【反逆のオフビート 第三話:part.1】


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元が縦書きなのでラノをおすすめします
pat.1をラノで読む
あと感想、批評をスレに書き込んでくれるとありがたいです(今巻き込み食らって返事返せないですが)




    FILE.3〈キャスパー・ウィスパー侵略:part.1〉




             ※

 夜遅く、ひっそりと静まり返る醒徒会室で、青いサングラスをした長身の男が考え込むようにソファに腰をかけていた。
 彼の名はエヌR・ルール。
 ルールは双葉学園における黒歴史、オメガサークルの前身である兵器開発局が生み出した異能の力を持った人造人間だ。今まで魂を持たない人形しか生み出せなかった兵器開発局が何万体という失敗作の上に唯一造り上げることができた存在であり、魂を持つ者にしか許されない異能の力も彼は保有していた。
 違法なる科学の遺物。
 哀れなる運命の落とし児。
 彼は先日に出会った放火魔のことを考えていた。
 世界を憎むような目で、異能の炎をもってして街を燃やし尽くそうとした少年、最後には自分自身を焼き尽くして死んだ彼のことを思い返していた。
(彼は一体何者だったんだろか。それに“彼女”とは何のことだ。それに先日起きた合同実習での生徒の暴走事件、一体この学園に何が迫っているのだ)
 風紀委員である逢洲等華が巻き込まれた二年と一年の合同実習で起きた事件。それはある生徒たちが突然彼女と二名の一年を攻撃したことである。
 その攻撃をしかけた生徒たちは逢洲に倒され、捕らえられたが、彼らが目を覚ました時に話を聞いてみたが、彼らは何も覚えていないらしい。
(逢洲が言うにはその生徒は操られていたようだ、と言っていたが、もしそんな危険な洗脳能力者がこの学園に身を潜めているとなると早々に手を打たないと大変なことになるかもしれない)
 彼はこの放火事件と洗脳事件に何か同じものを感じていた。
(もっと共通点はないのだろうか。この二つの事件は根底が同じような気がしてならない。街を焼き尽くせるほどの能力者と、人を操るほどの能力者。この二人が何かの組織に所属しているとなると、底が知れないな)
 彼はこの二つの事件の資料に目を通す。
 そこに二人の人物が共通していることに気づいた。
(一年Z組の転校生と“アウト・フラッグス”の巣鴨伊万里か。偶然なのだろうか)

                 ※





 ――頭が痛い。
 双葉学園の寮の一室でオフビートはベッドに寝転がりながら頭を抑えて呻いていた。
 小柄で可愛らしい顔をしているが、今はこめかみに血管を浮かせ、眉間に皺をよせている。
 オフビートは違法科学機関オメガサークルに派遣された工作員で、今この学校の中では斯波涼一という偽名で生活をしていた。
 彼に与えられた任務はとある少女の監視と護衛。
 オメガサークルがなぜ彼女を特別視しているのか彼にはわからない。
 同じく敵対組織であるラルヴァ信仰団体“スティグマ”がなぜ彼女の命を狙っているのかも知らない。
 知らないことだらけだ――オフビートは頭の痛みと同じくらいに自分の存在意義に対して頭を抱えていた。
 彼には七歳以前の記憶がない。
 オメガサークルの開発と処置という名の“改造”により彼はそれまでの記憶を一切消されていた。本当の名前も生い立ちも何もかも根こそぎ奪われた。
 それゆえにオフビートの世界はオメガサークルが全てだったのだ。
 任務の中でしか彼の居場所はなく、ただ自分を造りあげた組織に対する服従が彼の生きる意味だった。そこに今までは疑問をもたなかった。
 しかしこの任務で彼は外の世界に触れ、そして彼女に出会った。
 巣鴨伊万里。
 あの笑顔の似合う赤毛の少女との出会いが彼の価値観をぶれさせていた。
(わからない。俺は一体なんで彼女のことを任務と関係なく護りたいと思ってるんだろうか。これが“好き”ってことなのか。お笑いだな、俺みたいな組織のモルモットが人と恋愛だなんて)
 彼が天井を見上げながらぼんやりとしていると部屋のドアを誰かがノックした。
 まだ転校して数日しか経っていないので、彼の部屋を訪ねる人物は限られていた。オフビートの返事を待つことも無くノックの主はドアをためらいも無く開けた。
「グッモーニン。具合はどうなの涼一君」
 そこに立っていたのはオフビートのお目付け役であるアンダンテであった。寝起きなのか長い髪を頭に纏めているが、伊達であるにも関わらずメガネだけははずしていない。
「なんのようだアンダンテ。つかなんだその格好」
 部屋に入ってきたアンダンテは年に似合わずなにやら可愛らしいパジャマを着ていた。裾や袖にフリルがついており、柄にはファンシーな動物の絵が描かれていた。パジャマが小さいのか、彼女の豊満な身体が収まりきれていないようで、割とピチピチである。
「木津先生と呼びなさいって言ってるでしょ。それに私が何着ようと勝手でしょ。それともこういう服は十代までしか着ちゃいけない法律でもあるのかしら」
「別にいいけど、直視できねーよ」
「あら、そんな憎まれ口聞いていいのかしら。ようやく機関の研究所から薬を取り寄せてあげたのに」
 アンダンテはパジャマのポケットからアンプルを取り出した。
「ようやく来たか。早く注射してくれよ。頭が痛くてしょうがねえんだよ」
「慌てないの。ほら、身体の力抜いて」
 この薬は別に怪しいものではない。いや、オメガサークルの薬というだけで怪しいというには十分かもしれないが、害になるようなものではない。これは能力を酷使して疲弊した脳に対する安定剤のようなもので、ギガフレアと青山という能力者と連日戦ったためにオフビートの身体は限界まできていた。オメガサークルの改造人間である彼は常人よりも傷の直りが早いが、それでも脳と精神に異常な負担がかかっていた。
 オメガサークルの改造により無理矢理能力の底上げがされているために、オフビートは自分の能力の負荷に身体が耐え切れないのである。
 普通に使っている分には大丈夫だが、連日の戦いのように能力の限界まで酷使すれば当然ながら過負荷がかかるのだ。
「さあ、動かないでね。ちくっとするわよ」
 動けないオフビートをいいことにアンダンテはオフビートの上に馬乗りになった。
「うわ重てえ!」
「重たい言うな! さあ早くお注射しちゃいましょうねー。ああ、なんだか久しぶりでドキドキしちゃう。これぞ科学者の醍醐味よね。動けないモルモットを研究の名のもとに蹂躙するのがたまらなく興奮するわ」
「目がこええよ! 何を興奮してるんだ、落ち着いてやってくれよ!」
 アンダンテはハァハァと荒い息使いで彼に迫り、その首もとに注射器を刺しこんだ。
 わりと針が太いため、激痛が走るが、過負荷による脳の痛みよりは耐えられるものだった。オフビートの頭の痛みは嘘のように引いていく。その薬がすぐに脳に回っていくのがわかる。
「ふぅ、これで落ち着いたか」
「確かに痛みは引いたでしょうけど、しばらくは能力の使用を出来るだけひかえることね。少しは身体を休めなければ駄目よ。勿論、あなたの命より任務を優先すべきだけど」
「へっ、相変わらず厳しいね」
「それに、任務だけじゃなくてあなたも彼女を護りたいでしょ? 命に代えても。いいわねえ青春ってやつね」
「なんだよ、俺と伊万里のこと知ってたのかよ」
 オフビートはアンダンテから目を逸らす。任務以上の関係を監視対象と結ぶなんて工作員としてはあるまじき行為である。その後ろめたさがオフビートにはあった。
「私はあなたのことをなんでも知っているのよ涼一君」
 アンダンテは馬乗りの体勢のままオフビートの顔に自分の顔を近づけた。あと少しで唇と唇が触れるような距離である。
「別にいいのよ、あの子の監視と保護のためには恋人というのが一番やり易い関係だものね。でも、本気になっちゃ駄目よ」
 アンダンテはオフビートの目を覗き込むように語っている。そこにるのは双葉学園の教師、斯波涼一の従姉である木津曜子ではなくオメガサークルの研究員兼工作員の“アンダンテ”である。
「もし、機関があの子の監視の結果で“処理”することが決まったら、あなたはどうするのかしらね。あの子をちゃんと殺せるの? それともあなたは私たち機関に“反逆”するのかしら? “反逆”できるのかしら? あなたの居場所は機関にしかないのに。あなたを受け入れる世界なんてこの世にはどこにもないのに」
 オフビートはそんなアンダンテの気迫に押されていた。
「わかってるよ・・・・・・」
 彼が呟くようにそう言うと、アンダンテは一瞬で笑顔になる。
「よろしい。聞き分けのよい子ちゃんにはご褒美のキスをあげよう」
 アンダンテはそのままオフビートにキスしようとしたがオフビートは慌てて彼女の顔を押し上げる。
「やめろっつーの! 欲求不満なのかよあんた!」
「しょうがないじゃない、研究に魂捧げてても女という呪縛からは逃れられないのよ。それにあなた結構可愛い顔してるのよねぇ」
 オフビートとアンダンテがベッドの上でそんなことをしていると、突然部屋のドアが開けられた。
「斯波君おはよう。頭痛治った? まだ調子悪いなら今日の約束は――」
 と、ノックもせずにこの部屋に入ってきたのは話題のオフビートの恋人である伊万里だった。オフビートとアンダンテは同時に「あっ」と間抜けな声を発してしまった。
 ベッドの上で妙な体勢でくっついている二人を見て伊万里は青ざめていた。




「もう、バカ! 信じられない、不潔よ!」
 双葉学園の都市部で伊万里とオフビートは二人で歩いていた。
 今日は日曜のため学校は休日で、二人は都市部にある巨大デパート“ラウンドパーク”に買い物にやってきた。ある意味これはデートと言うべきものであろう。
 ラウンドパークはほぼなんでも揃っているため、双葉学園都市に住む人々の生活の基盤にもなっている。日曜ということもあり、今日は学生たちで溢れかえっている。
 初デートに気合を入れているのか、伊万里は普段よりもめかしこんでいる。小さなリボンの付いたワンピースに、綺麗なガラのチェックのスカート。チャームポイントの赤毛もいつも以上に手入れがなされていた。対照的にオフビートはTシャツにジーンズといういかにも適当な服装である。
「だから誤解だって。薬打ってもらってただけだよ」
「本当かしら、あんな格好で? しかも従姉弟同士で、しかも教師と生徒なのに! 一体いつから双葉学園は淫徳の教室になったのよ!」
 初めてのデートだというのに女教師といちゃいちゃしていたオフビートに伊万里はぷりぷりと怒っていた。そんな彼女を困ったようにオフビートは呆けている。
「あんまり怒るなって。ほら、アイスショップがあるぞ、奢ってやるから機嫌直せよ。何味がいいんだ?」
「何よ、そんなアイスで釣られるほど私は安い女じゃないわ! ・・・・・・ペパーミントアイス」
 デパートの一角にあるアイスショップでオフビートは自分用のチョコチップと伊万里のためにペパーミントのアイスを買ってきた。行列が出来ていたため、少し時間がかかってしまったが、食い意地の張った伊万里は根気よく待っていた。
 二人はベンチに腰掛けて、大人しくアイスを舐めている。
 伊万里は自分の隣でアイスを黙々と食べている少年を横目で見ていた。
(なんとなく斯波君とこんな関係になっちゃったけど、まだ『付き合ってください』とか『好きです』とか言ってないのよねお互い。本当に恋人同士なのか自信ないなぁ)
 ふはぁっと溜息をつきながらアイスにかぶりついた。ここのアイスはなかなか人気で、昼過ぎには完売してしまうらしい。爽やかなミントの風味が口いっぱいに広がっていく。
 伊万里は自分の気持ちを考えてみる。
 彼とはまだ会って数日間しか経っていない、だが恋愛というものに時間は無意味だ。し
かし彼女自身もまだ本当にオフビートのことを好きなのかどうか判断に困っていた。
 死線を一緒に潜り抜けたための錯覚ではないか、などとも考えてしまう。
(私は斯波君のどこが好きなんだろう。それに、本当に斯波君は私のこと好きなのかな)
 自分の気持ちも相手の気持ちもわからないなんて、それで本当に恋人同士と言えるのか、そんなことは恋愛経験がいままでなかった彼女にはわからない。
(そんな細かいこと今考えてもしょうがない、か。うん、今は斯波君とのデートを楽しもう)
 伊万里は、よし、と言いながら勢いよく立ち上がった。
「ねえ斯波君。私これから水着買いたからつきあってくれるかしら」
「はぁ? 水着? 今まだ五月だぞ」
「なんで嫌そうな顔するのよ、水着の試着イベントなんて男子にとってご褒美でしょ!」
「いや、お前のその平坦な身体見ても何も嬉しくな――」
 言いかけるオフビートの顔に鉄拳が入る。伊万里が思い切りぶん殴ったのである。
「誰が人間ドラム缶よ。悪かったわね、どうせ木津先生みたいなあんな巨乳がいいんでしょこの変態!」
「変態というかむしろ健全な男子はツルペタに欲情しないぜ」
「ツルペタ言うな!」
 またも二人が騒いでいると、伊万里のアイスがぽろっとコーンからこぼれて、伊万里のスカートの上にぼとりと落ちてしまった。
「あ~~~~~~~!!」
「あーあ」
 伊万里はお気に入りのスカートが汚れてしまって泣きそうになっていた。チェックのスカートに緑色のペパーミントアイスが染み込んでしまう。
(もう最悪! せっかく今日のために可愛いの選んできたのに・・・・・・)
 伊万里が自分の不運に呆然としていると、何を思ったかオフビートは自分のシャツをびりっと破いた。伊万里は一瞬彼が何をしているか理解できなかったが、
「ほれ、拭いてやるから大人しくしてろよ」
 と言われて、吃驚していた。彼女のアイスを拭くために自分の服を破いたのだ。
「ちょ、ちょっと!」
「動くなっての」
 オフビートは破いた服で出来た簡易性ハンカチで伊万里のスカートを拭いている。ある意味きわどい所に手を置いているため、伊万里はドキドキしながら顔を真っ赤にしていた。オフビートはそんな伊万里の様子を気にすることもなく黙々と拭いていた。
「も・・・・・・もういいわよ斯波君」
「遠慮するなよ。スカートの中は濡れてないか? 大丈夫か?」
 と、オフビートはピラッとなんの悪気もなくスカート軽くめくった。
「なんだお前その年でリボン付きなんて穿いてるのか。しかもピンク。ガキっぽいなぁ」
「・・・・・・・・・・・・」
「木津先生は紐つきとか穿いてたな。まぁ俺は別にこんな布切れに興味ないけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死ね――――――――!!」
 伊万里はそのまま足を振り上げてオフビートの顎を蹴り上げた。





 時を同じくしてラウンドパークのフードコートで、一人の美しい少女がコーヒーを飲んでいた。安物のコーヒーであるにも関わらず、飲む仕草には気品さえ感じられる。
 その少女はまるで人形のように美しく、長く艶やかな黒髪に、真っ黒なドレスを着込んでいた。いわゆるゴスロリと呼ばれる服装ではあるが、あまりに似合っているためにこの場に浮いてるとは言えない。むしろ間違っているのはこの場の風景ではないかと思わせるほどの美しさを兼ね備えている。
 少女の名は西野園ノゾミ。
 彼女は自身を“キャスパー・ウィスパー”と呼んでいる。
 そんな彼女の懐からトロイメライの音楽が流れてきた。携帯電話の着信音である。ノゾミは電話を取り出して、耳にあてた。
「首尾はどうなの?」
 ノゾミは挨拶もせずにそう尋ねた。その声は冷ややかで、その見た目とは反するように冷酷な印象を持たせる。だが、どこか逆らいがたい迫力があった。
「そう・・・・・・そう・・・・・・じゃあそのまま待機してなさい。状況が整ったらまた連絡するわ。他の連中にも伝えておきなさい」
 そう言い終わると、ノゾミは相手の返事もまたずに電話を切ってしまった。
 ノゾミが再びコーヒーを口につけようとした所である人物がノゾミの目の前の席に腰を下ろした。
「あら、貴方が学園都市にくるなんて珍しいわね“クローリング・カオス”」
 “クローリング・カオス”と呼ばれたその人物は、特に印象のない、いや、あまりに印象が無いために、逆にそれが特徴と言えるほどの、まるで顔が無いと錯覚しそうな雰囲気を持つ青年だった。年は二十代過ぎといったところであろうが、それより下か上とも言われても納得できそうである。
「不用意にその名で呼ぶのは止めていただきたい」
「いいじゃない。どうせ誰も話なんて聞いてないわ。ここにいる人間たちは他人に関心が無いのよ。誰も彼もみんな自分だけが可愛い、気持ちの悪い連中よ」
「ふん、彼らもお前みたいな魔女にそんなことは言われたくないだろうな」
「そうね、でもそんな彼らだから私の能力に簡単にかかるのね。意志の弱い人間に生きている意味なんてあるのかしら」
「あまり自分の能力を過信しすぎない方がいい。相手は仮にもギガフレアを倒した死の巫女なんだからな」
「わかってるわよクローリング・カオス。きっちりいつも通り私なりの回りくどい、安全で臆病な方法でやらせてもらうわ」
「ふん、期待しているぞ。この戦いは我々“スティグマ”にとっての聖戦なのだからな」
「まったく仕事の話もいいけど貴方も何か頼みなさいよ。たまにはパフェなんか――」
 一瞬メニューに目を向けた瞬間、もう目の前の席には彼はいなかった。まるで最初からいなかったかのように消えてしまったかのようだった。
「忙しいわね。慌しい男はもてないわよ」
 ノゾミは誰に語りかけるでもなく独り言のようにそう呟いた。





「いてて・・・・・・そういえば今日、弥生はどうしたんだ」
 蹴られた顎を押さえながらオフビートと伊万里は破れた服と汚れたスカートを新調するためにカジュアル服コーナーに足を運ばせていた。
「弥生は今日他の友達と約束があるっていって出かけちゃったよ」
「へぇ、あいつお前以外にも友達いたのか」
 藤森弥生は伊万里の親友である。
 不器用で人見知りをするタイプの弥生は同性の友達もあまりいないはずだった。
「そうね、私以外に友達がいるって聞いたことないわ。もしかしたら私たちに気を使ってくれてたのかもね」
 伊万里は服を姿見で合わせながらそう答えた。どうやらスカートだけではなくほかの服にも興味がいっているみたいだ。こうしていると実に普通の可愛らしい女の子である。
「でもあの子最近変なのよ」
「変? 弥生がか?」
「うん。なんだかぼーっとしてて・・・・・・まぁそれはいつものことって言えばそうなんだけど。でも何かが変なのよ。いつも明るいあの子なのに、最近はなんだか元気が無いというか、あんまり私とも話してないし」
「なんだ寂しいのか。いいじゃないか。弥生だっていつまでもお前に依存してるわけにもいかねえだろ」
「まあ、私も弥生が独り立ちできるなら嬉しいわよ。弥生ももっとクラスに溶け込んだほうがいいもの。でも、やっぱり何かが違うのよ。何かが決定的に変っちゃったって感じ」
 伊万里は少し真剣な顔でそういった。それは親友を心配する表情でもあった。弥生は幼い頃からの親友であるため、彼女にとってはかけがえの無いモノの一つである。
「もしかしたらこないだの合同実習のことを引きずってるのかしらね。あの子逢洲先輩にすぐにやられちゃったし。よく考えるとあの日から弥生の様子がおかしい気がするわ」
「それで落ち込んでるのかな。じゃあ今度俺らで励ます会でもやろうか」
「あら、いいねそれ。斯波君にしては気が利くじゃない」
 二人はそんな談笑しながら服を買っていた。なぜかオフビートは伊万里の服を奢らされていた。そもそもオフビートの資金源はオメガサークルから流されてくる物で、オフビート自身はお金に固執をしていなかった。
「ねえ斯波君。このデパートの屋上にある観覧車は見た?」
「ああ、見たってかイヤでも目に入ったぞ。なんで一デパートにあんな観覧車があるんだよ」
 デパートであるはずのラウンドパークの屋上になぜか設置されている小型の観覧車。
 それは初めにデパートが建設されたときはそれが目玉の一つで、それを目当てに学生のカップルたちが押し寄せたものだが、それから数年経った今では日に二、三組が使用すればいいくらいになっていた。
「ねえ、あの観覧車乗ろうよ」
「はぁ? あんなん乗ったら笑いもんだぞ」
「いいじゃない、だって今日は私たちの――」
 伊万里は言葉をそこで途切れさせてしまった。『だって今日は私たちの初デートじゃない』そう続けようとしたのだが、デートというのを意識してどうにも恥ずかしくなってしまったようだ。伊万里としても初めてのデートなのだから、何か思い出が欲しかったのだろう。その結果が観覧車なんてあまりにベタ、あまりに乙女すぎて自分でもキャラじゃないな、と伊万里は思っていた。そんな伊万里の思いを、オフビートは知ってか知らずか、
「まぁいいや、乗ってみようぜ。俺も今までああいうのに乗ったこと無かったし、いい機会だ。誰かに笑われてもお前と一緒ならそれも悪くない」
 そう言ってもじもじとスカートの裾をいじってる伊万里の手をとって屋上に向かった。



「目標が移動したわ。B班は作戦Fの場所に移動しなさい」
 ノゾミは目の前のカップルが移動するのを見て、誰かに電話をしていた。
 その目には先程のコーヒーを飲んでいた少女の面影はなかった。その目に宿っているのは明確な殺意。触れるもの全てを深淵に飲込むようなそんな暗く、おぞましい雰囲気がその瞳にあった。
 ノゾミの隣にはさっきまでいなかったのに、もう一人少女が立っていた。その少女は髪を二つに結っている可愛いらしい少女であった。
 しかしその少女の目には光はなく、どこを見ているのかわからない。そこには意識があるのかすら疑わしい。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「さあ、行きましょう弥生さん」
 こうして恐るべき魔女キャスパー・ウィスパーとオフビートとの死闘の火蓋が気って落されたのである。







「小型っても近くで見ると案外迫力あるな」
 オフビートと伊万里は屋上に上がり、目の前の観覧車を呆然と見ていた。屋上にはちょっとした出店と、百円コインで動く動物の乗り物などが置いてあった。数人の客がいるくらいで、がらんとした空間が広がってる。
「私も今までは外からしか見たことなかったから、乗るの初めてなのよね」
 伊万里は自分の手を握っているオフビートの手の温もりを感じていて、少し顔を紅潮させていた。
 今までこうして男の子とデートしたり手を繋いだりといったことを彼女はしたことがなかった。そんな自分が出会って数日しか経っていない少年とこうして付き合っているということが未だに実感できなかった。
 しかしある意味憧れである彼氏との観覧車デートということで、伊万里の気分は高まっていた。
「ね、ねえ。早く乗ろうよ!」
「慌てるなっての。別に観覧車は逃げないだろ」
 二人はやる気のなさそうな観覧車の従業員にお金を渡して、乗せてもらおうとした、しかしその時伊万里に妙なものが見えたのである。
「あ・・・・・・。斯波君、頭に・・・・・・」
 それは旗だった。伊万里にはオフビートの頭に旗が見えた。
 それは伊万里の異能である“アウト・フラッグス”によって見ることが出来る死を予言する旗であった。その旗が頭に現れた人間には、すぐ近くに死が迫っているのである。
 その伊万里の異能を知っているオフビートは伊万里のその言葉に顔を青ざめる。
「おい、まさか・・・・・・。ちっ!」
 オフビートはばっとあたりを見回した。すると、どこからか伸びている赤い光が彼の眉間のあたりに当たっていた。
「し、斯波君?」
「伊万里、お前はこの中にいろ!」
 そう言ってオフビートは伊万里を突き飛ばして無理矢理観覧車の個室に押し込めた。従業員が「ちょ、お客さん!」と言うのを気にせず自分で鍵をかけた。
「いいか、窓から顔を出さずにずっと伏せていろ。わかったな」
「ま、まってよ斯波君! あなたはどうするのよ!!」
「俺は、この死の脅威を叩く」
 オフビートはすぐその場を駆け出した。
 やがて観覧車が動き始め、回っていく。まるでこれから動きだす運命を暗示するかのように。





 オフビートを狙っている赤い光。
 それは彼が実戦演習で何度も見たことがあるものである。それは射撃の照準。撃ち出されるは鋼鉄の弾丸。その赤い光の元を見ると、そこはこのデパートの隣に建っている廃ビルの屋上である。
 視力が秀でているオフビートにはそこに狙撃中を構える男がはっきりと見えた。
(こんな街中であんなもん使うんじゃねえっての!)
 その銃を構えた男は何の迷いもなくオフビートに向かって引き金を引いた。銃声が響いたが、それは思ったよりも小さく、小さな爆竹が一瞬爆ぜるような音で、あたりの人間はそれに誰一人気づいてはいなかった。
 それに感づいたオフビートは銃の照準ラインに右掌を構えた。
 高速で発射された弾丸がオフビートの掌を吹き飛ばす、はずであったが、逆にその弾丸がオフビートの掌に弾かれてしまった。
 そのオフビートの掌は僅かに光っている。
 これがオフビートの異能、絶対防御の“オフビート・スタッカート”である。両掌に高周波のシールドを展開させ、その手に触れるものは全て遮断される。
 連続で発射される弾丸を何度も弾きながらオフビートは向かいのビルに向かって駆け出した。このデパートと向こうのビルまでには十メートルほどの幅があるが、オフビートは助走をつけたまま屋上のふちから跳躍をした。
 普通ならばそこからジャンプして届くはずがないのだが、改造により身体機能をいじられている彼にはその程度は問題ではなかった。
 廃ビルの屋上に着地を成功させたオフビートはその着地の衝撃を和らげるためごろごろと転がっている。そうして体勢を整えてる隙に、銃を持った男はその場から逃げ出した。その男をよく見ると、まだ若い、いや、少年と呼べる年代である。それどころか双葉学園の制服を着ているため、間違いなく学園の生徒だとオフビートは確信した。
「待て、逃げるんじゃねえ!」
 オフビートもすかさず追いかける。男子生徒は屋上から下階に続く階段を駆け下りている。その後を追っていくが、男子生徒はすぐ下の階の一室に入っていった。
 この廃ビルは廃ビルだけあってあたりは散らかり、まったく手入れがなされていなかった。自分から袋小路に入っていった男子生徒をオフビートは、しめた、と思いながら追い詰めた。しかし、追い詰められたのは自分のほうだと気づいた時にはもう遅かった。
 その部屋にはナイフを持った五名の少年たちが待ち構えていた。
(ちっ――罠か!)
 彼らは一斉にオフビートに襲い掛かってきたが、オフビートは彼らの攻撃を異能の掌で次々と防いでいく。彼らがナイフで切りかかってこようが、オフビートの“オフビート・スタッカート”には一切通じない。彼らの動きはどうにも素人のようで、オフビートにとってその彼らの動きは止まって見えるのも同然である。しかし人数の差は大きく、オフビートの動きも段々鈍くなっていく。
 オフビートは防御の合間に拳や蹴りを彼らに叩き込んでいくが、彼らはまるで痛みを感じていないゾンビであるかのように動じず攻撃の手を休めない。
(なんなんだこいつら、俺を殺す気でかかってきているのにまるで殺気を感じない。まるで機械を相手に戦っているみたいだ――)
 オフビートは彼らの光の無い瞳を見つめる。それは先日起きた合同実習の事件、青山と和泉たちと同じ目であった。
(なるほど、こいつらも操られているのか。青山やと和泉は動きが単調だったが、こいつらはどうにも精密な動きをしている、これはあの時と違って操ってる奴が近くにいるってことなのか――)
 オフビートの推理は的外れではなかった。意識の無い彼ら傀儡がここまで正確にオフビートに攻撃を仕掛けられるのは今このときすぐ隣のデパートから魔女キャスパー・ウィスパーが直に指令を出しているに他ならない。
 魔女の存在をまだ知らぬオフビートにはまだ現在の状況を把握できなかった。
 しかし一般人が敵に操られている以上むやみに殺したりは出来ない。そもそもオフビートの異能は攻撃に適してはいないし、武器も持ち合わせていなかった。
(だからといっていつまでも防御ばっかしてても無意味か)
 後ろに回った敵の一人が彼に向かってナイフを突き刺そうとしてきたのをオフビートはまたも掌でそのナイフを受け止める。
 しかしその時彼の頭に激痛が走った。痛みで思わず身体がぐらりと揺れる。
(ぐっ――。これは、まさかこんなときに!)
 オフビートはアンダンテの言葉を思い返していた。
 彼は連日の戦いで脳と精神が疲弊しているのである。まだ能力が本調子でないために、またこの脳の痛みがぶり返してしまったようだ。
 オフビートは激痛に耐えながら彼ら傀儡と対峙する。オフビートの調子に構わず彼ら傀儡はオフビートに襲い掛かってくる。
「ぐっ、しつけーんだよ!」
 またもナイフによる突きを右掌で受け止めようとしたとき、オフビートの右手にも激痛が走った。それは絶対防御の両手をもつオフビートが今まで味わったことのない痛みである。
 ナイフがオフビートの掌に突き刺ささり、貫いたのだ。
(そんな――馬鹿な!)
 手には血が滲み、驚きと痛みでオフビートが一瞬怯んで腰を屈めると、傀儡の一人が思い切りオフビートの顔を蹴り上げた。ただでさえ痛みがある頭を揺すられて、オフビートの意識は飛びそうになっていた。鼻からも血を流し、なんとかその場に足をふんばることに成功した。
(そうか、一時的に能力が使えなくなってるのか・・・・・まずいな)
 絶対防御の能力が使用できない以上、改造人間のオフビートと言えどナイフで突かれれば刺さるし、銃で撃たれれば死ぬだろう。まさしく絶体絶命。身体中の痛みで意識もいつ途切れるかわからない。そして、その時が最後になる。
 傀儡たちはオフビートの動きがよろめいてきたので、一気に畳みかけようとナイフを構えている。そして連中は息を合わせて一斉に飛び掛ってきた。
 オフビートは避けようと身体を動かそうとするが、上手く身体が言うことをきかない。もはや大人しく串刺しにされるしかなかった。
(畜生、こんなところで死ぬのか俺は――伊万里!)
 オフビートは死を覚悟して目を瞑ったが、いつまで経っても連中は攻撃を仕掛けてこなかった。オフビートが恐る恐る目を開けると、傀儡たちは呻きながら床に突っ伏していた。彼には何が起こったのか理解できなかった。
 その倒れている人たちの中で、小さな人影だけが、悠然と立っていた。
 それは小柄で可愛らしい少女であった。小さな体躯であるにも関わらず、彼女が纏う空気には威風堂々たるつわもの雰囲気があった。
 その少女はカチューシャにリボンをつけていて、タンクトップのシャツにハーフパンツといったラフな格好であった。子供っぽい印象を受ける八重歯がよく似合っている。
 オフビートはその少女に見覚えがあった。
 そこに救世主のごとく存在するその少女は、最強の七人と呼ばれる醒徒会の書記係、オフビートの同級生でもある加賀杜紫穏であった。
「加賀杜・・・・・・紫穏。なんでここに」
「にゃははは満身創痍だね斯波っち。まあ細かいことは気にせず、とりあえずこの状況を脱却しようよ」
 口含んだ飴玉をコロコロと転がしながら、そう不適に笑う加賀杜の手には黒いネズミのぬいぐるみが握られていた。このデパートのゲームセンターで取ってきたと思われるもので、片方の手に握られている紙袋にはいっぱいぬいぐるみが入っていた。それ以外には何も手にしてはおらず、武器らしいものは何ももっていない。
(武器も持たずにどうやってこの連中を・・・・・・)
 そう思っていたが、傀儡たちは完全に気を失っていたわけではないらしく、またもゾンビのように立ち上がってきた。それを見た加賀杜は、
「しっつこいなー。そんな男の子は嫌われるよ」
 そう言って紙袋からもう一体ぬいぐるみを取り出した。それは黄色い熊ぬいぐるみで、加賀杜は両手に一体ずつぬいぐるみを握り締めた。
「じゃじゃーん。二刀流! なんつってね」
 何の冗談か、加賀杜はぬいぐるみを構えて傀儡攻撃の備えている。
(無茶だ、あんなぬいぐるみで連中を――)
 オフビートの心配は杞憂でしかなかった。
 それはまるで現実とは思えぬほどのシュールな光景である。ぬいぐるみを手にもつ少女が、五人のナイフを持った暴漢たちを次々と薙ぎ倒していくのであった。ナイフを突きさしてきても、ぬいぐるみの柔らかなボディに吸収されるが、ぬいぐるみが傀儡たちの身体に当たると、轟音を立てて彼らは吹き飛んでいくのである。
(そうか、これが彼女の能力か・・・・・・なんて恐ろしいんだ)
 彼女の能力は手に触れたもの威力を最大限に底上げする能力である。彼女が手にしたものはたとえ綿で出来たぬいぐるみであろうと恐るべき鈍器へと変貌を遂げる。
「にゃは。どう? 驚いた斯波っち? この能力を研究者は“効果付属”なんて呼んでるんだけど、あんまりアタシは戦いとか好きじゃないんだよね~。でもこういうとこに居合わせたらやるっきゃないっしょ」
 そんな軽口を言いながらも次々と傀儡を気絶させていく。しかしその加賀杜の攻撃から逃れて、オフビートの元に傀儡の一人が駆け寄ってきた。加賀杜に危険を感じて、殺しやすいオフビートへと標的を戻したのだ。距離があるため、加賀杜もそっちの対応には間に合わないであろう、素早くナイフをふり上げ、オフビートに切りかかろうとした瞬間、ナイフが音を立てて折れてしまった。
 折れたナイフとともに、飴玉がコロコロと一緒に床に落ちた。それはさっきまで加賀杜が舐めていた飴玉である。傀儡が呆然としている隙に、その傀儡もまたぬいぐるみで殴り倒してしまった。
「まさか・・・・・・」
「そのまさかだよ斯波っち。ふふん」
 加賀杜は得意げに口を尖らせてた。恐ろしいことに彼女があのナイフにしたことは“ただ飴玉を口から飛ばした”それだけに過ぎない。ただそれだけでナイフを折るほどの脅威をあの飴玉に宿らせていた。
(なんなんだこの規格外の能力は・・・・・・。もし彼女が軍用兵器などを手にしたら一体どうなんるんだ・・・・・・それこそ世界の脅威になりえるほどの能力じゃないか・・・・・・)
 加賀杜は手から血を流しているオフビートの手を握り締めた。
「あっ、なにを・・・・・・」
「動かない方がいいよー。痛そうだねぇ、でも大丈夫。アタシが触れれば人の持つ治癒能力も促進できるんだ。まぁ、それほど効果はないんだけどこの程度なら出血止めるくらいは出来るよ」
 オフビートの顔から苦痛が消える。傷は完全に塞がりはしないが、どうやら痛みと出血は引いていったようだ。
「それで、斯波っち。色々と説明して欲しいんだけどいいかな」
「・・・・・・・・・・・・」
「言いたくない、か。まあわかるけどさ。アタシもエヌルン――うちの会計監査なんだけど、そいつに頼まれなきゃキミの尾行なんてしなかったよ。趣味じゃないし」
「尾行?」
「うん、まあただデートしてるだけだったからアタシも途中で尾行さぼってゲーセンで遊んでたんだけど、まさか見失ってるうちにこんなことになってるなんてねー」
 まさか自分の“兄”のような存在であるエヌR・ルールに目をつけられているとは思いもしなかった。だがオフビートはまだ一連の出来事についていけなかった。
「ねえ斯波っち。キミは一体何者なんだい?」
 加賀杜の言葉に、オフビートは言葉を詰まらせた。
「俺は、俺は自分が何なのかわからない」
「わからない?」
「俺には過去がない。今自分を縛っているのは他人に与えられた存在理由と居場所だけだ」
 オフビートは呟くようにそう言った。
「過去がない、自分がわからない――か。そうだね。そういうのって怖いよね」
 加賀杜は少し同情、いや、共感したような顔でオフビートを見つめている。加賀杜は優しく彼の手を握り締めている。
「私もこの学校に来るまでの記憶がね、一切ないんだ。でもそんなのどうだっていいじゃない」
「どうでもいいだなんてよく言えるな、俺は、俺は・・・・・・」
 オフビートは吐き捨てるようにブツブツと言っている。しかし加賀杜はそれに腹を立てることもなくオフビートの顔を覗きこんだ。
「記憶がないからって自分がわからないなんてことはないよ。大事なことは“今”にあるんだから。キミが守りたいと思う大切な物は“今”にこそあるんじゃないの。少なくともアタシはそうだよ、醒徒会のみんな、学園のみんなを護ることに過去の自分なんて必要じゃないさね」
「大事なもの・・・・・・護る――あっ」
 オフビートはぼんやりとした頭を一気に覚醒させる。彼が護るべき少女を思い出して、彼はふらつく身体に鞭を打って立ち上がった。
「ちょ、まだ立ち上がっちゃまずいって・・・・・斯波っち!」
 加賀杜の制止を振り切り、オフビートはその場から駆け出した。
 加賀杜は彼を追いかけようとしたが、その場に倒れている少年らを放っておくわけにもいかずに、オフビートを見送ってしまった。
「なんだかわかんないけど、青春だにゃー」






 観覧車が一周し、伊万里は特に何も無くデパートの屋上に戻ってきた。
 しかし死の旗が見えていたオフビートが戻ってきていないことに彼女は心配していた。
「だ、大丈夫かな斯波君。でも彼っていつも死の旗が逃れてきたし大丈夫なのかも・・・・・・」
 などと根拠もないことを呟いたが、やはり心配であるには変わりないようで、顔は青ざめていた。
 オフビートが戻ってこないのでどうしたものかと立ち尽くしていると、突然携帯電話が鳴り出した。着信元を確認して、伊万里はすぐに電話をとった。
「もしもし弥生? どうしたの電話なんて」
 一瞬間があったが、すぐにいつものか細い弥生の声が聞こえてきた。
『伊万里ちゃん、あのね、斯波君がこっちで倒れているの』
「え? 本当? 場所は? うん、、わかった。すぐにそっちに向かうわ!」
 伊万里はすぐにその場を駆け出して弥生の指定した場所に向かった。
 これが魔女の罠だと知るわけもなく、伊万里は今まさに死地に向かっているとは露ほどにも思っていなかった。








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