【双葉学園レスキュー部の軌跡 「序」】


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菅 誠司は考える。
自分が今やっていることが、どれだけ無意味な徒労だと噂されているかを。
彼らの言うことは多分正しい。私も報われるとは思っていない。
それでも、あの日見た奇跡は、私を縋り付かせるには十分だったのだ。


  <序・菅 誠司の思考>


そうしてまた、学園都市の生活が始まる。
実家での墓参りを済ませ、高速バスと特別便を乗り継いで降り立った学園前には、意外にも待ち人がいた。
「や、センパイお帰りなさいましっ!」
強面に似合わないノリで手を振るのは我が部の舎弟その1だ。その2はいない。
「…帰る予定は明日って伝えた筈だけど」
呟く。妙なところで勘が冴えているというべきなのか。それとも私が一日早く帰ってくることを見越していたのだろうか。
ボストンバッグを預けながら空を仰ぎ見る。日は高く、もうすぐ正午というところか。まだ少し肌寒い。

……正午?
「君、授業は?」
「サボりました!」
はったおした。


手荷物を舎弟その1に任せ、私は担当に一応の帰還報告をするべく、職員室へ向かった。
職員室は小中高のそれぞれに存在している。
学園規模に相応しいだけの人手を考えれば、当然に職員室は広い。昼食の時間ということもあり、殆どの机が教師で埋められていた。
しかし私が知っている顔は、それこそ両手で数えられるほどでしかない。
私が高校編入組で、世話になってまだ1年強、というのも理由だろう。
だが何よりの理由は、私自身がこの学園にとって、さほど興味を引く存在ではないからだと思うのだ。
「やあ、おかえり菅君。予定では明日から登校だったけど、早く帰ってきたのかな」
…口だけが機械的に動く、とでも言えばいいのだろうか。
担当教員である春出仁先生は、いつも能面の様に表情が変わらない。ただ心中までそうというわけではなく、一日早い帰還を言葉の上では歓迎しているようだった。

だが、周りの教師たちの目はそうではない。よく帰ってきたものだ、というところだろう。

私は高校受験の際、過去1度だけ異能力を発現したという経歴が決め手となって、この学園への編入が認められた。
私が僅かばかり自負している運動能力も、知識も、彼ら指導者達の眼鏡に適う代物ではないと思う。
なにせ私は空を飛ぶことも、岩を持ち上げることも出来はしないのだから。私に出来ることは、他人にも出来る。
入学するときに署名した、『不慮の事故で死んでも文句は言うな』といった意味合いの、誓約書のことを覚えている。
何かしら他の能力者たちの刺激になればよし、死んでも損にはならない。私の立場はそんなところだろう。
……少し自虐的な思考だ。

「…あちらでやることは一つしかありませんので。部活も、気になりますし」
こんなところに長居する気はない。自然と私の受け答えも素っ気なくなる。
内心先生に悪いと思いながらも、私は早々に辞去することにした。
「気をつけるんだよ」
別れ際、先生がそう言った。恐らく部活のことだろう。
表情は変わらず、何を考えているのか全く分からない。しかしその言葉に嘘はないことを、私は1年程の付き合いで知っている。
私は軽く会釈だけをして、言葉の上での気遣いに答えた。


放課後。いつもの習慣で部室に行くと、先客として舎弟その1がいた。
「やーセンパイ…なんか暗いっすねー……」
床に倒れ伏し、今にも死にそうなうめき声を上げている奴には言われたくないものだ。
恐らく、サボりを学園の誇る肉体派教師辺りに捕捉されたのだろう。日頃から鍛えてはいるが、私と同じく、彼もそこまで丈夫な方ではない。
お互いに、『最前線で殴りあうには少々努力が足りない』と評されている立場、というわけだ。
「…せめてもっとキチンと髪さばいたり、しましょうよー……」
何かブツブツ言っている。いつもの小言だろうと聞き流して、私は中央のテーブルに地図を広げた。
最近の日課は、この学園都市の見取り図を眺めることだ。必要とはいえ少々だるい。

「センパイ、地図ばかり見てて飽きません?」
「…何もしないよりはいいよ」
20分ほどしてやっと舎弟その1は調子を取り戻したのか、パイプ椅子を持ってくると斜向かいに座った。
自分の腕に顎を乗せ、興味なさげに広げられた地図を眺めている。
予定が無く、何も起きない日はいつもこうだ。私が何かして、彼は何もしない。そして時たま雑談をする。
……知り合って半年というところだが、この唯一の部員は随分と、私のことを慕ってくれていると思う。サボリは頂けないが。
そして部活動においては彼が主役だ。
私はそのサポートをしているに過ぎない。活動内容も、プロフェッショナルに比べれば、計画性も何もなかった。
そういうわけで、大多数が組織化して化け物退治に精を出す学園の中では、我が部は人気がない。
「部員募集に行きましょう」
唐突に彼の頭が跳ね上がる。
ああ、そう言えば新年度なのだった。彼の入学祝いをしたばかりというのに、いまいち分かっていなかった様だ。
「勧誘活動ってガラじゃないでしょう。貼り紙で十分」
あからさまに不満の声を上げるのを無視して、私は地図の上に、備品のボール紙を置いた。
今日はこれを書き終わったら、上がりにしよう。そう思うと自然と献立の予定を思い浮かべてしまい、笑みが漏れた。

「『レスキュー部』って…書くのはいいとして、これだけで人が来るとは思えないね」
「『美人部長が待ってます』とか?」
「センスを疑う。風俗店でももう少しマシなことを書く」
「…最近、オレの扱いがだんだんぞんざいに…」
「信用しているの」
「流れ的にそれはおかしいッス!」
今日は、我が双葉学園レスキュー部の出番はなかった。それはいいことだ。
我々が穀潰しであればあるほど、世界は平和ということなのだから。


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