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「悪魔と戦闘機人と学生と(後編)」(2009/01/08 (木) 20:53:23) の最新版変更点
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*悪魔と戦闘機人と学生と(後編) ◆5xPP7aGpCE
「よかろう、お前達を今殺しはしない」
「本当ですか!?どうやら僕達は合格したみたいです」
「やったな古泉!」
下された判決は死の免状。
緊張が解けて脱力する古泉をノーヴェが支えた。
「まだ話は終わってないぞ古泉!どうやら貴様は頭が回る、だから教えるのだ。この悪魔将軍が調べた事貴様ならどう分析する?」
そして今度は悪魔将軍が語る。
自らの分析、廃屋を簡単に調べた限りでは何も発見できなかった事、山小屋とゴルフ場は詳しく調べては無いが人の気配が無かった事。
何か見せたい物があると仮定したE-10ではなくE-09に存在した大掛かりな仕掛けの事を。
「特設リング、そんなものが…」
古泉はさすがに驚きを隠せなかった。
島に隠された仕掛けも驚いたがそれ以上に悪魔将軍の分析と知力に驚かされた。
この人物を味方に出来たらと、古泉は強く思う。
それは即ち敵に回せばこれ以上恐ろしい相手は存在しない、という事ではあるが―――
何れにせよ伝えられた事実は古泉の分析に再検討を迫るものだ。
施設の偏りは人を集めるか遠ざける為と仮定していたがそれではリングの存在をどう考えるべきか。
悪魔将軍の言う様にむしろそこに人を集めたい意図で禁止エリアを配置したという仮定は成り立つのか。
しかし、隠されたリングを先に見つけたからと言って果たして有利になるものか?
集められた参加者は非常にバラバラのカテゴリーに属しており戦闘に長けていたとしても遠距離を専門とする者が居てもおかしくない。
そんな参加者が先に見つけたからといってリングという不利な場所で戦うだろうか?
「湖に隠されているのは貴方にとって有利な場所、つまりはそういう事ですね?」
「その通り、超人にとってリングは決着に最高の舞台よ!…成る程な」
悪魔将軍も古泉が何を言いたいのか直ぐに察した。
「隠されているのはリングとは限らず、参加者それぞれが実力を発揮できる『何か』だという訳か」
「その通りです、例えば強力なアイテムの可能性もありますし僕が力を出せる特殊な空間が出現するかもしれません」
それならば超人でなくとも先に見つけた者が有利になる可能性は高まる。
もし接近戦が苦手な参加者がリングを見つけたのならば仕掛けを破壊すれば良いのだから。
「もちろんこれも仮定です、実際に調べてみませんと何とも言えません」
今の所発見できたのはリング一つ。
証拠不足の現状でどちらの仮定が正しいか判断するのは早すぎた。
「ですが施設の偏りをその理由だけで片付けるのは厳しいかもしれませんね」
悪魔将軍が示した「凡庸な者が集まる目晦まし」という言葉に全てが収まるとは古泉には思えなかった。
市街地にも隠された戦いのステージが在る可能性は低くない。
禁止エリアはそのステージの定員まで人が集まったからこれ以上は入るな、という解釈をする事もできる。
まだ気が付かない他の可能性は無いのか、そう古泉が悩んでいると意外な所から声が上がった。
「…なあ、ちょっといいか?」
考察に気を取られていた古泉と悪魔将軍の間で手が挙がる。
今まで殆ど聞き役に徹していたノーヴェがあたしにも言わせろと言いたげな表情で両者を見比べた。
「あたしは二人みたいに考えるのが得意じゃないんだ、でもあたしの考えも言わせてくれ」
ノーヴェは元々戦闘向けに造られた存在でありこういった考察は本来得意ではない。
しかし話を聞いていて何やら思う所があったらしい。
「二人共難しく考え過ぎてるんじゃないのか?」
意外な言葉に古泉はキョトンとし、悪魔将軍は古泉の添え物程度と考えていたノーヴェが何を言い出すのかと身体を向ける。
「そもそも連中ってそこまで親切なのか? 禁止エリアで親切丁寧にいい場所があるなんて教えてくれるとかさ」
古泉と悪魔将軍は一瞬お互いに顔を見合わせてすぐ言葉の続きを待つことにした。
「あたしの思った事を言うよ、まず二人共施設が偏りすぎているって言うけど別に不自然だとは思わない」
いきなり仮説の前提が否定される。
表情の作れない悪魔将軍はそのままだが古泉の顔にははっきりと戸惑いが浮かんだ。
「ここって島だろ? 島には港が在る、そしたら便利な港近くに人が集まって大きな街が出来るのは当たり前じゃないのか?
この大きさの島なら一つ港があれば他には要らない、便利な場所と不便な場所で施設の数が違うのは不自然じゃないとあたしは思う」
むしろそれが自然な姿ではないか、ノーヴェは感じたまま口に出した。
悪魔将軍も似た事を軽く考えたが殺し合いという特殊性を前提にした為否定したのである。
「ふむ、ノーヴェと言ったな。ではお前がこの島の地図を見て思った事は何だ?」
「う~ん、まずこの島は結構な観光地だね。よほど人が来ないと遊園地なんてすぐ潰れるよ、本土みたいな場所と近いのかもしれない、
別荘やコテージが在るのも交通の便が悪くないからじゃないかな。廃屋はそんな別荘の跡かもしれない、山小屋が在るって事はハイキングも可能なんだろ」
「…成る程、すると高所からその『本土』が見えるかもしれんな、本来の位置に有ればの話だが。他に思った事はあるか?」
思ったままを言うノーヴェに対し悪魔将軍が分析を返す。
「地図がおかしいって言う事もだよ、連中がそこまで考えているんじゃなくて誰が見ても手抜きだろこんな地図。
大体の場所が判れば問題ないって態度がよく判るよ」
ノーヴェは不満を浮かべた顔で地図を叩くと同意を求める様に二人の顔を見比べた。
「…では医療施設が載っていないのは?」
「勝手に見つけろって事だろ?連中に何を期待してんだよ」
さらに畳み掛けられて古泉は沈黙する。
「面白い考えだノーヴェ。ではわざわざこんな大掛かりな殺し合いを催しながら戦えぬ弱者を混ぜた事はどう考える?」
悪魔将軍自身は開始以来目の前の二人を含めて四人としか接触していない。
しかし最初に呼び集められた場で戦いに相応しからぬ者が多数存在する事に気付いていた。
これに対するノーヴェの答えも明確だった。
「こういう悪趣味な奴が考える事はどいつも一緒だろ、弱いものがいたぶられるのを見て喜んでやがるんだ」
例えるなら古代ローマのコロセウム。
そこでは剣一本持たされない異民族や異教徒が生きながら獅子に食い殺された。
成る程、そう考えれば弱者を混ぜたのはその惨めな死に様を楽しむ為との解釈も成り立つかもしれない。
「強者同士の戦いと強者が弱者を嬲り殺す姿を同時に楽しむためか、悪魔でなければ思いつかんかもしれんな」
残虐を好む悪魔将軍といえそこまでの予想はしていなかった。
しかし可能性としては十分考えられる。
あの連中は自分よりさらに残虐かもしれないと悪魔将軍は考えた。
「思うに古泉はその長門って奴を知っているだけあってそこしか見えなくなっているんじゃないか?
あたしは普通に考えたらこんな殺し合い、どっかの趣味悪い奴の娯楽で馬みたいに賭けの対象にされてんじゃないかと腹立ってんだがな!
リングだってそうだ、そこら辺の道端より見栄えの良い場所で戦わせようって魂胆だよ」
「成る程な。今までは自分達の視点で考えていた、主催者の視点で考えるとは意外な発想の転換だ」
見せるためのリングでありステージ。
言われてみれば確かにそれはリング本来の使い方である。
大勢の観客の前で戦うのは正義超人は元より悪魔超人にとっても望むところだがこのような舞台で主催者を観客とした戦いは何かが違うのではないだろうか。
「この話はここまでだ、証拠一つ無い状況では誰の言葉も机上の空論に過ぎない」
「ですね、次の放送か新たな証拠が見つかってから改めてお話しましょう」
「あたしもその方がいい、ここで喋ってるより早くセインを見つけたい」
古泉も悪魔将軍もノーヴェも自分の意見は語り終えた。
ひとまず考察については今後の課題とすることで意見が一致する。
頭を酷使していた緊張が解けたのか古泉が脱力して吐息した。
「順番が逆になりましたが、次はお互いの情報交換をしませんか?」
古泉の言う通り本来ならばお互いの敵意が無い事を確認した上で知っている事を話すのが常道だろう。
しかし問答無用の襲撃から始まった今回はかなりの回り道だ。
三人共情報が欲しいという目的は一致していた為に今度はすんなりと話が進む。
古泉は自分の世界と仲間の事を既に説明しており悪魔将軍は自分の辿った道筋を考察の前提として説明済みだ。
よってまずは一番説明がなされてないノーヴェが自分の居た世界、最初ギュオーとゼクトールの戦いに巻き込まれガイバーとなった事。
その後の古泉との出会いやゼクトールと決別を説明する。
途中からは古泉も説明に加わり悪魔将軍が現れる直前で話は終わった。
「そういやガイバーに成れなくなったのはなんでだ?」
あの光を浴びて以来ノーヴェは殖装をしようとしても出来なくなっていた。
その事を悪魔将軍に問いただす。
「支給品の力よ。ガイバーにしか効かぬが装着者との繋がりを断ち切ったのだ」
そう言って悪魔将軍はティバックを示す。
「なっ!?返せっ!」
飛び掛りはしないもののノーヴェは返却を強く求めた。
あのような便利な支給品を簡単に手放す訳にいかない。
だが悪魔将軍はそれを無視する。
しかしそれを自分の物とする事はしない、ユニットとなったそれを掴むと濡れた服のままでいる古泉に投げた。
「受け取れ、古泉」
いつの間にか光を発していたユニットに古泉は反射的に手を伸ばしてしまった。
ノーヴェが何をする暇も無いままユニットから伸びた触手が古泉を包み込む。
やがて現れたのは黒い強殖装甲。
あまりに突然の変化に驚いた古泉だったが、悪魔将軍が自分にガイバーユニットを譲り渡した事をすぐさま理解する。
「これが…ガイバー…ノーヴェさん、この力は無駄にしません、必ず役立ててみせます!」
不可抗力とはいえ元々の持ち主であるノーヴェの物を奪ってしまったのだ、感謝の言葉を出さない訳にはいかなかった。
怪我の上、服もずぶ濡れで辛かったはずの身体が羽のように軽い。
先程までの痛みは夢から覚めた様に消えている。
これがガイバーⅢ古泉一樹が誕生した瞬間だった。
「貴様にすぐ死なれては約束が無駄になるからな。ノーヴェよ、お前にとっても悪くない結果のはずだ」
「…判ったよ、古泉がガイバーなら早く動けるし納得する」
古泉が喜び、悪魔将軍の意思も固いとあってノーヴェはしぶしぶ事後承諾に同意した。
確かに古泉が自由に動ければ先程の様に待たされる事は無いし余計な気を使う事も無いだろう。
それでも自分が弱くなったという事実は気分の良いものではないのである。
「古泉っ!お前にはその分しっかり働いてもらうからな!」
「それは厳しいですね、まあ出来るだけの努力は致します」
思ったより高くつくかもしれませんね、と古泉は不機嫌なノーヴェを見て苦笑する。
それにしてもガイバーを外せる支給品が存在するとは。
ならば『彼』から力を奪ってしまえば、と思ったが考えて直ぐに古泉は却下した。
(『彼』のあの様子ではガイバー無しでも優勝を目指そうをするでしょう)
ハルヒを殺めてしまった事で『彼』は正常な判断力を失っていると思わざるを得ない。
むしろそのまま付けさせた方が命を落とさずに済む可能性は高まってくれる。
(『彼』を助ける事が彼女の第一の願いだとすれば迂闊な事は出来ませんしね)
そう結論付けて古泉は思考を打ち切った。
ノーヴェもどうやら落ち着きを取り戻したようで話の再開を待っている。
どうやら次の順番らしい。
「次は僕の事をお話します」
二番目は古泉が話し出した。
かなりの事は説明済みだが話していない事も数多い。
ノーヴェが今度は隠し事をするな、と睨みながら暗に言っている気がして古泉は何処まで話すか考える。
(『彼』を止める為にはやはり正直に話すしか無いですね)
協力してもらうにせよガイバーの力を得た自分がノーヴェと別れて単独で行くにせよ事情を話さない訳にはいかない。
とりあえず腹をくくって最初の方から話しだす。
トトロとの出会い、そして博物館前でアシュラマンという六本の手を持つ怪人に襲われた事を話したその時悪魔将軍が口を挟む。
「アシュラマンだと。奴は私の忠実なる部下だ」
「そうだったのですか、でも会ったのは明け方です。流石に何時までも博物館近くに居ないでしょう」
その後トトロの跳躍でその場を離れ、トトロとも採掘場で別れた事。
そして優勝を目指す『彼』との遭遇―――
古泉は『彼』がハルヒを殺したと言っていた事、その時自分も殺されかけたが口先でそれを逃れた事を包み隠さず打ち明ける。
放送で言っていた『長い付き合いの、仲良しの友達に殺された人』は恐らくハルヒと彼の事を言っているのだろう推測も放送を聞き逃したノーヴェの為に説明した。
「じゃあそのキョンという男は仲間のお前を裏切っただけじゃなく自分の妹も殺すって訳かよ!」
「放送の内容が裏付けられたな、同時に何らかの方法で行動も全て把握されているという事だ」
面識は無いが「友人を手にかけた男」にノーヴェは激しく憤った。
つい先程自分がゼクトールに裏切られた分、ハルヒという少女がどれ程悔しかったのかと想像したのかもしれない。
そしてさらに彼の妹が参加しているという事は妹もその手にかけるという意思表示。
姉妹の絆を大事にするノーヴェはキョンに対して二重の怒りが湧き上がる。
一方の悪魔将軍は裏切りなどよくある事、と冷静な分析を行っていた。
「そんな訳で僕は6時に採掘所跡に行かねばなりません、ですから…」
「あたしも行くぜ!話を聞いただけだが蹴り飛ばして堪らないからな!」
何か言おうとした古泉を遮ってノーヴェが同行を申し出た。
断っても無駄だとその目が言っており古泉は口ごもる。
「…わかりました、ですが勝手に飛び出さないで下さいね」
今度は古泉が事後承諾する結果となった。
悪魔将軍は何も言わなかったが内心様々な計算を繰り返していた。
(ふむ、新たなガイバーユニットを得る機会か…まあいい、出向くかは後で決めれば済む事だ)
そのキョンとやらも長門の知り合いなら奪わずとも何らかの役に立つかもしれん。
役立たずならガイバーを脱がせば良い。
これについてもその時にならねば判らず今は心に留めておく。
古泉の話が再開するがここから先はノーヴェの時に説明済みだった為すぐに話が終了した。
いよいよ悪魔将軍の番である。
悪魔将軍は堂々と答える。
開始直後に獣の姿に変身する男を市街地の方に追いやった事。
その男こそゼクトールが捜し求めていたアプトムであったのだが悪魔将軍は名前を聞き出さなかった為に二人も気付かなかった。
殺し合いを盛り上げる、という点は賛同できないが二人は黙って続きを聞く。
「次は朝の放送前に金髪の妙な術を使う女を殺してやった、まだ一人だけというのが気に食わんがな」
古泉は息を呑む、放送前という事は第一放送で呼ばれた誰かという事になる。
涼宮ハルヒは除外するとして候補はモッチー 、フェイト・T・ハラオウン、日向冬樹、ゼルガディス=グレイワーズの四人。
女であるという事からして明らかに男の名である日向冬樹は除かれる。
モッチー、ゼルガディスというのは外国風の名前だがこれも女性らしく無い。
という事は被害者はフェイト・T・ハラオウンの可能性がかなり高い。
「何だって!あいつを殺したのはあんたか!」
ノーヴェが驚いて声を上げる。
悪魔将軍は殺した相手がノーヴェの知人と知っても平然としていた。
古泉は不測の事態に備えて思わず身構える。
「ほう、お前の知人か?あの女はなかなかの強者だった」
「元の世界の敵さ、あいつを殺したからといってあんたを恨む理由は無い。ただ本当に手強い奴だったからこそ驚いた」
ノーヴェに敵意が無い様でヒヤヒヤしていた古泉は安心した。
「そうか、では『なのは』という名前に心当たりは?」
その名を聞いた途端ノーヴェの表情が引き締まる。
まるでその名を口に出す事が禁忌であるかの様にゆっくりと言葉を紡ぐ。
「『エースオブエース』、奴はそう呼ばれている。あんたの戦ったフェイトと同じクラスの魔術師だが奴の方が実力は上かもしれない、あたしじゃ相手にならないよ」
「あの女より実力は上かもしれんか。フフフフ、面白い!」
ノーヴェが語るなのはの強さを聞き悪魔将軍は声を出して笑う。
最初の女に比べどれ程の実力者か、加えて自分が未知の術を使うのだ。
仇である自分との戦闘を予想し、悪魔将軍は自らが高ぶっていくのを感じていた。
「踏み込みが甘いわ!」
ガイバーⅢの腕が振るわれると空気が唸る。
それ程の速度にも関わらず悪魔将軍は軽く身体を捻るだけで打撃を簡単に回避した。
「古泉!ガイバーの剣を出して思い切り前へ振り込め!」
背後からノーヴェのアドバイスが出される。
古泉がイメージするとすぐさま高周波ソードが出現、今度は先程より踏み込んで斬る!
振動で相手を分子レベルで切断するその刃を受ければ悪魔将軍とて只では済まない。
しかしガイバーを殖装しても古泉は戦いの素人だ、対する悪魔将軍は歴戦の超人。
「予備動作が大きすぎる、軌道が素直すぎる、そして、殺気が足りぬ!硬度10・ダイヤモンドパワー!」
完全に読み切っていた悪魔将軍は自らもダイヤモンドの剣を出し、220cmの巨体とは思えぬ速さでガイバーの懐に入り腕の剣を振り下ろす―――
「参りました」
剣はガイバーのコントロールメタル直前で停止していた。
古泉は素直に降参すると悪魔将軍も剣を収める。
後ろからはノーヴェが駆け寄ってきてああしろこうしろとアドバイスを繰り返されて古泉は辟易した。
(そうはいうものの僕は別に戦士を目指している訳じゃないんですけどね)
「聞いているのか!古泉!」
内心で愚痴を言っているとノーヴェの叱り声が飛ぶ。
どうやら古泉をコーチする事が楽しいらしい。
それに気付いた為古泉も無下に断らず黙って教えられた型を繰り返した。
「やれやれ、まるで『彼女』がもう一人居るみたいです…」
その言葉は幸いノーヴェの耳に入る事無く湖畔の風に紛れて消えてゆく。
漆黒のガイバーの下、古泉はその時確かに笑っていたのだった。
そして再び黒と白銀がぶつかり合う―――
あの後の情報交換は悪魔将軍が既に殆どの説明を終えていた事もあり直ぐに終わった。
参加者の中から悪魔将軍が考察した超人と思われる名前を古泉とノーヴェは記憶した。
そしてその後は幾つかの要望が互いの間で交わされた。
さすがに殺し合いを止めて欲しいという頼みを悪魔将軍は取り付く島も無く跳ね除けたが
古泉の知り合いのキョン、みくる、キョンの妹、
ノーヴェの仲間のセイン、そして元の世界に連れ帰りたいヴィヴィオは殺さないでおこうという要望は聞き遂げられた。
代償は今後も会って知りえた情報を提供する事。
もし悪魔将軍が二人の利用価値が無くなったと判断すれば古泉達を容赦なく殺す、その条件付だ。
支給品の見せ合いについてはノーヴェがティバックを失っていた為に古泉と悪魔将軍の間で行われた。
デジカメは既に見せているしガイバーが支給品だという事も知っている。
その為、新たに見せたのはロビンマスクの鎧とケーブル10本セットぐらいのものだった。
「機械同士を繋ぐケーブルの束か、今すぐには役立たん物だな」
「丈夫ですからロープ代わりにはなるでしょう、どうやらシールド加工された高級品らしいですし」
「連中は嫌がらせのつもりでこんな物支給したのかよ」
ロビンマスクの鎧、体格的に装着不能で今までバッグに入れてあったものだ。
「フッ、つまらん。中身が居ればこの私が相手してやるというのに」
「ガイバーの今なら僕が装着可能かもしれませんが、メガスマッシャーが使えなくなりますし今は置物にしかなりませんね」
「ぶん投げて使えば役に立つんじゃないか?」
そのまま古泉の持ち物でいる事が決まり、歪んだ兜も一応回収してバッグに詰める。
一応被れる様だがガイバーとなった今は必要無い上、流石に不恰好になったそれは古泉のセンスからしても被るのを遠慮したかった。
次は悪魔将軍の番だが今現在は隠す物は無いらしくフェイトの持ち物だった品を含めて二人に明かす。
銃についてはノーヴェが接近戦を得意とする事、古泉もガイバーのビーム類の方が使い易く強力である事から積極的に持つ理由は無くそのまま悪魔将軍が持つことが決まる。
「宝の持ち腐れですね、僕は持っていたとしても人を撃てませんしお二人は接近戦を専門としているようですし」
「しかし望遠鏡としては役に立つ、それだけでも良かろう」
「じゃああんたの望遠鏡って事であたしは文句無いよ」
黄金のマスク、これは二人共最初は用途が判らなかったが付けられていた説明書を読んで悪魔将軍もその使い道に気付かされる。
「光が当たった範囲が爬虫類に変化して襲い掛かってくる映像を見せる、ですか。脅かしぐらいにはなりそうですね」
「フ、只のイミテーションかと思ったがそのような機能があったとはな」
「爬虫類ね、何だかわからないけれどあたしの前では使って欲しくない」
これは元々悪魔将軍と超人に因縁の有るものらしくそのまま悪魔将軍が持っている事になった。
最後、何の変哲も無いエレキギター。
悪魔将軍も一番役に立たないと思って最後に出したのだ。
しかしそれを見て古泉は自分に譲って欲しいと願い出た。
「そのギター、お前の知っている品かよ?」
「ええ、何の特殊な力も有りません。ですが僕にとって…いえ、僕を含めた団員全員の大事な品なんです」
既に退場している涼宮ハルヒ愛用のエレキギター、それは古泉にとってどうしても手元に置いておきたい物だった。
「構わん、ギター程度は譲ってやろう」
「本当ですか!ありがとうございます!」
悪魔将軍は有象無象を束ねていただけに部下の掌握は長けている。
振り回すしか使い道が無いと思っていたギターで古泉が恩義を感じるのならば安いものだと即決した。
ノーヴェも多少は印象は良くなるだろう。
受け取ったギターを古泉は大事そうにティバックに収めた。
大事な品である事の他、ハルヒの思い出の品は『彼』をこちらに引き戻す助けになるかもという希望でもあった。
そして行動方針の話し合いを、と思ったがその前に悪魔将軍がガイバーとの軽い手合わせを言い出してきたのである。
もちろん本気は出さないしガイバーもビーム等は使わない。
悪魔将軍の本心はガイバーの能力調査。
肉体的にごくごく一般人であり怪我人でもある古泉がガイバーを殖装してどれ程の力を得られるのか見極める事。
古泉も薄々気付きつつガイバーに慣れる機会があった方が良いと思い承諾、先輩ガイバーだったノーヴェのアドバイスで先程まで組み手を行っていたのである。
「しょうがないさ、でも裏切った友人はちゃんどぶっとばしてやれよ?」
「だから『彼』と戦うと決まったわけじゃないですから…、過度の期待は禁物ですよ?」
結果、一度も優位を作れなかったものの一通り身体を動かした古泉はノーヴェにポンポン肩を叩かれて励まされていた。
ティバックの置いてある場所へ戻る悪魔将軍の後姿を見ながら古泉は思う。
彼は間違いなく危険人物であり、この先間違いなく出会った相手を殺そうとするだろう。
しかし、それでも―――
悪魔将軍の能力と知能は味方に付けられたら心強い。
古泉は心底そう考える。
(本当にどうにかできないのでしょうか)
何か声が聞こえる、と思って首を後ろに向けたその時いきなり拳が飛んできた。
ガイバーでなければ間違いなく大半の歯を失っていただろう強烈な打撃。
転びかけたが辛うじて堪え、驚いて自分を殴った拳の持ち主―――ノーヴェを見る。
「これで貸しはチャラにしとく。こっからは隠し事ナシだからな!」
しかしノーヴェはスッキリした表情で古泉を助け起こした。
長門の事だ、と気付いて古泉はガイバーのまま苦笑する。
ノーヴェがそのままティバックの置き場所の方へ向かってしまう。
これから先は隠し事をし辛いですね、と誰にも聞こえないように呟いた。
そしてこれからの方針を考える。
当初向かうはずだったゴルフ場と山小屋には人の気配が無かったと悪魔将軍は言っていた。
入れ違いで別の参加者がやって来ているかもしれないが可能性は高くない。
ならばその二つに人が居なかった場合の予定通りモールへと向かうか。
それとも約束の時間を待たずに『彼』を止める為に動くか。
ガイバーとなっても返り討ちにされる実力者が実際に居ると体験した今、
『彼』が倒されるかこれ以上他の犠牲者を出す前に止めるべきか。
それとも考察を検証するために島の中心部を探索するか。
しかし空振りに終わる可能性も考えると『彼』の妹や朝比奈さんの保護を後回しにしてまで
中心部に向かうのが正しい判断なのかと迷う。
或いは、悪魔将軍に同行するか。
複数で探索すれば何かを発見できる可能性はそれだけ高まる。
自分が先行して他の参加者を逃がせば悪魔将軍の次の犠牲者を出さずに済むかもしれない。
しかし一歩間違えれば自分も乗っていると誤解されて面倒な事になる。
(さて、どうしましょうか?)
古泉は様々な選択肢を考えたがどれがベストが判断に迷った。
『彼』か、隠された何かか、まだ見ぬ仲間か。
いずれにせよここでの選択がその後を左右するだけに古泉はなかなか決断を下せずにいた。
そんな古泉を見ながら悪魔将軍も考える。
悪魔将軍は一つの仮説を立てていた。
古泉、そしてキョンとやらは話を聞く限り両者共結果はともかくとして知人との遭遇に成功している。
キョンとやらについては不明だが古泉はキョンの他トトロ、アシュラマン、ノーヴェ、ゼクトール、そして自分という大人数に遭遇している。
―――果たしてこれは偶然か?そこに主催者の作為は入り込んでないといえるものか?
涼宮ハルヒとやらの『世界を思い通りにする能力』、それに近い能力を持つという「長門有希」
古泉はその小娘の作為が禁止エリア選定や地図に入り込んでいる可能性を指摘していた。
だが、本人の行動そのものに対する作為の可能性は全く無いと言えるのだろうか。
つまり古泉には本人が知らないうちに主催者の手先となっている、或いは長門の意に沿って動いている可能性がある。
―――だとすれば対主催者の為の保険とは別の意味でも古泉をしばらく泳がせておく価値は有る。
南部を探索するという方針に変わりは無い。
悪魔将軍は一時的にせよ古泉を同行させて仮説の可能性を確かめるかどうか考える。
その結論は―――
【D-9 湖畔/一日目・昼前】
【悪魔将軍@キン肉マン】
【状態】疲労(小)
【持ち物】 ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー、ワルサーWA2000(6/6)、ワルサーWA2000用箱型弾倉×3、
黄金のマスク型プロジェクター@キン肉マン、ディパック(支給品一式)
【思考】
0.他の「マップに記載されていない施設・特設リング・仕掛け」を探しに、主に島の南側を中心に回ってみる。
1.古泉、ノーヴェに利用価値がある内は殺さない(キョン、キョンの妹、みくる、セイン、ヴィヴィオも含む)、別れても放送後情報交換を約束
2.古泉に対する仮説を検証するか考える。
3.強い奴は利用(市街地等に誘導)、弱い奴は殺害、正義超人は自分の手で殺す(キン肉マンは特に念入りに殺す)、但し主催者に迫る者は殺すとは限らない。
4.殺し合いを主催者達も混ぜ、更に発展させる。
5.強者であるなのはに興味
※ユニット・リムーバー使用と水中移動の為若干疲労しました。
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】、ガイバー状態、疲労(小)、精神的疲労(小)
【装備】
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱、ケーブル10本セット@現実、
ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
【思考】
0.団長命令に従い、キョンを止め、参加者を殺し合いから救う。
1.モールを探索して他の参加者を捜し、団員を増やす。
2.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
3.みくる、キョンの妹と合流は一時保留? 朝倉涼子は警戒。
4.午後6時に、採掘所でキョンと合流? 時間を前倒しして接触するか検討中。
5.長門有希の意思が気になる。デジタルカメラの中身をよく確かめたい。
6.悪魔将軍とは今後も情報交換を行う
※ガイバーに殖装することが可能になりました。使える能力はガイバーⅢと同一です
※悪魔将軍が殺し合いに乗っている事を認識しています。
※ほんの僅かながら、自分の『超能力』が使用できる事に気付きました。
※『超能力』を使用するごとに、精神的に疲労を感じます。
※ノーヴェの知り合いと世界観について、軽く把握しました。
※悪魔将軍から知っている超人と超人の可能性がある参加者について話を聞いています。
※メモ用紙には地図から読み取れる「中央に近づけたくない意志」についてのみ記されています(文中参照)。
禁止エリアについてとそこから発展した長門の意思に関する考察は書かれていません。
※ロビンマスクの仮面による火炎放射には軽度な精神的な疲労を伴いますが、仮面さえ被れば誰にでも使用できます。
【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】 疲労(小)、魔力消費(中)
【持ち物】 なし
【思考】
0.仲間を探し、主催者を蹴っ飛ばしに行く。
1.セインと合流したい。ヴィヴィオは見つけたら捕まえる。
2.とりあえずは古泉と一緒に行動する。
3.親友を裏切り、妹を殺そうとするキョンを蹴り飛ばしたい
4.悪魔将軍とは今後も情報交換を行う
※悪魔将軍が殺し合いに乗っている事を認識しています。
※フェイトを殺した悪魔将軍の実力に一目置いています。
※名簿を見たため、知りあいについて把握しました。
※第一放送の内容(死亡者と禁止エリア)について、古泉から聞いたので把握しました。
※古泉のハルヒを除く知り合いについて、簡単に理解しました。
※参戦時期は原作の第18話~第21話の間と思われます。
*時系列順で読む
Back:[[舌は踊り、血は騒ぐ]] Next:[[俺達はとんでもない思い違いをしていたのかもしれない]]
*投下順で読む
Back:[[道化は踊り蜘蛛は笑う]] Next:[[アスカ、襲来]]
|[[魔将考]]|悪魔将軍|[[彼の心乱せ魔将]]|
|[[古泉一樹の考察]]|古泉一樹|~|
|~|ノーヴェ|~|
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*悪魔と戦闘機人と学生と(後編) ◆5xPP7aGpCE
「よかろう、お前達を今殺しはしない」
「本当ですか!?どうやら僕達は合格したみたいです」
「やったな古泉!」
下された判決は死の免状。
緊張が解けて脱力する古泉をノーヴェが支えた。
「まだ話は終わってないぞ古泉!どうやら貴様は頭が回る、だから教えるのだ。この悪魔将軍が調べた事貴様ならどう分析する?」
そして今度は悪魔将軍が語る。
自らの分析、廃屋を簡単に調べた限りでは何も発見できなかった事、山小屋とゴルフ場は詳しく調べては無いが人の気配が無かった事。
何か見せたい物があると仮定したE-10ではなくE-09に存在した大掛かりな仕掛けの事を。
「特設リング、そんなものが…」
古泉はさすがに驚きを隠せなかった。
島に隠された仕掛けも驚いたがそれ以上に悪魔将軍の分析と知力に驚かされた。
この人物を味方に出来たらと、古泉は強く思う。
それは即ち敵に回せばこれ以上恐ろしい相手は存在しない、という事ではあるが―――
何れにせよ伝えられた事実は古泉の分析に再検討を迫るものだ。
施設の偏りは人を集めるか遠ざける為と仮定していたがそれではリングの存在をどう考えるべきか。
悪魔将軍の言う様にむしろそこに人を集めたい意図で禁止エリアを配置したという仮定は成り立つのか。
しかし、隠されたリングを先に見つけたからと言って果たして有利になるものか?
集められた参加者は非常にバラバラのカテゴリーに属しており戦闘に長けていたとしても遠距離を専門とする者が居てもおかしくない。
そんな参加者が先に見つけたからといってリングという不利な場所で戦うだろうか?
「湖に隠されているのは貴方にとって有利な場所、つまりはそういう事ですね?」
「その通り、超人にとってリングは決着に最高の舞台よ!…成る程な」
悪魔将軍も古泉が何を言いたいのか直ぐに察した。
「隠されているのはリングとは限らず、参加者それぞれが実力を発揮できる『何か』だという訳か」
「その通りです、例えば強力なアイテムの可能性もありますし僕が力を出せる特殊な空間が出現するかもしれません」
それならば超人でなくとも先に見つけた者が有利になる可能性は高まる。
もし接近戦が苦手な参加者がリングを見つけたのならば仕掛けを破壊すれば良いのだから。
「もちろんこれも仮定です、実際に調べてみませんと何とも言えません」
今の所発見できたのはリング一つ。
証拠不足の現状でどちらの仮定が正しいか判断するのは早すぎた。
「ですが施設の偏りをその理由だけで片付けるのは厳しいかもしれませんね」
悪魔将軍が示した「凡庸な者が集まる目晦まし」という言葉に全てが収まるとは古泉には思えなかった。
市街地にも隠された戦いのステージが在る可能性は低くない。
禁止エリアはそのステージの定員まで人が集まったからこれ以上は入るな、という解釈をする事もできる。
まだ気が付かない他の可能性は無いのか、そう古泉が悩んでいると意外な所から声が上がった。
「…なあ、ちょっといいか?」
考察に気を取られていた古泉と悪魔将軍の間で手が挙がる。
今まで殆ど聞き役に徹していたノーヴェがあたしにも言わせろと言いたげな表情で両者を見比べた。
「あたしは二人みたいに考えるのが得意じゃないんだ、でもあたしの考えも言わせてくれ」
ノーヴェは元々戦闘向けに造られた存在でありこういった考察は本来得意ではない。
しかし話を聞いていて何やら思う所があったらしい。
「二人共難しく考え過ぎてるんじゃないのか?」
意外な言葉に古泉はキョトンとし、悪魔将軍は古泉の添え物程度と考えていたノーヴェが何を言い出すのかと身体を向ける。
「そもそも連中ってそこまで親切なのか? 禁止エリアで親切丁寧にいい場所があるなんて教えてくれるとかさ」
古泉と悪魔将軍は一瞬お互いに顔を見合わせてすぐ言葉の続きを待つことにした。
「あたしの思った事を言うよ、まず二人共施設が偏りすぎているって言うけど別に不自然だとは思わない」
いきなり仮説の前提が否定される。
表情の作れない悪魔将軍はそのままだが古泉の顔にははっきりと戸惑いが浮かんだ。
「ここって島だろ? 島には港が在る、そしたら便利な港近くに人が集まって大きな街が出来るのは当たり前じゃないのか?
この大きさの島なら一つ港があれば他には要らない、便利な場所と不便な場所で施設の数が違うのは不自然じゃないとあたしは思う」
むしろそれが自然な姿ではないか、ノーヴェは感じたまま口に出した。
悪魔将軍も似た事を軽く考えたが殺し合いという特殊性を前提にした為否定したのである。
「ふむ、ノーヴェと言ったな。ではお前がこの島の地図を見て思った事は何だ?」
「う~ん、まずこの島は結構な観光地だね。よほど人が来ないと遊園地なんてすぐ潰れるよ、本土みたいな場所と近いのかもしれない、
別荘やコテージが在るのも交通の便が悪くないからじゃないかな。廃屋はそんな別荘の跡かもしれない、山小屋が在るって事はハイキングも可能なんだろ」
「…成る程、すると高所からその『本土』が見えるかもしれんな、本来の位置に有ればの話だが。他に思った事はあるか?」
思ったままを言うノーヴェに対し悪魔将軍が分析を返す。
「地図がおかしいって言う事もだよ、連中がそこまで考えているんじゃなくて誰が見ても手抜きだろこんな地図。
大体の場所が判れば問題ないって態度がよく判るよ」
ノーヴェは不満を浮かべた顔で地図を叩くと同意を求める様に二人の顔を見比べた。
「…では医療施設が載っていないのは?」
「勝手に見つけろって事だろ?連中に何を期待してんだよ」
さらに畳み掛けられて古泉は沈黙する。
「面白い考えだノーヴェ。ではわざわざこんな大掛かりな殺し合いを催しながら戦えぬ弱者を混ぜた事はどう考える?」
悪魔将軍自身は開始以来目の前の二人を含めて四人としか接触していない。
しかし最初に呼び集められた場で戦いに相応しからぬ者が多数存在する事に気付いていた。
これに対するノーヴェの答えも明確だった。
「こういう悪趣味な奴が考える事はどいつも一緒だろ、弱いものがいたぶられるのを見て喜んでやがるんだ」
例えるなら古代ローマのコロセウム。
そこでは剣一本持たされない異民族や異教徒が生きながら獅子に食い殺された。
成る程、そう考えれば弱者を混ぜたのはその惨めな死に様を楽しむ為との解釈も成り立つかもしれない。
「強者同士の戦いと強者が弱者を嬲り殺す姿を同時に楽しむためか、悪魔でなければ思いつかんかもしれんな」
残虐を好む悪魔将軍といえそこまでの予想はしていなかった。
しかし可能性としては十分考えられる。
あの連中は自分よりさらに残虐かもしれないと悪魔将軍は考えた。
「思うに古泉はその長門って奴を知っているだけあってそこしか見えなくなっているんじゃないか?
あたしは普通に考えたらこんな殺し合い、どっかの趣味悪い奴の娯楽で馬みたいに賭けの対象にされてんじゃないかと腹立ってんだがな!
リングだってそうだ、そこら辺の道端より見栄えの良い場所で戦わせようって魂胆だよ」
「成る程な。今までは自分達の視点で考えていた、主催者の視点で考えるとは意外な発想の転換だ」
見せるためのリングでありステージ。
言われてみれば確かにそれはリング本来の使い方である。
大勢の観客の前で戦うのは正義超人は元より悪魔超人にとっても望むところだがこのような舞台で主催者を観客とした戦いは何かが違うのではないだろうか。
「この話はここまでだ、証拠一つ無い状況では誰の言葉も机上の空論に過ぎない」
「ですね、次の放送か新たな証拠が見つかってから改めてお話しましょう」
「あたしもその方がいい、ここで喋ってるより早くセインを見つけたい」
古泉も悪魔将軍もノーヴェも自分の意見は語り終えた。
ひとまず考察については今後の課題とすることで意見が一致する。
頭を酷使していた緊張が解けたのか古泉が脱力して吐息した。
「順番が逆になりましたが、次はお互いの情報交換をしませんか?」
古泉の言う通り本来ならばお互いの敵意が無い事を確認した上で知っている事を話すのが常道だろう。
しかし問答無用の襲撃から始まった今回はかなりの回り道だ。
三人共情報が欲しいという目的は一致していた為に今度はすんなりと話が進む。
古泉は自分の世界と仲間の事を既に説明しており悪魔将軍は自分の辿った道筋を考察の前提として説明済みだ。
よってまずは一番説明がなされてないノーヴェが自分の居た世界、最初ギュオーとゼクトールの戦いに巻き込まれガイバーとなった事。
その後の古泉との出会いやゼクトールと決別を説明する。
途中からは古泉も説明に加わり悪魔将軍が現れる直前で話は終わった。
「そういやガイバーに成れなくなったのはなんでだ?」
あの光を浴びて以来ノーヴェは殖装をしようとしても出来なくなっていた。
その事を悪魔将軍に問いただす。
「支給品の力よ。ガイバーにしか効かぬが装着者との繋がりを断ち切ったのだ」
そう言って悪魔将軍はティバックを示す。
「なっ!?返せっ!」
飛び掛りはしないもののノーヴェは返却を強く求めた。
あのような便利な支給品を簡単に手放す訳にいかない。
だが悪魔将軍はそれを無視する。
しかしそれを自分の物とする事はしない、ユニットとなったそれを掴むと濡れた服のままでいる古泉に投げた。
「受け取れ、古泉」
いつの間にか光を発していたユニットに古泉は反射的に手を伸ばしてしまった。
ノーヴェが何をする暇も無いままユニットから伸びた触手が古泉を包み込む。
やがて現れたのは黒い強殖装甲。
あまりに突然の変化に驚いた古泉だったが、悪魔将軍が自分にガイバーユニットを譲り渡した事をすぐさま理解する。
「これが…ガイバー…ノーヴェさん、この力は無駄にしません、必ず役立ててみせます!」
不可抗力とはいえ元々の持ち主であるノーヴェの物を奪ってしまったのだ、感謝の言葉を出さない訳にはいかなかった。
怪我の上、服もずぶ濡れで辛かったはずの身体が羽のように軽い。
先程までの痛みは夢から覚めた様に消えている。
これがガイバーⅢ古泉一樹が誕生した瞬間だった。
「貴様にすぐ死なれては約束が無駄になるからな。ノーヴェよ、お前にとっても悪くない結果のはずだ」
「…判ったよ、古泉がガイバーなら早く動けるし納得する」
古泉が喜び、悪魔将軍の意思も固いとあってノーヴェはしぶしぶ事後承諾に同意した。
確かに古泉が自由に動ければ先程の様に待たされる事は無いし余計な気を使う事も無いだろう。
それでも自分が弱くなったという事実は気分の良いものではないのである。
「古泉っ!お前にはその分しっかり働いてもらうからな!」
「それは厳しいですね、まあ出来るだけの努力は致します」
思ったより高くつくかもしれませんね、と古泉は不機嫌なノーヴェを見て苦笑する。
それにしてもガイバーを外せる支給品が存在するとは。
ならば『彼』から力を奪ってしまえば、と思ったが考えて直ぐに古泉は却下した。
(『彼』のあの様子ではガイバー無しでも優勝を目指そうをするでしょう)
ハルヒを殺めてしまった事で『彼』は正常な判断力を失っていると思わざるを得ない。
むしろそのまま付けさせた方が命を落とさずに済む可能性は高まってくれる。
(『彼』を助ける事が彼女の第一の願いだとすれば迂闊な事は出来ませんしね)
そう結論付けて古泉は思考を打ち切った。
ノーヴェもどうやら落ち着きを取り戻したようで話の再開を待っている。
どうやら次の順番らしい。
「次は僕の事をお話します」
二番目は古泉が話し出した。
かなりの事は説明済みだが話していない事も数多い。
ノーヴェが今度は隠し事をするな、と睨みながら暗に言っている気がして古泉は何処まで話すか考える。
(『彼』を止める為にはやはり正直に話すしか無いですね)
協力してもらうにせよガイバーの力を得た自分がノーヴェと別れて単独で行くにせよ事情を話さない訳にはいかない。
とりあえず腹をくくって最初の方から話しだす。
トトロとの出会い、そして博物館前でアシュラマンという六本の手を持つ怪人に襲われた事を話したその時悪魔将軍が口を挟む。
「アシュラマンだと。奴は私の忠実なる部下だ」
「そうだったのですか、でも会ったのは明け方です。流石に何時までも博物館近くに居ないでしょう」
その後トトロの跳躍でその場を離れ、トトロとも採掘場で別れた事。
そして優勝を目指す『彼』との遭遇―――
古泉は『彼』がハルヒを殺したと言っていた事、その時自分も殺されかけたが口先でそれを逃れた事を包み隠さず打ち明ける。
放送で言っていた『長い付き合いの、仲良しの友達に殺された人』は恐らくハルヒと彼の事を言っているのだろう推測も放送を聞き逃したノーヴェの為に説明した。
「じゃあそのキョンという男は仲間のお前を裏切っただけじゃなく自分の妹も殺すって訳かよ!」
「放送の内容が裏付けられたな、同時に何らかの方法で行動も全て把握されているという事だ」
面識は無いが「友人を手にかけた男」にノーヴェは激しく憤った。
つい先程自分がゼクトールに裏切られた分、ハルヒという少女がどれ程悔しかったのかと想像したのかもしれない。
そしてさらに彼の妹が参加しているという事は妹もその手にかけるという意思表示。
姉妹の絆を大事にするノーヴェはキョンに対して二重の怒りが湧き上がる。
一方の悪魔将軍は裏切りなどよくある事、と冷静な分析を行っていた。
「そんな訳で僕は6時に採掘所跡に行かねばなりません、ですから…」
「あたしも行くぜ!話を聞いただけだが蹴り飛ばして堪らないからな!」
何か言おうとした古泉を遮ってノーヴェが同行を申し出た。
断っても無駄だとその目が言っており古泉は口ごもる。
「…わかりました、ですが勝手に飛び出さないで下さいね」
今度は古泉が事後承諾する結果となった。
悪魔将軍は何も言わなかったが内心様々な計算を繰り返していた。
(ふむ、新たなガイバーユニットを得る機会か…まあいい、出向くかは後で決めれば済む事だ)
そのキョンとやらも長門の知り合いなら奪わずとも何らかの役に立つかもしれん。
役立たずならガイバーを脱がせば良い。
これについてもその時にならねば判らず今は心に留めておく。
古泉の話が再開するがここから先はノーヴェの時に説明済みだった為すぐに話が終了した。
いよいよ悪魔将軍の番である。
悪魔将軍は堂々と答える。
開始直後に獣の姿に変身する男を市街地の方に追いやった事。
その男こそゼクトールが捜し求めていたアプトムであったのだが悪魔将軍は名前を聞き出さなかった為に二人も気付かなかった。
殺し合いを盛り上げる、という点は賛同できないが二人は黙って続きを聞く。
「次は朝の放送前に金髪の妙な術を使う女を殺してやった、まだ一人だけというのが気に食わんがな」
古泉は息を呑む、放送前という事は第一放送で呼ばれた誰かという事になる。
涼宮ハルヒは除外するとして候補はモッチー 、フェイト・T・ハラオウン、日向冬樹、ゼルガディス=グレイワーズの四人。
女であるという事からして明らかに男の名である日向冬樹は除かれる。
モッチー、ゼルガディスというのは外国風の名前だがこれも女性らしく無い。
という事は被害者はフェイト・T・ハラオウンの可能性がかなり高い。
「何だって!あいつを殺したのはあんたか!」
ノーヴェが驚いて声を上げる。
悪魔将軍は殺した相手がノーヴェの知人と知っても平然としていた。
古泉は不測の事態に備えて思わず身構える。
「ほう、お前の知人か?あの女はなかなかの強者だった」
「元の世界の敵さ、あいつを殺したからといってあんたを恨む理由は無い。ただ本当に手強い奴だったからこそ驚いた」
ノーヴェに敵意が無い様でヒヤヒヤしていた古泉は安心した。
「そうか、では『なのは』という名前に心当たりは?」
その名を聞いた途端ノーヴェの表情が引き締まる。
まるでその名を口に出す事が禁忌であるかの様にゆっくりと言葉を紡ぐ。
「『エースオブエース』、奴はそう呼ばれている。あんたの戦ったフェイトと同じクラスの魔術師だが奴の方が実力は上かもしれない、あたしじゃ相手にならないよ」
「あの女より実力は上かもしれんか。フフフフ、面白い!」
ノーヴェが語るなのはの強さを聞き悪魔将軍は声を出して笑う。
最初の女に比べどれ程の実力者か、加えて自分が未知の術を使うのだ。
仇である自分との戦闘を予想し、悪魔将軍は自らが高ぶっていくのを感じていた。
「踏み込みが甘いわ!」
ガイバーⅢの腕が振るわれると空気が唸る。
それ程の速度にも関わらず悪魔将軍は軽く身体を捻るだけで打撃を簡単に回避した。
「古泉!ガイバーの剣を出して思い切り前へ振り込め!」
背後からノーヴェのアドバイスが出される。
古泉がイメージするとすぐさま高周波ソードが出現、今度は先程より踏み込んで斬る!
振動で相手を分子レベルで切断するその刃を受ければ悪魔将軍とて只では済まない。
しかしガイバーを殖装しても古泉は戦いの素人だ、対する悪魔将軍は歴戦の超人。
「予備動作が大きすぎる、軌道が素直すぎる、そして、殺気が足りぬ!硬度10・ダイヤモンドパワー!」
完全に読み切っていた悪魔将軍は自らもダイヤモンドの剣を出し、220cmの巨体とは思えぬ速さでガイバーの懐に入り腕の剣を振り下ろす―――
「参りました」
剣はガイバーのコントロールメタル直前で停止していた。
古泉は素直に降参すると悪魔将軍も剣を収める。
後ろからはノーヴェが駆け寄ってきてああしろこうしろとアドバイスを繰り返されて古泉は辟易した。
(そうはいうものの僕は別に戦士を目指している訳じゃないんですけどね)
「聞いているのか!古泉!」
内心で愚痴を言っているとノーヴェの叱り声が飛ぶ。
どうやら古泉をコーチする事が楽しいらしい。
それに気付いた為古泉も無下に断らず黙って教えられた型を繰り返した。
「やれやれ、まるで『彼女』がもう一人居るみたいです…」
その言葉は幸いノーヴェの耳に入る事無く湖畔の風に紛れて消えてゆく。
漆黒のガイバーの下、古泉はその時確かに笑っていたのだった。
そして再び黒と白銀がぶつかり合う―――
あの後の情報交換は悪魔将軍が既に殆どの説明を終えていた事もあり直ぐに終わった。
参加者の中から悪魔将軍が考察した超人と思われる名前を古泉とノーヴェは記憶した。
そしてその後は幾つかの要望が互いの間で交わされた。
さすがに殺し合いを止めて欲しいという頼みを悪魔将軍は取り付く島も無く跳ね除けたが
古泉の知り合いのキョン、みくる、キョンの妹、
ノーヴェの仲間のセイン、そして元の世界に連れ帰りたいヴィヴィオは殺さないでおこうという要望は聞き遂げられた。
代償は今後も会って知りえた情報を提供する事。
もし悪魔将軍が二人の利用価値が無くなったと判断すれば古泉達を容赦なく殺す、その条件付だ。
支給品の見せ合いについてはノーヴェがティバックを失っていた為に古泉と悪魔将軍の間で行われた。
デジカメは既に見せているしガイバーが支給品だという事も知っている。
その為、新たに見せたのはロビンマスクの鎧とケーブル10本セットぐらいのものだった。
「機械同士を繋ぐケーブルの束か、今すぐには役立たん物だな」
「丈夫ですからロープ代わりにはなるでしょう、どうやらシールド加工された高級品らしいですし」
「連中は嫌がらせのつもりでこんな物支給したのかよ」
ロビンマスクの鎧、体格的に装着不能で今までバッグに入れてあったものだ。
「フッ、つまらん。中身が居ればこの私が相手してやるというのに」
「ガイバーの今なら僕が装着可能かもしれませんが、メガスマッシャーが使えなくなりますし今は置物にしかなりませんね」
「ぶん投げて使えば役に立つんじゃないか?」
そのまま古泉の持ち物でいる事が決まり、歪んだ兜も一応回収してバッグに詰める。
一応被れる様だがガイバーとなった今は必要無い上、流石に不恰好になったそれは古泉のセンスからしても被るのを遠慮したかった。
次は悪魔将軍の番だが今現在は隠す物は無いらしくフェイトの持ち物だった品を含めて二人に明かす。
銃についてはノーヴェが接近戦を得意とする事、古泉もガイバーのビーム類の方が使い易く強力である事から積極的に持つ理由は無くそのまま悪魔将軍が持つことが決まる。
「宝の持ち腐れですね、僕は持っていたとしても人を撃てませんしお二人は接近戦を専門としているようですし」
「しかし望遠鏡としては役に立つ、それだけでも良かろう」
「じゃああんたの望遠鏡って事であたしは文句無いよ」
黄金のマスク、これは二人共最初は用途が判らなかったが付けられていた説明書を読んで悪魔将軍もその使い道に気付かされる。
「光が当たった範囲が爬虫類に変化して襲い掛かってくる映像を見せる、ですか。脅かしぐらいにはなりそうですね」
「フ、只のイミテーションかと思ったがそのような機能があったとはな」
「爬虫類ね、何だかわからないけれどあたしの前では使って欲しくない」
これは元々悪魔将軍と超人に因縁の有るものらしくそのまま悪魔将軍が持っている事になった。
最後、何の変哲も無いエレキギター。
悪魔将軍も一番役に立たないと思って最後に出したのだ。
しかしそれを見て古泉は自分に譲って欲しいと願い出た。
「そのギター、お前の知っている品かよ?」
「ええ、何の特殊な力も有りません。ですが僕にとって…いえ、僕を含めた団員全員の大事な品なんです」
既に退場している涼宮ハルヒ愛用のエレキギター、それは古泉にとってどうしても手元に置いておきたい物だった。
「構わん、ギター程度は譲ってやろう」
「本当ですか!ありがとうございます!」
悪魔将軍は有象無象を束ねていただけに部下の掌握は長けている。
振り回すしか使い道が無いと思っていたギターで古泉が恩義を感じるのならば安いものだと即決した。
ノーヴェも多少は印象は良くなるだろう。
受け取ったギターを古泉は大事そうにティバックに収めた。
大事な品である事の他、ハルヒの思い出の品は『彼』をこちらに引き戻す助けになるかもという希望でもあった。
そして行動方針の話し合いを、と思ったがその前に悪魔将軍がガイバーとの軽い手合わせを言い出してきたのである。
もちろん本気は出さないしガイバーもビーム等は使わない。
悪魔将軍の本心はガイバーの能力調査。
肉体的にごくごく一般人であり怪我人でもある古泉がガイバーを殖装してどれ程の力を得られるのか見極める事。
古泉も薄々気付きつつガイバーに慣れる機会があった方が良いと思い承諾、先輩ガイバーだったノーヴェのアドバイスで先程まで組み手を行っていたのである。
「しょうがないさ、でも裏切った友人はちゃんどぶっとばしてやれよ?」
「だから『彼』と戦うと決まったわけじゃないですから…、過度の期待は禁物ですよ?」
結果、一度も優位を作れなかったものの一通り身体を動かした古泉はノーヴェにポンポン肩を叩かれて励まされていた。
ティバックの置いてある場所へ戻る悪魔将軍の後姿を見ながら古泉は思う。
彼は間違いなく危険人物であり、この先間違いなく出会った相手を殺そうとするだろう。
しかし、それでも―――
悪魔将軍の能力と知能は味方に付けられたら心強い。
古泉は心底そう考える。
(本当にどうにかできないのでしょうか)
何か声が聞こえる、と思って首を後ろに向けたその時いきなり拳が飛んできた。
ガイバーでなければ間違いなく大半の歯を失っていただろう強烈な打撃。
転びかけたが辛うじて堪え、驚いて自分を殴った拳の持ち主―――ノーヴェを見る。
「これで貸しはチャラにしとく。こっからは隠し事ナシだからな!」
しかしノーヴェはスッキリした表情で古泉を助け起こした。
長門の事だ、と気付いて古泉はガイバーのまま苦笑する。
ノーヴェがそのままティバックの置き場所の方へ向かってしまう。
これから先は隠し事をし辛いですね、と誰にも聞こえないように呟いた。
そしてこれからの方針を考える。
当初向かうはずだったゴルフ場と山小屋には人の気配が無かったと悪魔将軍は言っていた。
入れ違いで別の参加者がやって来ているかもしれないが可能性は高くない。
ならばその二つに人が居なかった場合の予定通りモールへと向かうか。
それとも約束の時間を待たずに『彼』を止める為に動くか。
ガイバーとなっても返り討ちにされる実力者が実際に居ると体験した今、
『彼』が倒されるかこれ以上他の犠牲者を出す前に止めるべきか。
それとも考察を検証するために島の中心部を探索するか。
しかし空振りに終わる可能性も考えると『彼』の妹や朝比奈さんの保護を後回しにしてまで
中心部に向かうのが正しい判断なのかと迷う。
或いは、悪魔将軍に同行するか。
複数で探索すれば何かを発見できる可能性はそれだけ高まる。
自分が先行して他の参加者を逃がせば悪魔将軍の次の犠牲者を出さずに済むかもしれない。
しかし一歩間違えれば自分も乗っていると誤解されて面倒な事になる。
(さて、どうしましょうか?)
古泉は様々な選択肢を考えたがどれがベストが判断に迷った。
『彼』か、隠された何かか、まだ見ぬ仲間か。
いずれにせよここでの選択がその後を左右するだけに古泉はなかなか決断を下せずにいた。
そんな古泉を見ながら悪魔将軍も考える。
悪魔将軍は一つの仮説を立てていた。
古泉、そしてキョンとやらは話を聞く限り両者共結果はともかくとして知人との遭遇に成功している。
キョンとやらについては不明だが古泉はキョンの他トトロ、アシュラマン、ノーヴェ、ゼクトール、そして自分という大人数に遭遇している。
―――果たしてこれは偶然か?そこに主催者の作為は入り込んでないといえるものか?
涼宮ハルヒとやらの『世界を思い通りにする能力』、それに近い能力を持つという「長門有希」
古泉はその小娘の作為が禁止エリア選定や地図に入り込んでいる可能性を指摘していた。
だが、本人の行動そのものに対する作為の可能性は全く無いと言えるのだろうか。
つまり古泉には本人が知らないうちに主催者の手先となっている、或いは長門の意に沿って動いている可能性がある。
―――だとすれば対主催者の為の保険とは別の意味でも古泉をしばらく泳がせておく価値は有る。
南部を探索するという方針に変わりは無い。
悪魔将軍は一時的にせよ古泉を同行させて仮説の可能性を確かめるかどうか考える。
その結論は―――
【D-9 湖畔/一日目・昼前】
【悪魔将軍@キン肉マン】
【状態】疲労(小)
【持ち物】 ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー、ワルサーWA2000(5/6)、ワルサーWA2000用箱型弾倉×3、
黄金のマスク型プロジェクター@キン肉マン、ディパック(支給品一式)
【思考】
0.他の「マップに記載されていない施設・特設リング・仕掛け」を探しに、主に島の南側を中心に回ってみる。
1.古泉、ノーヴェに利用価値がある内は殺さない(キョン、キョンの妹、みくる、セイン、ヴィヴィオも含む)、別れても放送後情報交換を約束
2.古泉に対する仮説を検証するか考える。
3.強い奴は利用(市街地等に誘導)、弱い奴は殺害、正義超人は自分の手で殺す(キン肉マンは特に念入りに殺す)、但し主催者に迫る者は殺すとは限らない。
4.殺し合いを主催者達も混ぜ、更に発展させる。
5.強者であるなのはに興味
※ユニット・リムーバー使用と水中移動の為若干疲労しました。
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】、ガイバー状態、疲労(小)、精神的疲労(小)
【装備】
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱、ケーブル10本セット@現実、
ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
【思考】
0.団長命令に従い、キョンを止め、参加者を殺し合いから救う。
1.モールを探索して他の参加者を捜し、団員を増やす。
2.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
3.みくる、キョンの妹と合流は一時保留? 朝倉涼子は警戒。
4.午後6時に、採掘所でキョンと合流? 時間を前倒しして接触するか検討中。
5.長門有希の意思が気になる。デジタルカメラの中身をよく確かめたい。
6.悪魔将軍とは今後も情報交換を行う
※ガイバーに殖装することが可能になりました。使える能力はガイバーⅢと同一です
※悪魔将軍が殺し合いに乗っている事を認識しています。
※ほんの僅かながら、自分の『超能力』が使用できる事に気付きました。
※『超能力』を使用するごとに、精神的に疲労を感じます。
※ノーヴェの知り合いと世界観について、軽く把握しました。
※悪魔将軍から知っている超人と超人の可能性がある参加者について話を聞いています。
※メモ用紙には地図から読み取れる「中央に近づけたくない意志」についてのみ記されています(文中参照)。
禁止エリアについてとそこから発展した長門の意思に関する考察は書かれていません。
※ロビンマスクの仮面による火炎放射には軽度な精神的な疲労を伴いますが、仮面さえ被れば誰にでも使用できます。
【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】 疲労(小)、魔力消費(中)
【持ち物】 なし
【思考】
0.仲間を探し、主催者を蹴っ飛ばしに行く。
1.セインと合流したい。ヴィヴィオは見つけたら捕まえる。
2.とりあえずは古泉と一緒に行動する。
3.親友を裏切り、妹を殺そうとするキョンを蹴り飛ばしたい
4.悪魔将軍とは今後も情報交換を行う
※悪魔将軍が殺し合いに乗っている事を認識しています。
※フェイトを殺した悪魔将軍の実力に一目置いています。
※名簿を見たため、知りあいについて把握しました。
※第一放送の内容(死亡者と禁止エリア)について、古泉から聞いたので把握しました。
※古泉のハルヒを除く知り合いについて、簡単に理解しました。
※参戦時期は原作の第18話~第21話の間と思われます。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|[[魔将考]]|悪魔将軍|[[彼の心乱せ魔将]]|
|[[古泉一樹の考察]]|古泉一樹|~|
|~|ノーヴェ|~|
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