【怪物記第七話後編1】


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怪物記 第七話


 ・・・・・・

 別れ谷――女王蜘蛛の居室
 私が扉の前に立つと自然にその扉は開いた。
 無論自動ドアではないが、この扉も壁や通路と同じで糸で出来ているので操作する仕掛けがあり、恐らくは設置された罠と同じ技術で作られているのだろう。人に人の技術があるように、ラルヴァにもラルヴァの技術がある。この城の仕掛けもその一つだ。
「待っておったよ、学者」
 私が入室すると、部屋の奥に敷かれた座敷の方から声をかけられた。
 そこに座っていたのは一人の童女。
 一筋だけが白くなった長く美しい黒髪。
 鮮やかだが名称不明な色彩の糸で織られた着物。
 着物に包まれているが、胎内に宿した命によって膨らんだ腹部。
 魅せられるような美貌。
 そして、人間とは異なる空気を纏っている。
 そう、彼女は正しく人外だった。
 彼女の名は女王蜘蛛。
 蜘蛛型ラルヴァの王であり
 この別れ谷の城の所有者であり
 齢千年を数える怪物であり

 もうすぐ死ぬ運命にある女性だった。

 ・・・・・・

 ・OTHER SIDE

 別れ谷――突入部隊。
 東西南北の戦いが終結した頃、突入部隊は別れ谷の城の中枢近くを進んでいた。
 これまでに幾度となく襲ってきた蜘蛛型ラルヴァの姿も見えなくなって久しい。
 どうやら城内のラルヴァのほとんどは駆逐し終えたようだ。
「順調なのはいいんだがちょいと聞きたいことがあるぜ」
 入り口から中枢への道程も半ばを過ぎたころ、龍河が春奈に質問する。
「女王蜘蛛ってのはどんなラルヴァなんだ? モバイルに入ってる情報だけじゃよくわからねえんだが」
 龍河の問いに他の学生のメンバーも「俺もそれは聞きたかった」「そういえば知らなかったなぁ」「ボンテージファッションの悪の女幹部みたいなの? 燃えるわね。ていうか萌えるわね」「流石にそれはないんじゃ……」と反応する。
「もう襲ってくる敵もないみたいだし、今のうちに少し説明しておこうかな」
 春奈はメンバーの視覚情報に一体のラルヴァの姿を映し出す、といってもそれはシルエットだった。シルエットの隣にはデミヒューマン中級Sノ1とカテゴリー及び等級が書かれている。そのシルエットに那美が補足説明を加える。
「今回の事件で危険度は改正されるだろうけど概要はこのとおり。女王蜘蛛が最初に確認されたのは今からざっと千年前、平安時代ね。その頃は女王蜘蛛とは呼ばれていなかったけど、美女の姿をした蜘蛛に化ける妖怪と言われてたみたいね」
「蜘蛛に化けるってことは人間の姿がメインってことですか?」
「そう。だからカテゴリーデミヒューマン。まぁ、それだけならただのどこにでもいるラルヴァだけど女王蜘蛛には一つの特徴があった。他のラルヴァを食べることで力を増す、って特徴がね」
「血や魂源力を吸って強くなるラルヴァかー。でもそれって珍しい能力じゃないですね。半ばあって当然みたいな能力じゃないですか?」
「女王蜘蛛は即物的なパワーアップを選ばなかったのよ」
「……どういうことだ?」
「捕食して魂源力を集めてもそれをすぐ強くなるためには使わず、自分の心臓の中に二百年間溜め込み続け、凝縮させて魂源力の核にする。その心臓を子供に食べさせるのよ。自分の知識と意思が詰まった脳髄も一緒にね」
「…………」
 その光景を想像し、何人かが胸に吐き気を覚えた。
「二百年かけて凝縮された魂源力の核は通常のパワーアップとは桁違いのパワーアップを女王蜘蛛に齎した。そうして生まれた子供はまた二百年かけて核を造り、自らの子供に知識と共に食べさせる。こうして段々と、爆発的に強くなる。
 三度目の儀式を終えた頃、その子供は溜め込んだ力と知識でこの国の蜘蛛型ラルヴァの頂点に立って女王蜘蛛と呼ばれるようになった。この先にいるのはそこから更に一段階パワーアップした女王蜘蛛。儀式を終えていたら二段階ね」
 千年の力。千年の知識。はたしてどれ程のものか。
 メンバーは戦慄や緊張、そして疑問を覚えた。
「よくそんなに詳しいデータがありましたね。どこかの異能力者組織の文献か何かですか?」
「それもあるけれど、何十年か前に女王蜘蛛がここにやって来た異能力者に語って聞かせたらしいわ。その異能力者は無事に帰されたそうよ。そんなこともあって女王蜘蛛は人間に友好的って話だったんだけど」
「友好的な姿勢は今回の儀式のためのカモフラージュだったんですか?」
「さぁ? 初めからそのつもりだったのか、心変わりでもしたのか。知る由もないわね。ただカモフラージュだった場合は……」
 それもまた千年の内の研鑽した知謀によるもの。時を重ねた蜘蛛の女王の恐ろしさの一つだ、と那美は考えた。
「女王蜘蛛は子供を産み、継承するその生態から選外になっているけど支配力、戦闘力共にワンオフ級のラルヴァです。戦えばこのメンバーでも勝率は五割を切ります。ましてやここは相手の城、奇襲や罠を無力化できていても何が起きるかわかりません」
「でも勝つ手段はあるんだろ、せんせーさん」
「内緒です♪」
『いくつか手は考えてあるので説明しますね』
 口と仕草ではとぼけつつ、春奈は作戦内容が女王蜘蛛に伝わらぬようテレパシーで伝える。
 相手はワンオフ級、グルジオラスやギガントマキアと同等の怪物。用心するに越したことはない。
『……っと、以上が女王蜘蛛対策の概要です。何か質問は?』
 質問はない。これで後は女王蜘蛛との戦いを残すのみ。
しかし、春奈には生徒達に伝えていないある疑問があった。
『春奈先生、少しいい?』
『何ですか那美さん?』
『ちょっと相談。私とあなたの間だけでホットライン繋いでくれない?』
『あ、はい。……テレパシー限定しました。それで相談ってなんですか?』
『ちょっと気になることがあるんだけど、生徒には言いづらいことだから私達だけで話そうと思って』
『あたしもです。ずっと考えてたことがあって、それは……』

『『女王蜘蛛はどうして人間をさらったのか』』

 答えが火を見るより明らかでありすぎたがために、多くにとっては疑問にすら浮かばなかったこと。蜘蛛型の大半は人を食らう。人類にとってわかりやすい外敵の一つであり、これまで友好的であっても女王蜘蛛は蜘蛛の王であった。
 折しも事件の発生した時期は二百年に一度の産卵の儀式に重なっていたゆえに、儀式のために人間を大量に攫ったと考えるのが最も自然な考えだった。自然すぎてそれ以外の可能性が皆無となるほどに。
 しかし、女王蜘蛛の食糧は人間ではなく他のラルヴァであり、人を食ったことはない。
 それが一度疑問として湧き出れば、他の可能性も自然と浮かんでくる。彼女はそのことも考えながら戦いの指揮をしていた。
『これまでに女王蜘蛛がこんなに大勢の人間を誘拐したなんて前例は文献のどこにも書かれていない……』
『書かれていたら危険度の等級は最初から4だったろうしね』
『ひょっとしてこの事件の犯人は女王蜘蛛じゃないんじゃないか……とすら考えました』
『それはないわよ。誘拐の際に多数の蜘蛛型ラルヴァが確認されているし、東西南北、それに上空までも完全な防衛態勢で待ち構えていたんだからこの別れ谷に棲む女王蜘蛛が事件を起こしたのは疑いようがないわね。他にこの国で蜘蛛型ラルヴァにあれだけのことを命令できるのはラルヴァにも人間にもいないのだから女王蜘蛛が犯人であることは間違いないけど、目的には別の可能性がありそうね」
『目的?』
『今のところ誘拐事件の目的には四つの可能性があるわ。
 一つ目。今までも儀式に人間は必要だったけど人間側が気づいてなかった。
 二つ目。今回の儀式から急遽必要になった。
 三つ目。儀式とは別の理由で必要になった。
 四つ目。……第三者の介入』
『なんだかきな臭くなってきましたね。……あたし達はこのまま進んでいいんでしょうか?』
『指揮官がうろたえちゃいけないってのは私よりあなたの方が知ってるでしょ。兎にも角にも今は万全を期して女王蜘蛛のところに辿りつく。何にしても町の住民は取り戻さなきゃならないし、住民が死んでいたら女王蜘蛛は倒さなきゃならないしね。
 それにしても、こういうラルヴァ絡みで面倒なことになったときはあいつ任せだっていうのに肝心なときにいないってどういう了見なのかしらね、あの無職』
『神出鬼没な人ですから。もしかしたら単身この城の中に入り込んでいるかもしれませんよ』
『……もしもそうで産卵の儀式が見たいからなんて理由だったらあとでぶん殴るわ』
 彼女らの予想は半分ほど当たっていた。
『まぁ、この場にいない奴のことを話しても仕方ないわね』
『……いないと言えばフリーランサーの方はどこに? いつの間にか姿が見えなくてあたしの能力にも応答がないんです。この城にはいるみたいですけど不通で……。そもそもあの人は誰なんですか?』
 突入部隊最後の一人、フリーランサー。彼女だけは双葉学園の人間ではなかったし、春奈と面識がある人物でもなかった。そもそも突入部隊の選考の半分は那美によるもので、フリーランサーは彼女の選んだ面子だ。しかし。
『彼女を連れてきたのはミナだからよくわからないのよね、ミナにも繋いでもらえる?』
『はい』
 殆どラグもなくテレパシー会話のネットワークにミナが加わる。
『なんですか那美?』
『あのフードとマスクであからさまに顔隠した怪しい女は何者だったの?』
『……古い知人ですね。突入部隊のメンバーに加えて欲しいと言われまして、理由も正当なものでしたし実力も申し分ないので了承しました。』
『ふぅん。それで、姿が見あたらないのはその理由に関係してる?』
『それもあるでしょうけど、私がつけた条件を何とかしているのかもしれませんね』
『条件?』
『私達は女王蜘蛛との戦いにかかりきりになるので、住民の方々を助ける手伝いをしてほしいと言ったんです』


 別れ谷――入り口
「……どういうことだ? これも突入部隊の仕業か?」
 別れ谷突入部隊の増援として駆けつけた西と南方面部隊の残存戦力は、別れ谷の入り口に近づいたところで奇妙な光景を目にした。
 別れ谷の城の一部に大穴が開いているのである。
 壁や通路、天井を巻き込み、「さあ邪魔な部分はどかしましたよ、これでいいですね、仕事は終わりましたよ」と言わんばかりの大雑把さで開けられ、それでいて穴の縁は以上に滑らかだった。
 穴は道になるように続けて開けられていて、穴の奥には無数の白い塊が見える。それは蜘蛛の糸で作られた繭に閉じ込められ、蜘蛛の眠り毒で深い眠りについている町の住民達だった。
「撫子先輩、どうしましょう……」
「どうしたもこうしたも……。ああ、大の名前のことじゃないぞ?」
「わかってます」
「……コホン、何はともあれこうして目に見えるところに助けるべき住民達がいるならやることは一つだ。突入部隊の助勢が出来ないのは心苦しいが、彼らもこちらを優先して欲しいと思っているだろう」
「坂上さんの言うとおりですわね」
 撫子の意見に甘利も賛同する。
「上空もじきに決着がつきそうですし、我々は住民の移送を最優先にしましょう。首魁を倒したら崩れる城など物語にも史実にもいくらでもありますし、そうなったら目も当てられませんわ」
「そういうことだ。それじゃあ崩れる前に運び出そう。特に肉体派の男衆は人の十倍は運べよ」
「はっはっは! 十倍どころか百倍だって軽いぜ!」
「さっきの戦闘で大分魂源力を消費したばかりだろう。調子に乗っていると変身が解けて崖から落ちるぞ」
「崖落ちは基本だ!」
「何の基本だ」
 こうして、別れ谷に捕らわれた網里町の住民達は無事に救出された。


 別れ谷――突入部隊
『よくわからないけど、とりあえずは大丈夫そうね』
『はい。ところで先ほどからお二人で何の話をなさっていたんですか?』
『ああ、ミナにも話しておいた方がいいかな?』
『はい。話しておきましょう』
 春奈と那美はミナに自分達がこの事件について抱いた疑問のあらましを伝えた。それを聞いたミナは何事かを思い出し、自分の意見を述べる。
『もしも第三者が介入していたのだとしたら、その人物はラルヴァを操って人間と争わせたことになりますね。……そういうことをしそうな輩には覚えがあります』
「えっと、ミナ、さん? どうしたんですか、何か苦虫でも噛み潰したような顔してますけど」 
 ミナの傍を歩いていた伊万里が心配そうにミナを見る。
「顔に出ていましたか。申し訳ありません。少々……不快な生物の顔を思い出したもので」
 そういう彼女の顔は表情こそ元に戻っていたが、目は笑っていなかった。
『ミナがそこまで嫌うなんて相当な奴みたいね、そいつ』
『那美も嫌いなタイプだと思いますよ。常に上から目線で人やラルヴァを掌の上で弄び、自分だけが利益を得るのが大好きな輩です』
『とりあえず殴りたいわ』
『同感です』
 那美と春奈は、いまだ見ないその人物に対して強い憤慨を覚えた。どう考えても彼女らの最も嫌いなタイプの人格の持ち主だったからだ。
『あれが関与している可能性がある以上、このことは生徒達にも話すべきでは? 考えているとおりなら共倒れになりかねませんよ』
『……いえ、それはやめておきましょう』
 疑問点について生徒と話せば、それは戦いを解決させる糸口になるかもしれない。だが同時に戦いの中での迷いに繋がるかもしれない。そして何かがあれば、例えば女王蜘蛛が最初に考えられていた通りの好戦的で残虐なラルヴァならその迷いは即座に生徒の死に繋がる。だから彼女は疑問について那美やミナとだけ話していた。少なくとも……生徒達が死ぬ可能性を増やすことにはならないからだ。
『それにまだどっちか確定ってわけでもないでしょ、ミナ。なにか話し合いの余地があるならそのとき考えればいいことよ』
『確かにそうですね。それでは那美、クラウディウス先生、私に一つ考えがあります。……私だけ単独で動くのはどうでしょうか?』
『でもそれは……』
『いいじゃない、私は賛成するわ。さっきも言ったけどもしも裏で笑ってる奴がいるならぶっ飛ばしてやりたいしね。それにミナなら不覚をとることもない』

 ミナ。またの名を【ランページビーナス】
 カテゴリーデミヒューマン、中級Aノ1
 ワンオフ登録番号ⅩⅩⅩⅦ――【白い荒神】
 人と共生して力の上限が落ちてはいても、彼女もまた超常の力を操る内の一体である。

『ええ、私なら大丈夫です。けれど那美、私がいなくてあなたは大丈夫ですか?』
『あはは、答えわかって聞いてるでしょ?』
『ええ』
『離れていたって私達は一緒よ、二人が死ぬまではね』
 那美の言葉を聞いてミナは満足したように微笑み、突入部隊から離れて駆け出した。
「あ! ミナさん! ……あの、いいんですか?」
「はい。あたし達は先を急ぎましょう……もうすぐ女王蜘蛛の間のはずです」
 突入部隊はこの作戦の終着点へと向かっていた。


 別れ谷――???
「荒神は別行動か……。やれやれ、もしかすると荒神に僕の関与がばれたかな。まずいね、僕と荒神は相性が悪い。昼ならなおさらだ」
 その人物は、別れ谷の城中のどこかから突入部隊の姿を見ていた。彼の分身である『目』と『耳』が一つずつ、迷彩擬態を施されて彼女らを尾行しているからだ。
 『目』と『耳』は彼女らに気づかれない。
 殺意がないため『アウト・フラッグス』には感知されず、対ラルヴァのイージスシステムである『ザ・ダイアモンド』も高等なラルヴァが隠そうとしたものを見破りきることはできないからだ。
 それは彼が非常に高等なラルヴァであるという証左に他ならない。
「さてさて、彼らはじきに女王蜘蛛のところへと辿りつく。この分だと丁度六代目が生まれた頃合での遭遇になるのかな。女王蜘蛛はどう出るか? 事情を説明するか? 子の延命を願うか? それとも……」
 彼が言葉を区切ると、掌中に銀色に輝く物体が握られていた。
 それはチェスの駒の一つ。
 チェスで最強を誇る女王《クイーン》である。
「女王蜘蛛が誇り高く強いラルヴァなら、僕の考えている通りの行動をとるだろうね」
 彼はチェスの駒を放り投げ、被っていたシルクハットをクルクルと指で回す。
「たしか人間側の指揮官は|金剛の皇女様《ダイアモンドプリンセス》と呼ばれているんだっけ? 女王と皇女。配下の戦いでは皇女の圧勝。けれど……女王が自ら戦場に出てきたらどうなるかな? 勝敗が一気に逆になることだって考えられるね。女王が盤上の駒を全て討つか、最後の一つが倒れる前に女王を討ち取るか。ああ、見ものだ、実に見ものだよ」
 けれど、と彼は弄っていたシルクハットを被りなおす。
「僕には僕でしないといけないことがある。ギガントマキアはいなくなったし、この城の蜘蛛ももうあまり残ってないから目くらましが足りない。木を隠す森が無くなってしまった。おまけに荒神が僕を探しているとなると見つかってしまうかもしれないからね。そろそろ用件を片付けて帰るとしようか」
 彼――シルクハットと燕尾服を着た少年は呟いて……城中の闇に溶けるように姿を消した。


 ・・・・・・

 先刻まで続いていた爆発の音が上空を除いて聞こえなくなった。
「……どうやらこの城が落ちるようだな」
 城内を防衛していたラルヴァもどうやら大半が倒されたようだ。しかし、これは仕方のないことだろう。蜘蛛型ラルヴァの殆どは単体、もしくは個々の種族ごとの狩猟に特化した種族。軍団戦闘など門外漢にも程がある。
 何より、彼らのブレインである女王蜘蛛が指揮していない。
 これでは統制の取れた人間との戦いに勝てるわけがない。
「そうじゃのう。百年近く過ごした城だが仕方あるまいな」
「恨み言は無いのか?」
「恨み言とは異なことを。妾が恨む筋合いなどない。むしろ妾が人に恨まれるべきであろうよ」
 人によっては人間を虚仮にしていると取られるかもしれない発言だが、彼女は本心からそう言っている。微塵も自分の城を落とした人間を恨んではいないし、自らが恨まれるのも仕方のないことだと理解している。
「しかしそれは……」
「妾の病気を治すために配下の蜘蛛達が先走ったから、などというのは理由にならんよ」

 この事件の真相を語ろう。
 今代の女王蜘蛛は重い病に罹患していた。
 このままでは次代の女王蜘蛛を生み、儀式を執り行えるかも怪しいほどの病。
 部下の蜘蛛達はうろたえた。何か、自分達の主を助けるすべはないものか、と。
 そこにあるラルヴァが現れてこう言った。
「人間を集め、その生き血を女王に飲ませればいい。そうすればきっと治るよ」
 蜘蛛に対して高すぎた女王蜘蛛の人望と女王蜘蛛に心酔していた蜘蛛達。
 ゆえに蜘蛛達は女王蜘蛛のために甘言を信じて独自に動き、麓の街の住民達を攫って女王蜘蛛に差し出した。
 彼女は部下の蜘蛛達のしたことに嘆き悲しんだ。そしてそれが自分のためであるということも彼女を悲しませた。
 彼女はすぐに住民達を返すつもりだったが時既に遅く、人間と蜘蛛達の間で戦端が開いてしまった。女王蜘蛛を護るために女王蜘蛛の制止を聞かず自らの意思で人間と戦う蜘蛛達と、攫われた人々を救うために蜘蛛と戦う人間達。
 この事件は両者にとって不幸なことだ。笑っているのは……仕組んだ誰かくらいだろう。
 何より、この事件が起きたのは彼女のせいではない。それでも彼女は「妾には責任がある。それは王の責任というものじゃ」と言った。

「そんなことより学者よ、妾の病の原因はわかったのか」
「……ああ」
 私が蜘蛛に捕まりこの城に連れてこられた際に、女王蜘蛛は一目で私が一般人ではなく異能力者、そしてラルヴァの関係者であることに気づいた。それゆえに私は彼女にあることを頼まれた。それは彼女の身を蝕む病の正体を探ることだ。(余談だが、女王蜘蛛に私が関係者であると気づいた理由を尋ねると「強い怪物の匂いがしたので気になった」との答えが返ってきた。要は自宅に住み着いている助手の匂いが移ったせいである。いや、お陰と言うべきなのかもしれないが……)
 私は学者だが、昔取った杵柄で多少は医者の真似事も出来る。女王蜘蛛ほど概形が人に近ければ病について調べることも不可能ではなかった。かくして私は彼女の病について調べ、その正体を割り出した。だが……。
「その身体を蝕んでいるのは……脳の病だ」
 それは、彼女にとっては死刑宣告に近いものだった。
「思考や記憶に変調・欠陥が起きる種類ではないが、内臓の制御機能が死んでゆく病だ。はっきり言って、今もって意識があるのも、胎内の子が流産していないのも奇跡だ」
「奇跡は……胎の子が生まれるまで続くかのう?」
「出産までは保障しよう。しかし、儀式はやめておくべきだ。儀式で摂取した脳から子に感染する公算が高い」
 だから、彼女はもう死ぬしかない。
 女王蜘蛛は心臓を子に渡すことで力を、脳を子に渡すことで知識、そして意思を移す。つまり歴代の女王蜘蛛は身体こそは代わってきたが、千年前からずっと同じ意思で生きてきた。
 しかし、それはもうできない。知識と意識の在り処である脳が助からないのだから。
「……仕方が、ないのう」
 私が告げてしまった死の宣告に、彼女はふぅと溜息をつき……優しげな顔になる。
「ふふ……これまで身体を乗り換え、知識を蓄えながら千年生きてきたが……頃合じゃ」
 膨らんだ腹を撫でるその仕草、その表情は……、

「妾ではなく娘に生命を譲ろう」
 母親そのものだった。

「すまぬの学者。御主にとっては面倒なことに付き合わせてしまったのう。けれど妾には僥倖であったよ。部下達が捕らえてしまった人間の中に、我ら怪物について知る御主がいたお陰で、妾は自分の病について知ることができた。お陰で胎の子に爛れた脳をやらずに済んだ」
「礼を言われることじゃない」
「ふふ、それでも礼くらいはさせておくれ。御主は元々儀式を見に来たのであろう? 本来ならば、外部の者は決して立ち入らせぬが御主は特別じゃ。見てゆくがよい」
 そう言って彼女は身重の体で立ち上がり、居室の奥にある扉と歩き出す。
「さぁ、儀式を始めるぞ」


「ク、ゥ……ハ、ァ……!」
 薄暗い室内に少女――女王蜘蛛の苦悶の声が響く。
 暗室の中央に置かれた寝台の上では女王蜘蛛が儀式を行っていた。
 壁際には隙間無く並んだ蜘蛛型ラルヴァと、この場にいるただ一人の人間である私がいた。希望したのは私自身だが、場違いだったのではないかという気と緊張を覚える。これがラルヴァでなく人であったとしても、出産に立ち会うという行為はそういった感覚を男性に与えるものだ。
 それにしても、資料では女王蜘蛛の儀式は産卵の儀式と書かれていた。しかしそれは大きな間違いだろう。彼女が産んでいるのは卵ではなかった。既に命を持って生まれてくる一個の生命だ。
 やはり彼女は人に近い生き物だ。
 それも多くの人よりも……誇りある生き物なのだろう。
「ア、ァ嗚呼ァ……!!」
 彼女が一際大きな苦鳴をあげると、彼女の腹部の膨らみが減じる。間もなく、彼女の着物の裾の中から白い手、少女の手が現れた。
 母の体液に塗れたその手は震えながら何かを探すように伸ばされ、やがて暗室の床を掴む。生まれようとする少女は震える手に力を込め、這いずる。
 少しずつ、少しずつ少女の身体は母の胎内から外界へと出で、やがて全身が外界の大気にさらされた。体液に塗れたその身体はもう母とは繋がっていない。胎生であっても人とは違うのか臍の緒もない。
 生まれ、既に確固たる一個の生命として存在する少女。少女は生まれたばかりだというのに、両手と両足をつき、立ち上がろうとする。少女は慣れない外界に全身で適応しようと苦闘しながら、何度もよろめきながら……立ちあがった。
 少女が生まれたことを祝して周囲を囲んでいた蜘蛛が糸を吐く。最初に白い糸が吐かれ、少女の身体に付着した体液を拭う。次いで虹の七色よりも多い様々な色の糸が彼女に向けて放たれる。糸は空中で機織られ、繕われて極彩色の衣装を織り成す。彼女は世にも美しい着物を羽織っていた。
 次代の女王蜘蛛がこの世界に生まれたのだ。
 長い黒髪を揺らし、豪奢な着物を身につけた少女の姿は正に姫……いや、女王と言うべきか。
「…………」
 生まれて初めて立ち、衣服を纏った彼女は重力の感覚にふらつきながら立ち上がったことで目線があった私の顔を見ている。私もまた彼女を見返す。立ち上がった彼女の背格好は十になるかならないかの子供のそれだった。
 童女の姿であった親の女王蜘蛛から生まれるには大きいように思えるが、それは女王蜘蛛もラルヴァなのだから然るべき人との相違点と言えるだろう。というよりも、生まれてすぐに代替わりする女王蜘蛛の生態からいってある程度は成長して生まれるのは当然なのだとも言えた。
「間に合った……かのう」
 子を産んだばかりの女王蜘蛛が荒く息を吐きながら、我が子を見る。
「ああ」
「ふふふ、御主の云うたとおりであったな。この身の奇跡は子が生まれるまで続いてくれた」
 女王蜘蛛は全身に汗を浮かべ、憔悴している。病のこともある、彼女の寿命はもう尽きる間際なのだろう。あと一日もつかどうかだ。
「のう、心臓は……子に渡しても大丈夫かの?」
 心臓――女王蜘蛛が二百年かけて生成した魂源力核の在り処。脳と違い、そちらは何の病にも感染していない。
「問題ない」
「そうか、ならばこれも子に譲ろう」
「しかし……」
 心臓を渡せば、ただでさえあまりにも短い彼女の寿命はもう欠片ほども残らない。
 それに核は女王蜘蛛が生態として生来持っていた力ではなく彼女がある意味では儀式的に造ったもの。ゆえに子に与えても脳髄の知識がなければ使えない。暗証番号を紛失した金庫のようなものだ。
 そのために寿命を縮めるくらいならば、せめて今日だけは子と共に生きてもいいのではないだろうか?
「人の親は、子に何を遺す?」
 私の心中を察したのか、女王蜘蛛は私に問いかける。
「妾はこれまで何度か子を産んできたが、それは全て妾であった。されど、今度の子は妾ではない。この子自身じゃ。子には一つでも多く遺してやりたい……ああ」
 彼女は何かを思い出し、残念そうに俯く。
「この子の名を考える時間がないのう」
「ならせめてそれまでは……」
「ふふふ、どちらにしろ考える時間はない。……おいで、娘よ」
 手招きされて少女が女王蜘蛛に慣れない足取りでゆっくりと歩み寄る。
 少女が手に届くところまで近づくと、女王蜘蛛は自身の薄い胸にそっと指を伸ばし……胸の内へと刺し込んだ。
 口の端から血を流しながら女王蜘蛛は静かに指を引き出す。
 彼女の手の中に在ったのは心臓ではなかった。
 それは一個の宝石。血のように紅く、沈む夕日のように美しい結晶だった。
 彼女は自分の血に濡れた結晶を少女の口元へと運び、少女はそれを飲み込む。
 その光景に私は昔読んだ図鑑の一節を思い出した。
 蜘蛛という生き物は子が生まれたときに自らを餌として子に与える。
 その行為は自らの血肉を与え……、子に外界で暮らす力を与えるための儀式なのだ。

 それだけが、蜘蛛が子にしてやれる唯一のことだから。

「…………」
 少女は結晶を飲み込むと眠りに落ちるように瞼を閉じて、母の胸へと倒れ込んだ。
「その子は?」
「心配は要らぬよ。核を身体に取り込むには少々眠りにつかねばならん。ふふふ、本来ならば脳髄が先であるゆえ妾は子の寝顔を見ることが出来なんだが……なんとも愛らしく、可愛らしいものよ」
 彼女は腕の中で眠る娘の髪を手櫛で梳く。
 名残を惜しむように、ゆっくりと娘の髪を梳く。
 何度か梳いたあと、彼女は娘の髪から手を離し、娘を寝台の上に寝かせる。
「さて、妾はそろそろ逝くかの」
 彼女は寝台からおり、娘がそうであったようにふらつきながら歩く。
 脳の病、出産、心臓の摘出。どれ一つとってもまともに動けるはずがない体で。
「……その体でどこへ?」
「この城に来ておる人の兵《つわもの》らのところへ」
 それは即ち、双葉学園の突入部隊のことだが、なぜ彼女らのもとへ?
「この戦もじきに終わる。妾は役目を果たさねばならん」
「役目? しかしそれは……」
「妾の母としての役目、生命としての役目は果たした。しかしの、まだ王としての役目が残っておる。この戦を終わらせるには王である妾が討ち取られねばなるまい」
「……話し合いでは終わらないのか?」
「ふふ、尋ねる御主もそれは無理だと理解しておろう?」
「…………」
 彼女の言うとおり、もう話し合いでは終わるとは私自身でさえ殆ど信じていない。
 先の町への襲撃や今回の戦闘で人間側に死傷者が出た。それに蜘蛛達もほぼ全滅した。もう事態は彼女の死なくしては収まらない。何より……。
 私と彼女は寝台に眠る娘を見やる。
「首魁である妾が討ち取られねば、責を負うのは次代であるこの子になる。それだけは避けたい。……えご、と言うのだったか」
 王としての役目、そして娘のために余命いくばくもない彼女は娘を残して死地に赴く、そう言っている。
「それに……ふふ、怪物としての願望じゃな。妾も千年生き、戦ってきた怪物の一柱。最後に人の強き子と死力を尽くして戦いたいと思うのよ。妾もまた、他者と争う宿命にある生命――蜘蛛であるからな」
 そう言って彼女は不敵な笑みを浮かべた。
 しかしそれは嘘だろう。今の言葉は真実を知る私が背負うことになる後ろめたさを減じるために彼女が言ってくれた嘘に過ぎない。そういう人物であることは、この三日間で話してよくわかっている。
「貴女が生きる道はないのか? せめて、この子が目を覚ますまでは……」
「ふふふ、学者よ。生きる道と言うが、妾はもう死んでおるよ。女王蜘蛛の生の終わりは子を産んだときじゃ。故に生きるも死ぬも過ぎしもの。あとは最後の役目を果たして朽ちるのみ」
 彼女は潔かった。
 高潔であり美しかった。
 美しいなどと……何かに対して思ったのは、何度目だろう。
「そうだ、学者よ。まだ名を聞いておらなかったな。何と申す?」
「語来灰児」
「語らい、それに白でも黒でもなく灰色か……奇縁な名前よな。この三日間、御主と話すのは楽しかった。あと百年若ければ婿に欲しかったわ」
 先刻の不敵さとは異なる笑みを浮かべて、彼女は暗室を出てゆく。
「娘を頼む。それと……名は御主がつけておくれ」
 それが、彼女の最後の頼みだった。

 女王蜘蛛が去ると壁際に控えていた蜘蛛もいなくなり、残されたのは私とまだ名前のない少女だけとなった。
「このままここにいるわけには……いかないだろうな」
 突入部隊と遭遇したときに何と弁明すればいいのか。私一人ならまだしもこの子がいる上手い言い訳が思い浮かばない。
「まずは見つからないようにここを脱出するのが先決か」
 少女は寝台で眠ったまま目覚める様子がなかったため、私は彼女を背負ってここを出ることにした。
「っ……」
 しかしいざ背負ってみると少女とはいえ重みがあり、体勢を崩しかけてしまう。なんとか体勢を立て直すも、少女の重みは私の背にのしかかる。
「そういえば【死出蛍】の事件のときは私が背負われる側だったな……」
 誰かを背負うとはこうも重いものだったのか。そんなことを考えながら私は城の外へと歩き始めた。


 ・・・・・・

 ・OTHER SIDE

 別れ谷――中枢『大広間』

 大広間は城の中心とも言える位置にあった。
 一般の学校と比べても幾分広い双葉学園の体育館と同程度の広さをもつこの部屋は人に似た嗜好をもった蜘蛛型ラルヴァが大規模な宴席のために設計したものであった。しかし、城の主である女王蜘蛛は『大仰に食事する』行為である宴を好まなかったため、今まで使われることがなかった。
 そうして建てられてからこれまで使われることのなかった大広間は、人間と蜘蛛の最後の決闘の舞台として初めて使われようとしていた。
 女王蜘蛛は大広間に立ち、やってくる人間達を待っている。
 城内に張り巡らせた糸で彼らの動向と実力は把握している。女王蜘蛛を防衛していた蜘蛛の軍団を倒し、ここまでやって来たことからも人間の異能力者の中でも強い部類だということも理解している。
 女王蜘蛛は考える。
 この戦いを終わらせるためには討たれねばならない。しかし、容易く討たれれば影武者ではないかと疑われることもありうる。事実、核を娘に譲り渡した女王蜘蛛は影武者のようなものだ。ゆえに女王蜘蛛はわざと負けることは出来ないし、全力で戦わねばならない。
(どちらにせよ、ああなってしまえば手加減など殆どできはせぬがな)
 だが、病と出産によって体力を消耗し、心臓を摘出した女王蜘蛛にとってそれは負担が大きい。特に心臓を失ったことが痛手だった。心臓という機関自体は糸で造った人工心臓で代用できているが、心臓の中に在った魂源力核は代用できない。
 今の女王蜘蛛は自らの力を支えていた魂源力がない。身体に残っている魂源力を限界まで振り絞って戦うことになるが、それとて長くはもたないだろう。女王蜘蛛が病死する前に人間達が倒してくれるかは賭けだった。
「いずれにせよ、この戦を終わらせられるかは人の手にかかっておるか……では、出迎えるとするかの」
 そう呟き、女王蜘蛛は変容する。
 腰までの長さだった黒髪が伸び、床を這い、それでもなお広がっていく。
 女王蜘蛛が自らの髪を梳くと、髪は意思があるかのように蠢き女王蜘蛛の全身を覆い隠す。そして、瞬く間に女王蜘蛛の姿はまるで違うモノへと変化していた。
 黒い毛で覆われた八本の脚。
 一つの眼球もない頭部。
 頭胸部、腹部に分かれた独特の体節。
 何よりも、戦車に倍する巨躯。
 曰く、女王蜘蛛は美女の姿をした蜘蛛に化ける妖怪である。そう伝えられていたように黒き大蜘蛛の姿こそが女王蜘蛛の戦装束であり、死装束でもあった。
(……ふふふ)
 大蜘蛛に変容し、女王蜘蛛は己の血が昂ぶるのを感じた。
 暗室での蜘蛛のラルヴァとしての言葉は灰児のための嘘であったが、あるいはそうではなかったのかもしれない。王としての責務。死が確定している僅かな寿命。けれど、確かに一個のラルヴァとして生涯最後の戦いが……楽しみだった。
「では……死合うとしよう、人間よ」
 彼女の宣言と時を同じくして、大広間の扉は開かれた。


 少女を背負って暗室を出てから二十分ほどが経過した。まだ城の外へは出れていない。
 三日の間この城の中で過ごしていたが、それでも内部を把握し切れてはいないために若干迷っている。それ以前にこの城は巨大すぎる。蜘蛛の防衛があったとはいえ突入部隊が女王蜘蛛に辿りつくまで数時間かかったのも納得というものだ。
 今頃、彼女らは戦っているのだろうか。
 ……考えたところで仕方はない。今の私がすべきことは一刻も早くこの城から抜け出すことだ。それも、双葉学園の学生達に見つからないように。
「やれやれ、どうしてそんな真似をしなければならないんだ?」
 などと言葉にするまでもなく、私の背中の少女が理由だった。
 私一人ならば早々にモバイルで連絡を入れるなりして救助を待つことも可能ではあるが、この少女がいる以上そうもいかない。だから私は少女を背負い、歩いてこの地から離れねばならなかった。
 それは一人のときと比べ遥かに重い労苦となるだろう。
 けれど、
「頼まれてしまったのだから仕方ない、か」
 私はこういうことが似合う人間でもないが、それでも私の手でやらねばならないことだとは理解できる。
 なんだ、自問自答するまでもなかったか。
 結局のところ、私は少女の重みを背負って歩いていくしかないということだ。
「さて、あとどれくらい歩けばここから出れるのか。あまり遅くなると後発の部隊に見つかってしまう」

「アハハハハ。君がそんなことを心配する必要はこれっぽっちもないんだよ、カタライハイジ君」

 不意に聞こえたソプラノの声に振り返る。
 今しがた通り過ぎたばかりの通路の暗がりに、一人の少年が立っていた。
 見た目の年齢に相応でないシルクハットと燕尾服を身につけ、女王蜘蛛とは別種な人外の気配を纏っている。
 ただそれだけの特徴で、私はすぐにその少年が何であるか理解できた。
「なるほど。なるほど。なるほど……」
 それの正体を知ると共に私は理解し、確信した。

「お前がこの事件の真犯人か、【ナイトヘッド】」

 四番目の<ワンオフ>は私の問い掛けに天使を騙る悪魔のような笑いを返した。
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