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第二話 朝起きると、妖精がいた

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第二話 朝起きると、妖精がいた


 それはきっちり五週間前。
 少年、安佐大吾(あさ だいご)が起きたときの事だった。
 日曜の朝なので、大吾はいつも通り、しっかり睡眠をして、十時頃に起きた。
 ふあぁあと盛大なあくびをして眼を擦り、上半身を起こし、そして前を見ると、ちんまい女の子が座っていた。大吾の身体の上に。
 ちんまい、所ではない。手のひらサイズの少女が足を大きく伸ばし、とてもリラックスした状態で座っているのだ。
「起きましたか!」
 甲高い妖精の声が耳に響く。
 黒い服に乳白色の蝶々を鋭角化したような羽根、ベリーショートの黒髪に稲妻の形をしたヘアピンが印象的な少女、いや、妖精と言うべきか。
「こっちに来るときに植物状態になったかと思って心配しました! 良かったですね、生きてて!」
 いきなり気味が悪い事を言った妖精はニコニコと笑顔を大吾に向けていた。
「ようこそ、サクヤへ!」
 朝から妖精が目の前で喋って笑顔を向けているという事実に、大吾はくらくらと頭を回す。
 ああ、きっと自分の頭は変になってしまったんだ、大吾は寝起きの頭が回らないままの思考でそのことを悟った。
「ご主人はすでに現実世界ではない仮想世界『サクヤ』にいます」
 股を閉じ、ぴょん、と飛び上がったその妖精は、羽根をせわしく動かしながら、大吾の周りをくるくると回る。
「ここでは、ご主人のような特別な力を持ってしまった子供達が集められてまして、『ゲーム』に参加することを強制させられています」
 そして、大吾の目の前で止まり、
「『ゲーム』に参加し、クリアしなければ現実世界でのご主人の存在は無くなってしまいますので、頑張ってクリアしましょう!」
 天井に向かって、えいえいおーと拳を突き上げた。
「……頑張れと言われても」
 大吾は軽く頭を掻いて一言。
「内容が全く分からんから、何を頑張っていいやらさっぱりだ」
 至極もっともなことだった。
「で、ですよねー」
 あはははは、と妖精から渇いた笑い声が聞こえる。
「で、詳しい説明とかはないのか?」
 妖精は笑顔を向けながら、沈黙した。
「まさか、とは思うが……」
 あ、あははは、と妖精はなんとか笑おうとするが、目が笑っていなかった。
「説明、できないとか?」
「ま、まさか、これでもFPの端くれ!」
「できるんだな?」
「……ごめんなさい、できません」
 ううー、とうなだれる妖精を見て、大吾は大きくため息をはいた。
「質問には、答えられるよな?」
「……あ、はい!」
 驚きつつも、笑顔で答える妖精に、大吾はほっと胸をなで下ろした。
 (相変わらず、女に弱いよな、俺)と大吾は自分を皮肉りながら、そのまま、ありきたりでそれでいて重要な質問をした。
「じゃあ最初の質問だ。君の名前は?」
「はい! 名前は、『エクレア』です!」
 電撃的な速さで大吾の日常を非日常に変えた妖精は、元気よくそう名乗った。
 おいしそうな名前だな、それが大吾の感想だった。

――第二話『朝起きると、妖精がいた』 終

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