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「ななついろ☆デンジャラス(後編)」(2009/04/11 (土) 10:32:00) の最新版変更点
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*ななついろ☆デンジャラス(後編) ◆h6KpN01cDg
―Side Keroro―
冬月殿が部屋を出ていくのを見送った後、吾輩は大きくため息を漏らした。
音は、ない。時折ノイズが交る首輪探知機を見る。……異状なし。
ふうと一息つき、サツキ殿を見つめる。
……サツキ殿。
起きる気配はない。……その方がいいのかもしれないでありますが。
―――メイ殿。
サツキ殿の妹の名前が呼ばれたことは、きっと知らない方がいいでありますよね……。
冬樹殿が死んだことを知った吾輩のような気持を、サツキ殿には……・
でも、隠していていいのでありましょうか?サツキ殿はメイ殿の家族、その安否を知りたがるに違いない……いやいやいや、でもだからと言って死んだ、なんて、ねえ。
―――言えるわけ、ないでありますよ。
サツキ殿はここまでずっと大変な目に会ってきている。もうこれ以上辛い思いはさせたくないであります。……吾輩がサツキ殿を守らねば。
妹殿が亡くなった今、サツキ殿を守るのは吾輩……。何としても、冬月殿が戻ってくるまでここを守り抜かなければならんであります。
……それにしても音がしない。……いやあ、誰もいないってことはいいことなんでしょうが……逆に怖いというかなんというか……いや、コワイナンテオモッテナイデスヨ?
……ふう。
「……っ……ば……早く……て……」
む?何やら人の声が聞こえますな。
冬月殿……では絶対にないでありますね。どうやら女の子のようでありますが……ってん?この声には聴き覚えが……。
……ってゲエー!これ、さっき加持殿を怪我をさせた、あのアスカっていう子では!?
吾輩は反射的にサツキ殿の前に、庇うように立つ。
加持殿は自分の責任などとおっしゃっていましたが……いくらお二人の知り合いとは言え、吾輩を襲ってきた人物である以上、警戒をしない訳にはいかない。
「待って、アスカ。いい、少し頭冷やして私の話を聞いて、ね?」
すると、アスカ殿の声に混ざって見知らぬ女性の声が聞こえてきた。
アスカ殿よりは、いくらか年上に見えるであります。
「……だって!あいつは……」
「いいから。……サツキちゃんって子、眠ってるんだって聞いたでしょ?大きな声を出してはダメ。……そして、……絶対に感情的にならないで。私が話をつけるから、アスカは大人しく話を聞いていてほしいの。……約束できるよね?」
「……っ」
……いい人でありますなあ。
我輩にもそれくらいは分かった。二人はサツキ殿がここにいると知ってきたという感じだったのだから、おそらく冬月殿に言われてきたのでありましょう。
アスカ殿だけならさすがに吾輩もあまりかかわりたくないのでありますが……あのような落ち着いた方がいるのなら。
……あ、入ってくる。
がちゃ、とドアが開いて、その女性とアスカ殿が我輩達のところにやってきた。
その知らぬ方は我輩達に穏やかに微笑みかけ、名乗る。
「……はじめまして、冬月さんから聞いてここに来ました。高町なのはって言います。私は殺し合いに乗っていません。少し、お話をしてもいいでしょうか?」
高町殿、でありますか。冬月殿がおっしゃっていたならば、間違いはないでありましょう。
高町殿は、そう言ってすっとサツキ殿に近づき、その頭を優しく撫でる。
「……この子がサツキちゃん?」
「そうであります。こちらがサツキ―――草壁サツキ殿でありますよ」
アスカ殿は吾輩を見るなり鬼のような形相で睨みつけはしましたが、それ以上特に何をするということもなく高町殿の後ろに立っているだけのようでありました。
……正直、心臓に悪すぎるでありますが。
「吾輩はケロロ軍曹であります。我輩達もこのような殺戮を破壊するべく動いております、いわば高町殿の同士。どうかお力添えを頼みたいであります」
「……もちろん。私にできることなら何でもするよ。……ところで、……ええと」
高町殿はわずかに迷ったように視線をさまよわせる。
何となくではありますが、言いたいことは伝わった。
「吾輩のことはケロロで構わないでありますよ」
「……そう、じゃあ、ケロロ、一つ聞きたいことがあるの」
「何でありますか?」
吾輩は首をかしげる。
「……ケロロは、日向冬樹って子の、知り合いだよね?」
―――!
その名前を聞いた途端、体中を電撃が走り抜けた。
冬樹、殿?
この方は、冬樹殿を知っている!?
「ふ、冬樹殿を知っているのでありますか!?」
「……うん。……と言っても、生きている時じゃないんだけど」
高町殿は心から申し訳なさそうに、目を伏せる。
「本当にごめんなさい。……私がもう少し早く向かっていれば、助けられたかもしれないのに」
つまり高町殿は……死んだ冬樹殿を知っている、ということでありますか。
……湧き上がる怒り。もちろんそれは、高町殿に対してのものではない。
本当に、本当に冬樹殿は、死んでしまったのでありますな……。
「……冬樹殿は、どの位置に……?」
「私が……小学校の中庭に埋めたの。……大した弔いはできなかったけど。……ごめんなさい、ケロロ。……私が、自分のことを優先しなければ、冬樹君は……」
何と、いい人でありましょうか。
高町殿が冬樹殿を殺したわけでもないのに、こんなに吾輩に親身になって謝罪までしてくれる。
高町殿は、何も悪くないのに。
「……そ、そんな……十分でありますよ……それは高町殿のせいなどではないであります」
冬樹殿が死んだのはもちろん辛い。それでも。
「冬樹殿も……高町殿のような心優しいお方に弔ってもらえて、きっと幸せだったでありますよ」
高町殿の優しさが―――痛いくらいうれしい。
「本当に感謝してもし足りないであります。本当に、冬樹殿を……ありがとうございました!」
「……ケロロ……」
高町殿は吾輩の顔をじっと見つめ、そして―――抱きしめた。
「ぐほおっ!?た、高町殿!?なななな何を……」
「……ありがとう。ケロロ。……頑張ろう、一緒に―――」
その肩は、わずかに震えている。
そのことに気づいて、吾輩ははっとする。
もしかしなくても、高町殿も―――吾輩と同じように、知り合いをなくされたのでありましょうか?
そう言えば名簿で、高町殿の次に書かれていた名前―――フェイト、なんちゃら―――が放送で呼ばれておりましたが、もしや……?
……だとすれば、高町殿自身も辛い思いをしているのでありましょうに……本当に心優しい方であります。
吾輩も、がんばらねば。
頑張って―――サツキ殿をお守りしなければ。
そ、それにしても、この状況……いくら吾輩とはいえ恥ずかしいでありますよ。
……ってヒイイイイ!?アスカ殿が睨んでいらっしゃる!?
「……も、もちろんであります!では、吾輩はサツキ殿が起きてきた時のため水を用意してくるであります。高町殿はここでサツキ殿を見ていて欲しいでありますよ」
「え、でも、ケロロ、水なんてくめるの?」
「全く問題ないでありますよ!どどおんとお任せあれ!」
……いや、本当のところ、この空気が恥ずかしかったからだけなんだけどね。
「とにかく、頼むでありますよ!では!」
吾輩はダッシュで、公民館のキッチンへと入り込む。
……ふう、緊張下であります。
高町殿のようなご立派な方になら―――サツキ殿を任せても大丈夫でありますな。
吾輩は蛇口まで飛び上がり、隣の戸棚を開く。
―――そう言えば、加持殿とタママは、どうなったのでありましょうか。
冬月殿もまだ戻ってきていない、無事であらせられればいいのでありますが。
……いや、吾輩は何が何でも使命を全うするのみ!
だから、サツキ殿、今はゆっくり眠るでありますよ。
メイ殿のことは―――まだ―――。
―Side Asuka―
―――死ねばいいのに。
ああもう、馬鹿みたい。むかつく。何よこれ。
私はこんな話をしたいんじゃないわ。早く加持さんのことを問い詰めてよ。
加持さんは、あの黒い化け物とどこかに連れて行かれたのよ!こいつらの策略にかかって!
あの黒いのだけがいなくて、この緑のがこの場にいることが一番の証拠!二手に分かれて、加持さんと副司令を殺すつもりなんだ!
あの空間転移装置とかいう変な仕掛けも、こいつらが仕組んだに決まってる!だって宇宙人なんでしょ?それくらい簡単なんじゃないかしら?
なのに何!?死んだ日向冬樹なんてどうでもいいのよ!
この緑の奴、いかにもなこと言ってるけどこいつだってあの黒いのと同じ化け物じゃない。こうやって油断させたところで、私やなのはも殺すつもりなのよ。
加持さんが心配じゃないの?なのは、あんた一緒に行動してたんじゃないの?ヴィヴィオちゃんとやらは大切だけど後はどうでもいいってか?ふざけんじゃないわよ!
しかもさっきの態度、何?何が約束できるね?よ!本当にママみたいなセリフ、馬鹿みたい。
ああもう、やっぱりヴィヴィオが死ねばよかったのに。ヴィヴィオが死んでたら、きっとこんなに冷静な態度取れなかったくせに。見たかったなあ、面白そうで。
今あたしがこいつに攻撃を加えないのは、なのはがうざいからと、あと二つ。
一つは、どれだけ口で言ってもこの正義馬鹿は聞いてくれない、だから絶対的な証拠を手に入れてやるため。こいつらが加持さんや冬月さんを殺そうとしてる、その証拠が出ればいい。
そしてもう一つは、後ろで寝ているこの餓鬼が何なのか探ること。
一見、何もできなそうな女の子に見えるけど……でも、わたしの眼はごまかされない。
さっきタママとかいう化け物が、この子を庇うような態度をとっていたこと、見たんだから。
つまり!こいつは化け物の仲間である可能性が高い。一件普通の人間でも、高町なのはみたいに魔法が使えたりするのかもしれない。
だとしたらこいつも何か知っているはず。起きたら絶対に問いただしてやる。
……ああもう、本当はこんなことしたくないのに!全部なのはのせいよ!こんなことをしてる間に、加持さんが…………嫌、考えたくない!
大丈夫、大丈夫だ。加持さんはまだ無事だ。私が今から助けに行くんだから。
……でも、もしあの化け物と戦うことになったら?
口から光線を吐く化け物になんて、いくら加持さんでも勝てるわけない……いや、ダメ!まだ間に合う!だって、私があいつを殺すから!
「……アスカ、分かってくれた?」
なのはが、吐き気のするくらい穏やかな笑顔であたしに声をかけてくる。
サツキに背を向け、まるであたしを諭すような体制で。
「ケロロ達は悪い人じゃない……アスカが勝手に誤解していただけだよ。……怖かったのは分かるけど、それで攻撃なんてしちゃ駄目じゃない」
ああ、うざい!勝手に誤解?違うわ、実際に攻撃してきたもの。
あたしは間違ってないわ。間違っているのはあんたよ。
でも―――ここは素直に頷いておく。
「……確かに、そうかもね」
ああもうムカつく!ムカつく!思ってもいないことを口にするなんていや!もう二度とやりたくないわ!
でも、これは加持さんを助けるためだ。我慢しないと。
こいつらの化けの皮をはがすためには―――必要だ。
「……でしょう?それなら、まずはケロロ達に謝ろう。多分、すぐ戻ってくると思うから。いいよね?」
言葉にするのも嫌だった。
それだけでどうやらなのははあたしのことを信じたらしい。そう、よかった、と笑う。
その悪意も何もない笑顔に、本気で殺意が湧いた。
こいつは、私を見下して喜んでるんだ。
私のことを、子供だからって、馬鹿にして、見下して―――嘲笑って、利用するつもりなんだ。
「分かったわよ、分かったから!」
嫌いだ。こいつ、高町なのは―――本当に、大っ嫌い!
「……アスカ、声が大きいよ。サツキちゃんは眠っているんだから―――」
何よ、それ。こんな女どうでもいいじゃない。
こいつはあのカエルの化け物に守られてた、つまり仲間ってこと。こいつが寝ていようと起きようとどうでもいいわ。寧ろ、こいつが起きてくれた方が都合がいいわね。
あいつら化け物が、加持さんや副司令を殺そうとしているってことを聞き出せるかもしれない。
「あと、分かってると思うけど……アスカちゃん」
何よ、うるさいわね、いい加減にしてよ。
「……サツキちゃんが起きても、メイちゃんが死んだってことは、言ったらダメだからね」
ああもう、分かってるわよ。別にこんな奴どうでもいいのよ。
……そう言えば、ご褒美……居場所が分かるのよね。……ってことは、ここからいなくなった加持さんがどこにいるのかも分かるってこと?
……こいつ、草壁サツキ、だっけ?化け物の情報を聞き出すのにも使えそうだけど―――他にも役に立つかもね。
あたしはそう考える。
そうなるとなのはがうざいけど……まあ、何とかしましょう。
「分かってるわよ。メイのことでしょ」
「それならいいよ。……大丈夫、加持さんももう一人の子も、私が探すの手伝うから、安心して」
その笑顔に、吐き気がした。
何言ってんのよ、馬鹿じゃないの。
あんたはヴィヴィオを探すんでしょ?そんなことできるわけないじゃない!
はっ、何、天使かなにかのつもり!?全ての人間を守るつもり?
そんなの無理に決まってる!
―――ああ、それを教えてやるためにも、ヴィヴィオが死ねばいいんだけどな。
サツキを、見る。苛立ちが募る。
そう言えばこいつ、加持さんに背負われていたっけか。
じゃあ、こいつは足手まといだ。こんな奴、さっきからいない方がよかったに違いない。
こいつがいなければ、加持さんはあんなことにならなかったんだ。
「…………ん……いや……」
何、悪夢でも見てるの?
悪い夢を見ているのはこっちよ。こんなに化け物に囲まれて!どうしろって言うのよ!
「あ、サツキちゃん、起きた?……うなされてたみたいだね」
……何だ、起きてたのね。
さて、こいつからどうやって加持さんのことを聞き出すか―――
そして、私は次に過ぎ去った数秒間で、確信することとなる。
こいつが紛れもなく―――化け物の仲間だということを。
―Side Satuki―
―――おねえちゃん。
メイ?その声はメイなの?
―――おねえちゃん、あのね―――
気づけば、メイが私の前に立っていた。
よかった、無事だったのねメイ。心配したんだから。
強い人に守ってもらえた?
―――うん。まっくろくろすけと、だっちゃのねえちゃんにあったよ。
ええ、まっくろくろすけがここに!?それはよかったわね。
だっちゃ……のねえちゃん?その人も優しくしてくれた?
―――うん!ふたりともすっごおくやさしかったよ!
そう、良かったね、メイ。お姉ちゃんもね、ちゃんと優しい人に会えたよ。
―――どんなひと?
えっとね、まずははじめに会ったケロロ。外見はカエルだけどね、すごくいい人だよ。メイの言ってたトトロってあんな子かな?
後は……冬月さんと加持さん。二人とも大人で、すごく優しい人。だから大丈夫。
―――それだけー?
あとは…………
―――おねえちゃん、どうしたの?
……タマ、ちゃん。すごく可愛くて、―――優しい子、だよ。
(ああ、私、嘘をついてしまった)
(本当は、怖い、のに)
(怖い顔で相手に攻撃をする、タマちゃんのこと、怖い、って、思ってるのに)
―――そう、よかったね、おねえちゃん。
……うん。よかった。大丈夫。メイもその人たちに守ってもらってるんだよね?
それなら安心だよ。
メイ、怖い時はちゃんと怖いって言って助けてもらうんだよ?
―――ううん。
え?じゃあ今はどうしているの?どこにいるの?
ねえ、メイ。
―――……あのね、おねえちゃん。
どうしたのよメイ。何か元気ないわよ?
メイはいつもどおり明るくしていてくれないと、私が心配になっちゃう。
―――あのね―――
何、どうしたの、メイ。
そんな泣きそうな顔しないで、お姉ちゃんに言ってごらん?
大丈夫、怖い人もいっぱいいるけど、私はそれでもメイだけは―――
―――ごめんね、おねえちゃん。
―――わたし、もうしんじゃったんだ。
……何、言ってるの、メイ。
そんな怖い冗談言わないの。
お姉ちゃんも、お母さんも心配しちゃうじゃない。
―――ううん。ほんとうだよ。
―――こわいおじさんに、ころされちゃった。
―――すっごく、すっごく、いたくて、こわかった。
……そんな、嘘でしょ、メイ?
ふざけるのはいい加減にしなさい。
だって、そんな、そんな、こと。
メイが死ぬ、なんて。メイがいなくなるなんて、そんなの―――
―――シンジナイ、カラ。
※
……目が、覚めた
私は、そっと瞳を開ける。
でも、思ったとおりに瞼が開いてくれない。意識はあるのに、動きが意識と一緒になってくれない。
変な、気分だった。
ぼんやりと、私の半開きの瞳に人の姿が映る。
……普通の人間の、背中。冬月さん?……ううん、違う。女の人だ。
少しどことなくお母さんと雰囲気の似た―――優しそうな女の人。
知らない人。
もう一人は顔は見えないけど、ケロロ以外の誰かが近くにいることは分かった。
―――いや、だな。
それでも、私は怖いと思った。
今のところ私に背中を向けているってことは、私が目を覚ましたことには気づいていないみたいだけど。
でも―――怖い。
すごく優しそうな人に見える。でも、怖い。
私は眠ったふりを続けた。多分、その方が安全に決まっている。
本当は怖くて怖くて仕方なかったけど、それ以外にどうすればいいのか分からなかった。
「……ね、……から、……た?」
女の人が何か言っている。それにこたえる声がすぐに帰ってきた。
それは、とてもはっきりと。
「分かったわよ、分かったから!」
びく、り。私の肩が震える。
この声、知ってる。あの人だ。
さっき、私たちのところにやってきて、ケロロを殺そうとして―――加持さんを刺した―――あの女の子だ!
寒気が治まらない。
いや、いや、いや、どうして、どうして―――
駄目だ、私が起きていることに気づかれたら、駄目だ。
きっと、私も、ケロロみたいに―――殺される!
「……アスカ、声が大きいよ。サツキちゃんは眠っているんだから―――」
よかった。まだ、気付かれていないみたい。
「あと、分かってると思うけど……アスカちゃん」
大丈夫、大丈夫よ。
まだあの子は私のことを見ていない。大丈夫。
足と手を丸めて、幼い子供のように布団に縮こまる。
だめ、だめ、だめ、気付いては、だめ―――!
「……サツキちゃんが起きても、メイちゃんが死んだってことは、言ったらダメだからね」
―――え?
な、に?
この女の人は、なんて、言ったの―――?
「分かってるわよ。メイのことでしょ」
メイ、……メイ、が、何?
何て言ったの?メイ、メイが、どうしたの?
メイが、死んだって―――どういうこと?
嘘、よね?聞き間違いよね、だって、そんな。
メイ、が―――
「うん、あ……か……、わ……」
もう、女の人の声が聞こえなかった。
嘘、嘘、嘘。
メイが?メイが?メイが?メイが?メイ、が?
いや―――嘘よ、そんなの。
眠っていた時に見た夢、それでメイは言っていた。
私は死んだ、殺された、って。
嘘よ、嘘だ、嘘なのよ、信じない。
メイが、私の妹のメイが、死ぬなんて、そんな、そんなこと……!
どうしよう、震えが止まらない。
いや、そんなの、嘘、嘘よ、メイ、メイ―――
メイが死んだなんて、そんなこと―――
「あ、サツキちゃん、起きた?……うなされてたみたいだね」
ふと気付くと―――私の顔の前には知らない女の人の顔があった。
にっこりと、お母さんのように、微笑む。
い、や。
―――ころされたんだ。
―――こわいおじさんに。
―――ころされた。
ころされた。ころされた。ころされた殺された殺された殺された殺され殺され殺され殺され―――
この人は、私を殺すの?
後ろの女の子は、さっきケロロを殺そうとした。
それで、血が出て、赤く、赤、赤く、なって―――
この人も?
この人も、私を、殺すの―――?
メイ、みたいに?
女の人は、私の頭に手を伸ばして―――
「い……いやあっ!」
その手を、振り払った。
ぱん、と何かが私の前に散らばる。それが何か考えている場合でもない。
殺された。メイが?メイが?メイが、死んだ。
嘘よ、そんなのウソ、うそ、嘘、ウソ、うそよ!
「さ、サツキちゃん、何が―――」
後ずさる。いや、やめて、こないで。
いやだ、死にたくない。メイ、メイ、メイ―――
「落ち着いて、サツキちゃん、私は―――」
ころ、される。
「いや、いや、いやあああああああああああああああああああ!」
その人が差し出した手を振りほどき、私は走った。
その時右手に触れた何かを、反射的に掴んだまま。
ドアを開け、逃げる。一瞬女の人の手が腕に触れたけど、そんなの知らない。
ケロロの声が聞こえた気がしたけど、―――知らない!
どうして、走れたのか分からない。全身傷だらけだったのに。歩くだけでも体中が痛かったのに。
多分これが―――かじばのばかぢから、って奴なのかもしれない。
走る。走る。
信じたくなかった。メイが、死んだなんて―――
信じられなかった。誰も。
ころされる、ころされるかもしれない。
にこにこ笑っていても、私もメイみたいに殺されるのかもしれない。
タマちゃん、みたいに―――私のことを、攻撃してくるかもしれない!
「……どうしたんだね、サツキく……」
だから、私は、
知ってる声だったのに。
優しい声だったのに。
温かい、声だったのに。
「……いやあああああああああああああああああっ!」
何を、してしまったんだろう。
―Side Nanoha―
……私のミスだ。
そうとしか考えられない。
サツキちゃんは完全に眠っている―――そう判断してしまったから。
もし、私があそこでメイちゃんの名前を出さなければ―――
もし、私がアスカではなく、サツキちゃんに注意を向けていたなら……
あんなことにはならなかったはずだ。
サツキちゃんが、公民館を飛び出した。
私はそれを追いかけた。
そして、サツキちゃんが飛び出して行った先にはちょうど、民家から戻ってきた冬月さんと小砂ちゃんがいて―――
パニックになったサツキちゃんは、冬月さんを『刺した』。
サツキちゃんは、逃げ出す時に、生存本能故だろうか、散らばったケロロのディパックの中からナイフを持ち出していたのだ。
そして、冬月さんに声をかけられ、恐怖に駆られたサツキちゃんは―――
深く、冬月さんの腹部にナイフが突き刺さり―――冬月さんは倒れ伏す。
……青ざめた。
何をやってるの、私!大人なのに、皆を守らなきゃいけないのに!
私は反射的に我に返り、冬月さんの名前を呼ぶ。
頭は、それでいっぱいだった。
「冬月さん!しっかり!」
冬月さんの元に駆け寄る。
急所は外しているとはいえ、いけない……
……大丈夫だ、心臓は動いている。問題は―――この傷。
やはり、出血が酷い。早く止血できれば致命傷にはならないと思うが、冬月さんは老年の域に差し掛かった方だ。
私達のような若者より傷の治りは遅い。早く手当てしないと―――
私は手をかざす。冬月さんの傷が徐々に癒えていく。
しかし、なかなか傷はふさがる気配を見せない。
しばらくその作業を続けていると、やがて意識は戻らないが、やがて呼吸は落ち着いてきた。
……これで少しは安心できる。まだ、万全ではないが。
……あれ?おかしいな、何か気分が悪い。……どうして?
……そ、そういえばサツキちゃんは!?
「こっ、小砂ちゃん、サツキちゃんは……えっ」
私は小砂ちゃんに声を掛けて後ろを振り返り、言葉を失った。
小砂ちゃんは……既にそこにいなかった。
サツキちゃんも、いない。
―――私としたことが―――!
目の前で怪我を負った冬月さんに気を取られて、二人の存在を失念していたなんて!
さっきまでここにいたのに―――いつ?
どこに、行ったの!?
「こ、小砂ちゃん!?アスカ!?……ケロロ!?」
知りうる限りの名前を叫ぶ。しかし―――返事は返ってこない。
……まただ。
また、見過ごしてしまった。
冬月さんの怪我に集中するあまり、私は二人を―――
「…………っ」
そこに、悲鳴が聞こえた。
……どこから?西、しかも、すぐ近く?!
嘘、でしょう?
背筋が震える。
もしかして、小砂ちゃんやアスカやサツキちゃんが?
この近くに、危険人物が!?
行かないと。早く。
でも―――そしたら冬月さんは?
このまま―――
まだ意識を取り戻していない冬月さんをここに残していくなんてできるはずがない。
怪我人なのだ、ここに残しておけば、危険人物が来たときに彼に残された道は死以外にない。
くらり、眩暈がした。
どうして?
ヴィヴィオ、私は―――。
……駄目だ。
逃げちゃ、駄目だ―――。
私一人ならともかく、冬月さんを抱えて空を翔ぶことはできない。だけど、彼を
運ぶことはできるはずだ。
未だ意識が戻らない冬月さんを、背負う。
そして、公民館の中でもいい、どこか安全な場所に運ばなければ―――
私でもさすがに、きつい。
でも―――
足を踏み出す。進む。一歩。
魔法も何もない、実に原始的な方法。
でもデバイスのない今は、こうするしかない。
息が上がる。苦しい。でも―――私は救わなければ。
冬月さんを安全な場所まで連れて行ったら、小砂ちゃんとアスカを探そう。そしてケロロとサツキちゃんも保護しないといけない。
そうしなければ、いけない。
そうでないと私は―――胸を張ってヴィヴィオに会えないから。
だから、待ってて、ヴィヴィオ。
すぐに、すぐに行くから―――もう少しだけ、待っていて。
私は少しずつ、しかし確実に―――元いた場所へと進み続けていた。
足が、滑る。駄目だ、さすがに、辛い。
早く、早くしないと―――
「……た、高町君……かね……?」
その声にはっとする。背後からの―――冬月さんの声だった。
「冬月さん!意識が……」
「……まだ朦朧としているがね……君が助けてくれたのだろう?……ありがとう……」
その声は無理をしているように見えた。当然だ。
なのはがある程度の治癒を行わなければ、失血死していたかもしれないくらいなのだから。
「……私のことは、構わない。ここに残してくれ……君は、サツキ君を頼む」
……でも、今の状態では!
「そんな!冬月さんを残してなんて……」
そんなこと、できるはずがない。
そんなことをしたら、私は皆に合わせる顔がない。
「……私は平気だ。頼む。……何、まだ死ぬ訳にはいかんよ。……サツキ君を、頼む」
冬月さんは、言った。
今度はゆっくりと、何かを言い聞かせるように。
冬月さんの顔は、見えなかった。
そんなこと、できない―――はずなのに。
しかし、私にはピリピリするくらい感じとれた。
この人は―――ある意味ではとてつもない軍人だ。
自分やケロロのようなタイプの軍人ではないのだろう。しかし、冬月さんのしっかりした言葉は、まさに上に立つもののそれだった。
彼は、自分の状況も理解しているはずだ。自らが、怪我を移動も困難なほどの怪我を負っているということを。
それで尚このような発言をするというのは―――彼の、『覚悟』なのだろう。
「マッハキャリバーは君に返す―――任せたよ」
「……」
だから―――私は。
冬月さんの言葉を尊重しない訳には―――いかなかった。
私に、彼の意思を、止める権利はどこにもないのだ。
同じ、一人の大人として。殺し合いを止めるための同士として。
「……はい」
彼は大人だ。ヴィヴィオに会いたいがためにいつまでも迷い、ためらい、ミスをした私よりずっと。
冬月さんを、背中から降ろした。
顔色は酷く悪い。普通なら―――一人で残しておける状態ではない。
不安がよぎる。しかし―――これが彼の意思なのだ。
それを踏みにじってまで助けることは、私にはできない。
マッハキャリバーを冬月さんのディパックから取り出し、抱き締める。
絶対に―――守る。
「……サツキ君に伝えて欲しい。……私は、君のことを許す、と」その言葉。
きっと、サツキちゃんが聞いたら、喜ぶだろう。
絶対に伝えて見せる。
「……はい。必ず」
そして私は、飛行。一気に斜面を上り、急ぐ。
待ってて、サツキちゃん。そして、小砂ちゃん、アスカ。
私が絶対に―――助けてあげるから。
だから―――
―Side Zuma―
休息は、これくらいで十分だろうか。
放送を、俺は黙って聞き、それから一時間ほどをこの民家で過ごした。
外では時々女の声が聞こえたが、今はまだ殺すべき時ではない―――そう思い、忍び続けた。おかげで、あの男にやられた傷は、また殺せる程度には回復した。
まだ万全とは言い難いが、行動は可能だろう。
また、死者は五人か。……あの男に同意するつもりはないが、確かに少ないな。
もっと死んでいてもおかしくないと思ったのだが。
まあよい。俺は何人死んでいようといなかろうと、ただ殺すだけだ。
しかし、あの男―――気になることを言っていたな。
三人殺した奴には、褒美として参加者の位置を教える―――だと?
……ふん、初めから皆殺しにするつもりだったとは言え、悪くない条件だ。あの男が本当に呑んでくれるのなら、だが。
しかし、放送で嘘を吐く理由はないようにも思う。
その褒美とやらがあれば、リナ・インバースの位置が簡単に特定できる。あの男がどこへ行っていたとしても、すぐに把握できる。……便利ではあるな。
しかし、そのためにはあと二人殺す必要がある。
……ホテルの傍であったあの子供、やはり惜しいことをした。あの女の邪魔が入らなければ、俺は褒美まで近付いていただろう。
今度会った時は、必ず殺す。―――殺せなくても、殺す。
それが暗殺者たる、俺の仕事なのだから。
―――…………!
聞こえてきた声に、耳を澄ませる。
……女の声。それも、子供の声だ。
言葉までは聞こえないが、この近くにいることは確定だ。
先ほどこの近くを通った女だろうか?
どうやら、このあたりで何か起こっているらしい。戦闘か?結構なことだ。
アプトムに復讐を果たす、無論忘れてはいない。しかし、目の前に誰かがいるのなら、殺す。
これが俺への依頼である以上、殺さないという選択肢はない。
今依頼料が手元にないことが屈辱的だが。
あの女の様子では、俺には気づいていないらしい。……そうだ、俺は暗殺者なのだからな。
ただ、俺は、殺すだけだ―――それに、偽りなどはない。
俺は、殺すために、疲労がだいぶ回復した身体を動かし、声がした方へと進んで行った。
―Side Fuyutuki―
……どうした、ものか。
私は、未だにはっきりしない意識の中思考した。
銃声がわずかに聞こえた。高町君や小砂君が殺し合いに乗ったものと交戦している可能性もある。
もしそうだとしたら、それは私の責任だ。
サツキ君は、まだ幼く、心優しいがか弱い存在だった。
それが悪いことだとは思わないし、迷惑などとも思っていない。
しかし、彼女自身はどうだろうか?
何もできない己に、自らや仲間が傷つくという現実に絶望し、精神を病んでいたのかもしれない。
何が原因でああなったのかは私にはまだ分からない。が、おそらくサツキ君は―――そもそも限界だったのだ。
この場に連れて来られ―――妹を亡くした、という時点で。
だから、これは私の責任でもある。
年長者たる私が、サツキ君の意思を汲んでやれなかった。
高町君にサツキ君を頼んだりせず、小砂君とも同行しなければ……いや、今そんなことを嘆いてもどうにもなるまい。
今私ができることは―――
視界の先が白く靄がかかる。どうやら、思ったほど傷の具合は芳しくないようだ。
あいにく薬のようなものは手元にない。……どうすべきか?
殺されることにさほど恐怖はない。どうせ私は天国にはいけるまい、未練もあるにはあるが何が何でもやり遂げたい、ということでもない。
―――しかし、ここで何もせず死ぬつもりはない。
私は、手で周囲を探る。やがて右手が何かに触れた。
……どうやら肌身離さず持ち歩いていたことが幸いしたらしい。
そこには私のディパックがあった。
ケロロ君から借りたナイフ、スタンガン、催涙スプレー、いくつか有用な武器はある。
が、今私に必要なのは―――
動く。そして、彼らを導き、思考し、指揮する。
それが、戦闘能力のない私にできる唯一のことだ。
そのためには、動かねば。
この身が使える限りは―――私はこの場から脱出するため、利用し続けなければ。
私の手が、目当てのものを探り当てた。眩暈がするのを振り払い、引き上げる。
それは―――
「……やや、不安もあるのだが……ね」
夢成長促進銃。
撃たれた者が若返るという、ケロロ君の知り合いの発明品。
そんな時の流れに逆行したことが本当に可能なのか……今はそれは後だ。
そもそも、本当に若返ることができたとして、例えばシンジ君やアスカ君ほどの年齢になるのか、加持君くらいの年齢になるのか―――それもよく理解できていない。
しかし、今私が力を得るためには、これが一番最善かつ最速の方法なのだ。迷っている時間はない。
私は震える手で、頭に向け―――その引き金を引いた。
そして何かが私に触れる感覚と共に、私は意識を手放した。
【B-6/公民館側/一日目・昼過ぎ】
【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】疲労(大)、ダメージ(中)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、気絶中
【持ち物】ソンナ・バナナ一房(残り一本)@モンスターファーム?円盤石の秘密?、スタンガン&催涙スプレー@現実
ジェロニモのナイフ×2@キン肉マン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹(1回使用済み)、ディパック、基本セット(名簿破棄)
【思考】
0.ゲームを止め、草壁達を打ち倒す
1.小砂達と共に、高校へ向かう?
2.シンジ、夏子、ドロロを探し、導く
3.タママとケロロを信頼
4.首輪を解除する方法を模索する
5.アスカの事情はわからないが、何とか保護したい
※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています
※「深町晶」「ズーマ」が危険人物だと認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢成長促進銃を使用しました。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|[[愛と狂気の迷い道]]|惣流・アスカ・ラングレー|[[残酷な『彼女』のテーゼ]]|
|~|小泉太湖(小砂)|~|
|~|高町なのは|~|
|[[新たなる戦いの予感]]|ラドック=ランザード(ズーマ)|~|
|[[晴れてハレルヤ]]|ケロロ軍曹|~|
|~|草壁サツキ|~|
|~|冬月コウゾウ|[[]]|
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*ななついろ☆デンジャラス(後編) ◆h6KpN01cDg
―Side Keroro―
冬月殿が部屋を出ていくのを見送った後、吾輩は大きくため息を漏らした。
音は、ない。時折ノイズが交る首輪探知機を見る。……異状なし。
ふうと一息つき、サツキ殿を見つめる。
……サツキ殿。
起きる気配はない。……その方がいいのかもしれないでありますが。
―――メイ殿。
サツキ殿の妹の名前が呼ばれたことは、きっと知らない方がいいでありますよね……。
冬樹殿が死んだことを知った吾輩のような気持を、サツキ殿には……・
でも、隠していていいのでありましょうか?サツキ殿はメイ殿の家族、その安否を知りたがるに違いない……いやいやいや、でもだからと言って死んだ、なんて、ねえ。
―――言えるわけ、ないでありますよ。
サツキ殿はここまでずっと大変な目に会ってきている。もうこれ以上辛い思いはさせたくないであります。……吾輩がサツキ殿を守らねば。
妹殿が亡くなった今、サツキ殿を守るのは吾輩……。何としても、冬月殿が戻ってくるまでここを守り抜かなければならんであります。
……それにしても音がしない。……いやあ、誰もいないってことはいいことなんでしょうが……逆に怖いというかなんというか……いや、コワイナンテオモッテナイデスヨ?
……ふう。
「……っ……ば……早く……て……」
む?何やら人の声が聞こえますな。
冬月殿……では絶対にないでありますね。どうやら女の子のようでありますが……ってん?この声には聴き覚えが……。
……ってゲエー!これ、さっき加持殿を怪我をさせた、あのアスカっていう子では!?
吾輩は反射的にサツキ殿の前に、庇うように立つ。
加持殿は自分の責任などとおっしゃっていましたが……いくらお二人の知り合いとは言え、吾輩を襲ってきた人物である以上、警戒をしない訳にはいかない。
「待って、アスカ。いい、少し頭冷やして私の話を聞いて、ね?」
すると、アスカ殿の声に混ざって見知らぬ女性の声が聞こえてきた。
アスカ殿よりは、いくらか年上に見えるであります。
「……だって!あいつは……」
「いいから。……サツキちゃんって子、眠ってるんだって聞いたでしょ?大きな声を出してはダメ。……そして、……絶対に感情的にならないで。私が話をつけるから、アスカは大人しく話を聞いていてほしいの。……約束できるよね?」
「……っ」
……いい人でありますなあ。
我輩にもそれくらいは分かった。二人はサツキ殿がここにいると知ってきたという感じだったのだから、おそらく冬月殿に言われてきたのでありましょう。
アスカ殿だけならさすがに吾輩もあまりかかわりたくないのでありますが……あのような落ち着いた方がいるのなら。
……あ、入ってくる。
がちゃ、とドアが開いて、その女性とアスカ殿が我輩達のところにやってきた。
その知らぬ方は我輩達に穏やかに微笑みかけ、名乗る。
「……はじめまして、冬月さんから聞いてここに来ました。高町なのはって言います。私は殺し合いに乗っていません。少し、お話をしてもいいでしょうか?」
高町殿、でありますか。冬月殿がおっしゃっていたならば、間違いはないでありましょう。
高町殿は、そう言ってすっとサツキ殿に近づき、その頭を優しく撫でる。
「……この子がサツキちゃん?」
「そうであります。こちらがサツキ―――草壁サツキ殿でありますよ」
アスカ殿は吾輩を見るなり鬼のような形相で睨みつけはしましたが、それ以上特に何をするということもなく高町殿の後ろに立っているだけのようでありました。
……正直、心臓に悪すぎるでありますが。
「吾輩はケロロ軍曹であります。我輩達もこのような殺戮を破壊するべく動いております、いわば高町殿の同士。どうかお力添えを頼みたいであります」
「……もちろん。私にできることなら何でもするよ。……ところで、……ええと」
高町殿はわずかに迷ったように視線をさまよわせる。
何となくではありますが、言いたいことは伝わった。
「吾輩のことはケロロで構わないでありますよ」
「……そう、じゃあ、ケロロ、一つ聞きたいことがあるの」
「何でありますか?」
吾輩は首をかしげる。
「……ケロロは、日向冬樹って子の、知り合いだよね?」
―――!
その名前を聞いた途端、体中を電撃が走り抜けた。
冬樹、殿?
この方は、冬樹殿を知っている!?
「ふ、冬樹殿を知っているのでありますか!?」
「……うん。……と言っても、生きている時じゃないんだけど」
高町殿は心から申し訳なさそうに、目を伏せる。
「本当にごめんなさい。……私がもう少し早く向かっていれば、助けられたかもしれないのに」
つまり高町殿は……死んだ冬樹殿を知っている、ということでありますか。
……湧き上がる怒り。もちろんそれは、高町殿に対してのものではない。
本当に、本当に冬樹殿は、死んでしまったのでありますな……。
「……冬樹殿は、どの位置に……?」
「私が……小学校の中庭に埋めたの。……大した弔いはできなかったけど。……ごめんなさい、ケロロ。……私が、自分のことを優先しなければ、冬樹君は……」
何と、いい人でありましょうか。
高町殿が冬樹殿を殺したわけでもないのに、こんなに吾輩に親身になって謝罪までしてくれる。
高町殿は、何も悪くないのに。
「……そ、そんな……十分でありますよ……それは高町殿のせいなどではないであります」
冬樹殿が死んだのはもちろん辛い。それでも。
「冬樹殿も……高町殿のような心優しいお方に弔ってもらえて、きっと幸せだったでありますよ」
高町殿の優しさが―――痛いくらいうれしい。
「本当に感謝してもし足りないであります。本当に、冬樹殿を……ありがとうございました!」
「……ケロロ……」
高町殿は吾輩の顔をじっと見つめ、そして―――抱きしめた。
「ぐほおっ!?た、高町殿!?なななな何を……」
「……ありがとう。ケロロ。……頑張ろう、一緒に―――」
その肩は、わずかに震えている。
そのことに気づいて、吾輩ははっとする。
もしかしなくても、高町殿も―――吾輩と同じように、知り合いをなくされたのでありましょうか?
そう言えば名簿で、高町殿の次に書かれていた名前―――フェイト、なんちゃら―――が放送で呼ばれておりましたが、もしや……?
……だとすれば、高町殿自身も辛い思いをしているのでありましょうに……本当に心優しい方であります。
吾輩も、がんばらねば。
頑張って―――サツキ殿をお守りしなければ。
そ、それにしても、この状況……いくら吾輩とはいえ恥ずかしいでありますよ。
……ってヒイイイイ!?アスカ殿が睨んでいらっしゃる!?
「……も、もちろんであります!では、吾輩はサツキ殿が起きてきた時のため水を用意してくるであります。高町殿はここでサツキ殿を見ていて欲しいでありますよ」
「え、でも、ケロロ、水なんてくめるの?」
「全く問題ないでありますよ!どどおんとお任せあれ!」
……いや、本当のところ、この空気が恥ずかしかったからだけなんだけどね。
「とにかく、頼むでありますよ!では!」
吾輩はダッシュで、公民館のキッチンへと入り込む。
……ふう、緊張下であります。
高町殿のようなご立派な方になら―――サツキ殿を任せても大丈夫でありますな。
吾輩は蛇口まで飛び上がり、隣の戸棚を開く。
―――そう言えば、加持殿とタママは、どうなったのでありましょうか。
冬月殿もまだ戻ってきていない、無事であらせられればいいのでありますが。
……いや、吾輩は何が何でも使命を全うするのみ!
だから、サツキ殿、今はゆっくり眠るでありますよ。
メイ殿のことは―――まだ―――。
―Side Asuka―
―――死ねばいいのに。
ああもう、馬鹿みたい。むかつく。何よこれ。
私はこんな話をしたいんじゃないわ。早く加持さんのことを問い詰めてよ。
加持さんは、あの黒い化け物とどこかに連れて行かれたのよ!こいつらの策略にかかって!
あの黒いのだけがいなくて、この緑のがこの場にいることが一番の証拠!二手に分かれて、加持さんと副司令を殺すつもりなんだ!
あの空間転移装置とかいう変な仕掛けも、こいつらが仕組んだに決まってる!だって宇宙人なんでしょ?それくらい簡単なんじゃないかしら?
なのに何!?死んだ日向冬樹なんてどうでもいいのよ!
この緑の奴、いかにもなこと言ってるけどこいつだってあの黒いのと同じ化け物じゃない。こうやって油断させたところで、私やなのはも殺すつもりなのよ。
加持さんが心配じゃないの?なのは、あんた一緒に行動してたんじゃないの?ヴィヴィオちゃんとやらは大切だけど後はどうでもいいってか?ふざけんじゃないわよ!
しかもさっきの態度、何?何が約束できるね?よ!本当にママみたいなセリフ、馬鹿みたい。
ああもう、やっぱりヴィヴィオが死ねばよかったのに。ヴィヴィオが死んでたら、きっとこんなに冷静な態度取れなかったくせに。見たかったなあ、面白そうで。
今あたしがこいつに攻撃を加えないのは、なのはがうざいからと、あと二つ。
一つは、どれだけ口で言ってもこの正義馬鹿は聞いてくれない、だから絶対的な証拠を手に入れてやるため。こいつらが加持さんや冬月さんを殺そうとしてる、その証拠が出ればいい。
そしてもう一つは、後ろで寝ているこの餓鬼が何なのか探ること。
一見、何もできなそうな女の子に見えるけど……でも、わたしの眼はごまかされない。
さっきタママとかいう化け物が、この子を庇うような態度をとっていたこと、見たんだから。
つまり!こいつは化け物の仲間である可能性が高い。一件普通の人間でも、高町なのはみたいに魔法が使えたりするのかもしれない。
だとしたらこいつも何か知っているはず。起きたら絶対に問いただしてやる。
……ああもう、本当はこんなことしたくないのに!全部なのはのせいよ!こんなことをしてる間に、加持さんが…………嫌、考えたくない!
大丈夫、大丈夫だ。加持さんはまだ無事だ。私が今から助けに行くんだから。
……でも、もしあの化け物と戦うことになったら?
口から光線を吐く化け物になんて、いくら加持さんでも勝てるわけない……いや、ダメ!まだ間に合う!だって、私があいつを殺すから!
「……アスカ、分かってくれた?」
なのはが、吐き気のするくらい穏やかな笑顔であたしに声をかけてくる。
サツキに背を向け、まるであたしを諭すような体制で。
「ケロロ達は悪い人じゃない……アスカが勝手に誤解していただけだよ。……怖かったのは分かるけど、それで攻撃なんてしちゃ駄目じゃない」
ああ、うざい!勝手に誤解?違うわ、実際に攻撃してきたもの。
あたしは間違ってないわ。間違っているのはあんたよ。
でも―――ここは素直に頷いておく。
「……確かに、そうかもね」
ああもうムカつく!ムカつく!思ってもいないことを口にするなんていや!もう二度とやりたくないわ!
でも、これは加持さんを助けるためだ。我慢しないと。
こいつらの化けの皮をはがすためには―――必要だ。
「……でしょう?それなら、まずはケロロ達に謝ろう。多分、すぐ戻ってくると思うから。いいよね?」
言葉にするのも嫌だった。
それだけでどうやらなのははあたしのことを信じたらしい。そう、よかった、と笑う。
その悪意も何もない笑顔に、本気で殺意が湧いた。
こいつは、私を見下して喜んでるんだ。
私のことを、子供だからって、馬鹿にして、見下して―――嘲笑って、利用するつもりなんだ。
「分かったわよ、分かったから!」
嫌いだ。こいつ、高町なのは―――本当に、大っ嫌い!
「……アスカ、声が大きいよ。サツキちゃんは眠っているんだから―――」
何よ、それ。こんな女どうでもいいじゃない。
こいつはあのカエルの化け物に守られてた、つまり仲間ってこと。こいつが寝ていようと起きようとどうでもいいわ。寧ろ、こいつが起きてくれた方が都合がいいわね。
あいつら化け物が、加持さんや副司令を殺そうとしているってことを聞き出せるかもしれない。
「あと、分かってると思うけど……アスカちゃん」
何よ、うるさいわね、いい加減にしてよ。
「……サツキちゃんが起きても、メイちゃんが死んだってことは、言ったらダメだからね」
ああもう、分かってるわよ。別にこんな奴どうでもいいのよ。
……そう言えば、ご褒美……居場所が分かるのよね。……ってことは、ここからいなくなった加持さんがどこにいるのかも分かるってこと?
……こいつ、草壁サツキ、だっけ?化け物の情報を聞き出すのにも使えそうだけど―――他にも役に立つかもね。
あたしはそう考える。
そうなるとなのはがうざいけど……まあ、何とかしましょう。
「分かってるわよ。メイのことでしょ」
「それならいいよ。……大丈夫、加持さんももう一人の子も、私が探すの手伝うから、安心して」
その笑顔に、吐き気がした。
何言ってんのよ、馬鹿じゃないの。
あんたはヴィヴィオを探すんでしょ?そんなことできるわけないじゃない!
はっ、何、天使かなにかのつもり!?全ての人間を守るつもり?
そんなの無理に決まってる!
―――ああ、それを教えてやるためにも、ヴィヴィオが死ねばいいんだけどな。
サツキを、見る。苛立ちが募る。
そう言えばこいつ、加持さんに背負われていたっけか。
じゃあ、こいつは足手まといだ。こんな奴、さっきからいない方がよかったに違いない。
こいつがいなければ、加持さんはあんなことにならなかったんだ。
「…………ん……いや……」
何、悪夢でも見てるの?
悪い夢を見ているのはこっちよ。こんなに化け物に囲まれて!どうしろって言うのよ!
「あ、サツキちゃん、起きた?……うなされてたみたいだね」
……何だ、起きてたのね。
さて、こいつからどうやって加持さんのことを聞き出すか―――
そして、私は次に過ぎ去った数秒間で、確信することとなる。
こいつが紛れもなく―――化け物の仲間だということを。
―Side Satuki―
―――おねえちゃん。
メイ?その声はメイなの?
―――おねえちゃん、あのね―――
気づけば、メイが私の前に立っていた。
よかった、無事だったのねメイ。心配したんだから。
強い人に守ってもらえた?
―――うん。まっくろくろすけと、だっちゃのねえちゃんにあったよ。
ええ、まっくろくろすけがここに!?それはよかったわね。
だっちゃ……のねえちゃん?その人も優しくしてくれた?
―――うん!ふたりともすっごおくやさしかったよ!
そう、良かったね、メイ。お姉ちゃんもね、ちゃんと優しい人に会えたよ。
―――どんなひと?
えっとね、まずははじめに会ったケロロ。外見はカエルだけどね、すごくいい人だよ。メイの言ってたトトロってあんな子かな?
後は……冬月さんと加持さん。二人とも大人で、すごく優しい人。だから大丈夫。
―――それだけー?
あとは…………
―――おねえちゃん、どうしたの?
……タマ、ちゃん。すごく可愛くて、―――優しい子、だよ。
(ああ、私、嘘をついてしまった)
(本当は、怖い、のに)
(怖い顔で相手に攻撃をする、タマちゃんのこと、怖い、って、思ってるのに)
―――そう、よかったね、おねえちゃん。
……うん。よかった。大丈夫。メイもその人たちに守ってもらってるんだよね?
それなら安心だよ。
メイ、怖い時はちゃんと怖いって言って助けてもらうんだよ?
―――ううん。
え?じゃあ今はどうしているの?どこにいるの?
ねえ、メイ。
―――……あのね、おねえちゃん。
どうしたのよメイ。何か元気ないわよ?
メイはいつもどおり明るくしていてくれないと、私が心配になっちゃう。
―――あのね―――
何、どうしたの、メイ。
そんな泣きそうな顔しないで、お姉ちゃんに言ってごらん?
大丈夫、怖い人もいっぱいいるけど、私はそれでもメイだけは―――
―――ごめんね、おねえちゃん。
―――わたし、もうしんじゃったんだ。
……何、言ってるの、メイ。
そんな怖い冗談言わないの。
お姉ちゃんも、お母さんも心配しちゃうじゃない。
―――ううん。ほんとうだよ。
―――こわいおじさんに、ころされちゃった。
―――すっごく、すっごく、いたくて、こわかった。
……そんな、嘘でしょ、メイ?
ふざけるのはいい加減にしなさい。
だって、そんな、そんな、こと。
メイが死ぬ、なんて。メイがいなくなるなんて、そんなの―――
―――シンジナイ、カラ。
※
……目が、覚めた
私は、そっと瞳を開ける。
でも、思ったとおりに瞼が開いてくれない。意識はあるのに、動きが意識と一緒になってくれない。
変な、気分だった。
ぼんやりと、私の半開きの瞳に人の姿が映る。
……普通の人間の、背中。冬月さん?……ううん、違う。女の人だ。
少しどことなくお母さんと雰囲気の似た―――優しそうな女の人。
知らない人。
もう一人は顔は見えないけど、ケロロ以外の誰かが近くにいることは分かった。
―――いや、だな。
それでも、私は怖いと思った。
今のところ私に背中を向けているってことは、私が目を覚ましたことには気づいていないみたいだけど。
でも―――怖い。
すごく優しそうな人に見える。でも、怖い。
私は眠ったふりを続けた。多分、その方が安全に決まっている。
本当は怖くて怖くて仕方なかったけど、それ以外にどうすればいいのか分からなかった。
「……ね、……から、……た?」
女の人が何か言っている。それにこたえる声がすぐに帰ってきた。
それは、とてもはっきりと。
「分かったわよ、分かったから!」
びく、り。私の肩が震える。
この声、知ってる。あの人だ。
さっき、私たちのところにやってきて、ケロロを殺そうとして―――加持さんを刺した―――あの女の子だ!
寒気が治まらない。
いや、いや、いや、どうして、どうして―――
駄目だ、私が起きていることに気づかれたら、駄目だ。
きっと、私も、ケロロみたいに―――殺される!
「……アスカ、声が大きいよ。サツキちゃんは眠っているんだから―――」
よかった。まだ、気付かれていないみたい。
「あと、分かってると思うけど……アスカちゃん」
大丈夫、大丈夫よ。
まだあの子は私のことを見ていない。大丈夫。
足と手を丸めて、幼い子供のように布団に縮こまる。
だめ、だめ、だめ、気付いては、だめ―――!
「……サツキちゃんが起きても、メイちゃんが死んだってことは、言ったらダメだからね」
―――え?
な、に?
この女の人は、なんて、言ったの―――?
「分かってるわよ。メイのことでしょ」
メイ、……メイ、が、何?
何て言ったの?メイ、メイが、どうしたの?
メイが、死んだって―――どういうこと?
嘘、よね?聞き間違いよね、だって、そんな。
メイ、が―――
「うん、あ……か……、わ……」
もう、女の人の声が聞こえなかった。
嘘、嘘、嘘。
メイが?メイが?メイが?メイが?メイ、が?
いや―――嘘よ、そんなの。
眠っていた時に見た夢、それでメイは言っていた。
私は死んだ、殺された、って。
嘘よ、嘘だ、嘘なのよ、信じない。
メイが、私の妹のメイが、死ぬなんて、そんな、そんなこと……!
どうしよう、震えが止まらない。
いや、そんなの、嘘、嘘よ、メイ、メイ―――
メイが死んだなんて、そんなこと―――
「あ、サツキちゃん、起きた?……うなされてたみたいだね」
ふと気付くと―――私の顔の前には知らない女の人の顔があった。
にっこりと、お母さんのように、微笑む。
い、や。
―――ころされたんだ。
―――こわいおじさんに。
―――ころされた。
ころされた。ころされた。ころされた殺された殺された殺された殺され殺され殺され殺され―――
この人は、私を殺すの?
後ろの女の子は、さっきケロロを殺そうとした。
それで、血が出て、赤く、赤、赤く、なって―――
この人も?
この人も、私を、殺すの―――?
メイ、みたいに?
女の人は、私の頭に手を伸ばして―――
「い……いやあっ!」
その手を、振り払った。
ぱん、と何かが私の前に散らばる。それが何か考えている場合でもない。
殺された。メイが?メイが?メイが、死んだ。
嘘よ、そんなのウソ、うそ、嘘、ウソ、うそよ!
「さ、サツキちゃん、何が―――」
後ずさる。いや、やめて、こないで。
いやだ、死にたくない。メイ、メイ、メイ―――
「落ち着いて、サツキちゃん、私は―――」
ころ、される。
「いや、いや、いやあああああああああああああああああああ!」
その人が差し出した手を振りほどき、私は走った。
その時右手に触れた何かを、反射的に掴んだまま。
ドアを開け、逃げる。一瞬女の人の手が腕に触れたけど、そんなの知らない。
ケロロの声が聞こえた気がしたけど、―――知らない!
どうして、走れたのか分からない。全身傷だらけだったのに。歩くだけでも体中が痛かったのに。
多分これが―――かじばのばかぢから、って奴なのかもしれない。
走る。走る。
信じたくなかった。メイが、死んだなんて―――
信じられなかった。誰も。
ころされる、ころされるかもしれない。
にこにこ笑っていても、私もメイみたいに殺されるのかもしれない。
タマちゃん、みたいに―――私のことを、攻撃してくるかもしれない!
「……どうしたんだね、サツキく……」
だから、私は、
知ってる声だったのに。
優しい声だったのに。
温かい、声だったのに。
「……いやあああああああああああああああああっ!」
何を、してしまったんだろう。
―Side Nanoha―
……私のミスだ。
そうとしか考えられない。
サツキちゃんは完全に眠っている―――そう判断してしまったから。
もし、私があそこでメイちゃんの名前を出さなければ―――
もし、私がアスカではなく、サツキちゃんに注意を向けていたなら……
あんなことにはならなかったはずだ。
サツキちゃんが、公民館を飛び出した。
私はそれを追いかけた。
そして、サツキちゃんが飛び出して行った先にはちょうど、民家から戻ってきた冬月さんと小砂ちゃんがいて―――
パニックになったサツキちゃんは、冬月さんを『刺した』。
サツキちゃんは、逃げ出す時に、生存本能故だろうか、散らばったケロロのディパックの中からナイフを持ち出していたのだ。
そして、冬月さんに声をかけられ、恐怖に駆られたサツキちゃんは―――
深く、冬月さんの腹部にナイフが突き刺さり―――冬月さんは倒れ伏す。
……青ざめた。
何をやってるの、私!大人なのに、皆を守らなきゃいけないのに!
私は反射的に我に返り、冬月さんの名前を呼ぶ。
頭は、それでいっぱいだった。
「冬月さん!しっかり!」
冬月さんの元に駆け寄る。
急所は外しているとはいえ、いけない……
……大丈夫だ、心臓は動いている。問題は―――この傷。
やはり、出血が酷い。早く止血できれば致命傷にはならないと思うが、冬月さんは老年の域に差し掛かった方だ。
私達のような若者より傷の治りは遅い。早く手当てしないと―――
私は手をかざす。冬月さんの傷が徐々に癒えていく。
しかし、なかなか傷はふさがる気配を見せない。
しばらくその作業を続けていると、やがて意識は戻らないが、やがて呼吸は落ち着いてきた。
……これで少しは安心できる。まだ、万全ではないが。
……あれ?おかしいな、何か気分が悪い。……どうして?
……そ、そういえばサツキちゃんは!?
「こっ、小砂ちゃん、サツキちゃんは……えっ」
私は小砂ちゃんに声を掛けて後ろを振り返り、言葉を失った。
小砂ちゃんは……既にそこにいなかった。
サツキちゃんも、いない。
―――私としたことが―――!
目の前で怪我を負った冬月さんに気を取られて、二人の存在を失念していたなんて!
さっきまでここにいたのに―――いつ?
どこに、行ったの!?
「こ、小砂ちゃん!?アスカ!?……ケロロ!?」
知りうる限りの名前を叫ぶ。しかし―――返事は返ってこない。
……まただ。
また、見過ごしてしまった。
冬月さんの怪我に集中するあまり、私は二人を―――
「…………っ」
そこに、悲鳴が聞こえた。
……どこから?西、しかも、すぐ近く?!
嘘、でしょう?
背筋が震える。
もしかして、小砂ちゃんやアスカやサツキちゃんが?
この近くに、危険人物が!?
行かないと。早く。
でも―――そしたら冬月さんは?
このまま―――
まだ意識を取り戻していない冬月さんをここに残していくなんてできるはずがない。
怪我人なのだ、ここに残しておけば、危険人物が来たときに彼に残された道は死以外にない。
くらり、眩暈がした。
どうして?
ヴィヴィオ、私は―――。
……駄目だ。
逃げちゃ、駄目だ―――。
私一人ならともかく、冬月さんを抱えて空を翔ぶことはできない。だけど、彼を
運ぶことはできるはずだ。
未だ意識が戻らない冬月さんを、背負う。
そして、公民館の中でもいい、どこか安全な場所に運ばなければ―――
私でもさすがに、きつい。
でも―――
足を踏み出す。進む。一歩。
魔法も何もない、実に原始的な方法。
でもデバイスのない今は、こうするしかない。
息が上がる。苦しい。でも―――私は救わなければ。
冬月さんを安全な場所まで連れて行ったら、小砂ちゃんとアスカを探そう。そしてケロロとサツキちゃんも保護しないといけない。
そうしなければ、いけない。
そうでないと私は―――胸を張ってヴィヴィオに会えないから。
だから、待ってて、ヴィヴィオ。
すぐに、すぐに行くから―――もう少しだけ、待っていて。
私は少しずつ、しかし確実に―――元いた場所へと進み続けていた。
足が、滑る。駄目だ、さすがに、辛い。
早く、早くしないと―――
「……た、高町君……かね……?」
その声にはっとする。背後からの―――冬月さんの声だった。
「冬月さん!意識が……」
「……まだ朦朧としているがね……君が助けてくれたのだろう?……ありがとう……」
その声は無理をしているように見えた。当然だ。
なのはがある程度の治癒を行わなければ、失血死していたかもしれないくらいなのだから。
「……私のことは、構わない。ここに残してくれ……君は、サツキ君を頼む」
……でも、今の状態では!
「そんな!冬月さんを残してなんて……」
そんなこと、できるはずがない。
そんなことをしたら、私は皆に合わせる顔がない。
「……私は平気だ。頼む。……何、まだ死ぬ訳にはいかんよ。……サツキ君を、頼む」
冬月さんは、言った。
今度はゆっくりと、何かを言い聞かせるように。
冬月さんの顔は、見えなかった。
そんなこと、できない―――はずなのに。
しかし、私にはピリピリするくらい感じとれた。
この人は―――ある意味ではとてつもない軍人だ。
自分やケロロのようなタイプの軍人ではないのだろう。しかし、冬月さんのしっかりした言葉は、まさに上に立つもののそれだった。
彼は、自分の状況も理解しているはずだ。自らが、怪我を移動も困難なほどの怪我を負っているということを。
それで尚このような発言をするというのは―――彼の、『覚悟』なのだろう。
「マッハキャリバーは君に返す―――任せたよ」
「……」
だから―――私は。
冬月さんの言葉を尊重しない訳には―――いかなかった。
私に、彼の意思を、止める権利はどこにもないのだ。
同じ、一人の大人として。殺し合いを止めるための同士として。
「……はい」
彼は大人だ。ヴィヴィオに会いたいがためにいつまでも迷い、ためらい、ミスをした私よりずっと。
冬月さんを、背中から降ろした。
顔色は酷く悪い。普通なら―――一人で残しておける状態ではない。
不安がよぎる。しかし―――これが彼の意思なのだ。
それを踏みにじってまで助けることは、私にはできない。
マッハキャリバーを冬月さんのディパックから取り出し、抱き締める。
絶対に―――守る。
「……サツキ君に伝えて欲しい。……私は、君のことを許す、と」その言葉。
きっと、サツキちゃんが聞いたら、喜ぶだろう。
絶対に伝えて見せる。
「……はい。必ず」
そして私は、飛行。一気に斜面を上り、急ぐ。
待ってて、サツキちゃん。そして、小砂ちゃん、アスカ。
私が絶対に―――助けてあげるから。
だから―――
―Side Zuma―
休息は、これくらいで十分だろうか。
放送を、俺は黙って聞き、それから一時間ほどをこの民家で過ごした。
外では時々女の声が聞こえたが、今はまだ殺すべき時ではない―――そう思い、忍び続けた。おかげで、あの男にやられた傷は、また殺せる程度には回復した。
まだ万全とは言い難いが、行動は可能だろう。
また、死者は五人か。……あの男に同意するつもりはないが、確かに少ないな。
もっと死んでいてもおかしくないと思ったのだが。
まあよい。俺は何人死んでいようといなかろうと、ただ殺すだけだ。
しかし、あの男―――気になることを言っていたな。
三人殺した奴には、褒美として参加者の位置を教える―――だと?
……ふん、初めから皆殺しにするつもりだったとは言え、悪くない条件だ。あの男が本当に呑んでくれるのなら、だが。
しかし、放送で嘘を吐く理由はないようにも思う。
その褒美とやらがあれば、リナ・インバースの位置が簡単に特定できる。あの男がどこへ行っていたとしても、すぐに把握できる。……便利ではあるな。
しかし、そのためにはあと二人殺す必要がある。
……ホテルの傍であったあの子供、やはり惜しいことをした。あの女の邪魔が入らなければ、俺は褒美まで近付いていただろう。
今度会った時は、必ず殺す。―――殺せなくても、殺す。
それが暗殺者たる、俺の仕事なのだから。
―――…………!
聞こえてきた声に、耳を澄ませる。
……女の声。それも、子供の声だ。
言葉までは聞こえないが、この近くにいることは確定だ。
先ほどこの近くを通った女だろうか?
どうやら、このあたりで何か起こっているらしい。戦闘か?結構なことだ。
アプトムに復讐を果たす、無論忘れてはいない。しかし、目の前に誰かがいるのなら、殺す。
これが俺への依頼である以上、殺さないという選択肢はない。
今依頼料が手元にないことが屈辱的だが。
あの女の様子では、俺には気づいていないらしい。……そうだ、俺は暗殺者なのだからな。
ただ、俺は、殺すだけだ―――それに、偽りなどはない。
俺は、殺すために、疲労がだいぶ回復した身体を動かし、声がした方へと進んで行った。
―Side Fuyutuki―
……どうした、ものか。
私は、未だにはっきりしない意識の中思考した。
銃声がわずかに聞こえた。高町君や小砂君が殺し合いに乗ったものと交戦している可能性もある。
もしそうだとしたら、それは私の責任だ。
サツキ君は、まだ幼く、心優しいがか弱い存在だった。
それが悪いことだとは思わないし、迷惑などとも思っていない。
しかし、彼女自身はどうだろうか?
何もできない己に、自らや仲間が傷つくという現実に絶望し、精神を病んでいたのかもしれない。
何が原因でああなったのかは私にはまだ分からない。が、おそらくサツキ君は―――そもそも限界だったのだ。
この場に連れて来られ―――妹を亡くした、という時点で。
だから、これは私の責任でもある。
年長者たる私が、サツキ君の意思を汲んでやれなかった。
高町君にサツキ君を頼んだりせず、小砂君とも同行しなければ……いや、今そんなことを嘆いてもどうにもなるまい。
今私ができることは―――
視界の先が白く靄がかかる。どうやら、思ったほど傷の具合は芳しくないようだ。
あいにく薬のようなものは手元にない。……どうすべきか?
殺されることにさほど恐怖はない。どうせ私は天国にはいけるまい、未練もあるにはあるが何が何でもやり遂げたい、ということでもない。
―――しかし、ここで何もせず死ぬつもりはない。
私は、手で周囲を探る。やがて右手が何かに触れた。
……どうやら肌身離さず持ち歩いていたことが幸いしたらしい。
そこには私のディパックがあった。
ケロロ君から借りたナイフ、スタンガン、催涙スプレー、いくつか有用な武器はある。
が、今私に必要なのは―――
動く。そして、彼らを導き、思考し、指揮する。
それが、戦闘能力のない私にできる唯一のことだ。
そのためには、動かねば。
この身が使える限りは―――私はこの場から脱出するため、利用し続けなければ。
私の手が、目当てのものを探り当てた。眩暈がするのを振り払い、引き上げる。
それは―――
「……やや、不安もあるのだが……ね」
夢成長促進銃。
撃たれた者が若返るという、ケロロ君の知り合いの発明品。
そんな時の流れに逆行したことが本当に可能なのか……今はそれは後だ。
そもそも、本当に若返ることができたとして、例えばシンジ君やアスカ君ほどの年齢になるのか、加持君くらいの年齢になるのか―――それもよく理解できていない。
しかし、今私が力を得るためには、これが一番最善かつ最速の方法なのだ。迷っている時間はない。
私は震える手で、頭に向け―――その引き金を引いた。
そして何かが私に触れる感覚と共に、私は意識を手放した。
【B-6/公民館側/一日目・昼過ぎ】
【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】疲労(大)、ダメージ(中)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、気絶中
【持ち物】ソンナ・バナナ一房(残り一本)@モンスターファーム?円盤石の秘密?、スタンガン&催涙スプレー@現実
ジェロニモのナイフ×2@キン肉マン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹(1回使用済み)、ディパック、基本セット(名簿破棄)
【思考】
0.ゲームを止め、草壁達を打ち倒す
1.小砂達と共に、高校へ向かう?
2.シンジ、夏子、ドロロを探し、導く
3.タママとケロロを信頼
4.首輪を解除する方法を模索する
5.アスカの事情はわからないが、何とか保護したい
※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています
※「深町晶」「ズーマ」が危険人物だと認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢成長促進銃を使用しました。
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