わたしのまえでだけおれさまけいめがねだんしがいかにもえるかのけんしょう【登録タグ: わ】
「私の前でだけ俺様系めがね男子がいかに萌えるかの検証」とは、アマラ(c01414)作の萌えるシチュエーション第二弾である。
目次
概要
物心付いたころには両親と呼べる存在は居らず、
国が運営している孤児院で育ってきた。
そんな彼女が、強制されたわけでもなく衛兵に成ろうと思い立ったのは、
純粋に誰かの役に立ちたいと言う思いからだった。
座学が苦手だったこともあり、実際に剣を手に戦う兵士を目指し、
かれこれ二年が経とうとしていた。
この国の兵士の多くは、二年過程の訓練を受けた後様々な部署に配属される。
本人の能力は勿論、コネ、家柄、そういったものも加味される。
孤児院出の彼女が配属されるのは、国境や辺境などの危険な場所だろう。
しかし、当の本人はそれを望んでいた。
危険な職場と言うのは得てして収入が良い。
誰かの為に戦い、尚且つ孤児院の皆にも仕送りが出来る。
座学が苦手・・・と言うか、あまり頭の回転に自信が無い彼女にとっては、
まさに理想の職場だったのだ。
今日は、二年目の訓練生全員参加の大演習の日だった。
軍部のお偉方も視察に来るこの演習は、一対一の組み手方式で
行われることになっていた。
広い演習場のそこかしこで、訓練生同士が組み手をし、
二年間の訓練の成果を軍幹部達に披露するのだ。
コネや家柄で所属先が決まっている者にとってはちょっとした
パフォーマンスの場と言える。
だが、それ以外のもの。
つまり、彼女のような者達にとっては、唯一と言って良い上層部に顔を売る
チャンスと言えた。
無論、そういったものたちの気合の入り方は尋常ではなかった。
皆、思い思いの形状の木製訓練用武具を身に着け、組み手に望む。
長槍、刀、剣、盾、ハルバート、フレイル。
そんな中で、スタンダードな盾と剣のスタイルを選んだ彼女 “エヴァ・リーン”も、
並々ならぬ気合を込めてこの大演習に望んむのだった。
なにせ、より危険で、より給金の良い場所に派遣されなければならないのだ。
孤児院で待っている年老いた先生や、小さな子供達の為にも。
女とは言え、訓練生の中でエヴァをなめているものは居なかった。
彼女の実力は数百人居る中でも、間違えなくトップクラスだったからだ。
視察に来ている幹部の一部のものも、彼女の噂を聞いているほどだった。
演習場の訓練生達の反応はまちまちだ。
下手なところを見られないように彼女を避けるか。
良いところを見せて印象を良くしようとあえて彼女に向かってくるか。
立て続けに戦うことになるエヴァだったが、それはむしろ望むところだった。
国が運営している孤児院で育ってきた。
そんな彼女が、強制されたわけでもなく衛兵に成ろうと思い立ったのは、
純粋に誰かの役に立ちたいと言う思いからだった。
座学が苦手だったこともあり、実際に剣を手に戦う兵士を目指し、
かれこれ二年が経とうとしていた。
この国の兵士の多くは、二年過程の訓練を受けた後様々な部署に配属される。
本人の能力は勿論、コネ、家柄、そういったものも加味される。
孤児院出の彼女が配属されるのは、国境や辺境などの危険な場所だろう。
しかし、当の本人はそれを望んでいた。
危険な職場と言うのは得てして収入が良い。
誰かの為に戦い、尚且つ孤児院の皆にも仕送りが出来る。
座学が苦手・・・と言うか、あまり頭の回転に自信が無い彼女にとっては、
まさに理想の職場だったのだ。
今日は、二年目の訓練生全員参加の大演習の日だった。
軍部のお偉方も視察に来るこの演習は、一対一の組み手方式で
行われることになっていた。
広い演習場のそこかしこで、訓練生同士が組み手をし、
二年間の訓練の成果を軍幹部達に披露するのだ。
コネや家柄で所属先が決まっている者にとってはちょっとした
パフォーマンスの場と言える。
だが、それ以外のもの。
つまり、彼女のような者達にとっては、唯一と言って良い上層部に顔を売る
チャンスと言えた。
無論、そういったものたちの気合の入り方は尋常ではなかった。
皆、思い思いの形状の木製訓練用武具を身に着け、組み手に望む。
長槍、刀、剣、盾、ハルバート、フレイル。
そんな中で、スタンダードな盾と剣のスタイルを選んだ彼女 “エヴァ・リーン”も、
並々ならぬ気合を込めてこの大演習に望んむのだった。
なにせ、より危険で、より給金の良い場所に派遣されなければならないのだ。
孤児院で待っている年老いた先生や、小さな子供達の為にも。
女とは言え、訓練生の中でエヴァをなめているものは居なかった。
彼女の実力は数百人居る中でも、間違えなくトップクラスだったからだ。
視察に来ている幹部の一部のものも、彼女の噂を聞いているほどだった。
演習場の訓練生達の反応はまちまちだ。
下手なところを見られないように彼女を避けるか。
良いところを見せて印象を良くしようとあえて彼女に向かってくるか。
立て続けに戦うことになるエヴァだったが、それはむしろ望むところだった。
「さあ、次!」
挑んできた訓練生を打ち倒し、周りを見回すエヴァ。
「じゃあ、私のお相手をお願いできますか?」
そんな彼女に声をかけてきたのは、見慣れない青年だった。
訝しげに思うエヴァだったが、今は顔を売る絶好の機会。
どんな相手とでも戦って、勝たなければ成らない。
訝しげに思うエヴァだったが、今は顔を売る絶好の機会。
どんな相手とでも戦って、勝たなければ成らない。
「いいよ! わたしはエヴァ! あんた、名前は?」
「ああ。 グエンと言います。 よろしくお願いしますね?」
「ああ。 グエンと言います。 よろしくお願いしますね?」
青年、グエンはにっこりと笑うと、手にしていた木製の短槍を手の中でくるりと回した。
それが、エヴァとグエンの、出会いだった。
シェリアラ・サウロは、王都騎士団六番隊。通称“杭打ち隊”の
副隊長と言う任についていた。
王都騎士団は、王都内で起こる事件の解決や警備に当たるのを
主な任務としている部隊だ。
その中でも六番隊は、特に暴徒鎮圧や反乱分子制圧などの直接的な戦闘行為を
役割としている。
そんな隊の性格上、新人達の実力を直接見ることが出来る今日の演習ははずせない
新人発掘の場の一つだった。
戦場に出る機会の多いシェリアラも、隊長と共に若い兵士達の
力量をはかりに来ていた。
大都会である王都を守る騎士団であるとは言え、実戦部隊である六番隊の隊員は
いつでも足りない。
見所のある若者を一人でも多く見つけることも、副隊長であるシェリアラの
立派な仕事なのだ。
シェリアラが今たっているのは、隊長が座る席の斜め後ろだった。
彼の席も用意されて居たのだが、シェリアラは常に上官の後ろに居るのを
よしとする古いタイプの兵士なのだ。
そんな彼の上官、グエン・ダスラは、いつものにこやかな笑顔のまま
シェリアラのほうを振り返った。
副隊長と言う任についていた。
王都騎士団は、王都内で起こる事件の解決や警備に当たるのを
主な任務としている部隊だ。
その中でも六番隊は、特に暴徒鎮圧や反乱分子制圧などの直接的な戦闘行為を
役割としている。
そんな隊の性格上、新人達の実力を直接見ることが出来る今日の演習ははずせない
新人発掘の場の一つだった。
戦場に出る機会の多いシェリアラも、隊長と共に若い兵士達の
力量をはかりに来ていた。
大都会である王都を守る騎士団であるとは言え、実戦部隊である六番隊の隊員は
いつでも足りない。
見所のある若者を一人でも多く見つけることも、副隊長であるシェリアラの
立派な仕事なのだ。
シェリアラが今たっているのは、隊長が座る席の斜め後ろだった。
彼の席も用意されて居たのだが、シェリアラは常に上官の後ろに居るのを
よしとする古いタイプの兵士なのだ。
そんな彼の上官、グエン・ダスラは、いつものにこやかな笑顔のまま
シェリアラのほうを振り返った。
「どうです? 居そうですか? 即戦力」
角刈りで筋骨隆々とした丈夫であるシェリアラと違い、
グエンは怖気を振るような色男だ。
シェリアラは短く「はっ」と返事を返し、数瞬答えを考える。
グエンは怖気を振るような色男だ。
シェリアラは短く「はっ」と返事を返し、数瞬答えを考える。
「何人か突出したものが居るようではありますが、あまり実力の近いものと
手合わせしないので実力を測りかねます」
手合わせしないので実力を測りかねます」
その答えに満足げに頷くと、グエンはくすくすと笑いながら前に向き直った。
「皆いいところ見せたいだろうからね」
「気持ちは分かりますが、使えるか使えないかの判断基準には足りませんな」
「そこは君の見る目の見せ所じゃないですか?
私はそう言うのに疎いですから。やっぱり直接手合わせしないと」
「気持ちは分かりますが、使えるか使えないかの判断基準には足りませんな」
「そこは君の見る目の見せ所じゃないですか?
私はそう言うのに疎いですから。やっぱり直接手合わせしないと」
冗談めかして言うグエン。
グエン・ダスラという人物は堅物で古いタイプの軍人である
シェリアラとは違い、どちらかと言えば政治などに長けた人物だった。
隊の運営にかかわる物事や、他の部隊との折衝などに力を裂く反面、
現場のあれこれはシェリアラに一任されることも多い。
そのせいか、新しい隊員の選抜などはシェリアラの意見を重く
受け取る傾向にあった。
シェリアラ本人もそれを意識してか、こと新入隊員のことに関しては
細かく口出しすることにしていた。
実力の無いものがうっかり六番隊に配属されるのは、
隊にとっても本人にとっても不幸の元だからだ。
グエン・ダスラという人物は堅物で古いタイプの軍人である
シェリアラとは違い、どちらかと言えば政治などに長けた人物だった。
隊の運営にかかわる物事や、他の部隊との折衝などに力を裂く反面、
現場のあれこれはシェリアラに一任されることも多い。
そのせいか、新しい隊員の選抜などはシェリアラの意見を重く
受け取る傾向にあった。
シェリアラ本人もそれを意識してか、こと新入隊員のことに関しては
細かく口出しすることにしていた。
実力の無いものがうっかり六番隊に配属されるのは、
隊にとっても本人にとっても不幸の元だからだ。
「直接手合わせですか。 相手をするものは不幸ですな。
訓練生のまま命を落とすとは」
「なんですかそれ」
訓練生のまま命を落とすとは」
「なんですかそれ」
苦笑するグエンだが、シェリアラは冗談で言ったつもりは無かった。
この隊長は手加減と言うものを知らない。
この隊長は手加減と言うものを知らない。
「でも、一人面白そうな子が居ますね。あっちにいる、彼女」
グエンが指差した先に居たのは、剣と盾を構えた少女だった。
幼さが残る顔立ちで、まだまだ子供に見えるが、ここにいると言うことは
れっきとした兵士なのだろう。
この国の軍隊では、飛竜と呼ばれる小型の翼竜が騎乗動物として
運用されていた。
男性よりも体格が小さいことが多い女性は、そういったものの扱いに長ける。
そのため、他国と違い女性の兵も珍しくなかった。
幼さが残る顔立ちで、まだまだ子供に見えるが、ここにいると言うことは
れっきとした兵士なのだろう。
この国の軍隊では、飛竜と呼ばれる小型の翼竜が騎乗動物として
運用されていた。
男性よりも体格が小さいことが多い女性は、そういったものの扱いに長ける。
そのため、他国と違い女性の兵も珍しくなかった。
「確かに使えそうではありますな」
「やはりそう思いますか。 気になるんですよ、彼女」
「やはりそう思いますか。 気になるんですよ、彼女」
そういうグエンの目は、面白いおもちゃを見つけたときのそれだった。
もっとも、付き合いの長いシェリアラだからこそ分かることなのだが。
こういうときのグエンは、何をするか分からない。
古風で一本気なシェリアラには思いも付かないような
とっぴな行動に出ることもあるのだ。
もっとも、付き合いの長いシェリアラだからこそ分かることなのだが。
こういうときのグエンは、何をするか分からない。
古風で一本気なシェリアラには思いも付かないような
とっぴな行動に出ることもあるのだ。
「隊長。今日は目が多くあります。 無茶はなさらないようにしてください」
「わかってますよ。 私がいつも君を困らせているみたいな言い方ですね?」
「わかってますよ。 私がいつも君を困らせているみたいな言い方ですね?」
そういって笑うグエンだったが、シェリアラの不安は拭い去れなかった。
この数分後、シェリアラはあいさつ回りにいくといって席を立ったはずの
上官を闘技場で発見することになるのだった。
この数分後、シェリアラはあいさつ回りにいくといって席を立ったはずの
上官を闘技場で発見することになるのだった。
にこにことした笑顔のまま片手で短槍を構えるグエンに対して、
エヴァはどう攻撃しようか迷っていた。
隙が無いように見えて、グエンには踏み込めばそのまま串刺しにされような妙な
迫力がある。
盾を握る手に力を込めて、エヴァは距離を少しだけ詰めた。
盾に剣と言うオーソドックスなスタイルは、エヴァの十八番だ。
背も低く、力が強いわけでもない彼女は、長い槍や大きな武器を
振り回すのが得意ではなかった。
だから、徹底的に盾と剣の扱いを覚えたのだ。
盾で敵の攻撃を凌ぎ、剣で的確にダメージを与える。
教本に載っている動作や、訓練で教え込まれる動きを何千回と繰り返し
体に叩き込んだ。
教科書通り。と言う言葉がある。
たいていの場合、侮蔑を込めて使われるこの言葉ではあるが、
これは彼女にはほめ言葉だろう。
大体にして、教科書に載っている動作と言うのは、長い年月培われてきた、
言わば戦う為の基本なのだ。
それを覚えているからこそ、その先がある。
たとえば待ちの荒くれがエヴァを取り囲んだとしても、傷一つ付けられないだろう。
そういうときどうしたら良いかと言う教科書を、彼女は頭と体に染み付かせているのだ。
そのエヴァが、棒立ちの相手にプレッシャーを感じて攻めあぐねている。
エヴァの実力を知る周りの訓練生達は、いつの間にか訓練の手を止めて見知らぬ男とエヴァとの組み手に見入っていた。
グエンが手にしている短槍という武器は、非常に扱いやすい武器の一つだと言える。
竹槍に代表されるように、シンプルに突くことにベンリな武器と言うのは
どんなものでも強力なのだ。
間合いを詰めるエヴァに、グエンはまったく反応を見せない。
そのくせ、少しでも攻めようと重心を動かそうものなら、槍の切っ先が跳ね上がり
今にも突き出されそうになって牽制される。
このままでは、にらみ合いが続くことになってしまう。
エヴァは思い切って、一気に攻めに出ることにした。
槍の攻撃は、突くか凪ぐかの二種類だ。
大きな槍ならばどちらの挙動も遠心力が働いて一度が限度だろうが、
短槍は剣と同じ程度の長さなので連続で攻撃が出来る。
厄介ではあるが、肉薄して戦うぶんには剣の方が刃が長いぶん有利だ。
一発目の攻撃を盾でかわし、一気に密着して形をつける。
難しくはあるが、行ける。
それに、盾と剣での戦い方と言うのは、本来そういうものなのだ。
盾を体の前面に押し出し、身体を斜めに構える。
相手から見える自分の胴体と首を盾に隠すその動きは、防御の基本姿勢の一つだ。
エヴァのその行動に何かを察知したのか、グエンも構えを変えた。
片手を腰の後ろに回し、槍の中ほどをもって腕をぶらりと下げる。
隙だらけに見えるが、うかつに攻め込むのはやめた方がいいのだろう。
それでも、エヴァは攻撃をやめようとはしなかった。
身体を低く沈ませ、地面を蹴る足に力を込める。
鍛えられた足は身体を一気に加速させ、エヴァの身体は盾を構えたまま
体当たりするようにグエンに向かって突っ込んでいく。
その間もエヴァの目は、一挙手一投足を見逃さないようにとグエンに向けられていた。
基本に忠実なその姿勢のおかげで、エヴァはグエンの一瞬の変化を
見逃さずにすんだ。
槍を持っていたグエンの腕が、突然掻き消えたのだ。
逃げろ!
そう叫ぶ直感を信じて転がるように身を屈められたのは、
ある種偶然だったかもしれない。
だが、それがエヴァを救った。
地面に倒れこんだ次の瞬間すぐ背後であがったのは、
岩でも落ちてきたかのような轟音。
あわてて立ち上がり後ろを振り返ったエヴァの目に飛び込んできたのは、
さっきまでグエンが手に持っていたはずの短槍が、地面に突き刺さっている様子だった。
エヴァはどう攻撃しようか迷っていた。
隙が無いように見えて、グエンには踏み込めばそのまま串刺しにされような妙な
迫力がある。
盾を握る手に力を込めて、エヴァは距離を少しだけ詰めた。
盾に剣と言うオーソドックスなスタイルは、エヴァの十八番だ。
背も低く、力が強いわけでもない彼女は、長い槍や大きな武器を
振り回すのが得意ではなかった。
だから、徹底的に盾と剣の扱いを覚えたのだ。
盾で敵の攻撃を凌ぎ、剣で的確にダメージを与える。
教本に載っている動作や、訓練で教え込まれる動きを何千回と繰り返し
体に叩き込んだ。
教科書通り。と言う言葉がある。
たいていの場合、侮蔑を込めて使われるこの言葉ではあるが、
これは彼女にはほめ言葉だろう。
大体にして、教科書に載っている動作と言うのは、長い年月培われてきた、
言わば戦う為の基本なのだ。
それを覚えているからこそ、その先がある。
たとえば待ちの荒くれがエヴァを取り囲んだとしても、傷一つ付けられないだろう。
そういうときどうしたら良いかと言う教科書を、彼女は頭と体に染み付かせているのだ。
そのエヴァが、棒立ちの相手にプレッシャーを感じて攻めあぐねている。
エヴァの実力を知る周りの訓練生達は、いつの間にか訓練の手を止めて見知らぬ男とエヴァとの組み手に見入っていた。
グエンが手にしている短槍という武器は、非常に扱いやすい武器の一つだと言える。
竹槍に代表されるように、シンプルに突くことにベンリな武器と言うのは
どんなものでも強力なのだ。
間合いを詰めるエヴァに、グエンはまったく反応を見せない。
そのくせ、少しでも攻めようと重心を動かそうものなら、槍の切っ先が跳ね上がり
今にも突き出されそうになって牽制される。
このままでは、にらみ合いが続くことになってしまう。
エヴァは思い切って、一気に攻めに出ることにした。
槍の攻撃は、突くか凪ぐかの二種類だ。
大きな槍ならばどちらの挙動も遠心力が働いて一度が限度だろうが、
短槍は剣と同じ程度の長さなので連続で攻撃が出来る。
厄介ではあるが、肉薄して戦うぶんには剣の方が刃が長いぶん有利だ。
一発目の攻撃を盾でかわし、一気に密着して形をつける。
難しくはあるが、行ける。
それに、盾と剣での戦い方と言うのは、本来そういうものなのだ。
盾を体の前面に押し出し、身体を斜めに構える。
相手から見える自分の胴体と首を盾に隠すその動きは、防御の基本姿勢の一つだ。
エヴァのその行動に何かを察知したのか、グエンも構えを変えた。
片手を腰の後ろに回し、槍の中ほどをもって腕をぶらりと下げる。
隙だらけに見えるが、うかつに攻め込むのはやめた方がいいのだろう。
それでも、エヴァは攻撃をやめようとはしなかった。
身体を低く沈ませ、地面を蹴る足に力を込める。
鍛えられた足は身体を一気に加速させ、エヴァの身体は盾を構えたまま
体当たりするようにグエンに向かって突っ込んでいく。
その間もエヴァの目は、一挙手一投足を見逃さないようにとグエンに向けられていた。
基本に忠実なその姿勢のおかげで、エヴァはグエンの一瞬の変化を
見逃さずにすんだ。
槍を持っていたグエンの腕が、突然掻き消えたのだ。
逃げろ!
そう叫ぶ直感を信じて転がるように身を屈められたのは、
ある種偶然だったかもしれない。
だが、それがエヴァを救った。
地面に倒れこんだ次の瞬間すぐ背後であがったのは、
岩でも落ちてきたかのような轟音。
あわてて立ち上がり後ろを振り返ったエヴァの目に飛び込んできたのは、
さっきまでグエンが手に持っていたはずの短槍が、地面に突き刺さっている様子だった。
「なっ え?」
あっけにとられ、グエンの方を見直すエヴァ。
腰に手を当てたまま、いつの間にか伸ばされていた手をゆっくりと下ろしながら、
グエンは少し困ったように眉をハの字にしていた。
腰に手を当てたまま、いつの間にか伸ばされていた手をゆっくりと下ろしながら、
グエンは少し困ったように眉をハの字にしていた。
「あはは。 すみません、槍が手からすっぽ抜けちゃいました」
どうやら偶然だと言いたいらしい。
わざとらしく両手をあげて、てへっと舌を出している。
わざとらしく両手をあげて、てへっと舌を出している。
「って、今あんたがなげたんじゃ・・・!」
「では、私は新しい槍をもらってきますね? またそのうち、お会いしましょう」
「では、私は新しい槍をもらってきますね? またそのうち、お会いしましょう」
楽しげな様子でそういうと、グエンはさっさと後ろを向いて歩いていってしまった。
呆然と立ち尽くすエヴァに、見知った訓練生達が集まってくる。
呆然と立ち尽くすエヴァに、見知った訓練生達が集まってくる。
「おい、あいつみたことあるか?」
「しらねぇ顔だったよな。 っつかなんだこれ。地面に半分以上刺さってるぞ」
「先丸めた木の棒だぞ。どうなってんだ」
「おいエヴァ! コレ抜いてみろよ」
「え? ああ、備品だもんね」
「しらねぇ顔だったよな。 っつかなんだこれ。地面に半分以上刺さってるぞ」
「先丸めた木の棒だぞ。どうなってんだ」
「おいエヴァ! コレ抜いてみろよ」
「え? ああ、備品だもんね」
言われるままエヴァは地面に刺さった槍に手をかけて引き抜こうと力を込める。
だが、びくともしない。
だが、びくともしない。
「だめだコレ! 動かないよ!」
「なんでだ? こんなに刺さってるのに」
「そうか。考えてみたらいっつも俺らが踏み固めてるんだ。
そうとう硬いはずだもんな、ここの地面」
「ちょっと待てよ。それに突き刺さるってどんだけ・・・」
「なんでだ? こんなに刺さってるのに」
「そうか。考えてみたらいっつも俺らが踏み固めてるんだ。
そうとう硬いはずだもんな、ここの地面」
「ちょっと待てよ。それに突き刺さるってどんだけ・・・」
もしあの時、直感を信じて避けていなかったら。
恐らく盾に当たってはいただろうが、役に立ったかどうか。
背中に寒いものを感じながら、エヴァは改めてグエンの姿を探した。
しかし、周りで演習をしている訓練生が邪魔なせいか、結局グエンの姿は
見つけられなかったのだった。
恐らく盾に当たってはいただろうが、役に立ったかどうか。
背中に寒いものを感じながら、エヴァは改めてグエンの姿を探した。
しかし、周りで演習をしている訓練生が邪魔なせいか、結局グエンの姿は
見つけられなかったのだった。
顔見知りの教官に頼み込んで演習場にもぐりこむ。
そのぐらいのことは、どうやらグエンには簡単なことだったらしい。
何食わぬ顔で帰ってきた上官の顔を見て、シェリアラは若干ひどくなった頭痛を
押し込める為に眉間を親指で押した。
そのぐらいのことは、どうやらグエンには簡単なことだったらしい。
何食わぬ顔で帰ってきた上官の顔を見て、シェリアラは若干ひどくなった頭痛を
押し込める為に眉間を親指で押した。
「あいさつ回り、終わりましたよ」
にこにこと言うグエン。
「私には演習場で訓練生と手合わせしているように見えましたが」
「あれ? 結構離れてたと思ったんですが。 分かりましたか?」
「あれ? 結構離れてたと思ったんですが。 分かりましたか?」
悪戯を咎められた少年のような顔で頭を掻くグエンに、
シェリアラはこみ上げてくるため息をぐっと我慢する。
シェリアラはこみ上げてくるため息をぐっと我慢する。
「どうしても気になってね。 でも、収穫はありだよ?」
「感は良いようですな。 隊長の投擲を初見で避けるのは難しいでしょう」
「ええ。磨けば光ると思いますよ。 とても」
「手を回しておきますか? 今のうちならば引き抜くにも安いでしょう」
「いえ。 もう終わっていますよ。 あいさつ回りのついでにね」
「感は良いようですな。 隊長の投擲を初見で避けるのは難しいでしょう」
「ええ。磨けば光ると思いますよ。 とても」
「手を回しておきますか? 今のうちならば引き抜くにも安いでしょう」
「いえ。 もう終わっていますよ。 あいさつ回りのついでにね」
どうやら他の隊や上層部にも掛け合ってきたらしい。
「ご執心ですな」
「あはは。 そうかもしれませんね。 一目惚れと言う奴でしょうか」
「あまり弄ぶと嫌われると思いますが」
「弄ぶ、ですか? そんなことしませんよ?」
「あはは。 そうかもしれませんね。 一目惚れと言う奴でしょうか」
「あまり弄ぶと嫌われると思いますが」
「弄ぶ、ですか? そんなことしませんよ?」
グエンというという男は、ひどく優秀だ。
その能力や行動力は、尊敬すべきものだとシェリアラは思っていた。
ただ、グエンはどうもそういった才能を他人で遊ぶことに向ける癖があった。
他の隊の隊長を空回りさせたり、貴族の弱みを握り無意味に隊を
出動させてあわてさせたり。
兎に角始末に終えない。
そのくせターゲット以外には気が付かれない様に動くせいか、彼の本性に
気が付いている人間は極わずか。
シェリアラもその一人なのだが、グエンの行動が突拍子も無いせいなのか、
彼が古い人間だからなのか。
止めようとしてもいつも煙にまかれてしまう。
この趣味さえなければ、もっともっと出世の出来る人物なのに。
いつもそう思うシェリアラだったが、こういう人物だからこそ自分のような人間が
近くに居ることができるのかもしれないとも思っていた。
さして優秀でもない自分が副隊長と言う任についているのは、
グエンが取り立ててくれたからだと考えているからだ。
もっともシェリアラと言う人物も非常に優秀な騎士ではあったのだが、
当の本人はまったくそう思っていのだった。
その能力や行動力は、尊敬すべきものだとシェリアラは思っていた。
ただ、グエンはどうもそういった才能を他人で遊ぶことに向ける癖があった。
他の隊の隊長を空回りさせたり、貴族の弱みを握り無意味に隊を
出動させてあわてさせたり。
兎に角始末に終えない。
そのくせターゲット以外には気が付かれない様に動くせいか、彼の本性に
気が付いている人間は極わずか。
シェリアラもその一人なのだが、グエンの行動が突拍子も無いせいなのか、
彼が古い人間だからなのか。
止めようとしてもいつも煙にまかれてしまう。
この趣味さえなければ、もっともっと出世の出来る人物なのに。
いつもそう思うシェリアラだったが、こういう人物だからこそ自分のような人間が
近くに居ることができるのかもしれないとも思っていた。
さして優秀でもない自分が副隊長と言う任についているのは、
グエンが取り立ててくれたからだと考えているからだ。
もっともシェリアラと言う人物も非常に優秀な騎士ではあったのだが、
当の本人はまったくそう思っていのだった。
「じゃあ、帰りましょうか。 することも終わりましたし」
そういうと、グエンはゆっくりと席を立ち歩き始めた。
シェリアラもその後に続く。
シェリアラもその後に続く。
「いやぁ。 新入隊員が来るのが楽しみですね?」
にっこりと笑って振り返るグエンの顔は、
何か良からぬことを思いついたときのそれだった。
あの少女は恐らく隊長のおもちゃにされるのだろうな。
そう思いながらも、シェリアラは少女に何もしてやれないであろう
自分のふがいなさを悔いるのだった。
何か良からぬことを思いついたときのそれだった。
あの少女は恐らく隊長のおもちゃにされるのだろうな。
そう思いながらも、シェリアラは少女に何もしてやれないであろう
自分のふがいなさを悔いるのだった。
「す ごいなぁ・・・」
そびえ立つ建築物を眺め、エヴァはぽかんと口をあけた。
エヴァは今、王都の乗合馬車乗り場に立っていた。
訓練生としての期間を無事終え、ついに配属先にやってきたのだ。
彼女が配属されたのは、王都騎士団六番隊。
王様のお膝元を守る大役だ。
はじめてそれを聞かされた時、エヴァは何かの間違いに違いないと思った。
なにせ王都騎士団と言えば、エリート中のエリートしか配属を許されない花形。
孤児院出の自分は山奥の駐屯施設とか、国境際の紛争地帯とかに行くものだとばかり思っていたエヴァにとっては、うれしいのを通り越して
エヴァは今、王都の乗合馬車乗り場に立っていた。
訓練生としての期間を無事終え、ついに配属先にやってきたのだ。
彼女が配属されたのは、王都騎士団六番隊。
王様のお膝元を守る大役だ。
はじめてそれを聞かされた時、エヴァは何かの間違いに違いないと思った。
なにせ王都騎士団と言えば、エリート中のエリートしか配属を許されない花形。
孤児院出の自分は山奥の駐屯施設とか、国境際の紛争地帯とかに行くものだとばかり思っていたエヴァにとっては、うれしいのを通り越して
信じられない出来事だ。
王都。
それは、田舎育ちで二階建ての建物を見るのも訓練施設が初めてだった
エヴァにとって、まるで異世界のような場所だった。
お祭りでもないのに、とてつもない人数が歩き回っている。
建物なんて、五階建てのものも珍しくない。
孤児院の近くには日に一回来るだけの馬車が、渋滞を起こしている。
「わたし、何でここに居るんだっけ・・・」
一瞬軽い記憶喪失になるほどのショックを受けたらしい。
エヴァはぶんぶんと頭を振ると、配属辞令書と同封されていた地図を鞄から取り出した。
引越し荷物である鞄には、数着の服とお弁当の箱。
そして、孤児院から出るときに院長先生や皆から送られた
一本の万年筆だけが入っていが。
女性の引越し荷物としてはとても少なくはあるが、エヴァの全財産だ。
確認した地図をズボンのポケットにねじ込むと、エヴァは鞄を担ぎなおした。
王都。
それは、田舎育ちで二階建ての建物を見るのも訓練施設が初めてだった
エヴァにとって、まるで異世界のような場所だった。
お祭りでもないのに、とてつもない人数が歩き回っている。
建物なんて、五階建てのものも珍しくない。
孤児院の近くには日に一回来るだけの馬車が、渋滞を起こしている。
「わたし、何でここに居るんだっけ・・・」
一瞬軽い記憶喪失になるほどのショックを受けたらしい。
エヴァはぶんぶんと頭を振ると、配属辞令書と同封されていた地図を鞄から取り出した。
引越し荷物である鞄には、数着の服とお弁当の箱。
そして、孤児院から出るときに院長先生や皆から送られた
一本の万年筆だけが入っていが。
女性の引越し荷物としてはとても少なくはあるが、エヴァの全財産だ。
確認した地図をズボンのポケットにねじ込むと、エヴァは鞄を担ぎなおした。
「と とりあえず・・・こっち・・・で、いいのかなー・・・?」
難しい顔をしたまま、遠くに見える城を目指し歩き始めるエヴァ。
彼女の配属先である王都騎士団六番隊の隊舎は、王城のすぐ近くにあるのだ。
こんなすごいところで働くのか。
改めて視界に入る街並みに怖気づきそうになる。
そんな自分の頬を、エヴァは両手でバチンと叩いた。
彼女の配属先である王都騎士団六番隊の隊舎は、王城のすぐ近くにあるのだ。
こんなすごいところで働くのか。
改めて視界に入る街並みに怖気づきそうになる。
そんな自分の頬を、エヴァは両手でバチンと叩いた。
「よしっ!」
腹の底から声を吐き出し、気合を入れなおす。
これから自分が配属されるのは、荒事を専門にする騎士団なのだ。
一つ間違えば、最初に想像していた辺境よりも余程危ないかもしれない。
弱気になっている暇なんて無いのだ。
改めて大きく一歩を踏み出すと、エヴァは王城へ向かう道を歩きはじめた。
これから自分が配属されるのは、荒事を専門にする騎士団なのだ。
一つ間違えば、最初に想像していた辺境よりも余程危ないかもしれない。
弱気になっている暇なんて無いのだ。
改めて大きく一歩を踏み出すと、エヴァは王城へ向かう道を歩きはじめた。
オープンカフェのテラス席に座り、グエンは楽しくて仕方が無いという様子で
クスリと笑いをこぼした。
砂時計の砂が落ちきるのを確認すると、一緒に運ばれてきていた紅茶をカップに注ぐ。
ゆっくりとカップを持ち上げ香りを楽しむと、シュガーボトルに手を伸ばした。
そして、どさどさと砂糖を入れ始める。
クスリと笑いをこぼした。
砂時計の砂が落ちきるのを確認すると、一緒に運ばれてきていた紅茶をカップに注ぐ。
ゆっくりとカップを持ち上げ香りを楽しむと、シュガーボトルに手を伸ばした。
そして、どさどさと砂糖を入れ始める。
「身体壊すんじゃね? それ」
せっせと砂糖を入れるグエンに言ったのは、机に突っ伏した緑色の神の青年だった。
騎士であることをあらわすマントを羽織っているものの、着ているのは
いたって普通のツナギだ。
眠たげに半開きになった眼のしたには、ごっそりとクマが浮いている。
この男の名は、カークランド・ハインケル。
王都騎士団六番隊の隊員だ。
一隊員が隊長を前にあまりの態度が、グエンはまったくとがめる様子はない。
騎士であることをあらわすマントを羽織っているものの、着ているのは
いたって普通のツナギだ。
眠たげに半開きになった眼のしたには、ごっそりとクマが浮いている。
この男の名は、カークランド・ハインケル。
王都騎士団六番隊の隊員だ。
一隊員が隊長を前にあまりの態度が、グエンはまったくとがめる様子はない。
「私、甘いの好きですから」
笑顔でそう答えるグエンをちらりと見ると、カークランドはむっくりと身体を起こした。
テーブル中央にあるさらに盛られたクッキーに手を伸ばすと、一口で頬張る。
テーブル中央にあるさらに盛られたクッキーに手を伸ばすと、一口で頬張る。
「例の娘見っけてきたのにやけに落ちついてね? いかなくていいん?」
カークランドは、人探しや情報収集、建物などへの潜入を得意としている
情報収集兵だった。
そんな彼にグエンが命じたのは、新人エヴァ・リーンの捜索であった。
口では「迷子にならないように」などといってるグエンではあったが、
真意がそんな物ではないことはカークランドにも良くわかっていた。
情報収集兵だった。
そんな彼にグエンが命じたのは、新人エヴァ・リーンの捜索であった。
口では「迷子にならないように」などといってるグエンではあったが、
真意がそんな物ではないことはカークランドにも良くわかっていた。
「大方の位置が分かっているなら、あわてる必要もありませんから。
ゆっくり、迎えに行きますよ」
ゆっくり、迎えに行きますよ」
少し迷わせて不安にさせてからなんかするつもりなんじゃね?
そういおうかと思ったカークランドだったが、やめておくことにした。
言ってもどうせくすくす笑って否定するだけだと思ったからだ。
カップの底に沈殿するほど砂糖が入れられた紅茶を啜り、グエンは満足そうに頷く。
そういおうかと思ったカークランドだったが、やめておくことにした。
言ってもどうせくすくす笑って否定するだけだと思ったからだ。
カップの底に沈殿するほど砂糖が入れられた紅茶を啜り、グエンは満足そうに頷く。
「久しぶりに、使い物になりそうな娘なんですよ。 きっと君も気に入ると思いますよ」
「どーだろうね?」
「どーだろうね?」
グエンの言葉に、カークランドは首を捻った。
遠目で見ただけではあったが、どうにも都会に出てきて緊張している
田舎娘にしか見えなかったような気がした。
遠目で見ただけではあったが、どうにも都会に出てきて緊張している
田舎娘にしか見えなかったような気がした。
「だって彼女、驚くとすごくかわいい顔するんですよ?」
このどえすやろう。
心の中でそうつぶやきながら、カークランドはもう一枚クッキーを頬張った。
心の中でそうつぶやきながら、カークランドはもう一枚クッキーを頬張った。
「どこ ここ」
数分地図とにらめっこした後、口から出たのは惨敗宣言にも近いものだった。
乗合馬車乗り場を出て数刻。
もはや元の場所に戻ることも出来ないだろう程、エヴァはものの見事に
迷子になっていた。
乗合馬車乗り場を出て数刻。
もはや元の場所に戻ることも出来ないだろう程、エヴァはものの見事に
迷子になっていた。
「そんな・・・! っていうかこの地図全然あってないし・・・!」
一件責任転嫁な台詞に聞こえるかもしれないが、エヴァの言葉は事実だった。
送られてきた地図は大まかなところは合っているものの、細かい部分で
実際の街並みとの違いがあるのだ。
あるはずの建物が無かったり、無いはずの道があったり。
送られてきた地図は大まかなところは合っているものの、細かい部分で
実際の街並みとの違いがあるのだ。
あるはずの建物が無かったり、無いはずの道があったり。
「わたしって方向音痴だったっけな?」
訓練所での教習で地図一枚を頼りに森を走ったりもしたが、迷ったことは無かった。
人並みの方向感覚はあるはずだ。たぶん。
人並みの方向感覚はあるはずだ。たぶん。
「お城があっちで、この道が・・・あれ? お城見えない?」
もう一度方向を確認しようと顔を上げたエヴァだったが、
目印になるお城が見えないことに気が付いた。
それもそのはず。
周りは背の高い建物ばかりで、視界がさえぎられているのだ。
今まで想像すらしたことが無かった状況に、エヴァは愕然とした。
目印になるお城が見えないことに気が付いた。
それもそのはず。
周りは背の高い建物ばかりで、視界がさえぎられているのだ。
今まで想像すらしたことが無かった状況に、エヴァは愕然とした。
「す、すごい。 コレが都会の力・・・!」
額に浮かぶ脂汗が、エヴァの焦りの程を表している。
兎に角見晴らしのいい場所に出ようと、きょろきょろと周りを見回す。
大きな道に出れば、見通しも良くなるだろうとありをつけて歩き出した。
そんなエヴァの耳に、甲高い子供の声が飛び込んできた。
孤児院で小さな子供達の世話をしていた彼女には馴染み深い、泣き声だ。
声のするほうに顔を向けると、やはり、居た。
小さな女の子が、道端に座り込んで泣き声をあげている。
兎に角見晴らしのいい場所に出ようと、きょろきょろと周りを見回す。
大きな道に出れば、見通しも良くなるだろうとありをつけて歩き出した。
そんなエヴァの耳に、甲高い子供の声が飛び込んできた。
孤児院で小さな子供達の世話をしていた彼女には馴染み深い、泣き声だ。
声のするほうに顔を向けると、やはり、居た。
小さな女の子が、道端に座り込んで泣き声をあげている。
「どうしたの? 転んじゃった?」
泣いている女の子に駆け寄ると、エヴァは顔を覗き込むように屈んだ。
周りを見ても女の子の保護者らしい人物は居ない。
周りを見ても女の子の保護者らしい人物は居ない。
「よいしょっと!」
泣き止まない女の子を抱き上げると、エヴァはポケットから取り出した
ハンカチでその涙を拭いてやる。
ハンカチでその涙を拭いてやる。
「ほら、泣かない泣かない」
きょとんとする女の子に、エヴァはにっこりと笑って見せた。
「あのね、おうちからでてきたらね、かえれなくなったの」
ようやく落ち着いたのか、女の子はしゃくりあげながらもそう答える。
「そっか、迷子になっちゃったのか」
にっこりと笑っていたエヴァの顔が、徐々に曇っていく。
「どうしたの?」
首をかしげる女の子に、エヴァは気まずそうに苦笑して頭を掻いた。
「いやー、それがね。 お姉ちゃんも迷子なんだ。 この辺、道分かりにくくってさ」
あははは と笑うエヴァの顔を見て、女の子はクスリと笑う。
「へんなの。 お姉ちゃんおっきいのに迷子なんだ。 あたしといっしょだ」
「そうだね、一緒だ」
「そうだね、一緒だ」
エヴァと女の子はお互い顔を見合わせると、楽しそうに笑った。
シェリーという名前の女の子とエヴァは、二人で難しい顔をしていた。
地面に置いた地図をコンパスを頼りに、なんとか迷子から脱出しようとしていたのだ。
しかし、やはり何度見ても地図と実際の場所が一致しない。
土地勘のあるシェリーも、と言っても幼い子供なのだが、
やはり地図を見ても良くわからないらしかった。
もっとも分かるようならば迷子にならないわけだが。
地面に置いた地図をコンパスを頼りに、なんとか迷子から脱出しようとしていたのだ。
しかし、やはり何度見ても地図と実際の場所が一致しない。
土地勘のあるシェリーも、と言っても幼い子供なのだが、
やはり地図を見ても良くわからないらしかった。
もっとも分かるようならば迷子にならないわけだが。
「えーっと、コレがあの建物でしょ?」
「でも、それだとこのみち、ちずにないよー?」
「でも、それだとこのみち、ちずにないよー?」
地図を指差すシェリーに、エヴァは首を捻る。
「このおみせ、これかなぁー?」
「そうするとこの建物があるはずでしょう? 実際には何にも無いし・・・」
「そうするとこの建物があるはずでしょう? 実際には何にも無いし・・・」
エヴァに言われて、シェリーも首をかしげる。
「んー?」
「んー?」
「んー?」
二人とも唸ることしかできなくなってきた。
ちなみにエヴァは、頭を使うことがとっても得意ではなかった。
むしろ苦手だった。
だから肉体労働である騎士の道を選んだのだ。
別に騎士が皆脳みそ筋肉だと言うわけではないが。
ちなみにエヴァは、頭を使うことがとっても得意ではなかった。
むしろ苦手だった。
だから肉体労働である騎士の道を選んだのだ。
別に騎士が皆脳みそ筋肉だと言うわけではないが。
「あーもー! きっとコレ街が間違ってるんだよ!」
色々限界が来たのか、ついにわけのわからないことを言い出すエヴァ。
「そ
っかぁー! おねーちゃんすごーい!」
「そ
っかぁー! おねーちゃんすごーい!」
なんだか良くわからないけど迫力に負けて感心したように拍手を送るシェリー。
「そうだよ! だってなんか建物高いもん!
こんなおっきいのが建ってるなんておかしい!」
「おかしー!」
こんなおっきいのが建ってるなんておかしい!」
「おかしー!」
だんだん沸騰してくるエヴァ。
シェリーも楽しくなってきたのか、一緒に騒いでいる。
混沌としてきたところで、ようやく救世主が現れた。
シェリーも楽しくなってきたのか、一緒に騒いでいる。
混沌としてきたところで、ようやく救世主が現れた。
「街の方がおかしいって事は、無いと思いますよ?」
二人にかけられた声は、大きくは無いがやけに通り、耳に残るものだった。
同時に振り返った二人の目に飛び込んできたのは、長髪の騎士の姿。
美しい。
男性ではあるがそう形容される類の美貌を持ったその騎士は、見るものの心を落ち着かせるような優しげな微笑を浮かべていた。
その顔に見覚えのあったエヴァは、思わず指を刺して名前を呼ぶ。
同時に振り返った二人の目に飛び込んできたのは、長髪の騎士の姿。
美しい。
男性ではあるがそう形容される類の美貌を持ったその騎士は、見るものの心を落ち着かせるような優しげな微笑を浮かべていた。
その顔に見覚えのあったエヴァは、思わず指を刺して名前を呼ぶ。
「グエン!」
「あれ、覚えていてくれたんですか? うれしいな」
「あれ、覚えていてくれたんですか? うれしいな」
うれしそうにくすくすと笑うグエンに、エヴァはぽかんと口をあけるばかりだった。
まさかこんなところで再び会うとは思わなかったからだ。
まさかこんなところで再び会うとは思わなかったからだ。
「おねえちゃん、しってるひと?」
シェリーに袖を引っ張られて我に返ったエヴァは、答えようとして言葉に詰まった、
知っていると言えば知っているが、どこのどういう人物なのかは詳しく知らない。
だが、一つだけ確かなことがある。
知っていると言えば知っているが、どこのどういう人物なのかは詳しく知らない。
だが、一つだけ確かなことがある。
「おねえちゃんと同じ騎士になる訓練をしてた人だよ」
「へー、きしさまなんだぁー!」
「へー、きしさまなんだぁー!」
きらきらと目を輝かせるシェリーに、グエンは苦笑して見る。
「そんなに立派なものでもないんですけどね。 二人とも、まいごですか?」
「あー・・・。 実はそうなんだよね・・・こんな都会出て来たの初めてでさ。
地図も役に立たないし」
地図も役に立たないし」
苦笑して頭をかくエヴァ。
「当然だと思いますよ?
なにせこの街はあちこちでいつも建物が建ったり潰されたりしていますから。
街の住人でも、普段行かないところに行くと迷子になるぐらいですから」
「そ、そんなにすごいの?!」
「ええ。ですから、そこの女の子も迷子になってしまったんだと思いますよ?」
「うん、おうちからはなれたら、ぜんぜんしらないところだった!」
なにせこの街はあちこちでいつも建物が建ったり潰されたりしていますから。
街の住人でも、普段行かないところに行くと迷子になるぐらいですから」
「そ、そんなにすごいの?!」
「ええ。ですから、そこの女の子も迷子になってしまったんだと思いますよ?」
「うん、おうちからはなれたら、ぜんぜんしらないところだった!」
グエンが言うように、この街はまだまだ成長途中なのだ。
昨日あった建物が次の日には壊され、道だった場所に建築物が立つことなぞは
日常茶飯事。
昨日あった建物が次の日には壊され、道だった場所に建築物が立つことなぞは
日常茶飯事。
「な、なんておそろしい・・・!」
田舎者であるエヴァには信じがたい話だった。
孤児院の先生が言っていたように、都会とはとてつもなく恐ろしいトコロなようだ。
孤児院の先生が言っていたように、都会とはとてつもなく恐ろしいトコロなようだ。
「まあ、会えてよかったですよ。私が道案内しますから」
「ほんと?!」
「ほんとに?!」
「ほんと?!」
「ほんとに?!」
エヴァとシェリーの顔が、ぱっと華やいだ。
「ええ。任せてください」
にっこりと笑顔を返すグエン。
こうして、エヴァとシェリーはようやく迷子から脱出したのだった。
こうして、エヴァとシェリーはようやく迷子から脱出したのだった。
にぎやかに人が行きかう道を歩きながら、エヴァはぽかんとした顔で
辺りを見回していた。
一人で歩いていたときは緊張してあまり気に成らなかったが、改めてみると
すごい街なんだと思い知らされる。
忙しそうに人や馬が行きかい、様々な場所で建物が建てられたり
壊されたりしていた。
辺りを見回していた。
一人で歩いていたときは緊張してあまり気に成らなかったが、改めてみると
すごい街なんだと思い知らされる。
忙しそうに人や馬が行きかい、様々な場所で建物が建てられたり
壊されたりしていた。
「成長途中・・・なんか森みたいなところなんだね」
感心したようなエヴァの呟きに、グエンが振り返る。
「森、ですか。 言いえて妙かもしれませんね。
少しほうっておくと、にょきにょきって建物が生えてきますよ」
「にょきにょきー?」
「ええ。にょきにょきーって」
少しほうっておくと、にょきにょきって建物が生えてきますよ」
「にょきにょきー?」
「ええ。にょきにょきーって」
きゃっきゃと喜ぶシェリー。
グエンはうれしそうに微笑み、シェリーの手を握りなおした。
左右の手をエヴァとグエンに握られて、シェリーはご満悦だ。
三人とも並んで歩いているが、歩道はそれが気にならないほど広い。
あちこちに露天が出ているが、もしかしたらそのために
道を明けてあるのかもしれないとエヴァはおもった。
グエンはうれしそうに微笑み、シェリーの手を握りなおした。
左右の手をエヴァとグエンに握られて、シェリーはご満悦だ。
三人とも並んで歩いているが、歩道はそれが気にならないほど広い。
あちこちに露天が出ているが、もしかしたらそのために
道を明けてあるのかもしれないとエヴァはおもった。
「珍しいですか?」
「へ?」
「へ?」
突然かけられたグエンの声に、びくりと反応するエヴァ。
くすくすと笑うグエンの顔を見て、どうやら自分が田舎者丸出しだった
らしいことに気が付いた。
くすくすと笑うグエンの顔を見て、どうやら自分が田舎者丸出しだった
らしいことに気が付いた。
「あ、あははは」
照れくさそうに笑うエヴァ。
「すごいよねー。ここ。私、田舎育ちだから。こんなすごい都会はじめてきたよ」
「おねーちゃん、このまちでそだったんじゃないのー?」
「おねーちゃん、このまちでそだったんじゃないのー?」
不思議そうに首をかしげるシェリーに、エヴァはコクリと頷く。
「うん。もっと田舎からきたんだよ。周りは森と畑ばっかりでねー。
乗合馬車なんて日に一回しか来なかったんだから」
「えー! それじゃーとおいところにおかいものいけないねー?」
「大体のものは自分達で作ってたけどね。 お野菜も自分達で作ってさー。
お肉も、森で動物取ってきたりして調達してたんだよ。服も縫ったりしてね」
「すごーい! おねーちゃんなんでもできるんだー!」
「なんでもって訳じゃないけどね。ここと違ってお店屋さんたくさん無いから」
乗合馬車なんて日に一回しか来なかったんだから」
「えー! それじゃーとおいところにおかいものいけないねー?」
「大体のものは自分達で作ってたけどね。 お野菜も自分達で作ってさー。
お肉も、森で動物取ってきたりして調達してたんだよ。服も縫ったりしてね」
「すごーい! おねーちゃんなんでもできるんだー!」
「なんでもって訳じゃないけどね。ここと違ってお店屋さんたくさん無いから」
きらきらと尊敬の目線を向けるシェリーに、照れくさそうに笑うエヴァ。
「そうだ、グエンはどこ出身なの?」
話をそらそうと、グエンにたずねて見る。
突然振られて驚いたのか、目を丸くするグエンだったが、
すぐにいつもの表情を取り戻す。
突然振られて驚いたのか、目を丸くするグエンだったが、
すぐにいつもの表情を取り戻す。
「私もこの街の出なんですよ。ごみごみしたところで育ちました。そのおかげで、
迷子にならずにすんでいるんですけれどね?」
「ふぐっ」
迷子にならずにすんでいるんですけれどね?」
「ふぐっ」
思わずうめくエヴァを見て、グエンはくすくすと笑う。
「せっかく地図貰ってたのに迷子なんて。せっかく騎士団に入れたんだけど。
ほんと、情けないなー」
ほんと、情けないなー」
苦笑するエヴァに、グエンは首を振った。
「この街では地図なんてほとんど役に立ちませんから。
それに、情けないなんて事、無いと思いますよ?」
それに、情けないなんて事、無いと思いますよ?」
ねぇ?と促され、シェリーは大きく頷く。
「うん! わたしのことたすけてくれたもん!」
「ね。頼もしい騎士様ですね?」
「ね。頼もしい騎士様ですね?」
にっこりと笑うシェリーとグエンに、エヴァの顔にも自然と笑顔が戻る。
エヴァは照れ笑いを浮かべながら、カリカリと頭をかいた。
エヴァは照れ笑いを浮かべながら、カリカリと頭をかいた。
「ここだよー! わたしのおうちー!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねてシェリーが指差したのは、表通りに面したパン屋だった。
大きな食パン型の看板には、「もぐもぐ屋 パン店」と書いてある。
大きな食パン型の看板には、「もぐもぐ屋 パン店」と書いてある。
「へー、大きなお店なんだ! みつかってよかったね?」
にっこりと笑うエヴァに、シェリーは「うん!」と元気に返事を返す。
店に近づいていくと、店主らしい男性が立っていた。
何かを探しているように不安そうな表情で辺りを見回している。
店に近づいていくと、店主らしい男性が立っていた。
何かを探しているように不安そうな表情で辺りを見回している。
「ぱぱー!」
そうシェリーが声をかけると、その男性はすぐに反応した。
「シェリー!」
駆け寄ってくるとそのまましゃがみこみ、シェリーを抱きしめる。
「どこ行ってたんだい? 心配したじゃないか」
「ごめんなさいー!」
「ごめんなさいー!」
抱き合う親子を見て、エヴァはほっとしたようにため息をついた。
「良かったですね」
そんな様子を隣で見ながら、グエンもうれしそうに微笑む。
「うん。よかった」
エヴァはグエンのほうを向くと、にっこりと笑い返す。
こうして見るとこの人、綺麗な顔してるんだな。
唐突にそんなことを思い、エヴァは少し照れた様にシェリーのほうに顔を向けた。
こうして見るとこの人、綺麗な顔してるんだな。
唐突にそんなことを思い、エヴァは少し照れた様にシェリーのほうに顔を向けた。
「あのねー、あのおねえちゃんときしさまが、たすけてくれたの!」
ちょうど、シェリーが事のいきさつを父親に話していたところだったようだ。
彼は立ち上がり被っていたコック帽をはずすと、エヴァとグエンに頭を下げた。
彼は立ち上がり被っていたコック帽をはずすと、エヴァとグエンに頭を下げた。
「娘がお世話に成ったようで。 本当にありがとうございました。
私はこのパン屋の店主で、フースといいます」
「あ、いえ! そんな全然!」
私はこのパン屋の店主で、フースといいます」
「あ、いえ! そんな全然!」
深々と頭を下げるフースに、エヴァはあわてて手と首を横に振る。
「私も迷子になってたんです。この街初めてで。 この人に会ってなかったら、
まだシェリーと一緒に迷ってましたから。」
「うん! おねえちゃんといっしょにまいごだったんだよねー!」
「ねー?」
まだシェリーと一緒に迷ってましたから。」
「うん! おねえちゃんといっしょにまいごだったんだよねー!」
「ねー?」
笑いあうエヴァとシェリーに、フースは驚いたような顔をする。
そんな三人の様子を見て、グエンはくすくすと笑う。
そんな三人の様子を見て、グエンはくすくすと笑う。
「彼女は騎士団に配属されて、今日この街に着たんですよ」
「ああ。なるほど、それで迷って」
「ああ。なるほど、それで迷って」
納得したように頷くフース。
どうやらそれほどに、この街は始めての人間に優しくない場所らしい。
どうやらそれほどに、この街は始めての人間に優しくない場所らしい。
「シェリーさんと一緒に居たおかげで、私も彼女を見つけられましたし。
まあ、お互い様、ですかね?」
「えー? それって少し違わない?」
まあ、お互い様、ですかね?」
「えー? それって少し違わない?」
グエンの言葉に、エヴァは不満げに声を上げる。
「おたがいさまおたがいさまー!」
気に入ったのかシェリーがうれしそうに言う。
「もー、シェリーまでー!」
恥ずかしかったのか怒ったのか。エヴァは赤くなって頬を膨らます。
そんなエヴァに、フースはつられたようにくすりと笑う。
そして、ゆっくりとした調子で言った。
そんなエヴァに、フースはつられたようにくすりと笑う。
そして、ゆっくりとした調子で言った。
「ようこそ。この街へ」
王城近くの王都騎士団六番隊の隊舎には、訓練施設も併設されていた。
実戦に出ることがやたらと多い彼らにとって、訓練は直接生き残る為に
必要なものといって良い。
今も、数人の兵士が巻きワラを打ち込んだり、木製の武器を使った模擬戦等で
汗を流している。
そんな彼らを尻目に、休憩用のベンチで寝転んでいる男が居た。
カークランドだ。
騎士団用のマントを毛布代わりに、なぜか若干苦悶の表情でむにゃむにゃと
寝言らしきものを呟いていた。
そんなカークランドに近寄ってくる人物が居た。
両手に木剣を持ったその男は、険しい顔でカークランドを見下ろすと、
無遠慮に彼が寝ているベンチに蹴りを入れた。
実戦に出ることがやたらと多い彼らにとって、訓練は直接生き残る為に
必要なものといって良い。
今も、数人の兵士が巻きワラを打ち込んだり、木製の武器を使った模擬戦等で
汗を流している。
そんな彼らを尻目に、休憩用のベンチで寝転んでいる男が居た。
カークランドだ。
騎士団用のマントを毛布代わりに、なぜか若干苦悶の表情でむにゃむにゃと
寝言らしきものを呟いていた。
そんなカークランドに近寄ってくる人物が居た。
両手に木剣を持ったその男は、険しい顔でカークランドを見下ろすと、
無遠慮に彼が寝ているベンチに蹴りを入れた。
「ふがっ?!」
衝撃でベンチから転げ落ちたカークランドは、眠そうに目をこすって上半身を起こす。
背中を思い切り打ったようでかなり痛そうだったが、どうやら彼の中では
眠気の方が勝っているらしい。
ゆるゆるとした動作で辺りを見回すし、数秒かけてようやく
木剣を持った男に気が付いた。
背中を思い切り打ったようでかなり痛そうだったが、どうやら彼の中では
眠気の方が勝っているらしい。
ゆるゆるとした動作で辺りを見回すし、数秒かけてようやく
木剣を持った男に気が付いた。
「安眠妨害だ」
「安眠すんじゃねぇ!」
「安眠すんじゃねぇ!」
不満気に言うカークランドの頭を、男は木剣で容赦なしにひっぱたく。
彼はカークランドの同僚で、ライエル・ローと言う。
かなり目つきのきつい、一見巷のヤンキーのような男ではあったが、
カークランドとは違い仕事熱心な青年だ。
頭に巻いていたタオルを解くと、短く切りそろえられた赤髪が現れる。
額や頬に滴っている汗は、先ほどまでしていた素振りのせいだろう。
彼はカークランドの同僚で、ライエル・ローと言う。
かなり目つきのきつい、一見巷のヤンキーのような男ではあったが、
カークランドとは違い仕事熱心な青年だ。
頭に巻いていたタオルを解くと、短く切りそろえられた赤髪が現れる。
額や頬に滴っている汗は、先ほどまでしていた素振りのせいだろう。
「てめぇ、なんでいっつも訓練所で寝てんだよ! 百歩譲っててめぇーんちで寝ろ!」
至極当然なライエルの言葉に、カークランドはなぜか若干むっとした顔で答える。
「そんなことしたら副長にしかかれるだろ」
「寝てたらもっと言われるだろうがぁ?!」
「ばかじゃね? 副長が来たら足音でわかるだろ。 そしたら起きるんだよ」
「寝てたらもっと言われるだろうがぁ?!」
「ばかじゃね? 副長が来たら足音でわかるだろ。 そしたら起きるんだよ」
なぜか自慢げだ。
「アホか?! っつかあほだお前は!! そんないらねぇ技術身につけんな!
てかこんだけウルサイトコロでそんなもん聞こえっか!」
てかこんだけウルサイトコロでそんなもん聞こえっか!」
ライエルの言うとおり、訓練場はかなり騒々しい。
六番隊の隊員しか居ない為人数こそ少ないが、各々熱心に打ち込んでいるから
けっして静かではないだろう。
六番隊の隊員しか居ない為人数こそ少ないが、各々熱心に打ち込んでいるから
けっして静かではないだろう。
「聞こえんだよ俺には。 鍛え方が違うんだよ」
「ほーじゃあマジで聞こえんだな?! 証明してみろボケこらカス!」
「ほーじゃあマジで聞こえんだな?! 証明してみろボケこらカス!」
再びスパンと木剣でカークランドをひっぱたくライエル。
どうやらかなり加減しているらしく、音こそハリセンの様ではあったが、
ダメージは無いらしい。
どうやらかなり加減しているらしく、音こそハリセンの様ではあったが、
ダメージは無いらしい。
「証明ってどうや あ、隊長の足音だ」
「ああ? するわけねぇーだろーが。 隊長は今日は非番だぞ」
「ああ? するわけねぇーだろーが。 隊長は今日は非番だぞ」
怪訝な顔をするライエル。
しかし、カークランドは確信があるらしく、隊舎の中が見える窓を指差した。
隊舎入り口近くにあるその窓は、入ってくる人間が見える監視窓の役目も果たしていた。
ライエルは振り返るが、誰も見えない。
いい加減なこと言うんじゃねぇ!
と、怒鳴ろうとしたときだった。
ドアが開き、見慣れた笑顔が入って来た。
年齢からはかなり若く見える顔に、隊から支給されている簡略服装。
見間違えるはずも無い、六番隊隊長グエン・ダスラだ。
しかし、カークランドは確信があるらしく、隊舎の中が見える窓を指差した。
隊舎入り口近くにあるその窓は、入ってくる人間が見える監視窓の役目も果たしていた。
ライエルは振り返るが、誰も見えない。
いい加減なこと言うんじゃねぇ!
と、怒鳴ろうとしたときだった。
ドアが開き、見慣れた笑顔が入って来た。
年齢からはかなり若く見える顔に、隊から支給されている簡略服装。
見間違えるはずも無い、六番隊隊長グエン・ダスラだ。
「・・・マジだ」
「お前、情報収集兵舐めてね?」
「どうしたんだ隊長。 休みの日にコッチに来るなんて珍しいな」
「無視かよ。 聞けよ」
「お前、情報収集兵舐めてね?」
「どうしたんだ隊長。 休みの日にコッチに来るなんて珍しいな」
「無視かよ。 聞けよ」
首をかしげるライエル。
グエンの後ろから入ってくる少女、エヴァの姿を確認して、
その顔にますます疑問の色が広がる。
グエンの後ろから入ってくる少女、エヴァの姿を確認して、
その顔にますます疑問の色が広がる。
「なんだ? どうなってんだよおい」
「あの女の子だよ。 副長が言ってた例の新人の」
「ああ。あの隊長が見つけてきたっつー娘か」
「そうそう。 隊長が迎えに行ったんだよ。 よっぽど気に入ってんじゃね?」
「あの女の子だよ。 副長が言ってた例の新人の」
「ああ。あの隊長が見つけてきたっつー娘か」
「そうそう。 隊長が迎えに行ったんだよ。 よっぽど気に入ってんじゃね?」
カークランドの言葉に、ライエルの表情が曇る。
苦虫を噛み潰したような顔で振り返ると、カリカリと額を掻いた。
苦虫を噛み潰したような顔で振り返ると、カリカリと額を掻いた。
「・・・なんつーか。 可哀想な娘だな」
「人生山あり谷ありじゃね?」
「人生山あり谷ありじゃね?」
まるで他人事のように言うと、カークランドは肩をすくめて見せた。
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- やけにこのシリーズだけ充実してきてるww -- アルク(c00007) (2010-06-09 10:25:07)