【宮城退魔帳 その一】


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 いつもの日常。
 いつもの景色。
 アーケードのコーヒーショップでブルーマウンテンを啜りながらいつもの様に俺たちはダベっていた
「なぁ慧護、お前進路どうする?」
 親友であり腐れ縁の大前克<<おおまえかつ>>が聞いてくる。
「進路か・・・、まだ何も考えてないな」
「マジかよ!俺達も来年から受験だろ?そろそろ進路も決めとかないと後で困るぜ」
「それは分かるんだけどな・・・。そういうお前は決まってるのかよ?」
 どうせ決まってないだろうととタカをくくって聞き返したが、予想外の答えが返ってきた。
「モチのロンさ!」
「で、何になるんだ?」
「TK大の航空宇宙工学科に行って宇宙用エンジンの開発をしたいと思ってる」
「へぇ・・・」
「その為に今必死に勉強してるんだぜ。熱力とか流力とかトライボロジとか」
「何も考えてないようでちゃんと考えてるんだな、克も」
「当たり前だ。お前のほうこそ何も考えてないじゃないか」
「まぁ、今は剣道に打ち込めたらと思ってるよ」
 コーヒーを啜りながら答える。
「フムン、しかしそれなら実家を継げばいいじゃないか。剣道道場をやっているんだろ?」
「本業は宮司だけどな」
「なら宮司も一緒に継げばいいじゃないか」
「そうはいうがな・・・、神職になるにも相応の大学に行かなきゃならん。それに俺はもう少し剣道に向き合っていたいよ。進路なんてクソ食らえだ」 
「お前らしいな。そんなんじゃ今世間の噂も知らんのだろう」
 克は笑いながら返す。
「噂ってどんなのだよ?」 
「最近世界中で変な事件が増えてるだろ?あれ実は魔界からの軍団とか宇宙人の放った改造生物とかそういう噂」
「なんだそりゃ?」
「俺もよくは知らないがそんな噂が流行ってんだよ」
「眉唾物だな。ム○でもそんなの記事にしないぜ」
「全くだ」
 既にコーヒーは無くなっていた。もうすぐ電車が駅に着く。
「そろそろ行くか」
「そうだな」
 席を立とうとしたその時だった。 


 スーツ姿の男性が膝から崩れ落ちる。
 倒れた胸元から血が溢れ出し、血溜りが広がってゆく。
 その傍らには抜き身の刀を下げた男の姿があった。刀身から血が滴りタイルをぬらす。
 周りの人たちは突如目の前に現れた非現実に対応できずにただ硬直したいた。
「ひっ、人殺し!」
 その悲鳴で場は急速に動き出す。動き出す人、人、人。
 逃げ惑う人々の中から転び逃げ遅れた人、勇敢にも男を止めようと立ち向かった者からただ無造作に切り伏 せていった。
 さながら地獄絵図の如き光景が出来上がった。


 店から出た瞬間、まず聞こえたのは悲鳴だった。
 そして落ち寄せる人。
「一体なんだこれは?」
 克が逃げる中の一人を捕まえ事情を尋ねた。
「おい、おっさん。一体何があったんだ?」
「通り魔だ!刀をもって人を斬りまわってる!お前らも気をつけろ!」
 そう言うが早いか走り去ってしまった。
「克!行くぞ!」
 むやみに人を斬る。刀を握る者として忘れてはいけない初心。それを忘れ振り回す奴が許せない。
「応!」
 俺達は人に流れに逆らい進む。大した距離は無かった、せいぜい200メートルといった所だろう。
 だがそこは地獄だった。
 むせ返るほどの血臭と死。その中心に奴はいた。
 そこに奴のすぐ横のコンビニから女生徒が一目散にこちらに向かって走ろうとし、転んだ。
「克、鞄頼む!」
「あっ、おい慧護!」
 克に鞄を押し付けて、気がつくと走り出していた。
 あの子を助けないと!
 奴が大上段に振りかぶる。
 そこに懇親の体当たりを食らわした。奴はよろめき姿勢を崩す。
 「君、今のうちに逃げろ!」
 「だ、駄目・・・、腰が・・・抜けて…」
 「畜生・・・、やるしかないのか」
 俺は竹刀袋から愛用の竹刀を取り出し正眼に構える。
 それに対して奴は構えもせずただ無造作に突っ立ていた。
 突如前触れもなく閃光のような一閃。
「嘘だろっ!」
 後ろには女の子がいて下がることはできない。文字通り紙一重でかわし距離を詰める。
 すぐさま切り替えしが来る。これも先ほどと同様に鋭い。
 今度はそれを受ける。間合いを詰めた分相手の腕で斬撃を止める。
 こちらは両腕、奴は片腕なのに力で押されているのはこっちだった。
 このままではヤバいと判断し、その太刀筋からは信じられないほど無防備な奴の腹に蹴りをいれ再び間合いを取って退治した。
 ここで初めて奴に動きがあった。
 刀を「両手で」上段に構えたのだ。片手で、何の構えも無しにあの一撃だったのだ。それが両手持ちだとどうなるのか予想もつかない。
 だが、やるしかない。
 奴から強烈な殺気が膨れ上がってくる。だが、それとは別の違う気配も感じていた。
 なんなんだこの感覚は?
 体の中の何かが無理矢理起こさせるような、自身が拡張してゆくかのような感触。
 俺の意識が奴から逸れたその一瞬。その隙を見逃されるはずもなかったのだ。
 気がつけば竹刀は両断され、右腕に深手を負っていた。
 傷口から血がしぶき、片膝をつく。そこに必殺の一撃が繰り出される。
 意識するより早く、体がそれを止めていた。
 瞬間、刀から意識が流れ込み俺は意識を失った。 


 そこは戦場だった。
 数多の屍が積み重なり流れた血が河を作る。
 その中心に俺はいた。
 今も数人の足軽が槍を突き出しこちらを仕留めにかかる。
 その槍をかわし一気に足軽衆を間合いにおさめ、屠った。
 手には肉が裂き骨を断ち切り命を奪った感触が残る。
 もっとだ、もっと血を、死を、我に!
 屍の山に立つ俺は堪らなく嬉しそうに哂っていた。
 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!
 屍山血河を作り出せ!
 そこで俺は「俺」の正体を悟る。
 これはあの刀の記憶、意思だ。
 それを意識した瞬間止め処ない殺意があふれ出る。
 これはお前の意思だ、お前は死を望んでいる。さぁ殺せ!
 違う!これは俺の意思ではない!
 瞬間世界が反転した


 気がつくと俺は再び奴と対峙していた。
 意識を失っていたのはほんの数瞬のことだったらしい。
 こんな奴に殺られるわけには行かない!
 渾身の力で立ち上がり足を使って奴を蹴飛ばした。
「慧護ーっ!これを使え!」
 そう言い克は俺の足元に何かを投擲した。
 それは竹刀、克のものだった。
 「恩に着る!」
 竹刀を手に取り三度奴を対峙する。
 自然と俺は居合いの構えを取っていた。
 不思議と体の感覚が研ぎ澄まされ、広がってゆく。
 五感は竹刀にまで行き渡り今、完全に一つになった。
 奴が大上段から袈裟斬りに、今度こそ必殺の一撃を繰り出す。
 それに合わせて俺も抜いた。
 勝負は一瞬、この刹那!
 俺と奴の影が交錯する。
 一瞬の後、立っていたのは俺だった。
 刀は根元から折られその呪われた生涯に幕を閉じ、その使い手は気を失い大地に臥した。
 こちらも左肩から血が滲み片膝をつく。
 振り返り、少女が無事なことを確認する。
 通り魔が倒れたことにより駆けつけた克を含む数人によって保護されていた。
 もうすぐ警察や救急車も現場に到着するだろう。
 そう思うと急に目の前の風景が歪み、世界が暗転した。


 目が覚めるとそこは白い部屋だった。
 白いカーテン、白いベッド、白い壁、ここでようやくここは病院だということに気が付く。
「痛ぅっ!」
 両腕から激痛が走る。
 そうか、俺はあの後気絶してここに運ばれたのか・・・。
 不意にドアがノックされる。
 「どうぞ」
 年の頃は27~30といった所だろうか、タイトスカートの良く似合う女性が入ってきた。
「やぁ少年、気が付いたかい?昨日は大手柄だったじゃないか」
 割とおどけた調子で話しかけてくる。
「いえ、ただ必死だっただけです」
「謙虚な心を忘れない少年にお姉さん感心した!ご褒美にぱふぱふしてあげよう!」
「ぱふ…ぱふ……?」
 胸を見る。
 もう一度見る。
 目を擦ってもう一度凝視する。
 そこには絶壁しかなかった。
「やあねぇそんなに見つめられちゃお姉さん照れちゃうわ!」
 思っていることが顔に出てしまったのだろうか?恐ろしいほどの圧迫感を感じる。
 話題を変えないと…、このままでは明日の朝日と拝めそうに無い。
「それよりもあなたはどなたでしょうか?」
 それまでのおどけた調子が消え、急に真面目な顔になる。
「ごめんなさいね。私は東京の双葉学園で教師している西川千晶。宮城慧護君、貴方を双葉学園にスカウトしにきたの」
「スカウト・・ですか?」
「そう、昨日の事件でラルヴァを撃滅した君は能力を買ってね。おそらく貴方は異能に目覚めつつあるとも推測されてるわ」
「異能?ラルヴァ?一体なんですかそれは?」
「そうね・・・、じゃあ先ずラルヴァについて説明するわね」
「あなたも最近世界中で発生している怪奇事件の噂、聞いているでしょ?」
「はい」
 つい昨日克と話したばかりの内容だ。忘れるはずも無い。
「その事件の大半がラルヴァの仕業、だとしたらどうする?」
「!?」
 背筋に寒気が走る。
「それは、どういうことですか?」
「言ったままの意味さ。現在全世界規模で増加しつつある事件の背景には少なからずラルヴァ、という生き物が関係しています」
「そして、昨日君が対峙したのもその一種、と推定されています」
「どういうことですかそれは?」
「正確には君と対峙した通り魔の持っていた刀、というべきでしょうね。」
「カテゴリーエレメント、危険度分類S-4下級、通称九十九神と呼ばれるラルヴァだと推定されているいるわ。」
「まぁラルヴァというものは妖怪みたいなもの。と思ってもらってかまわないわ」
「それに大して異能力者とは力の大小こそあれどそれに対抗する超常の力を持った人達の総称を指します。中には対ラルヴァ戦では全く役に立たない人もいますけどね」
「そういう人は適材適所、裏方に徹してもらって前線に出る異能者のサポートをしてもらっています」
「・・・今回の事件の被害者は君を含めて死者8名、意識不明1名、重症3名、軽症一名・・・。私達がもっと早くラルヴァの発生を察知できて迅速に能力者を派遣できたのなら彼らは平穏に日々を過ごせた科も知れないのに・・・」
 そう語る千晶さんの手は震えていた。
「千晶さん、一日時間を下さい」
「わかりました。ただ、これだけは覚えておいて下さい」
「はい」
「異能やラルヴァの事を知り、拒絶した者に情報の漏洩を防ぐため、ラルヴァ・異能に関する記憶が消去する施術が施されます」
「わかりました」
「それでは私はこれで。明日の午後4時にまたここに来ます。ごきげんよう」
 そう言い残し千晶さんは病室を出て行った。
 俺は一人残される。
「異能者にラルヴァ、か・・・」
 短時間にあまりに多くのことが起こりすぎて頭がついていけない。
 病室に備え付けのTVを付ける。どの放送局も昨日の事件で持ちきりだった。
 俺の名前は一切出てこず、その場に居合わせた勇敢な市民によって取り押さえられたとなっている。
 TVの電源を切る。
 ここにきて初めて昨日のことは夢だったのではないか、さっきの千晶とかいう人も俺の作り出した幻想ではないかという思いに駆られた。
 この腕と肩に残る傷も実は逃げている最中に斬りつけられたものではないのだろうか?
 そう思うといても立ってもいられず、病室を飛び出した。

 気が付くと屋上に来ていた。
 大量の洗濯済みのシーツがはためいている。
 天気は快晴、ひたすらに晴れ渡っていた。
 適当なベンチに腰を下ろしてただひたすら空を眺めていた。
 どのくらいの時間が経っただろうか?
 まだ天頂より大分東側にあった太陽は、もうすぐ西の地平線に沈もうとしていた。
「おー、やっと見つけた。慧護!」
 その声で我に返る。
「克か…。」
 学校帰りなのだろう制服姿だ。
「病室にいなかった探すのに苦労したぞ。あとこれは差し入れだ」
 そういって克はペットボトルをなげて寄越す。甘いことで有名なコーヒー系飲料だった。
「よりによってこれか…」
「いらないなら返せよ」
「スマン。ありがとう」
 暫くお互いに無言でコーヒーを飲む。
「やっぱり甘いわこれ」
「そういうものだ」
 また沈黙。
 そして克が話し出す。
「俺もさっきあの千晶って人から聞いたよ」
「そうか」
「昨日の一件が無ければ異能者とかラルヴァとか正直信じなかったんだろうけど生憎見ちまったしな」
「俺と、奴とのアレか」
「そうだ。特に最後の一撃なんかお前の振る竹刀が光ってたし、竹刀で真剣を叩き折ってしまうんだからな」
「やっぱり昨日のは夢じゃなかったんだな」
「あと、俺の記憶はお前の決定如何にかかわらず消されるらしいよ」
「俺は、どうすればいいのかな?」
「さぁな。それは慧護自身が決めなきゃ意味がないさ」
「そうだよな」
 いくら他人の言葉に縋ろうと、決定するのは常に自分自身だ。
 また沈黙が続く。
「じゃあ俺はそろそろお暇するわ」
「おう」
「そうそう、あの竹刀はお前にやるよ。あと、病室にもう一人お客さんだ」
 もう一人?一体誰だろう。
「おい、もう一人って一体・・・」
「じゃあな」
 克は既にドアノブに手をかけている。
 去り際に克が「上手くやれよ」と呟いた気がした。

 克の去り際の言葉の意味を考えながら病室に戻る。
 あれは一体どういう意味だ?
 まぁいい、蓋を開けてみればわかることだ。
 そう思い病室のドアを開けた。
 女の子が居た。肩までの髪にボブカットに俺と同じ患者衣をつけている。
「すみませんお邪魔しています。宮城慧護<<みやしろ けいご>>さんですよね?」
「そうだが、君は?そして何故俺の名を?」
「すみません!私、相沢裕子っていいます。慧護さんのことはさっき会った大前克って人に聞きました」
「なるほどだからあいつあんな事を…」
「はい?」
「いやこっちの話。気にしないでくれ」
「それはそうと昨日は助けていただいてありがとうございました!」
 彼女の肩は震えていた。
 彼女の目を見て可能な限りやさしく言う
「もう、大丈夫。案視していいから」
「あの時、私怖くて、腰が抜けちゃって動けなくて、それがまた怖くて…」
「でも、TVとかで全然違うことを報道してて・・・」
 目尻から涙が溢れる。
 そんな彼女の肩を抱く。
「泣いて、いいから…」
「うぅ、ひっく…うわあぁぁぁっ!!!」
 彼女はただ泣きじゃくる、子供の様に。
 そんな相沢さんを胸に抱きながら心の中で、ある思いが決意へと変わるのを自覚していった…。

 深夜、俺は再び病院の屋上に居た。
 相沢さんは泣きつかれて眠ってしまいベッドに寝かしておいた。
 空には満月が浮かび清浄なる夜気とともに月光を降り注ぐ。
 もう誰にもあんな思いはさせたく無い。
 だから、俺は学園に行こう。
 現代の退魔師というのも悪くない。
 そう思いただ月を眺めていた

 翌日、約束の時間はあっという間にやってきた。
 午後4時ジャスト、時間通りに千晶さんは病室にやってきた。
 荷物は午前中、病院を抜け出して纏めてしまった。
 彼女が口を開くより早く俺は決意を伝える。
「俺を、学園に連れて行って下さい」
 決意を伝えた俺に千晶さんは微笑みながら答えを返した。
「宮城慧護君、双葉学園へようこそ。私達は貴方を歓迎します」
「ありがとうございます」
「あと、これを渡しておきます」
 そういって千晶さんは一枚の封筒と包みを差し出してきた。
「貴方のお祖父さんからです。中身は移動中にでも見て下さい。さぁ行きましょうか」
「は・・・」「ちょっと待って下さいっ!!」
 病室のドアが勢いよく開け放たれる。入ってきたのは相沢さんだった。
「あたしも、あたしも双葉学園に連れていって下さい!」
「ほぅ、それは何故かしら?」
「あたしはもう無力なのは嫌です。もう、目の前で護ってくれる人がいるのに何もできないのは嫌なんです!
大前って人が言ってました。双葉学園はラルヴァや異能に、その他諸々の研究もしているんですよね?
私は異能は使えないけれど、後ろで支えるくらいはしたいんです。だから、私も連れていって下さい!」
 千晶さんは相沢さんを見据える。双方とも決して視線を逸らそうとはしなかった。
「いいでしょう。相沢裕子さん、双葉学園にようこそ」
そういう千晶さんの目はとても優しかった。

 今俺達を乗せた自動車は山陽、近畿道を抜けて東名高速に乗っていた。
 俺は病院で千晶さんに渡された封筒を開ける。
「慧護さんへ
 今この手紙を読んでいるということは双葉学園に行くことにしたのだと思います。
 方術・妖の件は双葉学園の方から報告を受けました。
 やはり血は争えないものですね。今まで伏せてきましたが私達は代々異能を受け継ぐ家系であり、勇さんや若菜も異能の退魔師として全国を回っています。
いつか両親に引けを取らない立派な退魔師になってる事を期待しています。
霊刀・水切丸をお渡しします。
 それでは最後に慧護君の御健闘をお祈りします。
       宮城嗣穏」
 なんというか今知る衝撃の事実って奴だろうか。
 またも不思議と驚きはなく冷静に受け入れている自分がいた。
 そして、誓いを新たに今俺は自らの道を進みだした。




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