【ステーキハウスパットギャレットは本日も大入り】


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。


 あれから数週間後、東京湾に浮かぶ、双葉島と呼ばれる人工島、その島内のとあるステーキハウスの前に私は来ていた。
 すっかり日差しも夏らしくなり、アスファルトの照り返しも厳しく、ジワリと汗が滲んでくる。私は、その汗を懐から取り出したハンカチで拭くと、目の前にあるステーキハウスの看板を見上げる。
 そこには“PATRICK GARRETT(パットギャレット)”と書かれていた。
 名前の由来は西部開拓時代の保安官らしい。ここを紹介してくれた友人に、この名前を何故使ったのかと聞くと『そりゃ、ビリー・ザ・キッドを捕まえたからだろ』と笑って返された。私には、その意味が全く分からなかった。
 双葉島でも最外部に位置するということもあってか、目の前には美しい人工海岸が広がっている。その砂浜では、学園の生徒、島の住人であろう人々が、それぞれに海水浴を楽しんでいた。なんとも幸せな光景だ。
 さて、店に話を戻そう。外観は木材を多用したウェスタン調。部分的には幌馬車の車輪なども使い、西部開拓時代の雰囲気を出そうとしている。ステーキハウスにありがちなスタイルではある。
 期待半分で、店の扉を開ける。
『いらっしゃいませー』
 一斉に声がする。やはり、中も木材を利用した、古めかしいスタイル。ちょっと油っぽいベト付く空気感が、いかにもステーキハウスらしい。
 ひとりのウェイトレスに、席へと紹介される。ラフな格好が多いスタッフの中で、彼女だけはこの季節では暑苦しいであろう、ヴィクトリアン調のメイド服姿だった。
「こちらへどうぞ」
 そう言って、私を先導してくれるのだが、何故かそこはスタッフの休憩室だった。

「何やっとんじゃぁー! こんのぉ、ポンコツメイドッッ!!」
 その声と共にウェイトレスは豪快に蹴飛ばされ、奥にあるロッカーへと転がり、小物が散乱する。周りのスタッフもかなり引いている様子だ。
「何度、お客さんは“空いてる席”に案内しなさいって言えば分かるのよっ?」
 メイド服姿の少女が立ち上がる。あれ? 首の角度がおかしくないかな? それ。
「そうはいいましても笹島さん。てっきり、バイト募集の人かと思いまして」
「こんな老けたバイト募集がいるかっっ!!」
 そういって、彼女は私の顔を指差す。あのー、私はこう見えても、一応二十代前半なのだけれどねえ。
「申し訳御座いません。すぐにご案内します。こちらです」
 そう言って、慇懃無礼に私を案内する女性もなんともおかしな格好だった。
 Tシャツに袖なしGジャンとジーンズ、頭にはバンダナ。しかも、Gジャンとジーンズはケミカルウォッシュだ。手には意味があるか分からないが、指貫グローブをしていた。
 私は、彼女に窓際の席を案内され、そこに座る。海岸が見える、実にいい席だ。
「ゴメンなさい、お客さん。でも、ここがウチの店の一等席ですから、許して下さないね。注文が決まったら呼んでくださいね」
 そう、彼女は言いながら去っていく。ただ、私は、その格好が気になってしょうがない。それは、やっぱり、彼女の趣味なのだろうか? 思わず声をかけてしまう。
「あー、キミ。その格好はどうして……」
「こ、この格好はですね、店長が、私の名前を聞いて、いきなり『お前なら、この格好が似合うっ!』とか言い出して、それで、私はやむなく……いや、でも、このポジションにいるのは悪くないかなって……あれ、私ってばなにを言って」
 彼女は頬を赤らめながら、私の元を去っていった。多分、何かのコスプレなのだろうなあ。さて、メニューを見て注文をしなければ。
 私は、入念に五分ほどメニューと睨めっこした後に、ウェイターを呼ぶ。
「ご注文はおきまりですかー?」
「ああ、この黒ステーキ(220g)をウェルダンでお願いできるかな?」
「お客さん、分かってるねー……って痛っ」
 急に後ろに現れた、同じ年頃の少年に頭を殴られていた。
「ちゃんと、接客しろよ!」
「何で殴るんだよトラっ!?」
「お前の言葉がなってないからだ。チーフに怒られるぞ」
 急にウェイターは真っ青な顔をする。
「そ、それだけはヤバイ。お客さん! ゴメン!! すぐ持ってくるからっ!!」
 そう言って、少年はキッチンの方へと駈けていく。すぐ持ってこられても困るんだけれどもな(笑)。
 私は、ステーキが届くまでの間、表の風景を眺めることにする。
 うむ、なんとものどかだ。少女や少年達が、遊んでいる。しかし、微妙に少女たちの発育がいいような気がするが、私の気のせいだろう。これこそ、平和な日本のあるべき姿だ。
 おや? 何か、おかしな者が海から上がってくるじゃないか? あれはなんだ? イカのようで、人の姿をした、まるで化物だ。
「お待たせましたっ!!」
 恐ろしく、強引で、とんでもなくあつかましい声と共に私の目の前に注文していたステーキが届く。
 それを届けた男は、純白のジャンバーに白いズボン。指貫グローブも白を基調としたものだった。健康的に焼けた黒い肌が好対照だ。
「色々、ご迷惑をかけたみたいで、申し訳御座いませんでした。店長の……と言います。私みずから謝らせていただきます。ちょっと血の気が多い子が多いものですから。でも、みな、良い子で、大切な仲間です」
「は、はあ……」
 私はあっけにとられながら、ただただ、その店長の顔を見つめるばかりだった。
「た、大変ですっ! 店長っ!!」
「どうしたっ!?」
「か、海水浴場にラ、ッルヴァがっっ!!」
「なんだどっ?」
 急に店長の顔が険しくなる。ふと、外を見ると、怪人対ヒーローのアトラクションのようなものが始まっていた。怪物に相対しているのは、足に鎧を装着した少年のようだ。
 キックをお見舞いするも、怪物には中々効果がないように見える。
「ジョーッ!!」
 店内に野太い店長の声がこだまする。
「だから、私は霞の人じゃなくて、笹島だって……」
「そんなこと、俺がしるかっ!!」
 それを無視して、店長はケミカルウォッシュ上下の彼女に指図をする。
「ジョーは周辺の子供達を避難させるんだっ!」
「はーい」
 店長の熱気の篭った声とは裏腹に気の抜けた調子で、彼女は店外へと出て行く。なるほど、たしかに子供というか、一般人を誘導している。
「リュウっ!」
「はっ、はい?」
 先ほど、私に注文を聞きにきた少年が、そういわれて硬直している。
「お前も、あそこに行って、仲間を手伝うんだっ!!」
「は、はいっ! 店長!!」
 そういって、少年は店を出て、一気にアトラクションの行われている場所へと走り出す。実に凝っているなあ。あ、軽くやられた。
「くそうっ……、これは全てラルヴァの仕業だな。ゆ・る・さ・ん・っ!!」
 そう言って、店長は店の外へと飛び出していった。そして、なにやら、キレのあるポーズを取ると、店長の身体がまぶしく輝く。
 いつのまにやら、店長は、バッタをベースにしたようなヒーローに変身していた。
 アトラクションというのは凄い進化をしているのだなあ。しみじみと思う。
 数分間のアクションの後、店長(だった人)は、腰から剣を取り出すと、大上段に相手を切りつける。相手が爆発する。ここまで熱気が伝わってきそうだ。
「おや?」
 爆発の向こうから、全身銀色の人がゆっくりと店長の方へと歩いていく。あれは誰なんだろう?
「あの人ですか? あの人は影月生肉店の店長ですよ」
「て、店長?」
 そののんびりしたメイド姿の彼女の声に思わず質問を返してしまう。
「影月生肉店の店長は、ウチの店長とライバルなんだそうです。なんでも“ソーセージ王”とか呼ばれるほど、手作りソーセージで財を成したなんていわれてますよ。でも、ライバルという割りにはウチのお店にもソーセージを下ろしたりしてるんですけどね」
 彼女の話の途中から、私は、この海辺で行われるアトラクションにすっかりトリコになっていた。これは決して目を離せない。そう思えたからだ。


ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。