【それゆけ委員長! 完全版】


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それゆけ委員長! 完全版 そのいち

 前時代的な巨大な木製の扉の前に男がふたり、立っていた。黒いスーツにサングラス、ネクタイも黒なら、磨きこまれた革靴も黒光りしている。怪しいという形容詞が似合う格好というのは、これ以上ないだろう。
 その怪しげな二人組みの内のひとりが、木戸にある叩き金でノックをする。暫く待ってみたが、中からの返事は無い。もう一度ノックする。先ほどよりも叩く力が幾分大きい。
 男がもう一度ノックしようとした時、鍵を外すような音が中から聞こえる。蝶番が軋む音を立てながらゆっくりと扉が開いていく。
「遅れて申し訳ございません。何分、イタズラが多いものですから……。それで、どちら様でしょうか?」
 扉の隙間から怪訝な表情で二人の男を見つめる少女がいた。おそらく、この屋敷の使用人のひとりなのだろう、黒を基調とした飾り気のない服にエプロンを付けていた。歳の頃は十六、七といったところか。
「ええ、ご主人に用があって参りました。探偵社の者、と言えば分かって頂けますでしょう」
「探偵社さん? ですか?」
「ええ、ピンカートン探偵社のものです。ご主人に“大事な用”がありまして」
「まあ、それは大変! それではどうぞ中へ。客間でお待ちいただけますか? 旦那様は私がお呼びしますので……」
「いえ、結構ですよ」
 その言葉が終わる間もなく、男は、彼女の胸にナイフを突き刺していた。彼女は、力を失ったように男の方へ倒れこんでいく。
 だが、それを受け止めようともせず、男達は屋敷の中へ躊躇無く踏み込んでいく。
 ドサリと使用人の身体が床に倒れこむ。
「ヤツを探すぞ。お前は一階を探せ。俺は上を探す」
「はい」
「あ、あの……、忘れ物ですけど」
『――っ!?』
 男たちの後ろから声がする。ふたりが同時に振り返ると、そこには、先ほどまで自分の胸に刺さっていたナイフを手に持った少女が、何事も無かったように佇んでいた。
「ですから、このナイフをお忘れになってますよ。それとも、旦那様にお会いになるということで、私にお預けになったのですか? まあ、なんてことかしら、私としたことが。そんなお気遣いは必要ありませんのに。あら? あのその胸から出された拳銃も預けて頂けるということかしら?」
 男たちは、躊躇無くトリガーを引く。そして、その弾丸は、彼女の身体、特に致命的な部分を何箇所も打ち抜いていた。心臓はもちろん、眉間までも。だが……。
「そういったものを持ち出されるのは、さすがに私としましても困るのですけれど……」
 何事も無かったようにツカツカと玄関近くの傘立てへと歩いていく。
「こいつ化物か?」
「おい、おい、能力者がいるなんて聞いてないぞっ!?」
 黒づくめの男たちが急に緊張をあらわにする。当然だ。常人の人間が、能力者に勝てるはずがないからだ。まして、目の前の女は、9ミリパラベラム弾もものともしない化物。どうやっても太刀打ちできるはずもない。
 一方、彼女は、男たちの緊張感とは裏腹に、のんびりまったり、傘立ての中から、几帳面に巻いてある傘を一本取り出していた。
「失礼ですね、私は化物でも、能力者でもありません。こう見えても、ただのハウスメイドです」
 彼女が、傘の柄の部分をゆっくりと引っ張り上げると、そこには鈍い輝きをした刀身が現れていた。
「ただし、旦那様に害成す者には容赦はいたしません。よろしいですか?」
 後ろ手で、大きな扉をバタンと閉める。
 男たちは、自分達が追い込む側から追い込まれる側へに移っていることに気が付き、この屋敷にわずか二人で侵入したとこを心底後悔していた。


 双葉学園高等部二年C組は、転校生がやってくるという話題で、賑わっていた。
「やっぱり、女の子で、おっぱいが大きい子がいいなあ」
「友達になれるといいなー」
「クラスの風紀を乱さなければ問題ないわ」
「もう、俺が面倒な目に合わなければそれでいいよ……」 
「どんな能力なのか、調べてみたいよねー」
 様々な思惑が錯綜する中、いよいよ、始業のチャイムが鳴る。
 僅かの隙もなく、扉が開き、担任である字元数正《あざもとかずまさ》が教室に入ってきた。ひとりの女生徒を連れて……。
 その女生徒の姿に教室がざわめく。それはそうだ。彼女は、双葉学園の制服ではなく、黒尽くめの地味なメイド服に、何故か晴天の中、傘を一本持っていたからだ。
「な、な、な、なんで、そんな格好をしてるんですっ!? 先生、なんで、その子は制服を着ていないんですか?」
 人一倍規則にうるさい、クラス委員長の笹島輝亥羽《ささじまきいは》が声を荒げる。
「というわけで、彼女が転校生の……あとは自分で紹介できるな?」
「ご紹介が遅れまして申し訳ありません。私、瑠杜賀羽宇《るとがはう》と申します。本日から、この学び舎で、皆様と一緒に勉学を共にすることに相成りました。よろしくお願い致します」
 ペコリと頭下げる瑠杜賀。
「そーいう問題じゃないでしょ!? 先生、どうしてこの子、いや、瑠杜賀さんは制服を着てないんですかっ?」
 うろたえる笹島に困ったような表情で応える字元。
「そういう仕様だからだ」
「はぁ!? それじゃ意味が分からないでしょ、先生」
「そう言われましても、私、この服しか持っていませんし、着れませんので……」
 教室中の誰もが、ブチッと血管の切れる音を聞く。
「今すぐにとは言いません。24時間以内に何とかしなさいっ! 瑠杜賀さん!! 制服に関しては私が上と掛け合って何とかしますからっ」
 担任の字元さえ圧倒する迫力で、笹島が叫ぶ。
「本当ですか? 有難う御座いますー!!」
 笹島のテンションとは真逆に、おき楽に小躍りして喜ぶ瑠杜賀がそこにいた。
 そんな喜ぶメイドさんを目の前にし、笹島は、また厄介なクラスメイトが増えたことに、自分がこのクラスの委員長になったことを絶望的なまでに後悔していた。
 そして昼休み。笹島の強引かつ大胆な交渉のお陰で、無償で瑠杜賀の制服が提供されることになっていた。その制服を持ち、彼女の前に立つ。
「これが貴方の制服よ。さっさとこれに着替えてらっしゃい」
 そう言って、笹島は双葉学園指定の制服を瑠杜賀の机の上に置く。
 だが、それを摘んだり、引っ張ったりするだけで、一向に更衣室へと向かおうともせず、不思議な表情をするだけの瑠杜賀。
「だから、これに着替えなさいって言ってるでしょ?」
 その当を得ない仕草と表情にイラっとする笹島。
「着替える? ですか?」
「そう」
 その言葉に、まるで、宇宙誕生の謎を解明した科学者のような完璧な笑みを浮かべ、ポンと手を打つと、そそくさと、そこで着替えを始めようとする。
「うおーっ!!」
 男性陣のどよめきで教室が満たされる。
「な、な、なにやってるのよーっ!!」
「いえ、ですから着替えですけど」
「そんなのは更衣室でしなさい。もう、こっちよ」
 そう言って、彼女を教室から連れ出していく。
(くそ、もう少しで、見れたものを、あの堅物委員長め)
 そう心で舌打ちをしながら、多くの男子生徒は目の前で繰り広げられるはずだったメイドさんの着替えシーンを妄想で膨らまそうと躍起になっていた。


「さあ、ここなら大丈夫よ。存分に着替えなさい。というか、貴方には羞恥心ってものがないのかしら?」
「羞恥心、ですか? それは難しいですねえ」
 無造作に服を脱ぎなら、笹島の質問の意図が分からない様子で、質問を質問で返す。
「いや、いいのよ。この学園には色々とおかしな人たちがいるわけだし。特《・》に《・》うちのクラスにはね。多少の常識が欠如している人だって、いてもおかしくないわね……。あら、何か落ちたわよ?」
 そう言って、親切心から手に取るのだが……。
「あ、ゴメンなさい。それ、私の“腕”です」
 ポロリと落とす。
「い、え、あ、お、はあ……? なっ、なにこれっ!? いっっっや―――っ!!」
 その瞬間、高等部どころか、学園中に笹島の悲鳴がこだました。


「え、えーと……どーいうことなのかしら?」
「こう見えましても、私、人ではないのです」
「その腕見れば分かるわよ。ロボットとかアンドロイドの類なの?」
「いいえ、そのようなものではありません。私は旦那様に作られた自動人形《オートマトン》です」
「何がどう違うのよ?」
「さあ? 旦那様がそう言われましたので」
「何よそれ?」
 そんな微妙にかみ合っていない会話の間にも、瑠杜賀《るとが》はなんとか着替えようと四苦八苦していた。ただ、その度に、手や足がポロポロと外れ落ちていくため、着替えは一向に進まない。
「いや、もう着替えなくてもいいわ」
「よろしいのですか?」
「ええ。結局、あなたはその格好以外、できないってことでしょ?」
「そうですね。私はこの身体とこの服をもって一つとなっていますので、脱ぐと、どうしても私のバランスが崩れてしまいます」
「なら、なんで最初からそう言わなかったのよ?」
「それは、説明する必要がなかったからです」
「どういうこと?」
「私は、ある人物を探すため、この学園にやってきただけですので。それが私の使命だからです」
「それってどういうこと?」
 はっと口を手で塞ぎ、自分がうっかり質問してしまったことに笹島は後悔する。事と次第によっては、自厄介ごとに巻き込まれるかもしれないからだった。だが、後悔とは後に悔やむこと。笹島は後に存分に悔やむことになる。


「だからって、ここで話すことはないと思うんだがなぁ……」
 そう愚痴りながら、召屋正行《めしやまさゆき》は不満そうに本日の夕食になるのであろうナポリタンを商店街にある、寂れた喫茶店のカウンターで、ムシャムシャと平らげていた。
「うるさいわね、ここが一番静かに話せるのよ」
「あらあら、今日は先客万来ねえ。それでお二人は何にするのかしら?」
 にこやかにウェイトレスが微笑む。
「赤ワインを一本頂けますでしょうか?」
「あらあら? そちらの子は、結構いけるくちなの?」
 お猪口でお酒を飲む仕草をするウェイトレス。
「いりません。コーヒーを二つ、アメリカンで」
「そうは言いますが笹島様。私は、ワイン以外のものを口にするのは……」
「未成年なんだから、コーヒーでいいのよ!」
「私に未成年という概念は存在しないのですが」
「いいから、コーヒーにしなさい!」
「いえ、ですが、私、赤ワインが燃料源でして」
「はぁ? しまいには、私の血液はワインでできてるとか言い出しそうね。あんた、転校してくる前はお笑い漫画道場にでも通っていたのかしら?」
「あの、言っている意味が良く分からないのですけど」
「で、お二人さん、注文はどうするの?」
 やさしい口調ではあったが、笹島には、ウェイトレスの笑顔が少々引きつってきてたように見えていた。
「赤ワ……」
「コーヒー二つっっ、それ以外はいりませんっっ!!」
「笹島様、貴女は横暴です」
「何ですって?」
 笹島の後ろからまっ黒なオーラが浮かび上がる。
「お・う・ぼ・う? この私が?」
「ええ。横暴過ぎます。相手の意見を尊重しないなんて、横暴以外の何物でもないですよ。旦那様も言っておりました。人間、協調性が大事だ…と……あれ? どうしました?」
「いい、良く聞きなさい、私は貴方やそこでのうのうとパスタを食ってるボンクラのクラスメイトで委員長なの、分かる? そこのボンクラ以外にも禄でもない連中ばっかり揃っている二年C組のね、毎日毎日、毎度毎度、厄介ごとばかり起こす上に、その尻拭いは全部私に回ってくるのよ、何度風紀委員に呼ばれたか知ってる? どれだけ醒徒会に嫌味を言われたか分かってる? 何時間も担任の字元先生から小言をネチネチ言われ続けるのがどれだけ苦痛だと思う? それよりも、他のクラスからC組が何て呼ばれているか知っているの? えーえー、そうよ『変態クラス』よ、全くどうして逸材ぞろいの一年B組の爪の垢を煎じてクラスメイト全員に飲ませたいものね、まあ、そんなことを本当にしたらしたで、それこそ『変態クラス』のレッテルがさらに揺るぎないものになってしまうでしょうけどね、しかも、しかも私は、その『変態クラス』の委員長なの、これってどういうことかというと、私は変態さんたちのリーダー、親分、隊長になるわけよ? つまり変態長ってわけね、いやー凄いわねー、何この仕打ちは!? そんな称号これっぽちも欲しくもないわっ、これだけの苦労をしてクラス委員長をしている私が、その責任感と親切心で貴方の相談にのっている私が、なけなしの小遣い叩いて奢ってやろうって言ってるのに、貴方にワインじゃなくて、コーヒーを勧めるくらい何の問題もないわよね、違う?」
「まあ、それは大変ですね! ですので、私には赤ワインを一本」
「そう……し…なさい」
 ふらふらとカウンターの方へと歩いていくと、カゴに収まっていた食器をわしと掴む。
「し・に・な・さ・い……。もう、貴方なんか死んじゃえばいーの!! そして、貴方を殺して私も死んでやる。こんな救いのない世界なんてもう要らないわ。滅びてしまえばいいのよ、そうよ! 誰かストームブリンガーを持って来て!! いいえ、ルルイエ神殿を浮上させて頂戴、今すぐそこに殴りこんで、蛸型の神様をぶん殴っておこしてやるわっっ!!」
 召屋とウェイトレスに羽交い絞めにされがら、ナイフを振り回し、ワケの分からないことをわめき散らす。
 で、十分後。
 ようやく落ちつた様子の委員長は、目の前にあるたっぷりミルクと砂糖が入ったコーヒーを熱そうに啜る。
「あじ!」
「あの、ところで、何で俺まで?」
 大きな身体を精一杯小さくし、窮屈そうな様子で、ちょこんと笹島の横に召屋が座っていた。
「こちらの方はどなたですか?」
 まるで、物珍しいものを見上げるように、瑠杜賀はマジマジと召屋を見つめ、笹島に質問する。
「役立たずのボンクラよ」
「そうですか。では、ヤクタタズノ様は何故、ご同席なさっているのですか?」
「役立たずじゃねーっ」
「思いのほか、ヤクタタズノ様はフレンドリーな方ですのね。苗字ではなく、名前で呼んで欲しいなんて。申し訳ありません、言い直します。ボンクラ様は何故、ご同席なさっているのですか?」
「ボンクラでもねえーよっ、俺にはめし……」
 それを遮るように笹島が喋りだす。
「うっさい! 役立たずのボンクラでも数にはなるでしょ。で、探している人物ってのは誰なの」
「だから、俺にはめ……」
「私の旦那様です。それそれは聡明で、思慮深く、自愛に溢れる方です。是非、笹島様もお会いになると宜しいかと」
「へえ、その旦那様を探しにこの人工島まで来たってわけね? あと、写真とかはないの?」
「あの、だから俺のなま……」
「残念ながら。旦那様は写真がお嫌いな方でして……」
「いや、だから俺……」
「なによそれ、昭和何年生まれよ? それとも大正、明治? 何にせよ困ったわねえ。手がかりとか、情報はないの?」
「……うん、ゴメンもういいや」
 自分の会話が完全に無視されていることにようやく気が付く。すっかりイジけた召屋とは関係なしに女性陣ふたりの話は続く。
「手がかり、ですか。そうですね、私は知っている情報は、旦那様が今、この人工島にいるということ。それともう一つ、ピンカートン探偵社という方たちが連れて行ったということです」
『連れ去ったぁっ!?』
 笹島と召屋、ふたり同時に声を上げ、やはり同時こう思う。
(あ、これはやっぱり、面倒なことになりそうだ……)
 だが、瑠杜賀は、ふたりの反応に驚きもせず、淡々と話を続ける。
「はい、それ以前にもピンカートン探偵社と名乗る方々からの襲撃を何度か受けていたのですけれど、ある日、私がお屋敷を留守にしている隙に……」
 笹島は、その言葉に何か符に落ちないものを感じる。何かがおかしい。
「それって、ちょっとおかしくない? まあ、探偵社が誘拐したってのは状況証拠としても、それじゃあ、この島に貴方の旦那様ってのがいるってことにはならないわ」
「そうでしょうか?」
 きょとんとした顔で笹島を見つめる。まるで、自分が言ってることに全く間違いがなく、何故そんな質問をするのか分からないようだった。
「だって、おかしいでしょ!? 何故、貴方がいない間に誘拐されたのに、その誘拐した犯人も拘束先も分かるっていうの?」
「ああっ!! そういうことですか! それはですね、手紙があったからです。これなんですけどね」
 クシャクシャになった紙を一生懸命テーブルの上に伸ばそうとする。だがボロボロの紙には、ロールシャッハテストに出てきそうな染みがあるだけだった。
「何、これ」
「ええ、それが置手紙ですけど」
 首を右に15度の角度きっちに傾げる。
「なんで、大事な手紙がこうなるのかって訊いてるのよっ!!」
「まあ、委員長。落ち着いてな」
「あぁんっ!?」
 嗜めようとする召屋に、見る者の白髪が一気に十本は増えそうな一瞥をくれると、瑠杜賀に視線を戻し、もう一度やさしく問いただす。
「どうして、大切な手紙がシワシワで、インク滲みだらけになったのかしら~?」
「申し訳ありません。あまりにも急いでいたものでして。それと、インクが滲んでしまったのは東京湾を泳いで渡ったからかもしれませんね」
 笹島の両手が瑠杜賀の両肩をがっちり掴む。そして、顔を精一杯近づけて、子供を諭すような口調で語りかける。ただし、眉間には深い皺、右の眉毛の端はピクピクと痙攣していた。肩を掴む手には血管が浮いていた。
「ちょっと待ってね、瑠杜賀さん。ちょっと私の理解を超えているようね。えー、貴方は自分のお屋敷からこの島まで、インフラもしっかり整備されている、この島まで、自力で泳いできた。そう言っているのかしら?」
「ええ、地図を見ると直線距離にして一番近かったので。まあ、ちょっと骨が折れましたけど。あ、私人形だから、骨なんてないんですけどね」
「えっ? 人形ってどういうことだ、っておい、委員長!」
 思いっきり召屋の顔面に右ストレートをお見舞いした後、笹島は席を立つと出口へ向かって歩いていく。
「あ、あの笹島様。私何か怒らせるようなことを……」
「委員長、手っ前ー、俺にこんな面倒なことを押し付けるんじゃねえ。つーか殴るな!」
「ダメよ」
 取っ手を掴んで外へ出ようとした時、出口を塞ぐように、ウェイトレスの生足が伸びてくる。女性であっても思わずドキリとしてしまうほどの曲線美だった。
「どうして?」
 敵意をあらわに睨み付ける。
「だって、お会計がまだだものね」
(ちっ! バレたか。召屋君に払わせようと思ったのに)
 中々どうして、何気に腹黒い委員長だった。
「それに――探偵社のことなら、よーく知っているわよ。わ・た・し」
『嘘っ!!』
 その場にいる全員の視線がウェイトレスに集まる。それに対し、ウェイトレスは茶目っ気のある顔でウインクをすると、人差し指を目の前にいる笹島の唇に軽くあてがう。
「でも、他の人には内緒だぞ!」
 性別問わず、思わず蕩けそうなその笑顔と仕草に喫茶店内の人物は皆頬を紅く軽く染めていた。いや、ひとりだけ例外がいた。それは、他に目もくれず、寡黙にスポーツ新聞を読んでいるマスターだった。




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