【MPE 8】


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   8


「銃声だ」
「くっ! みんな無事であることを祈りますわ!」
「人の心配してる場合ぃ? 自分たちが危ないわよぉ」
 次々と襲ってくる、灰色のクリーチャーたち。両腕から触手を投げかけてくるものもあれば、背中からたくさん伸ばしてくるものもいた。いずれの種も、どういう教育を受けたら生み出せてしまえるのかと感じるぐらい悪趣味で、気持ちの悪いものばかりだった。
 タンクに入っていた化物を、シホは次から次へと解放していく。しかし××には××××××××という頼れる相棒がいた。××××が強力な熱線を使うたびに真っ暗な庭園が、雷が落ちたときのようにぱっと閃いた。
 ××も、ヒエロノムスマシンの理論で作り上げたライトサーベルで不器用に応戦しているが、結局倒しきれずに××××に助けてもらうような戦いが続いていた。
「あんっ、もう、離してくださいましっ!」
 背中に絡んできた化物。触手が胸元をわし掴みにして脈動しながら絡みつく。垂れ下がる眼球が××の肩にあたり、彼女は背筋を震わせた。
「××ちゃんっ」
 すぐに××××が飛んできて、化物を引き剥がした。右手で掴み上げてから星空に向け、直接熱線で焼き尽くしてしまった。シホの憎たらしい笑顔が白い光に浮かび上がる。
 もう十体も化物を倒した。シホの背後にはあと四つのタンクがある。
「やるじゃない。もうクリーチャー使い切っちゃいそうだわぁ」
「追い詰めました。残りの化物もすぐに倒します」
「クフフ、私を誰だとお思いで? ヒエロノムスマシンを扱える××××××××でしてよ? ×××と一緒でしたら倒せないものなんてありませんの」
 ××の力は「精神感応装置の設計・開発」である。使用者の魂・精神・魂源力を、機械を通して物理エネルギーに変換する装置を作ることができるのだ。××が今使っているライトサーベルも、××の魂源力を攻撃力として変換しているヒエロノムスマシンを駆使した発明だ。
 そして何よりそんな彼女の最大の発明は、相棒であり親友の××××××××だろう。その華奢な手から放たれる荷電粒子砲の威力は、あの広島型原爆の三十倍以上のものを持っており、×××××たちの間で最大最強の攻撃力を誇る。
「××××××××。恐ろしい発明品ね」
「あいにくそういった罵倒には慣れてましてよ? 我ながら恐ろしいですもの、母国の原爆よりもとんでもないものを作ってしまったなんて」
「そうじゃないわぁ・・・・・・。あなた自身の異能が忌々しいのよ」
「・・・・・・何を仰りたいのでして?」
 またも強烈な不快感。
 どうもこのシホという女は気に食わない。でも××もだんだんとわかってきた。この女は自分にとって近づいてはいけない「危険」な人物であったのだ。
「人間の魂を・・・・・・人の命を弄んで楽しい? お嬢ちゃん?」
「なっ・・・・・・。そ、そんなわけじゃ!」
「そう、何が違うっていうのかしらぁ、この私と」
 またも化物が一体、××に飛び掛ってきた。ものすごい勢いで突っ込んできたので、××××もフォローが遅れた。そのまま地面に押し倒される。
 化物は頭から触手を生やしていた。やはり顔面は皮膚に覆いつくされていて、表情などまるでわからない。すぐそこに眼球がぷらぷら下がっており、自分の吐息で揺れ動くのがとても気持ちが悪い。触手は××の首元に伸びてきて、締め上げようとしてきた。
「うっとうしいですわっ!」
 手元のライトサーベルが××の魂源力とリンクする。ビーム上の刃先がぎゅんと伸びて、見事、化物の胴を貫通する。ギェエエエエエという絶叫をすぐ近くで聞いてしまい、××は不快感のあまり顔が歪んだ。
 ところが・・・・・・。
 力の抜けた触手が、すぐ目の前に垂れ下がったとき。あるものに気がついた。
「なんですの? これ・・・・・・?」
 リボンだ。とても綺麗な赤い色をしており、化物の触手にこびりついていたのである。
「あらあら、残っちゃってたみたいねぇ。それ、その子のお気に入りだったものよ」
「え? ・・・・・・あなたまさか!」
「ご明察。この化物たちはみんな、異能者の女の子を改造したものよ!」
「人間を改造ですって・・・・・・! あなた、何てことを!」
 赤いリボンの化物は絶命していなかった。××は触手に喉をつかまれて、一気に締め上げられてしまった。
「××ちゃん!」
 ××××が化物を引き剥がして、投げ飛ばしてから熱線で焼いてしまう。赤いリボンが炭となり、粉々になって舞い落ちる。
 シホは白衣の内ポケットから何かを取り出した。「これは空っぽだから安心してね」という前置きをしてから、楽しそうに××たちに解説を始める。大きめの注射器だった。
「この注射器を心臓に突き立てれば、たちまち触手ばっかりの化物ができあがっちゃうの。その薬品を作るのがこの私、超科学者・高木志穂の異能『クリエイト・クリーチャーズ』よぉ」
「つまり魂源力を抜いた女の子をみんな、化物にしちゃったんですね・・・・・・!」
 ××××がシホにそう言うと、彼女は楽しそうに「正解♪」と返した。
「あなたたちは人間たちを焼いたり切ったりしたも同然。あらあら、何だか罪深いことしちゃったわねぇ」
「狂ってる・・・・・・! あなた、狂ってますわ!」
 たまらず××はシホにそう言った。
「狂ってる?」
 シホは一瞬きょとんとして、すぐ頬を吊り上げた禍々しい笑顔になる。狂おしく笑う。
「『狂ってる』! 科学者にそれは褒め言葉よ、お嬢ちゃん!」
 ××の全身の震えが止まらなくなった。不快感によって体がおかしくなったとしか思えなかった。このような頭のおかしい科学者と同じ科学者である自分が、とても嫌になった。
 ふと、××の脳裏におかしな世界の光景が浮かび上がる。
 いつか、どこかで、自分も全く同じような台詞を誰かに言ってのけたような気がするのだ。

『科学対陰陽術。どちらが上なのでしょうね? 楽しみですわ~』
『あ、あなた・・・・・・あなたは狂っています』
『科学者にとってそれは褒め言葉に過ぎませんわね』
『・・・・・・』

 それは、××の今いる世界とは直接結びつかない、別の次元の世界での話。彼女がはっきりと思い出せないのは当然なのである。
 はっきりとは覚えていないが、確かに言った。
 自分はこのキチ×イ女と同じ台詞を言った。
「自分はこんなにも醜い人間だったっていうの・・・・・・?」

「××ちゃん、しっかりして! ××ちゃん!」
 ××××に呼ばれ、××ははっとして我に返った。××××はというと、シホによって解除された残り二体の化物に囲まれて苦戦しているところだった。地面に座っていたので立ち上がろうとしたとき、顎をくいっとシホに持ち上げられる。
「あなたも私と似たようなもんよぉ。人の魂を捕まえて、殺人兵器にしちゃうなんて」
 両目が張り裂けたように大きく開かれる。これまで自分の異能を、そこまで手ひどく言われたことはなかったから。
「そんなつもりはないですわ・・・・・・。私はただ×××の、×××のために」
「あの子がああして戦っているうちに、魂はどんどん消費されていくんじゃなくてぇ?」
「!」
 図星だった。××が無意識のうちに恐れていたことを、この女は口に出して見せたのだ。
「××ちゃん、そいつの話を聞いちゃだめ!」
 しかしもう××には××××の言葉が届かない。恐れていたのだ。××××が魂を使い切り、いつか自分の前から消えていなくなってしまうことを。
 夢をたまに見た。それは、魂を使い切ってしまった××××が、満足に恋愛もできないままはかなく燃え尽きて無くなってしまう夢。それは夢だと片付けられないぐらいリアルで、まるで軸を少しずらした位置で展開されている全く同じ世界であるようにすら思えた。
 自分が××××に会長と戦わせなければ、××××はもっと長生きできた。
 自分が発明にこだわり続け、力を求めなければ××××はもっと長生きできた。
 ××××××であることにコンプレックスを抱き、ついには暴走さえしなければ、××××はもっともっと長生きできて・・・・・・好きな本や雑誌を読んだり、大好きな恋人とディズニーランドへデートに行ったりできて・・・・・・。
 それは××××を失い、悲しみ、寂しい思いをして双葉島を離れたとても辛い世界の物語。
「友達の命を弄ぶなんて、まるでエリザベート様みたぁい! そっくりねぇ私たち!」
「違うんですの・・・・・・私はただ・・・・・・×××に幸せになってほしくって・・・・・・」
「その×××の命を削って、あなたは何をやらせたかしらぁ?」
「あれはただ・・・・・・私たちの力をみんなに」
「荷電粒子砲で皆殺しにしようとしたんですってね! やっぱりあなたもこわぁいキチ×イよぉ」
「うう・・・・・・うわぁあああ・・・・・・」
 とうとう××は泣き出してしまった。自分はとても嫌な奴だった。このシホやエリザベートと大して変わらない、双葉学園の悪者。問題児。キチ×イ科学者。
「それでいいの、お嬢ちゃん」
 打ちひしがれて顔も向けられない××に、シホはすぐ側についてささやく。
「人の命なんてどーでもいいの。もっともっと力を使っちゃいなさい。自由に頑張っちゃいなさい。あの学校にいるだけじゃもったいないわぁ、私が正しくて立派な超科学者に育ててあげる」
 ××だって決して人の命を軽んじているわけではない。醒徒会と戦ったのも、ただ自分の実力を示したかっただけのことだった。本当にただそれだけのことだった。
 こんな、本当の意味で人の命を弄ぶ奴と同類であるわけがない。でも、自分のやったことや異能を考えてみたら、こいつと何がどう違う? ××の幼い心は激しく揺れ動き、戸惑い、そしてただただ泣きじゃくる。それだけシホは××の心に深い傷を抉ったのだ。
「人の命は、材料に過ぎない」
 ほんとう、私たちってそっくり。シホは××の隣につき、そうささやいた。


 だが次の瞬間、シホの顔面が殴られてひしゃげる。
 吹き飛ばされて××から引き剥がされるシホ。口元を切ったため血液が横に流れていく。
 シホに手痛い一発を食らわせたのは、××の親友××××××××だった。
 本物の××××から分離し、魂だけただよっていたのを××に保護され、専用のボディを与えてもらった。××の力のおかげで話も出来るし、学校に通って勉強をすることだってできる。
 地面に叩きつけられたシホは、よろっと起き上がって××××を睨む。
「殴ったわねぇ・・・・・・!」
「××ちゃんに触らないで」
 泣いている××を抱きしめながら、××××は静かにこう言った。
「××ちゃんはね、こんな私のために体を作ってくれて、力をくれて、異能を使ってくれた」
 そっと××の涙を指先で拭ってあげてから、××××はゆっくり立ちあがる。
「×××・・・・・・?」
 ××は××××を見上げて言葉を失う。××××は歯をぎっとかみ締めて、震えていたのだ。人工のにぎりこぶしから、ぎりぎりという締めつける音が××の耳に入ってくる。
「それを・・・・・・悪人呼ばわりして・・・・・・!」
 ぐるっと××××はシホのほうを向く。そのとき、確かに××は××××から熱い液体が飛んだのを見た。
「許さない! ××ちゃんをいじめたあなたを許さない! ××ちゃんを踏みにじったあなたを絶対に許さない!」
 信じられないことだった。あれだけ表情に乏しくて無感情だった××××が、自分の気持ちのままに力強く振舞っている。
 怒り。悲しみ。
 ××××××××は一つの独立した人格として、完成の域に近づきつつあった。一人の立派な人間として花開こうとしているのだ。
 そしてもうシホには化物が残っていない。××××が残りの化物をすでに倒してしまったので、彼女には何も手が残っていなかった。
「ちっ、エリザベート様の力を――う!」
 きびすを返して離脱を図ったときだった。××××がシホの上空をバーニアで通過し、あっという間に先回りしてしまったのだ。彼女の前に××××が立ちはだかる。
 ××××は激しい怒りの込められた視線をシホに突き刺す。機械ならではのまったく変化のない一定の表情が、とても不自然で恐怖を与える。シホともあろう異能者も、鳥肌が立ってしまうぐらいだった。
 シホは双葉学園の異能者を知らなかった。特別な教育や訓練を受けている学園生徒は魂源力も戦闘力も非常に高い。シホは甘く見ていた。自分よりもずっと××××たちが強いと言うことに今になって気がついたのである。
「ふ、ふふ、目的はこの鍵かしらぁ?」
 ××××は返事をせず、無言で右手をかざしてくる。熱線攻撃だ。
「鍵を渡せばいいんでしょ? 何で攻撃しようとしてくるのぉ?」
「・・・・・・するからです」
「え」
 その瞬間、シホを取り巻く夜が真っ白に閃いた。××××が容赦なく、至近距離で熱線を放射させたからである。
 シホは全身を焼かれ、たちまち真っ赤に皮膚が焼け爛れてしまった。特に言葉も発することなく、大の字になって後ろに倒れこんでしまう。至近距離から熱線を浴びせたので、恐らく内蔵にもダメージが及んだことだろう。
 手をまっすぐかざしたまま、××××はやはり表情ひとつ変えない。そして、意識があるのかないのかもわからないシホに対し、こう吐き捨てたのであった。
「とってもとってもムシャクシャするからです・・・・・・!」


「××ちゃん、大丈夫?」
「うん、助かりましたわ、×××」
 シホを倒したあと、××××は×××のもとへ駆けつける。あれだけこき下ろされた×××のことが心配でたまらなかった。
「本当?」
 ××××が上目遣いで伺ってくるので、××は焦ってこう返した。
「ほ、本当ですわ! 罵倒には慣れてましてよ? あの程度のことでへこたれるような××××××××じゃありませんの!」
 そんな××の目元に、××××の細い指先が伸びる。右目に涙が残っていたのでは拭ったのだ。それだけすると、××××は「にこっ」と微笑んでくれた。
「もう・・・・・・っ」
 ××は××××の手をしっかり手にとり、自分の頬に当てる。まるで自分が作ったボディではもうないようだ。なぜなら××××の温もりが感じられるような、そんな気がするから。しばらくの間、そうして傷ついた心を癒す穏やかな時間を過ごそうと思っていたときだった。
 ドンッという感触を直に感じてひどく驚く。××××の手を頬につけていたので、ひときわ強く、ダイレクトに感じられた。
「なっ・・・・・・、何が起こったの!」
「あ・・・・・・うあ・・・・・・」
 ××××がうめき声を上げていた。血の気の引いた××の視線が下に落ちる。すると、××××の腹部に触手が貫通しているのを目撃した。
「×××!」
 化物は全部倒したから、こうして不覚を取るはずはないのである。××が触手の主を見ると、たまらず驚愕する。何と、全身にやけどを負ってボロボロのシホが、右肩から触手を伸ばして××××の背中を貫いていたのだ。
「そんな、あなたまで化物でしたの!」
「・・・・・・あんたたち、もう生きて帰さないから」
 やがて変貌が全身に及ぶ。長い茶髪が全部抜け落ちて地面にばさばさ落ちる。脳が蒸発してボンと頭部から噴出し、両眼が飛び出した。どろどろと顔面の皮膚が溶けてやがて固まり、見慣れた灰色のクリーチャーとなってしまう。両腕だけでなく背中や膝からも触手が伸びて、××××の左肩を掴んで手繰り寄せた。
「うぐ・・・・・・あ、ああ!」
 ××××の左肩に巻きついた触手が、その締めつける力を強くする。ぎちぎちというボディが軋む音が聞えたとおもったら、たちまちバチバチというスパークの音が弾けた。
「やめてぇー!」
 ××が絶叫した瞬間、「バキン」という音が高らかに響いた。左腕がぼとんと落下し、肩から血液を連想させる火花が噴き出ていた。左肩を引きちぎられた××××はようやく解放されて、腰を抜かしている××のもとに放られる。ががっと地面に引きずられて停止した。
「ああ、なんてこと。なんてことなの、×××」
 涙を流しておろおろしている××に、××××は言った。
「××ちゃん、しっかり」
 大きな損傷が入ったにも関わらず、彼女は十分落ち着いている。
「損壊率二十パーセント。大丈夫、戦える」
 心配する××をよそに、もう一度立ち上がった××××。失った左手に変わり、右手の放熱装置を露出させた。彼女の誇る奥の手である。
「荷電粒子砲を・・・・・・撃ちます!」
 深手を負った××××は力強く宣告した。
 大好きな××を守り抜くために。



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