【改造仁間―カイゾウニンゲン― 第三話】


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改造仁間―カイゾウニンゲン―

 第三話 「暗黒の使者」


 俺は今、改造魔の実験室兼自室にいる。
といっても別に何か実験をやるというわけではない。
 じゃあなぜここにいるのか?
 それは今をさかのぼること数時間、一学期の終業式も終わった教室内での、俺と改造魔のとある会話がきっかけだった。

「はー……」
 すっかり夏休み気分ではしゃぐクラスの中で、俺は一人、憂鬱さにため息をつく。
「仁ちゃん、今日は元気ないねー。明日から夏休みなのに。
 何かあったの?」
 ちょっと心配そうな顔をしながら改造魔が俺に問う。
「何かってお前……こないだの一件でTPがマイナスになったから個室暮らしが終わるんだよ……。
 はー……今週中にはどっかの寮の空き探して引っ越さなきゃなあ……」
 こないだの一件というのは、俺が初等部の通学路で蜘蛛ラルヴァと大立ち回りをした時のことだ。
 キッチリ化け物退治をしたは良いが、その場の景観を損ねるほどでっかいクレーターを必殺技でこしらえてしまい、それを風紀委員長にしっかり査定された上に不可抗力とはいえ二人の風紀委員長のパンツまで拝んで、それもしっかり見つかってキッチリ退魔ポイントをマイナスされた結果、もはや俺には個室で生活する余裕はかけらも残っていなかった。
 ……というか個室どころか誰かと相部屋するにしても来月の寮費すらままならん……。
「じゃあ、うちで一緒に住めば良いじゃない!」
 改造魔の一言で騒がしかった教室が、一瞬で静寂に包まれる。
相変わらずやけによく通る声だ。
「うちなら家賃もいらないし、あたしも仁ちゃんが一緒なら楽しいし!
 うん!そうしよー?」
 周囲の状況を鑑みる事もなく、さらに話を続ける改造魔。
 ……こいつは何でこんなヤバイ事をさらっと言えるのか……。
「いや、ちょっと待て、改造魔……。
 どう考えても無理だろ男女同室なんて……」
「大丈夫だいじょうぶ!そうと決まれば早速、生徒課に申請してくるよー!」
 あきれ気味な俺の突込みを完璧に受け流したうえで、改造魔は即座に教室を飛び出していった。
 ……申請ってお前……受理されるわけねえだろ……。

 しかし十分後、教室に戻ってきた改造魔の第一声は
「申請通ったよー!」
だった。

 かくして俺は、改造魔が手配した引越し業者(なんか引越し部とか言ってたがよくわからない)に家財道具一式をまとめられて、ものの数時間で改造魔の自室に放り込まれることになった。
 当然、なんでこんな馬鹿な申請が通ったか疑問に思ったが、教室で改造魔に渡された申請書の備考欄に書かれた一文が全てを物語っていた。

『備品・ガナリオン』

 ……つまりアレだ。俺は人間ではなく、超科学系異能者の開発したアイテムとして登録されて、改造魔は開発者で管理・保守の義務があるからすんなり申請が通ったというわけだ。

 なんだそれ!

 しかしなんにしても妙に手回しの早い改造魔のせいで、すでにかつての自室は解約されていて帰る場所はない。
 ……幸い明日から夏休みだし、しばらくはここで耐えつつ空き部屋のある寮を探すか……。
 が、問題は俺の理性がどこまでもつかだ。
 正直言ってあのおっぱいを四六時中見せ付けられて我慢し続けられるのはよほどの精神力を持っているか賢者かホモくらいなものだと思う。しかもあのおっぱいは俺に好意をもって接してくるのだからたまったもんじゃない。
 曲がりなりにも付き合ってるんだから、勢いに任せて襲ってしまっても良いんじゃないかと思わないでもないが、ここで俺に歯止めをかけるのは他ならぬ俺自身の気持ちだった。
 改造魔は俺のことが好きなんだろう。だってあっちから告って来たんだから。
……でも俺は改造魔のことが好きかと問われると正直、自信がない。
そりゃ好きか嫌いかの二択なら好きと言うが、それが一人の女性に対する好意かというと微妙だ。
 はっきり言ってしまうと、性欲はあるが女と付き合いたいとは思っていなかった俺には、いくら彼女でもそんなに安易に一線を越えてしまうのは何か引っかかるのだった。
 ……まあ、改造魔のことだからそこまで深く考えずに事を進めた可能性もあるといえばあるが……。

「ただいまー!」
 そんな取り止めのないことを考えていた俺の耳に改造魔の元気な声が飛び込んできた。
 両手にスーパーの買い物袋を持ってヨロヨロしながら、足だけで器用に靴を脱いで部屋に上がってくる。今日から二人分になるから、と大量の食材を買いに行っていたのだ。
「お、おう。おかえり。」
 やけに緊張してしまう俺。
「ちょっと早いけど晩御飯の準備しちゃうね! 今日はハンバーグだよー」
 改造魔はそう言うとそそくさと台所に向かう。台所といっても1Kだからすぐ目の前だが。
 買い物袋から食材を取り出しながら料理の準備を進める改造魔の後姿は、気のせいかいつもと比べて妙に上機嫌に見えた。
……俺と同棲できるのが嬉しいとかか?……いやいや自意識過剰だろそれは。
「どうかした?」
 考え事をしながらなんとなく後姿を見ていた俺の視線に気づいたのか、改造魔が俺に問いかける。
「あ、ああ、いや……料理とかできるんだなあと思って」
「できるよー。
 ……といっても簡単なものばっかりだけどね。カレーとか肉じゃがとか。あ、あと焼き魚とか。
 うち、私が小さい頃にお父さんもお母さんも死んじゃっておじいちゃんと二人きりだったから、自然とあたしが料理するようになって……」
 適当な話をふって切り抜けようとした俺の言葉はちょっと地雷気味だったのか、説明する改造魔の声音が段々と弱くなる。
「そ、そうか。でもアレだよなー。料理とかできる女の子って良いよな!
 女らしいって言うか、家庭的って言うか!」
「ほんとに!? よかったー料理できて……。これからは毎日作ってあげられるから何食べたいか教えてね!」
 あわててしたフォローが良かったのか元気を取り戻す改造魔。
 ……よく考えたら付き合いだしてもう三ヶ月以上経ってるのに、改造魔のこと全然知らないな……ってそれはお互い様か。……それにしてもこいつ一体なんで俺に告ろうなんて思ったんだろう。一目惚れされるほどいい男でもないし、あの始業式の日のこと程度じゃいきなり告白はないよなあ……。何かほかに理由でもあるのか?

「お待たせー。できたよー!」
 しばらくして、改造魔が完成した料理をお盆いっぱいにのせて台所から部屋へと運んできた。しっかり焼けたハンバーグの香ばしい匂いが俺の鼻腔をくすぐる。彼女の手でテーブルに並べられていく料理たちはどれも綺麗に盛り付けられ、見た目にも美味そうだ。
「なんかすげえな……」
 ……簡単なものしかできないって言ってたけど、コレかなり手が込んでない?っていうかこれだけの料理が三十分とかで出てくるのはすご過ぎるだろ。
 ハンバーグにポテトサラダにほうれん草のソテー。あと味噌汁。もちろん白いごはんも。……やっぱりすごいよコレ。
「そう? 仁ちゃんの口に合えばいいんだけど……」
 俺の言葉に、珍しく自信なさげな顔で応える改造魔。
 ……今日はホントに今まで見たこともない表情ばかり見せるなこいつ……。なんか妙に落ち着かないんですけど。
「あ、えーと、いただきまーす!」
「ど、どうぞ」
 無意味に勢いよく宣言してハンバーグに箸をつける俺。改造魔はそれを神妙な顔で見つめる。
 ……あんまりジッと見られると食いにくいんだけど、今はそんなこと言ってられない。とにかく早く食べて感想言わないと……。
「お」
 一口サイズに切ろうと箸に力を入れてハンバーグを押さえると、箸がスッと通りあっさり分割される。にもかかわらずバラけたりもせず、いい形を保っていることに思わず驚きの声が漏れる。
 分割されたそのひとかけらを箸に取ると、ファミレスなんかで見るものより幾分、薄めに整形されているのがわかる。……火が通りやすくするためかな?
 皿のすみに盛られたソースをつけて一口。
「……美味い」
「ホント!?」
「うん、美味い!」
 正直、貧乏舌だという自覚がある俺だが、コレは素直に美味いと言えた。改造魔はその感想を聞いてパッと顔を輝かせる。
 美味さに押されて次々と色んな皿に手をつけて行く俺。そのどれもが程よい味付けで、びっくりするほど箸がすすむ。
 チラと改造魔を見やると、俺の様子に安心したのかニコニコしながら自分も料理を食べ始めていた。
 ……やっぱこいつには笑顔が似合うな、などと思いながら俺は味噌汁を一口すすった。

夕食を終えた俺たちは、明日から夏休みということもあって一学期を振り返ったり、夏休みにどこに行きたいか、宿題は早めにやっつけてしまおう等と、いかにも学生らしい取り止めのない話に花を咲かせた。
 改造魔が海に行きたがったりするのは正直、意外だった。だって一学期の半分くらいは自室にこもってたから。ガナリオンの変身ツールが完成した後は普通に授業受けてたけど。
 結局、俺たちの会話は日が変わる数分前まで続いた。

「ふわぁ……すっかり話し込んじゃったねー。
 そろそろお風呂入って寝なきゃ」
 あくびをしながらそう言う改造魔。そしてそれにちょっとドキリとする俺。
 ……そうだよな。一緒に暮らすんだから風呂とかも共用だよな……。ヤバイ、想像してはいかん! 股間の紳士が暴れだしかねん! そうだお茶を飲んで落ち着こう。
「一緒に入る?」
 予想もしない改造魔の一言に、口に含んだ麦茶を盛大に吹き出す俺。
「あー! 大丈夫!? もー、軽い冗談なのにー」
 激しく咳き込む俺の背中をさすりつつ、お茶塗れになったテーブルを布巾で拭く改造魔。
 ……冗談ってお前そんなこと言われたら普通ビックリするだろう!
「あたし、テーブルとか片付けて布団敷いとくから仁ちゃん先にお風呂入って。
 服は洗面所のかごに入れといてくれればいいから。
 バスタオルも置いてあるの使ってね」
「あ、ああ、わかった……」
 改造魔の勧めにしたがってその場を任せ、前の部屋からそのまま運び込んだ衣装ケース内の着替えを取り出す。
 ……それにしても改造魔って妙に手際がいいな。風呂もいつの間にか沸かしてるし……。爺さんと二人きりだったから家事に慣れてるにしても、明らかにうちの母ちゃんより上手《うわて》だぞ……。
 そんなことを考えつつ、そそくさと洗面所に向かう俺。
 ……そういえば湯船につかるのも久しぶりだなあ。だって一人暮らしだとシャワーの方が楽なんだもん。寮だったからガス代、電気代は込みだったけどなんかもったいない気がしてたし。
 再びそんな取りとめもない考えにとらわれながら、俺は脱いだ服を脱衣かごに放り込んでから浴室の戸を開けた。

「お先に」
「あ、はーい。湯加減どうだった?」
「うん、いいお湯でした」
 俺が風呂から上がると室内は既にしっかり片付けられ、二組の布団がキチンと並んで敷かれていた。四畳半だからテーブルを端にどけても、布団同士の距離はほとんど離れない程度のスペースしかないようだ。小さいとはいえ実験室が併設されている分、私室も狭くなるのかもしれない。
「じゃあ、あたしも入っちゃうね」
 いい湯加減だったと答えた俺の言葉に満足したのか、改造魔はにっこり笑うとトトトと足音を立てて洗面所に向かい、俺はその後姿を見送る。即座に不埒な妄想が浮かんできそうな頭を振って、学生鞄から夏休みの宿題を取り出す。
 いくつかの教科はプリントを渡されたが、宿題のほとんどはデジタルデータで出されていて、小さなメモリスティックに収まっている。それを手持ちのノートPCに挿入し、閉じていたモニター部分を起こす。すると即座にOSが立ち上がりメモリスティック内のデータが読み込まれた。
 俺が小学生の頃はまだ大量の教科書と教科ごとのノートを持って学校に通っていたが、今や全ての教科書はデータとしてPCに収められている。もちろんノートなんてわざわざ用意する必要もない。便利になったもんだ。
 しかし宿題までコンパクトになるわけではない。俺が田舎の中学から双葉学園に転入するに当たって、施設や教育環境の説明に来たお姉さん(学生課の人かな?)が「基本的には通常の学校と同じ教育が受けられます」なんて言ってたのを思い出す。実際、転入してからもそれまでと変わらない授業数だったし、高校も多分そうなんだろう。一つ違うのは戦闘能力の認められた者はある程度授業が免除されたり、その逆に戦闘はできなくてもサポート向きな者は特殊な講座をカリキュラムに組み込まれたりするということだ。
 ……でも俺みたいな「まあ、戦えなくもない」って程度の異能者は特に授業の免除もなく、にもかかわらず異能戦闘の教練はあったりする。
 というわけでやっぱり宿題の量は減らないのだった。
 ……こりゃあ頼れる所は改造魔に頼って、異能戦闘の課題は自分でやるしかないな。こういう時は一人じゃないってのも助かるかもしれない。
「はー、さっぱりしたー」
 宿題の山を確認しつつ都合のいい事を考えていた俺を改造魔の声が現実に引き戻す。声の方へ振り向くとブカブカのTシャツにハーフパンツという、あまりにラフな改造魔の姿が俺の目に飛び込んできた。モチロンすぐに目をそらす俺。
 ……やっベー! これはやベーよ! アレどう見てもノーブラだよ! なんなんだよ無防備すぎるだろ! 大体なんであんなブカブカなTシャツなんだよ! アレか?乳がでかいから身長に合ったサイズだと窮屈だとかか!? いかん、静まれマイ・サン! お前が暴れだしたのがバレたら何かマズいことが起きる気がするよ?
 身の危険を感じた俺はそれを回避すべく宿題を表示していたPCのモニターを音もなく閉じ、キレイに敷かれた布団の上にかけてあるタオルケットを引っぺがすと、かつてない素早さで転がり込んだ。
「わっ、ビックリしたー。
 そんなに眠かったの?だったら先に寝てても良かったのにー。」
「いやいや、お構いなく。なんとなく夏休みの宿題どうするか考えてただけですから」
 俺の行動に驚き、そう声をかける改造魔。
 よし、どうやら気取られてはいないようだ。これで股間の紳士を自然にカバーできるぜ。
「それじゃあ電気消すね」
 そう言いつつ電灯のスイッチにつながる紐に手を伸ばす改造魔。俺はそれを下から見上げ……うわああ! いかん! Tシャツのすそから何か丸いものが! 丸いものが二つチラチラ見えるよ! この位置はまずい! 早く目をそらさね……あ、電気消えた。……ホッとした様な残念なような……。
 衝撃的な映像に激しく動揺する俺の隣で、改造魔がゴソゴソと布団にもぐりこむ音が聞こえる。
 ……ふう、何とか今日は無事に終わりそうだ……。
 が、そう安心しかけた俺の耳に予想だにしない言葉が飛び込んでくる。
「ねえ、仁ちゃん……。そっちに行っても良い……?」
 ……なんだって?
「い、良いわけないだろ!」
 あわてて拒否する俺。
 ……そんなことされたらさすがにもう耐える自身がないぞ。
「だめ……?」
「あ、当たり前だろ!」
 なおも食い下がる改造魔。
「じゃあ、手、つないで……?」
 ……なんでそんな辛そうな声出すんだ?今にも泣き出しそうな、そんな雰囲気だ。何がなんだかわからんが泣かれるのも嫌だな……。
「……わかったよ。手つなぐだけだぞ」
「ホント!? ……ありがとう仁ちゃん」
 やむなく折れる俺。改造魔はそれをうけてモソモソとこちらのタオルケットに手を突っ込んでくる。しばらく探るように手を動かし、俺の左手に行き当たると両手で包むようにキュッと握った。
「……なあ、なんでそんなにくっつきたがるんだ?」
「……ええとね……ご飯のときにもちょっと話したけど、うち、おじいちゃんと二人きりだったんだけど……あたしに異能があるかもってわかって双葉学園《ここ》に越してきてからは一人暮らしになっちゃって、最初はなんともなかったんだけど、異能が発現してからは授業もあんまり受けられなくなって友達も作れなくて……部屋に一人でいるとどうしようもなく寂しくなってきて……だから今日から一人じゃないって思ったらなんか、仁ちゃんに甘えたくなったの」
 俺の質問に答える改造魔の声は再び辛そうなものになり、話の内容もその声音にそうものだった。
 確かに、まだ子供といってもいい年齢の俺たちには一人でいるというのは辛いことだ。だから色んな形で友達を作って寂しくないように群れる。普段は考えもしないことだけど、家族と離れて生活する学生はもしかしたら皆そんな寂しさを抱えているのかもしれない。
「……そっか。……そうだな。俺もそういうことあるよ。ふと帰りたいなーって気持ちになったりとか。
 ……まあ、でもこれからは俺もいるから寂しくないだろ?」
「うん!」
 改造魔の話に共感する所があったからって、うっかり大変なことを口走ったような気がしないでもないが、改造魔がうれしそうだからまあいいか。


 結局、あれから半月、俺はいまだに新しい転居先を探すこともせず、改造魔と一緒に生活していた。
 あの夜、口走った一言が俺を縛っているというのもあったが、それよりも改造魔を一人にしてしまうことに抵抗があったのだ。あの夜見た彼女の弱々しい顔。付き合い始めてから三ヶ月、一度も目にした事のないその表情が俺の脳裏に焼き付いて消えなかった。もともと明るく元気なタイプだとは思うが、それでも無理をして明るく振舞っていたこともあるのではないか? 俺のそっけない態度が彼女を傷つけたこともあったのではないか? そんな自問自答を、俺はあの夜から幾度となく繰り返していた。
「仁ちゃん、どうしたの?ボーっとして」
 改造魔の言葉が俺を現実に引き戻す。
 今、俺たちは初等部の通学路そばの森林公園に来ている。時間は午前九時五十分。もうすぐ、夏休みのプール教室のため学校に向かう子供たちが通りがかる頃だ。
 例によって改造魔がパトロールをするから、とこの半月、土日を除いてほぼ毎日俺を連れ出すのだった。
「あ、ああ暑さでボーっとしてた。朝なのに暑いよなあ」
 俺はとっさにそんなことを言って取り繕う。実際、八月上旬ともなると、もう真夏だし。
「そうだねー。温暖化も抑えられてるって言ってもあんまり実感ないよねー」
 改造魔はニコニコしながらそんな相槌を打つ。暑いって言う割には相変わらず白衣は着っぱなしだ。まあ、白衣の下は乳のせいでピチピチのノースリーブとホットパンツにビーチサンダルという出で立ちだから良いのかもしれんが。
 ……身長差のせいで谷間が丸見えなんだよなー。うっすらと汗が浮かんでるのもなんとも言えん。……我ながらさっきまで真面目に考え事してたとは思えない現金さだよな。
 ……しかし自分のこういう行為を鑑みると、やっぱり何で告られたのかがわからん。
「あ、きたきた」
 目を前に向けると改造魔の言うとおり、先生に先導されて何十人かの子供たちが、ワイワイと楽しげにおしゃべりしながら通学路を歩いて来ていた。これからプールで遊べるのがうれしいのかもしれない。
 俺たちに気づいた数人が「あ、ガナリオンとお姉ちゃんだ!」「ガナリオーン!」などと口々に叫びながらブンブンと手を振ってくる。俺たちもそれに応えて手を振りかえす。
 ふと隣にいる改造魔に目を向ける。相変わらずニコニコしているな。
「……なあ改造魔。お前なんで俺に告ったんだ?」
 改造魔の笑顔を見ているとどんどん自信がなくなってくる。俺で良いのか?俺が負担になってないか?ホントに俺が一緒にいて良いのか?と。
 そんな自信のなさが、いままでずっと抱えていた疑問を吐き出させた。
「え?」
 俺の突然の質問に固まる改造魔。子供たちに向けて振っていた手もピタリと止まる。俺はもう一言「なんで俺なんだ?」と付け加え、彼女に答えを促す。
 段々と子供たちの声が遠ざかる中、俺たちは無言でしばらく見詰め合う。沈黙に耐えかねたのか、改造魔は急に顔を赤くすると顔をそらしてうつむいた。
「え、えーと……それは、その……。あー、うん。わかった、ちゃんと話すね……」
 改造魔は少し逡巡する様子を見せたが、覚悟を決めたのかポツリポツリと話し始めた。
 ……そんなに話しにくい理由なのか?
「仁ちゃんも知ってると思うけど、あたしの異能って小さいパーツを少しずつ作っていく形で、最初は何を作ってるのかよくわからないんだよね……。だから、いつあるかわからない『天啓』のせいで学校にも行けないし、何作ってるのか、どう使えばいいのかもわからなくて……」
 またあの夜のように地雷気味だったのか、改造魔の声がどんどん弱々しくなっていく。
 ……って何で俺に告ったかって話が地雷気味ってどういうこと?
「正直、だんだん嫌になってきて、それでも作らずにはいられなくて、もう何もかも投げ出しちゃいたくなってたんだけど……ある日、不意にパズルのピースがはまるみたいに、何を作ってたのかもどう使えばいいのかも理解できて、やったーって思ったんだけど、今度はそれが自分にはどうにもできない物だってこともわかっちゃって……」
 ……変身ツールを使うには俺の異能が必要だったってやつか?
「それで中三の三学期はツールを作りながら使える人を探してて、でも全然見つからなくて……。高等部に入っても見つからなかったらどうしようってすごい悩んでたんだけど……あの日、仁ちゃんと出会ってピーンと来て!
『ああ、この人だったんだ!』って思って……気づいたら告白してたの!」
 テンションが上がってきたのか、改造魔の声はだんだん大きくなり、話し終えると上気して赤くなった顔を、ものすごいスピードで俺のほうに向けた。
 ……すげえ目がキラッキラしてるな。
「あはは、そか。そういうことだったのか」
「うん!」
 ……たまたま俺じゃない同じような異能者がいたらどうなってたのかって疑問はあるけど、まあ本人が納得してるならそれで良いか。これでとりあえず俺の疑問は解けたし、俺で大丈夫なのかと言う不安も薄らいだかもしれない。
「仁ちゃんは」
「ん?」
「あたしは仁ちゃんのこと好きだよ。……仁ちゃんはあたしのこと好き?」
 予想だにしない攻撃だね、改造魔。……いやまあこんな話してればそこに突っ込むのもあるか……。
「俺は……」
 さすがに即答はできず言いよどむ俺。正直、さっきまでは疑問と不安で自分の改造魔に対する気持ちはしっかり考えてなかった。ということで初めて会ってからこれまでの事を思い返してみる。実験台にされて死にかけたり、実験台にされて死にかけたり、実験台にされて死にかけたり……。
 なんかろくでもないことばかり思い出すな……でも改造魔の料理は美味いし、海に行ったのも楽しかった。何か変な怪人と戦わされた挙句に恥ずかしい思いをしたけど。
「あー……。俺も」
「きゃっ!?」
 俺が意を決して想いを告げようとした時、改造魔は短い悲鳴を残して目の前から消えた。
「な!?」
「仁ちゃーん!」
 思わぬ事態に間抜けな声を上げてしまう俺。しかしすぐに改造魔の声がする方に目を向ける。するとそこには、ジタバタともがく改造魔を小脇に抱えた無骨な人型ロボットと、一目で戦闘用と見て取れる真っ黒なボディスーツを着込んだ男が立っていた。その顔にはやはり真っ黒なサングラスがかけられ、口元には不敵な笑みが浮かんでいる。
「なんだお前は……改造魔をどうするつもりだ!」
「フフ……彼女には私と一緒に来てもらう。少し手伝って欲しいことがあるのでね」
 黒づくめの男は俺の質問にも表情を崩さず答える。芝居がかった、いかにも悪役然とした嫌味な態度だ。
「意味わかんねーぞ……招待するならそれなりの手順てもんがあるだろう」
 男のかもし出す雰囲気と無駄に丁寧な口調に嫌なものを感じ、俺は反論しつつ身構える。
「答えてやる義務はないが、一つだけ教えてあげよう。私のほかにも彼女に会いたがっている人がいてね。彼は私の、いうなれば上司のようなものなのだが……どうも君のことが気に入らないらしい。故に彼女の招待を君が邪魔しそうなら、実力で排除してかまわないと、そう言いつかっている」
 男はそういうと、俺に向かって一歩、歩を進める。
 ……なんなんだこいつは。まるで俺と改造魔を以前から知っているような物言いじゃないか。しかも上司に「実力で排除しろ」と言われてるだって?
「お連れしろ」
 不意に男が振り返ってそう言う。ロボットへの指示だったのだろうその一言で、人型ロボットは軽快に樹上に跳び上がり枝から枝へと跳び移ってゆく。小脇に抱えられた改造魔はぐったりと力なく手足を伸ばし、抵抗する気配もない。いつの間にか薬でもかがされたのか?
「待て!」
「おっと!邪魔はさせないと言ったはずだ」
 あわてて後を追おうとする俺の行く手を、黒ずくめの男がさえぎる。不敵な笑みはそのままに隙なく俺を見据え、すでに臨戦態勢に入っている。
 ……どう考えても俺より格上の相手だけど、グズグズしてるわけにはいかない。携帯のGPSを切られたら追えなくなる。……一撃で決めるしかない!
「ガナル・チェンジ!」
 覚悟を決めた俺は一気に変身ポーズをとり叫ぶ。と同時に真っ赤な粒子が俺の全身を包み、赤く煌く鎧を形作る。
「ガナル・パンチ!」
 さらに間髪おかず必殺技を発動し、その勢いを利して一息に男との間合いを詰める。俺には「いきなりこれはかわせないだろう」という目算があった。
 しかし。
「その技は知っているよ」
 男は確かにそうつぶやいた。

 気づくと俺は地面に突っ伏していた。右胸がおそろしく熱く、意識が覚醒するにつれて、じわじわと痛みに変わっていく。
 ……カウンター食らった……。
 黒づくめの男が「その技は知っている」とつぶやき不敵な笑みを強めた次の瞬間、俺の右胸に男の拳が叩き込まれたのだ。俺の拳が相手に触れることはなく、その代わりに一瞬意識が飛ぶほどの衝撃に襲われ、俺はあえなく地面を舐めることになった。
「うぐッ……」
 首を動かして目を向けると、胸を覆うプロテクターは粉々に砕け、露出した生身の部分からはとめどなく鮮血があふれ出ていた。
 ……あいつの右拳に形成されたアレは……俺と同じ鉱石発生能力か……?
「いやはや、凄まじい突進力だな……私の異能『ブラック・ロック』と、この強化服『AMBS《アンブス》』がなければカウンターを打ち込んだ私自身の右腕が砕けている所だ。……今もしびれてしばらくは動かせそうもない」
 男は俺の目前まで歩み寄り、聞いてもいない解説までする。見ると右腕を押さえて苦々しげな表情をしていた。
「さて、とりあえず今日はここまでだ。なに、心配することはない。彼女は丁重に扱うと約束しよう。……言っておくが探そうとしても無駄だ。彼女の携帯のGPSは既に切ってある。
 また改めて、こちらから連絡する。それまでおとなしくしている事だ。再びあいまみえたその時には、私の新たな力をお見せしよう」
 そこまで一方的にしゃべり終えると、男は俺に背を向けて歩きだす。
「ま……て……」
 やっと搾り出した一言は風に揺らされた木々のざわめきにかき消され、俺の意識は暗黒の淵へと飲み込まれていった。


          *


 ぼんやりとした意識の中に二人の男の声が響く。
(怪我はさせてないじゃろうな?)
(もちろんです。……エミュレーションの方は?)
(準備はできとる。目を覚まさないうちにやってしまおう)
 ……エミュレーション? 何言ってるの? 何で体、動かせないの?
 ……仁ちゃん、助けて……。


つづく






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