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碇シンジがああなったワケ ◆321goTfE72


陽が昇るまであと数十分といったところだろうか。
草木はわずかな光に照らされ葉先に輝く雫が清涼感を感じさせる。
小鳥のさえずりでも聞きながら遥かな朝日でも眺めつつ
深呼吸でもすればさぞかし清々しいだろうが、
小さな天使の歌声はあっても殺し合いの場という特異な環境が作り出した
陰鬱な雰囲気が辺りを支配しそんな気概は削がれた。
緑の木々と緑の草々、そのどちらもが朝日を一身に浴び
日没以来の食事をもうすぐ楽しめるであろう、そんなとき。
木々の隙間から現れ、草を踏み潰す存在が現れた。

一人目は黒髪の美人。
慣れない緑の環境においても無駄のない動きで周囲を警戒し
背後の人影に出てきても大丈夫と呼びかけた。
その挙動の一つ一つには戦い慣れた人間の雰囲気が出ていて
"凄腕美人"と形容するに相応しいだけの力量を備えているのが伺える。
彼女に呼びかけられ木々の領域から草々の領域へと踏み込んだ新たな存在。

その二人目は亜麻色の髪の美人。
一人目の黒髪美人、川口夏子とは違い引き締まった肉体でもなければ
戦士の雰囲気を備えているわけでもない、しかし彼女が持っていない
柔らかな肢体と美しさ・可愛らしさ・色っぽさが絶妙に混ざった雰囲気、
健全な男子高校生に"特盛"と思わせる胸は
同性でも生唾を飲み込むほどの芸術的な美しさを持っていた。
手に黒光りする銃が握られてなければポスターにでもして部屋に飾りたいくらいである。
その二人目、朝比奈みくるから少し距離を開けもう一人姿を現す。

三人目はうつむいた少年。
思春期ぐらいの年齢だろうか。なんとなく、落ち込んでいるように見える。
森を出たところで待っていた二人の女性の顔色を伺いながら
ほんの少し待たせただけにも関わらずごめんなさいと謝罪をしている。
控えめで内向的な、先の二人に比べればそれほど珍しくない部類の人間だった。
そんな傍目では平凡な青年、碇シンジがおずおずと尋ねた。

「夏子さん、その…ここはどのあたりになるんですか?」

「そうね…」

「東にモールが見えます。おそらくF-09あたりだと思います」

質問には夏子が地図を取り出している間にみくるが答えた。
シンジは夏子に尋ねたにも関わらず、だ。
彼女に抱いている感情そのままに、そんな些細なことでもシンジは更にみくるに対する嫌悪感を深める。

「この地図にある『ショッピングモール』ね…。
 そこに、パソコンがある可能性は?」

「業務上、データ管理や商品発注などでパソコンを使う可能性は高いですけど…
 主催者がわざわざ置いてくれているかは行ってみないと分かりません」

「それはどこも同じよ。いいわ、行ってみましょう」

今回も、みくるの意見が通る形で市街地に行く前の寄り道が決定した。
そのことに対し更にフラストレーションを溜める少年の心の内には誰も気付かない。
だが、夏子は別のことに気付いた。

「…あれは…火の手?」

日の出が近いとはいえまだ周囲はそれなりに暗い。
その分、南が赤く染まっていることは距離がそれなりにはあるがよく目立っていた。
緑が視界を隠してない今となっては気付かない道理は無い。
森を歩いている間にも戦闘音みたいなものは遠くから聞こえてきてはいたが
思った以上に派手に殺し合いは進行しているようだ。
おずおずとシンジが夏子のほうを見る。

「夏子さん…どうするんですか?」

「言ったでしょう。戦闘に巻き込まれている人間がいたとしても無闇に首は突っ込まない。
 ましてや火事の現場、しかも市街地から離れる南には行かない。
 朝比奈さんもそれでいいですね?」

「…ええ」

少しだけ躊躇があるような、微妙な表情ではあったがみくるもそれに同意した。
再び、三人は歩を進め出す。


険しい顔で夏子が口を開いたのはショッピングモールに入る直前だった。

「…静かに。北から足音。…おそらく複数」

夏子が二人に目配せをして、モール入り口の物陰に身を潜める。

「どうするんですか…?」

「向こうは少数ながらも複数。危険人物の可能性もある。
 こちらの戦力を考えると接触は得策じゃないわね。
 もしこちらに気付かれたら…シンジ君は煙玉を投げて。全力で森の中に逃げ込みましょう。
 …シンジ君、少しの間このナイフは君に貸すわ」

「え…」

右手に手渡された重みに、シンジが戸惑う。

「武器が無くても私は戦うことは出来るけど、あなたは無理でしょう。
 護身用程度にはなるわ。でも、もし戦いに巻き込まれても逃げることを最優先しなさい」

夏子のその真剣な言葉に、シンジは気圧されながらも頷く。
本当は彼にナイフを持たせるより夏子が持ったほうが戦局は有利に働くだろうが
すっかり萎縮してしまっているシンジに対する不器用な夏子なりの気遣いだった。
雨蜘蛛とのやりとりを見ていた限り、戦うだけの勇気はあるのだろう。
それがすっかり鳴りを潜めてしまっている。

"思い上がらないで"

おそらく、この夏子の一言で。
彼に戦わせようとは思わないが、ある程度の勇敢さは臆病よりは好ましいものだ。
勇気を奮い立たせるために武器を渡した。一種の起爆剤としての効果が出るといいのだが。

そのまま三人は息を殺していた。
みくるやシンジにも十分に聞き取れるほどに足音が大きくなってきた。

そして、足音が最も近づく。二人か三人か。
一つは大きな足音だ。かなりの大柄な人物なのだろう。
心拍数は最大となり、銃を握る手、柄を握る手、夏子以外の手からは汗が滲み出ていた。

だが、足音はそのまま遠ざかっていった。
心配は杞憂に終わったようだ。

「…もう大丈夫よ」

夏子の安全宣言と同時に、みくるとシンジの深く息を吐く音がシンクロした。
既に平常心の夏子がモールの入り口をくぐり、汗を拭いながらみくるがそれに続く。
シンジもナイフを握り締めたままみくるの背中を追いながら口を開いた。

「先程の人達は…南へとまっすぐ走って行ったみたいですね」

「おそらく南の火事に関係があるんでしょう。
 物好きか野次馬か、もしくは正義の味方さんか…どちらにせよ私達には関係ない」

そういう反応をするだろう、とは思っていたが冷たいな、とシンジは思った。

(夏子さんも、やっぱり我が身が可愛いのかな…?)


「どうしたんだい、ハム?」

ハムが後ろを気にしながら走っていることに気付き、万太郎が声をかけた。

(マンタさんは火事に気を取られて気付いてなかったみたいですが…
 何人かこちらの様子を伺ってましたね)

あと一人か二人いたかもしれないがハムが確信して感じ取れた気配は二人。
その隠れ方の拙さからどうも戦いの経験が乏しそうだと思った。

万太郎に言うか?
いや、目的はあくまで『生き残るために頼りになる仲間を作る』だ。
彼に言えばそんな戦力にならなさそうな存在まできっちり仲間に引き込むだろう。
もしかしたら使える支給品、便利な能力などを持っている可能性もあるが―――
分が悪い賭けだと判断した。

「いえ、なんでもないです。先を急ぎましょう」

前を向き直し、スピードを緩めることなくハムは言った。

【E-09 ショッピングモール内/一日目・明け方】
【ハム@モンスターファーム~円盤石の秘密~】
【状態】健康
【持ち物】 ディパック(支給品一式)、不明支給品1~3
【思考】
1.万太郎に同行。でも危なくなったら逃げる。
2.頼りになる仲間をスカウトしたい。
3.アシュラマンも後でスカウトしたい。
4.殺し合いについては……。
【備考】
※ゲンキたちと会う前の時代から来たようです。
※アシュラマンをキン肉万太郎と同じ時代から来ていると勘違いしています。
※スタンスは次のかたにお任せします。仲間集めはあくまで生存率アップのためです。


【キン肉万太郎@キン肉マンシリーズ】
【状態】健康
【持ち物】ディパック(支給品一式入り) 、不明支給品1~3
【思考】
1.火事の現場(H-8)に向かい、逃げ遅れた人がいるようなら救助する。
2.頼りになる仲間をスカウトしたい。
父上(キン肉マン)にはそんなに期待していない。 会いたいけど。
【備考】
※超人オリンピック決勝直前の時代からの参戦です。
※アシュラマンを自分と同じ時代から来ていると勘違いしています。
※悪魔将軍の話題はまだしていません。ぼんやりと覚えています。



「『ksk書店 感謝祭実施中』…ね」

モールの西の入り口のすぐ近くに、その建物はあった。
看板を眺めた後、夏子がみくるのほうを見る。
夏子ではパソコンがありそうな店というのが判断が付かないのでみくるの意見を聞きたいのだろう。

「本屋…パソコンがあるかもしれませんね」

みくるは銃を構えながらガラス戸を足で押し開け、書店へと踏み込んだ。
カラカラカラン♪と軽快な鈴の音が響く。
店内には人影は無かった。
施設らしい施設はここが初めてだったので店員がいるかもしれない――などと
考えなかったわけではないが、まぁ誰もいないのは予想通りだ。
棚に並ぶ本には目もくれず、みくるは店の奥にあるレジへと向かう。
そして、レジの少し奥にそれはあった。

「―――ありました、パソコンです!」

続いて店内へと入った夏子とシンジがその声を聞きすぐにレジへ走ってきた。

「情報は手に入りそう?」

「立ち上げてみないことには…ちょっと待ってください」

みくるのしなやかな指がパソコンのボタンを押した。
同時に、ヴィン…と小さく音が鳴り画面に光がともった。
みくるがパソコンの前の椅子に座る。
立ち上がるまでのしばらくの間、夏子は物珍しそうに、
シンジはみくるを見下ろすようにしてみくるの側に立っていた。

しばらくしてデスクトップが画面に映る。
デスクトップの背景は青いもふもふした生物とそれより一回り小さい白いもふもふした生物が
てくてくと歩いている画像で、アイコンは『Ksknet Explorer』のみだった。

『Ksknet Explorer』をダブルクリック。
すぐさま"接続中"状態になりホームページに切り替わった。

「何かブックマークはあるかな…?」

みくるは『お気に入り』をクリックするが
登録されているページは先程のホームページのみ。検索用のツールバーも存在しない。
直接知っている検索ページのアドレスを打ち込んだが繋がらなかった。

「予想はしていましたが…イントラネットのようですね」

「イントラネット?」

「はい、イントラネットとは特定の―――」

「私にも分かるように掻い摘んで説明してもらえると助かります」

「えっと…ごめんなさい。つまりは島の外には繋がっていないので
 主催者側が用意したページ、コンテンツしか使用できないということです」

「それで、その主催者側が用意したページというのが…」

お気に入りに登録されている唯一のページ――先程のホームページに再びアクセスする。

「この、"kskバトルロワイアル"というやけに凝ったところ、というわけですね」

夏子がフンと鼻を鳴らし"kskバトルロワイアルにようこそ!"と表示されている画面を注視した。
シンジも忌々しげに画面に目を遣る。

「では、入りますよ」

そのページに表示されている"ENTER"をクリック。
すぐさま画面が切り替わった。

「用意されているコンテンツは…"掲示板"、"チャットルーム"に…
 ……何かしら、このコンテンツは?」

ネット上ではよくあるコンテンツの中に、一つだけ異色のコンテンツが混じっていた。
『ksk』
はっきり言って意味不明である。罠かもしれない。
クリックするかどうかを悩みみくるは夏子のほうを見たが
"あなたに任せるわ"という顔だった。
シンジのほうも見たが、なぜか目を逸らされてしまった。

(…ここまで来たんだもの、入るしかないわね)

カチリ、とクリック。やけに喉が渇いていることに気付いた。
すぐに別のページが表示される。

"現在地:ショッピングモールと判断。キーワードを入力してください"

「キーワード…!?」

みくるが声を上げた。そんなものは聞いてない。

「川口さん、シンジ君。何か…思い当たるものは…?」

後ろに立っている二人を見るが、二人とも首を横に振った。
ため息をつきながら試しに"ksk"と入力してみる。

"キーワードが正しくありません"

それはそうでしょうね…と苦笑しながら他のキーワードを考えるが
それらしいアテはない。
どうしようかと途方に暮れそうになったとき、夏子があるものに気付いた。

「画面の下のほうに、小さく何か書いてある」

言われて気付いたが、背景と同系色で小さな文字が書いてあった。

"ヒント:西暦2000年に南極で起きた未曾有の大事件"

「2000年の…南極での大事件…?」

未曾有という形容までついているということは歴史に残るほどの大事件だったのだろうが、
みくるはそんな事件に覚えはない。

「……みなみきょくって…?」

夏子に関してはこんな様子である。
最初の情報交換のときに文明機器の発達していない異世界の人間であることは理解していたし
自分自身が未来人というSFな存在なので
みくるの中での常識が通じないことに関して突っ込みを入れる気にはならなかった。
おそらく分からないだろうなと思いながらもシンジに尋ねようとしたとき、

「………セカンドインパクト」

ほとんど口を開かなかったシンジが、書店に入ってから初めて自ら口を開いた。

「『セカンドインパクト』…?」

「はい。入力してみてください」

みくるは初めて聞くシンジの主張に少し驚きつつも、両手でキーボードを叩き始めた。

「セカンド…インパク…ト、と」

タン、とENTERキーを押す。
少しだけ画面が固まり、そのすぐ後に画面が切り替わった。
みくると夏子がおお、と歓声を上げる。

「入れた…シンジ君、凄いわ!」

「…二人とも、セカンドインパクトを知らないんですか?」

特に喜ぶ様子もなく、シンジが尋ねた。

「私の常識、夏子さんの常識、シンジ君の常識…全て異なる点があるみたいですね。
 いきなり言われてもよく分からないとは思いますが、おそらく私達は
 違う世界、あるいは違う時間軸の世界の出身なのではないかと思います」

みくるの言葉に夏子がわずかに顔をしかめ、シンジがよく分からないといった顔をした。

「それは、どういうことなの?」

「言葉通りの意味です。この島に集められた人々はそれぞれいくらかの別世界の出身で
 それぞれの世界ごとに常識などが違う。嘘みたいな話かもしれませんが多分正解です。
 そして、それを利用したのがこの"ksk"というコンテンツなのだと思います」

更新をカチリとクリック。
すぐさま画面が切り替わる。

"現在地:ショッピングモールと判断。キーワードを入力してください"

当然のように先程と同じ文字が画面に表示された。
一つだけ違うところは、小さく表示された"ヒント"の箇所。

「シンジ君。"使徒を殲滅するための組織"…分かりますか?」

「…ネルフ。綴りはNERV」

カタタタ、タン。
これまた先程と同様に、少しだけ画面が固まった後すぐに画面が切り替わった。

「つまり、このkskというコンテンツは…このショッピングモール内のパソコンからは
 シンジ君の世界のことを知っている参加者がいないと見ることができない。
 ランダムでシンジ君の世界にまつわるキーワードが必要となるみたいです。
 きっと、他の施設にも同様にパソコンがあって
 私の世界、あるいは夏子さんの世界、もしくはこの私達の知らない別の世界のことを
 知っていないとksk内には入ることは出来ない仕組みなんだと思います。
 そしてキーワードを入力できた参加者にのみ、有用な情報が与えられる」

「その有用な情報…ショッピングモール内のパソコンから得られるものは…」

みくるも夏子もシンジも、画面を注視した。
支給されている地図と同様の画像の上に、青い点が数十個…おそらく48個表示されている。
地図の右下には『1日目/3:00まで補完』と書いてあった。
その画像の右上にはこう記してある。

「『MAP&首輪の位置』……ということね」

「ええ。今の時刻が五時四分ですから、おそらく三時間ごとに更新されているのでしょう。
 どの青い点が誰かまでは教えてはくれないみたいですが…
 集団で行動している人間がどれくらいいるのか、更新直後なら近くに参加者がいるのかどうかも
 確認することが出来るみたいです。
 他の施設でも同様の、あるいは違う有用なシステムが用意されているのでしょう」

「違うシステム…たとえば『参加者のプロフィール』…あたり、か」

「本当に用意されているかどうかはわかりませんが可能性はあると思います」

上出来だ、とみくるは思った。
早い段階でパソコンを見つけただけでなく、長門と接触を図る前に思わぬ拾い物まであった。
『MAP&首輪の位置』を見る限り開始三時間ということもあるのだろうが
全ての参加者が単独ないし二人、三人で行動している。
そして、おそらく開始三時間の間に北に向かった人が多いのだろう、南には人は少ない。
島の中心だが高地なため体力浪費を考えみくる達のように避ける人もいるかもしれないと踏んでいた
神社付近にも意外に人がいる。

ざっと見ただけでも有益な情報はごろごろと転がっていた。
予想通り三時間で更新されるのなら六時の更新で得られる情報と照らし合わせて
参加者の動向をある程度なら推測することも可能だろう。

「でも、残念ながら主催者の情報はなさそうね」

「そのようですね…だけど、他の施設のパソコンから接続すれば
 そういった情報が隠されている可能性、もしかすれば直接主催者とコンタクトを取れる
 可能性すらあります。
 私はそれを求めて他にもパソコンがありそうな…北に行こうと思います」

みくるの発言を受け、シンジがわずかに身じろぎした。

「すぐ北に参加者がいたようね。まだいるかどうかは分からないし危険もありそうだけど…
 目的もなく歩き回るよりはいいわ。私も行きます」

「助かります」

男ならドキリとするような、少し大人びた笑顔でみくるは夏子に返した。
その笑顔のまま、シンジのほうに目を向ける。

「シンジ君も行ってくれるかな?」

「………はい」

しかし、そんな笑顔を向けられても今のシンジの胸は高鳴ることはなかった。


みくると夏子が話し合った結果、六時まで待ってここで各参加者の動向を推測することにした。
青い点の動きを見ればどの点がどう動いたかどれくらいまで判断できるかは不明だが
どこにどの程度の規模の集団ができているのかある程度は判断することが出来る。
それを踏まえた上で出発したほうがいいだろうという結論に達したのだ。

三人とも首輪の三時時点での位置をメモした後、各々に行動し始めた。
夏子は有用な本がないか店内を散策している。
みくるは誰かからの接触がないかチャットルームに接続したまま
パソコン内に他のデータがないか検索している。。
シンジは表向きは夏子のように使える本を探してレジの近くの本棚の本を取っていたが
眺め読みをしているだけ。
頭に渦巻くのはみくるへの疑念だった。

やはり、今回もまんまとみくるの意見が通り北に向かうことになった。
北の市街地にたくさんの人がいる。
だけど、夏子の言う通りその中には危険人物も混じっているだろう。
あの雨蜘蛛のように人を殺すことを躊躇しないどころか
進んで殺しまわる人物がきっといる。あの女はそっちへと誘導しているのだ。
誰かがそんな人達に殺されるのは嫌だ。
でも、自分が殺されるのはもっともっと嫌だ。
そんな存在がいると分かっている場所になんて行きたくない。
そう思っている自分を自覚し、それもまた嫌になる。

思考を停止させるためにたまたま本棚に収まっているのが目に入った
『k君とs君のkみそテクニック』という本を手に取り、目を落とす。

中学生の青春の話のようだ。
とある中学校に転校してきた少年k君とその中学に通う内気な少年s君との物語。
少し読んだところで気付いた。
この話の主人公二人が、どことなくカヲル君と自分に似ていることを。

わずか数日だったがカヲル君は本当にいい人だった。
そんなカヲル君をあの主催者達は殺した。
死体も残らない、LCLに溶かすという方法を用いて。
そんな残酷なことをしておいて、あの男はこう言ったのだ。

『立場を理解させるには良いパフォーマンスだ』

カヲル君はあんな大人のせいでパフォーマンスとして殺された。
そんな軽いものなのか、カヲル君の命は。

そしてパソコンの前に座る女、朝比奈みくる。
そんな最悪な鬼畜の仲間なのでないか、そんな疑念がふつふつと湧いて出る。
エサをちらつかせておいて罠にはめる――情報をちらつかせておいて北へ向かわせる。
彼女の行動はそのようにしか見えない。
本をポケットに入れ、みくるのすぐ背後にまで歩いていってパソコンを見る。
プログラムファイルを調べているようだ。
小さくチャットルームのウィンドウも開かれていた。

「…みくるさん。チャットルームには何か反応がありましたか?」

「いえ、ありません。他の参加者、あるいは主催者からの接触があるかと
 期待しているんですが…ここを出るまでは接続したままにします」

みくるの"主催者からの接触"という言葉を聞きシンジの顔が険しくなる。
やがて意を決したようにシンジがみくるに尋ねた。

「…主催者が接触してくるかもと考えた理由はあるんですか?」

「ええっと、今はまだ………禁則事項です」

人差し指を口に当て、ウインク。
その仕草は様になっていて、彼女の美貌と相まってキラキラと背景が輝いているように見えた。
だけど、綺麗だ――そんなことは微塵も思わなかった。
ただただおぞましく、怖かった。

やはり、怪しい。
普通の参加者は『殺し合いの主催者がチャットで参加者に接触する』なんて
発想はしないはずだ。しかも、何か隠している。
やっぱりこの女は主催者の仲間だ。あのカヲル君を殺した主催者の仲間なんだ。
僕達を殺し合いの激戦区に放り込もうとしているんだ。

夏子さんに言うか?今なら朝比奈みくるに気取られることなく告げ口することは可能だ。
だけど、大人である夏子さんが自分の意見に賛同するだろうか?
『カンガえスぎよ』
『それはコドモのハッソウ』
『くだらないことでナカマをウタガうな』
鬼のような形相で自分をにらみつける夏子が目の前に浮かんで、
その戒めの言葉が耳に低く響く。やがてその幻影はぐにゃりと歪みながら消えた。

夏子さんに、大人に頼っちゃいけない。
ここで僕はやらないとこの女によって死に追いやられる人がきっと出る。
逃げちゃダメだ。

"殺されるのがオチだから危ない人を見つけても手出しはしないこと"

今僕がしないで誰がやる。これ以上人が傷つくのは嫌だ。
逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ。

"残念だけど、私は反対よ"

それは夏子さんが『大人』だからだ。保身に走っているからだ。
逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ。

"『自分が死んでもいいなら私は止めないわよ』って"

そんなのいいわけはない。でも殺らないとこっちが殺られる。
逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ。

"思い上がらないで"

「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃ」

「どうしたの、シンジく―――」

気が付くと、夏子に渡されたナイフを思いっきり振りかぶっている自分がいた。


「きゃあっ!?」

なぜいきなり襲われたのかはみくるには分からない。
幸運にもびっくりして椅子から転げ落ちたことで
初撃はみくるの髪の毛をわずかに切り裂いただけだった。

「ダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだあああぁぁっ!!」

だが次の攻撃はそうもいかなかった。
元々戦闘などとは無縁のみくるだ。おまけに避けれるほど体勢は整ってない。
少年の咆哮と共にナイフが振り下ろされた。
反射的に身体をひねり、どうにかみくるは左肩を切り裂かれただけで済んだ。

「っ…!!」

深くもないが浅くもない、だが致命傷には程遠い怪我。
それでも痛みに耐性のないみくるには痛すぎるぐらいだった。
このままじゃ殺される、そう確信した。
すぐそばに置いていた銃に手を伸ばし、体勢が悪いせいか異様に重く感じながらも
銃口をシンジに向ける。
振り下ろされるナイフと自分の動きがスローモーションで見えた。
ひどく緩慢な動作に感じながらカチリと安全装置をはずす。

(まずは威嚇射撃を――)

「うわああああぁぁぁぁあああっ!!!」

刃先はすぐ側まで来ている。
威嚇している時間どころか照準をどうこうする時間もなかった。
引き金をすぐに引かないともうどうにもならない。

狭い店内に発砲音が響く。

「うっ…」

銃弾は既に怪我しているシンジの左肘をえぐり天井に穴を開けた。
シンジは肘を押さえ痛みにうずくまる。
みくるには銃の想像以上の反動で肩に鈍い痛みが走った。
建材と埃がパラパラと二人の頭上へと降り注ぐ。

「何があったの!!?」

物音と銃声を聞きつけ、夏子が慌ててみくる達の方へと駆けてきた。
それに気付いたシンジが苦痛に顔をしかめながらみくるを睨みつけ
一瞬の逡巡の後、何かを足元へと放り投げる。
たちどころにレジを中心として店内を黄色い煙が満たした。

「シンジ君、どうしたの!?待って―――」

わけがわからずみくるはシンジへと右手を伸ばした。
返ってきたのは乾いた音と鋭い痛み。
差し出した右手を思い切りはたかれたようだ。
肩の傷に比べれば大した痛みではなかったがみくるは心を切り裂かれたような想いだった。
足音で彼が店の入り口へと走っていることが分かる。

「待ちなさい、シンジ君!!」

夏子の声が煙の向こうから聞こえたがシンジの声は聞こえない。
代わりに答えたのは店のガラス戸に付けられた鈴の音だった。


開け放たれた戸から煙がどんどん逃げていく。
段々と薄まっていく煙をかき分け夏子が床にへたり込んでいるみくるのもとへとやってきた。

「朝比奈さん、何があった――怪我してるじゃない!?」

「大丈夫、です」

傷の痛みからか、それとも煙が目に染みたのか目尻に涙を溜めながらみくるが言った。
気丈なセリフとは裏腹に態度は少ししおらしい。

「何があったの?」

「分かりません…いきなりナイフで切り付けられました。
 私の撃った銃弾は彼の左肘をかすめたみたいです」

「シンジ君も怪我してるのね…」

「川口さん、あなたはシンジ君を追ってください。
 今のまま彼を放っておくのは危険です。……彼にとっても」

夏子はみくるの顔を見た。
痛い思いをしたことはあまりないのだろう。
苦痛で顔が歪みそうなのを抑えようとしているが抑え切れていない。
それだけ痛い傷をつけられたのにシンジを本当に心配している。

理知的で頭が回りある程度の狡猾さも備えているが、良心も持ち合わせている。
やはり、行動を共にするには申し分ない。
灌太のような人間よりは太湖や彼女程度の良心がある人間のほうがよっぽど信用できる。
ただ同行するからには彼女は私の、私は彼女の足りないところを補うべきだ。
彼女は夏子の足りない機械分野への知識を見事に補ってみせた。
では夏子は何を補ってみせればいい?
戦闘面や傷の応急処置、そして。

「……シンジ君は追いません。朝比奈さんの応急処置をして、
 予定通り六時までここで過ごします」

非情さ。みくるのような付け焼き刃ではなく、本当の意味での。
補うべきはそこだ。

「川口さん!?」

「仲間に襲い掛かるような人を近くにおいては置けません」

指揮官経験者として、恨まれてでも最善の策を講じよう。

「ナイフと煙玉を持って行かれ、彼がいなくなったことで次の更新の首輪の現在地を
 見れなくなったのは痛いですがシンジ君がどの方向に向かったか分からない以上、
 下手に追うこと自体が下策です。
 六時までここに留まるのは休憩の意味も兼ねています。
 休めるときに休みましょう」

「でも、それだと…」

「私は意見を翻すつもりはありません」

ぴしゃりとみくるの言葉を遮り、夏子は言い放った。
服の裾をビリビリと破き、支給品の水で洗ったみくるの左肩へと巻きつけ応急処置を施す。
赤く染まった箇所が広がるブラウスが痛々しかった。

煙がようやく晴れてきた。
パソコンの画面はいつのまにか真っ暗になっている。
戦闘もしくは煙玉の影響で壊れてしまったのだろう。
ショッピングモール内の他の建物にもパソコンがある可能性はあるが
先程みくるに言ったようにシンジがいない以上"ksk"にアクセスすることは叶わない。

「朝比奈さんは休んでいてください。
 私はもう少し、使える本がないか探してみます」

みくるの左肩に巻いた布を結び終え、夏子は言った。
立ち上がり、まだ調べていない本棚へと向かう。
後ろ髪を引かれる思いだった。

彼は善良な人間だった。それは多分、間違いない。
だがこの数時間彼とまともなコミュニケーションを取っていなかった。
まさか渡したナイフがこんな形での起爆剤になってしまうとは。
多感な年頃で、内に内にと溜め込むタイプの彼が何を考え感情を爆発されたのかは分からない。

できる限りシンジの力になってあげたいと思った。
理想を口にしても、それを実行する力がなければ自分も他者も無駄に傷を負うだけだということを
きちんと伝えようとも思っていたが、
朝比奈みくるとの出会いでそれもうやむやにしてしまったままだ。
今になって考えてみれば、みくると会ってからシンジをないがしろにしていたかもしれない。

ひっくり返した水は盆には戻らない。
おそらくもうシンジと生きて会うこともないだろう。

力がないのにそんなことば両者痛い思いをするのは分かっていた。
それを、彼に教えようと思っていたのに。

(今の私は、純粋な彼に力を貸してあげるだけの余力すらなかった)

彼一人ぐらいのフォローはできると思っていた。
だけど、それは思い上がりだった。うぬぼれていたのは自分だった。
彼の内面に注意を払うだけの心の力が足りなかったばかりに
シンジを死地へ追いやり、みくるをも傷つけた。無駄に傷を負わせたのだ。

(力が足りない…力が欲しい。身体も、心も)

【F-10 ショッピングモールの書店/一日目・明け方】

【川口夏子@砂ぼうず 】
【状態】健康
【持ち物】デイパック、基本セット(水を少量消費)
【思考】
0.何をしてでも生き残る。終盤までは徒党を組みたい。
1.朝比奈みくると行動し、北の市街地(のパソコン)を目指す。
2.シンジとみくるに対して申し訳ない気持ち。
3.力が欲しい。
4.水野灌太と会ったら――――

【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】左肩に切り傷(応急処置済み)
【持ち物】 スタームルガー レッドホーク(5/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発、不明支給品1(本人と夏子が確認済み)
    デイパック、基本セット
【思考】
0.長門有希の真意を確かめる
1.シンジが心配。
2.川口夏子とともに北の市街地(パソコン)を目指す。
3.市街地についたらパソコンのある施設を探し、情報を探索。可能なら長門との交信を試みる。
4.SOS団メンバー、キョンの妹と合流したいが、朝倉涼子は警戒。
5.この殺し合いの枠組みを解明する。
※信頼を得られたら、長門との関係について夏子たちに話すつもりです。
※各施設においてあるであろうパソコンから"ksk"コンテンツを通して
 有益な情報が得られると推測しています。

【備考】
夏子もみくるもシンジも一日目午前三時の時点で首輪がどこにあったのかメモしています。。




「はぁっ、はぁっ……」

息が苦しい。左肘がひどく痛む。動かすたびに痛みが走る。
動くということは骨も神経も無事なのだろうし、
動脈も破れていないようだったが浅い傷とは言い難かった。
店が立ち並ぶモール内の道の中央で、シンジはどこか冷静になりながら膝に右手をつき喘いでいた。

逃げちゃダメだ、そう言い聞かせていたのに夏子が駆けつけるのを見ると
勝てない、自分が殺される、怖い――そう思い反射的に逃げてしまった。
朝比奈みくるを倒せなかった。
できたことといえば、結局は奇襲による一撃だけ。

自分が走ってきた方向を見る。
人の気配はなかった。
もしかしたら、夏子が心配して追いかけて来てくれるかもしれない―――
そんな期待を心のどこかで持っていた。
馬鹿らしいと思った。
どうしようもなく馬鹿だとも思った。
大人は身勝手なんだ。夏子にしたってそうだ、
誰が傷つこうと自分が無事なら知ったことはない、
彼女はそう主張していたのだから追いかけてくるはずなんてなかった。
夏子は自分が危険人物であると認識しているだろう、真に危険なのは朝比奈みくるだというのに。

憂鬱だった。とても憂鬱だった。
生気ない目で周囲の店を見渡す。電気機器の店があった。

フラフラと入ってみる。無駄に蛍光灯がぶら下がった店内の奥にパソコンがあった。
スイッチを入れて立ち上げる。
ファンの音が小さく鳴り出ししばらく経過する。
起動完了。デスクトップが表示された。
背景は青いもふもふした生物とそれより一回り小さい白いもふもふした生物が
じゃれあっている画像で、アイコンはやはり『Ksknet Explorer』のみだった。

ネットに接続。"kskバトルロワイアル"というページが表示される。
ENTERをカチリとクリック。
"ksk"コンテンツなどと一緒にチャットルームや掲示板のコンテンツも表示される。

(掲示板………)

クリックして掲示板を開いてみる。書き込みは相変わらずないままだ。
少し躊躇した後、シンジはキーボードを叩き始めた。

カチリ、と送信ボタンを押す。
二秒ほどのラグの後、シンジの書き込みが反映された。
名前の書き込みはしなかったので名前欄には"名無しさん@kskいっぱい"と表示されている。

「……最低だ、俺って」

自分の書き込みを見て、ふと呟いた。
姑息な上に他力本願。男らしさのかけらもない。
でも、戦ったんだ。自分にできることはやった、やったんだ――彼はそう言い聞かせた。

"朝比奈みくるは主催者の仲間です。あの女を殺してください"

画面に浮かぶ文字列が、少年を更に沈ませていく。


【F-10 ショッピングモールの電気機器店/一日目・明け方】

【碇シンジ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】左肘に銃創、疑心暗鬼、憂鬱
【持ち物】コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄消費、残り五個)
     小説『k君とs君のkみそテクニック』
【思考】
0.死にたくない。
1.朝比奈みくるに対し強い嫌悪感・敵対心、夏子を含む「大人」全般への疑心。
2.アスカと合流したい。
3.優勝したらカヲル君が――――?

【備考】
ショッピングモールのパソコンから"ksk"に接続するとエヴァ世界のキーワードが尋ねられるようです。
モールのkskコンテンツから得られる情報は『MAP&首輪の位置』。
更新は零時、三時、六時と三の倍数の時間数毎にその瞬間の首輪の位置を表示するようです。
表示される画像は投下スレ>>2の地図と比べて参加者の位置が違う・番号表示・名前表示がない・
右下には更新時間のみ表示されている、以外はほぼ同じです。


時系列順で読む


投下順で読む


万太郎 Go Fight! ハム 守りたい者がいる
キン肉万太郎
静止した闇の中で 碇シンジ 片道きゃっちぼーる
川口夏子
朝比奈みくる






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