【戦士の覚醒】


それは授業中の事だった。
ヤツが目覚めると同時にオレは戦士として覚醒した。
暴れまわるヤツ対し、俺はただ必死に耐えて押さえ込むしかない。
結果が知れている虚しい戦いだ。
だからといって今ここでヤツを開放する訳にはいかない。
額の上を嫌な汗が伝い、教科書を読むクラスメイトの声が遠のいていく。
時計の針はもうあと少しというところを指しているのに、その歩みはじらすように遅い。
リタイヤという言葉が脳裏をよぎる。
しかしそれはこの苦しみからの解放と引き換えに負け犬の名乗る事と同義だ。
こうして悩んでいる間にも、オレの中でヤツの存在が刻一刻と大きくなり続けていく。
もうだめだ。
状況はもう、こちらから動けば一気に最後まで行くしかないと思うほど緊迫している。
オレは最後の手段としてヤツの一部を開放する事を決断した。
それ自体決してリスクの低い賭けではない。
オレの技術と精神力、ヤツの状態、いろいろな要素が絡んだいっそ奇跡と呼んでいいくらいの代物だ。
だったとしてもそれを起こしてやるまでだ。
オレは慎重に、全てを解き放つ魅力に抗いながらヤツの一部を開放した。
奇跡は起こった。
いや、オレが起こした。
分断されたヤツはもう先程までの脅威ではない。
呼吸を整え勝ちの見えたこの戦いを取り零さないに精神を集中する。
いつの間にか黒板には、写した覚えが無い文字で埋まっており、それも消されるところだった。
そしてチャイムが鳴る。
それは勝利を祝う福音の鐘であり、最後の戦いのゴングでもあった。
この瞬間をずっと待ち構えていたオレは、チャイムが鳴り止むよりも早くトイレに駆け込むのだった。



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最終更新:2009年09月19日 23:35
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