【コスプレ戦士キョウカ ep.1】


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「コッチ目線お願いしま~す」
「ハ~イ。ホラ、ミヤミヤ博士も早く」
「ハイハイ。わかった、わかった」
 カメラ小僧というには、いささか年を取り過ぎた大きなお友達に囲まれ、八島《やしま》響香《きょうか》と神楽坂《かぐらざか》美弥子《みやこ》は写真を撮られていた。
 八月の最後の週末、第十三研究室の面々は本土で開かれた、とあるゲームのオンリーイベントにやって来ていた。
 もちろんただ遊ぶのが目的ではない。
 事の始まりは、数週間前に遡る。


 八月の中旬、敷島《しきしま》藤次《とうじ》が配属されたばかりの第十三研究室は特に新しい事を始めるでもなく、怠惰な夏を過ごしていた。
 神楽坂いわく、
「新しい機材が組み上がるまで、特にやる事無いのよね~」
 との事である。
 敷島も始めのうちは、これまでの研究資料やデータを見ていたが、それも尽きると一日マンガを読むだけの毎日となった。
 響香はここぞとばかりに検査以外は部屋に篭って何かやっているようであって、きちんとすれば可愛いらしい少女であるのに、最近はいつも髪はボサボサで目にクマを作っている。
 そんなある日、変化は突然やってきた。
 計器の一つが点滅したのを見て、神楽坂は読んでいたマンガを放り出して、研究室を飛び出していった。
「どうかしたんですか?」
 敷島も、とりあえず床に落ちた本だけはテーブルに拾い上げて後を追う。
「あの子が反応したのよ」
 答える神楽坂はいつにもなく上機嫌であった。
「魂源力《アツィルト》が高まると体が活性化するの、資料に書いてあったでしょ?」
「あ、はい」
 魂源力《アツィルト》に関する記述は、全く未知の分野の事であったので特に印象深く記憶に残っている。
「それで、あの子にはちょっと変わったブレスレットをしてもらってるの」
 つまり八島君の魂源力《アツィルト》が活性化しているという事か。
「しかし、それがどういう……」
「ああもう、いいから来なさい」
 何の事だかわからない敷島を、神楽坂はとにかく来ればわかると引っ張っていった。場所はモニタールーム……とは名ばかりのゲームをするための部屋である。現役稼動状態の物はプレミアが付いているような古い物から最新機種まで、なんでも揃っている。
「あ、ミヤミヤ博士、敷島博士」
 そこで響香は、真剣に格闘ゲームをやり込んでいた。
「巫女☆ネコ☆天使(えんじぇる)☆らでぃかる#ユウナのコスチュームが完成したんで、溜まってたマンガやゲームを漁ってたんですけど、これ新作出てたんですね」
 響香が今やっているのは、たしか結構人気があるシリーズだった。格闘ゲームは全くやらない敷島でも名前くらいは聞いた事がある。
「やりましたね、これで当面は新しいコスチュームの実験が出来ますよ」
 喜ぶ敷島に帰ってきたのは、神楽坂のあからさまな呆れ顔だった。 
「何言ってんのよ、そんなのは後回しに決まってんでしょ。新しい研究材料を得るチャンスなんだから」
 神楽坂はモバイルを取り出して、ものすごい勢いでキーボードを叩いた。
「良し。イベント情報発見」
 小さくガッツポーズして、キーボードをしまい電話機能を立ち上げる。
「例の実験来週の金曜にするわよ。無理でも揃えなさい! どうせ暇持て余してる連中なんだから」
 とまあそんなやり取りの末、第十三研究室は自衛隊へ公開実験のついでに、響香の新コスチュームの創作意欲を刺激するためイベントにやってきたのだった。

「本当は先週のコミケに来たかったんですけどね」
 ゲームのキャラの衣装に身を包んだ響香の顔は、笑ってはいたが少し残念な様子だった。
 いつもの赤とピンクが基調のてぃんくる♪アスカとは違い、青と黄色のバチバチとした色使である。
 響香は基本の造形がキレイに整っているので、大体どんな格好をしても似合うのだが、キャラの設定に合わせたのか胸の部分が衣装を持ち上げて少しちぐはぐな感じになっていた。
「自衛隊の実験で着るのも悪くないですけど、やっぱりコスプレの醍醐味って同じ作品が好きな仲間を見つけたり、話したりする事じゃないですか」
 響香はくるりとその場で回って、キャラのポーズを決める。
「はあ……」
 コスプレの事はよくわからない敷島であったが、あのてぃんくる♪アスカの同好の士はいないと確信できた。
 もちろん口に出すような真似はしないが。
「さあ、ボチボチみて回るか」
 何故か自分もキャラクターの衣装に着て、神楽坂がやってきた。
 神楽坂がコスプレをしているキャラは、二次元ならではというか、理想というより妄想という言葉が当てはまりそうなグラマラスな体型をしている。
 しかしそれを神楽坂は見事に再現していた。特に胸が無いと絶対に着られないだろう立体的な裁断の胸周りは、むしろ神楽坂のボリュームに負けて今にも零れないかと心配になる程である。
 ウエストもコルセットのようなデザインで締め付けられているし、日ごろほとんど運動していないようにはずなのにヒップラインもキュッと程よく引き締まった盛り上がりを見せている。
「おい、アレ見ろよ」
「再現度高けぇ!」
「神コスキタコレ」
 周りのカメラを持っている人達も、贔屓目を差し引いても飛び抜けて美形な二人を見つけてざわめきだした。
「あの、撮らせてもらって良いですか?」
「ハイ、どうぞ」
 一人が声を掛けてきたのをきっかけに、辺りは一瞬にしてシャッターの音に囲まれた。
 始めのうちは、ノリが良い響香を中心に出来ていた人だかりも、だんだんと完成度の高い神楽坂を中心にしたものへと変化していく。
 そして、ついに響香は撮影の輪から弾かれてしまった。
 神楽坂といえば、人垣の声からするとノリノリで撮影に応じているようだ。
 確か目的は響香がこの作品のコスチュームを作りたくなるように仕向けることだったハズなのだが。

 思い思いに楽しむ人々に、海から妖しい影が忍び寄る。
「何だ……ケーブル?」
 イベントのスタッフの男が何かを踏んでしまったようだ。
 しかし不自然である。
 こんなところにケーブルが必要な機材を設置する知らせなど無かった、そもそも関係者ならこんな人が通る所に無造作に置いておくハズがない。
 しかも何だか柔らかかったような。
 ともかく、電源の不正利用などは重大なマナー違反である。
「一言注意しないと」
 根元か先かどちらかに行き着けば、とにかく人がいるだろうと思い、男はケーブルを持ち上げようと手を伸ばした。
「!!」
 そのとき、男の背後からケーブルが迫り逆に男は持ち上げられてしまった。
 そして、そんな風に不審なケーブルが人を襲っていたのは、一箇所だけではなかった。

 にょろにょろと動きまわる触手の一本が、響香の足を捕らえそのまま巻き上げられていた。
 触手は持ち上げた人々を順番に、根本まで運んでいった。その後どうなっているのかここからでは確認できないが、悲鳴が聞こえなくなる事から、最悪の事態も想定しなければならないだろう。
 そこに待ち受けていたのは、
「タコ?」
 全身真っ黒のタコのような化け物だった。
「ぃ、イヤァ、ぬるぬるしますぅ」
 響香を持ち上げた触手は、まだその場にとどまっている。
「響香君、どうして戦わないんだ?」
「ダメなんです。このコス、既製品なんです!」
 自作のコスチュームでないと、キャラクターの能力が再現できないというのは、響香の能力における基本である。
「それでも魂源力《アツィルト》を体から出せば抜け出せるんじゃ?」
 敷島は先日モニタールームで見た光景を思い出した。
「あれは勝手に出ちゃうんで、自分じゃどうしようもないんですよ」
(どうするんだ?)
 会場に人々はパニックになっているし、唯一の戦力である響香がこれでは打つ手が無い。
「ちょ、ちょっと、どこ触ってるんですか!?」
 響香を持ち上げた触手は、もぞもぞと彼女の体を這い回る。
「だ、だめ、へんな所……触らないで」
 高く持ち上げられた響香の姿は、ここからではよく見えないが、途切れ途切れに声が聞こえてくる。
「ぃ、いやぁ、……んぅ……そ、そこは、自分でも……触った、こと、な……はぁ、無いのに……」
「響香」
 神楽坂は素早くスカートを翻し、ガーターベルトから拳銃を引き抜き、触手目掛けて発砲した。
 しかし、ぬるぬるとした体に衝撃を殺され、ただ虚しく弾がパラパラと落ちていく。
「クソ。九ミリパラじゃ話にならない」
 神楽坂は自分に襲い掛かる触手を牽制しつつ、後退していく。
「ちょっと、大丈夫なんですか。拳銃なんか撃ったりして」
「平気よ。私は自衛隊からの出向扱いだから」
 神楽坂のそういう立場の話しを初めて聞かされた。しかし、自衛隊員だからと言って銃の携帯が許されているとも思えないが。
「それより敷島、あなたここにいてもしょうがないから、ベースカー持って来て」
「は、はい」
 とにかく今は事態を収集するためには、神楽坂の指示に従うのが一番だろう。
 敷島はそう判断して走り出した。

 けたたましいクラクションの音を立て、逃げ惑う人の流れに逆ってベースカーが神楽坂の元にやってきた、駆け足程度のスピードで。
「ちょっと、遅いわよ何考えてんの!」
「仕方ないでしょう? 人を轢くわけにはいかないんですから」
「まあいいわ」
 神楽坂はベースカーからタンク付きの筒を取り出した。
「これなら……どうだ!」
 筒からは勢い良く炎が吐き出される。
「火炎放射器!?」
 タコの触手は炎に焼かれ、すぐに炭化して崩れていった。どうやら効いているようだ。
 という事はヤツはラルヴァとしては下級もしくは中級という事か。
「うぅ、ベトベトで気持ち悪いですぅ」
 助け出された響香は、触手の粘液でぐしょぐしょになっていた。
「響香、さっさと着替えてきて、私が抑えてるから」
「ハ、ハイ」
「敷島、アンタは助手席の横のモニタの電源入れなさい。ラルヴァの専門家に繋がるから」
 神楽坂はテキパキと指示を出しながら、火炎放射器で迫り来る触手を押し戻しながら、つかまった人を助けていった。
「本物の恍惚の煉獄(エクスタシィ・インフェルノ)だ」
 その姿を見て逃げていた参加者の誰かが呟いた。

 敷島は言われた通りにモニタをつける。
 画面に現れたのは、たまにモニタールームで神楽坂とスーファミで遊んでいる語来という男だった。
「ええっと……」
「わかってますよ。ラルヴァと遭遇したんでしょう。どんな感じのヤツですか?」
 何から話していいかわからない敷島に、語来は落ち着いた様子で話しかける。
 敷島は多少落ち着きを取り戻して、途中しどろもどろになりながらも何とか説明した。
「ふむ、どうやら人命に危険は無さそうだ。それは、間違いなく忘却の彼方だよ」
「また随分な名前ですね」
 世間話のような語来様子につられ、ポロリと敷島が本音をもらす。
「洋名の直訳だからね。日本人じゃあこの名前は付けられないよ。それで大きさは?」
 それかけた話を語来が引き戻す。その顔は表面上は穏やかでいるが、目は真剣なものだった。
「ああ、はい。本体は……五から六メートルくらい、触手の長さは一〇メートル前後だと思います」
 敷島は語来の表面の雰囲気に安易に乗ってしまったことを反省した。
「大きいなあ。観測された中でも最大級じゃないか。厄介な種類じゃなければ、私が直接見に行きたいくらいだ」
 しかし当の語来は、ラルヴァの大きさを聞いて興奮した声を上げた。
 結局真剣になっていたのは、自分の研究分野の事にだけか。その辺りが何とも神楽坂の知り合いらしい。
「今神楽坂さんが火炎放射器で応戦しています」
「末端の魂源力《アツィルト》障壁が薄い部分ならそれでいけるだろが、中央部はそれじゃ無理だ」
「倒せるんですか?」
「そこには魂源力《アツィルト》を放射できる能力者がいるんだろ? 末端がただの炎で焼ききれるくらいだから、それで倒せるはずだよ」
 やはり、大した事ではないという様子で語来が答える。
 だが今回はそれが心強かった。

「慈愛と奉仕の魔砲少女(まじかる)★ナースメイド★てぃんくる♪アスカ推参! 悪いビョーマは駆逐します」
 いつものてぃんくる♪アスに着替えた響香がベースカーから飛び出す。
「さっきはよくもやってくれましたね!」
 キュインと背中のスピーカーから音が聞こえる。
「必殺・献身の心(ハート・オブ・デボーション)」
 構えたステッキからタコに向かって強い光が放たれる。
「!!」
 光を浴びたタコの表面が破れ、中から黒い霧のようなものが溢れ出し会場全体を飲み込んだ。
「な……大丈夫か?」
「平気だよ。忘却の彼方の本質は、エレメント系のラルヴァなんだ。外膜から溢れたのはただの残りカスさ。多少の記憶の混乱は起こすかも知れないけどね」
 幸い霧は一瞬で消え去り、飲み込まれた人々も無事に出てきたようだ。
「あ、あれ? どうしたんだ?」
「何してんだっけ?」
「何か、凄いことがあったと思ったんだけど……」
 どうやら語来の言った通り霧に包まれた人たちは、ここ数分の事を忘れてしまったようだ。
 しかしその日会場にいた人々は口を揃えて言ったという、「本物の業火の魔女ウルスラがいた」と。


 そして、その様子を遠くの街灯の上から眺めている人影が一つ。
「あれが、矛と盾の闘衣か。面白い」
 呟いて影が消えた。


                        つづく



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