【ROND4】


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     4

 第11分隊は、奇妙な動きの敵と遭遇し、困惑していた。
 複数種類の蟲型ラルヴァが、妙に巧みな連携をみせるのだ。
 まず最初は、地中から現れた長環蟲〈ワーム〉だった。相も変わらず対抗心を燃やし合いな
がら突き進む里衣と輝亥羽、そのあとについていくミヤマ仮面志郎、そして疲れが出て遅れは
じめた克巳と、それを気にしてくれるガナリオン=木山と龍——
 そんな、三分割されていた第11分隊を、四匹ずつ現れた長環蟲が隔てたのだ。外殻をもた
ない貧弱なタイプだった。
 この時点ではだれも異常に気づかなかった。里衣が一匹、ミヤマ仮面が一匹、ガナリオンが
一匹、龍が一匹——あっという間に下級ラルヴァを葬る。輝亥羽が一匹目を撲殺している間に
里衣以下はもう一匹ずつスコア追加。克巳はグロック17を抜いて安全装置を解除してみたもの
の、やることもなさそうなので邪魔にならない位置へ後退しようとしていた。
 そこで——
 二匹目の長環蟲を倒したガナリオンを、いきなり巨大な飛行蟲が強襲した。2メートルを楽
に超える、ひときわ生長した鬼神蜻蜓〈キシンヤンマ〉だ。クレーンキャッチャーのアームの
ような六肢で変身ヒーローを捕らえ、空中へと連れ去る。さらに、克巳目がけて破城飛蝗〈バ
ッタリングラム〉が二匹跳んできた。龍が迎え討ち、とりあえず二匹ともに蹴り落とす。デコ
ッ面の頑丈さには定評のある破城飛蝗はさすがに一撃では沈まず、どちらも起きあがった。
 さらに蟲怪物が出現する可能性を警戒し、龍は周囲を見まわす。
「虫どうしが連携してるだと?」
 ウダイカンバの大木を背に、自分へ近いほうの破城飛蝗へ狙点を定めて、克巳が応じた。
「デカくなっても虫は虫です。知能レベルなんかほとんどCに近いBであって、考えるような
頭はない。不自然です、なにかいる」
 長環蟲四匹を駆除し終えたミヤマ志郎が、木立の奥で光る、あやしい複眼を見とがめたのは
その時だ。
「なんだ? 虫のクセに、立って歩いてるぞあいつ」
 ミヤマ仮面に指を擬された新手の怪物は、
「ギギギ」
 と、解読不明ながら、なにやら意味のありげな鳴き声をあげた。その途端に、そいつの両脇
にいた破城飛蝗が、ミヤマ仮面へ向けてかっ飛んでくる。
「——虫を操ってる?」
「まさか、あれが今回の大発生の黒幕じゃないでしょうね」
 輝亥羽と里衣が、顔を見合わせ、すぐさま互いにそっぽを向いた。だが、いままでとは違う
大物の出現であることは間違いない。対抗意識がさらに熱を帯び、輝亥羽と里衣は迷わず突っ
込んでいった。
 そいつが、真鍮暴蟲〈ブラス・ハルク〉と呼ばれる強力な怪物であることは、だれも知らな
い。
 身体能力では輝亥羽に大きく水をあけている里衣は、たちまち怪物へと肉薄していった。黄
金色に輝く、直立する甲虫といった感じの相手は、逃げようとしない。
「ふん、こそこそしながら手下の虫を差し向けてくるような小狡いやつかと思ったら、どうや
ら単なる単細胞みたいね!」
 余裕の表情で、体高2メートルほどもあるのラルヴァの頭上へ軽々とジャンプし、里衣は爪
を振りおろした。だが、真鍮暴蟲はあっさりと右の前肢で猫の鋭い爪を弾き返す。
「生意気なッ!」
 右、左、さらにキック。里衣の攻撃は強烈をきわめたが、真鍮暴蟲はあざ笑うかのように左
右の前肢だけですべてを防ぐ。肉厚な殻に覆われた、見るからに動きの鈍そうなその姿からは
信じられない素早さだった。
 攻撃に夢中の里衣は、真鍮暴蟲が中肢を引きつけたことに気づかない。
 里衣の左フックと右ストレートをほとんど同時に捌き、がら空きになった胴へ向け、真鍮暴
蟲の中肢が突き出された。前肢よりもはるかに細いが、鋭い棘状になっている。
 肉を割く音——が、舞った血飛沫は里衣のものではなかった。
 横から、里衣を突き飛ばし、身代わりになったのは輝亥羽だ。里衣の心臓を狙っていた真鍮
暴蟲の右中肢は、さほど深々とではないものの、輝亥羽の脇腹を存分にえぐる。
「バカ、なに余計なことを!」
「ふん、あなたのためなんかじゃ……ないわッ!」
 傷口を押さえようともせず、輝亥羽は右手を掲げた。鋭く輝くや、輝亥羽の手がそのまま巨
大化したかのように、光でできた拳が現れる。
「私の本当の力を見せてあげる! 食らいなさい『復讐の弾丸〈レイジング・ブリット〉』!!」
 かけ声とともに、巨大な掌が、真鍮暴蟲へつかみかかった。その指が力強く閉じられ、怪物
を捕らえる。
 会心の表情を浮かべて、輝亥羽は里衣へ誇らしげに話しかけた。
「私のおかげだってことをちゃんと認めるのなら、手柄の半分はあげてもいいわ!」
「恩着せがましいことを!」
 しかし里衣は素直に動かない。代わりにきたのは、破城飛蝗をもさっさと始末したミヤマ仮
面だ。
「せっかくのチャンスに、なにをやってるか!」
 ごもっともな科白とともに、志郎の芸術的な飛び蹴りが、真鍮暴蟲の頭部に直撃する。これ
は決まったと、ミヤマ仮面も、輝亥羽も、内心舌打ちしつつ里衣も思った。
 ところが。
 輝亥羽の巨大拳骨が、内側から弾けとんだ。高密度の魂源力で構成されていた「復讐の弾丸
〈レイジング・ブリット〉」の具象が、こま切れにされ、消えていく。
「……そんな!?」
 真鍮暴蟲の中肢に、赤い光が点っていた。これで、輝亥羽の掌圧を破ったのだろう。魂源力
には魂源力、というわけか。あきらかにこいつは虫の知能ではない高度な判断力と、魂源力を
自在に操作する精神力を持っていた。
「やるな、化け物!」
 むしろ強敵の出現を喜ぶ調子で、ミヤマ仮面が真鍮暴蟲へしかけた。が、蹴りを放った右脚、
手刀を繰り出した左手、さらに、左脚、右手——と、たちまちのうちに真鍮暴蟲の四本の肢に
つかまれてしまう。
「なんとぉ!?」
「ギッギッギ」
 真鍮暴蟲は不気味に吼え、ミヤマ志郎を上へと放り投げる。さらに自らジャンプして追撃し、
空中でミヤマ仮面の背中側から両手足をつかみ直した。そのまま、パワーボムの要領で志郎を
頭から地面へめり込ませる。
『シカムシ仮面!』
 思わず間違った名前を呼んでしまった輝亥羽と里衣だったが、ミヤマ志郎の耳にその声は届
いていないようだった。
 大地から足だけを生やすミヤマ仮面を尻目に、真鍮暴蟲は里衣と輝亥羽のほうへ向かってき
た。脇腹を押さえてひざをつく輝亥羽の前に立って、里衣は迎え撃つ体勢を取る。
 なんとか顔をもたげ、輝亥羽は里衣へ警告する。
「無理よ、接近戦じゃ勝てないわ。私のことはいいから」
「怪我人は黙ってなさい」
 そうはいったものの、さすがの里衣も常の猪突猛進とはいかない。真鍮暴蟲は無造作に距離
を詰めてくる。
 里衣の猫の耳がぴくりと動いた。猫というのは音だけでも周囲の状況をある程度把握するこ
とができる。もちろんこの形態の里衣も同じ能力を持っている。その情報に基づいて、動いた。
 右の爪を振るうとみせかけて、側転。左の前肢で受け、中肢で反撃しようとした真鍮暴蟲の
裏をかいた。
 里衣は敵の右側面へ回って左のハイキックを浴びせる。ほとんど小うるさげに真鍮暴蟲は右
の前肢で払いのけ、四本の肢すべてで一挙に決めてやろうというつもりか、里衣のほうへ正面
から向き直った。
 にやりと笑って里衣はバックステップ。飛びかかろうと真鍮暴蟲が後肢をたわめ——
「てェェえぇっいッ!!」
 破城飛蝗を片づけて駆けてきた龍のキックが、真鍮暴蟲の後頭部へ突き刺さる。が、その威
力は同系統の技を持つ先輩である志郎より上ということはない。
 やはり、化け物は倒れなかった。
 龍は構うことなく掌打を放つ。一撃一撃に魂源力が乗った連撃は、真鍮暴蟲に向き直る暇を
与えない。
「うらうらうらうらうらァッッ!!」
「ギ……ガッ!」
 真鍮暴蟲が跳びあがった。後肢の力だけで三メートル以上も垂直に上昇する。龍はハイキッ
クで宙を打った。龍の繰り出す技は、直撃させることができなくともある程度の距離までは衝
撃波が達するのだ。
 遠あては命中したが、真鍮暴蟲はその反動を逆用して十歩ほど離れたところへ着地する。ぜ
んぜん効いているようには見えない。
「……くっそ、なんだこいつ、硬すぎるぞ」
 ラッシュでかなりの魂源力を使ってしまい、肩で息をしながら龍がぼやく。里衣は輝亥羽と
克巳のほうへ声を張った。
「そこの戦力外二名、シカムシを掘り出しなさい。まだ生きてるはずよ。三対一なら勝負にな
る」
 里衣のいうとおり、逆さまに地面から生えているミヤマ志郎の両脚が空を掻くように動きは
じめていた。KOダメージは負っていないようだ。
 魂源力コーティング弾の入っているマガジンに取り替えたグロックをしまって、克巳はミヤ
マ仮面の救出を開始した。魂源力に依る超常的な防御を無効化できたとしても、拳銃弾で真鍮
暴蟲の外骨格をぶち抜けるとは思えない。輝亥羽も傷の痛みに顔をしかめながら、土を掘り返
す。
「とりあえず時間を稼ぐのよ」
「うっす、突き飛ばすだけならあと十回はできます」
 迫る真鍮暴蟲に対し、里衣が一歩前に、龍はやや後方に構えた。ミヤマ仮面が戦列復帰する
まで、里衣が相手の隙を誘い、龍の遠隔掌打で弾き飛ばして間合を遠くに保とうというわけだ。
 そんな作戦を知ってか知らずか、真鍮暴蟲は相変わらず無頓着に近寄ってくる。
 ——と、そこに、なにか落ちてきた。鬼神蜻蜓の頭だ。続いて、胴体とともにガナリオンが
降ってくる。
「またせたな、こいつは俺に任せろ!」
 崩れはじめる鬼神蜻蜓の胴体を下敷きに、ガナリオンは力強く宣言した。
「いまさら出てきてなにいってんのあんた」
「俺には、必殺技がある!」
 あきれかえる里衣の声を右の耳から左の耳へと素通りさせ、ガナリオン木山は自信満々で真
鍮暴蟲に向き直った。
 怪物のほうは、相手がだれであろうと気にする様子はない。
 ガナリオンは腰を落とし、右腕を溜めて構え、その前にクロスさせた左手を己へと引きつけ
る。そして——
「いくぞ、ガナル・パーンチィッ!!」
 叫ぶと同時に、ガナリオンは紅い烈風と化して、真鍮暴蟲の胴体へ猛烈な一撃をたたき込ん
でいた。いままでどれだけの攻撃を受けても身じろぎひとつしなかった真鍮暴蟲が、よろめく。
ガナリオンは敵の後方5メートルほどのところまで奔り抜けていた。
 ガナリオンが通過したあとの地面はすっかり舗装されたかのように平らになり、紅い蒸気を
噴きあげている。
「ギ、ギ……」
「まだ倒れぬか……ならば、ガナリオン・ジャンプ!」
 かけ声とともに、紅い粒子を放出しながらガナリオンは宙へ舞った。
 立ち直った真鍮暴蟲がガナリオンへ複眼を向けるや、それが黄色く輝く。
 数瞬間の溜めを挟んで、真鍮暴蟲は光線を発射した。
 目で追えるほどのんびりとした光線だったが、空中にいるガナリオンに回避する手段はない
……と思いきや。
「おそいっ、ガナル・ブースト!」
 背中からひときわ大量の粒子を放出しながら、ガナリオンは人間にはありえない空中機動で
怪しい光線を躱した。
「ギギ……!?」
「そしてぇっ、トドメだ! ガナリオーン・クラァーーーーーァァッシュッゥッッ!!」
 紅き一本の槍となったガナリオンが急角度で高速降下し、真鍮暴蟲の頭部をぶち抜いた。
 ふたつの紅い火柱があがった。片方は爆散する真鍮暴蟲、そしてもう片方は地面にクレータ
ーを穿ちながら着地するガナリオンの余剰粒子だ。
 あまりに圧倒的な展開に、残りの四名は大歓声を通り越して呆然となる。
「なに、これ……」
「……強ぇえ」
 途中で助けの手が止まったので、自力で地中から這い出してきたミヤマ仮面が飛び起きたの
はこの時だったが、すでに遅い。
「さあ、もう不覚は取らんぞ化け物……って、ありゃ?」
 周囲に漂っていた土煙と、紅いガナルスキー・粒子(?)が晴れる。大地に立っていたのは、
ボクサーパンツ一丁の木山仁その人だ。
「うお、さすがに寒い……工、預けておいた荷物の中に俺のジャージが入ってる、取ってくれ」
「変身が解けたってことは、いまのでガス欠ですか——あった、準備いいっすね」
 みんなから軽食や雨具を預かっていた克巳は、バックパックを開けて仁の荷物からジャージ
を取り出して渡した。
 ジャージを着込む仁へ、
「まあ、こんな大技を早々連発できるわけないわね。で、どのチャージ時間はどのくらい?」
 と、里衣が訊ねる。途端に、仁の動きが固まった。
「え、えーと……いまと同じ連続技なら、三日に一度、くらいかな」
『…………え?』
「3時間とかじゃなくて?」
 胴に巻いてある自分のデバイスを指して、克巳が訊ねる。
「明日になれば変身はできるようになる……が、ガナル・パンチ一発で終了だな」
「なによどうすんのよ、お荷物ばっかり増えるじゃないの」
 里衣が腰へ両手をやって、仁、輝亥羽、克巳を視線で撫で斬りにした。
「あと15分で〈毒蛇〉はもう一回稼働できるようになりますけど。笹島センパイの手当をし
ないといけないし、戻るか、救護班を呼んだほうがいいでしょう」
 克巳の提案に、里衣はわざとらしくため息をつく。
「まったく、しょうがないわね。貧乳委員、さっさと回収班の手配をしなさい。あと、交代要
員を最低一名。あんたと、そこの電池切れには帰ってもらうわ」
「センパーイ、おれも電池切れやすい体質なんで帰っていいでしょうか?」
 手を挙げて再度発言した克巳を、里衣はぎろりとにらんだ。
「あんたは働くのよ。充電中は荷物持ち」
「あの、そろそろ体力が……」
「交代要員がくるまで休める! 泣き言は怪我してからにしなさい」
「すんません、なんか食らったら、怪我通り越して一撃で死にます」
「なら文句は死んでからおいい。まだ連絡つかないの?」
「——撤収指示よ。救護班はくるから、それまではこの場で待機。負傷者——私のことね、そ
れ以外は自力でベースキャンプまで戻るように、以上」
 輝亥羽は、テレパスではなく、モバイル端末へ直接送られてきた正式な指令を読みあげた。
「なによそれ」
 納得いかない、とばかりに里衣は輝亥羽から端末をひったくる。しかし、誤読の余地がない
厳格な指示内容だった。
 腹立ちまぎれに、いっても詮なきことを愚痴る。
「交代要員もいないわけ?」
「予想より損耗が激しいみたいね。あなたは遊撃にまわされるかも」
 克巳から受け取ったファーストエイドキットから抗菌フィルムを取り出し、傷口にあてなが
ら、輝亥羽はそういった。やはり、できるだけ早く本格的な治療を施したほうがよさそうだ。
「とりあえず周辺の警戒だな。近所にラルヴァの反応はないのか?」
 ミヤマ志郎に訊ねられ、本営に問い合わせてみた輝亥羽だったが、思わぬ回答に眉をしかめ
る。
「新しい反応? ここから真東に60メートル、下方へ200メートル?」
「下方200って……地下ってことか?」
 現在位置は山間のまばらな林だった。崖や斜面の下に新たな怪物が現れた、という状況では
ない。このあたりの200メートル下は確実に地中だ。
「たしか、今回の作戦でレーダー係をやってる人は、かなり正確に探知できるんでしたよね?」
 龍の質問に、輝亥羽はうなずいた。
「数と位置に関しては絶対だと聞いてるわ。実際にいまさっきも、組み合わせこそ意外だった
し強力なラルヴァが混ざっていたけど、数は18で正しかったし、座標もほぼ合っていたわ」
「つまり、地中になんかいる、と」
 その龍の言葉に応じるかのように、地面が揺れた。だんだん、大きくなってくる。
「反応が上昇を開始。地上に出てくるわ」
「こりゃあ、そうとうにデカいな」
 ミヤマ仮面は楽しげにつぶやいたが、亀裂が奔るや、瞬く間に東側の地面が陥没しはじめた
ので、さすがに息を呑んだ。
「なんか、デカいってレベルじゃないみたいですけど……」

     ※

 トドマツの枝からふわりと飛び降りて、重換質は登山ズボンの裾を払った。
 それから、魔甲蜈蚣〈ダイア・ピード〉の外殻に腰かけてひと息ついている女性に一礼する。
死んだ魔甲蜈蚣は、すでに外殻以外が消失していた。
「ありがとうございます、久留間先輩」
「いや、まさかこんな大物と一対一で戦わされるとは思わなかったよ。第六分隊はこいつを二
匹倒したんだって? もしかして、あたしたちより強いんじゃないの?」
 そういって、久留間走子(くるま・そうこ)は立ち上がる。凄腕の怪物ハンターというイメ
ージとは裏腹に、見た目はごくごく普通の女子高生だった。背丈も、質のほうがちょっと高い
くらいだ。
「現状なら……そうですね、クマさんと合体してる二階堂先輩は久留間先輩より強いかも」
「クマ——? ああ、特異能力者〈パラノーマリスト〉じゃなくって変質能力者〈アブノーマ
リスト〉の彼か」
 二階堂悟郎と久留間走子はクラスこそ違うが同学年だ。知らない仲ではないらしい。
 質はくすくす笑ってから、
「久留間先輩って結構お茶目さんだったんですね。もっと堅苦しいひとなのかと思ってました」
 といった。走子はほんの少しだが憮然としているようだ。
「あたしが冗談の通じない女だと思ってる人は結構いるね。べつにそんなことないんだけどな
あ」
 ぼやいたところで、モバイル端末が電子音をあげた。取り出して一瞥した、走子の眉がわず
かにひそめられる。
 モバイルをすぐにしまって、質へ事情を伝える。
「かなりの大物が出たみたい。急いで戻らないといけないから、悪いけど自力で帰ってきて」
「あ、ちょっとまって、乗せていってください。わたし軽いですから」
 即座に走り出そうとする走子を、質はなんとか呼び止めた。
 走子のほうはやや煩わしげに振り返る。
「どれだけ軽く見積もっても四十五キロはあるでしょ、あなた」
「実際にはもうちょっとありますけど……でも、このとおりです」
 質は足元の小石をひとつ拾ってから、走子の背中に飛び乗り、スナップを利かせて小石を投
げ捨てる。
 鈍い音をたてて小石は地面にめり込んだ。
 肩のうしろから質の腕がまわっていることを確認し、走子は怪訝そうな表情になった。
「軽いっていうか……重さがないよ?」
「こういう異能です。がんがん飛ばしちゃってください、ちゃんとつかまってますから」
「そう……なら全力で走るけど、振り落とされないようにね」
 ——久留間女史は間違いなく世界最強の絶叫マシーンだと質は確信することになるが、実際
には舌を噛むとわかっていたのでひと言も発することはなかった。

     ※

 AM8:16——
 司令部に、各分隊から続々と巨大ラルヴァの発見報告が入ってくるようになっていた。
[体高推定40メートル、全長は……わかりません!]
[地ガメラ、そう、ぶっちゃければ地ガメラ! 頭二個あるけど、脚が六足あるけど、しっぽ
は四本あるけど!!]
[スーパーガメゴンロードです!]
[ツインヘッドタラスクだ! なに、マニアックすぎてわからないだって?]
 通信だけではよくわからなかったが、画像も送信されてきたので、司令部側もほどなく怪物
の正体を突き止めることができた。
 智佳が、「情報集約〈Intelligent Node〉」で呼び出した情報を読みあげる。
「名称は天蓋地竜〈ドームドドレイク〉、カテゴリービースト、ランク中級、知能目安はB、
脅威度は1です。危害を加えようとしない限り、人間には関心を示しません」
「すぐに各分隊へ通知を」
 都治倉生徒課長が攻撃禁止を命じたが、智佳が捕足を加えた。
「天蓋地竜は周囲に脅威となる存在があるかどうか、ほとんど本能で判断できるようです。強
力な異能者は近寄るだけで攻撃される可能性があります。とくに飛行するものには過敏。口か
ら金属水素弾を吐いて目標を破壊、30キロメートル以上先まで攻撃できることが確認されて
いるそうです」
「金属水素弾? 無茶苦茶なやつね。とにかく、接近は控えるように伝えて。特に、飛行でき
る異能者は、絶対に目標との間に直線を引ける地点へ行かないように。ほかにはなにかない?」
 都治倉に問われて、智佳は端末の表示をスクロールさせてざっと目を通す。
「基本的に地中にいて、地上に出てくるのはごくまれ……っていうのはいまさらですね、実際
地下からあがってきたんだし。あとは、各地での出現記録くらいですか。同定されてる個体は
全世界で5体のようです」
「いま出てきたやつ、これまで確認されたことがあるかわかるかしら?」
「違う角度から映ってる画像を3枚くらいください。たぶんそれで調べられます」
 生徒課長の指示で智佳の端末に画像が転送され、データバンクに登録されている情報とつき
合わされる。
 結果が出るのに10秒はかからなかった。
「ユーラシア東部で主に確認されていた個体と95%の確率で同一であると推定されます。タ
クマラカン砂漠では人民解放軍が13メガトン級の戦略核二発で攻撃していますが、目立った
効果はなかったとされているようです」
「核も効かないのに中級?」
「アメリカ軍が撃退に成功しているので、通常兵器がまったく無効だというわけではない、と
いう理屈のようです」
「イニシャルL・J、04・APR・2019で調べれば、あなたの異能ならパナマ運河近郊での対
地竜作戦の情報を引っかけられると思う」
 司令室に戻っていたフォクシィアが、智佳のほうを見てそういった。
「どれどれ——お、ホントに出た。ジャーナリストの取材メモ?」
「いくらあなたでも国防総省の内部データにはアクセスできないでしょうからね。私もパナマ
に天蓋地竜が出現して、米軍と交戦したという事実以上のことは知らない」
「読みますか?」
 智佳に問われて、都治倉はうなずいた。
「核が効かない化け物を、米軍はどうやって撃退したのかしら」
「四月四日、午前二時十七分——まあ、細かいところは飛ばします。出現した天蓋地竜がパナ
マ運河に向かっていることを確認した米軍は全面攻撃を決定。対地ミサイルを全部で九十八発
撃ってます。でも命中したのはマーベリックが四発だけ。米軍側の損害は航空機が三十八機。
最終的にはズムウォルト級の電磁主砲で、地竜の射程外から弾道射撃を行って追い払ったみた
いです。……でも、これはたぶん魂源力コーティングした弾を使ってますよ。やっぱ上級なん
じゃないの?」
 端末を横からのぞき込み、フォクシィアは素早く表示内容を見て取っていた。
「マーベリックと、A−10のアヴェンジャーでいちおう失血は確認されているようですね。
傷がつく以上は中級だ、というのが米軍の言分なのでしょう。それにしても……F−18が9
機、F−35が4機、A−10が5機、AH−65Dが12機、AH−1Wが8機とは。撃墜
されすぎにもほどがある。国防長官も各軍司令も、どの面さげて椅子にとどまっているのやら」
 冷笑するフォクシィアだが、軍事方面はさっぱりの智佳はただ首を傾げるだけだった。
 都治倉は腕組みして大きく息をついた。
「魂源力コーディングした砲弾を山越えで撃つ手段はないわ。事実上、打つ手なしか。地竜は
どっちに向かってるのかしら」
「南西方面ですね。このペースだと2時間で38号に出ちゃいます」
「……まずいわね」
 ここまでは、口では愚痴っても余裕を失っていなかった都治倉だが、さすがに苦慮げな顔を
隠せなくなっていた。智佳の端末をまだのぞいていたフォクシィアが、口を開く。
「地竜の食性は?」
「いま出す——主に動物性蛋白質、ただし魂源力を多く含むものであればなんでも食べる。ア
フリカでの観察記録によれば、現住の野生動物のほかに大型の蟲型ラルヴァを……お?」
「つまり、蟲型ラルヴァの大量発生が地竜を呼び寄せたのか、あるいは地下に巨大な空間があ
って、そこに棲んでいた蟲型怪物が地竜に追われて地上に出てきたのか、どちらかだというわ
けか」
「それなら、お腹いっぱいになれば地下に戻るかも?」
 智佳はそういったが、普段の自分たちの行動にあてはめて考えすぎの面があることには気づ
いていない。
 しかし都治倉は腕組みを解いていた。
「やってみる価値はあるわね。残りは何匹かしら?」
「ラルヴァ反応はあと431です。天蓋地竜以外は全部蟲型ラルヴァだと仮定すれば、430
匹ですね」
「では、作戦を変更。地竜へ向けて蟲ラルヴァを追い立てるよう、各分隊へ通知を」
「はいな」

 
 
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