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でこぼこカルテット(前編) ◆YsjGn8smIk




☆1★


ぎい、と重い音をたてて扉は開いた。
あたしたちはゆっくりとアトラクション内部へと足を踏み入れた……のだが。
はて?

「何も……無いわね……」

辺りを見回すと、室内にはこれといった物が何もない。
今までだったら巨大な乗り物とか、鏡の迷路とか何かしら目を引く仕掛けが必ずあったのに……。
薄闇い廊下には『順路→』と書かれたプレートがあるだけ。
うーむ、今までのアトラクションと比べたらなんか地味だなー。

「ま、仕方ないか……とりあえず、進みましょう」

と、歩き出そうとしたそのとき。
急にあたしは手を引っ張られた。

「どーしたの、ヴィヴィオちゃん?」

うしろを振り返りそう尋ねると、そこには当然のようにヴィヴィオちゃんが居たのだが……
彼女はしきりに辺りを見まわして、妙に落ち着きが無い様子だった。

「リナさん……ここ暗くてなんだかこわい……」
「あ~、確かにね」

そういうことか……。
ここには足元を照らす程度の明かりしかないうえに、何処からか肌寒い冷気まで流れてきている。
確かになにかが出そうな雰囲気ではある。

「だ~いじょうぶよ、ヴィヴィオちゃん」

根拠も無くあたしはそう言ってヴィヴィオちゃんを励ます。

「で、でも……お化けとか出そうで……」
「へいきへいき。幽霊なんかが出てきても呪文の一つでイチコロだから」
「ほ、ほんと?」

これは本当。
確かに一般人にとってゴーストはかなり厄介な相手である。
実体がないため、並の戦士や魔道士では文字通り刃が立たないのだ。
しかし、戦士にして魔道士であるこのリナ=インバースにとってはただのザコ!
だいたい連中はちょっとした魔力剣で斬られた程度で消滅するぐらい根性がない……
そんなわけでヴィヴィオちゃんでもバルディッシュを使ってはり倒せば、あっさりと消滅させる事が出来るはずなのだ。

……そう説明するとヴィヴィオちゃんも安心してくれたのか、ぎこちなくだが笑ってくれた。

「じゃあお化けが出ても、大丈夫なんですね……」
「そうそう。……それにね、ヴィヴィオちゃん。いざ何かが現れても、とりあえず呪文をぶっぱなす!
 これでたいていの事はなんとかなるから、よーく覚えときなさいねー」
「え、えと…………ん、わかりました」
「素直でよろしい。じゃあ先に進むわよ」

素直に頷く生徒に満足してあたしは足を進める。
しばらくは薄暗い廊下を足元の明かりの誘導に従いひたすら歩いた。

――そして唐突に明かりがつく。

あたしは眩しさに目を細めながら鮮明になった室内を見て……愕然とした。
隣のヴィヴィオちゃんからは息を呑むような声が聞こえる。

「ひっ――」
「火炎球(ファイアーボール)!」

ごぅわ! 

あたしの術で目の前に居た異形は一瞬で蒸発した!
……あーびっくりした。
あんまり驚いたから思わず火炎球(ファイアーボール)を投げちゃったぞあたしは。
爆風がたなびく中、あたしは油断無く辺りを見回す。
明るくなって判ったのだが、いつのまにかあたし達は広場みたいな所に立っていた。
そして周囲にはそこらかしこに、人人人!

いや――それは人ではなかった。
人型の異形、そんな者達が大量に立っていたのだ!

「ひ、ひっ……ひっ……」

と、そこに、か細い声が響いた。
って――この声は

「ヴィヴィオちゃん!?」

慌ててふりかえると……彼女は床に尻餅をつき、声にならない呻きをもらしていた。
その口からはまともな言葉は紡がれず、その瞳は大きく見開かれ――前方のただ一点を見つめている。
あたしはその視線を追って、再び愕然とした。

「リヒャルト・ギュオー……!」

そこには――かつてあたし達と死闘を繰り広げた、あのギュオーが不敵に笑っていた。


★2☆


思索を終え、拙者が目を開くと――朝倉殿は名簿へと何かを書き記していた。
その腕は止まることなく動き、瞬く間に空白が黒く変化してゆく。
覗きこむとそこには細かい字で参加者の肩書きと支給品が書き込まれていた。
……なるほど。写せるだけの情報を写しているというわけでござるな。

「ドロロさん?」

こちらの視線が気になったのか朝倉殿が声をかけてきた。

「ぼうっとして、どうかした?」
「少し考えていたのでござるよ……鵜呑みにしてもよかったのだろうか、と」

ふと、朝倉殿の動きが止まる。
そして身体をこちらへ向け、ペンを指先で弄びながら

「それは、何に対してなのかしらね」

などと、いまいち理解できない事を尋ねてきた。
どういう質問でござろう。
拙者が尋ねたかったのは当然、リナ殿の……


そこまで考えてふと気付く。
つまり朝倉殿は――それ以外の何かを疑っているのでござるか?
そう尋ねると、朝倉殿はペンを拙者へと向けて

「疑う、か。やっぱりドロロさんは鋭いね」
「どういうことでござるか?」
「そうね……実はわたしは初めから何も信じてなかった、って言ったらビックリする?」

その言葉はまさに予想外!
拙者は吃驚――いや、それどころか動揺までしてしまう。

「し……信じていなかったとは……ま、まさか拙者達の事を!?」
「あっ、勘違いしないでね。別にあなたたちの事を信じてないとかそういう話じゃないのよ」

拙者を宥めるように手を振ると、朝倉殿は言葉を継いだ。

「ただね、主催者はやろうと思えばネット上の全情報に瞬時に介入・改竄することが出来るの。
 それをわたしは知ってる。この意味……あなたなら理解できるんじゃないかな?」
「なっ……!?」

混乱はより酷くなった。
畳みかけるように語られたその情報をなんとか理解しようと大きく息を吸って――吐く頃にはなんとか理解できた。
いや、理解も何も彼女はこう言っていたのだ。

掲示板もチャットも、いや――それどころかネット上の全てが主催者によって捏造されている、と。

「しかし! それでは晶殿や……スエゾー殿の事すらも偽りだと言うのでござるか!?」

晶殿の誠実さも、スエゾー殿の怒りや哀しみ……あれが偽りだと、どうして信じられようか。
朝倉殿にそう詰め寄ると、彼女は軽くかぶりを振って否定してくれた。
だが、ほっとしたのも束の間。朝倉殿は全てを否定してくれたわけではなかったのだ。

「全部が偽物だとは言わない。ただ、わたしはネット上の情報はすべて虚構かもしれないって思っているの」

それはまるでナゾナゾみたいな言葉でござった。
言わないが、思っている。
しかし――

「――それでは、晶殿達の事も掲示板の情報も『全て嘘だと思っているし、その可能性が高いと疑ってもいる』という事では?」
「うん」

拙者は――その朝倉殿は軽やかな笑顔を見て寒気を覚えた。

彼女はあらゆるものを疑っている。あらゆるものを信頼していない。

不確かなものは全てを疑ってかかる。確かにこの場では正しい行動やも知れぬ。
しかし表面上はにこやかで内心はドロドロ。
そんな人物を世間では――腹黒、というのではなかっただろうか?

「とりあえず整合性がとれている限りは嘘だとは決め付けないわ。虚構が崩れるまでは、一応真実として認めているのよ?
 だから深町さんやスエゾーさん、それに夏子さん、ノーヴェさん、名無しさん……あと雨蜘蛛の言葉も一応は考慮しているわ」
「……」

言葉もない。
彼女はネット上の相手を信頼する必要などない。
だが矛盾がない故、信頼しているフリはする……と公言したのだ。
それはヴィヴィオ殿に向けていた慈愛に満ちた顔とは真逆の、酷く冷静――いや冷酷で、まるで機械のような――。

(機械、でござるか)

機械で思い出すのは、あの言葉。

――ヒューマノイド・インターフェース――

彼女の肩書きに書かれていたあの言葉、この冷酷さはあれに由来する物なのだろうか……?

「……」
「……」

そして会話が途切れる。

「……それにしてもリナさんたち、遅いわね」

ふと朝倉殿はディスプレイへと視線を移し、ぽつりとそう呟く。
ディスプレイを見ると確かに遅い。時刻は待ち合わせの時間を大きく過ぎていた。

「確かに。もしや何かを見つけたのでござろうか?」
「ならいいけど。少しだけ心配だわ……」


☆3★


一方、その頃。
リナ=インバースは苦戦していた。


★4☆


わたしの言葉を聞いて、心配そうにスタッフルームの扉を見つめていたドロロさん。
それが急に何かに気付いたかのように、振り返ってわたしへと視線を向けてきた。

「……そういえば拙者はそもそも、
 名無し殿の情報の信頼性について相談したかったのでござるが……」
「あ、その事だったの。そっか、リナさんの事まだ納得出来てなかったのね」
「いかにも。考えれば考えるほど、拙者には信じられないのでござるよ」
「……そう」

きっと一緒に居たリナさんの事を信じたいのね。
だけど聞けばドロロさんもずっと彼女のそばに居たというわけでもないみたいね。
問題の時間帯、ちょっとした小用やわたしたちを助けに離れた数分間――アリバイがまったくない時間帯が存在するらしい。
それに――。

「名無しさんの情報には今のところ矛盾はないのよ? あなたはそれをどう考えてるの?」

さっき話したように、わたしも基本的にはネット上のデータを信じていない。
でも、それなりに信憑性があれば否定もしない。
今回のチャットで名無しさんが示した情報は二十。そのうち約半分が正しかったと証明されている。
一つでも偽りがあれば即座に改竄が発覚したのに、結局偽りは一つも見つからなかった。

「しかし、偶然という事もあるのでは?
 偶然拙者たちの知っている情報とは一致したが、残り半分の情報は全て出鱈目という可能性も――」
「確かにその可能性はあるけど」

その言葉を遮って、わたしは更に彼を追い詰めるような事を尋ねた。

「ドロロさんはどの程度まで疑えば満足するのかな?」
「どの程度、でござるか?」

鸚鵡返しで聞き返してくる彼に、わたしは噛んで含んで聞かせるように説明してあげる。

「疑うのはリナさんの事だけ? 他の殺害者はついでにしか疑わないのはなんで?
 それにリストそのものはどう? あ、それに名無しさんというのも本当に実在するのかしらね?」
「そこまで……疑うと何も信じられなくなるでござるよ……」
「そうね。だからわたしも信憑性がある限りは無闇に疑わない。そしてあの情報には信憑性があるわ」
「無闇に……疑わない?」

わたしは思わず目を見開いてしまった。

「そうだけど、それがどうかした?」

驚いたのはドロロさんの口調。
彼の口調が急に鋭いものへと変化していた。

「朝倉殿は、妹殿の死もリナ殿の殺人も……まるで瑣末事のように言うのでござるな」
「それは」

……失敗したかな。
ドロロさんがすごく冷たい視線でわたしを見ている。

「朝倉殿は……この重大な問題をどう考えているのでござる?」
「……」

少しは疑っておけばよかった……。
今更「どっちでもよかった」なんて本音を言うわけにもいかない。きっとそれはドロロさんの怒りを買ってしまうから。
それでは揉め事を起こしたくないからと、この問題をスルーしてた事が無意味になる。

「もしやリナ殿に尋ねたくない理由が――何かあるのでは?」

ドロロさんはこちらの目を見据えて

「答えよ、朝倉殿!」

そう咆哮した。
その視線と咆哮に、わたしは自分の身体が震えている事を自覚する。
……こうなったら正直に話した方がいいのかもしれない。

「あーあ」

ため息のように大きく息を吐き、躊躇いがちにわたしは白状する。

「なら正直に言うけど……わたしは秘密を暴いてもいい事はないって思ったの」
「……」

ドロロさんは目線だけで先を促す。

「だからね……わたしの経験じゃ、仲よくやっていくためにはあまり秘密っていうモノに触れない方がいいのよ。
 だからリナさんを疑って仲たがいをして欲しくなかったの……理解してくれたかしら?」
「それだけではなかろう」

ドロロさんはかぶりをふって、その釈明を拒絶した。

「それだけなんだけどなあ……あなたは何を疑ってるの?」
「朝倉殿。拙者は朝倉殿から『この問題に関わりたくない』という強い意志のようなものを感じたのでござる」
「え?」

意表をつかれ、わたしは目をぱちくりさせてしまう。
そんなものがある筈がないのに……。
だいたい――

「意思って?」
「想い、とも言うでござるな。先程の言葉からはその想いを感じなかった。
 他にどうしてもリナ殿に尋ねたくない理由が……存在するのではござらんか?」
「本当にそんな理由は――――っ!」

っ!
これって……このノイズ。

「説明してもらうぞ、朝倉殿」

……。
説明しなきゃ納得してくれないみたいね。
あたしは今、思いついた考え――ノイズを翻訳する。

「言語化は難しいんだけど……ふと、気付いた事があるわ」
「聞かせてもらおう」

そこでわたしは一旦言葉を区切る。
そして大きく息を吸って一息で言う。

「――守ってあげたいから」
「………………は?」

ドロロさんが目を丸くした。

「ヴィヴィオちゃんがショックを受けるから。
 彼女は妹ちゃんを助けられなかった事を後悔してたわ。
 その殺した相手がリナさんだってわかったら……きっと苦しむんじゃないかって。
 だから聞かせたくなかった………………のかしら?」
「――」

まるで時間が止まってしまったみたいにドロロさんが動かなくなる。
当然、かな。
わたしだって自分が何を言っているのかよくわからないのだから。

「なんと。なんという」

そしてドロロさんが動きはじめた。
彼はゆっくりと近づいてくる……これはもう、信頼関係も終わっちゃたかな。
そう思って身構える。

でも。

「なんという慈愛の心! 拙者は朝倉殿を見損なっていたでござるぅぅぅ!」

ドロロさんは泣いていた。
それはもう目から大量の涙が流れるぐらい感動していた。

「ちょ、ちょっとドロロさん?」
「拙者はいま猛烈に感動してるぅ!
 その思いやり……感服いたした! ぐっ、拙者も……まだまだ未熟。
 確かにリナ殿に尋ねるという事はヴィヴィオ殿にも聞かれてしまう、そうでござるな。
 聞かせるべき話ではなかったでござるなあ……」
「おもい、やり……?」

彼が言っている事を理解できず、わたしはフリーズしてしまう。

「ちょっと二人とも、手え貸して!」
「ッ! リナ殿!?」

わたしは呆然とそれを聞いていた。
ノイズが。
翻弄されていた。

……なにかしら、これ。

もう少しで答えが出そうな気がしていた。


☆5★


呼びかけてから数瞬後。扉が開き、中からドロロが飛び出してきた。

「リナ殿、いったい何があったのでござるか!」

油断無く辺りを警戒するドロロ(なんでか目元が濡れていた)にあたしは手を振って告げた。

「ちがうちがう、敵じゃないわよ……こっちこっち」
「――ヴィヴィオ、ちゃん?」

あたしが背負っていた彼女を見て、部屋の中で呆然と突っ立っていたアサクラが駆け寄ってくる。
彼女が呆然としてるなんて珍しい……。

「眠っているようでござるが、いったい何かあったのでござる?」

気になったのかドロロが訝しげに尋ねてきたが……あたしは曖昧に言葉を濁す。

「まあ、ちょっとね」

背負っていたヴィヴィオちゃんをアサクラの背中へと移しながらあたしは考える。
そして出た結論は――説明は簡単のようで難しくて面倒くさい、という事だった。
あの時、最後のアトラクションでヴィヴィオちゃんを恐怖のどん底へと落とした存在。

それは――――ガイバーⅠだった。

そう、ガイバー。
白い生物的なあのフォルム、恐らくあれが話に聞いていたガイバーⅠなのだろう。
てっきりその隣にあった化け物じみたギュオーの姿に怯えてたのかと思いきや、違ったのだ。
彼女――ヴィヴィオちゃんはガイバーⅠを見て腰を抜かしていた。

まあ種明かしすると、ガイバーもギュオーも別に本人というわけではない。
あそこにあったのは姿を似せただけのただの蝋人形。
そう、何故かあそこにはギュオーやガイバー……それに見知らぬ大量の人型モンスターが飾られていたのだった。

色々調べてみたが他に特にめぼしいものも無く、結局あそこは実物大の蝋人形を飾っただけの蝋人形館だったのだろう。
まあ、人形とはいっても人型のモンスターばかりだったけど……。

「……とまあ、そういうわけよ」

あたしの説明を聞いて、ドロロはジト目で尋ねてくる。

「リナ殿。『そういうわけよ』で何を理解しろと?」
「ほら、なんかこー……伝わんなかった?」
「以心伝心とはいえ、それだけでは無理でござるよ。せめてもう少しなんとか言ってもらわねば」
「はい、じゃあヒント! ヴィヴィオちゃんがこうなったのはガイバーのせい! ……これでどうだ!」
「ガイバーのせいと言われても……ガイバー!?」

おー、驚いてる驚いてる。
そんなふうにドロロをからかっていると、ドロロを押しのけアサクラが急にあたしに迫ってきた。

「リナさん」

と……なんだこの寒気は!?

「冗談はそのくらいにしてさあ、ちゃんと説明してくれないかしら」

いったい何が彼女の琴線に触れたのか、アサクラは洒落にならないぐらい怒っていた。

「……それとも今すぐ死にたい?」

し、死にたいってあんた……。
というか目が笑ってないでやんの……。
思わず鳥肌がたつほどのこの威力、これはさっさと話してしまった方が身のためかもしれない。

「んっ、んっ~」

あたしはひとつ咳払いをして雰囲気を和ませようと、おどけていった。

「やだな~、アサクラ。あたしもそろそろ本気で説明しようとしてたんだって!」

パタパタと手を振るあたしを見て、アサクラは氷の微笑のままで

「ふぅん」

とだけ返してきた。
つ、冷たい…………こりはヤバヒ。

「つ、つまりね――――」

そしてあたしは全部吐いたのだった。
臆病というなかれ。
それぐらいアサクラの放つプレッシャは凄かったのだ。

……いやホントだって。

「そう……。ヴィヴィオちゃんのガイバー恐怖症も深刻ね。
 それで、どうしてヴィヴィオちゃんは眠ってるのかしら?」
「た、立てないみたいだったからあたしが背負ってあげたのよ。
 疲れてたせいか、途中で眠っちゃったけどね。
 ……ま、身体が大きくなっても子供は子供。きっと普段はとっくに眠っている時間なんじゃない?」
「ふぅん」
「……嘘じゃないから。その眼はやめて、怖いから」

そこまで言ってようやくアサクラは目線を緩めてくれた。

「わかったわ。お疲れ様、リナさん」
「う、うん」

こくこくと頷くあたしを横目に、ヴィヴィオちゃんを背負ったままアサクラは部屋の中へと戻っていった。
こ、怖かったー。
あたしはほっと一息ついて思わずこぼした。

「運ぶのに苦戦して、思わず風の結界でここまでふっ飛ばそうとした事……言わなくてよかったみたいね」
「……それが正解でござるよ」

然りとばかりにドロロがそう相槌をうつ。
あたしも苦笑しながらそれに同意し――そしてうしろ頭をポリポリ掻きながらドロロに尋ねる。

「で、そっちのほうはどうだったの?」


☆6★


ヴィヴィオちゃんをソファーに寝かせ、アサクラは五、六枚の浴衣を毛布代わりにかける。
そして彼女があたしの反対側のテーブルに座ったのを見てから、あたしはゆっくりと口を開いた。

「さてと、じゃあ聞かせてもらいましょうか。一体何があったのかを……」
「ええ。じゃあまずは――」

……そしてあたしは何が起こったのかを知った。
スエゾーの死や雨蜘蛛の正体から始まり、リングやらノーヴェの事など、エトセトラセトセトラ。
少し離れていた間によくもまあ、これだけいろんな事が起きるものだ。
要点だけを聞いていたのに、聞き終わる頃にはずいぶん時間も経っていた。

「――それで、これがその情報よ」

そして後はそれを見れば情報交換も終わる、という所であたしはとんでもないものを見せられた。
アサクラが渡してきた、一枚の紙切れ。
そこには雨蜘蛛の犯罪を暴いた名無しさんとやらの情報が書かれていたのだが――。

「こ、この情報って……確かなの?」
「信憑性は高いと思うわ」

アサクラからは即座に返事が返ってくる。
いや、しかし……これは。
信頼なんて出来ない……などと言ってもらいたかったのだが……現実はそう甘くないか。
死亡者情報と書かれたそれを見ながら、あたしは軽い頭痛を感じていた。
その理由は簡単。

――あったのだ、名前が。

その名前が殺害者の欄にあるのを見て、あたしは思わず何度も見直してしまったぐらいだ。
可能性はあった……だけどあまり知りたくなかった情報だぞ、これは。

「リナ殿、その情報に何か怪しいところでもあったのでござるか?」

あたしが頭を抱えて唸ってると、ドロロがそう尋ねてくる。

「いや、そーいうわけじゃないんだけど……」
「そ、そうでござるか……」

そして何故か落ち込むドロロくん。
はて……何かあったのかな?
っていかんいかん、それよりも今はこの情報について考えとかなきゃ。

うーむ。

落ち着いて情報を見直してみると、信憑性が高いといったアサクラの言葉も理解できる。
第二回放送までの死者十人。そのうちの五人まではこちらの持つ情報と一致していた。
半分あってたなら、まあ合格かな。
あとはこちらが掴んでいない殺害者が本当に殺したのかどうかなのだが……実はすごく納得できる顔ぶれだったりもする。

キョン、悪魔将軍、ズーマ、ゼロス、ナーガ。
書かれていた殺害者は今現在、島内で悪名轟く極悪人ばかりなのである。

一つ二つ誤情報が仕込んであったら効果的だろうが、まあこの顔ぶれだと別にどーでもいいか。
なーんて思っていたかったが……そうもいかないんだよなあ……。

”ゼルガディス”

その極悪人どもの中に何故か彼の名前があったのだ。
や~……実はアサクラ達との情報交換の時も、もしかしてとは思ってたんだけど。
まさか本当に殺し合いに乗っていたとは。
こうまではっきりと名前が出てきては……あたしとしても、しらばっくれているわけにはいかない。
さて。

「ねえ、バルディッシュ?」
『なんでしょう』

ヴィヴィオちゃんが寝ている今、前に聞いた事件に一番詳しいのは彼(?)のはず。

「ちょっと聞きたいんだけど、一番最初にヴィヴィオちゃんを襲った魔法戦士って
 ……もしかして針金みたいな髪と岩みたいな皮膚してたりする?」
『Yes,sir』

うひー……また即答かい。
しかしそうなると最初の情報交換の時に出てきた、
『無力な三人の少女と小さなモンスター相手に問答無用で攻撃魔法をぶちかましてきた魔法戦士』って
――――ゼルのことかあああああああ!
あああああああ、ゼル……あんた、いったいなにやってんのよ。
ゼロスじゃあるまいしホイホイ殺し合いに乗るなんてらしく……いや、らしいか。
理由も思いっきり想像できちゃうし。

はああああああああっ……。

「もしかして知り合いなの?」

大きくため息をついたあたしを見て、アサクラがジト目でそう尋ねてくる。
う……まずい。
まさか「ヴィヴィオちゃんを襲った彼とあたしって実は仲間だったのよ。うふ♪」なーんて事、口が裂けてもいえんぞ。
ただでさえアサクラのあたしへの印象は(なぜか!)あまり良くないのだ。
これでヴィヴィオちゃんを襲った相手と仲間だって事が知られたら……とんでもない事になりそうだ。
……ど、どうやってごまかそう。

「まあまあ。それよりも今はこれからどうするかを話し合うべきではござらんか?」

をを! ナイスフォロー、ドロロ!
これはなかなかポイント高いぞ!

そしてあたしもすかさず話を逸らす。

「そうそう、大切なのは過去より今よ! さて、あたしたちはこれからどうすべきか……はい、アサクラ!」
「……まあいいけどね」

そういって軽く息を吐くとアサクラは行き先を考え始めてくれた。
……こうしてあたしは辛くも窮地を脱したのだった。
あーやばかった。

「リングに行ってみない?」

アサクラの意外な提案にあたしは思わず聞き返してしまう。

「り、リングってアレ? たしか掲示板に書いてあった試合があるっていう……」
「そう、それ。掲示板の情報が正しければ古泉君に会えるかもしれないのよ」

なるほど。上手くすれば彼女の知り合いと合流出来るかも知れないという事か。
そう聞いてドロロも頷きながら呟く。

「それはちょうどいいでござるな」
「ちょうどいいって?」

そう尋ねると、ドロロはディバックから地図を取り出しテーブルの上に広げた。

「実は拙者はこう……モールへ行った後、リングに行こうと考えていたのでござるよ」

地図を見ると、確かにドロロが指差す湖とモールは至近だ。
そういえば――

「モールっていうとヴィヴィオちゃんの知り合いが隠れているっていう?」
「そうでござる」

人命第一のドロロらしい考えだわ。
こいつの事だから、もしかしたら試合にも飛び入り参加するつもりなのかもしれない。

「って事は、リング方面に行くのは二人とも賛成なのね?」

あたしがそう尋ねると二人は頷いた。

「うん」
「いかにも」

ふむ……理由はどうあれ二人の意見は一致……
いや、眠ってるヴィヴィオちゃんもノーヴェの事を聞けばモール、つまりリング方面へ行くのに反対はしないだろう。
図らずも三人の意見は一致していると言う事になるのか。
これはあたし一人が反対してもいい事なさそうだ。
……まあ別に反対する気も無かったけど。

「そうね、じゃあとりあえずはリング方面に向かいましょう! とはいえ――」

視線をソファーへ向けるとヴィヴィオちゃんはまだ寝息をたてて眠っていた。
これを今すぐ起こして歩けというのも可哀想か。
……なら。

「とりあえず、しばらくはここで休憩かしらね?」

そう提案すると二人とも特に反対しなかった。

「それがいいでござる。それに二十四時にはまたチャットがあるでござるし」
「わたしも賛成しておくわ。今だけでもゆっくりと眠らせてあげましょう」
「なら決定! そうね、チャットもある事だし出発は――約六時間後ってのはどう?」
「明日の午前三時ぐらいね……それなら充分眠れるわね」
「決まりでござるな」

とと……そういえばヴィヴィオちゃんといえば。
あたしはふと思いついた事を言ってみた。

「あのさ、移動するならついでにヴィヴィオちゃんの母親を探してあげない?」

それを聞いて反応したのはドロロだった。

「それはいい考えでござるが……いったいどうやって探すつもりでござるか?」
「そうね、掲示板はどう? 湖のリングの前で合流しましょって……それはマズイか」
「不味いどころか……。恐らくリング周辺はもっとも危険な地域になっているはずでござるよ」

ドロロのその言葉を聞いて、それまで黙っていたアサクラが口を挟む。

「なら湖に着く前に合流すればいいんじゃないかしら? そうね、ここから近い高校か山小屋あたりで」

といって地図を指でなぞりルートを示す。

「それならば危険も少ないでござるな。
 なのは殿が掲示板に気付く時間も必要だろうし、ここは山小屋の方が良いのでは?」
「……結局、掲示板で伝えるの? 危険じゃないかしら?」

そのアサクラの言葉にあたしとドロロは黙り込んでしまう。
確かに掲示板なんぞで大々的に宣伝したら、殺し合いに乗っている連中にとってはかっこうの標的。
待ち伏せだろうと、なんだろうと……あたしとドロロだけならなんとでもなるだろうが……。

「……」

ちらりと眠っているヴィヴィオちゃんを見る。
ヴィヴィオちゃんとその母親を巻き込むわけにはいかないよなー。
ううん、何かうまい手が……ん?

あたしは地図を見て、ふと閃いた。

「ねえ、アサクラ」
「なにかしら」
「確かあんたたちがヴィヴィオちゃんの母親と出会ったのってB-06地点よね?」
「ええ、そうだけど」
「なるほどなるほど」

地図をみれば……うーん、なんとかなりそうでならないなぁ……。

「何か思いついたのでござるか?」
「まあね。ちょっと地図を見てて」

そうドロロに答え、あたしは指で軽く線を引く。

「ヴィヴィオちゃんのママと出会った場所はここ(B-06)。そして湖のリングがここ(E-09)よ。
 ほら、よーく見て。その二点を直線で結ぶとちょうど真ん中あたりに山小屋があるのよ」

二人は感心したように頷いた。

「これは暗号の材料になりそうでござるな!」
「うん。上手く使えば合流ポイントにしたかった山小屋でヴィヴィオちゃんをなのはさんに
 …………会わせる事が、出来るね」

はて?
なんか急にアサクラの表情が暗くなったような……。

「では、こんなのはどうでござる?」

とと。
ドロロが何かを思いついたのか……そう前置きすると説明を始めた。


後編へ





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