わせるような緊張感が二人の間にはあった。
 両者がスタートラインに着く。

「位置について」

 スタート係がスターターピストルを構え、レースの開始が直前まで迫るが、二人の姿勢は真逆だった。
 迦楼羅は立ったままである。ただし、その左手には己の霊弓陰摩羅鬼を構えている。その鏃は走子に向けられ、陰摩羅鬼には十二分の魂源力が込められている。
 逆に、走子は陸上のクラウチングスタートの体勢。その体の向く先は迦楼羅ではなく、コースの先のゴールだ。

「よーい……」

 この時点で両者の目論見が正反対であると分かる。
 迦楼羅は走子の撃破してからのゴールを狙い、走子は迦楼羅の攻撃を無視してその走力でのゴールを目指す。
(だがそりゃあよぉ)
 その走子の方針に対して迦楼羅は、
(悪手だろ)
 少し嗤った。

「ドン!」
 破裂音と共に両者が動いた。

 走子はその走力で一気に駆け出し、迦楼羅は
「――葬送れ 陰摩羅鬼」
 文字通り必殺である奥の手、最大駆動を初手で撃ち放った。
 放たれた呪いの矢は一瞬で霊体大鴉へと変じ、飛翔して走子を追った。
 そうして、競技の構図はレースそのものとなった。
 迦楼羅の霊体大鴉は命中すれば相手の体の大半を機能停止に追い込める。つまり走子は大鴉に追いつかれれば負けが確定する。走子はその前にゴールしなければならない。
 だからこれは迦楼羅と走子と言うよりは大鴉と走子の1000m走に近い。
 しかし、この構図になってしまったのなら勝つのは自分だと迦楼羅は考えている。
 大鴉の飛行速度は迦楼羅自身がよく知っている。見た目は大鴉であっても元は矢であるのでその速度は鴉よりも格段に速い。
競技相手である走子の速さも、同じ戦場に立っていた迦楼羅は知っている。その上で、短距離走ならともかく1000mという距離があれば確実に大鴉が追いつき、命中すると把握している。
 二人しかいないこのコースには他の生物という大鴉への盾もなく、命中は必然だ。
 迦楼羅が恐れていたのは、開始直後の最大駆動発動前に距離を詰められてKOされることであったが、それをしなかった時点で走子の敗北は確定した。
(詰められたら詰められたで、打つ手はあったけどよ)
 走子と大鴉に続いて迦楼羅も走る。この競技は相手をKOすれば勝利ではない。その後にゴールしなければ意味は無いのだ。
 しかし、彼女が走り始めた時にはレースは既に終盤へと突入していた。
 人間離れした走子の走力と、人外である大鴉の飛行速度は1000mという距離を既に八割通過している。
迦楼羅が大鴉を放つまでの間に走子はリードを広げていたが、やはり大鴉の方が速度は勝り、現在の走子と大鴉の差は1mほどしか存在しない。
 その僅かな差も見る見る詰まり、残り100mに入った時には30cmも開いていない。
 瞬きをする間に大鴉が走子に命中するだろう。
(勝ったか、……!?)
 迦楼羅が、そして観客が息を呑んだ。
 大鴉に追いつかれ呪いを受ける瞬間、走子は誰もが想像していなかった行動に出た。
 駆けながら凄まじい速度で向き直り、あろうことか呪いの塊である大鴉の首に上段右回し蹴りを叩き込んだのだ。
 誰もがその速度と力強さに大鴉の首が圧し折れる光景を幻視したが、無論呪いである大鴉は死なず、その呪いは接触した右足の先から走子の全身を蝕んだ。
 一瞬後には下半身と上半身の半分、そして右腕までも機能を停止させられていた。
 走れない以上勝負は決した。後は迦楼羅が悠々とゴールすればいいだけ。
「チィッ!!」
 そう観客が思ったとき、誰であろう勝者になったはずの迦楼羅自身がすかさず二の矢を番えていた。
 敗者への追い討ちではない。なぜなら、彼女の顔は誰よりも焦燥の色を濃くしていた。競技敗北が見えた白組よりも、観客席の久留間戦隊よりも、そして……走子自身よりも。
 むしろ逆だ。
走子自身の表情は、誰よりも勝利を確信している。
彼女は呪いによって動かなくなった体が倒れこむ瞬間、未だ自由である左腕を振り上げ――地面に叩きつけた。
否、周囲には叩きつけたように見えたが、それは強すぎる膂力でそう見えただけである。
彼女は――跳ねたのだ。
左腕だけで、残る全身を跳躍させたのである。
身体強化系としての超人的な力。そうでありながら一般的な女子と変わらぬ体重。
その二つが噛み合わさった結果の大跳躍である。
そして彼女は、残る数十mの距離を、跳躍によって走破した。

 『1000m走』は白組の勝利となった。

 ・・・・・・

 競技後、迦楼羅は地面に落下したままの姿勢で倒れていた走子の呪いを解き、手を差し伸べながら聞いた。
「右足で蹴ったのは左手を呪いの影響外にするためですか?」
 走子は答える。
「そう。あたしも貴女のことは知ってたから、ああすれば腕は残ると思ってた」
 もしも見当がずれてたらアウトだったけどね、と走子は笑う。
「最初から、当たるまでにどれだけ残りの距離を減らせるかを考えて動いてたよ。足りてよかった」
「ふふふ」
 迦楼羅も笑う。
 この勝負はレースであり、実戦であれば大鴉が命中した時点でほとんど迦楼羅の勝利だっただろう。しかし、それを言えば実戦ならばそもそも迦楼羅は最大駆動を撃つまで魂源力を溜められなかったかもしれないし、ある護衛と戦った時のように別の手段によって防がれたかもしれない。
 つまり、『今回は』こういう巡り会わせで決着したという話である。
 だから二人は、

「今回は私の負けですね」
「今回はあたしの勝ちだね」

「またいつか」
「またいつの日か」

 競技が始まったときのように、再び握手で言葉を交わした。

 双葉学園の体育祭は、まだ始まったばかり。

 続

 白組 +1ポイント
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。