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追撃への序曲 ◆321goTfE72



「やれやれ…とっさのでまかせだったとはいえ、失敗だったかもしれませんね…」

女子高生の五人に一人は振り向くという中々のルックスの少年が森の中を歩いていた。
彼の名は古泉一樹。
柔和な笑顔で朝の森をてくてく歩いている彼の様子を写真に収めたら
無料雑誌の表紙の裏を飾れそうなほどの絵になる一枚になりそうだったが
そういう感想を述べてくれそうな彼の友人は既に側にはいない。

彼はキョンに提案したようにモール目指して歩いている。
だが時折顔をほんの少し歪め、くたびれた制服の下の胸部に目を遣っていた。

(やはり肋骨にヒビくらいは入っているかもしれませね…)

彼が顔を歪めていたのはそれだけではない。
トトロから逃亡し、デスマッチをアシュラマンと繰り広げ、
涼宮ハルヒの死とキョンとの再会で神経をすり減らし………
超能力者といえどそれ以外は一般人の域を出ない古泉にとって
表立った肉体的・精神的な疲労以上に彼は疲弊していた。

(ゴルフ場に到着した後に少し休憩を入れないともちませんね)

自分の状態を冷静に分析し、そう結論付ける。
本当はショッピングモールで小休止を入れたいところであったが
モールからゴルフ場へと続く道が九時に禁止エリアになることを考えるとそんな余裕はない。
途中で一度でも戦闘に巻き込まれたらゴルフ場行きは諦めるべきかもしれない。

そんなことを考えていたせいかもしれない。

彼をもう一度、闘争へと巻き込む参加者が視界に入ったのは。


「……よく似ているけど、彼ではないようですね」

森の中で、突っ立っている怪人を見つけた。
すぐさま木の陰に身を隠しながら、ロビンマスクの仮面を装着し怪人を観察する。
キョンの姿によく似ていたが、細部や色が微妙に異なるし、頭部に怪我を負っている。
彼が身に纏っていた強化服はどうやら二着ないしそれ以上支給されていたようだ。

微動だにしないことから、古泉に気付いてないか、
あるいは寝ているか―――死んでいるか。

どれにせよ、関わるにはリスクが伴う。
そして、そのリスクを消化できるだけの余裕は今の古泉にはない。
素通りしようと忍び足で木々の隙間を縫い、モールの方角へと歩み出す。
怪人は相変わらず微動だにしない。
古泉がこのまま一気に走り去ろうとしたその瞬間だった。

ドォン!!

「なっ…!!?」

突如として、驚く古泉に猛烈な爆音と熱波が背後から押し寄せてきた。
前のめりに倒れそうになるが前転しどうにか体勢を立て直す。
爆風が収まり、すぐに爆心地のほうを見る。
ちょうど、怪人と古泉の中間地点くらいで何かが爆発したようだ。

(あの怪人が僕が背中を見せた瞬間に攻撃したきた…?
 いや、それにしては照準がはずれすぎている。誰かが攻撃してきたということか…!?)

周囲を見渡すが、ここは森だ。隠れるところはいくらでもある。
博物館から少しでも離れるためにモールへのルートに北寄りの森の中を選んだ自身の迂闊さを後悔しながら
どうするべきか考えていると、ぞくりと背中に悪寒が走った。

古泉の中の何かが、警鐘を鳴らしている。
ここは危険だ、すぐ逃げろ―――と。

「…くっ」

わけもわからないまま、古泉は直感に従い走り出す。

「―――っ!!?」

だが、走り去ることは叶わなかった。
彼の目前に、先程の怪人が躍り出てきたのだ。

怪人の目が、不気味に光った。


「…始まったようだな」

古泉達から少し離れた森の中で、ゼクトールが呟いた。
彼の知覚範囲内で起こったことなので大体の状況は把握している。

参加者の一人がノーヴェの近くを通った。
そのままやり過ごそうとしたので過剰防衛反応を引き出すために生体ミサイルを一発撃ち込んだ。
目論見通り、意識を失っているノーヴェの過剰防衛反応を引き起こすことに成功し、
ノーヴェは通りすがりの参加者に襲い掛かったようだ。

だが、ゼクトールの失念していた事態が起こってしまったようだ。
ガイバーが全力で暴れれば注目を集め、アプトムをおびき寄せるエサになるだろうと踏んでいたのだが
それはあくまで相手がそれなりの使い手であるという前提での話。
通りすがりの参加者はよりによって高周波ソード一薙ぎ、
それどころかパンチ一発で倒せるような一般人のようだった。
騒ぎを大きくしてもらうには力不足と見るしかないだろう。
だからといってその一般人に加勢してゼクトール自身も攻撃対象となり襲われればどうなるか。
正直な話、スペックはほぼ互角かノーヴェのほうがやや上だろう。
先程の戦いで彼女に勝てたのは、彼女がガイバーでの戦いに関して初心者であるからに他ならない。
過剰防衛行動はガイバーが本能的に行う行動だからそのことは足枷にならない。
そう考えると下手に手を出すのは愚策だ。
せいぜい、先程のように遠距離から生体ミサイルを撃ち込むくらいしかできない。


「…通りすがりの者には悪いが、これもアプトムを倒すためだ。許せ」

再び、ゼクトールは感覚器へと意識を集中させた。


「うっ…!!」

突如として襲い掛かってきた怪人が、キョンが最初に攻撃してきた時を同じく
肘から先に付いた剣を武器にし、横薙ぎに払った。
古泉はしゃがみ込みそれを回避。

スパンっ!

直後、自身の背後にあった木が真っ二つになり戦慄する。

(冗談じゃありません、あんなもので斬られたら―――)

脂汗が噴き出し、仮面の中が蒸れてきた。
にも関わらず鳥肌が立つほどの寒気が彼の身体を襲っている。

強化服の上からではマスクによる火炎放射も致命傷にはならないだろうし、
超能力による攻撃も近距離で放てば余波でこちらが受けるダメージも計り知れない。
だからといって距離をとろうにも怪人のほうが圧倒的に俊敏だ。

先程伐採され倒れ掛かってきた木を盾にするようにして古泉は再び逃げ出した。
怪人が額から出した赤い光線により、木は一部を残して一瞬で消し炭と化す。


「うわぁぁぁぁっ!!」

古泉目掛けて一足飛びで迫ってくる怪人に対し、もはや彼も冷静でいられなくなった。
無駄だとは頭の片隅で理解しつつも額に意識を集中させ、灼熱の炎を前方へと発射。

赤い壁の中へと、怪人は飲み込まれていった。

そして――――数瞬後に弾丸が煙を突き破るように、怪人は易々と炎を四散させ古泉の前へと現れた。
そのままの勢いで、肘の剣を振りかぶり古泉へと突進してくる。

(―――どうやら、僕はここまでのようですね)

人間、追い詰められるところまで追い詰められるとパニックを通り越して冷静になると聞いた事があるが
今の古泉は、まさにその状況。いつもの笑顔を浮かべる程に冷静になっていた。

怪人の凶刃は既に目と鼻の先だった。
走馬灯というやつだろう。これまでの人生の思い出がフラッシュバックしていく
最後に映ったのはSOS団マスコットからお茶を受け取りつつカードゲームを興じている光景。
団長は不機嫌そうな顔で机を指先でトントンしながらパソコンのディスプレイを見ていて、
部屋の隅では無表情キャラが本を読んでいる。
テーブルを挟んで向かいにいる雑用係の彼が
まだ終わってないのに何をしているんだ、と急かしてくる。

(『俺がお前を殺すまで、誰にも殺されるなよ』…でしたか。残念ながら守ることはできなさそうです。
 貴方達兄妹と朝比奈さんの無事を草葉の陰から祈ることにしておきますよ)

古泉一樹は、嘘偽りのない安らかな気持ちと
自身の無力さに対する少しの悔しさを胸に目を閉じた。



……

………


覚悟していた瞬間は中々訪れなかった。
こんなよく分からない空間なせいで死神が迷子にでもなって遅れているのだろうか。
不審に思って目を開けた瞬間にスパッと斬られるというオチなのかもしれない。
そうだとすれば、目を開けるわけにもいかない。

「誰だお前…!?」

だが、聞き覚えのない女性の声がすぐ近くで発せられたというのに
無視するほど古泉は無礼ではなかった。


普通、意識を失っていて次に気がついたときというのは大抵は横になっている、
あるいは座っていたりするものだ。
だというのに、ノーヴェが気がついたときには彼女は立っているどころか
目の前の仮面を被った人間を今まさに斬ろうとするところだった。

その目の前の人間が敵意むき出しで攻撃してきていたりするのだったら
事態が飲み込めなくてもノーヴェは一発ぶん殴るぐらいのことはできるが
のほほんと目を閉じて直立している人間を殴るような趣味はない。

よって、彼女が最初にしたことはこれ。

「誰だお前…!?」

自分がなぜか斬ろうとしていた相手が誰であるかの確認。
声をかけた相手は、ほんの一瞬してから目を開きハッとしたように後ろに飛び退き距離をとった。
当たり前といえば当たり前だが、かなり警戒されているようだ。

「……人に名前を聞くときはまず自分から名乗るのが礼儀というものではないですか?」

仮面の、声からして男はそう言った。
表情こそ隠れていて読めないが動揺しているのが声色で分かった。
ただ、動揺しているという点では自分も同じだろう。状況が全く分からないのだから。

「…ノーヴェだ。お前は?」

「古泉一樹です」

丁寧な言葉遣いの裏には依然として警戒の色が濃く伺える。
名前を名乗った程度では当然解けないだろう。それはノーヴェにとっても同様だ。
だが、相手の警戒があろうがなかろうが口下手な彼女にはあまり関係ない。
彼女が今一番知りたいことは、この一点なのだ。

「聞きたいことがある。…………なんであたしはお前と戦ってた?」

「…は?」

「だ・か・ら!なんであたしはお前に斬りかかってたかって聞いてるんだよ!」

「知りたいなら教えてやろう」

そんなことを聞かれても―――そんな様子で困る古泉と、
今にも仮面の男の胸倉を掴みかかろうとするノーヴェの頭上から新たな声が降ってきた。

「てめぇは…ゼクトール!!」

頭上を見上げると、ゼクトール――カブト虫を巨大にしたかのような怪物が木々の間を浮遊していた。

「そうだ、あたしは確かお前に急に襲われて攻撃の直撃をくらって、それから―――」

「そうだ!そしてお前は気絶した!その後俺によって脳を破壊された!!
 ガイバーは殖装者の意識がないときは自身の身を守るために、
 攻撃を受けたり周囲で身の危険を感じる何かが起きたときは過剰防衛行動に出る!
 それを利用して、お前を暴れさそうとしたのだ…アプトムを呼び込むエサとするためにな!!」

「…っ…テメェ…あたしを利用しやがったな!?」

「意識が戻ってしまったのは残念だが…深町晶が過剰防衛行動に出たときは意識が戻るまで
 数分だったことを考えると、長持ちしたと考えるべきか。
 お前にはまだ働いてもらわねばならない。もう一度、脳髄を叩き潰してやろう!!」

「ふざけんな!!」

ノーヴェはゼクトールを睨み付け、上空へと跳躍した。
高周波ソードを振りかぶりその黒い装甲に突き立てんとする。

「正面から攻撃しても無駄だと言っただろう!!」

ガイバーが再生していた数時間の間にゼクトールもギュオーやノーヴェ相手に消費した
生体ミサイルを精製し、補給していたため彼が展開した両肩にはたんまりと生体ミサイルが詰まれていた。
数発のミサイルが発射され空中に飛び出したノーヴェに向かって殺到する。

足場のない空中ではミサイルから逃れる術はほとんどない。
額から赤外線ビームを放つことによっていくらかのミサイルが爆発した。
だが、煙の向こうからなお生き残ったミサイルが向かってくる。

「くそっ…!!」

ノーヴェが念じると同時に腰部にあった玉が鈍く光り、放物運動をしていた彼女の身体が
空中でぴたりと止まった。彼女の目前をミサイルが通過して行く。

「ほほう…ガイバーが飛べることに気付いたか。
 だが、使ったこともない飛行機能でこのネオ・ゼクトールに空中戦で勝てると思うな!!」

ゼクトールが滑空しノーヴェに近づく。
四本の触手が飛び出し、彼女を掴もうと伸びだしてきた。

「ちっ!」

慣れないながらも空中で後退し、両腕の高周波ソードを振り回し触手を近づけないようにする。
だが、二つの腕に対し四本の触手。押されるのは当然である。
そのはずなのに、ゼクトールは何を考えているのか、ノーヴェが捌ける程度に攻撃をしていた。

「いつまでもつかな…いいことを教えてやろう」

「なに!!?」

「俺の生体ミサイルは、俺の意思で誘導することが出来る。つまり、だ」

ドォンッ!!!

「うわぁっ!?」

すぐ背後で爆発が起き、ノーヴェは強烈な衝撃と共に地面に叩きつけられた。
土煙が辺りに立ち込める。肺から空気が勝手に漏れ出し
声にならないうめき声となってノーヴェ自身の耳にも入ってきた。

「爆発しない限り、いつまでも脅威となり続ける!!
 先程、お前は避けたミサイルに全く注意を払ってなかった!
 使いこなせないガイバーに振り回されその程度のこともできないお前ごとき、敵ではない!!」

勝ち誇ったように、上空からゼクトールが言い放った。
上から見下ろす勝者と、地に伏せる敗者。明快な図だった。
いや、明快な図のように見えたが、実は違った。

地に伏せる彼女の瞳には、未だ闘志が宿っている。

ノーヴェは腕で身体を支え片膝立ちの姿勢にまでゆっくりともっていき、上空に力強く視線を遣った。

「確かに…ゼクトール、あんたの言う通りだ。
 あたしはガイバーの使い方がよく分かんねぇし、すぐに使いこなせるようにはなりそうもない」

「なら大人しく俺の目論見通りに動けばいい。
 俺自身、お前は殺すには惜しい人材だと思っている。アプトムのエサにする以上
 危険は伴うが進んで殺すつもりはない。お前が俺に従うというのなら―――」

「―――ふっざけんなぁぁっ!!」

手負いの獣の咆哮が、森に響いた。
同時に、彼女を中心として風のようなものが吹き付け始めた。

「あんたのおかげで目が覚めたぜ…あたしはどうにかしてたみたいだ。
 IS!『ブレイクライナー』!!」

彼女を包む空気が変化し、吹き付ける風が無色から薄く黄色を帯び始めた。

「っ…!?これは…!!?」

「覚悟しろよゼクトール…エアライナーッ!!」

ノーヴェの詠唱と同時に彼女の足元に魔法陣が形成され、
黄色い道―――リベンジするためのロードが発生し空中へと伸びていく!

「でやぁぁぁぁっ!!」

ガイバーの脚力を活かし、ジェットエッジを装着しているとき並、あるいはそれ以上の高速で
黄色い天翔ける道を駆け抜けていくノーヴェ。

「結局は正面からの突破か…馬鹿め、通用しないと言っただろう!!」

再び、ゼクトールの肩部の装甲が開き、生体ミサイルが発射される。

「馬鹿はテメェだ!何度も同じ手をくうと思うな!!」

走りながら右腕を上段に構え、ノーヴェは拳を握り意識を集中させた。
すると、握りこぶしを中心としていくつかの光球が出現。

「お前の助言通り、全部ぶっ壊してやるよ!!」

ノーヴェの言葉を実現するべく全ての光球が前方へと飛び出していく!

複数の爆発音。

「むぅっ…!!」

「慣れない装備より手慣れた戦法…ってことだな。
 ガイバーって装備に合わせることはねぇんだ、こっからがあたしの本気だぜ、ゼクトール!!」

爆発による煙の晴れた向こうでは宣言通りに全てのミサイルを撃ち落したノーヴェが
空中に伸びる黄色い道の上に立ち、ゼクトールを睨み付けていた。

森に生い茂る木々の更に上の空間の同じ高さに。
一人は立ち、一人は飛び、対峙している。

まず、ノーヴェが道を蹴り飛び出した。
ゼクトールはそれを迎撃するために触手をうねらせ、彼女に向かって解き放つ。
有機的な連携をしてくる触手をノーヴェは黄色い道の上で器用に避け続ける。
避けきれないと判断したものは額からヘッドビームを放ち軌道を変えている。
ノーヴェ本来の戦い方に、ガイバーの機能を上手く取り込んだ手法だった。

(いや、それだけではない…素早く動く触手を見事にヘッドビームで打ち据えている…
 ガイバーとして戦う中で、ちゃんと修正しその機能を使いこなしつつある…!!)

既に、目前までノーヴェは迫っていた。
ゼクトールは高周波ソードを発現させ彼女目掛けて一閃する。

キィン!!

ノーヴェがすぐさま出した高周波ソードと打ち付け合い高い音が鳴り響いた。
ゼクトールはもう一方の腕からも高周波ソードを出し、彼女目掛けて縦に振り抜く。
軽く身体を捻ることでノーヴェは回避。
両腕を使った攻撃を短時間で行った為に隙が生まれた。

「しまっ…!」

「何焦ってるんだ、ゼクトール!」

ベキィッ!!

「ぐぅっ!」

右フックがゼクトールの胴を捉え、彼はそのまま十数メートル後ろへと吹っ飛んだ。
堅い装甲ゆえに致命傷にはならないだろうが、ギュオーにも直接攻撃でダメージを与えたのだ、
ノーダメージでは済まない。

「ゼクトール、格下だと侮っていたあたし相手にいい勝負に持ち込まれて動揺してんのか?
 ………ナメんなよっ!!」

黄色い道が更に伸びる。ノーヴェの闘争本能に従うようにゼクトールに向かって一直線に。

「貴様こそ…このネオ・ゼクトールを甘く見るな!!」

またしても肩部の装甲が開き、ミサイルが大量に発射された。
尾を引きながら大量の爆薬がノーヴェ目掛けて殺到する!

「ちょっと数が増えたくらいで、あたしが怖気づくかぁっ!!」

彼女もまたしても右の拳を中心に光球を発生させ、迫りくる爆薬に向かって射撃!
更にヘッドビームを前方へ何度も何度も撃ちまくる!!

連続して爆発音が周囲の森へと響きまくった。

爆発した後に発生した煙の中にはもう脅威はない――そう確信しているかのように
迷うことなくノーヴェは煙へと飛び込む!
そして、力強くエアライナーを蹴っ飛ばしゼクトールがいるほうへと飛び蹴りを放った。

ゼクトールはこれを紙一重でかわしノーヴェの背中へと電撃を放つが
彼女が更に放った光球により迎撃される。
飛び蹴りを避けられた彼女はあらぬ方向へと飛んで行くが、
それを察したかのようにエアライナーが先回りをしたため
彼女は地面に対して垂直な黄色い壁に足をつけた。

すぐさま壁を蹴り、ゼクトールへと猛進する!
まともに受け止めるのは分が悪いと判断したのか、高度を下げるという
位置エネルギーを利用した高速移動でノーヴェの攻撃をかわした。
ノーヴェはさらにエアライナーを回り込ませ難なく着地。

再び睨み合いが始まる。

「……確かに、少し甘く見すぎていた。
 ガイバーの性能を自身の戦い方に上手く盛り込んだお前の戦術は
 付け焼き刃とは思えない見事なものだ」

ゼクトールはノーヴェの目からほんの少し視線をずらす。彼女の後方へと。
何かが、ノーヴェの死角からこちらへと向かってきていた。
先程ゼクトールが大量発射した生体ミサイルの一基だ。
一つだけ撃墜し損ねたのだろう、だがその一つが命取りだ。

「見事ではあるが―――それまでだ。せっかくの強力な性能を
 使いこなせていないのには変わりない」

こうして話をしている隙に後頭部にミサイルを撃ち込めば頭部にダメージを与えられるだろう。
あとはそれで怯んだ隙に脳を破壊してやればいい。
思ったよりもてこずったが、後は話しかけ続け意識を引きつけるだけでいいのだ。
着弾まであと三秒。

「俺の知っているガイバーは素早く飛行することも可能だった」

あと二秒。

「道を作るという能力があることには驚きだったがそれに頼らざるを得ないのが貴様の現状だ」

あと一秒。

「つまり、だ―――」

「気付いてないとでも思ったか?」

突然ノーヴェの上半身が消えた。
違う、エアライナーの上で思いっきり身体を後方へ倒したのだ。
後方からの攻撃という違いはあったがさながらマトリックスの一幕のように
ノーヴェの眼前をミサイルが通過していった。

そして、そのミサイルが向かう先にいるのは―――

「なっ――!!?」

ノーヴェと対峙していたにも関わらず完全に油断していたゼクトールに他ならない。

何度と聞いた爆音が森の上空に響いた。

「やったか…!!?」

身構える暇もなくミサイルが正面から直撃したのだ。
当たり所によっては視力ぐらいは奪えたのではないか。
身を起こしながらノーヴェは前方の煙に包まれた空間を目を凝らして見ようとする。

その瞬間、煙から四本の触手が飛び出してきた!

「――ッ!?」

あまりに急。気を抜いていて反応が遅れた。
四つのうちの二つは弾き返すことができたが残りの二つの触手に右腕と左足を絡め取られた。
こうなってしまえばまともに身動きが取れなくなり、左腕と右足もあっさり捕縛される。

「随分と時間と体力を使ってしまったが…ここまでだ!
 エレゲン…力を貸してくれ!!」

ゼクトールの叫びと共に、触手が青白く光った。

「うわぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁっ」

超高圧電流を流されたノーヴェの悲痛な叫びが周囲に木霊する。
とんでもない激痛であることが伝わる、まさに絶叫だった。
それだけ大声で目前の相手が叫んでいるのだから―――

「ふんっ……もっ―――――――!!」

地上で、ちっぽけな人間がちっぽけな声を出しながら
何かを握るようにして思いっきり振りかぶってるのになんて、気付くはずもない。

「――――――ふぅっっっっっ!!!」

上空へ届けと振りかぶっていた腕を全力で動かした。
古泉が投げつけた赤い球は木々の隙間を縫い超高速でゼクトールへと向かっていく!

「なっ…これは――!!?」

ノーヴェの悲鳴を隠れ蓑にするように近づいてきたそれを避けることは無理だった。
生体ミサイルとは比べ物にならない爆発がゼクトールを中心に起きる。

煙はすぐに晴れた。
中から現れたのは黒い装甲のほんの一部に小さなヒビが入り、
触手も二本ほど千切れてしまっているネオ・ゼクトールだった。

「あの男…一般人だと思って捨て置いたがこんな切り札を隠し持っていたのか…!?」

下の森の、古泉がいたほうを見るゼクトール。
だが既に木々の間に隠れたのだろう、その姿は確認できなかった。

「どこ見てんだ」

ゼクトールははっとして顔を上げた。
そこには両の手を握り頭上に構え、身体を弓のように反らすガイバー――ノーヴェがいた。

「しまっ―!」

「くたばれッ!!!」

伸び切ったバネを縮めるように反らしていた全身を縮め、
その力をも乗せて一気に両手を振り下ろす!!

堅い物が叩き割れるような音と共に、ゼクトールは少し離れた森の中へと吹っ飛んでいった。
それだけでは勢いは収まらず、轟音と共に木々が薙ぎ倒されていく。

「トドメだ…っ!!」

ノーヴェは胸部装甲を開けた。プルンとした水晶のようなものが露出し、淡く光り始める。
数秒のタメの後には輝きを増し青白く光っていた。そして、その光が臨界点を超える!!

「メガスマッシャーッッッ!!!!」

森に天の怒りのような猛烈な極光が降りつけ、薙ぎ倒された木々を消滅させ
ゼクトールごと地面を構成する物質をこの世から抹消した。


「お前…逃げてなかったのか。とにかくおかげで助かった、それだけは礼を言っとく」

上空から降りてきたノーヴェが、ぶっきらぼうに古泉に言った。
古泉も暑苦しいためマスクは既にはずしていた。ノーヴェも既に殖装は解いている。
ごっつい姿を想像していたので―――きつい目ながらも端正な素顔、
紺や紫を基調とした身体に密着したスーツからよく分かる引き締まってはいるものの
華奢ともいえる体付きを見た瞬間は古泉も少し面食らったものだ。

「はぁ…はぁ…いえ、お互い様ですよ…」

対するノーヴェも少し面食らっていた。あれほどの強力な攻撃を放った人間から
魔力も脅威も感じれないのだ。

「…で、なんでお前はそんなに疲れてるんだ?
 あの一撃以外ほとんど戦ってないだろ?」

ノーヴェの疑問ももっともだろう。
戦闘にほぼ参加していないにも関わらず地面に座り木に体を預け、
おまけに顔色も良くない古泉を見ればそう思って不思議はない。

「いえ…ちょっとこちらに来てから疲労が溜まる様なことばかりしてまして…
 おまけに無理して攻撃を放ったものですから、MPが0になったようです」

「は?」

「いえ、こちらの話です」

古泉と、あとはせいぜいキョンぐらいにしか分からない喩えに怪訝な表情を浮かべるノーヴェに
苦笑しながら古泉は自身の状態を冷静に観察した。

ノーヴェとの戦闘で火炎放射を使った上に死の世界に片足突っ込んだ緊張感、さらに超能力の使用。
精神的疲労はもはや限界に近い。気を抜けば意識がどこかに飛んで行きそうだった。
もはや是が非もない。休むしかないだろう。

「それにしてもお前、よくあたしを加勢する気になったな」

「……ええ、貴女とゼクトールさんの話を聞く限り、完全に理解できたわけではないですが
 僕が危うく殺されかけたのは彼のせいだと判断したので…」

「ああ、その通りだ。あたしは主催者を蹴り飛ばすための仲間を集めてる。
 お前もそうしたいというのなら殺したりするつもりはない。なのに…あの野郎…!」

このノーヴェという女性は、口は荒いが主催者打倒を目指しているらしい。
古泉の脳裏にキョンの姿が浮かぶ。
彼との約束を反故にするかは別として―――そもそも例え不意打ちでも
彼に倒せるかどうか疑問な強さのような気もするが―――彼女は仲間にするには申し分ない人材だ。
そこまで考えたところで猛烈な眠気が押し寄せてきた。もう本当に限界だ。

「そうですか…僕もこの殺し合いを止めさせたいと思っています。
 ところで…いきなりなんですがもう僕は限界です。おやすみなさい………」

「えっ…ちょ、おま…待て待てオイ!!」

ノーヴェが耳元で叫び小泉の身体を揺するが、彼の夢へのいざないには何の障害にもならなかった。


「……クッ…!」

ノーヴェのメガスマッシャーによって開いた大穴の近くの地面が盛り上がり、
その地表に穴を開けボロボロのカブトムシが現れた。
これがサナギから孵ったカブトムシなら自由研究にでもなりそうだがもちろんそうではない。

「…あいつを利用しようとした天罰…といったところか」

そのカブトムシは手痛い被害を受けたネオ・ゼクトールだった。
古泉の攻撃により一部にヒビが入っていた装甲はノーヴェの渾身の一撃により
更にダメージを受け一部が割れ、歪み、ひどい有様となっている。
それでもなんとかすぐに地中に逃げ込みメガスマッシャーによる追撃を回避することはできた。

(結果としてガイバーを暴れさせることはできたしメガスマッシャーをここで二回…
 ギュオーに撃ったのも含めれば三回も撃っている。
 アプトムがもし近くにいればそのうち現れるだろう。
 ………問題は今の俺がアプロムに勝てるか、だが……)

自身の状態を客観的に見る。
ミサイルの消費も多く、ダメージは甚大。疲労も色濃い。

ただの損種実験体だった頃のアプトムならまだしも、
ゼクトールの知っているアプトムという化け物に勝てる見込みはないだろう。
せっかくエサ撒きに成功したというのに、どこかに身を隠し休息を取らねばならない。
装甲のダメージはともかく、疲労やミサイルはすぐに回復するはずだ。

寿命は近い。
時間が惜しい。
命の灯は弱くなっていく一方だ。
だが、アプトムを討つまでは愚かな行動をすることは許されない。
野垂れ死ぬわけにはいかないのだ。

ゼクトールは傷む身体を引きずるようにして、
ノーヴェ達と戦う前に目立たないところに置いていったデイバックを回収。
そのままおぼつかない足取りでその場を後にした。

【F-07 森/一日目・朝】

【ネオ・ゼクトール@強殖装甲ガイバー】
【状態】全身に打撲 触手二本欠損 ダメージ(大)ミサイル消費(中)疲労(大) 
【持ち物】デイパック×2、不明支給品(1~5)&支給品一式×2
【思考】
1:アプトムを倒す。
2:どこか安全な場所で休息する。
【備考】
※名簿は一応見ています。
※ネオ・ゼクトールの寿命はあと数日です。
それが回復能力に影響が出るかは次の書き手さんにお任せします。


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復讐の狼煙を上げろ ネオ・ゼクトール ネオ・ゼクトールの奇妙な遭遇
ノーヴェ 涼宮ハルヒの嘆願
殺戮を大いに行う涼宮ハルヒのための団 古泉一樹




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