【Dianthus 第1輪 2/3】


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 翌日の昼休み。
 机を並べて食卓を作り、俺、啓吾、中館さんに別クラスから来た道程を加えて4人で昼食を食べながら昨日の出来事を中館さんに話したらこう言われた。
「馬鹿じゃないの? 馬鹿じゃないの? 馬鹿じゃないの?」
 罵倒×3。
「罵倒もここまでくると気持ち良いね!」
「止せ中館! 大が元来のMさに磨きを掛けてしまっているぞ!」
「誰がMだよ! 俺はNだよノーマルだよ!」
「坂上先輩に踏まれるとしたらどうだよ?」
「ウェルカム」
「やっぱりMじゃねぇか!」
「しまった、誘導尋問!?」
 迂闊だった、啓吾の奴いつの間にこんな高等技術を!
「気にしないでいいんだよ、大。僕もMだ」
「ちなみに俺はSだぜ!」
「アンタらの個人的性癖猥談はどうでもいいから黙ってなさい! ……あのね、堂下。円城と同じ事聞くけど、あんた本当にそれでいいの?」
「それも話したじゃないか、決めたんだって」
「絶対に揺るがない?」
「うん」
「……気に入らないわ」
「え?」
「色仕掛けで堂下を引っ張りこもうってのが気に入らないって言ってんのよぉぉぉ!」
 何か物凄い曲解をされている!?
「落ち着いてよ中館さん! 誰もそんな事言ってないから!」
「くっ! 一体何が、何が足りないというの! やっぱり胸!? それとも髪!?」
「頭じゃねぇの?」
「そんなのどうしようもないじゃないの!」
「いや、胸の方がどうにもならないと思うんだけど……啓吾も人の事言えないでしょ、面白がってからかわないでよ」
 それにしても、中館さんはなんでこんなに怒っているんだろう。
 話し方が悪かったのかな……今度から気を付けよう。
「なぁ、大」
「何? 道程」
「君なんか友達じゃないやいうわぁぁぁん!」
「えぇ!? っていうか何処に行くのさ、まだお昼残ってるよ道程ー!」
 とても騒がしい昼休みだった。


 今日の午後の授業のカリキュラムも全て終了し、終業のチャイムと共に生徒達が下校をし始める中。
 担任教諭の長いHRが終わり教室から解放された俺は、昨日ナンパが成功した彼女との約束があるらしい啓吾と別れパーティに入る申請をする為に醒徒会に来ていた。
「で、パーティの申請がしたいってことでいいのか?」
「うん、そうなんだけど」
 俺にそう確認してきたのは、醒徒会庶務の座に就いている中等部3年生の早瀬速人君だ。
 周りには早瀬君以外誰も居ない。
 恐らく何らかの用事があって他の醒徒会メンバーは出払っているんだろう。
 正直、醒徒会に入れるような絶大な人望と強力な能力を持つ人達に囲まれると気後れしてしまわないか不安だったので丁度良かった。
 早瀬君なら1つ年下で同性だから話し易いし。
「なぁ。俺が誰だか分かるか?」
「? 醒徒会庶務の早瀬速人君じゃないの?」
「そう、7人居る醒徒会の内の1人、庶務の早瀬速人だよ! ……お前、良い奴だな」
「あぁ、うん……?」
 結局何が言いたかったんだろう。
「あーっと、パーティの申請だよな。申請書って確かここら辺に……ありゃ、どこにもねぇぞ!」
「見つからないの?」
「ちょっと行ってくる!」
「え? ちょ、ちょっと早瀬君!?」
 言うが早いか、早瀬君が一瞬で視界から消える。
 いつの間に……。
 早瀬君の能力は噂程度でしか知らなかったけど、やっぱり学園最強の醒徒会の1人だけあって凄いんだな。
 文句も愚痴も言わずに手伝ってくれてるし、流石としか言えない。
 それに比べて俺は……。
「取ってきたぞ!」
「って早っ!?」
 まだ1分も経ってないのに!?
「俺が出してきてやるから早く書け!」
「う、うん……分かった」
 差し出された書類を受け取る。
 申請書を見るのは初めてだけど書く項目はそう多くなく、あまり時間を取られずに済みそうだ。
 学籍番号、学年、クラス、氏名、能力名とスラスラ紙面を埋めていく。
 そして加入するパーティ名の項目へ。
「お前、何ニヤニヤしてんだ?」
「い、いや。何でもないよ」
 ニヤニヤしてたのか俺。
 パーティ名のところに“ダイアンサス”と書き込む。
「完了、っと」
「じゃ会長のところに出してくる! お前はもう帰っていいぞ!」
 瞬間、早瀬君はまたもや視認出来ない程のスピードで消えていった。
 机の上に有った用紙も無くなっている……仕事が物凄く早い。
「さてと、もう大丈夫みたいだし。撫子先輩のところに行くかな……」


 俺は英字でDianthusと書かれた札の付いた扉の前に立っている。
 昨日勧誘されて訪れた、先輩達の居る部屋の扉だ。
 HRが長引いた上に醒徒会で申請書を出してきたから遅くなってしまったが、約束の時間に間に合わせる事が出来た。
 ……心の準備はOK。
 すぅ、はぁ、と息を整えてから扉をノックする。
「どうぞー……ハァ、ハァ」
 ノックに応えたのはユリ先輩の声だった。
 ……心做しか興奮しているような変な声が聞こえたような、空耳かな。
「失礼しまーす」
「うわっ、ちょ、ちょっと待……!」
 扉を開けたその先には、天国が在った。
 眼前に立つ、撫子先輩の、スクール水着(黒)姿。
「うぅ、あまりジロジロ見ないでくれ……」
 恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めて、許しを請うように俺を上目使いで見つめてくる撫子先輩。
 その肢体からは、制服姿では分からなかった綺麗な流線の女体美が、くっきりと露わになっていた。
 こ、これは――っ!
「ハァ、ハァ……良いよぉ撫子ぉ。あぁ……隙間から手ぇ突っ込んで滅茶苦茶にしてしまいたい……」
 撫子先輩の隣には、会長と同タイプのスクール水着(白)を着用し下品な台詞を言いながら欲情しているユリ先輩が。
 その肢体は撫子先輩と比べれば起伏に乏しいが、抱きしめたくなるような愛らしいその外見にスク水が良く似合っている。
「くっ、来るなユリ! 何か危ない雰囲気を放っているぞ!?」
「あぁ、照れてる撫子も可愛いよぉ。ふふふ……よいではないかよいではないか」
「っ!?」
「はぁぁぁっ。そちの肌は絹のような触り心地よのう……ほほほ。ここか、ここがええのんか」
「……つ、ぅぁっ! 変なところを触るな揉むな突っ込むなぁ!」
 ……そういえば、あまりの幸せに気にしていなかったがなんでこんなカオス空間になっているんだろう。
 もう充分眼福に与れたし、そろそろ撫子先輩の貞操が危なそうなので近付いて2人を引き剥がしつつ理由を聞いてみる。
「あの、何でこんな事になってるんですか? ……ユリ先輩も、そろそろいい加減離れましょう」
 力を込めて無理やり引き剥がす。
「……チッ」
 今この人チッって言った! 思いっきり「こいつ良いところでしゃしゃり出てきて空気読め」みたいな感じでチッて言った!
 俺が狼狽していると、ユリ先輩の魔の手から逃れられた撫子先輩が説明してくれる。
「それがな……」
 全ての原因は、数時間前の昼休みにまで遡るらしい。


「え? 大君に謝る方法?」
「ああ。実はな……ほら、ユリは私や大より少し遅れて部屋に来ただろう?」
「うん」
「ユリが居なかったから本題には入らず、親睦を深めておこうと思って2人でお互い自己紹介をして……その時、彼を傷付けてしまったようなんだ」
「ほぉ……それで生真面目な撫子はその謝罪がしたいと」
「一応謝りはしたのだが……その、焦ったせいか何度も失敗してしまってな」
「要するに大君に自分の精一杯の誠意を伝えた上で謝りたいって事ね。それなら良い案が有る」
「本当か、相変わらずユリは物知りだな」
「ふふふ……それはもう。可愛い親友の頼みですから」
「外見の話なら私よりもユリのほうが一般的な可愛いに近いと思うのだが……」
「撫子のほうが可愛いよ……それはともかく、耳を貸して」
「ふむふむ……って、うえぇっ!? それは流石に」
「大君に誠意を伝えたいんじゃないの?」
「いや、確かにそうだが……それとこれとは話が別じゃないか?」
「別じゃない、男なんて根本はどれも同じ……ほら撫子、ここ見て」
「ユリ、お前また学校にノートPC持ち込んでたのか……って、ふたばちゃんねる? 何だこれは」
「そこはいいから。ここ見てここ」
「? ……っ!? こ、これは、えっちな画像がこんなに……それも全部スクール水着の」
「そう、全てはそういうことなの撫子。男は皆スク水大好き。即ち大君もスク水大好き」
「そ、そうだったのか……!」
「そうなの。スク水を着て大君をお出迎えすれば「恥ずかしいだろうに俺の事をこんなに真摯に思ってくれてるんだから許してあげようハァハァグヘヘヘ」となる事必至」
「そうか、ならもう私は躊躇わん。誠意を伝える為、どんな辱めでも受けよう!」
「その意気込みだよ撫子! ダイアンサスの部屋のクローゼットにサイズピッタリの特注のスク水が有るから放課後に即効で行って着替えてお出迎え!」
「……なぁ、ユリ。いつも思うんだが、お前なんでそんなものを大量に持っているんだ?」
「無論、趣味で」


「という訳なんだ」
 撫子先輩の回想が終わる。
「そうだったんですか……」
 というか、ユリ先輩って何者なんだ。
 それに俺はハァハァグヘヘヘなんて言わないよ……。
 ユリ先輩のほうを見ると、「エヘッ」と頭を小突いて下を出す。
 つまりこの人、撫子先輩の水着姿が見たかっただけなんじゃないだろうか。
「えっと、すまなかったな」
「いえ、こっちこそ気を遣わせてしまって」
「うん。とりあえず解決したみたいだし、着替えますか」
 さっきまでのお代官様みたいなテンションの高揚はようやく治まったのか、ユリ先輩はそう提案する。
「そうだな」と撫子先輩も相槌を打つ。
「ということなので大君は一度外に出てくれる? それとも着替えが見たい?」
「大丈夫です、外で待ってます」
 俺は啓吾や道程のようなエロエロ星エロエロ国エロエロ県エロエロ市在住のエロエロエロスケじゃない。
 確かに見たくないと言えば嘘になるけど。
 後ろを向いて扉に向かって歩く。
 床を踏みしめるコツ、コツ、ハァ、ハァという足音が響く……え? ハァハァ?
「ってちょっと待ったぁ!」
 急いで振り向く。
「着替えは一人ずつにしましょう。まずは撫子先輩、その次にユリ先輩で」
 このままでは撫子先輩の貞操が危ない。
 今のハァハァは間違いなく……。
「ユリ先輩、息荒げてるの隠せてませんよ」
「ハァ、ハァ……ふぅ。バレてしまっては仕方ない」
 観念したという様子でユリ先輩が扉に向かって歩いてくる。
 ……危なかった。
 気付かなかったら撫子先輩が……って、そういえば俺が来る前の着替えはどうしたんだろう。大丈夫だったんだろうか。
「私は一緒でも構わないのだが」
「いや、貴方が一番危ないんですから……」


 パタン、という扉の閉じられる軽い音とともに外に出る。
 通路に他の人影はない。
 俺とユリ先輩の2人だけだった。
「2人っきりになるのは初めてだね」
「そういえばそうですね」
 ユリ先輩と会うの自体まだ2回目だし。
「質問していいかな」
「どうぞ」
「どうしてここに入ろうと思ったの?」
 どうして、か……昨日啓吾にも聞かれたことだ。
 隠す必要なんて有る筈もないし、正直に話す。
「入りたいな、って思ったっていうか。ただそれだけなんですけど」
「ふぅん……大君は撫子の勧誘で引っ張られて来たんだよね」
「ですね、人が少なくなった後に寮に帰ろうとしたら途中で話しかけられて」
「何で君が誘われたのか分かる?」
「そういえば……何でなんでしょうね?」
 今までパーティに入るか入らないかとかばかりで疑問にも思わなかったけど……。
 確かに考えて見ると不思議だ。
 俺の見た目はひ弱だし、学園に名を轟かせるような活躍もした覚えもない。
 そこでふと思い出す、昨日のユリ先輩との会話。
 『一体切断して倒した後は周りに注目されてテンパって固まってたけどね』
 咄嗟の事態でもラルヴァを倒せる程場慣れしていて、パーティのリーダーでもある撫子先輩。
 戦闘用の能力を持っている事はまず間違いないだろう。
 加えて、切断したという表現。
 本来なら刀や剣などで切ったのかとも思うが、撫子先輩がそういった類の武器を持っている様子もない。
 いつ何時ラルヴァに襲われるか分からないというのに、撫子先輩程の人が使用武器を持ち歩かないとも考え辛いし。
 恐らく、ラルヴァを切断したのは武器ではなく撫子先輩自身の異能力なのではないだろうか?
 ここまで踏まえて、推測を口に出してみる。
「撫子先輩は俺の能力を知ってて、自分の攻撃能力と相性が良かったから……とか?」
「残念、外れ」
 そ、そんな……。
「撫子は大君の能力なんて知らないし、相性の良い能力なら既に私が居るし」
「そ、そうだったんですか……」
 結構自信が有っただけに、軽くヘコむ。
「正解はね、話しかけ易かったから」
「……はい?」
 なんか今、戦闘に一緒に赴く仲間をそんな簡単に決めてしまっていいのかと突っ込みたくなるような理由が聞こえたような。
「話しかけ易かったから。撫子はほら、あの通り普段は凛としてるけど内気だから極度な人混みや知らない人とのコミュニケーションが苦手なの」
「はぁ」
「一応入学式が終了した時からずっと新入生を勧誘しようとしてたらしいんだけど……結局誰にも話しかけられないまま夕方になって」
「それで……」
「うん。で、しょぼくれてたら校舎の方から人畜無害で暇そうな、話掛け易い雰囲気の新入生が一人でトコトコ歩いてきたから勇気を出して勧誘してみたという訳」
 だからあんなに焦ってたのか。
「要するに、偶然ってことですか」
「運命とも言う」
「ロマンチックな表現ですね」
「でも撫子は渡さない」
「やっぱり狙ってたんですか!?」
「ふふふ……」
相変わらず得体のしれない人だ……。
「ねぇ、大君」
「はい?」
「撫子のコト好きでしょ」
「はゴフッ!?」
 な、なんでこの人までそんな事を!
「出来れば日本語で喋ってもらえると助かる」
「ゲホ、ゴホッ……すいません、取り乱しました」
「さっきといい今のといい、やっぱ図星かー」
「ち、ちちちちちちちちちがッ」
「乳が?」
「違いますよ!」
「見てれば分かるから隠さなくていい」
「し、ししししししししりまッ」
「尻ま?」
「知りません!」
「……あのねぇ、大君。耳貸して」
「な、何ですか」
 恐る恐る耳を差し向ける。
 ユリ先輩は意味有りげな勿体ぶった動作で俺の耳に口を近づけ、
「……撫子はCカップ」
「ぶゴハっ!?」
 そっと撫子先輩のバストサイズを囁いた。どうも有難う御座います。


「さて。自己紹介は昨日終えたし、今日は能力紹介と主だった戦術を組むとしようか」
 2人共が着替え終わり、再びメンバー全員が部屋に集まった時。
 木製の甲板を金属の脚で支える長めの机に掌を付けて立つ撫子先輩は今日の議題を告げる。
 座っている向かいの俺と隣のユリ先輩を見回す。
 意見を求めているようだ。
「そうだね、パーティなんだし早めにしておいたほうがいいかも」
 ユリ先輩が同意する。
 ……俺はまだドキドキしてるのに、まるで何も無かったような雰囲気だ。
「大もそれでいいか?」
「は、はい」
「よし。なら、まずは私からだな」
 撫子先輩はそう言いながら、机の横に有るペンでホワイトボードに文字を書いていく。
 ……そういえば、さっきも結局撫子先輩の能力は聞いてなかった。
 ユリ先輩は撫子先輩の異能は攻撃能力だと推測した事自体は否定していなかったし、そこは合ってるのかな。
 撫子先輩は必要な事を書き終えたのか、ペンを置いてこちらに向き直る。

 ホワイトボードに書かれていたのは『一撃切断』という文字。
 とても達筆な字だ。
「私の能力は『一撃切断』。まぁ、説明しなくとも大体分かるだろうが……少し見ていろ」
 撫子先輩はそう言いながら、飲み終わった後の紙コップを放り投げる。
 すると、スッと撫子先輩の右の手の甲に沿う5本の鉤爪のような……透き通った桃色の細くて鋭利な刃が出現する。
 重力に従って落下してきた紙コップがその刃に触れた瞬間。
 音も無く……まるで丁度左右に二分されるよう予め定規で測ったのではないかと思うほど、綺麗に両断される。
「とまぁ、これが私の能力という訳だ」
「相変わらずの切れ味だねー。真っ二つだよ」
「凄いですね……」
 凄い、としか言えなかった。
 本当に凄い。
 美しい刃に、強力な力。撫子先輩に相応しい能力だ。
「ただ、これは私よりも弱いラルヴァ……魂源力密度の低いラルヴァにしか効果が無いようなんだ。そういう意味では、あまり人に誇れる能力ではないのだが」
「そんな事無いですよ。凄い能力だと思います」
「有難うな、大」
「いえ、正直な感想ですから」
「世辞でも嬉しいよ」
 そう言い終えると、撫子先輩は自分の席に戻って着席、ユリ先輩に目配せをする。
 次はユリ先輩の番、という事だろう。
 ユリ先輩はふぅ、と息を吐きながら席を立ち、ホワイトボードに向かいペンを取る。

 『対象拘束』。
 ホワイトボードには教科書に載っているような綺麗な字でそう書かれる。
「説明するよりも実戦したほうが早いよね」
 ニヤ、と悪巧みをする子供のような顔をするユリ先輩。
 ハッと何かに気付いたらしき撫子先輩は、いきなり椅子を蹴飛ばして横合いに飛び退く。
 その数瞬後、撫子先輩が元居た場所に突如白色の縄が突如出現。
 その縄は亀甲縛りの形を取っている……何故亀甲縛り。
「チッ、外した」
 またチッって言った! 「あともうちょっとで撫子のエロい姿が見られたのに勘が鋭いなでもそれが素敵」って感じでチッって言った!
「あ、危なかった……何をするんだユリ!」
「いや、だって私の能力は生物にしか使えないし。大君にやったら苛めてるみたいで可哀想だし」
「だからって縄の形をあんなのにする必要は無いだろう!」
「ごめんなさい。拘束力が低くて見た目も悪くはないから最適だと思ったの」
「そうか。それなら仕方がないな」
「納得しちゃうんですか撫子先輩!?」
 純真っていうか誠実っていうか……人を疑う事をしない人だよな、撫子先輩。
 いつか詐欺とかに遭わないか心配だ。
「要するにユリ先輩の能力は指定した対象の捕縛、ってことですよね」
「そう。でも、能力中は自分も動けなくなるのがネック」
「複数に対しては使用できるんですか?」
「一応ね。その場合は一つ辺りの拘束力が弱まる事になるけど」
 そうか……。
 力は一撃必殺と言ってもいいほど強力だけど、肉体強化をしている訳ではないから素早い敵には当て辛そうな撫子先輩の能力。
 直接的な攻撃力はないけど、先読みでもしない限り回避不可能な捕縛と拘束が可能なユリ先輩の能力。
「確かに2人の能力相性は良さそうですね」
「これも運命の導き(ポッ)」
「……さて、次は大の番だ」
 撫子先輩はユリ先輩を軽くスルーして、俺に話を振ってくる。
「分かりました……って言っても、2人の能力に比べたら大したものではないんですけど」
 例に倣って前へ出てホワイトボードに向かい合う。
 ペンのキャップを外し、『一撃切断』や『対象拘束』の下に文字を書いていく。

 『他者強化』……それが俺の能力だった。
「らしい能力だな」
「うん」
「俺もそう思います」
 他人任せな性格に相応しいという意味で。
「内容はまぁ、名前から想像できる通りですけど……イメージとしては、醒徒会書記の加賀杜紫穏さんの能力の劣化版だと思ってもらえれば」
 例えを交えつつ、自分の能力の説明をする。
「この力、俺の手が触れている人間1人にしか掛けられないんです。それを離したら効果も消えちゃいますし……実践してみましょうか」
 俺の能力はユリ先輩のとは違って対象が1人限定だ……不便だよね、やっぱり。
「……えっと、撫子先輩。協力してもらえますか?」
「分かった」
 撫子先輩が席を離れ、こちらに歩いてくる。
「撫子に触りたいならそう言えばいいのに」
「ち、違いますよ!」
「素直じゃないね」
「違いますってば! そういうのじゃ無いですから!」
 く……なんかこの類のネタで複数人に何度も弄られてる気がする。
 俺ってそんなに弄りやすいのかな……。
「試してもらえるか、大」
「あ、はい。じゃあ背中向けてもらえますか?」
 正面からだとなんか気恥ずかしい。
「これでいいか?」
「はい」
 撫子先輩の華奢な肩に手を置く。
 強く念じるように、魂源力を集中させ……発動。
「おお、これが肉体強化の感覚か」
 撫子先輩はそう呟く。
「少し手を動かしてみてください。今は速さをイメージして強化してますから、通常よりも早く動く筈です」
 俺の言葉に従って、撫子先輩は腕を振るう。
 人の肉体の速度とは思えないそれが、ヒュンッと風を切る。
「おー、早い早い」
「凄いじゃないか、大」
「有難う御座います……次は、前に進んでください。俺の手から離れるくらいに」
「ああ」
 また普通の人間では成し得ないような速さで俺の手から離れる。
 すると。
「速度が元に戻ったな」
「まぁ、そういう訳です……それともう一つ。俺の場合一応複数のステータス、攻撃力とか防御力も同時に強化も出来るんです」
「そうなのか」
「ええ。強化ステータスを多くすればする程その分それぞれの強化度合いが分散して低くなりますから、良い事だらけという訳にはいかないんですけど」
「……成る程な、よく理解出来たよ」
 撫子先輩はそのまま椅子に近づき、着席する。
 俺もそれに倣い、ホワイトボードから離れて着席。
「うむ。これでそれぞれの能力は皆把握し合った訳だ」
 撫子先輩が満足そうに語る。
「基本的な戦術としては……遠距離からユリが敵を捕縛し、大に強化された私がそれを切断という風になるかな」
「そうだね」
「俺も賛成です」
「問題は離れて行動することになるユリや、私と共に行動する大が危険に晒されてしまうことだが……大は私が守るとして、ユリは大丈夫か?」
 さらっと俺を守ってくれる宣言をする撫子先輩。
 一瞬でも嬉しくてホッとしてしまったの自分が情けない。
「私はまぁ、何とかなると思うよ。敵が近づいてきたら捕まえるだけだし。むしろ手間が省けて好都合」
 改めて、この人達は強くて場慣れもしているんだと思い知らされる。
 俺だったら、人を守る事も自分を守る事も出来ないのに……。

 そうして基本戦術や立ち回りの仕方を話していると、不意に。
 この場に居る全員のモバイル手帳が一斉に鳴り出す。
 それは、日常の終わりを告げる――ラルヴァ討伐命令の報せだった。








【Dianthus 第1輪 2/3】 登場キャラクター
PC 堂下大丞 中館友美 円城啓吾 渡辺道程 吉明ユリ 坂上撫子
NPC 早瀬速人 加賀杜紫穏(名称のみ)
ゲスト
ラルヴァ



ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。