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模倣より生まれ来る創造 ◆2XEqsKa.CM



歩を進めるは繁華街。
滔々と白んでいく空を見上げ、アスカは歩みを止めた。
同時に、腕時計を掲げて目線を落とす。
時刻は5:58分。

「結局、あいつ等とは合流できなかったわね。……別に、積極的に探してたわけでもないけど」

一人ごち、手ごろなベンチを見つけて座り込む。
一人で二つ持っていたディバッグのうち一つを脇に、一つを足元に潜らせて。
周囲に人の気配はない。
視線を走らせる途中、抜きん出て高い建物が目に止まった。

『HOTEL KSK』

その頂点に電燈の付いていない看板を掲げるあれは、地図に書かれた「ホテル」であろう。
アスカは一人で納得すると、軽く目を閉じて深呼吸する。

(大丈夫……加持さんは生きてる、生きてるはず)

慕う男の顔を思い浮かべ、祈るように唇を噛み締める。
先程はぐれた行き掛かりの者達や、碇シンジの事も多少は気になったが、
彼女が最もこれから始まる放送で名を呼ばれないことを願ったのは、加持リョウジであった。
キッ、と目を開けたとき、アスカの耳にどこからか、聞き覚えのある不快な声が聞こえてくる。


『あー、あー、マイクテスト、マイクテスト』

「……」

もったいぶって、男――草壁タツオは話し始めた。



『さて、それじゃあ禁止エリアの発表と行こう。 いいかい、一度しか言わないからよぉく聞いておくんだよ?
 午前7:00から F-02 午前9:00から E-10 午前11:00から E-03。ふふ、ちゃんと聞きとれたかな?
 聞き取れなかった悪い子は、頑張って人に聞いて回らなくちゃだねぇ、ふふふふ』


「禁止エリアは、 午前7:00から F-02、午前9:00から E-10、午前11:00から E-03……」


草壁の言葉を復唱しながら、アスカは地図に書き込みを加える。
呼ばれたエリア1マスを丸々バッテンで区切り、各々に時刻を淡々と書き込む。
書き込んで再確認してみても、やはり自分からはかなり遠い位置だ。
アスカはこの市街部からあまり離れるつもりも今のところはなかったし、好都合ともいえた。

『そしてもう一つ、お待ちかねの死者発表だよ』





「! ……来たわね」

身構える。
きっと息継ぎをする程度の一瞬の、しかし耐え難い空白の時間。
草壁の声が走る。

『  涼宮ハルヒ
  モッチー
  フェイト・T・ハラオウン
  日向冬樹
  ゼルガディス=グレイワーズ  』

「ッッ! 」

『 いやー、それにしてもなんだか思ったより死んでいかないねぇ。
  六時間もあったのにたったの五人、一時間一人以下じゃないか、ねぇ? 』


行きずりとはいえ、ついさっきまで行動を共にしていた者たちは、既にこの世の者ではない。
無論、アスカはこのような事態を想像していないわけではなかった。
だが実際に聞かされると、やはり眉を顰め、恐怖と嫌悪感で口を噤まずにはいられなくて。


『 あ、そうそう。君達にいいことを教えてあげよう。
  さっき死んだ五人の中にはねぇ――――長い付き合いの、仲良しの友達に殺された人もいるんだよ。
  いやいや、実に立派。
  殺し合いだもの、情も思い出も切り捨てる、かっこいいねぇ。
  死ぬのが怖いそこの君、そういうときは「やられる前にやれ」、だよ。
  殺される前に殺してしまえば、君は生き残れるんだ。
  だからね、君が今一緒にいるお友達。
  その子がいきなり後ろからナイフで刺してきても驚かないように、心の準備をしておくといいよ』

「……見え透いた煽動。ま、効果的ではありそうだけど。バカシンジとかには特に、ね」


ぽつりと呟き、アスカは名前を呼ばれた者たちに思いを馳せた。




涼宮ハルヒ。
鬱陶しい、女だった。
どうせ自分に突っかかってきた時と同じように、迂闊に危険人物に接触して殺されたんだろう。
あの長門って女の事を知っていた人間――ヴィヴィオを助けろと自分を脅したあの女と同じ――を失ったのは、残念だ。
まだ碌に情報も引き出せていなかったし、あの禁則事項女に再び遭遇できる可能性は極めて低い。
と、なると。
涼宮が言っていた知り合い――朝倉、朝比奈、キョン、キョンの妹、古泉の誰かに運よく出会える事を祈るしかない。
名前の感じからすると、あの禁則事項女は、おそらく朝倉か朝比奈だろう。
涼宮はその二人について「同級生」などと言っていたのが、どうも腑に落ちないが。
日本の高校生は発育がいいのか?

モッチー。
そういえば、不思議な生き物だったな――などと、今更ながらに考える。
結局アイツは、なんだったのだろうか。
奴自身は特に危険ではなかったからいいが、この島にはあんなのがゴロゴロしていると考えたらそれだけで気が滅入る。
先程いきなり襲ってきた化け物の事から考えても、その可能性はないとは言えないだろう。

フェイト。
ヴィヴィオのもう一人の母親。
そうか。あのおどおどした子供は、早くも母親を失ったんだな、と。
単純に、その事実だけを心の中で呟く。
深く考えれば、自分の身空と重ねてしまいそうだから。
あの少女はどうしているだろう。
仲間も親も失い、(恐らくは)一人ぼっちで。
今頃、どこかで泣いているのだろうか?
それとも、まだ我慢しているのだろうか?
……どうでもいい。
もう、自分が関与することではない。

日向冬樹。
ゼルガディス=グレイワーズ。
名前も知らない、どこかの誰か。
間抜けな奴等だ、と笑う。
どんな死に方をしたのかは知らないが、こいつらはこの状況に適応できなかった、それだけは確かだ。
.......
自分は違う。

日常から隔絶され、『要らない子』として、ゲームの駒として遣い捨てられた、哀れな家畜なのだ。
.......
自分は違う。

いや、本当に違うのか?

そこまで考えて、アスカは、アスカの精神負荷は、ついに限界を超えた。

「……何なのよ。何なのよッ、これはッ! 」

爆発する。抑えていた感情が、堰を切って溢れ出す。
それでもアスカは自分の体を強く、強く抱き絞め、必死で震えを隠そうとする。

「なんであたしが、こんなことに、巻き込まれなきゃっ……」

うっすらと涙を浮かべ、頭を落として怯える。
その姿は、歳相応の……あるいはそれ以下の、子供の姿だった。
誰も周りにいないとはいえ、このような無様を晒すことで、アスカのプライドは益々傷ついていく。
だが、どうしようもなかった。

(バカシンジみたいに、現実逃避できれば楽なんだろうけど……そんな事したら、死んじゃうじゃないッ! )



アスカは死に怯えていた。
使徒と戦うことには何の恐怖も感じていなかった。
何故なら、使徒と戦って勝つのは使命であり存在意義であり、そして何より誇りだったから。
その過程で命が危機に瀕しても、問題なく受け入れることが出来る。
そんな精神を、アスカは護身のように熟成させていたのだ。
だが、今の状況はそれからあまりに逸脱している。
何故だ?
何故、自分が。
何故自分のような人類にとって重要な人間がこんな、意味があるとは思えない死のサバイバルに興じなければならない?
自分はEVAに……。


「あ――」

思い至る、最悪の可能性。
自分は――EVAに、乗れなくなって。
それで、ネルフに。
ネルフに、捨てられ――。

「違う……」

アスカが恐慌状態で、頭を振る。
何かに憑り付かれたようなその姿は、酷く脆い天使のようで。

「違う違う……違う! 違う、違う、違う、違う、違う違う違う違う違う違うッ! 」

クライ
叫ぶ。

.クライクライ
泣き叫ぶ。
         クライ・クライ・クライ
視界を覆うは闇、闇、絶望の闇。


「あたしは……まだッ! 」

アスカが立ち上がった。
震える声で気勢を上げ、震える足で大地を蹴り。
走り出す。
脇目も振らずに走り出す。

ベンチの下に置いたディバッグを、その場に忘れて。








ぽちゃん、と。

バスルームから水滴が落ちる音を聞いて、俺は目を開けた。
この民家に逃げ延びてからどれほどの時間が経っただろうか。
壁に掛けられた大時計を見れば、既に時刻は5:58分。
確か、放送は……6時からだったな。                                 ゾアノイド
立ち上がり、どこから放送が聞こえてきてもいいように偵察・斥候用の五感が優れた鳥型の獣化兵に変態する。
キィィィィン、と普段聞こえてこない音が耳を鳴らした。
周囲の音域が一気に跳ね上がったような聴覚を制御するのに苦戦しつつ、放送を待つ。
これでも実物のせいぜい百分の一かそこらの感覚だろう。
出来損ないの自分の変態では空を飛ぶ能力も再現出来ず、せいぜい心持ち程度の感覚強化に過ぎない。
自身の調整が成功さえしていれば、クロノスが幾星霜貯蓄した獣化兵全てのデータを生かせたはずだった。
このゲームで生き延びられる可能性も、飛躍的に伸びただろう。
   ロスト
この損種の身は、俺の自尊心だけでなく、未来をも縛る枷なのだ。

「……そういえば、この首輪」

首に手を遣ると、そこには変わらず自分を束縛する首輪がある。
それはピッタリと自分の首に填まり、微塵のズレも感じさせない。
変態でかなり体型が変わっているにも関わらず、何の違和感もない。
それが、逆におかしいと感じた。撫で回してみるが、材質は少なくともゴムの類ではない。
金属のような質感と硬度を持つ、真っ当な首輪だ。
考えてみれば先程あの怪人と戦った時も、特に問題なく戦闘を行えた。
首をきっかり締め付ける輪っかを付けて激しく動き回れば、呼吸困難に陥るのではないか?

「まさかとは思うが……この首輪、ガイバーのコントロールユニットのように……? 」

脳裏をよぎる超兵器・ガイバー。
あの兵器のように、この首輪は人間の体と有機的に融合し、事故等で外れないようになっているのではないか?
無理をして外せば、主催者側からの粛清を抑えても致命的なダメージを負う可能性もある。
そうだとすれば、反逆者を首輪を介して生命のスープとやらに変えられる理由も大方想像がつく。
ただの機械ではなく、生物と融合して内部から遺伝子やらなんやらを弄っているのだろう。
奇怪な現象で参加者を脅かし、万が一主催者側が粛清の操作を行えない状態に追いやられた時の保険にもなり、
不慮の事故であっけなく外れる恐れもなくなる。なるほど、一石三鳥のシステムではないか。
事実、この首輪が有機的に俺の身体に融合しているとすれば、打つ手はない。
あのガイバーに取り込まれた深町晶が逃れられないように。
この首輪はガイバー・ユニットと同じく、取り外す方法などないのだ。
そういった科学事に詳しい者に運よく出会えれば、話は別だが。

「杞憂ならいいんだがな……む。始まったか」

突如、脳内に入り込んでくるように草壁の言葉が響く。
俺はメモの用意をして、重要な情報を得る準備をする。







『  ―――だからね、君が今一緒にいるお友達。
  その子がいきなり後ろからナイフで刺してきても驚かないように、心の準備をしておくといいよ』

数分後、草壁の演説は終わる。
書き取った情報を頭の中で反復させる。

「なんだ……案外少ないな」

死者は五名。
草壁の言うことじゃないが、この状況で6時間も経ったにしては随分と平穏じゃあないか。
どうやら、ゲームに乗っている者はそう多くはないようだ。
あの悪魔のような強者は少ないのかもしれない。

「となれば……ある程度は大胆に動いてもよさそうだな。とりあえず、近場のホテルにでも行って……ん」

強化された聴覚が、この区画に近寄る足音を感知する。
距離はそう遠くなく、この民家の隣する道を直進していた。
特に気配を隠す様子もなく、だ。 誰かに追われているのか?
数十秒後、足音は民家の前を少し過ぎたところで止まる。
激しい息継ぎ。小休止といったところか。
周囲に(俺が探知できる限りでは)人のいる気配はない。
俺はしばし考えてから、肉体を変容させる。
脳が身体情報の急速な変化を促し、灼熱する。


――捻れ――るキン――肉。再構――成サれ――る神――ケイ――系。伸縮――変――形すル――骨カ――ク。


やがてたどり着いたのは、ガイバーを模した姿。

窓から外の小道を覗けば、少女……と言っていいくらいの年頃の茶髪の娘が、息を切らして前傾している。
小脇に銃を抱えている事を除けば、その動作から危険性を感じ取ることは出来なかった。

「M1897か……危険ではあるが、使うのがガキではな」

ただの一般人と変わらんな、と判断し、俺は民家の玄関に向かった。










「はぁっ……はぁっ……うぅ……」

勢いよく息を吐きながら、あたしは嗚咽していた。
銃を杖代わりにして立ち、くらくらする頭を両手に押し付ける。

……無様だ。
取り乱して、怯えて。
こんなの、あたしじゃない。
冷静に、冷静になれ。
なんとしても生き延びて、加持さん達と一緒に帰るんだ。
深呼吸して、頬を両手で挟む勢いで叩く。
ディバッグから水を取り出して、頭から被る。
熱した頭と身体の隅々に、ぬるい水流が走った。
爪先まで伝った水が地面を濡らす。

「……気持ち悪い」

じとっ、とした感覚が身体を覆う。
制服の中までしっとりとした感覚は浸食していく。
不快だ。イラつく。吐き気をもよおす。
だが、頭は冷えた。
この悪感情も生きているという実感をあたしにくれて、モチベーションが維持される。
そうだ……加持さんだってまだ生きてるんだ。
ここから加持さん達と脱け出られれば、きっとネルフに帰れる。
ミサトだって、今頃心配しているだろう。
ネルフスタッフも、きっとファーストだけで使徒の相手をしないといけなくなって困っているはずだ。
何も、怖がることなんてない。

まだ私には……。

「帰れる場所……あるよね……? 」

それでも、不安は影のように心に纏わりついていた。







――その時だった。
がちゃり、と。
何気ない、日常的な音があたしの耳に届いたのは。
ドアノブを回す音。
そして ぎぃぃぃ、とドアが開く音。
それはつまり……!

咄嗟に振り返り、銃を構える。
銃口の先に、民家から出てきたモノが見えた。


まず目に付いたのは、淡い光を浮かべる両眼。
頭部の濁った色の宝石から後部に突き出た触覚は、糸を引くようにあちこちから頭部に細線を伸ばしていた。
口元には内側に収束したような乱杭歯。
生物的な身体のなかで特に目を引くのは、両肘部分から飛び出す刃。
ヒトの形を模っていたが、それはまさしく――。
乱杭歯が、人間の声を発した。

「お前は……」

「死ねぇぇぇぇぇっ!! 」

有無を言わさず、ウィンチェスターの引き金を牽く。
化物と会話をする必要がないと言う事は、先ほどの緑顔との交戦で把握済みだ。
放出された弾筒が拡散して怪物を襲う。
怪物は驚いたように飛び避け、急所を手に付いた刃でガードする。
当然弾の全ては避わしきれず、左肩に風穴が開いた。
あたしは追撃を仕掛けようと、トリガーを引いたまま前床を前後させる。
二発目の銃声。
散弾の連続射撃に怪物は怯んだのか、一歩後ずさる。

(いけるっ! )

怪物の肩を見れば、血のような液体を垂らしていた。
あの緑顔とは違い、そこまで強固な皮膚ではないようだ。
あとはこのまま距離を取ってグレネードでもぶち込んでやれば……!?

懐に入れた特殊弾頭に手を掛けた瞬間、怪物が思わぬ行動を取った。
引いた足に注力し、獣のような敏捷さで自身に迫る散弾の上を飛び越えようとしたのだ。
高く飛び上がり、足に一発喰らいながらも、散弾を回避。
怪物が着地したのは、あたしの目の前だった。





「……! 」

もちろんあたしも馬鹿みたいにそれをぼさっと見ていたわけではない。
懐から慌ててグレネード弾を取り出し、装填。
怪物が目の前に来たと同時に、射撃した。
だが、こちらが引き金を引ききるよりも早く、怪物はウィンチェスターの銃身を握って脇に逸らす。
グレネード弾は狙いを外し、明後日の方向に飛んでいって数十m先の民家の壁に直撃した。
爆風に揺らされるのは、武器を相手に握られたあたしの髪。

「Scheisse! 」

ナイフに手を伸ばして――その逆手を、怪物に取られる。
へし折られそうな力で握り締められ、そのまま捻りあげられて組み伏せられた。
手から離れるウィンチェスター。転がって、やや遠くで静止。
右手であたしの背中を押さえ、左肘の刃をあたしの首に宛がう怪物。
怪物は勝ち誇ったような声で、余裕ぶって話しかけてくる。

「いきなり仕掛けてくるとはな……」

「くっ……」


やられた。
この状況では、もう反撃はできない!
死――その単語が頭をよぎる。
首筋に走る刃が、冷たく光って。
今、引ききられ――――?

「さて……お前の名前を聞こうか」

「……はぁ? 」

攻撃は行われず。
怪物はくぐもった声で、あたしの名前を聞いてきた。
どういうつもりだろう。獲物を殺す前のお遊びだろうか。
そんな事をする隙がある相手なら、上手くすれば逃れられるかもしれない。
あたしは一縷の希望に縋り、答える。
本来なら「そっちが先に名乗れ」くらいの皮肉は飛ばしたいのだが……ここは我慢だ。

「惣流……アスカ・ラングレーよ」

「変な名前だな。……アスカ君、君に聞きたいことがあるのだが」

失礼な事を言ってから、表向き丁寧な口調で語りかけてくる怪物。
しかしあたしを押さえつける力には微塵の緩みもなかった。
コミュニュケーションに必要な自分の名前も名乗らないし、やはりあたしをここで殺すつもりなのだろう。
なんとか……なんとかしなくては。
とりあえずか弱い女の子のような声を出し、相手の油断を誘う。





「聞きたいこと……ってなんですかぁ……」

「このゲームに参加している中で機械に詳しい者や生物科学の権威……みたいな人物を知らないか?
 あ、いや……まずは知り合いの名前を全部教えてもらおう」

「……碇、シンジ、冬月コウゾウ、涼宮ハルヒ……モッチー」

「ほう? 」

怪物が興味深そうな声を上げる。
まさか、コイツが涼宮やモッチーを殺したのだろうか。
十分にありうることだ。
加持さんの事をこんな危険な怪物に教えるわけにはいかないし、
ヴィヴィオへの義理もあってその二人の名前は伏せたのだが、どうやら正解だったようだ。
あたしはナイフを取ろうと懐に突っ込んだ捻られていない方の手を悟られないように動かしながら、相手の出方を待つ。

「後ろの二人は死んで名前を呼ばれた連中だな……君が殺したのか? 」

「まさか。少しすれ違った……それだけよ」

「そうか……で、残りの二人はどうなのだ? どう、というのは機械や生体に詳しいか……ということだが」

「……」


この口ぶりだと、首輪を外そうとしているのだろうか?
バカシンジはもちろん何の役にも立たないだろうし、
副指令にしたって本部で偉そうにしている指令の横でちょっと偉そうにしている、くらいの認識しかない。
まあ、EVAを使って使徒を撃退するネルフの副指令なんてやってるんだし、それなりに博識だとは思うが。
名前を伏せた加持さんはどうだろうか。
なんとなく、機械に強そうなイメージがなくもない。
ヴィヴィオは問題外だ。





「そこまで深い仲ってワケじゃないから詳しくは知らないけど……冬月コウゾウは、少し詳しいかも」

「そうか……ふん! 」

「ッッッ……!? っぎゃぁぁぁああああっ!! 」

怪物が、捻りあげたあたしの右手の指――人差し指を、自分の親指で摘んで回す。
指は何の抵抗もなく一回転――簡単に圧し折れた。
ただ折れただけではなく、骨が飛び出していることを感覚で理解した。
直後、襲い掛かる激痛。
いや、激痛などという言葉では生ぬるい。
生まれて初めての凶悪な感情に、あたしは臆面なく叫びを上げた。
快感だか恐怖だか怒りだか悲しみだか分からない。
そして意志とは関係なく、大粒の涙が流れる。
怪物はせせら笑うように人差し指に掛けた指を中指に回す。

「があぁっ……うぃぃッッ……ひぃっ! 」

「俺が気付かんとでも思ったのか? 懐からゆっくり手を出せ……出さなけれ、ば」

首筋の刃が数mmほど動き、首からうっすらと血が流れる。
同時に怪物の顔があたしの顔に頬擦るように接触し、べとり、と嫌な感触。
そしてあたしは見た。怪物の額の球体から、粘性の液体が放出されるのを。
唾みたいなものだろうか、と地面に垂れる液体を眺めていると、
それは地面に触れたとたんに強酸のように嫌なにおいの煙を上げる。
ジュウウウウウ、と音を立てるそれを怯えながら見るあたしの顔を横目で見て、怪物が顔を離した。

「10数えるまでに手を出さなければ、これをお前の全身に掛けるぞ。キサマにはまだ聞きたいことがある。
 何か隠していることがあるだろう? 全て話すまで生きていたければ……わかるな? 10…9…h」

「う……」






加持さんの存在に気付いたのだろうか。勘のいい化物め。
カウントが8に達する前に、あたしは左手を懐から出した。
ナイフを握った左手を、だ。
怪物はニヤリと笑い……そして、む? と呟く。
ナイフを持ったあたしの手から、小振りな鉄塊が転がり落ちたのだ。
この行動は賭けだ。じっとしていれば、情報を全て引き出された上であたしは殺される。
強酸性の液体の上に転がり、溶けていく鉄塊、それは。


「何の真似――」

ボンッ!

「――だ!? 」


怪物の声を遮り、周囲を白煙が覆う。
賭けに勝った! あたしは疼く右手を物ともせず、動揺した怪物の刃から抜ける。
あたしが落としたのはウィンチェスターの特殊弾。
弾を酸のような物で溶かして何が起こるかは分からなかった。
その上、弾がどの種類――グレネード、煙幕弾、閃光弾、ガス弾――かも不明。
だが、あたしは勝った……逃げ切れる! やはりあたしは出来る子だ!
この煙の感じは、煙幕弾とは違う。おそらくガス弾――主催者の良心を信じるなら、催涙ガス弾だろう。
吸い込まないように、視界に広がる謎の煙に混乱する怪物から離れ、走る。

「ゴホッ! ゴホッ! クソ……」

背後で怪物の憤る声。勢い余って落ちるディバッグ。だが構わず走る。
銃は――無理だ、回収している暇がない。諦める。
怪物はあたしがいなくなったのに気付いたようで、怒号を上げた。

「おのれッ! どこに逃げても、必ず見つけ出して殺してやるぞ! このガイバーⅠ、深町晶様がなぁ! 」

(ガイバー……! )

怪物の名を心に刻み、あたしは振り返らず、必死で走った。







「……」

舐め過ぎていた。
相手が一般人とはいえ、追い詰めれば牙を剥くのは自明。
どうせ情報を聞き出したら殺すつもりだったが、もう少しソフトに接触すべきだったか。
俺はM1897とディバッグを拾ってから、催涙ガスで弱った目が回復するまで数分待って、擬態を解除する。
全裸の、俺本来の姿である。ちなみにガスの残り香を避けるべく、サングラスを掛けている。

「あのガキに俺の事をベラベラ触れ回られると……厄介な事になるかも知れんな」

いきなり銃を撃たれたのは、自分が異形の姿だったからか? それとも、あの小娘がゲームに乗っていたのか。
後者は恐らくないだろう。どんな馬鹿でも、相手の腹に探りを入れるくらいの事はするはずだ。
あの悪魔のような絶対的な力を持ち、小細工が必要ない者以外は。
ともかく、俺の危険性を他の参加者に気付かれてしまっては、首輪を外せる技術を持つ者がもしいた場合に困る。
首輪さえ外れれば殺すのは厭わないが、先に悪感情を持たれては拷問でもして言うことを聞かせるしかなくなる。
そういった技能も趣味も俺にはない。だが、まあ……。

「手は打っておいた。深町には悪いが、そう簡単に死ぬ奴でもあるまい。これをきっかけに精神的に弱ってくれれば、
 復讐もやりやすくなるかもわからん……姑息な手だが、許せよ、ダイム、ソムルム……」

今は亡き親友に一言侘びを入れる。
だが、あいつ等ならわかってくれるはずだ。
俺は黙祷するように目を閉じ、ホテルに向かって歩き始めた。


【B-5 市街地/一日目・朝】



【アプトム@強殖装甲ガイバー】



【持ち物】
碇司令のサングラス@新世紀エヴァンゲリオン、光の剣(レプリカ)@スレイヤーズREVOLUTION
ヴィヴィオのディパック、ウインチェスターM1897(2/5)@砂ぼうず、ディパック(支給品一式入り)
【状態】疲労(小) 肩口負傷、左足負傷(移動には問題なし)
【思考】
1.ホテルに向かう。
2.深町晶を殺してガイバーになる。
3.強敵には遭遇したくない。
4.冬月コウゾウ他 機械や生体化学に詳しい者に接触、首輪を外す為に利用する。
【備考】
※まだ全裸の人間形態のままです
※首輪が有機的に参加者と融合しているのではないか? と推測しています




「あった……」

あたしは、先程放送を聞いた場所、ベンチにまでたどり着いた。
ついさっき気付いたのだが、バッグを一つここに置き忘れていたらしい。
回収して、中身を見る。
……なんに使うかも分からない、コントロールユニットがある。
こっちは、元々のあたしのバッグか。
水を取り出して、勢いよく飲み込む。

「っ……っ……ぷは……」

落ち着いた。
あたしは自分の右手を開いて手のひらを出し、人指し指に目をやる。
酷い有様だ。白い骨が突き出し、爪が逆に付いた様に、指の腹がこちらを向いている。
あたしはゆっくりと右手を伸ばして、損壊した指を口に咥える。
...
捻る。

骨を支えにして、丁度細い棒アイスの少なくなった余りを吸い取るように、歯で齧ってグルグルと回す。
やがて指先は千切れ、三つ目の関節の少し手前から、骨が突き出している、見るに耐えない状況に。
あたしは制服を破り、ぐるぐる巻きにしてそれを隠した。

痛い。
ああ、痛いとも。

痛くない、筈がない。
だけど、その痛みはあまり感じなかった。
怒りが原因だろうか? どうでもいい。
      ............
あたしはガイバーⅠ・深町晶を殺す。
あのフォルム、あたしのプライドをずたずたにして、身体を傷つけた化物。
初めての感覚を味合わせてくれた怪物。
必ず殺す。
どんな手を使ってもだ。




忘れない、忘れてなるものか。
あの悪魔のようなフォルムを!

「殺してやる……」

殺意を、吐く。

「殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる
 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……
 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるッ!
 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!
 殺してやる殺してやしてやる殺してやるる殺してやる殺殺してやる殺してややる殺してやる殺してる殺してやるッ!」
 殺してやしてやる殺してやる殺してやるる殺してやる殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」


コ、ロ、ロ、ロ、ロ、ロ。
コロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ。

コ。ロ。


コロロロロ、とあたしの頭の中で、殺意がスパークしている。
ふと見れば、道路の横断鏡がこちらを見下ろしていた。

「……ふふ」

殺意もここまで来ると、こんな表情になるのか。
あたしは笑っている。いい笑顔だ。本当にいい笑顔だ。
でも、コレじゃダメだ。
こんな精神状況じゃ、自滅するのがオチ。
しばらく休んで、落ち着こう。
空気の美味しい森がいいな。
うん、空気の美味しい森がいい。

あたしはフラフラと森に向かう。
バッグの中で、コロコロコロロ、と転がるコントロールユニット。
ディバッグの中身を見てみると、心なしか。
ユニットの球体が淡く光っている、気がした。





【C-6/森の入り口/一日目・朝】


【惣流・アスカ・ラングレー@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】右手人差し指喪失、精神不安定
【持ち物】
アーミーナイフ@現実、予備カートリッジx12@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
コントロールユニット(ガイバーⅡ)@強殖装甲ガイバー、デイパック(支給品一式入り) 、
砂ぼうずの特殊ショットシェル用ポーチ(煙幕弾(2/3)、閃光弾(3/3)、グレネード弾(1/3)、ガス弾(2/3))@砂ぼうず
【思考】
0.森で休んで落ち着く
1.積極的に殺し合いには乗らない、ただし人間以外は問答無用で撃つ。ガイバーⅠ(深町晶)は必ず殺す。
2.加地と再会したい。シンジに関しては、そこまで執着はない。
【備考】
※参戦時期は少なくとも第弐拾四話以前。

時系列順で読む


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死闘の果てに… アプトム 台風の目~they and……~
風がそよぐ場所に僕らは生まれて 惣流・アスカ・ラングレー 心のかたち 人のかたち




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