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「戦慄! 俺の心に恐怖心!」(2008/12/27 (土) 20:27:29) の最新版変更点
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*戦慄! 俺の心に恐怖心! ◆2XEqsKa.CM
(総司令……総司令! 指示を! 指令を下さい!)
サングラスをかけた男が、森の中で眉を顰め、念じるように目を閉じていた。
男はイライラと足元の石を蹴り飛ばし、手近な木を殴りつける。
木はゆさゆさと揺れ、カブト虫やクワガタを振り落とす。
男は何かを待つようにじっと、地面に落ちて動かなくなった虫を眺めていたが、場には何の変化も見受けられない。
それも当然、男が待っているのは思念波……言ってみればテレパシーだ。
ゾ ア ノ イ ド ロストナンバーズ
男は名をアプトムといい、全世界で暗躍する秘密結社・クロノスが生み出した生体兵器の損種実験体 である。
クロノスにはゾアノイドを操る思念波を発することが出来る十二人の最高幹部、獣神将が存在しており、
アプトムが現在受信を待っている思念波を持つ獣神将の名はリヒャルト=ギュオー。
このギュオーの元で然る任務を遂行していたアプトムは、任務目標との戦闘中に突如このゲームに参加させられていた。
困惑したアプトムは、とりあえずディパックから名簿を取り出し、ギュオーの名前を発見して指示を待っていたのだ。
だが、いくら待ってもギュオーからのテレパシーは来ない。
(何らかの技術によってギュオー総司令のテレパシーが阻害されているのか、あるいは……既に)
件のクロノスが、超古代の秘密が眠る とある遺跡から発掘した人間を媒体として発動する殖装兵器、ガイバー・ユニット。
その入手こそがアプトムの任務の目的であり、実際そのユニットを殖装した少年とついさっきまで一戦交えていた。
アプトムの脳裏に、そのガイバーとギュオーの姿が交差するようによぎる。
(いや……いくらガイバーⅠの殖装者、深町晶もここに呼ばれているとはいえ、総司令がこうも早くやられるとは思えん)
アプトムはギュオーからのテレパシーを受けることを諦め、とりあえず移動を始めようとディパックを背負い、歩き始めた。
あの冴えない風貌の男と可愛らしい少女の言うには、どうやらここは殺し合いの舞台らしい。
もっとも人間をゆうに超える戦闘力の持ち主であるアプトムにとっては、その程度の状況は恐れるに足らぬ物だ。
一応支給品も確認はしてみたが、割れ目がある巨大なポッドのようなものがあるだけで、武器は何もなかった。
武器など必要ない、気をつけなくてはならない相手はガイバーⅠ・深町晶くらいのものだろう、とアプトムは高をくくる。
深町にしたって、話に聞くところではガイバーを身に纏うまではただの民間人だったというではないか。
そんな男がこんな状況に放り込まれたのなら、無論その精神も自分のように平常のままではいられないだろう、とも。
ふと、アプトムは何故自分はこんなに冷静なのか、と疑問に思う。
恐らくは、普段からして自分はクロノスに首輪をつけられ、クロノス無しでは生きていけないような実験体だからだろう。
一瞬で浮かんだ余りにもネガティヴな答えに、アプトムは苦笑する。
自分の現状(今の状況は別としても)に不満がないといえば嘘になるが、所詮自分は期待された能力を持たない弱者だ。
力のない者が仮初にも自由を感じるには、より大きな力に従わなければならない。
それがアプトムにとってのクロノスであることは、誰よりもアプトムが一番理解していた。
「力、か」
アプトムは自虐気味に呟き、ガイバーの姿を思い浮かべる。
ス ペ ッ ク
その圧倒的な基本性能は、クロノス監査官、リスカーの身におきた事故の結果、大部分が解析されている。
自分と戦ったガイバーⅠからは殖装者の身体的・精神的な貧弱さからかそこまで圧倒的な力は感じなかったが、
あのユニットの力は十分に理解している。
その貧弱な民間人が、常人の十数倍のパワーを持つゾアノイドや、それをも数倍する超獣化兵を打ち破っているのだから。
もしあのユニットを、自分が手に入れることができたら――――?
獣神将の指令、ひいてはクロノスからの支配から強制的に離された結果なのか、あるいは自身の野心からか。
アプトムの心に小さな、しかし確かな炎が宿り始めていた。
(あの渚という少年が我々に対する示威行為として始末された瞬間、あの少年の体は、服を残して液状化していた)
あれが人体を液状化させるなんらかの攻撃だとすれば、
ガイバーにより驚異的な再生能力を持った深町晶も、その攻撃から逃れることは出来ないはず。
(どうやって我々を拉致したのかは分からんが、ギュオー総司令や深町を拉致しておいてこのゲームの主催者どもが
クロノスの……ガイバーユニットの性能を調べていないはずはないからな。
あの液状化からガイバーによって深町が再生できるなら、この島からの脱出は容易だ)
これだけ大掛かりな事が出来る連中だ、何が目的かは知らんがクロノスの科学力を凌駕している可能性すらある。
アプトムはそう結論付け、さらに深く考える。
(仮に深町が液状化から再生できないとして……ガイバーはどうなる? 深町と共に死ぬのか?
もし、ユニットがまっさらな状態に戻り、服のように残るのならば……俺にも、ガイバーを殖装するチャンスは出てくる)
ここまで考えて、アプトムは恐ろしい想像に行き着いた。
かって一度、深町はガイバーのコントロールメタルをその身から外され、暴走した強殖細胞に食われて完全に消滅した。
だが、ガイバーユニットの強殖細胞は記憶していた深町の遺伝情報から、
深町そのものをコントロールメタルから再生し、深町の復活をなしてしまったのだ。
(かりにユニットが手に入ったとしても……それを浮かれて身に付けた瞬間、
強殖細胞に捕らえられて俺自身が深町に変えられる可能性もあるか?)
アプトムは科学者ではないため、はっきりとした結論は出せなかった。
だが、正しい行動を導き出す事は出来る。
(まあいい……兎にも角にも、深町を捉えて禁止エリアに放り込んでみれば分かることだ。
回収にはちょいと頭を使わないといけないかもしれないが……な。強殖細胞にしたって、
誰か適当な奴を捕まえてそいつに身に付けさせ、深町に変わるようなら諦めるしかないが……
もし、上手くガイバーユニットを装着できるようなら、そいつに深町にしたのと同じ事をすればいい。
そして、再びガイバーユニットを俺が回収できれば……フフフ)
アプトムが、ニヤリ、と笑みを浮かべる。
「俺がガイバーだ……! 」
反転。加速。激痛。
首を掴まれた、と感じた瞬間、アプトムは十数m程も投げ飛ばされていた。
何が起きたのか全く理解できず、受身も取れずに地面に激突する。
(ガイバーか……!? )
噂をすればなんとやらか、と微妙にずれた思考を展開しつつ、アプトムはなんとか立ち上がった。
自分を放り投げた者は悠々とこちらに歩いてくる。
その姿は、ガイバーではなかった。
「ほう、生きているのか? 超人には見えんがな」
「な、なんだ貴様は!? 」
「キング・オブ・デビル! 」
鉄仮面のようなマスクと全身を覆う鎧が目映く輝く。
この男の名は悪魔将軍。悪魔の軍団を従える、人間を超えた人間、悪魔超人だ。
悪魔将軍は名乗ると同時に、問答無用でアプトムに向けて突進を掛けた。
咄嗟にアプトムは自らの能力――――形態模倣を使い、もっともポピュラーなゾアノイド、ラチモスの姿を取る。
ラチモスの力は常人の十倍。突進してきた悪魔将軍と組み合……。
「ふん! 」
「ぎゃあああああっ!! 」
組み合うことすら出来ずに、一瞬でアプトムラチモスは吹き飛ばされる。
悪魔将軍は吹き飛んだアプモスを眺め、首を傾げた。
「はて? 私はお前のような獣を攻撃した覚えはないがなぁ」
「だ、黙れ! 」
再び形態模倣を使い、今度はクロノス日本支部で最も高いパワーを持つ量産獣化兵、グレゴールの形態に移るアプトム。
ラチモスの1.5倍のパワーを持つグレゴールの姿で、悪魔将軍に飛び掛り、羽交い絞めにする。
「どうだ! もう一度減らず口を叩いてみろ、この鎧野郎! 」
「スネークボディ! 」
羽交い絞めにされた悪魔将軍が、薄笑いを押し隠すような声で叫ぶ。
しかしなにもおこらなかった!
「!? 」
「な、なにを言っているんだ? 」
「ちっ!」
悪魔将軍は不慮の事態に焦ることなく、冷静に行動する。
プロレスラーのような派手な動きでアプゴールごと宙に舞い、反転して敵の頭を地面に叩き付ける。
昏倒して締めを外したアプゴールから離れ、悪魔将軍は自分の両手をしげしげと眺める。
「……何事だ? 」
「ほ、本当に何なんだお前は……」
毎度自分の理解を超えた行動を取る悪魔将軍に対し、アプトムは次第に不安を感じ始めた。
(このパワー……人間の物とは思えん。かといってゾアノイドでもなさそうだし……まさか新手のガイバーか? )
「まあいい。戦っていればそのうち調子も戻るだろう」
「くっ」
再び自分に向き直った悪魔将軍を睨みつけ、アプトムはさらに姿を変える。
三つ目の変態は、ガイバーの姿を模った形態であった。
「無駄だ。いくらカメレオンのように姿形を変えたところで、お前のパワー自体はなんら変わっていないぞ!」
「う……」
僅かな手合わせで自分の能力の弱点を見切られ、さらに不安を増すアプトム。
不安は焦りに、焦りは恐怖に、恐怖は怯えに色を変えていく。
それを見透かすように、侮蔑の色を混ぜた言葉を吐く悪魔将軍。
「そんなチンケな能力でこの悪魔将軍様に挑むとは十年早いわ!」
「う……わああ……」
挑んできたのはどちらかといえば悪魔将軍の方なのだが、アプトムはその言葉が発する威圧感にたじろいでしまう。
その動揺を見逃さず、悪魔将軍はアプバーの首根っこを再び捕らえ、叫びながら投げ飛ばした。
「悪魔六騎士パワー、全開! 地獄風車ぁ! 」
投げられる瞬間、アプトムは確信した。
この男にはゾアノイドもガイバーも、もしかするとギュオー総司令ですら敵わない。
いままで感じていた圧倒的なパワーがさらに五倍ほどに膨れ上がり、矢の様に自分の巨体が投げ飛ばされる。
森の中に吹き飛ばされ、木に激突し、木をなぎ倒し、それを幾度も続け、意識が消えかける。
(このパワー……余りにもユニバース! コイツは……バケモノだ! )
投げられた距離とダメージこそ先ほどの数倍ではあったが、先ほどとは違って明確に次の行動を決めていたアプトムは、
なんとか受身を取る。薙ぎ倒された木々の向こうに見える悪魔将軍の影を見て、一目散に逃げだしたのだ。
悪魔将軍は追う事はせず、手に何かを持ってそれをじっと見ている。
これ幸いとアプトムは走るが、足がもつれてなかなか距離を稼げない。
「はぁ、はぁっ、はぁっ、はぁっっ……!? 」
突如、アプトムの進路を塞ぐかのように、アプトムの目の前に木が突き刺さった。
振り向くと、悪魔将軍がフリー・スロー後の態勢を取り、ニヤリと笑んでいる。
「い、いたぶり殺す気か……?」
方向転換しようとしたアプトムの目の端に、ディパックが入る。どうやら、悪魔将軍が投げた木に引っ掛かっていたらしい。
アプトムがハッと自分の背中に目をやると、自分のディパックをいつの間にか落としていた。
とすると、これは自分のディパックだろうか。僥倖とはこのことだ。
...
( ツキは俺をまだ見捨てていないようだ……!)
アプトムは引っ手繰る様にディパックを掴むと、方向を変え猛スピードで走り……やがて、悪魔将軍からも見えなくなった。
「……上手く動かせたな」
悪魔将軍は手に持っていたコンパスと地図をしげしげと眺めながら、一人頷いた。
「奴は私の意図に気付かなかったようだし、私のパワーを見て怯えておった。
元が怪物の類のようだし、十分騒動を引き起こしてくれるだろう。」
悪魔将軍は、はじめにアプトムを発見したときから、ただ殺すつもりはなかった。
身のこなし、目の配りを監察し、実際に戦闘した上で、ある程度の戦闘力を持っているようなら、
自ら相手の行動を操り、人が多く集まるであろう地区に向かわせることで争いを頻発させよう、と考えていたのだ。
進行方向を調整するために投げた木と一緒にあえてディパックを渡したのも、争いを産む前に倒れられては困るから。
「私に首輪をつけるなど、愚の骨頂としかいいようがないが……このゲームは、なかなかに面白い。
生き残りの者共……いや、この私がいる時点で、他は全員死に損ないだな。死に損ない共を誘導し、殺し合わせる……。
これぞ、悪魔に相応しい所業よ! 」
悪魔将軍はひとしきり邪悪に笑い声を上げてから、今後の行動を考慮する。
先ほどのカメレオン男のようにある程度力がある者は市街地などに振り分けて争いを加速させ、
弱い者は抹殺する。正義超人は自分の手で殺す。
自らが振り分けた者たちが結託して自分に襲い掛かってこようが、
自分の行為の噂を聞いて正義超人たちが駆けつけてこようが、どちらも望むところだ。
なぜなら自分は悪魔将軍。誰より強く、誰より恐ろしく、誰よりも悪魔なのだ。
絶大な自負から来る、しかし冷徹冷静な判断の元に、悪魔将軍は動く。
「……しかし、一つわからぬことがある。何故、スネークボディが使えなかったのか? 」
首を傾げる悪魔将軍。何故か体は六騎士のボディを繋げた状態のまま鎧の中ですましている。
今までこのようなことは一度もなかった。
アシュラマンが名簿に乗っているのも気がかりだ。
「まあ、細かいことはいい。キン肉スグルよ、お前との戦いは、果たして来るかな……?」
悪魔将軍は星が瞬く夜空を見上げ、再び邪悪な高笑いを上げながら、アプトムとは逆方向に歩き始めた。
悪魔将軍はまだ気づいていない。
アプトムに投げたディパックが自分の物で、今自分が持っているディパックが、アプトムの物だったということに。
……この間違いが、二人の運命を左右するのかも、知れない。
【D-5 森林/一日目・未明】
【アプトム@強殖装甲ガイバー】
【持ち物】
不明支給品、ディパック(支給品一式入り)
【思考】
1.悪魔将軍から逃げる。
2.ガイバーになりたい。
【備考】
※参戦時期はダイムと共に晶と戦い始めた直後
※地図上部の市街地に向かって移動しています
【悪魔将軍@キン肉マン】
【持ち物】
ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー、ディパック(支給品一式入り)
【思考】
1.強い奴は利用(市街地等に誘導)、弱い奴は殺害、正義超人は自分の手で殺す(キン肉マンは特に念入りに殺す)。
2.適当にブラブラする。
※支給品解説
【ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー】
ガイバー・ユニットを装殖者から剥がし取る機能を持った降臨者さん達の遺品。
ただ剥がし取るだけでなく、強殖細胞内のメモリーも消去するため、剥がれたGユニットは他人の最殖装が可能。
全長153cmと、何気に大きいぞ。
*時系列順で読む
Back:[[ファースト・アラート]] Next:[[たまにはロリコンもいいよね!!!]]
*投下順で読む
Back:[[ファースト・アラート]] Next:[[たまにはロリコンもいいよね!!!]]
|&color(cyan){GAME START}|アプトム|[[死闘の果てに…]]|
|&color(cyan){GAME START}|悪魔将軍|[[とある魔術の超電磁砲]]|
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*戦慄! 俺の心に恐怖心! ◆2XEqsKa.CM
(総司令……総司令! 指示を! 指令を下さい!)
サングラスをかけた男が、森の中で眉を顰め、念じるように目を閉じていた。
男はイライラと足元の石を蹴り飛ばし、手近な木を殴りつける。
木はゆさゆさと揺れ、カブト虫やクワガタを振り落とす。
男は何かを待つようにじっと、地面に落ちて動かなくなった虫を眺めていたが、場には何の変化も見受けられない。
それも当然、男が待っているのは思念波……言ってみればテレパシーだ。
ゾ ア ノ イ ド ロストナンバーズ
男は名をアプトムといい、全世界で暗躍する秘密結社・クロノスが生み出した生体兵器の損種実験体 である。
クロノスにはゾアノイドを操る思念波を発することが出来る十二人の最高幹部、獣神将が存在しており、
アプトムが現在受信を待っている思念波を持つ獣神将の名はリヒャルト=ギュオー。
このギュオーの元で然る任務を遂行していたアプトムは、任務目標との戦闘中に突如このゲームに参加させられていた。
困惑したアプトムは、とりあえずディパックから名簿を取り出し、ギュオーの名前を発見して指示を待っていたのだ。
だが、いくら待ってもギュオーからのテレパシーは来ない。
(何らかの技術によってギュオー総司令のテレパシーが阻害されているのか、あるいは……既に)
件のクロノスが、超古代の秘密が眠る とある遺跡から発掘した人間を媒体として発動する殖装兵器、ガイバー・ユニット。
その入手こそがアプトムの任務の目的であり、実際そのユニットを殖装した少年とついさっきまで一戦交えていた。
アプトムの脳裏に、そのガイバーとギュオーの姿が交差するようによぎる。
(いや……いくらガイバーⅠの殖装者、深町晶もここに呼ばれているとはいえ、総司令がこうも早くやられるとは思えん)
アプトムはギュオーからのテレパシーを受けることを諦め、とりあえず移動を始めようとディパックを背負い、歩き始めた。
あの冴えない風貌の男と可愛らしい少女の言うには、どうやらここは殺し合いの舞台らしい。
もっとも人間をゆうに超える戦闘力の持ち主であるアプトムにとっては、その程度の状況は恐れるに足らぬ物だ。
一応支給品も確認はしてみたが、割れ目がある巨大なポッドのようなものがあるだけで、武器は何もなかった。
武器など必要ない、気をつけなくてはならない相手はガイバーⅠ・深町晶くらいのものだろう、とアプトムは高をくくる。
深町にしたって、話に聞くところではガイバーを身に纏うまではただの民間人だったというではないか。
そんな男がこんな状況に放り込まれたのなら、無論その精神も自分のように平常のままではいられないだろう、とも。
ふと、アプトムは何故自分はこんなに冷静なのか、と疑問に思う。
恐らくは、普段からして自分はクロノスに首輪をつけられ、クロノス無しでは生きていけないような実験体だからだろう。
一瞬で浮かんだ余りにもネガティヴな答えに、アプトムは苦笑する。
自分の現状(今の状況は別としても)に不満がないといえば嘘になるが、所詮自分は期待された能力を持たない弱者だ。
力のない者が仮初にも自由を感じるには、より大きな力に従わなければならない。
それがアプトムにとってのクロノスであることは、誰よりもアプトムが一番理解していた。
「力、か」
アプトムは自虐気味に呟き、ガイバーの姿を思い浮かべる。
ス ペ ッ ク
その圧倒的な基本性能は、クロノス監査官、リスカーの身におきた事故の結果、大部分が解析されている。
自分と戦ったガイバーⅠからは殖装者の身体的・精神的な貧弱さからかそこまで圧倒的な力は感じなかったが、
あのユニットの力は十分に理解している。
その貧弱な民間人が、常人の十数倍のパワーを持つゾアノイドや、それをも数倍する超獣化兵を打ち破っているのだから。
もしあのユニットを、自分が手に入れることができたら――――?
獣神将の指令、ひいてはクロノスからの支配から強制的に離された結果なのか、あるいは自身の野心からか。
アプトムの心に小さな、しかし確かな炎が宿り始めていた。
(あの渚という少年が我々に対する示威行為として始末された瞬間、あの少年の体は、服を残して液状化していた)
あれが人体を液状化させるなんらかの攻撃だとすれば、
ガイバーにより驚異的な再生能力を持った深町晶も、その攻撃から逃れることは出来ないはず。
(どうやって我々を拉致したのかは分からんが、ギュオー総司令や深町を拉致しておいてこのゲームの主催者どもが
クロノスの……ガイバーユニットの性能を調べていないはずはないからな。
あの液状化からガイバーによって深町が再生できるなら、この島からの脱出は容易だ)
これだけ大掛かりな事が出来る連中だ、何が目的かは知らんがクロノスの科学力を凌駕している可能性すらある。
アプトムはそう結論付け、さらに深く考える。
(仮に深町が液状化から再生できないとして……ガイバーはどうなる? 深町と共に死ぬのか?
もし、ユニットがまっさらな状態に戻り、服のように残るのならば……俺にも、ガイバーを殖装するチャンスは出てくる)
ここまで考えて、アプトムは恐ろしい想像に行き着いた。
かって一度、深町はガイバーのコントロールメタルをその身から外され、暴走した強殖細胞に食われて完全に消滅した。
だが、ガイバーユニットの強殖細胞は記憶していた深町の遺伝情報から、
深町そのものをコントロールメタルから再生し、深町の復活をなしてしまったのだ。
(かりにユニットが手に入ったとしても……それを浮かれて身に付けた瞬間、
強殖細胞に捕らえられて俺自身が深町に変えられる可能性もあるか?)
アプトムは科学者ではないため、はっきりとした結論は出せなかった。
だが、正しい行動を導き出す事は出来る。
(まあいい……兎にも角にも、深町を捉えて禁止エリアに放り込んでみれば分かることだ。
回収にはちょいと頭を使わないといけないかもしれないが……な。強殖細胞にしたって、
誰か適当な奴を捕まえてそいつに身に付けさせ、深町に変わるようなら諦めるしかないが……
もし、上手くガイバーユニットを装着できるようなら、そいつに深町にしたのと同じ事をすればいい。
そして、再びガイバーユニットを俺が回収できれば……フフフ)
アプトムが、ニヤリ、と笑みを浮かべる。
「俺がガイバーだ……! 」
反転。加速。激痛。
首を掴まれた、と感じた瞬間、アプトムは十数m程も投げ飛ばされていた。
何が起きたのか全く理解できず、受身も取れずに地面に激突する。
(ガイバーか……!? )
噂をすればなんとやらか、と微妙にずれた思考を展開しつつ、アプトムはなんとか立ち上がった。
自分を放り投げた者は悠々とこちらに歩いてくる。
その姿は、ガイバーではなかった。
「ほう、生きているのか? 超人には見えんがな」
「な、なんだ貴様は!? 」
「キング・オブ・デビル! 」
鉄仮面のようなマスクと全身を覆う鎧が目映く輝く。
この男の名は悪魔将軍。悪魔の軍団を従える、人間を超えた人間、悪魔超人だ。
悪魔将軍は名乗ると同時に、問答無用でアプトムに向けて突進を掛けた。
咄嗟にアプトムは自らの能力――――形態模倣を使い、もっともポピュラーなゾアノイド、ラチモスの姿を取る。
ラチモスの力は常人の十倍。突進してきた悪魔将軍と組み合……。
「ふん! 」
「ぎゃあああああっ!! 」
組み合うことすら出来ずに、一瞬でアプトムラチモスは吹き飛ばされる。
悪魔将軍は吹き飛んだアプモスを眺め、首を傾げた。
「はて? 私はお前のような獣を攻撃した覚えはないがなぁ」
「だ、黙れ! 」
再び形態模倣を使い、今度はクロノス日本支部で最も高いパワーを持つ量産獣化兵、グレゴールの形態に移るアプトム。
ラチモスの1.5倍のパワーを持つグレゴールの姿で、悪魔将軍に飛び掛り、羽交い絞めにする。
「どうだ! もう一度減らず口を叩いてみろ、この鎧野郎! 」
「スネークボディ! 」
羽交い絞めにされた悪魔将軍が、薄笑いを押し隠すような声で叫ぶ。
しかしなにもおこらなかった!
「!? 」
「な、なにを言っているんだ? 」
「ちっ!」
悪魔将軍は不慮の事態に焦ることなく、冷静に行動する。
プロレスラーのような派手な動きでアプゴールごと宙に舞い、反転して敵の頭を地面に叩き付ける。
昏倒して締めを外したアプゴールから離れ、悪魔将軍は自分の両手をしげしげと眺める。
「……何事だ? 」
「ほ、本当に何なんだお前は……」
毎度自分の理解を超えた行動を取る悪魔将軍に対し、アプトムは次第に不安を感じ始めた。
(このパワー……人間の物とは思えん。かといってゾアノイドでもなさそうだし……まさか新手のガイバーか? )
「まあいい。戦っていればそのうち調子も戻るだろう」
「くっ」
再び自分に向き直った悪魔将軍を睨みつけ、アプトムはさらに姿を変える。
三つ目の変態は、ガイバーの姿を模った形態であった。
「無駄だ。いくらカメレオンのように姿形を変えたところで、お前のパワー自体はなんら変わっていないぞ!」
「う……」
僅かな手合わせで自分の能力の弱点を見切られ、さらに不安を増すアプトム。
不安は焦りに、焦りは恐怖に、恐怖は怯えに色を変えていく。
それを見透かすように、侮蔑の色を混ぜた言葉を吐く悪魔将軍。
「そんなチンケな能力でこの悪魔将軍様に挑むとは十年早いわ!」
「う……わああ……」
挑んできたのはどちらかといえば悪魔将軍の方なのだが、アプトムはその言葉が発する威圧感にたじろいでしまう。
その動揺を見逃さず、悪魔将軍はアプバーの首根っこを再び捕らえ、叫びながら投げ飛ばした。
「悪魔六騎士パワー、全開! 地獄風車ぁ! 」
投げられる瞬間、アプトムは確信した。
この男にはゾアノイドもガイバーも、もしかするとギュオー総司令ですら敵わない。
いままで感じていた圧倒的なパワーがさらに五倍ほどに膨れ上がり、矢の様に自分の巨体が投げ飛ばされる。
森の中に吹き飛ばされ、木に激突し、木をなぎ倒し、それを幾度も続け、意識が消えかける。
(このパワー……余りにもユニバース! コイツは……バケモノだ! )
投げられた距離とダメージこそ先ほどの数倍ではあったが、先ほどとは違って明確に次の行動を決めていたアプトムは、
なんとか受身を取る。薙ぎ倒された木々の向こうに見える悪魔将軍の影を見て、一目散に逃げだしたのだ。
悪魔将軍は追う事はせず、手に何かを持ってそれをじっと見ている。
これ幸いとアプトムは走るが、足がもつれてなかなか距離を稼げない。
「はぁ、はぁっ、はぁっ、はぁっっ……!? 」
突如、アプトムの進路を塞ぐかのように、アプトムの目の前に木が突き刺さった。
振り向くと、悪魔将軍がフリー・スロー後の態勢を取り、ニヤリと笑んでいる。
「い、いたぶり殺す気か……?」
方向転換しようとしたアプトムの目の端に、ディパックが入る。どうやら、悪魔将軍が投げた木に引っ掛かっていたらしい。
アプトムがハッと自分の背中に目をやると、自分のディパックをいつの間にか落としていた。
とすると、これは自分のディパックだろうか。僥倖とはこのことだ。
...
( ツキは俺をまだ見捨てていないようだ……!)
アプトムは引っ手繰る様にディパックを掴むと、方向を変え猛スピードで走り……やがて、悪魔将軍からも見えなくなった。
「……上手く動かせたな」
悪魔将軍は手に持っていたコンパスと地図をしげしげと眺めながら、一人頷いた。
「奴は私の意図に気付かなかったようだし、私のパワーを見て怯えておった。
元が怪物の類のようだし、十分騒動を引き起こしてくれるだろう。」
悪魔将軍は、はじめにアプトムを発見したときから、ただ殺すつもりはなかった。
身のこなし、目の配りを監察し、実際に戦闘した上で、ある程度の戦闘力を持っているようなら、
自ら相手の行動を操り、人が多く集まるであろう地区に向かわせることで争いを頻発させよう、と考えていたのだ。
進行方向を調整するために投げた木と一緒にあえてディパックを渡したのも、争いを産む前に倒れられては困るから。
「私に首輪をつけるなど、愚の骨頂としかいいようがないが……このゲームは、なかなかに面白い。
生き残りの者共……いや、この私がいる時点で、他は全員死に損ないだな。死に損ない共を誘導し、殺し合わせる……。
これぞ、悪魔に相応しい所業よ! 」
悪魔将軍はひとしきり邪悪に笑い声を上げてから、今後の行動を考慮する。
先ほどのカメレオン男のようにある程度力がある者は市街地などに振り分けて争いを加速させ、
弱い者は抹殺する。正義超人は自分の手で殺す。
自らが振り分けた者たちが結託して自分に襲い掛かってこようが、
自分の行為の噂を聞いて正義超人たちが駆けつけてこようが、どちらも望むところだ。
なぜなら自分は悪魔将軍。誰より強く、誰より恐ろしく、誰よりも悪魔なのだ。
絶大な自負から来る、しかし冷徹冷静な判断の元に、悪魔将軍は動く。
「……しかし、一つわからぬことがある。何故、スネークボディが使えなかったのか? 」
首を傾げる悪魔将軍。何故か体は六騎士のボディを繋げた状態のまま鎧の中ですましている。
今までこのようなことは一度もなかった。
アシュラマンが名簿に乗っているのも気がかりだ。
「まあ、細かいことはいい。キン肉スグルよ、お前との戦いは、果たして来るかな……?」
悪魔将軍は星が瞬く夜空を見上げ、再び邪悪な高笑いを上げながら、アプトムとは逆方向に歩き始めた。
悪魔将軍はまだ気づいていない。
アプトムに投げたディパックが自分の物で、今自分が持っているディパックが、アプトムの物だったということに。
……この間違いが、二人の運命を左右するのかも、知れない。
【D-5 森林/一日目・未明】
【アプトム@強殖装甲ガイバー】
【持ち物】
不明支給品、ディパック(支給品一式入り)
【思考】
1.悪魔将軍から逃げる。
2.ガイバーになりたい。
【備考】
※参戦時期はダイムと共に晶と戦い始めた直後
※地図上部の市街地に向かって移動しています
【悪魔将軍@キン肉マン】
【持ち物】
ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー、ディパック(支給品一式入り)
【思考】
1.強い奴は利用(市街地等に誘導)、弱い奴は殺害、正義超人は自分の手で殺す(キン肉マンは特に念入りに殺す)。
2.適当にブラブラする。
※支給品解説
【ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー】
ガイバー・ユニットを装殖者から剥がし取る機能を持った降臨者さん達の遺品。
ただ剥がし取るだけでなく、強殖細胞内のメモリーも消去するため、剥がれたGユニットは他人の最殖装が可能。
全長153cmと、何気に大きいぞ。
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|&color(cyan){GAME START}|悪魔将軍|[[とある魔術の超電磁砲]]|
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