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彼等彼女等の行動 (01~02) ◆qYuVhwC7l.



【01.取立人の出題】

それはやはり、予定道理に始まった。

『全員聞こえているかな? まずは君達におめでとうと言ってあげるよ』

時刻は18:00丁度。壁にかかった時計の秒針が真上に掛かると同時に、室内に誂えたスピーカーから、聞き慣れてしまった声が流れる。
島の南東に位置する博物館、そこの『学習室』と呼ばれる部屋の中で、ガイバーⅠこと深町晶は身を固くした。
その様子を見て、肩を竦める影が一つ。黒いマントに黒いマスク、そして黒い帽子。
全身を黒のファッションで覆った、胡散臭さというものが爆発しているこの男の名を、雨蜘蛛と言う。

「おいおい晶くんよぉ~、お前が緊張してどうするんだってばぁよ」

粘っこく、そしてまた妙に渋い声で晶に話しかけながら、やれやれと言った様子で首を横に振った。

「…すいません雨蜘蛛さん。でも、やっぱり俺は…」
「おーっとお喋りはそこまでだ。そろそろ大事な情報源がお尻フ~リフ~リモンガモンガとやってくる頃合いだぜ?」

一度は反論しかけた晶だが、道理の通った雨蜘蛛の言葉を聞き押し黙る。
もう一度手に持ったペンとマップを確認しながら、晶は横目で『今最も心配な友人』を確認した。
晶の視線に気づいたその人物……もとい、モンスターは、彼を安心しようと笑顔を浮かべる。
と、言ってもそれはただの引きつった表情にしか見えなかったのだが。

「せ、せやで、晶。おまえは、ドーンと男らしく構えとったらええんや…」

励ましが必要そうな消え入りそうな声で晶を励ましているのは、巨大な目玉に尻尾が生えたような奇妙なモンスター。
スエゾーという名の彼は、冷や汗をかきながら小刻みに震えるという非常に不審な挙動を繰り返していた。

「スエゾー……」

明らかに精神的に参っている様子のスエゾーに心配そうに声を掛けた後で、晶は憎むべき敵の声が流れるスピーカーへと視線を向けた。

『ゴーレムの友>それはこちらの探している仲間に何かあったという情報ですか?
 泥団子先輩R>その通りでござる。聞きたくないかもしれぬが、知ってしまった以上は伝えるべきかと迷ったのでござる。
 ゴーレムの友>それはこちらの探している仲間が死んだという情報ですか?
 泥団子先輩R>その通りでござる。どうするでござるか? 』

ほんの数十分前に、今は晶のすぐ斜め前に存在するパソコンを介して行われた一つの会話。
文字に起こせばたった数行にすぎないその情報は、着実にスエゾーの精神を削り取っていた。

(スエゾーの仲間がまた…死んでしまうなんて)

やりきれない思いを胸に、ガイバー晶は手に持ったペンに僅かに力を込める。
欲していた情報がスピーカーから流れ出したのは、その直後だった。


『午後19:00からF-5
 午後21:00からD-3
 午後23:00からE-6』

その放送を聞くと同時に、手早くマップの方眼へと情報を書き込んでいく。
二番目の禁止エリアを書き込んだ瞬間に、ある一つの事柄が思い浮かぶが、一先ずそれは保留する。

『覚えてくれたかな? 近い人は危ない場所に入り込まないようによく考えて行動すべきだよ。
 そんな死に方も僕にとっては面白くないからね。

 次はいよいよ脱落者の発表だ、探し人や友人が呼ばれないかよく聞いておいた方がいいよ。
 後悔しない為には会いたい人には早く会っておく事だよ―――せっかくご褒美を用意してあげたんだから、ね?』

「勝手な事を……!!」

思わず晶の口から漏れた言葉を聞き、雨蜘蛛が彼の方を見やる。
だが、ただ視線を寄こしただけでその口を開こうとはしない。
スエゾーはまるで魅入られたかのようにスピーカーだけを見つめている。
その足元にチョコンと立ちながら、白いもふもふのケモノ、小トトロが心配そうにスエゾーを見上げていた。

そして、死者の発表が始まる。

『朝比奈みくる』
三人は動かない。だが、乾いた砂漠の心に僅かに風が吹いた。

『加持リョウジ』
三人は、反応しない。

『草壁サツキ』
緑色の鎧がピクリと震えた。彼の脳裏に浮かぶのは、今まさにこの声を発している男の事。

『小泉 太湖』
黒い帽子がわずかに持ち上がる。だが、その心は凪の砂漠のように静かだった。

『佐倉ゲンキ』
「ゲンキ……!!」
大きな目玉が、より一層面積を広げる。本日三度目の、雷に打たれたような衝撃。

『碇シンジ』
三人の様子は、変わらない。

『ラドック=ランザード』
「…多い」
呼ばれた名は心当たりの無い物であっても、正義の心を持つ少年は、思わず呻いた。

『ナーガ』
「ナーガ…ナーガやて!?」
大きく広がっていた目玉が複雑に形を変える。その内に秘めているものもまた複雑。

『惣流・アスカ・ラングレー』
「…なんや……何がどうなってんねや…!」
目玉が苦しげに呟く。彼の耳には、もう人名は入ってきていない。

『キョンの妹』
「キョンだって……!」
初めて、ひと際大きく少年の心がざわめく。
…自分と戦った彼は、今頃何を感じているのだろうか。
そのすぐ傍で黒いマスクが僅かに動いたことに、彼は気づかなかった。

『以上十名だ、いやあ素晴らしい!』

続いて聞こえてきたのは、真新しいおもちゃを前にした子供のような弾んだ声。
この声を聞けば十人中十人がこう思うだろう。
この男は、心の底からこの事態を楽しんでいる、と。

「何がっ………何が素晴らしいやこのドアホがぁ!!」

スエゾーは思わず叫んでいた。
大切な親友を奪われた悲しみが、一瞬で全ての発端である男への憎しみへと変化する。
歯を食いしばり、殺気の籠った目でスピーカーを見つめるその表情に、足元の小トトロが寂しそうに震える。
そしてその隣にももう一人、怒りに満ちた男がいた。

「どうして……どうしてそんなに楽しそうに笑っていられるんだ…!
 十人もの参加者が、死んだんだぞ…!!」

ボキリと音を立てて、手の中に持っていたペンが真っ二つになる。
晶には、草壁タツオという男が理解できなかった。
多くの命が奪われていく事を、子供のように無邪気に喜ぶこの男を理解することが出来なかった。

ただ一人、雨蜘蛛だけが静かにスピーカーを見つめ、その言葉に耳を傾けていた。

(あのチビジャリンコはおっ死にやがったかぁ…むしろ良く持ったもんだなぁオイ。
 朝比奈みくると妹については…残念だねぇ~せっかくのチャンスを無駄にしちまったズラ)

怒りに震える一人と一匹とは正反対に、その心は酷く落ち着いている。
ただ、ほんの少しだけ、折角の御馳走を逃してしまった事に対する悲しみが水滴一本ほどに存在していた。

『ただ―――残念なお知らせというか、改めて君達全員肝に銘じてほしい事があるんだ。
 最初の説明で言ったよね? 僕達に逆らっちゃいけないってさ。』

ここにきて、初めてスピーカーからの口調が変わる。
ほんの少しだけ残念そうに、それでもその裏に何らかの楽しみを感じさせて。

「………なんだぁ?」

ただ一人、最も精神的に落ち着いている男だけが冷静にそれに答える。

『わかる人にはわかると思うけど僕達は何度か会場に出向いているんだ。
 理由は色々だけどそういう時は黙って見ていてくれないかな、襲い掛かってくるなんてもっての他だよ。

 ここまで言えば勘のいい人は気付いたかな? わざわざこんな事を伝えるのは何かあったんじゃないかって思うのは当然だよね。
 正解だよ。さっき呼ばれた人の中にはね、実際に反抗して命を落とした人が含まれているんだよ。』

「なんやと…このアホ共、こっちに来とるんか!?」
「主催者側が危険を冒してまで、この会場に…!? 何を考えてるんだ!?」
「ふぅむ………」

怒りの形相のままで驚きの声を上げる一人と一匹を差し置いて、雨蜘蛛は顎に手を当てながら息を付く。

放送の主はそのまましばらく『自分達に手を出すな、もしそうすればその場にいる全員に責任を負ってもらう』という趣旨の発言を行った後、
マイクの電源OFFを思わせるわずかな破裂音と共に再びフェードアウトしていった。

「手ぇ出すなやとぉ…! んな事知るかい!! 俺はあの二人を絶対ゆるさへん!! もしもノコノコやってきおったら、オレがボッコボコにしたるわ!!」

悪魔の放送が終了してもなお、スエゾーの怒りは留まる所を知らなかった。
悪鬼のように歪んだ表情のまま、自分たちの命を弄んでいる主催者達に対する憎悪を吐き出し続ける。
自分の足に、涙を流してブルブル震えながらも必死にすり寄っている心優しい小動物がいる事にも気付いている様子は無い。
雨蜘蛛はそれを冷めた目でしばらく見つめた後に、傍らに座っていた少年へと視線を動かす。

「スエゾー…今そんな事を云ったってしょうがない。一先ず、落ち着こう」

さっきまで静かに怒り続けていた晶は、多少落着きを取り戻した様子でスエゾーに語りかけた。
その変わり身が滑稽で、黒いマスクの奥の素顔が醜く歪む。
なんということはない、『人を落ち着かせるには、その人よりも更に情緒不安定な人を連れて来い』という奴だ。
厳しい環境である関東大砂漠では幾度となく見てきたその光景をわずかに懐かしく感じながら、雨蜘蛛は声を出さずに笑う。

「これが落ち着いていられる訳無いやろ!? 面白いやないか!! やれるもんならやってみぃや!!」

だが、予想以上のスエゾーの怨みの根は深かったらしい。
晶の制止の声にも止まる様子を見せず、むしろヒートアップしているようにすら思える。
次の瞬間には、すぐ傍にいた小トトロをはじき飛ばしながら部屋中を駆け回り、主催者達を口汚く罵り始めた。

「ほら、このドアホウ共!! この天下無敵のスエゾー様が相手になったるわ!! どうした、おじけついたんかぁ!?」
「やめろ、スエゾー!! 落ち着くんだ!!」

見るに見かねた晶が席から飛び出し、スエゾーの体を床に押さえつける。

「ぐあっ、こらっ、晶!! 離さんかい!! 俺の邪魔する気なんかぁ!?」
「そんな事したってどうにもならないだろ!? それに忘れたのか、俺たちの首には首輪が嵌まってるんだぞ!!」

ガイバーの強靭な腕力をその身に受けてもなお、スエゾーはじたばたと暴れて拘束から逃れようとする。
晶はそれでも諦めずにスエゾーを止めようと、自分たちの命を握っている首輪の存在を示唆するが、それも焼け石に水だ。

「それがどうしたんやぁ! 首輪だろうがなんだろうが、発動するっちゅーんならしてみぃ!! 色水になろうが噛み付いたるからなぁ!!」
「スエゾー!!」
「ふぅー……はいはい、もーお腹いっぱいだよおじちゃんは」

二人の怒声を遮るように、さっきまで晶が座っていた椅子の辺りから深い深いため息とうんざりした呟きが流れる。
面白い出し物だとしばらくは静観を決め込んでいた雨蜘蛛だったが、流石にいつまでも膠着状態な現状に嫌気がさし始めていた。
やれやれよーっこいしょぉ、と妙に芝居がかった口調で椅子から立ち上がると、未だガイバーの腕から抜け出そうとするスエゾーに近づき、しゃがみ込む。

「目玉よ目玉よ目玉ちゃ~ん、と。面白いお話はいかがだい?」
「なんやぁ雨蜘蛛!! 今オレは忙しいんや!! あのアホ共に痛い目見せん事には気ぃすまんわ!!」
「そーのパッパラパーのアホ共についてのお話なんだがなぁ…興味無い?」
「……なんやて?」

雨蜘蛛の言葉を聞いた瞬間に、それまで盛んに動き回っていたスエゾーの体が止まる。
晶もまた、驚いたような顔で(ガイバーにより表情は伺えないが)雨蜘蛛を見ていた。
首尾よく一人の一匹の注目を集められた事に満足げな笑いを浮かべながら、雨蜘蛛は続ける。

「そのアホの言ってた事だが…ちょ~っとばかしおかしいんじゃねぇかい? と思うわけよおじちゃんは」
「あいつらがおかしいの初めっからやないのか?」
「いや、多分そういう意味のおかしいじゃないと思うぞ」

微妙に力の抜ける漫才的やりとりを聞き流し、雨蜘蛛はスッと立ち上がる。
それに合わせるように晶はスエゾーの体を放して、スエゾーもまた静かに立ち上がった。
また、スエゾーが大人しくなったのを見て小トトロがちょこちょこと彼に近づき、大きな頭の上にちょこんと陣取ってみせる。

「あのアホンダラはこう言ってたよなぁ…自分たちに逆らって、『実際に反抗して命を落とした人』がいるってよ」
「それの、どこがおかしいんですか?」
「んー、例えばだぜ? 俺があのアホと同じ事を考えて、何人か人間を集めて不思議な首輪を付けて殺し合わせたとする。
 が、首輪をつけたとしても心までは堕とせねぇ。奴ら集団で俺に襲いかかってきやがって…そんな時どうすると思うよ?」

雨蜘蛛の言葉に質問した晶が、逆に質問される結果となった。
多少理不尽な展開に面喰いながらも、晶は当たり前のようにこう答えた。

「それは、首輪を発動させる…ですよね?」
「ぴんぽんぱんぽ~んっとくりゃぁ! それしかねぇよなぁ~誰だってそうするし俺だってそうする」
「俺だってそうするで…考えたくあらへんけどな」

冗談めかした雨蜘蛛のファンファーレを聞きながら、吐き捨てるようにスエゾーが呟く。
と、次の瞬間巨大な目玉の顔面の黒衣の変態が躍り出た。

「どわぁぁ!? な、なんやねん雨蜘蛛!?」
「さて、こっからが本題だ。これから俺は放送を行う。その場で反乱が二度と起きねぇように奴らに釘を刺す。さぁ、なんて言うでしょ~かっとな?」

驚くスエゾーを尻目に、ずずずいっと更に前ににじり寄りながら雨蜘蛛が再度問題を出す。
後ろにつんのめりながらも、スエゾーは一つの答えを出した。

「そら、お前…『次やったら首輪使ったるぞ』とでも………あぁ! って、うおぉー!?」

プルプルと震えながら一つの答えを出した瞬間にスエゾーの目が大きく見開かれ、また同時に完全にバランスを崩して後ろにこけた。
頭の上の小トトロは、見事なジャンプで隣の晶の肩へと着地していた。

「スエゾー!? 大丈夫か!?」
「あったたたた~…ケツ…ケツ打ってもうた……」
「ケ……え?」
「とりあえずまー俺が言いたいのはそういう事だ。わかったかい目玉ちゃぁん?」

そういう雨蜘蛛はすでに後ろを向き、さっきまで座っていた椅子へと歩き出していた。
再び奇妙なやりとりを行いながら晶はスエゾーの体を抱き起こす。
丸く重い頭を支えてやりながら、少年は黒衣の男に今の問題の真意を訪ねた。
小トトロは晶の肩を伝って、再びスエゾーの頭部にのっかってみせる。

「つまり、雨蜘蛛さんが言いたいのは…今回の主催者側の制裁は、首輪によるものでは無いと?」
「おっそらく間違いねぇだろうな~。もし首輪を使ったんだったらわざわざ言わない理由がねぇ」
「っちゅ、ちゅー事はや、この首輪ってただのお飾りっちゅー事やないんか!?」

今度はスエゾーがバネ仕掛けの玩具のように飛び出し、雨蜘蛛の傍へ現れる。

「うわっ、とっ、ツバ飛ばすんじゃねぇよぃ!! 確かに首輪で殺されたわけじゃねぇのは間違いねぇだろうが、だからって飾りって訳でもねぇだろ!」
「だったらなんの為に首輪があるんや? 反逆防止の意味がなかったら付ける必要あらへんやろ?」
「……いや、それ以外にも首輪の使い道はあるだろ、スエゾー」
「晶?」

雨蜘蛛の代わりにスエゾーの質問に答えた晶は、机の上に置いてあったMAPを手に取る。
それを拡げて見せられることで、スエゾーもようやく合点が行ったようだ。

「そうか、禁止エリアがあったんや…!」
「首輪がお飾りだってんなら、禁止エリアなんてわっかりやすい大嘘こくわけもねぇって事だ~べさ」
「それ以外にも、俺達の脱出を禁止する為にこれが存在していることは間違いないと思う。
 二人には言いそびれていたけど、俺はこの殺し合いが始まったばかりの頃に空を飛んでマップの端まで移動してみたんだ。
 この境界線の辺りに近付いた瞬間に、首輪から警告の音声が鳴り始めたしね」

晶の言葉に、分厚いマスクの下で雨蜘蛛の目が僅かに細められる。
思い出すのは数時間前、自分がボートで島の周りを囲む大量の水たまり、『海』へと繰り出した時のことだ。
海の上では潮の流れに流され、単純な構造のボートでは思うように身動きを取ることが出来なかった。
『海には潮の流れというものがあります、特にこの島の周りの流れは海底地形の影響で複雑ですので十分な注意を』
『潮の流れに逆らわず利用する事です、潮流の横に逃げて近くの別の流れに乗りましょう』
どちらもボートの中にあった解説書に書いてあった言葉だ。
最初に読んだ時は親切な事だ、と思ったがこれは暗に『海路では島の外に脱出できない』という事を表していたのだろう。
その際には雨蜘蛛も意図せずマップの境界線近くまで漂着しかけ、危うく色水となる所であった。

「少なくとも、文字通り俺達をこの島にくくりつけとく首輪としての効果はあるってぇ事だな」
「けっ…ほんま胸糞悪い奴らやで!」
「…でも、やっぱり気になる事はあります」
「おぉ?」
「なんや、どうしたんや晶?」

二人の声を聞きながら晶が脳裏に浮かべているのは、この殺し合いが始まる直前の事だ。
あの長門という少女は、デモンストレーションとして少年を色水に変えた後、首輪についてをこう解説していた。

『首輪の作動条件は三つ。一つは私達への反逆。二つは私達が指定する禁止エリアへの侵入。三つは無理に外そうとする。これをしなければ、作動はしない』

「あの長門という子は、確かに首輪の作動条件の一つとして『自分たちへの反逆』という物を挙げていた。
 もしも今回の雨蜘蛛さんの仮説の通りに、自分達に逆らった参加者を前にしても首輪を作動させなかったというのは…一体どうしてなんだろう」

晶の言葉を聞いた雨蜘蛛はしばし顎の上に手を当て考え込む。
ひとしきり唸り声をあげた所で、男はふと思い浮かんだ事を呟いてみせた。

「……使いたくても使ぇねぇ…もしくはできれば使いたくねぇ、か」
「それも良うわからへんな…結局いったいどういう訳やねん」
「俺に聞くんじゃねぇよ、俺が言ったのもあくまで予想にすぎねぇんだからな~」

パッと手を離すと、黒衣の男はお手上げとばかりにヒラヒラと両手を動かす。
スエゾーは、結局また振り出しみたいなもんやな…と深いため息を付いた。
そんな中、晶は雨蜘蛛へ自分の疑問をぶつけてみる。

「あの、雨蜘蛛さん。なんでこんな事に気づけたんですか?」
「あぁん?」

放送というのは一回こっきりの物だ。その中のたった一言に目をつけ、そこからここまでの仮説を打ち立てるのは、並大抵の事ではない。
不思議でたまらない、といった雰囲気の晶に対して雨蜘蛛は……どこか遠い眼をしている、気がする。
やがて、一つ深い息をついた雨蜘蛛がぽつりと零した。

「ま……生まれ育った環境のお陰かねぇ」

雨蜘蛛が育った環境。すなわち、関東大砂漠。
治安はマイナス、ついでに衛生環境もマイナス。
欲が欲を呼び、人が自分の為だけに容赦なく他人を蹴落とす、過酷すぎる世界。
ありとあらゆる嘘に満ち溢れた砂漠では、ただ盲目的に何かを信じているだけでは生き残れない。
ケツの毛までむしられて、最後の一滴まで搾り取られて死んでいく…一瞬の油断さえ、命取りの世界。
雨蜘蛛は、そんな世界で、魂さえも取り立てる地獄の取立人として名を馳せていたのだ。


【02.目玉怪物の慟哭】


「………ま、そーんな事は置いといてだ。そろそろ四角い箱入りお嬢ちゃんがぴぃぴぃ泣いちまってるんじゃねぇかぃ?」

一瞬漂ったアンニュイな雰囲気を、両手をパンと打ち鳴らすことで吹き飛ばした雨蜘蛛は、放送前から起動しているパソコンを指さす。
その画面の中では、複数の赤い点が随所にちりばめられ、三つの青い点が輝く地図が表示されていた。

「そうだ、リングを調べないと! ドロロさん達も待ちくたびれてる頃だ!」

先ほどチャット相手であるドロロ達から聞き出したキーワードを入力し、地図を更新した直後に今回の放送が始まったのだ。
あまりにも都合の悪いタイミングだった為に対して中身もチェック出来ないまま、随分と長い時間を過ごしてしまった。
ふと視線を動かして壁にかかった時計を見つめてみれば、時計は18時15分近くを指している。
再度、視線を動かして画面の中を見つめる。
変化が見られたのは二か所、E-8、E-9に跨る巨大な湖に位置する点と、I-4の森の中にある点が『作動中』を表す青色になっていた。

「少しゴタゴタしすぎちゃったな…映像を確認するのは後にして、一先ずドロロさん達に連絡を取ろう」

マウスを数回カチカチとクリックして、地図と別窓で開いていたチャットの画面を呼び出す。
接続は行われたままだ。

泥団子先輩R>晶殿、どうされたでござるか?

チャットの中では、ドロロが自分たちを心配する旨の書き込みを行っていた。
わざわざ心配をかけてしまった事を少し申し訳なく感じながら、晶はそれに答える。

ゴーレムの友>すいません、少しゴタゴタがあって書き込むのが遅れてしまいました。今はもう大丈夫です。

やや時間がたち、ドロロ達からの返信がやってくる。

泥団子先輩R>なに、仕方なきことでござる。大事がないのであれば、それに越したことはないでござるよ。
ゴーレムの友>ありがとうございます。では、早速ですがこちらのリングの状態についてお伝えします。
ゴーレムの友>新たに作動しているリングは二つありました。E-8,9周辺の巨大な湖の中と、I-4の森の中です。
ゴーレムの友>残念ながらまだ動画は確認していませんが、この情報交換が終わったら見てみるつもりです。
泥団子先輩R>情報提供感謝するでござる。
泥団子先輩R>こちらも、今からキーワードを使ってkskを調べようとしていた所でござる。

「なんでぇ、あちらさんも随分動きがトロいじゃないの」
「放送があったんです、何かがあっても仕方ないでしょう。もしかしたらドロロさん達の知り合いの誰かが死んでしまったのかも…」

そんな会話を交わしながら、晶はひとつ気になっていた事を質問する。
先の放送にて、禁止エリアの発表があった時から少し気がかりだった事だ。

ゴーレムの友>一ついいでしょうか?禁止エリアのことなんですが、そちらは大丈夫ですか?
ゴーレムの友>三時間後にはもう遊園地への入口が閉鎖されてしまうようですが…。
泥団子先輩R>その事については心配ござらん。拙者達の中に空を飛べる物がおるので、海側から迂回して脱出できるでござる。
泥団子先輩R>それでなくても三時間も先のこと、飛べぬ者だけで今から移動すれば十分に間に合う距離でござる。

「こっちの方については心配しなくても大丈夫みたいだな…」
「にしても空を飛べる奴ぅ? おいおい、ここの参加者の中にはそんなに空を飛べるのがいるってー事なのか?」
「確かに、俺の元の世界から来たクロノスの構成員達は、全員空を飛ぶことが出来るな…偶然なんでしょうか?」
「………さぁなー?」

口ではそう答えながらも、雨蜘蛛は例の岬の洞窟に思いを巡らす。
アレを見た時は『そう簡単に入れる場所ではない』と予測したが、案外そうでもないのかもしれない。

(こいつは、ちょーっと出発をはやめねぇといけねぇかもなぁ…取立人が横取りされちまっちゃぁ、商売上がったりだぜ)

雨蜘蛛がそんな考えを巡らせているとも知らずに、晶はいったん画面から目を離して部屋を見回す。
ついさっきから、まったくスエゾーが姿を見せず、口をはさまないのが気になったのだ。
放送後の騒動の事もあり不安が募ったが、部屋の隅の窓からじっと外を見つめている姿を発見して安心する。
頭の上には相変わらず小トトロが乗っかり、一緒に沈みゆく夕陽を見つめていた。
そんな事をしているうちに、チャットの中に新たな文章が出現する。

泥団子先輩R>ところで、こちらからも一つ聞きたいことがあるのでござる。
泥団子先輩R>先の放送で、死者の発表が終わった後に草壁タツオが長々と何かをしゃべっていたようでござるが、何と言っておったのでござるか?
泥団子先輩R>こちらでも多少のトラブルがあったため、詳しく聞くことができなかったのでござる。
泥団子先輩R>そのトラブルについては無事に解決したので、心配は御無用でござる。

「やっぱり、何かあったんだ…こうは言ってるけど、大丈夫だろうか」
「心配すんなっつってんだから別にいいだろ? いーからさっさと話を進めろぃ」

ゴーレムの友>放送の内容ですが、かいつまんで言えば「主催者からの警告」です。
ゴーレムの友>どうやら、主催者達はそれなりの頻度でこの会場に現れ、参加者に介入しているそうです。
ゴーレムの友>しかし参加者と接触するたびに抵抗を受けたようで、「これからは手出しをしないように」という内容でした。
ゴーレムの友>なお、主催者の話では「今回の死者には自分たちに逆らったために命を落とした物がいる」という話でしたが、
ゴーレムの友>その口ぶりから察するに、参加者の制裁は首輪以外の何かで行われたと思われます。

「…っておいおい、それそんな簡単に教えちまうのかよぉ~?」
「相手からも色々な情報をもらってるんです、ちゃんと恩は返さないといけないでしょう?」
「ったくよぉ…それだからお前はアマちゃんだってんだぜぇ…」

正反対の性格の二人によって所々の口論が起こりながらも、どうにか順調に情報交換は進んでいく。
途中で、リング観戦用の動画を再生するためのキーワードをドロロに尋ね、動画をいつでも再生できる状態に待機した所で会話も一段落着いてきた。

泥団子先輩R>では、これからわれわれはそれぞれのkskを調査する事になるでござるな。
ゴーレムの友>はい。しばらく時間をおいてからPCから得た情報をまとめて、再びチャットを行うのがいいと思いますが…。
泥団子先輩R>了解したでござる。では、チャットを切断してから1時間後に再び落ち合うというのはどうでござろう?

はい、それでは――――とキーボードを叩きかけた瞬間に、晶の指をさえぎる声があった。

「ちょっとまったぁ!! まだチャット、終わってへんよなぁ!?」

スエゾーである。
慌てた様子でピョンピョンと跳ねてきたスエゾーは雨蜘蛛の逆方向に陣取ると、画面をのぞき込みひとつ息をついた。

「ふぅ、良かった、間におうたか…このまま無視されてまう所やった」
「スエゾー…何をやってたんだ?」
「ん、いや……ちょっと、考え事や」

今までずっと物思いにふけっていたらしいスエゾーに対して晶が疑惑の目を向けるが、対するスエゾーはバツが悪そうに眼をそらすのみ。

「まぁそんな事はどうでもええんや……晶。例の話、俺に聞かせてくれるように頼んでもらってええか」

例の話。
その単語を持ち出された晶の体が、少し強張る。
何の話についてかは、今更もう一度確認するまでもない。
既に察した様子の雨蜘蛛は、付き合ってらんねぇぜぇ~とばかりに席から離脱している。

「……ああ、わかった。ちょっと待っていてくれ」

真剣な表情で自分を見つめるスエゾーに、少し硬い声で答える。
再びキーボードに向かいなおった晶は、ゆっくりとチャットへと書き込んでいく。

ゴーレムの友>すいません、少しお待たせしました。最後にもう一つだけいいでしょうか。
ゴーレムの友>スエゾーが、ゲンキさんの死について教えてほしいと言っています。

送信が終わった後の、なんともいえぬ重苦しい空気が漂う。
ちらりと横目で確認すれば、スエゾーは真剣な表情でディスプレイを見つめていた。

返事は、数十秒ほど遅れて帰ってきた。

泥団子先輩R>承知したでござる。しかし、実際にゲンキ殿の死をみとった朝倉殿とヴィヴィオ殿は現在席を外しておられる。
泥団子先輩R>いつ頃戻ってこられるかはわからないでござるが、少なくとも1時間後には戻ってきているはずでござる。
泥団子先輩R>ただし、最期の概要だけは拙者も話を聞いているでござる。
泥団子先輩R>今、又聞きでもいいから話を聞くか、それとも1時間後に改めて朝倉殿達から話を聞くか。スエゾー殿、選んでほしいでござる。

晶は、ディスプレイから視線を外し、ゆっくりと傍らの目玉の友人の姿を見た。
スエゾーの表情は先ほどと変わらなかった。ただ、その巨大な瞳の奥に何かしらの強い意志が宿っているかのように見えた。

「…今でええ。聞きたいのはたった一つだけや」

晶の顔をまっすぐに見つめながら、スエゾーはゆっくりと語る。

「ゲンキは……闘っとったんか?」

それを聞いた晶は、キーボードを叩き、ドロロ達に言葉を贈る。

ゴーレムの友>スエゾーは、今話を聞きたいと言っています。そして、聞きたい事は一つだけだそうです。
ゴーレムの友>「ゲンキは、闘っとったんか?」

しばしの重い沈黙が、再び流れる。
晶もスエゾーも、ディスプレイから目を離さなかった。

泥団子先輩R>ゲンキ殿は、勇敢で優しい少年であったと聞いたでござる。
泥団子先輩R>戦い、自分たちを殺そうとした者の命を奪うことなく引き止め…
泥団子先輩R>その者を庇って散っていったそうでござる。

―――――ぽたり、ぽたり。

水滴が、床に落ちる音がする。

「ああ……そうなんやなぁ……やっぱり…あいつはいつもと変わらんわ…」

もう聞きなれた、聞き慣れてしまった、普段以上にしゃがれたスエゾーの声。

「いっつもそうなんや…俺らが危ないっちゅーても聞きもせんで…無理して闘って…そんで大ケガしてホリィに怒られて…」

涙で溢れた巨大な目玉が、輝くディスプレイを反射する。
だが、その眼が見つめているのはパソコンの画面ではなく、もっと別の物だった。

「全く…あいつらしいわ……あの、ドアホウが……!」

色々な場所に行った。街にも行った。森にも行った。谷を越えた。海を越えた。遺跡にも潜った。敵の牙城にも乗り込んだ。
一緒に戦った。仲間同士で喧嘩をした事もあった。その分仲直りもした。苦しく辛い戦いもあった。
初めての四天王、ピクシーとの戦いも、ホリィが突如現れたムーにさらわれた時も、ガッツを振り絞り、皆で力を合わせて乗り越えた。
ホリィも、モッチーも、ライガーも、ハムも、ゴーレムも、ゲンキも、大切な仲間達だった。
―――――なのに。

「ゲンキのドアホゥ!! お前もモッチーもホリィもいなくなってもうて、そんでまた楽しく旅が出来る訳ないやろうがぁ!!」

そう叫んだ後、スエゾーは声を立てて泣き叫び始める。
自分の中の悲しみ、怒りを全てぶちまけるかのように。
スエゾーを心配したように寄り添う小トトロの姿もまた、深い悲しみを誘った。

晶は、何も言う事が出来なかった。知り合ってからの時間は短いとはいえ、自分を支えてくれた友人に何を言えばいいのかわからなかった。
ただ、強く拳を握り締める。ガイバーである自分の拳を。秘密結社クロノスが、血眼になって手に入れようとしている強殖装甲、ガイバー。

その力で、必ずこの殺し合いを潰してみせる。

そう、心の中で固く誓った。


雨蜘蛛は、目前で繰り広げられている光景に何の興味も無かった。
あえて言うならば、『自分以外の誰かの死』という物でここまで激しく感情を表すのを見るのは珍しくはあったが、それだけだった。

だが、無言で拳を握りしめているガイバー・晶の姿を見て目の色が変わった。
数十分前、自分に力強く立ちはだかった時と似たオーラが溢れている。

先ほどの晶を見て雨蜘蛛がこの少年に下した評価は、『いざという時の爆発力は一流』という物であった。
そして今、スエゾーの悲しみに触れた晶の力は爆発寸前なまでに漲っている。
これがカンフル剤となって、後々の『主催者打倒』に生きてくるとすれば……

(こいつは…ちょっとばかし面白い事になってるかもしれねぇな)

ま、そう上手くいけばの話だがねぇ…危なくなったら俺ァまっさきにトンズラこかせてもらうぜぇ。
そんな感情も秘めながら、じっと二人の様子を観察していた。


やがて、スエゾーの慟哭だけが流れていた部屋の中に数秒間だけキーボードの叩く音が響く。

ゴーレムの友>ありがとうございました

たった一言の感謝の言葉。それだけを残して、ひとまず深町晶はチャットルームから退室した。


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輝く光輪 ドロロ兵長 彼等彼女等の行動 (03~04)
深町晶
スエゾー 彼等彼女等の行動(05~07)
雨蜘蛛






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