「砂の器」(2009/07/30 (木) 16:34:33) の最新版変更点
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*砂の器 ◆5xPP7aGpCE
―――サラ……サラサラ
まどろみの中で音が聴こえてくる、本物で無い音が。
砂が空を、地上の全てを覆いつくして走る音、砂漠の住民にとっては避けられぬ災厄―――砂嵐。
雨蜘蛛にとって母親の胎内に有った時より聞いてきた、いわば子守唄同然の音。
背中を壁に預け、警戒を怠り無く休む男にはそんな幻聴が聴く自分が可笑しかった。
(砂が恋しいって身体が戸惑ってやがる、まだ一日も経っちゃいないのにな)
砂漠に適応しきってしまっているせいか環境の変化にどこか付いていけないのだろう。
素肌を晒せる程の穏やかな日差し、豊かな緑に無尽蔵の水、砂の飛んでこない世界。
昨日まで生きてきた世界では天国か有り得ぬユートピアと語られる場所に雨蜘蛛は居る。
ここは静か過ぎた。
喧騒が無いという意味ではない、今まで当たり前だった音がしないのだ。
(静かなもんだ……、砂漠にも砂が動かない日は有るってのに静かさまで違うのかよ)
荒ぶる土地のうたた寝と実りある地の眠りの差か、それとも唯の錯覚か。
雨蜘蛛はただ遠くに来たという想いだけを強くした。
視線の先にはパソコンに見入る晶達の背中、隙だらけのその姿が雨蜘蛛への信用を物語っている。
だからこそこうして休める、襲撃者が来たとしても晶達が盾と囮になってくれるだろう。
見終わるまでまだ掛かるな、とまどろみかけたその時だった。
「雨蜘蛛さん」
「……何だ?」
唐突に声を掛けられて意識を引き戻される。
ファイヤーデスマッチの録画はまだ終わっていない、晶が画面を見たまま雨蜘蛛を呼んだのだ。
「さっき俺が言った事を覚えてますか? 俺達が10の異世界から集められたかもしれないって、雨蜘蛛さんは信じますか?」
時間はあるのだし話は後でも出来る、今聞きたいというのは晶の疑問の大きさを物語っていた。
スエゾー達も「ん?」とそんな晶に視線を向ける。
「覚えているぜ、確かパソコンの向こうの奴が言い出した話だったよな」
それは情報交換の中で告げられた仮説、その時は他に語るべき事が多く触れただけで次へ移った。
始めは広く浅く、突っ込んだ事を語るのはもう少し休んでからと思ったが雨蜘蛛としてもこの話題には興味が有る。
「スエゾー、そしてここに写っている魔法使いや喋るカエルといった俺の世界では有り得ない存在、信じるしかないと思ったんですが雨蜘蛛さんの考えも聞きたいんです」
晶の問いも当然かもしれない。
知らない常識に有り得ない存在、確かに異世界に来たと考えればしっくり来るが所詮他人の仮説だ。
言われるまま信じる前に自分達で考えてみるのは悪くない。
「なんや晶、まだそんな事言っとるんか。ワイはとっくに信じとるで~、ゲンキの奴も違う世界から来たって言ったやないか」
スエゾーが呆れた声を出した。
ゲンキという彼にとって異世界の住人と旅していただけに元々受け入れる余地があったのだろう、間違ってないんやないかと晶に言う。
「悪いがお前らが何を言っているのか良く解らん、そもそも異世界って何だ? まずそこから話してみろ」
雨蜘蛛にとってそれは初めて聞く単語だった。
各々が元々暮らしていた場所だとは解る、見た事の無い連中だから遠い場所だとも解る、解らないのはその”スケール”だ。
晶は何を知っているのか、果たして此処は何処なのか手掛かりを掴むべく雨蜘蛛は言葉を待つ。
「あ、そうですよね。俺の場合は親友の哲郎さんがSF研究会だったりテレビや漫画の影響で馴染みがあったので雨蜘蛛さんも知っていると思ってしまいました」
現代社会を生きる晶にとって異世界とはある意味身近な存在でもあった。
思慮が足りなかったと頭を下げる、さすがにデスマッチを見たまま謝る訳にはいかず椅子を動かして雨蜘蛛と向かい合う形となる。
こうなるとスエゾーと小トトロも鑑賞を続けにくくなり一緒に雨蜘蛛と向き合った。
「解りやすく言えば……天国、地獄や魔界なんて言われるのが異世界です。おどろおどろしい場所って意味じゃないですよ、普通の方法ではまず行けない場所の事です」
何て言えばいいかなと悩みながら晶は語った。
車や飛行機を使って何年進んでも行けない場所、外国なんかよりもずっと遠く、次元を隔てた向こう側をどう説明するか考えた末に選んだのは天国という単語。
死後の世界観も違ったらどうしようと困りながら晶は反応を窺った。
「……天国ねえ、確かにここは俺にとっちゃ天国だわ」
思わずそんな声が出る、この島で雨蜘蛛は砂漠のどんな金持ちも出来なかった体験をしたのだ。
恐らく暗黒時代の遺物でも来る事は出来ないだろう、難解な説明をされるよりはよっぽと解りやすい。
感傷に浸ってると奇妙な視線に気付く、見れば天国などと言った雨蜘蛛に晶達が戸惑っていた。
「悪ぃな~、お前らには変に聞こえたかもしれねえが殺し合いが楽しいって意味じゃねえよ」
違う意味に取られる前に火消しに移る、それに何となく語りたい気分だった。
この島に来て初めて知った事は多過ぎた、島という概念さえ初めて知ったのだ。
「俺が住んでいたのは砂漠のど真ん中だったんだぜ? 昼は灼熱、夜は極寒、こんなスーツが無けりゃ即座にオダブツのほ~~~んとロクデモナイ世界よ」
スエゾーが不審者呼ばわりした砂漠スーツをヒラヒラさせる、あの世界の異常さがここに来て初めて解った。
そんな世界を這いずり回って生きてきた自分がたまらなく滑稽で自然と軽口になる、何しろ始めは砂漠に戻ろうなんて考えで行動してたのだ。
晶やスエゾーは黙って話を聞いていた、茶化す事が出来ない空気だった。
「水は貴重品だ、オアシスは全て国に管理されているし金持ち以外はチビチビやるだけで精一杯、食べ物ときたら少ない上に砂が混じるのが当たり前だわ」
別に自分の世界の悲惨さを訴えている訳でもない、ただ淡々とありのままを述べる。
晶も知識としてそんな人々が外国に居るのは知っている、しかしテレビに映る映像とは違う生きた言葉は重みが違う。
クロノスという敵と戦ってはいるが日本という恵まれた国に生きてきた晶には雨蜘蛛をどんな目で見ればいいのか解らない、戸惑いの中言葉は続く。
「人が野垂れ死にしようが誰も気にしちゃいない、盗賊や人買いは風景の一部だ。お前ら、海って見た事があるか?」
すると全員が無言で頷く。
晶もスエゾーも海には何度か行っていた、小トトロは不明だが島に連れてこられた時に見たのかもしれない。
「俺はここに来て初めて見たぜ~、海っていう言葉も初めて知った、いや本当人生感変わったわ」
さも可笑そうに雨蜘蛛は笑った。
晶達は言葉も無い、ただ背後のパソコンから音声が流れていくだけだ。
「下らない事喋っちまったが異世界とやらは信じるぜ~。俺は確かに遠くに来たんだ、そこに写ってる様な変わった奴が居るからじゃねえ、あんなに水を見たのは初めてだからだ」
初めて海を知り、初めて水の怖さを知った。
一生を過ごすと思っていた砂漠とは違う世界があった、外国をすっと飛ばして次元を超えた異世界だろうが信じてやろうと男は思った。
そんな気分だった。
晶は恥ずかしかった、雨蜘蛛の本心を知らずに疑いの目を向けてしまったことが。
そして苛烈な世界を生きてきた男に対し一つの疑問が浮かんできた。
(じゃあ……雨蜘蛛さんは人を殺した事があるんですか?)
ここでする質問でない事は解ってる、しかし晶には行動を共にする仲間としてそれが気になった。
もし”ある”と返事が返って来たらどうすればいいのだろう?
彼は日本人でも何でもない、生きる為と言われたら晶には責められない。
出て行ってもらう? それとも目を瞑って協力する?
聞く事も答えを出す事も出来ず迷っていると突然声を掛けられた。
「とっくに終わっているぜ、晶」
晶が慌ててパソコンを見ると写っていたのは壊れたリングとアシュラマンの無残な死体。
そして勝利の疲れを癒すオメガマンの勝ち誇った姿。
スバルやガルルの姿は何処にも見当たらなかった。
肝心な場面を見逃してしまったが巻き戻せば済む、ひとまず一時停止させて後で見直そうと晶は決めた。
「で、感想は? 異世界って奴を信じる気になったか?」
「はい……、スバルという人についてはよく解りませんでしたけど」
完全に聞くタイミングを逃してしまった。
しかし晶はその事にホッとしてもいた、やはり答えを聞くのが怖かったのだ。
(これでいいんだ、雨蜘蛛さんの過去がどうであれ俺達を助けてくれた事は変わりないじゃないか)
疑問を振り払って改めて雨蜘蛛と向き合う、今は黙って皆が異世界から集められてる確信をくれた事を感謝する。
座りながらも隙を見せないその姿、どことなく巻島さんに似たものを感じてしまう。
この人はきっと非情さも持ち合わせているという予感がした。
(雨蜘蛛さんを見習えば俺も強くなれるかもしれない)
自分が甘いという事を晶は良く解っている。
小トトロを質に取られた事は今でも悔いを感じている、雨蜘蛛に学ぶところがあるかもしれないとそんな事を思う。
「俺からもいいか? お前クロノスって組織が今回の事に関わってるかもしれないって言ってたな?」
そんな晶の内心を他所に今度は雨蜘蛛が質問する。
雨蜘蛛は既にキョンから長門の情報を、メイからタツオの情報を聞き出している、しかし尚もピースは不足していた。
そこに飛び込んで来たのが黒幕となりえる巨大組織の存在、雨蜘蛛としても生存の為に詳しい話を聞いておきたい。
「最初はそう思ってました……今は可能性が低くなりましたがゼロとも言い切れません」
晶から質問した以上雨蜘蛛の質問にも答えなければフェアではない。
困惑した声で解らないと言う、晶にとって何度考えても結論が出せない問題だった。
その代わりとして知っている限りのクロノスの事を話した、降臨者から始まって獣化兵の事までを。
雨蜘蛛は途中口を挟まなかった、しかし話を聞き終えると同時に胸に突き刺さるような一言を晶に投げかける。
「俺にはお前さんが解らないぜ晶。そのクロノスの幹部ギュオーって奴が居るんなら直接聞くのが一番手っ取り早いんじゃないか? 何故そうしない?」
「あ……」
途端に晶は答えに詰まった。
確かにクロノスが関わっているならギュオーが何らかの情報を知っている可能性は有る、しかし当初から相容れない敵という印象が先行してその事に思い至らなかったのだ。
「おいおい、まさか今まで気付かなかったとでも言うつもりじゃねえだろうな? 砂漠の住民ならかっさらってでも聞き出すぜ~」
パンパンと背中を叩かれる。
キョンに荷物を奪われた事といい、今まで何をやっていたのかとますます自分が恥ずかしく思えた。
「元々の敵? 手強い相手? そんなもん本当に殺し合いを壊したいなら仲間に引き込むなりなんなりしろよ晶、主催者はも~~~っと強いんだぜ?」
あのギュオーから話を聞きだす? いやそれどころか仲間に引き込む?
無理難題を言われている気がした、しかし何の反論も出来なかった、確かにそれだけの事をやらなければ殺し合いは壊せない。
傍らのスエゾー達も何と言っていいのか解らないのか交互に二人を見比べるだけだ。
(俺は……何をやっているんだ、いっそ雨蜘蛛さんにこれからの行動を任せた方がいいのかもしれない)
自信が揺らぐ、この先は生きるか死ぬかの世界で生きてきた雨蜘蛛に頼るべきだという考えが生じた。
元々晶はごく普通の一般人だったのだ、頼りになりそうな人に縋るのは悪くない選択に思える。
しかしそれをする前にどうしても確かめなければならない事があった。
「じゃ、じゃあ聞かせて下さい! 雨蜘蛛さんの考えを! この先殺し合いの中でどうするつもりなんですか!?」
もし優勝を目指すなど言われたらどうすればいい?
その答えも用意しないまま晶は聞いた、聞きたかった。
「簡単だ、俺は何としても生き残りたい。殺し合いから逃げる方法も探すが最終的には可能性の高い方を選ぶぜ」
即答だった。
安心しろ、殺し合いなんかするかよ―――そんな当たり障りの無い答えを言うべき場面で雨蜘蛛は優勝を目指す事に含みを持たせた。
どこまでも甘い晶という少年を見ていると突き放したい気分になったのだ、打算より感情が勝った瞬間だった。
「そ、それってワイ達を殺すかもしれんって事やないか!」
答えを聞いてスエゾーが下がる、晶も俯いて黙ってしまった。
さすがに雨蜘蛛もまずったかなと舌打ちする、今協力を断られればもう一度人探しから始めなければならない。
こいつは何と言い訳しようかなと思っていると突然晶が顔を上げた。
「生き延びたいって雨蜘蛛さんの気持ちは解ります、だからその考えを俺は責められません……でも!」
砂漠で生きてきた男の半生を知って晶は返ってくる答えが予想できた。
晶もスエゾーも生きたいのは同じだ、彼の気持ちも解る―――それでも。
「優勝を目指すって事だけは許せません! 俺がさせません!」
雨蜘蛛の返答を聞いて晶もまた答えを得た、これだけは決して譲れない、己の正義感を偽る事は出来ない!
返答次第ではそのまま戦いとなりそうな勢いで雨蜘蛛に詰め寄る、スエゾーと小トトロはその迫力とガッツに押されて更に下がった。
(甘い、甘すぎるぜ晶。お前は現実が解っちゃいないお坊ちゃんだ)
雨蜘蛛はスッと椅子から立ち上がる。
マントが揺れたと思うと拳銃がガイバーの額に向けて突きつけられる、これが雨蜘蛛の返答だった。
一気に緊張が高まる、引き金が僅かに引かれるが晶は雨蜘蛛が本気で無いと感じたのか微動だにしない。
「ふん、随分と偉そうだな晶よ。一つ聞くがお前ならゲームをぶっ壊せるのか? もし勝算一つ無しに言ってるのなら本気で怒らせてもらうぜ!」
やっちまったかな、売り言葉に買い言葉とはいえ抜いたのは短気過ぎたかもしれん。
だがここはキッチリこの甘ちゃんに現実を解らせないと気が済まない、後で足を引っ張られるのはご免だからな。
関東大砂漠にお前の様な奴は居なかった、当たり前だ、居たらとっくにくたばっちまってる。
「……正直今は勝算どころか何も解りません。今までやってきてそれが俺の限界でした」
「何言うとんのや晶! お前はワイや小トトロを助けてくれたやないか! 役立たずなんかとは絶対に違うで!」
言い訳一つせずに晶は無力さを認めた、慌ててスエゾーがフォローするが二人の耳には届いてはいなかった。
認めた上で尚も雨蜘蛛に主張する、最後の一人になろうとするのは絶対に正しく無いと。
雨蜘蛛としても晶がこうも粘るとは意外だった、荷物を奪われ死ぬ寸前まで行って変えないその態度に苛立ちが募る。
「砂ぼうず以外にもお前みたいな馬鹿がいたとはな! それがお前の世界の常識って奴なのか?」
「そうです! それが俺の世界の、いえ俺の正義です!」
今度は晶が即答した、銃口を見据えたまま揺るがぬ声が雨蜘蛛に放たれる。
おーっ、とスエゾーが歓声を上げた。小トトロもパチパチと手を叩いて晶を褒めている。
だがすぐに雨蜘蛛の怒声がそれを打ち消した。
「一つ言っておくぜ晶、お前さんはいろんな世界から人が集められている事を認めたよな? なら何故自分だけが正しいと言える? 他の世界の常識は認めないって事か?」
雨蜘蛛、いや関東大砂漠の常識からすれば晶の思考は甘いなんてもんじゃない。
せっかくの命をわざわざ危険に晒す愚かな行為だ。
そんな『非常識』が正しいと勝手に押し付けられるのは迷惑以外の何者でもない。
「ひょっとしたら主催者連中も自分達の常識で正しい事をしてるつもりかもな! 全く異世界人の考えてる事は解らないぜ!」
ガイバーの肩を掴んで一気に怒鳴った。
頭ではこりゃぶち壊しかな~と思っていたが止められない。
スエゾーと小トトロはお互いに晶と雨蜘蛛を引き離そうとするが全くの無駄だった。
「お前の世界と常識はそんなに偉いってのかよ! 答えてみろ晶!」
思わず熱くなってしまった事にちっと舌打ちする。
その時だった、急に晶が腕を伸ばして雨蜘蛛の両肩を掴んだ。
「言ってる事は解ります! そして俺達だけで殺し合いを止められないというのも言った通りです! だから……だから雨蜘蛛さんに力を貸して欲しい!」
それは責めでも決別でも無く協力の依頼、戸惑う雨蜘蛛を見据えて晶は一気にまくし立てる。
晶は砂漠の常識を否定しきれない、そして自らの正義を覆すつもりも無い、なら取るべき行動は―――脱出の可能性を高める事!
「要は雨蜘蛛さんは生き延びられればいいんでしょう? 目的は最後の一人になる事じゃない、ならそこに俺やスエゾー、他の皆が加わってもいいはずだ!」
雨蜘蛛はやがては可能性の高い方を選ぶと言っていた、それなら希望の方を高めればいいというのが晶の結論。
そうすればこの人を止められる、晶はそのように考えた。
「どうです? これならお互いの世界の常識でも最良の結果に違いない筈です! 俺だけでは無理でも……雨蜘蛛さんと一緒ならきっと出来る!」
「そやそや! 晶とアンタが組めば鬼に金棒やで!」
おいおいと雨蜘蛛は思った。
支給品に恵まれただけのお人好しと砂漠の一取立て屋で異世界を行き来する相手に歯向かおうって事か? こいつは本物の馬鹿だ。
何だかこいつに何を言っても無駄な気がしてきた。
「ふん……威勢が良いのは結構だが本当に危ないときは遠慮なく逃げさせてもらうぜ?」
「決まりですね……それでは改めてよろしくお願いします!」
承諾したつもりなぞ全くない、しかし有無を言わせず手を握られちまった。
横ではスエゾーと小トトロがワイ達の事も忘れんでや~と騒いでまでいる。
(最初はからかってやろうしただけなんだがな……どうなるかと思ったが、こいつらがお人好し過ぎて助かったわ。何だか見ていて面白い連中だぜ)
ワイワイと騒ぐ晶達を見て思わず溜息が出る。
とにかく決裂は避けられた、それだけでも良しとして雨蜘蛛は再度椅子に腰掛ける。
ただ、握られた腕がほんの少し―――痛く感じられた。
※
(また砂の音が聞こえてきやがった)
落ち付いた後で晶達は再びビデオを見始めた。
俺はまたその背中を見ながら休んでいる。
さっきは喧嘩別れをしてもおかしくはなかった、あいつの甘さには調子狂うぜ。
利用できるうちはいい、優勝以外の選択肢が出来る事は悪くない。
だが状況が変わったらとっとと切り捨てさせてもらう、それ迄は勝手に勘違いしてもらうとするか。
(ガキの頃の砂遊びを思い出すぜ)
砂の建物はあっけなく崩れる、どんなに手間をかけて作っても変わりはしない。
この関係も同じだ、いつ壊れてもおかしくない、まさに砂の器だ。
(どこまで持つかね~、長持ちはしないだろうが早過ぎても困る、せめてあの洞窟を調べるまでは続かせないとな)
そして砂遊びの醍醐味はそのあっけなさだ。
壊れるか、自分から壊すか、どう転ぼうが面白い。
その時はどんなカタルシスが得られるのか楽しみだ。
―――ザァー、ザ……ザザ、ザ、ザ、ザ
砂の音が強くなる。
それは嵐の予感なのか、見せ掛けの結束の暗示か。
答えはまだ解らない、彼らはただ静かに連絡を待つ。
生き延びる為に、それは全員が同じくする志。
それだけが―――砂を繋ぎ止めている。
【H-8 博物館/一日目・夕方】
【名前】雨蜘蛛@砂ぼうず
【状態】軽度の船酔い(回復中)、胸に軽い切り傷 マントやや損傷
【持ち物】S&W M10 ミリタリーポリス@現実、有刺鉄線@現実、枝切りハサミ、レストランの包丁多数に調理機器や食器類、各種調味料(業務用)、魚捕り用の網、
ゴムボートのマニュアル、スタングレネード(残弾2)@現実、デイパック(支給品一式)×3、RPG-7@現実(残弾三発) 、ホーミングモードの鉄バット@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
1:生き残る為には手段を選ばない。邪魔な参加者は必要に応じて殺す。
2:晶、スエゾーを利用して洞窟探検を行う(ギリギリまで明かさない)
3:水野灌太と決着をつけたい。
4:暫くは博物館で時間を潰す。
5:ゼクトール(名前は知らない)に再会したら共闘を提案する?
6:キョンの妹・朝比奈みくるをちょめちょめする。
7:草壁サツキに会って主催側の情報、及び彼女のいた場所の情報の収集。その後は……。(トトロ?ああ、ついででいいや)
8:キョンを利用する。午後六時に採掘場に行くかは保留。
9:ボートはよほどの事が無い限り二度と乗りたくない。
【備考】
※第二十話「裏と、便」終了後に参戦。(まだ水野灌太が爆発に巻き込まれていない時期)
※雨蜘蛛が着ている砂漠スーツはあくまでも衣装としてです。
索敵機能などは制限されています。詳しい事は次の書き手さんにお任せします。
※メイのいた場所が、自分のいた場所とは異なる世界観だと理解しました。
※サツキがメイの姉であること、トトロが正体不明の生命体であること、
草壁タツオが二人の親だと知りました。サツキとトトロの詳しい容姿についても把握済みです。
※サツキやメイのいた場所に、政府の目が届かないオアシスがある、
もしくはキョンの世界と同様に関東大砂漠から遠い場所だと思っています。
※長門有希と草壁サツキが関係あるかもしれないと考えています。
※長門有希とキョンの関係を簡単に把握しました。
※朝比奈みくる(小)・キョンの妹・古泉一樹・ガイバーショウの容姿を伝え聞きました。
※蛇の化け物(ナーガ)を危険人物と認識しました。
※有刺鉄線がどれくらいでなくなるかは以降の書き手さんにお任せです。
【深町晶@強殖装甲ガイバー】
【状態】:精神疲労(小)、苦悩
【持ち物】 小トトロ@となりのトトロ、首輪(アシュラマン)、博物館のメモ用紙とボールペン、 デイパック(支給品一式)
手書きの地図(禁止エリアと特設リングの場所が書いてある)
【思考】
0:ゲームを破壊する。
1:雨蜘蛛に借りを返す。
2:しばらくは博物館で待機。
3:巻島のような非情さがほしい……?
4:スエゾーの仲間(ゲンキ、ハム)を探す。
5:クロノスメンバーが他者に危害を加える前に倒す。
6:もう一人のガイバー(キョン)を止めたい。
7:サツキの正体を確認し、必要なら守る。
8:巻き込まれた人たちを守る。
※ゲームの黒幕をクロノスだと考えていましたが揺らいでいます。
※トトロ、スエゾーを異世界の住人であると信じつつあります。
※小トトロはトトロの関係者だと結論しました。スパイだとは思っていません。
※参戦時期は第25話「胎動の蛹」終了時。
※【巨人殖装(ギガンティック)】が現時点では使用できません。
以後何らかの要因で使用できるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※ガイバーに課せられた制限に気づきました。
※ナーガ、オメガマンは危険人物だと認識しました。
※放送直後までの掲示板の内容をすべて見ました。
※参加者が10の異世界から集められたという推理を聞きました。おそらく的外れではないと思っています。
※ドロロとリナをほぼ味方であると認識しました。
※ケロロ、タママを味方になりうる人物と認識しました。
※ドロロたちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※川口夏子を信用できる人物と認識しました。
【スエゾー@モンスターファーム~円盤石の秘密~】
【状態】:全身に傷(手当済み)、火傷(水で冷やしただけ)、貧血気味
【持ち物】 なし
【思考】
0:晶、小トトロと行動を共にする。
1:ゲンキ、ハムを探す。
2:オメガマンにあったら……もう、逃げへん。
※スエゾーの舐める、キッス、唾にはガッツダウンの効果があるようです。
※ガッツダウン技はくらえばくらうほど、相手は疲れます。スエゾーも疲れます。
※スエゾーが見える範囲は周囲一エリアが限界です。日が昇ったので人影がはっきり見えるかも知れません。
※ギュオー、ゼクトール、アプトムを危険人物と認識しました。
※放送直後までの掲示板の内容をすべて見ました。
※参加者が10の異世界から集められたという推理を聞きました。おそらく的外れではないと思っています。
※ドロロとリナをほぼ味方であると認識しました。
※ケロロ、タママを味方になりうる人物と認識しました。
※ドロロたちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※川口夏子をたぶん信用できる人物と認識しました。
*時系列順で読む
Back:[[Spider that entered museum]] Next:[[]]
*投下順で読む
Back:[[Spider that entered museum]] Next:[[]]
|[[Spider that entered museum]]|深町晶|[[遊園地に日は暮れる]]|
|~|スエゾー|~|
|~|雨蜘蛛|~|
*砂の器 ◆5xPP7aGpCE
―――サラ……サラサラ
まどろみの中で音が聴こえてくる、本物で無い音が。
砂が空を、地上の全てを覆いつくして走る音、砂漠の住民にとっては避けられぬ災厄―――砂嵐。
雨蜘蛛にとって母親の胎内に有った時より聞いてきた、いわば子守唄同然の音。
背中を壁に預け、警戒を怠り無く休む男にはそんな幻聴が聴く自分が可笑しかった。
(砂が恋しいって身体が戸惑ってやがる、まだ一日も経っちゃいないのにな)
砂漠に適応しきってしまっているせいか環境の変化にどこか付いていけないのだろう。
素肌を晒せる程の穏やかな日差し、豊かな緑に無尽蔵の水、砂の飛んでこない世界。
昨日まで生きてきた世界では天国か有り得ぬユートピアと語られる場所に雨蜘蛛は居る。
ここは静か過ぎた。
喧騒が無いという意味ではない、今まで当たり前だった音がしないのだ。
(静かなもんだ……、砂漠にも砂が動かない日は有るってのに静かさまで違うのかよ)
荒ぶる土地のうたた寝と実りある地の眠りの差か、それとも唯の錯覚か。
雨蜘蛛はただ遠くに来たという想いだけを強くした。
視線の先にはパソコンに見入る晶達の背中、隙だらけのその姿が雨蜘蛛への信用を物語っている。
だからこそこうして休める、襲撃者が来たとしても晶達が盾と囮になってくれるだろう。
見終わるまでまだ掛かるな、とまどろみかけたその時だった。
「雨蜘蛛さん」
「……何だ?」
唐突に声を掛けられて意識を引き戻される。
ファイヤーデスマッチの録画はまだ終わっていない、晶が画面を見たまま雨蜘蛛を呼んだのだ。
「さっき俺が言った事を覚えてますか? 俺達が10の異世界から集められたかもしれないって、雨蜘蛛さんは信じますか?」
時間はあるのだし話は後でも出来る、今聞きたいというのは晶の疑問の大きさを物語っていた。
スエゾー達も「ん?」とそんな晶に視線を向ける。
「覚えているぜ、確かパソコンの向こうの奴が言い出した話だったよな」
それは情報交換の中で告げられた仮説、その時は他に語るべき事が多く触れただけで次へ移った。
始めは広く浅く、突っ込んだ事を語るのはもう少し休んでからと思ったが雨蜘蛛としてもこの話題には興味が有る。
「スエゾー、そしてここに写っている魔法使いや喋るカエルといった俺の世界では有り得ない存在、信じるしかないと思ったんですが雨蜘蛛さんの考えも聞きたいんです」
晶の問いも当然かもしれない。
知らない常識に有り得ない存在、確かに異世界に来たと考えればしっくり来るが所詮他人の仮説だ。
言われるまま信じる前に自分達で考えてみるのは悪くない。
「なんや晶、まだそんな事言っとるんか。ワイはとっくに信じとるで~、ゲンキの奴も違う世界から来たって言ったやないか」
スエゾーが呆れた声を出した。
ゲンキという彼にとって異世界の住人と旅していただけに元々受け入れる余地があったのだろう、間違ってないんやないかと晶に言う。
「悪いがお前らが何を言っているのか良く解らん、そもそも異世界って何だ? まずそこから話してみろ」
雨蜘蛛にとってそれは初めて聞く単語だった。
各々が元々暮らしていた場所だとは解る、見た事の無い連中だから遠い場所だとも解る、解らないのはその”スケール”だ。
晶は何を知っているのか、果たして此処は何処なのか手掛かりを掴むべく雨蜘蛛は言葉を待つ。
「あ、そうですよね。俺の場合は親友の哲郎さんがSF研究会だったりテレビや漫画の影響で馴染みがあったので雨蜘蛛さんも知っていると思ってしまいました」
現代社会を生きる晶にとって異世界とはある意味身近な存在でもあった。
思慮が足りなかったと頭を下げる、さすがにデスマッチを見たまま謝る訳にはいかず椅子を動かして雨蜘蛛と向かい合う形となる。
こうなるとスエゾーと小トトロも鑑賞を続けにくくなり一緒に雨蜘蛛と向き合った。
「解りやすく言えば……天国、地獄や魔界なんて言われるのが異世界です。おどろおどろしい場所って意味じゃないですよ、普通の方法ではまず行けない場所の事です」
何て言えばいいかなと悩みながら晶は語った。
車や飛行機を使って何年進んでも行けない場所、外国なんかよりもずっと遠く、次元を隔てた向こう側をどう説明するか考えた末に選んだのは天国という単語。
死後の世界観も違ったらどうしようと困りながら晶は反応を窺った。
「……天国ねえ、確かにここは俺にとっちゃ天国だわ」
思わずそんな声が出る、この島で雨蜘蛛は砂漠のどんな金持ちも出来なかった体験をしたのだ。
恐らく暗黒時代の遺物でも来る事は出来ないだろう、難解な説明をされるよりはよっぽと解りやすい。
感傷に浸ってると奇妙な視線に気付く、見れば天国などと言った雨蜘蛛に晶達が戸惑っていた。
「悪ぃな~、お前らには変に聞こえたかもしれねえが殺し合いが楽しいって意味じゃねえよ」
違う意味に取られる前に火消しに移る、それに何となく語りたい気分だった。
この島に来て初めて知った事は多過ぎた、島という概念さえ初めて知ったのだ。
「俺が住んでいたのは砂漠のど真ん中だったんだぜ? 昼は灼熱、夜は極寒、こんなスーツが無けりゃ即座にオダブツのほ~~~んとロクデモナイ世界よ」
スエゾーが不審者呼ばわりした砂漠スーツをヒラヒラさせる、あの世界の異常さがここに来て初めて解った。
そんな世界を這いずり回って生きてきた自分がたまらなく滑稽で自然と軽口になる、何しろ始めは砂漠に戻ろうなんて考えで行動してたのだ。
晶やスエゾーは黙って話を聞いていた、茶化す事が出来ない空気だった。
「水は貴重品だ、オアシスは全て国に管理されているし金持ち以外はチビチビやるだけで精一杯、食べ物ときたら少ない上に砂が混じるのが当たり前だわ」
別に自分の世界の悲惨さを訴えている訳でもない、ただ淡々とありのままを述べる。
晶も知識としてそんな人々が外国に居るのは知っている、しかしテレビに映る映像とは違う生きた言葉は重みが違う。
クロノスという敵と戦ってはいるが日本という恵まれた国に生きてきた晶には雨蜘蛛をどんな目で見ればいいのか解らない、戸惑いの中言葉は続く。
「人が野垂れ死にしようが誰も気にしちゃいない、盗賊や人買いは風景の一部だ。お前ら、海って見た事があるか?」
すると全員が無言で頷く。
晶もスエゾーも海には何度か行っていた、小トトロは不明だが島に連れてこられた時に見たのかもしれない。
「俺はここに来て初めて見たぜ~、海っていう言葉も初めて知った、いや本当人生感変わったわ」
さも可笑そうに雨蜘蛛は笑った。
晶達は言葉も無い、ただ背後のパソコンから音声が流れていくだけだ。
「下らない事喋っちまったが異世界とやらは信じるぜ~。俺は確かに遠くに来たんだ、そこに写ってる様な変わった奴が居るからじゃねえ、あんなに水を見たのは初めてだからだ」
初めて海を知り、初めて水の怖さを知った。
一生を過ごすと思っていた砂漠とは違う世界があった、外国をすっと飛ばして次元を超えた異世界だろうが信じてやろうと男は思った。
そんな気分だった。
晶は恥ずかしかった、雨蜘蛛の本心を知らずに疑いの目を向けてしまったことが。
そして苛烈な世界を生きてきた男に対し一つの疑問が浮かんできた。
(じゃあ……雨蜘蛛さんは人を殺した事があるんですか?)
ここでする質問でない事は解ってる、しかし晶には行動を共にする仲間としてそれが気になった。
もし”ある”と返事が返って来たらどうすればいいのだろう?
彼は日本人でも何でもない、生きる為と言われたら晶には責められない。
出て行ってもらう? それとも目を瞑って協力する?
聞く事も答えを出す事も出来ず迷っていると突然声を掛けられた。
「とっくに終わっているぜ、晶」
晶が慌ててパソコンを見ると写っていたのは壊れたリングとアシュラマンの無残な死体。
そして勝利の疲れを癒すオメガマンの勝ち誇った姿。
スバルやガルルの姿は何処にも見当たらなかった。
肝心な場面を見逃してしまったが巻き戻せば済む、ひとまず一時停止させて後で見直そうと晶は決めた。
「で、感想は? 異世界って奴を信じる気になったか?」
「はい……、スバルという人についてはよく解りませんでしたけど」
完全に聞くタイミングを逃してしまった。
しかし晶はその事にホッとしてもいた、やはり答えを聞くのが怖かったのだ。
(これでいいんだ、雨蜘蛛さんの過去がどうであれ俺達を助けてくれた事は変わりないじゃないか)
疑問を振り払って改めて雨蜘蛛と向き合う、今は黙って皆が異世界から集められてる確信をくれた事を感謝する。
座りながらも隙を見せないその姿、どことなく巻島さんに似たものを感じてしまう。
この人はきっと非情さも持ち合わせているという予感がした。
(雨蜘蛛さんを見習えば俺も強くなれるかもしれない)
自分が甘いという事を晶は良く解っている。
小トトロを質に取られた事は今でも悔いを感じている、雨蜘蛛に学ぶところがあるかもしれないとそんな事を思う。
「俺からもいいか? お前クロノスって組織が今回の事に関わってるかもしれないって言ってたな?」
そんな晶の内心を他所に今度は雨蜘蛛が質問する。
雨蜘蛛は既にキョンから長門の情報を、メイからタツオの情報を聞き出している、しかし尚もピースは不足していた。
そこに飛び込んで来たのが黒幕となりえる巨大組織の存在、雨蜘蛛としても生存の為に詳しい話を聞いておきたい。
「最初はそう思ってました……今は可能性が低くなりましたがゼロとも言い切れません」
晶から質問した以上雨蜘蛛の質問にも答えなければフェアではない。
困惑した声で解らないと言う、晶にとって何度考えても結論が出せない問題だった。
その代わりとして知っている限りのクロノスの事を話した、降臨者から始まって獣化兵の事までを。
雨蜘蛛は途中口を挟まなかった、しかし話を聞き終えると同時に胸に突き刺さるような一言を晶に投げかける。
「俺にはお前さんが解らないぜ晶。そのクロノスの幹部ギュオーって奴が居るんなら直接聞くのが一番手っ取り早いんじゃないか? 何故そうしない?」
「あ……」
途端に晶は答えに詰まった。
確かにクロノスが関わっているならギュオーが何らかの情報を知っている可能性は有る、しかし当初から相容れない敵という印象が先行してその事に思い至らなかったのだ。
「おいおい、まさか今まで気付かなかったとでも言うつもりじゃねえだろうな? 砂漠の住民ならかっさらってでも聞き出すぜ~」
パンパンと背中を叩かれる。
キョンに荷物を奪われた事といい、今まで何をやっていたのかとますます自分が恥ずかしく思えた。
「元々の敵? 手強い相手? そんなもん本当に殺し合いを壊したいなら仲間に引き込むなりなんなりしろよ晶、主催者はも~~~っと強いんだぜ?」
あのギュオーから話を聞きだす? いやそれどころか仲間に引き込む?
無理難題を言われている気がした、しかし何の反論も出来なかった、確かにそれだけの事をやらなければ殺し合いは壊せない。
傍らのスエゾー達も何と言っていいのか解らないのか交互に二人を見比べるだけだ。
(俺は……何をやっているんだ、いっそ雨蜘蛛さんにこれからの行動を任せた方がいいのかもしれない)
自信が揺らぐ、この先は生きるか死ぬかの世界で生きてきた雨蜘蛛に頼るべきだという考えが生じた。
元々晶はごく普通の一般人だったのだ、頼りになりそうな人に縋るのは悪くない選択に思える。
しかしそれをする前にどうしても確かめなければならない事があった。
「じゃ、じゃあ聞かせて下さい! 雨蜘蛛さんの考えを! この先殺し合いの中でどうするつもりなんですか!?」
もし優勝を目指すなど言われたらどうすればいい?
その答えも用意しないまま晶は聞いた、聞きたかった。
「簡単だ、俺は何としても生き残りたい。殺し合いから逃げる方法も探すが最終的には可能性の高い方を選ぶぜ」
即答だった。
安心しろ、殺し合いなんかするかよ―――そんな当たり障りの無い答えを言うべき場面で雨蜘蛛は優勝を目指す事に含みを持たせた。
どこまでも甘い晶という少年を見ていると突き放したい気分になったのだ、打算より感情が勝った瞬間だった。
「そ、それってワイ達を殺すかもしれんって事やないか!」
答えを聞いてスエゾーが下がる、晶も俯いて黙ってしまった。
さすがに雨蜘蛛もまずったかなと舌打ちする、今協力を断られればもう一度人探しから始めなければならない。
こいつは何と言い訳しようかなと思っていると突然晶が顔を上げた。
「生き延びたいって雨蜘蛛さんの気持ちは解ります、だからその考えを俺は責められません……でも!」
砂漠で生きてきた男の半生を知って晶は返ってくる答えが予想できた。
晶もスエゾーも生きたいのは同じだ、彼の気持ちも解る―――それでも。
「優勝を目指すって事だけは許せません! 俺がさせません!」
雨蜘蛛の返答を聞いて晶もまた答えを得た、これだけは決して譲れない、己の正義感を偽る事は出来ない!
返答次第ではそのまま戦いとなりそうな勢いで雨蜘蛛に詰め寄る、スエゾーと小トトロはその迫力とガッツに押されて更に下がった。
(甘い、甘すぎるぜ晶。お前は現実が解っちゃいないお坊ちゃんだ)
雨蜘蛛はスッと椅子から立ち上がる。
マントが揺れたと思うと拳銃がガイバーの額に向けて突きつけられる、これが雨蜘蛛の返答だった。
一気に緊張が高まる、引き金が僅かに引かれるが晶は雨蜘蛛が本気で無いと感じたのか微動だにしない。
「ふん、随分と偉そうだな晶よ。一つ聞くがお前ならゲームをぶっ壊せるのか? もし勝算一つ無しに言ってるのなら本気で怒らせてもらうぜ!」
やっちまったかな、売り言葉に買い言葉とはいえ抜いたのは短気過ぎたかもしれん。
だがここはキッチリこの甘ちゃんに現実を解らせないと気が済まない、後で足を引っ張られるのはご免だからな。
関東大砂漠にお前の様な奴は居なかった、当たり前だ、居たらとっくにくたばっちまってる。
「……正直今は勝算どころか何も解りません。今までやってきてそれが俺の限界でした」
「何言うとんのや晶! お前はワイや小トトロを助けてくれたやないか! 役立たずなんかとは絶対に違うで!」
言い訳一つせずに晶は無力さを認めた、慌ててスエゾーがフォローするが二人の耳には届いてはいなかった。
認めた上で尚も雨蜘蛛に主張する、最後の一人になろうとするのは絶対に正しく無いと。
雨蜘蛛としても晶がこうも粘るとは意外だった、荷物を奪われ死ぬ寸前まで行って変えないその態度に苛立ちが募る。
「砂ぼうず以外にもお前みたいな馬鹿がいたとはな! それがお前の世界の常識って奴なのか?」
「そうです! それが俺の世界の、いえ俺の正義です!」
今度は晶が即答した、銃口を見据えたまま揺るがぬ声が雨蜘蛛に放たれる。
おーっ、とスエゾーが歓声を上げた。小トトロもパチパチと手を叩いて晶を褒めている。
だがすぐに雨蜘蛛の怒声がそれを打ち消した。
「一つ言っておくぜ晶、お前さんはいろんな世界から人が集められている事を認めたよな? なら何故自分だけが正しいと言える? 他の世界の常識は認めないって事か?」
雨蜘蛛、いや関東大砂漠の常識からすれば晶の思考は甘いなんてもんじゃない。
せっかくの命をわざわざ危険に晒す愚かな行為だ。
そんな『非常識』が正しいと勝手に押し付けられるのは迷惑以外の何者でもない。
「ひょっとしたら主催者連中も自分達の常識で正しい事をしてるつもりかもな! 全く異世界人の考えてる事は解らないぜ!」
ガイバーの肩を掴んで一気に怒鳴った。
頭ではこりゃぶち壊しかな~と思っていたが止められない。
スエゾーと小トトロはお互いに晶と雨蜘蛛を引き離そうとするが全くの無駄だった。
「お前の世界と常識はそんなに偉いってのかよ! 答えてみろ晶!」
思わず熱くなってしまった事にちっと舌打ちする。
その時だった、急に晶が腕を伸ばして雨蜘蛛の両肩を掴んだ。
「言ってる事は解ります! そして俺達だけで殺し合いを止められないというのも言った通りです! だから……だから雨蜘蛛さんに力を貸して欲しい!」
それは責めでも決別でも無く協力の依頼、戸惑う雨蜘蛛を見据えて晶は一気にまくし立てる。
晶は砂漠の常識を否定しきれない、そして自らの正義を覆すつもりも無い、なら取るべき行動は―――脱出の可能性を高める事!
「要は雨蜘蛛さんは生き延びられればいいんでしょう? 目的は最後の一人になる事じゃない、ならそこに俺やスエゾー、他の皆が加わってもいいはずだ!」
雨蜘蛛はやがては可能性の高い方を選ぶと言っていた、それなら希望の方を高めればいいというのが晶の結論。
そうすればこの人を止められる、晶はそのように考えた。
「どうです? これならお互いの世界の常識でも最良の結果に違いない筈です! 俺だけでは無理でも……雨蜘蛛さんと一緒ならきっと出来る!」
「そやそや! 晶とアンタが組めば鬼に金棒やで!」
おいおいと雨蜘蛛は思った。
支給品に恵まれただけのお人好しと砂漠の一取立て屋で異世界を行き来する相手に歯向かおうって事か? こいつは本物の馬鹿だ。
何だかこいつに何を言っても無駄な気がしてきた。
「ふん……威勢が良いのは結構だが本当に危ないときは遠慮なく逃げさせてもらうぜ?」
「決まりですね……それでは改めてよろしくお願いします!」
承諾したつもりなぞ全くない、しかし有無を言わせず手を握られちまった。
横ではスエゾーと小トトロがワイ達の事も忘れんでや~と騒いでまでいる。
(最初はからかってやろうしただけなんだがな……どうなるかと思ったが、こいつらがお人好し過ぎて助かったわ。何だか見ていて面白い連中だぜ)
ワイワイと騒ぐ晶達を見て思わず溜息が出る。
とにかく決裂は避けられた、それだけでも良しとして雨蜘蛛は再度椅子に腰掛ける。
ただ、握られた腕がほんの少し―――痛く感じられた。
※
(また砂の音が聞こえてきやがった)
落ち付いた後で晶達は再びビデオを見始めた。
俺はまたその背中を見ながら休んでいる。
さっきは喧嘩別れをしてもおかしくはなかった、あいつの甘さには調子狂うぜ。
利用できるうちはいい、優勝以外の選択肢が出来る事は悪くない。
だが状況が変わったらとっとと切り捨てさせてもらう、それ迄は勝手に勘違いしてもらうとするか。
(ガキの頃の砂遊びを思い出すぜ)
砂の建物はあっけなく崩れる、どんなに手間をかけて作っても変わりはしない。
この関係も同じだ、いつ壊れてもおかしくない、まさに砂の器だ。
(どこまで持つかね~、長持ちはしないだろうが早過ぎても困る、せめてあの洞窟を調べるまでは続かせないとな)
そして砂遊びの醍醐味はそのあっけなさだ。
壊れるか、自分から壊すか、どう転ぼうが面白い。
その時はどんなカタルシスが得られるのか楽しみだ。
―――ザァー、ザ……ザザ、ザ、ザ、ザ
砂の音が強くなる。
それは嵐の予感なのか、見せ掛けの結束の暗示か。
答えはまだ解らない、彼らはただ静かに連絡を待つ。
生き延びる為に、それは全員が同じくする志。
それだけが―――砂を繋ぎ止めている。
【H-8 博物館/一日目・夕方】
【名前】雨蜘蛛@砂ぼうず
【状態】軽度の船酔い(回復中)、胸に軽い切り傷 マントやや損傷
【持ち物】S&W M10 ミリタリーポリス@現実、有刺鉄線@現実、枝切りハサミ、レストランの包丁多数に調理機器や食器類、各種調味料(業務用)、魚捕り用の網、
ゴムボートのマニュアル、スタングレネード(残弾2)@現実、デイパック(支給品一式)×3、RPG-7@現実(残弾三発) 、ホーミングモードの鉄バット@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
1:生き残る為には手段を選ばない。邪魔な参加者は必要に応じて殺す。
2:晶、スエゾーを利用して洞窟探検を行う(ギリギリまで明かさない)
3:水野灌太と決着をつけたい。
4:暫くは博物館で時間を潰す。
5:ゼクトール(名前は知らない)に再会したら共闘を提案する?
6:キョンの妹・朝比奈みくるをちょめちょめする。
7:草壁サツキに会って主催側の情報、及び彼女のいた場所の情報の収集。その後は……。(トトロ?ああ、ついででいいや)
8:キョンを利用する。午後六時に採掘場に行くかは保留。
9:ボートはよほどの事が無い限り二度と乗りたくない。
【備考】
※第二十話「裏と、便」終了後に参戦。(まだ水野灌太が爆発に巻き込まれていない時期)
※雨蜘蛛が着ている砂漠スーツはあくまでも衣装としてです。
索敵機能などは制限されています。詳しい事は次の書き手さんにお任せします。
※メイのいた場所が、自分のいた場所とは異なる世界観だと理解しました。
※サツキがメイの姉であること、トトロが正体不明の生命体であること、
草壁タツオが二人の親だと知りました。サツキとトトロの詳しい容姿についても把握済みです。
※サツキやメイのいた場所に、政府の目が届かないオアシスがある、
もしくはキョンの世界と同様に関東大砂漠から遠い場所だと思っています。
※長門有希と草壁サツキが関係あるかもしれないと考えています。
※長門有希とキョンの関係を簡単に把握しました。
※朝比奈みくる(小)・キョンの妹・古泉一樹・ガイバーショウの容姿を伝え聞きました。
※蛇の化け物(ナーガ)を危険人物と認識しました。
※有刺鉄線がどれくらいでなくなるかは以降の書き手さんにお任せです。
【深町晶@強殖装甲ガイバー】
【状態】:精神疲労(小)、苦悩
【持ち物】 小トトロ@となりのトトロ、首輪(アシュラマン)、博物館のメモ用紙とボールペン、 デイパック(支給品一式)
手書きの地図(禁止エリアと特設リングの場所が書いてある)
【思考】
0:ゲームを破壊する。
1:雨蜘蛛に借りを返す。
2:しばらくは博物館で待機。
3:巻島のような非情さがほしい……?
4:スエゾーの仲間(ゲンキ、ハム)を探す。
5:クロノスメンバーが他者に危害を加える前に倒す。
6:もう一人のガイバー(キョン)を止めたい。
7:サツキの正体を確認し、必要なら守る。
8:巻き込まれた人たちを守る。
※ゲームの黒幕をクロノスだと考えていましたが揺らいでいます。
※トトロ、スエゾーを異世界の住人であると信じつつあります。
※小トトロはトトロの関係者だと結論しました。スパイだとは思っていません。
※参戦時期は第25話「胎動の蛹」終了時。
※【巨人殖装(ギガンティック)】が現時点では使用できません。
以後何らかの要因で使用できるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※ガイバーに課せられた制限に気づきました。
※ナーガ、オメガマンは危険人物だと認識しました。
※放送直後までの掲示板の内容をすべて見ました。
※参加者が10の異世界から集められたという推理を聞きました。おそらく的外れではないと思っています。
※ドロロとリナをほぼ味方であると認識しました。
※ケロロ、タママを味方になりうる人物と認識しました。
※ドロロたちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※川口夏子を信用できる人物と認識しました。
【スエゾー@モンスターファーム~円盤石の秘密~】
【状態】:全身に傷(手当済み)、火傷(水で冷やしただけ)、貧血気味
【持ち物】 なし
【思考】
0:晶、小トトロと行動を共にする。
1:ゲンキ、ハムを探す。
2:オメガマンにあったら……もう、逃げへん。
※スエゾーの舐める、キッス、唾にはガッツダウンの効果があるようです。
※ガッツダウン技はくらえばくらうほど、相手は疲れます。スエゾーも疲れます。
※スエゾーが見える範囲は周囲一エリアが限界です。日が昇ったので人影がはっきり見えるかも知れません。
※ギュオー、ゼクトール、アプトムを危険人物と認識しました。
※放送直後までの掲示板の内容をすべて見ました。
※参加者が10の異世界から集められたという推理を聞きました。おそらく的外れではないと思っています。
※ドロロとリナをほぼ味方であると認識しました。
※ケロロ、タママを味方になりうる人物と認識しました。
※ドロロたちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※川口夏子をたぶん信用できる人物と認識しました。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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