【冥王星でぼくはタンゴを踊る 第二話:後編】


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元が縦書きなのでラノ推奨
ラノで前編後編まとめて読む
ちなみに派生設定の聖痕オメガサークルに目を通しておくとわかりやすいかもしれないです





【冥王星でぼくはタンゴを踊る 第二話:後編】



               4


「おいジェット。あの変に爽やかな男は誰なんだよ」
 ギガフレアは物凄い露骨に嫌な顔をしていた。
 夕方になり、ぼくたちは鏡子さんの屋敷で夕飯をご馳走になるために再び屋敷に集まった。食卓の間にはなぜかあの鷹城もいたのだ。
「いやぁ、すいません。ここ宿ないんですね。今日一晩お世話になります」
 高城は爽やかな笑顔で鏡子さんに微笑む。
 鏡子さんは優しい人なのだろう。遭難した人を放っておけないらしい。レイダーマンは渋い顔をしていたが、無駄な争いは無用だと言って一先ず放置することに決めたようだ。
「いえ、困った時はお互い様ですから。皆さんもどうぞ遠慮なく食べてくださいね」
 そうして出された料理は豪華とは言えないが、この村のことを考えるとこれでもご馳走なのだろう。ぼくは鏡子さんに恥をかかすわけにもいかないので、きちんとそれを口に運ぶ。
「しかし皆さんは村人じゃないんでしょ。俺みたいに遭難したんですか?」
 鷹城は下品にご飯をかきこみながら喋っている。行儀が悪いやつだ。
「いや、俺たちはこの村に用があってね。まぁ考古学の研究だよ」
 レイダーマンは平然と嘘をつく。考古学の研究ねぇ。レイダーマンだけならともかく、明らかに子供のぼくやギガフレア、ヴェイプがいるから余計怪しまれそうだ。だが鷹城は単純な性格のようで全く疑ってはいなかった。
「へえ学者さんなのか。そりゃすげえや。俺が通ってる学校にもすごい学者さんがいるんだぜ、えっとなんて名前だったか、たしかアルプスの少女・・・・・・いや違う、ああ思い出せねえ。まあいいや」
「キミこそ学生なのに学校にもいかず何をしているんだい。野鳥の観測と聞いたが大学の課題なのか?」
「うーん。まぁそんなところっす」
 鷹城はヘラヘラ笑っている。ぼくの隣で変な箸の持ち方をしながらご飯を食べているヴェイプは「私ああいう体育会系きらーい。汗くさーい。うざったーい」とぼくにだけ聞こえるように言っていた。わりと大きめに喋っているのにぼくにだけしか聞こえないのは恐らく空間隔離を小さく発動して、ぼくの耳に筒状にして届かせているようだ。便利な能力だが、乱用しすぎだ。
「まあいいじゃないかヴェイプ。どうせ明日にはあいつは帰るんだろう」
「むー。なんだかあいつは嫌な感じがするのぅ。血の臭い・・・・・・みたいな、でも違う、もっと変な臭いが・・・・・・」
 ヴェイプは鼻をスンスンしながら何かを嗅いでいる。
「おいおい行儀が悪いぞ」
 ぼくはそう言いながら口元のご飯粒をとってやる。するとヴェイプは調子に乗って甘えてくる。
「口でとってよジェットー!」
「ええい、のっかかって来るな!」
「うぜえいちゃつくな! 黙って食べてろ」
 ぼくとヴェイプはギガフレアに拳骨で殴られた。うう、なんでぼくまで。どうやらギガフレアは見た目に似合わずこの手の質素な食事が好きらしい。
「ははは、面白い方々ですね」
「そうですね。ふふふ」
 鏡子さんも少しだけ笑っていた。ずっと暗い表情だったのだが、わずかでも笑ってくれているのを見て、ぼくは少し安心した。
 でも、こんな風に楽しく笑ってぼくたちはここにいるが、いずれあのラルヴァを回収しなくてはならない。
 そうすればこの村はどうなる。奈々ちゃんはどうなる。
 しかし放っておいても双葉学園の奴らがラルヴァを駆逐しにくるだろう。
 何が正しいのかわからない。
 いや、ぼくたち聖痕には、正しいことなんてないのかもしれない。
 ならば結局双葉学園と同じなのだろう。
 ならば結局オメガサークルと同じなのだろう。
 ならばぼくは復讐のために良心なんてものは完全に捨て去るしかないだろう。
 ヴェイプの言う通り下らない感傷はぼくにはいらない。
 必要なのは戦う心と力。それだけで十分だ。
「ジェットー。あーんして」
 また険しい顔をしていのであろうか、ヴェイプが気をつかってぼくの口に食べ物を運んでくれる。おい、やめろそこは鼻だ。
「へへへ、元気出た?」
「ああ、ありがとう」
 確かに今考えてもしょうがない。
 なるようにしかならないのだから。


                 5


 姉さんが死んだあの日から、毎晩ぼくは姉さんの夢を見る。
 聖痕の白き魔女と呼ばれていた姉さんなら、この状況をどうするのだろうか。
 夢の中の姉さんはぼくに微笑みかけるだけで何も答えてくれない。
 姉さん。
 ぼくの愛する姉さん。
 ぼくは一人じゃなにも決められないんだ、教えてくれよ姉さん。
 姉さんの言葉がなければぼくは動けないんだ。魂のない欠陥製品なんだ。糸の切れたマリオネットのようにぼくは無力だ。
 目を開ければそこは鏡子さんの屋敷の一室。
 ぼくたちは屋敷に泊まらせて貰うことになり、部屋を与えられた。
 まだ真っ暗で、時計はないがおそらく深夜三時か四時といったところだろうか。なんでこんな中途半端な時間に起きてしまったのかと思ったが、すぐに原因は理解できた。ぼくのお腹にヴェイプが思い切りのしかかっていたのだ。寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。その衝撃で目が覚めてしまった。
 個別に部屋を与えられたはずなのにここにいるのは、トイレにいって間違って戻ってきたんだろうな。いや、こいつのことだからわざとかもしれないが今は寝ているようなので放置しておこう。
 見慣れぬ土地ということもあり、なんだかもう一度寝むれそうにもないので、ぼくは夜風を当たりに屋敷を出て行く。
 すると、屋敷の外でタバコを吸っているレイダーマンと出くわした。
「あ、レイダーさんも眠れなかったんですか?」
「まあな。人の屋敷でタバコの臭い移すわけにもいかないからわざわざ外にきたのさ。ここ十数年でめっきり喫煙者が肩身狭い世の中になったよ」
 レイダーマンはマイ灰皿も持っているようで、そこに灰ガラを捨てていた。殺し屋の一員にしては妙に常識的な男だ。
「タバコなんて吸ったら舌が悪くなるんじゃないんですか。コックさんなんでしょう」
「元だからな。もう俺には関係のない世界だよ。お前だってそうだ。もう二度と日の当たる世界には戻れはしない」
「ぼくは・・・・・・もう元の世界に戻るつもりはありませんよ」
 ぼくは月明かりに照らされるレイダーマンの顔を正面から見据える。
「ふむ。やはりキミはあの白き魔女、桜川夏子の弟だな。その揺ぎ無い瞳、彼女にそっくりだ」
「レイダーさんは姉さんのことを知っているんですか?」
「ああ、いや、むしろ聖痕の中では知らないものこそ少数派だろう。彼女は最強ならぬ最凶にして最悪の異能者だったからな」
「最凶最悪の異能者・・・・・・。レイダーさん、ぼくが知らない姉さんのことを教えてもらえないですか?」
「いいだろう。そうは言っても彼女の能力がいかなるものかは俺も含め誰も知らない。なぜなら彼女の能力を見たものは全員死ぬことになるからだ。それ故に彼女の能力は“過剰殺戮《オーバーキルズ》”と呼ばれていた」
「オーバーキルズ・・・・・・」
「そうだ、あまりに強大にして凶悪な能力だったようでな、彼女は双葉学園ではカテゴリーFと規定されていたようだ」
「なんですかそれは?」
「双葉学園生徒の異能に関する評価シート“あゆみ”。そこにはABCDEまでの評価がある。しかし、今はEまでとなっているが桜川夏子が入学したときにはFという欄外が存在したのだ。Fの評価とは“制御が困難で味方まで巻き込みかねない危険な能力。実戦には不向きで使えないとされる能力”それがカテゴリーF。まさしくお前の姉は学園すら消し飛ばしかねない危険な力をもっていた」
「まさかそれで姉さんは消されたのか・・・・・・」
「いや、どうだろうな。もしかしたら聖痕だということがばれて処分されたのか、あるいは全く別の動機があったのか。それはまだわかっていない。我々もあまり踏み込んだ調査が出来ないのが実状だ」
 言いながらレイダーマンは新しいタバコを取り出してふかしている。
 姉さんはそこまで強力な力をもっていたはずなのに、一体誰が姉さんを殺したのだろうか。姉さんを殺すほどに強い力をもつものがいたのだろうか。
「そんな怖い顔で睨むなよジェット。我々としても白き魔女を倒した能力者がいるというなら放っておくわけにもいかないからな。いずれ真実を突き止めなければなるまい」
「姉さんは・・・・・・姉さんはどうして聖痕に入団したんですか」
「さあな。俺はお前の姉より後に入団したから詳しくは知らないが、やはり双葉学園で起きた三年前のある事件のせいだと、俺は他の奴から聞いたことがある」
「事件・・・・・・」
「ああ、通称“上級ラルヴァ・学園強襲大災害”。だがあれは、ただのラルヴァ虐殺事件が発端だったんだ。人間に限りなく近いラルヴァを双葉学園の能力者たちが何百人がかりで虐殺を行ったのだ。ラルヴァの中には人とあまり変らない種族もいる。その事件の被害者である猫のような少女もまた、その一種だった。その猫に似ている少女は異脳者として学園に入学してきたのだが、あることをきっかけに自分が変身系異脳者ではなく、ラルヴァなのだという事実をつきつけられた。それを知った彼女の学友たちは彼女を殺した・・・・・・。虐殺した! 私刑にかけたのだ! ラルヴァ駆逐という大義名分で、罪もない少女たちを――」
 レイダーマンは急に興奮したようにまくしたてた。
 ぼくは驚きを隠せなかった。ぼくが見ていた限りレイダーマンは落ち着いた大人であった。こんな風に激情するなんて思っていなかった。今彼は溜め込んでいた怒りをぶちまけるようにしていた。
「ああ、すまないね。少し取り乱してしまった。俺はこの事件を聖痕の資料でしか知らない。だが、資料を読んで、虐殺の写真や映像を見ているだけでも俺はこの学園の連中が許せなくなったんだ」
 レイダーマンは落ち着きを取り戻そうとタバコを吐いたり吸ったりしている。月を見上げ、どこか遠い日に想いをはせるように、虚空を見つめている。
「俺の恋人も、ラルヴァだったんだよ。なんの力も無い、人間以上に無邪気で純粋な下級ラルヴァだった。だが俺の恋人は人間に擬態できるだけで本来の姿はあのムシナキ様と同じ、あのような姿だった。それでも俺はよかったんだ。たとえ人間じゃなくても、化け物の姿をしている時でも俺は彼女を愛していた。なのに、双葉学園の生徒たちは化け物と同じ容姿だということだけで彼女を容赦なく殺した――」
 レイダーマンは涙を流してはいなかった。だが、ぼくには彼はもはや涙が枯れ果てるほどに悲しみを背負っていることが痛いほど伝わってきた。
「お前の姉も、ラルヴァに対する虐殺行為を直に見て、双葉学園に失望したのかもしれない。俺と同じようにラルヴァを護るために、双葉学園の異能者を狩るために聖痕に入団したんだろう。もう二度と、あのような悲劇を起さないためにも」
「そうですね、姉さんは、優しい人でしたから。だからこそ理不尽なこの世界を、姉さんは誰よりも憎んでいたのかもしれません」
 ぼくは急にレイダーマンに親しみを感じていた。
 愛する者を殺され、復讐を胸に誓ったもの同士。世界を憎む瞳をもつギガフレア。可愛らしい笑顔の裏に深い絶望のような瞳を秘めているヴェイプ。ぼくたちは似た物同士が集まっているのかもしれない。
 奈落の底で生きるぼくたちは、戦うことでしか、殺しあうことでしか抗う術を知らない。この狂った世界でぼくたちは狂ったように生きていかなくてはならない。
「つまらないこと話したな。そろそろ戻って寝よう。明日に疲れを残すのはよくない」
「ええ、そうですね」
 ぼくたちは屋敷に戻ろうとしたとき、屋敷の屋根の上に人影があるのを見つけた。
「あれは・・・・・・」
 屋根に立って気持ちよさそうに夜風を浴びていたのは、鷹城徹だった。


              6


「あいつはあんなところで何をしているんだ」
 レイダーマンは不審そうにそう呟く。
 ぼくらはなんとなく彼の死角に隠れ、鷹城がなにをしているのか覗き見る。
 鷹城は何かを探すようにきょろきょろと辺りを見回している。その眼は昼間のときの好青年とは違い、とても鋭い、獲物を探す鷹のような目をしていた。
 鷹城は辺りを見回すのをやめ、どこかを見据える。屋敷の後ろの何もない空間を見つめている。
 しかし、そこは本当に何もないわけではない。
 そこはヴェイプの空間隔離により認識できなくされたあの例の寺院がある場所である。
 なんで彼がその方向を見つめているのだろうか。今のぼくらでさえ見ることができないのに。彼は少しだけ屈伸し、勢いをつけてその場から跳躍した。そしてあの寺院がある場所まで飛んでいき、着地をした。普通の人間以上の身体能力があるのだろうか。あれじゃあまるで能力者のようだ。
「レイダーさん、彼は・・・・・・」
「ああ、あいつは・・・・・・まさか・・・・・・」
 鷹城が不思議そうに見えないはずの寺院の場所を見つめているところに、レイダーマンは隠れるのをやめ、出て行った。ぼくも釣られて一緒に出て行く。
「おい鷹城君。キミはこんな時間にこんなところで何をしているんだね」
「ああ、やあ学者先生に生徒さん。あなたこそこんな時間に何をしてるんですか」
 鷹城はさっきまでの鋭い表情とうってかわって、昼のときの爽やかな白い歯を覗かせて微笑んでいた。
「別に、俺たちは眠れなかったから夜風に当たっていただけだ」
「それなら俺も同じですよ、俺は気になることがあると眠れない性質でね。ちょっと調べものをしにきたんです」
「気になること? 調べもの?」
「ええ、どうにもここの風の通りが悪いんですよ。まるで目の前に建物があるかのように、ね」
「・・・・・・」
「これ、空間隔離ですよね。ポピュラーな異能力の」
 ぼくらはその鷹城の言葉で緊張が走る。なぜ彼が異能のことを知っているのか、さまざまな疑問が頭をよぎる。
「貴様、何者だ」
「それはこっちの台詞だよ、俺はただの正義の味方。怪物を倒すヒーローだ」
 そう言いながら鷹城の肉体が変化していくのをぼくは見た。
 彼の腕から羽毛のようなものが生えだし、その人間のものだった手は、まるで鷹のように鋭い爪がついた奇怪なものに変っていく。これは、これは――
「変身系能力者・・・・・・お前は双葉学園――」
「そうだよ、勿論野鳥の観測ってのもほんとだ、趣味程度だがな。だが、俺の本当の目的はこの村を支配している化け物の討伐。俺はこの村を救いにきたんだ!」
 鷹城はその鋭い爪を空間に向かって思いきり振り下ろした。
 その瞬間、ヴェイプが形成した見えない壁は真っ二つになり、その効果を失った。そしてあのラルヴァのいる寺院が露になる。
「空間隔離は便利な能力だけど脆いんだよね、とても。場所を特定できたら破壊するのは簡単だ」
 鷹城は鷹の様な羽と鋭い爪が生えた異形の腕を振りかざして自慢げに語っている。
「お前が双葉学園の生徒なのか・・・・・・お前が!」
 ぼくは彼が双葉学園の生徒だというだけで怒りがこみ上げてくる。それはレイダーマンも同じようで、ぼくらは彼と対峙する。
「この中にラルヴァがいるんだろ。なぜあんたたちはそれを隠す。ああ、噂で聞いたことがあるな、ラルヴァを神と崇める狂人たちの集団。あんたたちがその聖痕って連中か」
「そこまで知っているなら話は早い。貴様がラルヴァを滅ぼすつもりなら、俺たちは貴様を殺す」
「悪の組織は怖いね。俺たちは日本の平和を護るために戦っているのに、あんたたちみたいな奴らがいるからいつまでたってもラルヴァなんて化け物がいなくならないんだよ!」
 鷹城は真剣な眼差しでそう言う。
 それが彼の正義なのだろう。
 間違ったことを彼は言っていない。だが、それでもぼくたちは戦わなければならない。殺しあわねばならない。言葉など、ぼくらの間では無意味だ。
「俺の前に立ちふさがるなら、ラルヴァの味方をするならあんたたちも駆逐する。ラルヴァを信仰する奴らなんて俺が殺してやる!」
 その瞬間、鷹城の身体全体にも羽毛が広がり、顔も鷹と同じ姿になる。下半身のみが人間と同じで逆に不気味だ。
「危ない、避けろジェット!」
 レイダーマンのその声とともに、ぼくは倒れこむように横に飛ぶ。ぼくがさっきまでいた地点に、鷹城は滑空をし、その音速の突進で地面は吹き飛んでしまう。レイダーマンも寸前で横に避け、難を逃れた。鷹城は速度を落とさず、弧を描きながら上空に飛翔する。
「くそ、なんて力だ、あれが変身系能力者の底力なのか」
「ああ、俺の能力である“索敵眼《レーダーアイ》”が無かったら身体の半分はもぎ取られていただろうな」
「レーダーアイ?」
「ああ、それが俺の異能だ。敵の攻撃を事前に察知する能力だ。未来予知ってよりは超動体視力って感じではあるが」
 なるほど、それは心強い。
 あの鷹城の動きはぼくの電磁加速による超反応と同等くらいだろう。事前に攻撃がわかるのなら避けきれるはずだ。
「何をぶつぶつ言っているんだ。お前らはここで死ぬ。ラルヴァと共に死ぬんだ悪党め!」
 鷹城は月夜をバックにそう吼える。
 彼は巨大なその翼を羽ばたかせ、羽をまるでミサイルのように飛ばしてくる。大量に撃ち出されるそれを、ぼくはレイダーマンの指示に従って避けていく。
「斜め四十度、いや、北東の方向に避けろ!」
 レイダーマンの声による指示のため、遅れは出るが、ぼくの超反応によりそれは補える。しかし、音速で撃ち出される羽ミサイルは凄まじい破壊力をもってして村の地面を吹き飛ばしていく。
「このままじゃいつかやられる。こっちから攻撃しようにも空に飛ばれたら何もできない・・・・・」
「ちっ、ヴェイプもギガもまだ寝てるのか――」
 鷹城の攻撃で爆発音が起き、轟音が村中に鳴り響く。さすがに村人たちは異変に気付き、次々と外に出てくる。
「な、何事だ!」
「なんだ、なんだ」
 それを見て、鷹城は一時的に攻撃を中断した。
「みなさん、落ち着いて聞いてください。俺はこの村を救いにきたのです。恐るべき化け物を倒すためにやってきたのです。彼らは化け物を庇護する人間の敵です、どうかご協力をお願いします」
 などと好き勝手言っている。
 しかし、村人は彼の言葉に耳を貸すことはなかった。
「何が化け物だ! ムシナキ様はおらたちの守り神だぞ!」
「化け物はあんただろ、鳥の怪物め!」
「帰れ、私たちの村は私たちのものだ!」
 村人たちは一斉に石等を鷹城に向かって投げつける。
 どうやら村人にとってもあの鷹城は敵と認識されてしまったようだ。
 村人の反応を見て、鷹城は身体を震わせていた。
「俺が化け物だと・・・・・・違う、俺は化け物を倒すんだ・・・・・・正義のために、平和のために・・・・・・俺は化け物なんかじゃない、それなのにお前らは、お前らは!」
「まずい! みんな逃げろ!!」
 レイダーマンが危険を察知して村人たちに呼びかけるが、村人たちに避ける術はなかった。
 村人の数人は鷹城が放った羽ミサイルで吹き飛ばされいく。みな身体を傷だらけにして倒れていく。まるで地獄絵図だ。
「ラルヴァを庇護するやつも全員敵だ! 死ね! 死ね!」
「くそ、完全にキレてやがる!」
 ぼくは体中に電気エネルギーを行き渡せる。空中にいるあの糞野郎を殴り飛ばさなければならない。だが、どうする。どうやって攻撃を――。
「やめて!」
 悲痛な叫び声と共に飛び出してきたのは鏡子さんだった。
「ムシナキ様には妹が融合しているのよ、もう誰も傷つけないで、放っておいてください!」
「なんだと、ラルヴァに人が・・・・・・」
 鷹城は寺院に目を向け、羽ミサイルを寺院に向けて放った。
「ああ――!」
 寺院は爆発したが、屋根から入り口にかけてだけが破壊され、鷹城がこの位置から中が見渡せるようにしたようだ。
「あれは・・・・・・」
 鷹城は鋭い眼でそれを見つめる。
 ムシナキ様と融合している痛々しい少女の姿を。
「なんだあれは、ラルヴァに食われてるじゃないか! 村長さん、あんたの妹なんだろ、なんでこんなことをするんだ!」
 鷹城はさらに激情し、怒りをぶちまけている。もはや周りなど見えていないのだろう。彼の中の正義が暴走している。
「仕方ないのです、妹はこの村のためにムシナキ様と交信すためにあんな――」
「うるさい、何が村のためだ。下らない理由であんな幼い子供をラルヴァの生贄にするなんて、こんな村なんて滅んでしまえばいい!」
 まるでメチャクチャなことを言いながら辺り構わず羽ミサイルを村中に飛ばしていく。民家は次々と破壊され、村人はみな目の前の脅威に慄いていた。
「くそ、どっちが有害な化け物だ!」
 レイダーマンは村人たちを安全な場所に誘導しながらそう毒を吐く。
 だがやはりレイダーマンの能力だけでは村人全員を護るのは難しい、鷹城の攻撃が迫ってきているが、回避するのは間に合わない。
「おいてめえら、何をあんな鳥野郎に苦戦してるんだよ」
 そんな声と共に、空中から無数に飛来する羽ミサイルが真っ赤に燃え上がって地上に到達するまえに灰になって消えていく。
「ギガフレア、ようやく起きたのかお前」
「しょーがねーだろ。このバカガキが全然おきねーんだからよ」
 そこに現れたギガフレアは眠ったままのヴェイプを背負っていた。どうやらヴェイプを連れ出すために苦労したらしい。体力のないギガフレアは小さなヴェイプですらおんぶするのがきついらしい。
「まあいいじゃねえか。僕が来たからにはあんな鳥野郎は焼き鳥にしてやるぜ」
 ギガフレアは空中に向かって手をかざし、巨大な炎を発生させる。しかし――
「なに!?」
 鷹城はその巨大な翼で旋回しながら音速の風圧で炎をかき消していく。
「無駄だ、俺の風に炎は通用しない!」
「糞が、これならどうだ!」
 ギガフレアは巨大な炎を次々と発生させていく。逃げ場のないように空を炎が覆っていく。だが、それでも鷹城には無意味のようであった。
「やめろギガフレア! これ以上は山に火がついて村が消えるぞ!!」
「何言ってやがる、だったらどうしろってんだよ! お前じゃあいつに攻撃もできねえじゃねえかよ」
 苛立っているギガフレアはぼくの胸倉を掴みあげる。
 それでもぼくは臆することなくギガフレアの眼を睨みつける。
「ぼくに、考えがある・・・・・・」
「なんだと、本当だろうな」
 ギガフレアは突き放すようにぼくの胸倉から手を離す。
「ならやってみろアークジェット。そういえば僕はお前の力を直接見てはいなかったしな。ただし、駄目なら山も村も焼き尽くすつもりで炎を全力で叩き込む。僕たちは別に村人を護るために戦ってるんじゃないんだからな」
「ああ、まかせろ。ぼくは、勝つ」
 ぼくには作戦があった。
 そのためにぼくは寝ているヴェイプの頬を叩いて無理矢理起こす。
「うんにゃぁ、ジェットおはよぅ。え、なになに? なんで外いるの? 野外プレイ?」
「ちげえ! いいか、今敵襲にあってるんだ、よく聞け」
 ぼくはこの状況を適当に伝え、作戦もヴェイプに言い聞かせる。
「わかったか、頼んだぞヴェイプ」
「うん、まかえてよ。その代わり上手く言ったらご褒美のチューしてね♪」
最後の言葉は聞かなかったことにして、ぼくはゆっくりと前に歩みを進める。
真上には鷹城がぼくたちを見下ろしている。
 そうしていられるのは今のうちだけだ。
 地面に引き摺り下ろしてやる。
「なんだ、俺とやる気なのか。正義は必ず勝つ。お前たちは俺に勝てないんだよ!」
「黙れ鳥野郎。その五月蝿いくちばしを叩き折ってやる」
「俺はラルヴァを殺すんだ、正義のために、平和のためにいいいいいい!」
 鷹城は突然羽の攻撃を止め、高速でムシナキ様のもとへ飛んでいった。鋭い鷹の爪を前に突き出し、ムシナキ様を切り刻むつもりだ。
「馬鹿野郎、やめろ! ムシナキ様が死ねば奈々ちゃんも――」
「うるさい関係あるか! 平和に犠牲はつきものだ、ラルヴァを庇護する奴もみんな死ね!」
 狂っている。
 何がここまで彼のラルヴァ駆逐の精神を支えているのか、それはぼくたちにはわからない。彼もまたぼくたちと同じように何かに対する憎しみや悲しみを抱えているのかもしれない。
 だが、そんなことは関係ない、意見が違えば殺しあうだけだ。
 鷹城はすさまじいスピードでムシナキ様に向かっていく。ぼくは電磁エネルギーを全開にして鷹城に向かって駆け出すが、間に合わない――
「させるか!」
 そう叫び声を上げたのはレイダーマンであった。
 彼はムシナキ様の前に立ち、手を広げ、鷹城の攻撃を自分の身体で受けたのだ。爪は彼のわき腹あたりに突き刺さり、レイダーマンの口と傷口からは大量の出血がある。
「てめえ・・・・・・」
「させるかよ・・・・・・ぐっ」
 レイダーマンは異能により事前に攻撃を察知していたらしい。しかし、まさか自分の身を投じてまで奈々ちゃんを護ろうとするなんて・・・・・・。
 レイダーマンの捨て身のおかげで、鷹城は一瞬動きが止まる。ぼくはその隙に彼らのもとに追いつく。距離をつめ、ぼくに気づいた鷹城はまた空に向かって飛んでいく。
 しかし、今度こそ逃がすものか。
 ぼくは電磁加速で強化された肉体を全開にし、地面を蹴って跳躍をする。
「無駄だ、どんなにジャンプをしようが、お前は落ちていくだけだ!」
 ジャンプで鷹城を追うぼくを、彼は嗤っている。
 ジャンプの限界がきて、あとは落ちてしまうだけ、確かにそれは彼の言う通りなのだろう。しかし――
「それはどうかな」
 ぼくはそのまま落ちることなく空中に足をつけ、その場に立つ。
 まるで空中に見えない床でもあるように。しっかりと空中に立っている。端から見たら浮いているように見えるだろう。
「な、なんだと・・・・・・」
 鷹城は信じられないものを見るように呟く。自分の不可侵領域である空に敵が侵入したのだ、それは無理からぬこと。
 だが、ヴェイプの空間隔離を応用すれば、空中に立つことは容易い。
「ジェットー! これでいい?」
「ああ、十全だ。あとは、ぼくに任せろ。お前は足場だけを作ってってくれ」
「はーい」
 ギガフレアはそれを見て「なるほどね」と肩をすくめた。ギガフレアはレイダーマンのもとに駆け寄り手当てをしようとしているようだ。
「さあ、殺し合いをしよう鷹城」
「ふざけるなぁ! 空は俺の居場所だ、お前なんかが軽々しく踏み込むなぁぁぁああ!」
 鷹城は旋回しぼくから距離をとろうとする。また遠距離からの羽ミサイルでホーミングするつもりだ。だが、そうはさせない。
「加速!」
 ぼくはイナズマのごとき素早さで鷹城を追う。空中の足場を駆け、鷹城に追いつく。地面のときと違い、起伏がないためこの空中の足場のほうがスピードが出るようだ。
 ぼくは逃げようとする鷹城の翼を掴むことに成功する。
「げええ! 離せ、俺の高貴な翼に触れるな!!」
 ぼくは鷹城の言葉を無視し、思い切り拳を叩き込んだ。心臓を狙ったつもりだったが、鷹城は暴れ、ずれて拳は鷹城の翼を貫く。
 肉を通過する感覚が拳に広がる。血が飛散し、空中の足場にそれらが付着していく。
 狙いは外れたが、これで鷹城はまともに飛べなくなるはずだ。
 ぼくは空中に留まり、くるくると落下していく鷹城を見下ろす。だが、
「俺を見下すんじゃねええええ!!」
 鷹城は落下する直前に片翼での飛翔をコントロールし風圧を利用して、まるでハリケーンのように回転しながら舞い上がってきた。
 彼の信念には敬服する。
 だが、ぼくも負けられない。
 ぼくは空中の足場を蹴り、下に凄まじいスピードで落下する。このままでは鷹城と衝突する。だがそれでいい、力比べだ。
「超電磁――――」
 ぼくは足先に全電磁エネルギーを集中し、空中で一回転する。それにより、加速力を上昇させ、足を前に思い切り突き出す。
「ジェットキイイイイイイイイイイイイイイイック!!」
 ぼくは叫びながら全身全霊を込めたキックを鷹城の胴体に決める。鷹城の鋭い爪はぼくの頬を掠めるが、鷹城の胴体はぼくの蹴りによって千切れていく。
 その一瞬の出来事をまるでスローモーションのように見ることができた。ぼくの足が鷹城の胴体を引き裂いていき、血と臓物と骨が飛び散っていく。
 それが鷹城の致命傷となった。
 胴体から真っ二つに裂けた彼の身体は、もはや飛ぶことはかなわず落ちて行く。
 ぼくもそのまま地面に落下する。
 地に堕ちた鷹。
 そして夜は明け、決着はついた。



                 7


「いてて・・・・・・」
 ぼくは尻餅をついてしまって、体中があちこち痛い。
「大丈夫ジェット~」
 すぐにヴェイプが駆け寄ってぼくを起してくれた。心配そうにぼくを見つめている。可愛いところもあるじゃないか。
「大丈夫だよ。ありがとなヴェイプ。キミのおかげで勝てたよ」
 ぼくはヴェイプの頭を撫でてやる。
「へっ、なかなかやるじゃねえかジェット」
 奥からはレイダーマンを支えてギガフレアもやってきた。
「レイダーさん、大丈夫なんですか?」
「ああ、致命傷は避けている。だが、すごく痛いぞ・・・・・・」
 そりゃ痛いだろう。あの鷹の爪で身体を切られたのだから。まあそれでも軽口叩けるくらいなのだから大丈夫なのだろう。
「うう・・・・・・」
 ぼくは呻いている鷹城のほうに眼を向ける。身体が半分千切れているのに、まだ少しだけ意識はあるようだ。変身系異能者はどうやら生命力も高いらしい。
 だが、それでももう長くはもたないであろう。鷹城はうわ言のように何かを呟いている。
「俺は・・・・・・化け物じゃない・・・・・・あの猫とは違う・・・・・・ラルヴァなんかじゃ・・・・・・ラルヴァを殺せばみんな・・・・・・俺を人間と認め・・・・・・て・・・・・・・」
 涙を流しながらそう言って、やがてこと切れた。
 彼もまた、この理不尽な世界の被害者だったのかもしれない。
「大丈夫ですか!」
 鏡子さんがぼくたちのもとに駆けてきた。
 鏡子さんは心配そうに傷だらけのレイダーマンを見て涙を流していた。
「ありがとうございます・・・・・・」
「いえ、俺は大丈夫だ。それより村が・・・・・・」
 ぼくたちは村を見渡す。
 もはや昨日までの穏やかな雰囲気はなく、無残にも破壊されてしまっていた。
 もう衰退どころではない。しかし鏡子さんはそれを気にもとめていないようだ。
「大丈夫です、だって私たちにはムシナキ様がいるんですから!」
 鏡子さんは笑顔でそういった。ラルヴァという神に頼るために、鏡子さんは妹を捧げたのだ。ならばこの状況もムシナキ様が救済してくれる、そう信じているようだ。
 しかし、レイダーマンは重い口調で語り始める。
「鏡子さん。本当は今日、順を追って話すつもりだったんだが、よく聞いて欲しい」
「ええ・・・・・・なんですか・・・・・・」
「奈々ちゃんと融合しているラルヴァはムシナキ様じゃないんだよ・・・・・・」
 そこにいた誰もが頭に「!?」マークを浮かべていた。それは傷ついた村人たちの追い討ちになりかねない話であった。
「レイダーさん、どういうことですか」
「ああ、昨日あれを見たときはまだ確信できなかったが、今、あれを庇ったときに理解できた。あれはただの下級ラルヴァだ。知能などない精々下級C―1程度のものだ」
「そんな、嘘ですよね・・・・・・」
「恐らく数百年前にいたムシナキ様は高度な知能をもったラルヴァだったに違いない。しかし、あれは鷹城の攻撃にも特に反応せず、何の力ももっていないことがよくわかった。あれは、テレパスに目覚めた奈々ちゃんが宇宙から呼び寄せてしまった“黒きモノ”と呼ばれる宇宙ラルヴァの眷属の一種だろう」
 自分たちが信仰し、妹をも犠牲にした存在がただの下級な化け物だと知って、鏡子さんはその場に膝をついてしまった。
「そんな、レイダーさん。じゃあ奈々ちゃんはどうするんですか」
「このラルヴァは聖痕が回収する。恐らくはラルヴァとの融合を切り離す能力者がいるはずだ。一先ず妹さんごとラルヴァは我々聖痕が引き取るしかないだろう。それでも妹さんが無事に戻る可能性は低いのだがな」
 やはり世界という奴は不条理で残酷だ。
 どんなに信じても、裏切られる。
 鏡子さんは涙を流しながらどうしたらいいのかわからず項垂れている。村人たちもそれを聞いており、みな、目が死んでいるのがわかる。
「じゃあ、私たちは何にすがって生きていけばいいんですか・・・・・・」
 レイダーマンはそれに答えず、その場から去ろうとする。怪我でよろめいているのをぼくは支える。
「もう、帰るぞジェット。調査は終わった、あとは回収部隊に連絡をするだけだ・・・・・・」
「レイダーさん。彼女たちはどうなるんですか・・・・・・」
「さあな。俺たちには関係のないことだ。それは彼女たちの問題だ。何かにすがっているうちは、前には進めない。それに彼女たちが気づく日が来ると俺は信じている・・・・・・」
 そう言うと、レイダーマンは気絶してしまったようで、ぼくに全体重がかかってくる。ぼくはレイダーマンを背中に抱き、ギガフレアとヴェイプの方を振り向いた。
 これでぼくの初任務は終わった。
 後味の悪い話ではあったが、ぼくは自分がどういう世界でこれから生きていかなくてはならないのか、それを思い知った。
 姉さん。
 愛する姉さん。
 それでもぼくはこの血塗れの世界で、必死に生きていこうと思います。
 姉さんを失ったあの日から、ぼくは心の安らぎなんて捨てたのだから。




                              つづく







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