【MPE 4】


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   4


「ゲホッ、ゲホッ!」
 ピンクを基調としたなんとも可愛らしいパジャマの女の子。彩子は自室のベッドで上体を起こし、本を読んでいた。時折激しく咳き込んでしまう。
「あんにゃろ、思いっきりウィルス移していきやがったな」
 昨日は厄日といっていいぐらい災難続きだった。昼休みにクラスメートと遊んでいたら、謎の二人組みにいきなり襲われてしまった。強烈なスタン攻撃と×××××のウィルスを二重にもらい、体が悲鳴を上げる。体育倉庫の脇でくたばっていたところを、拍手敬や笹島輝亥羽らクラスメートに発見され、保健室に運ばれていったのだ。
 二時間ぐらい眠ったら少し楽になったので、襲ってきた二人組みのことを保健室の教諭に話したのがさらなる地獄の始まりであった。特に「エリザベート」という言葉を発したとたん、醒徒会・風紀委員・異能警察のお偉いがたが来るわ来るわ、合計して三時間以上も事情聴取につき合わされてしまった。二十一時に幸子の車に乗せられて帰宅したときには完全に死んでいた。
「勉強遅れちゃうじゃないの」
 むすっと窓の外を眺める。今日も夏場らしいいい天気だ。時刻は午前十時。こうして家に引きこもっているのがもったいないぐらいの、気持ちのいい朝だった。
 きらっと何かが輝いた。
 彩子は「ん?」とよく目を凝らして青空を見つめる。
 その瞬間、「女の子の顔」が飛来してきてぐんぐん迫ってきたのを認める。「いやああ」と彩子は真横に飛び、床にゴロゴロ転がった。窓ガラスを豪快に突き破り、彩子の寝ていたベッドにガラスの破片が散らばる。あと一歩遅れていたら血まみれの惨劇が起こっていた。
 女の子は両足からバーニアを噴かせていた。これで飛行し、直接彩子の部屋に突入したのだろう。ぽんぽんと服に付いた破片を払い、にっこり彩子と対面してこう言った。
「初めまして彩子さん。××××××××です。玄関からお伺いするのもはばかれたので、空から直接こんにちはしちゃいました」
 バシンと竹刀で天然ボケ少女を叩く。
「何バカなこと言ってんの! 常識考えなさいよ!」
 そしてシュルシュルとベランダに巻きついた謎のロープ。彩子は「ひっ」と悲鳴を上げる。
「よいしょ、よいしょ、ふう、突入とか久々にやったわ」
 ロープを伝って這い上がってきた、サイドポニーの特徴的な眼鏡の子。彩子は×××××××××××の玄人じみた動きに言葉も出ない。
 それから、「コトン」と何かが立てかけられた音。ベランダの柱にハシゴが立てかけられていた。
 一歩一歩、ゆっくり上がってきた高等部の女の子。前髪が隠れてほとんど見えない×××××の登場だ。
「お二階だというので・・・・・・ハシゴ・・・・・・借りてきちゃいました・・・・・・」
「×××さんって冷静ですのね・・・・・・」
 同じように後からハシゴを上がってきたのは、××××××××である。
「あ、あ、あんたたち、どういうことなの!」
 突然の不法侵入に腰が抜けてしまっている彩子。人差し指を彼女らに向けて、縦に振り動かしていた。


「そんなことだろうと思ってたわ」
 ××、××××、×××が三人並んでちょこんと座っている。その前にデンと胡坐をかいているのは×××××だ。
「昨日何があったか教えてもらいたいの。×××××を連れていかれたんだから、私たちもおとなしくしていられない」
 フン、と彩子は立ち上がって腕を組む。そして言った。
「お断りするわ」
「ええっ」と悲しそうな顔になる××××。
「そんな、手がかりを知りたいだけですのに」と××。
「残念・・・・・・無念・・・・・・」
「どうしてよ! あなた犯人の顔見てんでしょ? 私たちはあいつらに一泡吹かせてやりたいだけなの!」
「やだったらやだ」
 済ました顔でぷいと横を向いてしまう彩子。それから四人にこう言って突き放した。
「学園の犯罪者に加担したくないもの!」
 それだけで××らは黙り込んでしまった。彼女たちは先月にとある大事件を起こした学園の問題児なのだ。
 学園がひた隠しにしてきた「××××××」の異能者たち。彼らは有害な異能者として同じ異能者から区別・管理される立場に貶められてきた。
 それを変えるために、×××××ら後の世代の××××××を守るために、自由を勝ち取る戦いに出た人もいた。しかしそんな人の尊い犠牲にも関わらず、現状として何も変えられないという空しい結果に直面したとき、彼女ら七人の感情は大きな爆発を見せた。それが先月の学園テロ騒動である。
 ×××××らは醒徒会に破れた。
 退学処分こそ免れたが、果たして彼女ら七人は何かを変えられたのだろうか? いや、何も変えられたはずがない。強硬手段や暴力行為では何事も変えられないということを、彼女たちは知らなかった。
 事件後の記憶操作こそ試みたものの、この六谷彩子のように精神力が強い者には通用しない。あの騒動で×××××ら七人の凶悪な言動を目撃したものや、怪我など被害を受けたものはしっかりと彼女らを特定危険人物として広めていた。
 以前よりも数倍と厳しくなった、軽蔑の視線。監視の網。彼女たちが学園生徒として周囲に溶け込むことは、もう不可能なのかもしれない。現状に変化をもたらすため出た行動によって得られた結果がこれでは、余りにも本末転倒だろう。
「みんなどんな目にあったか知ってる? フケ女に怯えて泣いてる子がいた。バイキン女の菌が流れてきて病気になった子だって出た。私なんてね、暗示が脳に残ってしばらく頭痛が離れなかったんだからね! ・・・・・・あんたのせいよ、目隠れ!」
 指を差されたとき、びくっと×××の肩が揺れた。
「あんたたち、私に物を頼める立場なの? ふざけないで!」
 七人はもう双葉学園で浮かばれることはないのか? 学園を、それも醒徒会を相手に力を使った罪は重かった。
 不敵な笑みで醒徒会メンバーの前に現れた××××××××。
 何のためらいもなく危険な荷電粒子砲を、会長と校舎めがけて放った××××××××。
 不特定多数の生徒の脳に干渉し、暗示をかけて制御した×××××。
 校舎内に鱗粉を吹き込もうとし、大多数の人命を脅かした××××。
 醒徒会の活動を妨害し、××に加担して結界を貼った××××。
 醒徒会会計監査を徹底的にいたぶった、テロの首謀者×××××××××××。
 そして、冷酷極まりない視線で醒徒会を殺しにかかった、××××××××××。
 かつて学園に対して牙を剥き殺しにかかった連中が、その学園生徒に懇願して力を借りようなどとは、彩子にとって虫のよすぎる話に思えて非常に気に食わないのである。
「あたしゃ昨日から事情聴取ぶっ通しでうんざりしてんの! しかもバイキン女のせいでインフル地獄だし! その上人の部屋に不法侵入? 揃いも揃って馬鹿やってんじゃないわよ! これ以上なんか悪巧みしてんのなら、すぐにでも通報して学園にいられなくしてやる!」
 一方的にまくしたてた後で、彩子は脳裏に×××××のことを思い出す。自分に覆いかぶさって、代わりに恐ろしい連中に連れて行かれた彼女。そんな彼女の優しい好意をふと思い、少々心が揺れ動く。でも強情で意地っ張りな彩子はなおも四人に対して強気な姿勢を貫く。
「まったく。ああいう弱っちい女大っ嫌い。あんなことしておいて、自分は被害者ぶったような面して」
 そこまで言った彩子は、突然胸倉をきつく掴み上げられた。
「×××××!」
 ××らが慌てて立ち上がった。×××××が彩子の寝巻きの襟を掴み上げ、そのままクローゼットに叩きつけてしまった。本棚の本がゆれ、家族写真の入った写真立てがぱたんと前に倒れる。
「×××××の悪口は許さないわよ・・・・・・」
「くっ、あんた・・・・・・!」
「別にあんたの御託を聞きにきたわけじゃないの。ぎゃんぎゃん吼えてないでとっとと教えなさいよ」
「こんなことして・・・・・・あんたたちはやっぱり学園の」
「どーとでも言えば?」×××××はニヤリと笑って彩子を煽る。「どうせ失うもんなんてないんだし。んなことより教えてくれないんなら、この首根っこ折っちゃうわ」
「てめぇ・・・・・・ッ!」
「×××××、もういいでしょう!」と××が一喝する。××××とともに彩子から引き剥がされたとき、×××××の両目から涙があふれ出た。
「×××××を助けたいのよ!」
 じゅうたんに手を付いてけほけほ咳き込んでいた彩子は、感情を爆発させた×××××のことを見上げる。
「あんたが教えてくれなきゃ、私たち何にもできない! ×××××を見殺しになんてしたくない!」
「彩子さん。確かに私たちはあのような行為で、何もかもを失ってしまったのかもしれません。でも、こんな私たちにもまだ大切なものが残されているのですわ」
「仲間・・・・・・」
「×××××は大事な友達。それまで失っちゃったらもう、私たち・・・・・・」
「お願い、教えて! 誰が×××××をさらったの? ×××××をどこにさらったの? 優しいあの子を返して欲しいだけなの!」
 彩子はしばらく下を向いて黙っていたが、やがて怒りの熱が引いていき、重い口を開くに至る。
「見たことの無い男女の二人組だった。一人が銀色の髪をした男で、もう一人が白衣を着た茶髪の女」
 白衣という単語を聞いたとき、××の眉尻がピクリと動いた。別に件の人物と面識があるわけではなく、ただ自分と似たような格好をしていることが気に入らなかっただけのことである。
「男のほうが、スタン攻撃を仕掛けてきてかなり危険。女のほうは、手の内はわからなかった。ただ薬品の仕込まれたハンカチを押し当てられたから、危ないことには変わりないわね」
「その人たち、『エリザベート』って言ってたんだよね?」と、××××。
「そうよ。いったい何のことかよく知らないけど、そのことを学校側に教えたら大騒ぎになっちゃって。かといって、みんなは秘密にしていて何も教えてくれなかった。ああもう、思い出しただけでイライラしてきた」
 昨日のことを思い出し、再び頭から湯気が出てきた彩子。
 これで敵のことがわかってきた。銀髪の男はスタンガンのような異能を持っており、女のほうは超科学者の可能性が高い。「エリザベート」の手先として双葉島に潜入し、中学生二人と×××××をさらっていったのだ。
「助かったわ」×××××は立ち上がる。「あなたのおかげで相手を想像することができた。ありがとう」
「フン。一生懸命な奴はほっておけないだけよ」
「今度I組に来るといいわ。歓迎してあげる」
「死んでもい・や・だ!」
 そして×××××は××ら三人のほうを向き、威勢よくこう言った。すっかり気持ちは落ち着いているようだ。
「×××××を奪還するわ。これから一時間、昼食がてら作戦会議よ!」
「そうと決まれば早速行動ですわね」××が不敵な笑みで××××と向き合う。「×××、行きますわよ!」
「うんわかったよ。××ちゃん」
 ××××の体が宙にふわっと浮き、くるぶしのあたりが変形を見せる。やがて足の先がバーニアとなり、鉄腕アトムを連想させるような炎が飛び出した。
「ちょっと、それ床燃やさないわよね!」
「大丈夫です。周りに被害は与えません」
 ニコッと微笑みを向ける××××。しかし彩子はあたふたして「床が焦げてるじゃないのー!」と絶叫している。
「さあ、いくわよ×××!」
「うんっ!」
 バーニアの出力が増大し、二人は窓の外へ飛び出した。そのまま青空に吸い込まれていった。
 ×××××らはというと、×××のはしごを使ってベランダから降りるところであった。迅速なペースの連中に彩子はほとんどついていけない。
「ちょ、ちょっとあんたたち」
「彩子って子、本当にありがとう! じゃあね!」
 こんこんとハシゴを降りていく×××××。×××はとっくに降りてしまっているのだろう。ベランダから様子を伺がうが、そこにはもう誰もいなかった。ハシゴすら存在していなかった。
「掃除ぐらいしてけー!」
 彩子の部屋は散乱した窓ガラスと、土足の足跡で盛大に汚されていた。
「彩子ォ・・・・・・」
 そして背後から聞えてきた殺気十分の声。彩子は真っ青になり脂汗を流す。
「さ、幸子姉・・・・・・?」
 ドアのあたりに、彩子の朝食を持ってきた幸子がたたずんでいた。口元から真っ黒な瘴気がもくもく溢れており、今にも異能であるマグマを放ってきそうだった。
「てめぇインフルでくたばってるわりには元気じゃねぇか。ガラスぶち破るぐらいテンション高ぇじゃねぇか」
「違うわよ! ×××の奴らが窓からこんにちはしてきて」
「連中は謹慎中だ。彩子てめぇ、幸子様に嘘つくのか」
 ボボンとおかゆを運んできたお盆が炎に包まれ、炭になる。彩子は「ひぃいいい」と涙を浮かべて悲鳴を上げた。
「病人は病人らしく床に伏せてもらうぞ・・・・・・!」
「やだ、やめて、助けて」
「人が休暇とって看病してんのに・・・・・・遊んでんじゃねぇやぁ――――――――――ッ」
「××――××――――ッ! いつかブッ潰してやる――――――ッ! あぎっ、ぐふっ、ぐぉえぇえ!」


 昼食後、××××は双葉島の中央街にて単独操作を始めていた。
「白のRX7?」
『そう。平たく言えばスポーツカーですわね。ナンバーが袖ヶ浦ですわ』
「袖ヶ浦ね。××ちゃん、よくそこまでわかったね」
『学校を偵察してる×××××が教えてくださいましたの。白い不審なスポーツカーが島内にいるって。そうしたら、今度は×××さんがたまたまその不審車を目撃してまして』
「ありがとう、探してみる」
 ××××は携帯電話を切った。ボディに仕込まれた結界サーチを起動させ、辺りの店舗や住宅に目を向けた。
 相手は結界を張っている可能性があった。目撃情報が出ているのにも関わらずいっこうに居場所がつかめないからである。
 だから××は自分の異能を駆使して××××に結界サーチモードを搭載した。不自然に結界に守られている建物を探すのが、××××の役割だ。目印は若い男女、白い袖ヶ浦ナンバーのスポーツカーだ。
 ×××は××のラボで情報収集に励んでいた。×××××も学園に潜入し、動きのあわただしい醒徒会室や風紀委員の様子を偵察している。白い車の情報が得られたのも、こうした地道な活動の結果であった。
 なお、アジトらしき建物が風紀委員によって発見されたが、もぬけの殻だったという。元は何かの作業場だったことだろう、部屋の広い空き屋であった。そういった情報も×××××の耳に入ってきた。
 そして十四時半ごろ。ついに××××から電話が入った。
『見つけたよ。結界に包まれた倉庫があった。表から見えないようにされてる』


 十五時。倉庫があると思われる場所は、ただの広大な荒地であるようにしか見えない。××は専用のグラスを付けて荒地のほうを見る。
「確かに倉庫がありますわね。外から見えないようにされてますわ」
「異能アイテムじゃ構築できない、すごく高度な結界だよ」
「妙ね。連中、結界使えるような仲間がいたの?」
「油断・・・・・・禁物・・・・・・です」
 ×××××ら四人はちょうど倉庫の入り口がある場所にまで近づいた。ところがその瞬間、眼前に巨大な倉庫が出現したのだ。×××××は思わず「うぉっ」と口に出す。
「び、ビックリしたぁ。結界を解いたの?」
「××ちゃん、これって」
「クフフ。入ってこいってことですわね。上等ですわ」
 四人は倉庫内に入る。入ってすぐ、白い車を発見した。
「袖ヶ浦ナンバーだね。とうとう相手に迫ってきたんだ」
「この車に・・・・・・轢かれそうに・・・・・・なりました・・・・・・ひどい」
「×××××! ×××××、どこにいるの! いたら返事して!」
 ×××××の声が倉庫に反響する。そして聞えてきたのは、×××××の声ではなかった。
「よくきたわね、歓迎するわよ」
「えっ・・・・・・」
 四人の思考が一瞬にして停止する。その声の持ち主は彼女らにとって全く想像のつかなかった人物であったから。
「×の結界を見破れるなんてね。やっぱりあんたたちならできると思った」
 奥の物陰から出てきたのは、長い黒髪を腰の辺りまで下ろした双葉学園高等部の女子――××××であったのだ。もう一人誰かが出てきた。
「もう動いてたんだ。けっこう友達思いなんだね」
 ××よりも少し背の低い、目のぱっちり開いた少女。×××××である。
「あ、あなたたち!」
 驚愕のあまり××は叫んだ。何と、××××××として学園と共闘した仲間であるはずの××と×が、敵陣にて自分たちの前に現れたのだ!
 結界を貼って敵の支援をしたのは×であった。今、双葉学園が血相を変えて調査に乗り出している外部の敵に対し、この二人は付いたとでもいうのか。
「××! ×! これはどういうことッ!」
 ×××××が怒鳴り散らす。××も×も苦笑を見せ、必死な形相の彼女を馬鹿にしたような態度でこう言う。
「私たちがあんたたちを追い払うよう、指示をもらったの」
「今、倉庫に結界を貼ったよ。この領域は××ちゃんの攻撃範囲内にある。死にたくなかったらすぐにでも出て行くことだね」
「そんな、どうして・・・・・・」
「暴れたいからよ?」
 今にも泣き出しそうな顔をしている××××に、××はそう言ってのけた。
「私ね、ずっとうずうずしていたの。もっと活躍して、暴れて。みんなにこの黒髪や綺麗な鱗粉を見せ付けてやりたかった」
「でもやられちゃったよね、醒徒会に。情けない」
「あ、あなたたち、まだそんなこと言ってるの・・・・・・」
 ×××××が呆然としながら××に言う。
 信じられなかった。醒徒会に全力で勝負を仕掛けて敗北し、彼らの保護のもとこれまでと変わらぬ学園生活を送れるというのに、まだ××がそんなことを言うなんて。自分たちが声を大にして言いたかったことや、成し遂げたかったことは、あの日に全て出し尽くしてしまったはずであった。
 醒徒会は強かったし、今でもこんな自分たちのことを守ってくれる。仲間の大切さや、仲間は絶対に裏切らないということを、×××××は彼らから教わった。そして強硬手段や暴力行為では何も変えられないということを、体を張って教えてくれたのも藤神門御鈴ら醒徒会であったというのに・・・・・・!
「間違ってるわ××! そんなことしても意味がないのよ!」
 前へと飛び出し、××に掴みかかろうとする×××××。ところが見えない壁と正面衝突し、彼女は鼻血を撒き散らしながら味方のところへと吹っ飛んだ。
 ×がお札を指先に握っている。彼女が結界で×××××を攻撃したのである。そう、この瞬間、彼女たちに走る亀裂が明確なものになったのだ。
「何てことを・・・・・・!」
 ××が××と×を睨みつける。××はくすくす笑いながら、痛みで苦しむ×××××にこう手ひどいことを言った。
「あんたがもっとしっかりしてれば、醒徒会の連中も倒せたじゃない?」
「裏切り者!」
 言葉を発せられない×××××に代わって、××が怒鳴る。
「裏切り物ぉ? うふふふ、そんなもんでしょ、私たち×は?」
「どうせただの寄せ集めだもんね、××ちゃん?」
 ××と×が二人でくすくす笑い合っていたときだった。彼女らの前に一人の人間が立ち、二人も警戒する。強制暗示の異能者・×××××だ。
「そんなことは・・・・・・絶対に・・・・・・許しません・・・・・・!」
 右手で前髪をたくし上げ、神秘的な金色に彩られた瞳を露にする。魂源力を解放し、暗示の異能を発動させる。
「間違ってます・・・・・・目を・・・・・・覚まして」
 ところが、そうして×××が一歩前に出たのが連中の狙いであった。
 倉庫の高い天井から、何者かが降ってきたのだ。これを見た×××××はひどく焦った。
 銀髪の美青年。×××が危険を感じて後ろを向いたが、遅かった。
 バチンという衝撃音。彼が右手を×××の頭にかざし、力を込めた瞬間、彼女は脳に強いショックを受けて気絶してしまった。
「ふう、危ない危ない。×の言ったとおりこの子は危なかった・・・・・・」
「お見事ぉ。入団テストは合格ってとこねぇ」
 手を叩く音が響き渡る。××と×のいるさらに奥のほうから、白衣姿の女性が登場したのである。
 ×××××ら三人は悔しそうに下を向いた。暗示という強力な能力を持つ、×××××を潰すことが敵側の作戦だったのだ。×××が一人になって前に出てきたところを、天井に潜んでいたジュンが一気に叩き潰すという作戦だ。××と×はおとりに過ぎなかった。
 ××と×が敵側に付いた時点で、×××を狙われる危険性を察知すべきだったのだ。なぜなら××たちが×××××をさらった憎らしい二人組に、自分たちの情報を提供したに違いないのだから。結界まで貼られているのを認めてもなお、××と×を敵として見ることができなかった。そんな自分の甘さを、×××××は強く後悔した。
 ジュンが×××を抱えて敵陣に戻る。
「×のおかげで危険を回避できた・・・・・・ありがとう、×。愛してるよ」
 ×はそっぽを向いてまるで相手にしていない。ジュンの発言にカチンときたのは、×のほうであった。
「ヒエロノムスマシン操作の××××××××さん。荷電粒子砲の××××××××さん。そして、エントロピー操作の×××××××××××さん。・・・・・・すごい面々ねぇ」
 シホが一人ひとりの顔を見ながらそう確かめるように言う。そこまで情報が漏れているのも驚愕に値すべきことなのだが、どうせ××らが教えたに違いない。
「自己紹介しとこうかしら? 私は『クリエイト・クリーチャーズ』のシホ。化物を創る異能を持ってるの」
 そのとき、背後から何かが飛び掛ってきた。××と××××が瞬時に反応するが、彼女たちは言葉を失う。灰色をした小型の化物が二体襲ってきたからだ。
「何なの、こいつらッ!」
「××ちゃん気をつけて! はうっ」
 瞬く間に××と××××は触手に絡めとられてしまい、二人とも身動きが取れない。
「そして僕はスタン攻撃――『ワールド・フォーリング・ダウン』のジュンさ。エリザベートに言われてはるばる来たよ」
 これで×××××たちにとってはっきりとわかった。エリザベートが双葉学園にいよいよ攻撃の手を向けたこと。次に、×××××と×××がエリザベートに奪われようとしていること。それから最後に、××と×がエリザベート側に付いたこと。
「××! ×! あんたたち本当にエリザベートに付く気なの!」
「当然よ。ああ、やっと私、活躍できる場に恵まれたのね。こういうのを待ち望んでたの!」
「私たちがね、島の女の子をたくさんさらっていくんだ。現役生徒の私たちなら適任だね。エリザベート様に気に入ってもらえるよう、頑張らなくっちゃ」
 二人は同時に自分のモバイル学生証を差し出した。
「こんな学校、もう興味無い」
 ×××××たちに見せ付けるよう、魂源力で学生証を破壊してしまった。
「させない・・・・・・させないわ」×××××は立ちあがる。「私たちは何があっても『仲間』。××、×。絶対に行かせはしない!」
 その宣言に、ほんの一瞬だけ××と×が苦悶の表情を見せた。
「×××××も×××さんも渡しませんわ!」
「お願い戻ってきて! ××ちゃん、×ちゃん!」
 ××××も、触手に苦しめられながらも必死に懇願する。
「エリザベートなんて知ったこっちゃないわ。みんな渡しやしない!」
 ×××××が魂源力を解放し、空気中から水素を強引にかき集めてきた。相手側に水素を充満させてから石を拾い、異能力を込めて投げつける。壁や地面に衝突したときの火花で爆発させるつもりだ。悪の異能者であるジュンとシホは、この場で葬り去らなければならないのだ。
 しかし、向かってきた石の直線上に見えない透明な壁が構築された。衝突時の火花で水素が反応し、破裂音が上がる。×がシホやジュンを保護するため結界を貼ったのだ。
「嬉しいわ×××××。これが私たちの答えよ」
 ××の髪が魂源力により、天上目掛けて突きあがる。鱗粉が瞬く間に倉庫全域に広がった。きらきらと光る粒子で視界がいっぱいになった。
 これに触れれば命は無い。×××××アは××の言動に傷つき、涙をぽろっと零す。
「逃げよう、××ちゃん、×××××!」
 命の危険を感じ、××××が両足をバーニアモードに切りかえて緊急離脱を図る。化物の拘束から逃れ、まず××を救助してから、立ちすくんで動けない×××××を捕まえる。
 本気で殺しにきた××の鱗粉。取り残されたクリーチャーが二体ともギェエエと叫びながら絶命し、枯れたような醜い姿となっていった。××××の素早い判断が無かったら、××も×××××もこのような死に様を迎えていたことだろう。
「××ぁああああああああああああああああああああああああああ!」
 ×××××は叫んだ。涙をたくさん撒き散らしながら。


 その番、ジュンとシホは××と×、そして×××××と×××と中等部の女の子二名を運んで島を後にした。
 そう、腹を空かせて餌を待ち続ける、エリザベートのいる千葉県へ――。




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