【超刃ブレイダー 第01話】

超刃《ちょうじん》ブレイダー第一話 『ようじょ、ひろった』



 少年は立ちはだかる壁に挑んでいた。
 少年の名は真崎《まさき》春人《はると》。
 そして立ちはだかる壁とは、文字通り体育館の入り口近くにある女子更衣室の壁面である。
 つまり何のことはない覗き(正確には未遂)の現行犯である。エロ小僧として悪名高い春人ではあるが、ここまでの行動にでるのは珍しい。精々が階段の下の定位置にスタンバイする程度だ。
 しかし今日は、その珍しい行動を取らざるを得ない緊急事態だった。
 滅多に学校に出てこない難波《なんば》那美《なみ》が、今日体育の補習として体力測定に出てくるという情報を掴んだのだ。彼女はまだ珍しい異能を持った生徒であり、研究所住まいという事も相まって目立つ存在であった。一部の男子からはレア度の高さから『秘宝』という符丁で呼ばれている。その『秘宝』のさらに着替えシーンともなれば、それは正に値千金なのだ。
 そしてついに、春人の指が窓枠に掛かった。ここから頭を出せば、『秘宝』の貴重な着替えシーンが広がっているはずだ。
 春人は懸垂の要領で、頭を持ち上げた。
 視界に飛び込んできた『秘宝』はブルマを下に履き替え、タイを肩にかけてブラウスのボタンを二つほど外した所だった。これはこれでアリではあるが、苦労に見合うかと言えばそうでもない。
 しかし、これ以上は望めないだろう。
 何故なら、ばっちり目が合っているのである。何かに気が付いたのかそれとも単なる偶然か、それは春人には確かめようもない事だが、お互いはっきりと相手の顔が識別出来るのは那美の表情からも確かであった。
 春人はとりあえずスマイルを浮かべてみた。
 それを見て那美もにこりと笑い、左腕に巻いたブレスレットを外して手のひらを春人に向ける。 空気がゴロゴロと震え、壁の一部が紙くずのように潰れた。
(……こ、このままじゃ殺《や》られる)
 本能的に危険を悟った春人は、死に物狂いで壁を駆け下りた。
 『秘宝』は誰にも見られることなく存在しているからこそ、『秘宝』たり得るのだった。

       ◆       ◆       ◆

「また貴様か、真崎春人!」
 裏門に向かって猛ダッシュする春人の行く手を、一つの人影が遮った。
「ふん、今日はブルマーで攻めてくるとはな……だがいつも言っているだろう! 俺はロリには興味が無いとな!」
「誰がロリじゃ! 貴様とは同級生だろうに。……それに、これは前の授業が体育だったから仕方なく……」
 少女は上着の裾を引っ張りモジモジと足をすりあわせる。信じられない事にこの子供料金で通用しそうなツインテールのロリっ娘は、春人と同じ高等部の三年生なのだ。
「とにかくこの風紀委員柴咲《しばさき》結衣《ゆい》に見つかったのが運の尽きじゃな。この柴咲流縛縄《ばくじょう》術は物の怪から罪人まで捕縛する事にこそ本領を発揮するのじゃ」
 結衣はツインテールを解き、結んでいた紐を構える。彼女の使う咲流縛縄術は読んで字のごとく、縄を操る異能の術だ。なんでも京都の暗部を陰陽師と共に守ってきた由緒ある能力者の家系らしい。
「その割に今まで一回もお前に捕まった事無いんだけど」
 普段の行いが行いだけに春人はよく風紀委員に追いかけられる事が多い。その中で春人と結衣はいつの間にかルパンと銭形警部のような関係となっていた。その結果も含めて。
「ふん、その余裕も今のうちじゃ、今日こそは特訓によって身に付けた我が柴崎流奥義によってふん縛ってくれるわ!」
 結衣が自信たっぷりに胸を張った。
「ほう、俺のために修行をねぇ」
 春人はそれにぺた~んという効果音を脳内で当てる。
「そうじゃ、貴様もついに年貢を納める時が来たのじゃ」
 気迫を表す様に、髪紐が結衣の背後でゆらゆらと波打っている。
「なんだかんだ言ってお前……俺のこと大好きだな」
 そこにボソリと、春人が言い放つ。
「バッ……何言い出すんじゃ? そんな訳ないじゃろ! バーカ、バーカ」
 結衣の顔が一瞬で真っ赤に染まり、髪紐はへなへなと地面に落ちた。さすが風紀委員なんて職に就くだけあって、真面目というか悪口の語彙が極端に少ないヤツである。
「ええぃ、喰らえ! 柴崎流奥義・縛手自在陣《ばくしゆじざいじん》」
 結衣の足下から何本もの髪紐が春人めがけて飛び出していった。
 春人は襲いかかる髪紐を逆に足場に使って、ひょいひょいと翻弄する。捕縛を目的にするなら、触ったら巻き付くくらい柔らかくないといけないと思うのだが、結衣の髪紐は足場にして跳べるくらい固い。力が入り過ぎているのだ。
 結衣の力は柴崎流でも当代一だが、それがそのまま当代一の使い手にはなれないのだった。
「よっと」
 挑発するようにずっと結衣の近くで動き回っていた春人が、突然結衣の目の前で立ち止まった。
「ついに観念したか! 大人しくお縄に……ふぎゃ!?」
 止めとばかりに髪紐をけしかける結衣だったが、手をかざしてけしかけた瞬間自ら放った髪紐に縛り上げられた。
 それもそのはずというか、縛手自在陣《ばくしゆじざいじん》は本来多人数用の技である。独自に獲物を追いかける技を自分を中心に動き回る相手に使えば、絡まるのは当然の事だった。
「ただその体型故に食い込んで強調される所が無いのが残念な所ではある」
「こら、何をしたり顔で語っておるか!」
 みっともなく地面に転がったまま結衣が叫ぶ。
「そ、それに、我とて……ビ、Bカップくらいあるわい」
 そしてとたんに俯き、顔を真っ赤に染め上げながらボソボソとつぶやいた。
「ほう……」
 それを聞いて春人がニマリと口角をつり上げる。
「知ってるぞ。お前がAカップを勧める店員の話を聞かず、見栄を張ってBカップのブラをしている事を」
「な、何故それを!?」
「良くないなぁ、ああ実に良くない。学生の規範たるべき風紀委員が嘘をつくのはもちろん、サイズの合ってないブラをするのは、形崩れの原因になる」
 春人はアゴに手を当て、監査するように身動きのとれない結衣の胸をじっと見つめながら言った。
「ぬぅ……ほ、ほっとけ」
 結衣の羞恥心はとっくに限界を超え、涙腺が決壊寸前になっている。
「そうか、じゃあな」
 興味なさげに片手を挙げて春人は去っていった。
「くぅ、お、覚えておれぇー!」
 周囲に誰もいない校舎裏に、結衣の声が虚しく吸い込まれた。

       ◆       ◆       ◆

「しかし、どうしよっかねー」
 学園を離れ、街をうろつきながら春人は当面の予定について考えていた。
 風紀委員の柴咲が出動してきたということは、今回の件はもう完全に学校側にもバレてしまっている。そもそも難波のあの能力を喰らったら無事では済まないだろうし、ほとぼりが冷めるまで適当に時間を潰して大人しく風紀委員に捕まるのが妥当なところだろう。
 逃げ切れるに超したことはないが、そんなのは宝くじが当たるのと同じくらいの確率だった。それなら下手に私刑を受けて突き出されるより初めから風紀委員に捕まった方がいくらかはマシだ。
 春人は今までの経験を踏まえてそう判断を下した。
 そうなると問題はどこで何をして過ごすかである。学生のための街である双葉区では、若い世代が昼間に街をうろつくのは目立ってしょうがない。どこかの店に入るというのも不可能だ。
(となると、結局こうするしかないんだよなぁ)
 春人は適当な路地を見付け、その中に入っていった。非常階段に鍵がかかっている事を確かめると、三角飛びの要領で一気に一階と二階の間の踊り場に飛び上がり、そのまま階段を上がり屋上に出る。
(放課後までの数時間、適当にここでのんびり昼寝でもしますか)
 弁当も何も教室に置いたままなので、他にする事もない。
 丁度暖かくなって初夏の日差しが気持ちいい。ごろりと寝転がって数分も経たない内に、春人の意識は眠りに落ちていった。

       ◇       ◇       ◇

 少女は必死に逃げようとしていた。しかしそこに壁が立ちはだかる。
 勇気を振り絞って行動を起こしたまでは良かったが、現実は八歳を迎えたばかりの天道《てんどう》ユリカにとってあまりに険しい壁であった。
 目の前は建設中のビルを囲む塀、左右もビルの壁に挟まれた袋小路、そして背後から剣を持った男がゆっくりと近付いてくる。
「さあ、追いかけっこは終わりです。巫女」
 その男、来栖《くるす》戒慈《かいじ》は父が連れてきた未来戦士である。ユリカはその身に宿った能力を、この男に施す事を父から強要されていた。だが能力を使うにはちょっとした準備が必要なだったため、その隙をついて脱走してきたのである。
 ユリカは自らの行いを悔い、その力を憎んでいた。あの場で能力に目覚めた瞬間、自分が何をすべきかそして父の命を救うにはそれしかない事はすぐに理解できた。
 しかし自分の力では、本当の意味で父を助ける事が出来なかった。あれ以来父はユリカの知る父ではなくなってしまった。
 ゆっくりと、来栖がユリカに手を差し出してくる。
「い、いやぁ!」
 精一杯の抵抗としてユリカは力の限りに叫んだ。
「やれやれ、子供のキンキン声にだけは敵いませんね」
 来栖は不快そうに顔を歪め、ぽつりと漏らした。

       ◆       ◆       ◆

 微かな叫び声が聞こえ、春人は目を覚ました。
 辺りを見渡すと、すぐ下で子供が剣を持った男に追い詰められていた。剣は刀身が一メートルくらいある大きなもので、男はそれを日本刀のように両手で構えている。
(撮影か何かか? それとも夢でも見てるのか?)
 目の前の出来事を何とか日常の中に入れてしまおうと、そんな考えが頭をよぎる。
 しかし、これはそういう事ではないと春人は直感的に悟った。
「やめろ!」
 叫んだ勢いで、春人は思い切り飛び降りていた。
 一歩間違えば、死んでもおかしくない。それでも身体は勝手に三角跳びの要領で、二つのビルの壁を往復しながら降りていた。
 時間の流れがいつもよりゆっくりと感じられる。未だに状況が飲み込めず混乱する考えとは裏腹に、身体は命の危機を敏感に感じ取りアドレナリンを大量に分泌しているのだ。
 男は一瞬あっけに取られていたが、すぐに春人を迎えうつべく剣を構えた。
 春人と二人がだんだんと近付いていく。
 刀身にビルの隙間に差し込む光を反射し男が動き出した。狙いは次にビルの壁面に足を付く瞬間の硬直。
 しかし空中にいる春人は、このまま壁に飛び込んでいく事しか出来ない。
 少女は震える身体で呆然と春人を見上げていた。
 男が横薙ぎに斬撃を繰り出す。
(こんちくしょう!)
 春人は足を思い切り振り上げ迫り来る切っ先を寸でのところでかわすと、その足で壁を蹴って身体の上下を反転させた。
 反り返った顔の数センチ先を男の剣が横切っていく。撫でられた毛先が少し切り落とされた。
 少しだけ嬉しそうに男が口元を歪める。命の危機はこれだけでは終わらない。
 回転の勢いをそのままに、春人は振りきった剣を引き戻そうとする男の手を蹴り上げた。男の手から剣がすっぽ抜ける。それが遠くまで転がっていくのを見届けて、春人は少女と男の間に着地した。
「やるじゃないか、英雄《ヒーロー》君。その身のこなしサーカスでも見ているようだったよ」
 さっきまで剣を握っていた手を叩き、男は笑顔を浮かべ距離を詰めてきた。
「しかし部外者はお引き取り願おう。私はこの子の親から連れ戻すように頼まれているんだよ」
「とてもそうには見えなかったけどな。あんな剣まで持ち出して何をする気だったんだ?」
 少女をかばうように一歩前へ出した春人の足を、少女が遠慮がちに掴む。
「ああ、追いかけっこにも飽きたので足の腱を切らせてもらおうと思ってね。力さえ使えればあとは問題無いからさ」
 何でもない事のように男は言い放った。春人の足を掴む少女の手に力が入る。
「お、お前なんか、に……グゥっ」
 最後まで言い切ることも出来ずに、視界が反転する。
 いつの間にか、春人の腹に剣が突き刺さっていた。

       ◇       ◇       ◇

 地面に転がった少年を、来栖がつまらなそうに見下ろしている。
「これは私の体の一部になる物だからキレイなままでとっておきたかったんだけどね」
 身体に刺さった剣を来栖が引き抜こうと手を伸ばした瞬間、少年は自分に刺さっている剣の柄を掴んだ。
「ええい、放すんだサルが!」
「放すかよ……。だって、ゴフっ……お前、……この子、襲うだろ」
 そう言い放って少年は頭を垂れた。しかし、とっくに意識を失っているはずのその手は剣を掴んで放そうとしない。
「そう、わかったよ。そんなに放したくないんなら、その腕ごと切り離してあげるよ」
 来栖は諦めて先ほど少年に蹴り飛ばされた剣を拾いに行った。
(どうしよう。このままではお兄ちゃんが死んでしまう)
 助けるには、あの力を使うしかない。
(でも、お兄ちゃんまでおかしくなっちゃったら……)
 ユリカは父親を助けるために自分の力を使った事を思い出す。不思議な懐中時計と癒合した父は、それから人が変わったようになってしまった。
 見ず知らずの自分を助けてくれたこの心優しい少年も、自分の力を使う事でおかしくなってしまうかも知れない。
(それでも、この人には死んでほしくない)
 ユリカは目の前で横たわっている少年に手をかざした。
『お願い、お兄ちゃんを助けて』
 魂源力《アツイルト》を通して、少年に突き刺さっている剣に呼びかける。
『了承した。この者の血肉を対価とし契約を受諾する』
 少年に刺さっていた剣が水面に吸い込まれるように、その身体に沈み込んだ。

       ◆       ◆       ◆

 突然痛みが消えた。それどころか血が流れ出して遠のいていた意識も、いつの間にかハッキリしている。
 春人は起き上がって自分の姿を改めて見直してみた。するとそこには、見慣れない自分の身体があった。
 赤と青の左右非対称の色使い、鎧のような機械のような硬さを持った身体。そして念じただけで手の中に現れる剣。その刀身に映った顔も含め、今の自分は正に変身ヒーローそのものである。
「……お兄ちゃん?」
 戸惑う春人に少女が恐る恐る声をかける。
「これ、お嬢ちゃんがやったのか?」
 春人の問いに少女は小さく頷いた。そして、そのまま下を向いて問いかける。
「お兄ちゃんは、変わらないよね?」
「うん? まあいろいろ訳が分からなすぎて混乱してるが、俺は俺だ」
 とにかく今は、目の前の脅威を取り除く事が先決だ。春人は少女の頭を撫でてやってから、後ろを振り返った。
「どうしてだ巫女! なぜ私ではなくこんな奴に力を与える?」
 男は蹴り飛ばしてやった剣を拾って、こっちに向かってきていた。
「うわぁああああ!」
 春人は叫び声を上げて男を迎え討つ。
 地面を蹴り出す脚力が今までに無い加速を生み出す。
(すごい! これならいける)
 変身によって強化された力を実感し、春人は勝ちを確信した。もうさっきのように、気付く間もなくやられる事はあり得ない。同じ剣という武器を持ってみてもわかる。明らかにこっちの剣の方が格上だ。
 春人は渾身の力で手の中の剣を振り下ろす。素早くなった身体の反応は素晴らしく、そう思いたった時点で動作は終わっていた。
 しかしその太刀筋に男の身体は無く、春人の剣は強《したた》かに地面を叩き付ける。爆発が起こったような派手な音を立てて地面がめくりあがった。
「キミ、まともに剣を握ったことないでしょ?」
 後ろから男の声が聞こえたと思ったら、背中に激痛が走る。
「ぐぁ」
 生身より硬いくなったとはいえ、ただこの身体も自分の物には変わりない。春人は何とか痛みに耐えながら、横一文字に剣を払った。
 それはまたしても虚しく空を切る。
「ホラ、剣の重さに振り回されちゃダメだよ。剣を振るうときは鋭く、細かく、振る事より戻す事を考えて」
 講釈をする余裕を見せつけ、男は何回も春人を斬りつける。
 二回目に殺されていないのは、この変化した身体のおかげだろう。そうでなければ、今頃細切れにされているはずだ。
 いつの間にか春人は、剣を杖にして地面に膝を付いていた。
(強い、次元が違いすぎる)
 スピードもパワーもこちらが上のはずなのに、攻撃が当たる気がしない。
「そのフロッティは、身が軽いだけのお猿さんには過ぎた宝だよ」
 男が少し距離を取って、剣を顔の横に持ち上げ突き刺すように切っ先を春人に向ける。
「思えばこの少年も可愛そうに。君が力を与えなければ殺されずに済んだものを」
 この一撃で確実に決める気だ。男の刺すような殺気に春人は痛みすら覚える。
 男が地面を蹴った。
 しかし身体は動くことを諦めていた。
(どうせ勝てはしないんだ)
 ゆっくりと目を閉じる春人に
「お兄ちゃん!」
 と少女の声が聞こえてくる。
(そうだ。俺が死んだらこの子はどうなる!)
 気が付いた春人はとっさに力を振り絞り、何とか後ろに転げる。男の放った兇刃が紙一重の差で何もない空間を滑っていった。
 変身して強くなった自分に興奮するあまり、大切なことを見失っていた。ロクに剣を持った事も無い自分が、まともに戦ったところで勝ち目などある訳が無かったのだ。変身して一発逆転が許されるのはテレビの中だけ、変身なんて不思議な事が起こってもここは現実なのだ。まして、自分は一回死んだというのにそんな事も忘れてしまっていたらしい。
(バカは死んでも治らないって事か)
 男は再びさっきの構えを取っている。こっちも既にボロボロで、そんなに長くは持ちそうにもない。
 狙うはお互い一撃必殺。
 春人と男が同時に地面を蹴る。
 ただし、まっすぐ向かってくる男に対して春人は斜め上に向かって飛び上がった。
(まともにぶつかって勝てないなら、相手の隙を突くのみ)
 持ち前の身の軽さで相手を翻弄し自滅を待つ、それが本来の真崎春人のスタイルである。この男くらいの達人になれば自滅する事は無いだろうが、ビルから飛び降りた時のように剣術の想定に無い動きをすれば一瞬の隙は出来るはずだ。
「こんのおぉ!」
 春人はまた身体を回転させつつ、剣を下向きに持ち替えると、全力で突っ込んでくる男の脳天めがけて振り下ろした。
 奇策を読んでいた男は一歩下がって、紙一重で春人の剣をかわす。
 地面に突き刺さった剣を見て勝利を確信した男は、笑みを浮かべ思い切り剣を振り上げた。
(かかった!)
 春人は突進の勢いそのままに、両足で思い切り地面を蹴る。変身で強化された脚力によって、春人の身体は砲弾並みのスピードで飛び上がった。
 春人は地面に刺さった剣を軸に回転し、両足を男に向けて突き進む。丁度ドロップキックの体勢だ。がら空きだったハズの男の腹には既に、防御のために剣が降りて来ていた。凄まじい反応速度である。
(いけるか!?)
 今更軌道を変える事もできず、春人は剣もろとも男の腹に突っ込んだ。
 ガン、と金属の割れる音に続いて男の身体が呻き声と共に吹き飛ぶ。
 地面を何回かバウンドして、男は通りの向こう側の壁に叩きつけられた。
「勝った、のか?」
 動かない男を見て、春人はその場にへたり込んだ。

       ◇       ◇       ◇

「お兄ちゃん!」
 ユリカは訳も分からぬままに戦ってくれた少年の元に駆け寄って行った。
「大丈夫?」
「ああ、お嬢ちゃんのおかげだ。ありがとな」
 少年は優しくユリカに声をかける。
(違う。お礼を言わなくちゃいけないのは私の方なのに)
 しかし嬉しさに胸がいっぱいで上手く言葉が出てこなかった。
「そういえばお互い名前も知らなかったな、俺は真崎春人。よろしくな」
 少年はユリカに向かって手を差し出した。
「天道ユリカです」
 ユリカはその手を取って、自分を助けてくれた英雄《ヒーロー》を助け起こした。
「ところでこれ、どうやって元に戻るんだ? っていうか戻れるのか? 俺」

 こうして真崎春人は天道ユリカと出会い。後に超刃ブレイダーと呼ばれる力を手に入れた。

                                             続く


――次回予告
春人「何か成り行きで助けちゃったユリカちゃんだけど、帰る場所が無いってどういう事だ? もう、俺訳の分からない事だらけで頭はパンク寸前だよ、誰か説明してくれ」

  次回  『おやじ、あらわる』

春人「俺の性剣を君の鞘に……」
結衣「言わせるかこの変質者が!!」
春人「ぐぇ」


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最終更新:2009年12月12日 00:45
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