【そこそこ普通のサークルの話 前編】


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超人力学概論の講義が延びること二〇分。朝食を食べ損ねてすきっ腹を抱えていた爬又千明《はまた ちあき》は、講師が終了の挨拶を言い終わるが早いか外に飛び出した。
立ち昇る熱気や真上から照りつける梅雨明けの太陽が夏の到来を感じさせる。昼休みのキャンパスは既に学生や教員でごった返していた。このぶんでは学食の混雑ぶりも推して知るべきだろう、以前の失敗が脳裏をよぎる。今日のような日は出店で弁当を買ってサークル棟で食べるほうがいい。そうするべきだ。

「……でもなぁ」

弁当をぶら下げサークル棟へ向かう途中、千明はふと足を止めた。入学から三ヶ月、大学生活にもすっかり馴染んだつもりだ。しかし未だに慣れないものが一つだけある。それは入って一ヶ月になる学生サークルだ。三人の先輩方は皆いい人で、ただ一人の新入生である彼女をとてもよくかわいがってくれている。それは素直に嬉しいのだが、困ったことに皆どこかズレているのだ。

「ま、そのうち慣れるよね」

自分に言い聞かせるように呟いて、千明は再び歩き出した。

数年前に出来たという小ぎれいで大きなサークル棟新館の脇を通り抜け、その裏手にある一回り小さなコンクリート打ちっぱなしの古い建物へ。ビラと落書きでカラフルな階段を昇り、昼でも薄暗い廊下に所狭しと転がる用途のわからないガラクタを乗り越えて、目指すは北館四階一番奥の部屋だ。
途中、向こうから歩いてきた女の人に軽いお辞儀を受けた。慌てて笑顔をつくり、会釈を返す。一応何度か見かけてはいたが、挨拶を交わしたのは初めてだ。Tシャツとジーンズというラフな格好にも関わらず妖艶な色香が漂う不思議な女性だ。清楚な顔立ちにすらりとした長身、白磁のような肌、どれをとってもこの魔窟には似つかわしくない美しさである。一体どんなサークルに所属しているのだろうか。
そんなことを考えているうちに到着である。黄色のペンキで壁にはみ出すほど大きく『SFC』と書かれた鉄の扉をコンコンと二度叩き、勢いよく押し開けた。

「おっはようございまー……す……」

千明の目に飛び込んできたのは、メイド服を着たダッチワイフとパンツ一丁でなかよく添い寝する坊主頭の男であった。呆気にとられた千明が固まっていると、目を覚ました男が大きく伸びをしてのそのそと起きあがる。

「ん~~。おう、おはようハマちゃん。今何時?」
「……一時です」

慣れるにはまだまだ時間がかかりそうだ。



弁当を食べながら、千明はサークルに入会したときのことを思い出していた。

大学生には暇が多い。爬又千明は大学入学二ヶ月目にしてそのことに気付いた。同時に青春は向こうからはやってこないことにも気付いた。そしてこのまま何もせず橙色の日々を浪費してしまうことに危機感を抱き、こちらから青春に飛び込んでいくことを決めたのだった。
さて、それでは何をするかである。漫画やドラマを見るに、どうやら大学生の青春はバイトかサークル活動と相場が決まっているらしい。身体強化系の異能者でちょくちょくラルヴァとの戦闘にも参加していた彼女には学園からのお手当てがあったため、お金には不自由していなかった。そのためアルバイトの線は消える。となれば残るはサークル活動だ。
しかしそのとき季節はすでに梅雨。どのサークルもとうに新人歓迎の時期は過ぎ、新人たちも皆それぞれに居場所を確保しつつある。今更その輪に入っていく勇気も出せずただ真新しいサークル棟の前をうろつくばかり、どうしたものかと途方に暮れていたときのことである。

「何度も言わせるな、新入生が入らなかったら即退去! そういう取り決めだったはずだろう」

サークル棟の裏手から怒鳴り声が聞こえた。覗いてみると学園の職員らしき中年男性が腹立たしげな表情でむこうからやってくる。その後ろには男子学生が二人、追いすがるように走り寄ってくる。

「しかしまだ六月なんですよ? 今月か来月、いや八月、いやいや三月に入る可能性だって!」

線の細い病弱そうな青年が必死に抗議する。

「ふざけるな、毎年それを繰り返すつもりか!」
「ていうかちゃんと連れて来てるじゃねぇか、サヤカは立派なうちの新会員だっつーの」

体格のいい色黒の学生は何やら肌色の浮き輪のようなものを振り回していた。

「公衆の面前でそんなもの持ち歩くな、風紀に見られたら私まで撃たれるじゃないか! さっさと空気を抜け!」
「撃たれたくないなら早くサヤカ君を会員だと認めてください! こっちだって風紀は怖いんです!」
「脅迫する気か! 貴様らいい加減に……うぎゃあ!」

突如銃声が響き、中年の男が倒れた。続けてもう一度鳴り響く。

「うわぁぁぁぁああああ、サヤカ、サヤカぁー! 薫さん、サヤカの頭がぁあ!」
「ああサヤカ君、しぼんじゃダメだサヤカ君! ……風紀め、なんてひどいことを!」
「うぅっ……サヤカは、俺をかばってこんな目に……」

それからもう二度の銃声ののち、ようやく辺りは静かになった。
重なり合って倒れる三人と一体に恐る恐る近づく。どうやら全員気絶しているだけで命に別状はないらしい。サヤカちゃん以外は。

ミンチより酷い姿になったサヤカちゃんの冥福を祈り手を合わせていると、突然何者かに足を掴まれた。咄嗟に身構え、誰の手か目で辿る。薫さんと呼ばれていた病弱そうな青年であった。彼だけはまだ意識があったらしい。

「き、君……、よければ、これにサインを……」

そう言って懐から取り出した何やら書類のようなものを千明に押し付け、彼は事切れた。もとい気絶した。

今思えば何故あの時そのまま帰ってしまわなかったのか不思議でならない。ともかくそのような顛末があり、結果として彼女はここの会員なのだ。そして結局のところこうして一ヶ月経った今も自分からわりと頻繁に顔を出している。
しかし彼女はまだ何も、ここが何をするサークルでそもそもSFCとは何の略なのかすらも理解していなかった。そして、それを教えてくれる先輩はこのSFCには存在しなかった。だがとにかく利害が一致した以上、それで特に問題もなかった。



そんなわけで昼食を終えた千明は、次の授業までの空き時間を会室でただダラダラと雑誌を読みながら過ごしていた。
これはこの場所が気に入ったからというよりも、千明が一ヶ月観察し続け身につけたこのサークルの作法である。作法と言っても簡単なものである、各々好みの手段をもって時間をドブに捨てるだけだ。道徳心が痛まなくもないが、先輩方が実践している以上新人はそれに倣うしかないのだ。しょうがないのだ。

先ほど半裸で寝ていた丸刈りの男は三年の泊赤蜂《とまり あかはち》である。彼は小麦色の肌を隠すそぶりすら見せず、サーフパンツ一丁で気だるげにルービックキューブをいじっている。南国出身だが暑さに弱い泊にとって、ここ数日の猛暑はだいぶこたえているようだ。もっとも、冷房がロクに効かないこの部屋では彼でなくとも参ってしまうが。
いつも澄ました顔でメイド服を着こなしているサヤカちゃんもさすがにこの暑さには勝てないようで、マネキンから移植された新しい頭をヘンな角度に垂れてぐったりしている。こうしていると強調される首の接合部が妙に生々しくて、怖い。
そんな部屋の隅では業務用の扇風機がけなげに首をふっていた。泊が以前に廊下のガラクタの山から掘り出して勘だけを頼りに修理したというオンボロだが、これがなければ今頃皆逃げ出していたことだろう。

「にしても暑っちーよなぁ……おいハマちゃん、なんか面白い話しろよ。暑さ忘れるようなの」

ルービックキューブを放り投げ、泊が話しかけてきた。このセリフは本日十二回目である。

「クーラー効きませんねぇ、工学部の人とかに頼んだら直してもらえないんですかねぇ。そうそう工学部と言えば、こないだ与田技研のボンボンが捕まったじゃないですか。あのとき監禁されてた一年生、異能史学で一緒の子らしいんですけど……」
「ダメだ、暑い……」

そして十二回すべてこの調子だ。毎回いろいろ変えて話を振ってみるがどれも空振りに終わる。
千明もいい加減疲れて「この人そっくりなゴリラに見える肉の塊より七本脚の宇宙人とかのほうがまだ話が通じるんじゃないか」などと思い始めた段になり、突然ドアが開いた。

「君たち、今日夕方六時からふたばサイエンスパークへ行くぞ。支度したまえ」

細い首にタオルをかけ、入浴セットを手にぶら下げて現れたこの男が六年生の橋土井薫《はしどい かおる》、現SFC会長である。

「おはようございますハシドイさん、シャワー浴びてきたんですか?」
「ああ、二限目の体育で汗かいたもんだからね。真夏日の熱いシャワーもなかなかに気持いいものだよ」

まだしっとりと濡れる長髪を扇風機の風にたなびかせながら橋土井が微笑む。元の顔の陰気さゆえに爽やかになりきれない残念な笑顔だ。それにしても久しぶりに人間らしい会話が成り立った。今の千明にはこの先輩が学園のどんな教授よりも知的に見える。たとえ一年生必修の体育実技を五年間落第し続けていたとしてもだ。

「ずいぶん急だなぁ薫さん。なんか面白い話でも仕入れてきたのか?」

泊が目を輝かせて食いついてきた。千明のときとは明らかに態度が違う。

「ああ、ちょっと気になる話を耳にしたもんでね。僕の推論が正しければ、面白いものが見られるかもしれない」

いつも陰気な瞳が今日は珍しく燃えている。

「ふたばサイエンスパークって民間の研究施設がいっぱいあるところですよね? そんなとこ何しに行くんですか?」

千明が素朴な疑問をぶつける。

「説明しよう。僕の友人で長野という男がいてね、彼はふたばサイエンスパーク、FSPのすぐ近くに住んでいるんだが、その彼が『最近夜中に地震が多くて寝不足だ』と言うんだよ」
「地震だぁ? 最近あったかなぁ、ハマちゃん」
「千明ときどき夜更かししてますけど、最近地震があった記憶はありませんねぇ」
「だろう? 僕も気になってね、訊いてみたんだよ。そしたら彼は『そんなはずはない、ここ二週間ほど毎日揺れているぞ』というんだね」
「電車とか工事とかですかね?」
「いや夜中っつってんだろ」
「……ですよね」

泊の意外と冷静なツッコミに妙な敗北感を感じる千明。橋土井は気にせず続ける。

「それでね、僕はFSPに何かあるんじゃないかと思い、諜報部にいる後輩に少しばかり握らせて聞いてみたんだ」
「悪ぅい。人脈広いんですね」
「自慢じゃないがこの学園には君が二足歩行する前から通っているからね。それでだ、気になることがわかった。最近FSP内のとあるラルヴァ研究施設から研究材料として少々変わった発注があったらしい。これだ」

橋土井は小さく畳まれた伝票のコピーをどこからか取り出し、広げて突き出した。何やら暗号のように文字や記号、数字が並んでいる。

「見えるかい、ここだ。この文字はある種族のラルヴァを意味する符丁、記号は状態を表す。この記号なら『生きたままの』という意味だな。そして数字はそのままの意味だ。わかるかい? そう、変わった発注とはつまり『大量の生きたラルヴァ』だ」

ここで橋土井はテーブルの上に置いてあったペットボトルのお茶を一気に飲み干した。そして十分にためてから一言。

「そしてそれは、ちょうど二週間前から毎日納入され続けている」
「……ハシドイさんそれ千明のお茶」
「それが原因で間違いねーな。しかしなぁ、そんなことしてたらあっという間に溢れちまうだろ。一体何に使うんだよ」
「そう、そこが問題だ。僕が思うに、これはエサとして消費されているのではないだろうか」
「エサぁ?」
「お茶……」
「そう、エサだ。より大きなラルヴァの、ね。これほどの量を平らげるラルヴァならば、その大きさはちょっとした地震を引き起こせるほどにもなるはずだ。どうだい、合理的な解釈だろう」

下からどんなに叫んでも上の人間の耳には届かない縦社会の厳しさを千明は学んだ。

「なるほど、地震の原因は巨大なラルヴァか……でもよぉ、そんなヤベーもん飼ってたら学園や醒徒会が黙っちゃいねーだろ」
「そうなんだ、だから真偽を確認するためには醒徒会より早く動く必要がある。そして諜報部がこれだけの情報を掴んでいる以上、彼らはすでに動き始めているはずだ。急がねばならない」

そもそも巨大ラルヴァなんているのか、いたとしてそんな重大な機密の証拠がただの学生に掴めるのかという疑問はあったが、せっかく燃えている会長に水をかけるほど千明は無粋じゃない。また千明自身このイベントに青春の匂いを感じ始めていた。当然、ドラマの大学生たちから感じていたそれとはかけ離れているにしてもだ。
かくして、のちに忘れようにも忘れられなくなるであろう苦酸っぱい青春の日々が千明の許にも訪れるのであった。



その日の授業を終えた千明が会室に着いたときには、先輩たちはすでに出発の準備を終えていた。
橋土井は黒い半袖ジャージに首から双眼鏡とカメラをぶら下げただけの軽装だ。
泊はほとんどそのままだったがさすがに裸で行くつもりはないようで、申し訳程度にアロハシャツを羽織っていた。こちらは何故か大きなクーラーボックスを持っている。
サヤカは純白のアオザイを着せられて泊に背負われていた。ボディラインの出る服もぴったり見事に着こなしているのはさすがだ。
動きにくい服装では万が一のとき危険だということで、先輩方には外に出てもらい千明一人会室でTシャツとジャージに着替える。

「ていうか、サヤカちゃんも連れて行くんですね」

鉄の扉ごしに話しかけた。

「一応サークルのイベントだからね、会員は原則全員参加だよ」

マジメというべきか融通が利かないというべきか。まあおそらくは面白がっているだけだろうが。

「それにしても膨らんだまま持っていくのは面倒じゃないですか? かさばるし」
「何言ってんだ、サヤカは俺らと苦楽を共にしてきた仲間だぞ! 荷物扱いなんてできるかってんだ。そんなことよりお前着替えまだかよ、早くしないと置いてくぞ。その部屋幽霊出るぞ知らねーぞ」

泊が声を荒げる。

「すみません、もうすぐです。でもサヤカちゃんって風紀の人に見つかったらまためんどくさいことになりそうですね」

そう言うと急にしんとして返事がなくなった。さては置いてかれたかと思った千明は急いで着替えると、慌てて外に飛び出した。幽霊も怖いし。

「……思いっきり荷物扱いじゃないですか」

千明が見たのは“風紀”という単語を聞いて無言になった先輩たちと、容赦なく折り畳まれて紙袋に捻じ込まれるサヤカの姿だった。わずかに覗く生首がどこか悲しげに見えた。

橋土井の車で移動する。十五分ほどで車は湾岸線に出た。この辺りはまだ殆ど開発が進んでおらず、右手には造成中の空き地、左手には東京湾が道路を挟んで延々と続いている。

「見えてきた、ふたばサイエンスパークだ」

右手の広大な空き地が突如途切れ、近代的なデザインの研究所群が姿を現した。

「はあ、すごいもんですねぇ……前衛的というか、未来に生きてるというか」
「ありゃ悪趣味っつーんだ」

FSPの手前で右に折れ、出来の悪いロボットアニメに出てきそうな建物の群れを左手に眺めながら車は進む。二歳児の積み木細工そっくりな研究施設の道路を挟んで正面に、立派な高級マンションが建っていた。夜中に謎の地震があったと主張する長野氏はここで民間研究所勤務の両親と暮らしているそうだ。なるほどFSPは目と鼻の先である。来客用駐車場に車を止め、既に帰宅していた長野氏に屋上まで案内してもらった。地上十一階相当の屋上からはFSPの研究所群がくまなく見渡せる。

「まずは下調べだ、巨大ラルヴァを隠しておけそうなサイズの建物、および巨大ラルヴァの痕跡を上から探そう。巨大ラルヴァを運び込めるほど床面積の大きい建物や広場はそういくつもないはずだ」

そう言って橋土井は熱心に双眼鏡を覗きはじめた。千明も景色を楽しみながら下界を眺める。泊は高所が苦手らしく端には近づかず、屋上の真ん中で顔を真っ赤にしながらクシャクシャになったサヤカの肌にハリを取り戻そうとしていた。

ふたばサイエンスパークとは双葉区主導で建設された、民間の先端技術研究所群のことである。区の提供した一キロ四方の敷地内には大小様々な研究施設が所狭しと並んでいる。
もちろんこの双葉区に設置されている以上、その研究内容は異能やラルヴァに関するものがほとんどだ。中には巨大な生きたラルヴァを実験に使おうと考えた集団がいたとしても何ら不思議ではない。さすがにそれが地震を起こすほどの巨大なものとなると話は別だが。

十五分ほど経つと、陽が落ちて街灯が次々に灯り始めた。気持ちのいい風も吹いている。後ろで小さな破裂音がした。振り返ると泊が缶ビールを開けている。クーラーボックスの中身は酒だったようだ。それらしき建物を見つけられず飽き始めていた千明は探索を中断し、泊とサヤカのもとへ駆け寄った。

「泊さん、探すの手伝わなくていいんですか?」
「いいんだよ放っとけほっとけ、薫さんの妄言はいつものことだ。俺たちゃ遠足気分で遊んでりゃいいの」
「遠足?」
「そう、遠足だ。たしかに名目上は巨大ラルヴァの探索調査かもしれんがな、実際問題いねーだろそんなもん。それよりせっかく会員みんなで外に出てきたんだ、星空の下めいめいに遊び、飲み、楽しむ。これが一番だ」

正直どこまで本気かわからなかったが、どうやらこちらの先輩は意外と常識があるようだ。

「ハシドイさんは完全に何かあると信じてますけどね……」

チラリと振り返る。我らがSFC会長は先ほどから変わらない姿勢で熱心に双眼鏡を覗いている。こうして離れて見てみると、なかなかに通報したくなる後ろ姿だ。

「だからほっとけって、あの人はああやってるが一番楽しいんだから。そんなことよりハマちゃん、一杯いくかい」
「いえ、私いちおう未成年ですし」
「細かいこと言うなって、よその学生は遅くても十六から飲んでるぞ。ましてや大学生なら飲んで当たり前だ。もちろん体質的にダメってんなら無理は言わんが」

そう言って泊は喉を鳴らしながらうまそうにビールを流し込んだ。そして大きく息をつき、見せつけるように幸せそうな笑顔を浮かべる。

「……まあせっかくの遠足ですもんね、ちょっとぐらいいいですよね。いただいちゃいます」

泊がニヤリと笑って缶チューハイを差し出した。千明も笑ってそれに手を伸ばす。と、そのときである。

「泊くん、爬又くん! ちょっと来たまえ!」

いつの間に近づいてきていたのか、突然橋土井に肩を掴まれた。千明はびっくりして缶を落としてしまう。

「いきなりなんだよ薫さん、酒すすめたぐらいでそんなにカリカリすることないだろう?」
「そうじゃない、いいから見てくれたまえ。我々がいるこの団地と道路を挟んではす向かい、広い駐車場があるな。この隅に白い倉庫のような建物がある、わかるか? ほらそこだ。どうやらあれがカギのようだ」

そう言うと橋土井はデジカメを取り出し、動画を再生して二人に見せた。

「今録った映像だ、見てくれ。あの建物の傍に背の高い学生服の男と小さな子供がいるだろう」
「見えます。ノッポのほうはともかく、こんなところにちびっこが居るのはなんか怪しいですね」

無論この三人が言えた義理ではないが。

「ああ、僕もそう思ってカメラを回してたんだ。見ていろ、ここからが問題だ」
「……!? おい、こいつら壁の中に消えたぞ!」
「決まったな、彼らは異能者……おそらくは“醒徒会”の手の者だ。何かを嗅ぎつけて動いたらしいな。幸い今ので怪しい場所には見当がついた、こちらも急ぐぞ。巨大ラルヴァの存在が隠蔽される前にこの手で真実を掴み取るんだ!」

エレベーターを待ちきれず階段を駆け下りていく橋土井の後姿を見ながら千明は訊ねた。

「遠足……じゃゆるすぎませんかね?」
「……裏社会見学って感じだな」

本気でヤバくなったら会長閣下を生け贄にしてでも逃げ出そう、そう密約を交わす二人であった。


SFCの面々はマンションを出ると一度車へ装備を取りに戻り、今度はその隣の広い工事現場に忍び込んだ。大型のショッピングモールを作っているようだが、まだ基礎工事中でビルは影も形もない。
橋土井は地下へと続く縦穴を見つけると、ためらいなく工事用のタラップを降りていった。泊も後に続く。千明はどうするかしばらく迷っていたが、二人の姿が見えなくなりかけているのに気付くと慌てて後を追った。どうせ乗りかかった舟である、泥舟だろうと渡りきってしまえばこっちのものだ。辿り着いた先は修羅の国かもしれないが。

前を歩く泊に背負われたサヤカとにらめっこしながらどんどん地下へと潜っていくと、先頭の橋土井がこっちを振り返って言った。

「よし、着いたぞ。見たまえ、すごいだろう」

そこには広大な鉄の床が広がっていた。ハンディライトで辺りを照らしてみても、光の届くところすべて床が続いている。はしゃいだ千明がうろちょろ走り回っていると、いつの間にか他の二人が見えないところまできていた。それでも壁に行き当たらない広さである。泊に怒鳴られ慌てて引き返す。

「何やってんだバカ、こんなとこではぐれたら帰れなくなっちまうぞ」
「ごめんなさい……。でも地下にこんな場所があったなんて、千明すっごく感動しました。これって何なんですか?」
「んなこと俺に聞くな、薫さんに聞け。つーか薫さん、俺もよくわからないんだが、何だってこんなとこ来たんだ? 巨大ラルヴァはもういいのかい?」

泊はあっさり質問を丸投げた。

「ああ、まとめて説明しよう。まず僕たちが住むこの双葉区は一応埋立地と呼ばれてはいるが、厳密には異なる工法で作られている。これくらいは君たちも知っているだろう」

橋土井は千明と泊の顔を交互に見た。揃って首を横に振る。

「……まあいい、今知ったなら覚えておきたまえ。それではどう違うかというと、普段僕らが暮らしている足元にあるのは海底に盛られた土ではなくメガフロート、つまり海に浮かぶとびきり巨大な鉄の箱をいくつも繋げたものなんだ。まあメガフロートと言ってもこの人工島は史上類を見ない規模だし、言わばギガフロートとでも呼ぶべき構造体だね。ここはその海に浮かぶ巨大な箱の中なんだ。と言ってもひとつの大きな空間というわけではなく、隔壁でいくつかの部屋に仕切られている。それでもこの広さだから大したものだ。中には地下施設に利用されているものもあるそうだよ。双葉区の地下には一部の例外を除いてこのような空間が広がっているんだ。ちなみに一部の例外とは――よそう、今は時間が惜しい。だいたいわかったかな、爬又くん?」

千明は少々迷いながらも首を縦に振った。橋土井が安心したように微笑む。

「よろしい。では何故ここに来たか、だ。さっきも言ったとおりこの鉄の箱は非常に大きい。具体的にはそうだな、さっきのマンションはもちろん、ふたばサイエンスパークの半分ぐらいは同じ箱の上に載っているだろうね。もちろんあの駐車場やその隅にある小さな建物も、僕たちが今いるこの箱の上に載っていることだろう。と、言うことはだ」

橋土井はそこでいったん言葉を切り、泊の顔をじっと見る。泊は目を合わせようとしない。

「さて、僕がここに来た理由はもうわかるだろう? 泊君」

泊は目をそらしたまま答える。

「……迷子のスネ夫を探しにきた」
「爬又くん」

スルーである。

「あの建物と地下で繋がっているから!」
「正解!」

橋土井が大げさに両手を広げて正解を称えると、千明も笑顔とハイタッチで応える。その隣で泊は寂しく地面を見つめていた。

「そう、地下だよ。僕はさっき二次元的な発想に囚われ、もっと巨大な空間の存在を見落としていたんだ。おそらくこの先、例の建物の地下に当たる部分にこそ真実があるはずだ」

橋土井の目が爛々と燃えている。

「さて、それでは行くぞ。方角と大体の距離は把握している、ついてきたまえ」

パーティーは意気揚々と出発し、

ものの数分で隔壁にぶち当たった。


「行きたいほうに限って壁があるなんて人生そのものですねぇ。ここは地上でいうとどの辺りなんですか?」

来たほうを見つめながら千明が尋ねる。帰りにまたあのタラップを探すのが大変そうだ。

「正面の道を斜めに渡り切ってさらにしばらく行ったから、大体駐車場の真ん中あたりにいるのだろう。例の建物も結構近いな、この隔壁を超えればおそらくは……」

橋土井はハンディライトの明かりでメモを確認しながら答えた。「電子機器は信用ならん、記録は紙とペンに限る」という今どき古風な考えの持ち主らしい。さすがは二〇世紀生まれといったところか。
泊は座って静かに酒を飲んでいる。スベったのを引きずっているのだろうか。
手持ち無沙汰な千明はなんとなく隔壁沿いにハンディライトの光を走らせてみる。すると遠くの壁を照らしたとき、妙な段差があることに気がついた。もう一度近くで見ようと歩き出したそのとき、突然に不規則な揺れが一行を襲った。さらに隔壁の遠く向こうから揺れにあわせて大きな音が響いてくる。ボールが跳ねているようにも、濡れた布を叩きつけているようにも聞こえる奇妙な音だ。
しばらくすると音と揺れは収まった。全員瞬時に互いの無事を確認し、皆で顔を見合わせる。

「おい薫さん、今のは……!」
「ああ、間違いないな。この揺れだ。そして二人とも、今の音を聞いたろう。明らかに揺れと連動していたな?」

二人とも無言で頷く。
橋土井は向こうを透かし見るかのように壁を睨みつけて叫んだ。

「この隔壁の向こうに、巨大ラルヴァが――いる!」


「でもよお、この壁はどうやって越えるんだ? ここぶち抜けそうな能力持ってる奴なんていねーぞ」

言いながら試しに壁を蹴ってみるあたりが泊である。当然壁はビクともしない。
橋土井は答えない。こちらは厚さを測るように壁のあちこちをノックし、その音を聞いている。

「少々厚すぎるか……」

呟いたそのときである。

「あのー、ちょっと来てくださーい。これって扉じゃないんですかー?」

遠くで千明が呼んだ。二人が駆けつけてみるとそれはまさしく扉であった。しかし開かない。錠が下りているようだ。

「ダメですかねぇ」

鍵穴や蝶番をまさぐる橋土井を千明が残念そうな顔で見つめている。泊は既に諦めた様子でまた酒を飲み始めた。

「電子ロックじゃないのはまあ嬉しいんだけどな。ハマちゃん、お前身体強化系だったよな? これ蹴ってぶっ壊せない?」
「どうですかねー、やってみましょうか。 あ、でも千明の足跡つけちゃったらそこからアシつきません?」
「お、上手いねハマちゃん。よくできたからご褒美にチューハイやるよ、新商品のプリン味」
「やったー、いただきまーす」

思えばとうに夕食どきを過ぎている。そろそろ腹も減ってきたし、喉も渇いてきたところだ。そこに先ほど飲み損ねてようやくありつけた酒である。千明はテンションにまかせて缶の半分ほどまで一気に飲んだ。よく冷えた酒が空っぽの胃に辿り着くと途端に熱を持って身体を内側から焼いてゆく。アルコールが染み込んでいく様がくっきりと感じられるようだ。

「くぅ~~ッ!!」

遅れて口の中に冒険的な後味がひろがってゆく。

「ん? ……うわ、うわうわうわ。……ッうぇ~、すっごいですこれ。泊さんもちょっと飲んでみてくださいよ」
「どれどれ。……うっわ馬鹿でぇー。これ作った奴ほんとバカだろ。薫さん、コレ飲んでみてよ。ひっでーよコレ」
「あれ、ハシドイさん何やってるんですか? あ、鍵穴にガムつけちゃだめですよぉー。それ普通にイタズラじゃないですか」

橋土井はハイテンションで近寄ってきた二人をやさしく制し下がらせた。そして自らもドアから十分に距離をとった後、千明に言う。

「ガムじゃない、C4だ」

広い部屋いっぱいに爆音がこだました。



「……プラスチック爆弾なんてどこで買ったンスか。耳痛てーよ」
「裏街のほうでちょっとね。さて泊君、トドメを頼む」

隔壁との接点を失ったドアを泊が蹴り倒し、向こう側をライトで照らす。すぐ正面にはまたも隔壁があった。左右を照らすと隔壁に挟まれて一直線に細く深い闇が広がっている。どうやら部屋同士は隔壁一枚で区切られているのではなく、間に緊急時の避難用通路が通っているしい。橋土井がまず通路に出る。そして先へ進もうとしたところで千明が口を開いた。

「でもこのさき行って大丈夫なんですかね? 誰かに見つかったら正直シャレにならないと思うんですけど。爆破とかしてるし」
「んー、たしかにちょっと見て帰るってわけにもいかねぇだろうしなぁ。まあテレビの探検モノならこんだけやれりゃ十分だわな」

泊もこれ以上の捜索にあまり乗り気ではなかったようだ。二人とも足が止まる。
先を行く橋土井がそれに気付き、くるりと振り向いた。そして姿勢を正して厳かに語りだす。

「あー、さてSFC諸君、ここから先についてだが」

橋土井の改まった物言いに、ほろ酔い気分の二人も少し真顔になる。

「この隔壁の向こうは本来の建設予定では何もないことになっている。だが我々は、この壁の向こうに怪音と振動を引き起こす『何か』の存在を確信した」

三人が一斉に頷く。

「この『何か』について現時点でそれらしき公式発表はない。むしろ徹底的に秘匿されている。その出自及び存在に何か後ろ暗いところがあることは間違いないだろう」

演説に熱が入る。

「それはつまりどういうことか。秘密を知った人間を更なる非合法な手段を以って排除することも十分に考えられるということだ」

「それじゃ行かないほうがいいですねぇ」
「危ないもんなぁ」

「すまん間違えた、今のは聞かなかったことにしてくれ。ええとそうじゃなくて、つまり後ろ暗いってことは、ヘタすりゃ一生表には出てこないとっても珍しいモノかもしれないってことだ。どうだ、どんなものか気になるだろう」

二人ともあまり反応がない。

「コホン、まあ確かに危険がないとは言い切れないだろうな。だがそうそう命まではとられないだろうし、逆に口止め料をもらえる可能性だってないわけじゃない。うまくいけばこの先一生見れない不思議な何かが見られて、さらにはお小遣いまでもらえるかも知れないわけだ、素晴らしい話じゃないか」

それでも下級生二人の目には興味の光は灯らない。それどころか哀れみの色すら浮かび始めた。後のない橋土井は、ついには思いつめたような表情でこう切り出した。

「……しかし残念なことに、ここから先は僕一人で行かせてもらう。SFCの会長として、君たち会員を危険に晒すわけにはいかないんだ!」

熱く語りながら橋土井が大見得を切ると、そのまましばらく三人とも固まった。橋土井は二人の顔をチラチラと何かを期待するような目で覗き見ている。そして少なからず驚きの表情が浮かんでいることを悟ると、勝負とばかりに一気にまくしたて始めた。

「……巨大ラルヴァを前にしてここで残されるのはまことに、まことに、まことに心苦しいだろうが、ここから先は僕、一人で。たった一人で。色々ヤバい人たちいるかもしれないけど一人で。行こうと思う。いやいい止めないでくれ、僕は巨大ラルヴァらしき何かの正体が見たいんだ。ここで見逃したら死ぬまで見れないかもしれないような、ね。だから行く。ヤクザみたいのに銃で撃たれて死んじゃうかもしれないのに一人で行く。君たちの助けがあれば死なずに済むかもしれないのに一人で行く。その場合残された君たちはものすっごく後味悪いだろうけど僕一人で行く。しかし、君たちがどうしてもやっぱり一緒に行きたいと言うなら……」

「ハシドイさん!」

突然千明が割って入った。一瞬喜びの表情を浮かべた橋土井だったが、どうにも千明の様子がおかしい。なんと目に涙を浮かべている。

「……ハシドイさん、絶対生きて帰ってきてくださいね」
「え? ちょ……」

橋土井がとっさに何か言おうとするも、潤んだ瞳が弁明を許さない。さらに泊がいつになく真面目な口調で語りだす。

「薫さん、あんたはさすがだ、それでこそ俺たちSFCの会長だ。確かに相手は恐ろしい連中だろう。銃を持ってるかもしれないし、それで人を撃つことをトイレに紙を補充する程度の面倒としか感じていないかもしれない。だがそれでも行くというなら、薫さん。俺はあンたを止めはしない。是非行って巨大ラルヴァをその目に焼き付けてきてくれ。たとえ命と引き換えになろうとも、だ」
「私たち、ここで待ってますから」
「万が一のときは俺が骨、拾います」

そうして押しに弱いSFC会長閣下はとうとう一人で通路の奥へと消えていった。去り際その目に何か光るものがあったが、そういうものは見ないようにするのがサークル会員のたしなみである。



弱弱しい後ろ姿が闇に溶け切ったのを見届ると、泊はおんぶひもを解いてサヤカを座らせ、自分は倒れた扉の上に腰を下ろした。千明がそれに倣おうとするとクーラーボックスをすすめられたのでその上に腰かける。なかなかちょうどいい高さだ。

「……行ったな」
「行っちゃいましたね」

しばしの沈黙が流れる。

「飲むか!」
「飲みましょっか!」

 クーラーボックスからそれぞれビールとチューハイを取り出し、改めて乾杯した。

「怖がってましたねぇハシドイさん」
「まあ何があるのかしらんがさっき醒徒会みたいな奴らも入ってったじゃん、大丈夫だろ。俺はむしろあっちに怒られるのが嫌だね」

泊は特に心配はしていないようだ。千明としてもおおよそ同意見である。

「しかし一緒にきてほしいならそうと言えばいいのに。なぜこうも見事に墓穴掘るような言い方しちゃうんですかね」
「かっこつけたかったのさ」
「素直じゃないんですね」
「意地があるんだよ、男の子にはな」

これはホントに名言だと思う。

「それにしても泊さんがあんな追い込み方できるとは思いませんでした、意外とすごいんですね。ちょっとイジめすぎな気もしますけど」
「意外って言うなよ。だいたいそれを言ったらハマちゃんこそ意外だぜ、あのタイミングで目うるませるなんて男なら絶対引っ込みつかなくなるっての。イジめすぎたとしたらハマちゃんのほうだな、うん。俺は悪くないね」

そう言って泊はビールを豪快に流し込み、満面の笑みでため息をつく。どう見ても責任なんてかけらほども感じていない様子だ。

「うふふ、女はみんな女優なんです。でもノリで送り出しちゃいましたけどホントに一人で大丈夫なんですかね、ハシドイさん。ものすっごくついてきて欲しそうでしたよ」
「仕方ねーよ、俺だって怒られるのヤだしハマちゃんだってそうだろ。まあ大丈夫じゃねーの? 薫さん身体能力はアレだけど、同じくらい存在感もないからさ。それにいざとなりゃ異能もあるし」

なんとも頼りない分析だが、それなりに付き合いのある泊が言うのならば大丈夫だろう。千明も心配するのを完全にやめた。

「ていうか千明ハシドイさんに異能があるの今初めて知りました。どんな能力なんですか?」

千明の質問を受けて泊は一瞬不思議そうな表情を見せたが、またすぐ元の顔に戻る。

「あー、そういやまだ言ってなかったっけか。でも能力なんて他人がバラすもんでもないし、薫さんのは直で見たほうが絶対面白いと思うぜ。今度本人に直接頼んでみろよ」
「んー、じゃあそれまで楽しみにしときます。そういえば泊さんは異能者なんですか?」

 チューハイをちびちび飲みながら問いかける。

「俺? んなもんないよ。魂源力も外の一般人と大して変わらないみたいだし、完全な無能力者だな」
「へぇ、大学でそれって珍しいですね。どういう経緯でこの学園に来たんですか?」
「ああ、高校んとき友達と遊んでたら野良犬に襲われてな。棒でぶっぱたいたらのびちゃったんだけど、それがヘンな犬でさぁ。形は犬なんだけど全身から鉄みたいなウロコが生えてるんだよ。あんまり珍しいもんだから家に連れて帰ったんだ」

しみじみと懐かしそうに語る泊の隣で、千明は顔をこわばらせていた。

「あのぉ、それって」
「うん、ラルヴァだな今思えば。だもんでメチャクチャ気性が荒くてさ、しばらく飼ってたんだけど母ちゃんに捨てて来いって言われちゃってよ。でも捨てたらまた人襲うじゃん、かわいそうだけど保健所連れてったんだよ。んでそんとき別室で色々訊かれて、高三のときに突然推薦もらった」
「ラルヴァを飼ってたって……すごいですねぇ」
「いやあラルヴァっつっても小さいのだもん、大したことねーよぉ」

謙遜しながらも見るからに嬉しそうな表情を見せる。素直な人だ。

「あ、つっても別に子犬を棒で殴ったわけじゃないぜ? そうだな……うん、ちょうどあの犬ぐらいだ」

そういって先ほど橋土井が消えたのと反対側の通路を指した。千明もそちらを覗き込む。……犬?

「ほら見えるか、今ライト当ててる奴。ちょうどあれくらいだったな。ていうか似てるなあ、ホントにそっくりだ」

嬉しそうに話す泊の隣で、千明は戦慄を覚えていた。

「B2カテゴリービースト、『スケイリーハウンド』……何故ここに!? ていうか中級ラルヴァに棒で勝つとか有り得なくないですか!?」




                                   つづく



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