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黒は一人でたくさんだ!(前編) ◆2XEqsKa.CM



森々と立ち並ぶ常緑樹。
綽々と、悠然に陽光を吸い込み、風に枝葉を揺らしている。
そんな静かな森の端に、"それ"はあった。

"それ"は凄惨でありながら、しかしどこか滑稽な場景だった。
振り子のように、小さい足が後ろに揺れる。
限界まで振り絞られたその黒い足は、矢となって虚空を走る。
矢が飛ぶ先に、人間の腹があった。

蹴り。蹴りである。

その一連の動作を見ていれば、そうとしか呼べないだろう。
だが、その矢を受けた者にとってみれば、その影響は蹴りの範疇に入れるには大きすぎた。
力は然程込められていないが、掬うように体を足に乗せ、投げ飛ばす。
被害者……加持リョウジは、人間同士の格闘ではあり得ない程の距離を滑翔。
羽持たぬ加持は当然重力に捕まって放物線を描きながら無様に墜ち、転がる。
身が落ちたのは、繁った雑草が途切れ、コンクリートで整備された道路。
ジャリジャリと嫌な音を立てながら、数秒かけてようやく加持の体は静止した。
石とコンクリに擦り寄られて着衣は裂け、乱れる。


「ぐ……や、やめろタママ君……君は少し錯乱して……」

「何言ってるんですぅ〜? ボクはれ・い・せ・いですぅ☆ 」


ニコニコと、天使のような笑顔で這い寄る混沌。
加害者……タママ二等兵は愛らしい声を出しながら加持の前まで歩き、立ち止まる。
満足感と愉悦と優越感に満たされた瞳が、加持を見下ろしている。
加持が二の句を継ぐ前に、タママはもう一度加持の腹を蹴飛ばし、道路から森のより深くまで移動させた。
首と指を鳴らしながら、タママが再び追歩する。
タママは先程聞いた放送を思い返しながら、物憂げに溜息をついた。


(ガルル中尉……ったく、とんだ期待はずれだったですぅ。上官だし、以前あの人の小隊と戦った時は結構苦戦したから、
 少しは頼りになるかと思ってたんですがねぇ……ま、所詮は赤かませの兄貴ってことですぅ)

加持の前に着く。
加持を、蹴る。
木にぶつかって呻いていた、加持を蹴る。

(これでこの島にいるケロン人はボクと軍曹さんだけ……なんとしても、力を合わせて帰らなくちゃですぅ! )

* かじのまえにいる *
加持を、蹴る。
別の木にぶつかって腹を押さえている、加持を蹴る。

(草壁メイ……サッキーの妹……一回目の放送のときもサッキーは真っ先に心配していた……)

タママの表情が、悲しみに曇った。
加持を、蹴る。
芋虫のように這いずって逃げようとする、加持を蹴る。

(サッキー……きっと悲しんでるですぅ……でもボクはこんな時に、サッキーを慰めることすら出来ないんですぅ……。
 軍曹さんやフッキーが一緒とはいえ、心配で不安でたまらないですぅ……今あのアスカって女が襲ってきてたら! )

タママはわなわなと体を震わせ、コンパスで調べた市街地の方向を見遣る。

加持を、蹴る。
何度も、何度も、何度も、何度も。

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、

蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、
蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、
蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、


蹴る。






俺は死にかけている。
わかりすぎるくらいに、わかっていた。
この蹴りは一撃一撃はそうダメージも無いが、蓄積することで着実に内臓系に効果を発揮している。
腹部の痛みは今まで感じたことの無い高みに到達。
意識があるのが不思議なくらい……いや、それは不思議ではないのか。
タママは、ケロロは、宇宙の軍人だと言っていた。
捕虜を節度を持って痛めつけるのには慣れているのだろう。
つまりタママが俺にやっているこの攻撃の嵐は、俺を殺すためではない。
恐らく、俺を痛めつけることで自白を狙っているのだろう。ついでに移動もするとは、なかなか賢いやり方だ。
途中で誰かの目に止まれば、と淡い期待をしていたが、今のところ誰の姿も見えない。

俺は、草壁サツキの支給品を盗んだ。
しかも、盗んだことがバレれば即座に本性を気取られるような物を。
幸いにして、タママはまだ"それ"の存在に気付いてはいないようだ。
どういうつもりか、まだ俺のディバッグを探ることすらしていない。
あの時……市街地から砂丘にまでワープさせられた直後に第二回放送を聞いてから、タママは俺をずっと蹴り続けた。
どれだけの距離を蹴られ続けただろうか。
地面を転がり、再びタママの蹴りを待つ、耐えがたい時間。
今回は、木にもたれかかるように、座っているような格好だ。

「……? 」

タママの蹴りが来ない。
片目を開け、周囲を見渡す。
今まで黙々と俺を蹴り続けてきたタママの姿が唐突に消えていた。
訝しむ俺の耳に、タママの声が反響して届く。
深とした森の中、木霊のように。
主の見えない声が、聞こえる。


「ここまで来れば誰の目にも止まらないですぅ……カジオー……お前に付き合うのもようやく終わりですぅ……。
 心置きなく、お前への侵略を開始させてもらいますぅ……! 」

「……タママ君……本気なのか……本気で、証拠もなしに俺を殺す気なのか」

タママの影が、一瞬周囲の木と木の間を横切った。
俺はディバッグを探られてもサツキちゃんから盗んだ物が見つからない事だけを祈りながら、問う。
銃の方は、見つかってもなんとか言い訳は出来るかもしれない。
そんな俺の望みを踏み砕くように、タママがまた木々の間を滑るように姿を見せる。

「証拠ぉ? もうそんなモンは必要ないんですぅ。軍曹さん達と離れましたからねぇ」

「どういう……」

「軍曹さん達は首輪探知機で僕たちが忽然と消えたことに気付いているはず。ボクとカジオーが争ったとは考えがたい。
 あの家を探れば、ワープ機能にも気付くかもしれないし……つぅまぁりぃ」

タママが、とうとう俺の目の前に姿を現した。
邪悪な笑みを浮かべながら、俺の体をグリグリと踏みつける。

「ここでカジオーが死んでも、軍曹さん達には僕が殺したと言わなければ済むことですぅ」

「な……」

こいつ、まさか本気か?
いや考えるまでも無い、本気だ。
確かに、タママに俺への直接攻撃を躊躇させていたのはケロロや副指令たちの存在だけ。
彼等の心証を考え、一応は理性的な対応を行っていたのか。
それがなくなった、となると……。

「ま、待ってくれ! 俺は本当に無実なんだ! なんならディバッグを調べてもらっても……」

「ぷっちぃ〜〜〜〜ん!!! っるっせぇんですぅぅぅぅ 」

「ぐっ! 」

なんとか状況を好転させる為、一か八かの提案をしようとした俺の左腕を、怨嗟の声を上げながらタママが蹴り飛ばした。
先程までとはまるで違う、殺意を込めた強力な一撃。
元々酷い状態だった俺の左腕は、見るのが怖いほどの音を立てて完全に圧し折れた。
タママは目を血走らせて息を荒くしながら、痛みに顔を顰めた俺に詰め寄る。

「ごちゃごちゃごちゃごちゃと……誰のせいでボクがサッキーや軍曹さんと離れ離れになったと思ってんですぅ……」

「俺だけの責任でも」

「だからごちゃごちゃぬかしてんじゃねえぇぇぇぇ」

「ぎゃあああああああ!! 」

タママは理不尽な勢いで俺の左腕を更に破壊した。
俺の忍耐の限界を超えた激痛は、俺の意思と関係なく情けない悲鳴を上げさせる。



「ひゃひゃ……痛いですかぁ? 痛いですかぁぁぁぁぁ!!! だがサッキーの心の痛みはこんなもんじゃねぇぇぇ!!! 」

「あ……がが……」

「お前はサッキーから支給品を盗んだ……それがボクが見ていた事実! てめえがどんな言い訳をしようが関係ねえ!
 だから、証拠なんざそもそもいらなかったんですぅ! サッキーさえ傷付かずに片が付くならなぁぁぁぁぁ!! 」

「お、俺が死んだら……彼女は悲しむぞ……」

「でしょうねぇ! だがてめえがのうのうと生きてボクたちに付きまとい、いずれ災いをもたらすよりはマシですぅ!
 そもそもてめえにそれを心配する必要はねェェェェ……ボクが、サッキーを守るからぁ! 」

「き、君の言っていることは……ムチャクチャだ」

「無茶苦茶結構……どっちみち、てめえはここで……」

死ぬんですぅ! と叫び、タママの蹂躙が始まる。
攻撃されていると理解することすら困難なスピードで、俺の体のあちこちに絶望的なダメージが刻まれていく。
莫迦な……死ぬのか、ここで、俺は。
こんな、意志もまともに疎通できない化物に殺されて、死ぬと言うのか。
……嫌だ。
俺には、まだ知りたいこと、やりたいことが腐るほどある。
二度も、つまらない死に方をするのは御免……だ!

「この腕! この腕で! つまらない芝居を打ちやがって! 軍曹さんやサッキーに取り入ろうとしやがって! だったらぁ!
 お望みどおり、たっぷり可哀想な状態にしてやるぜぇ! てめえを貪る畜生共には通用するといいですねぇぇ!!! 」

攻撃は、アスカのナイフで傷を負った左腕に集中し始めた。
タママが涎を垂らしながら、俺に惨撃を加え続ける合間。


俺にとって、最大のチャンスが訪れた。
興奮して我を忘れかけているタママの肩から、俺のディバッグが滑り落ちたのだ。

タママがそれに気付いたのは、ディバッグが地面に落ちた瞬間だった。
だが俺はその時にはもう空中でディバッグに右手を突っ込み、目当ての物を取り出し終えていた。
タママの目が見開かれる。

俺は迷うことなく、自動拳銃グロック26の引き鉄を絞り切った。
小ぶりながら十分な殺傷力を持つグロック26の引き鉄を11度、絞り切った。
マガジンに装弾された全てを、タママに向けて撃ち込んだ。



「……ハハ」

「……ふ ぅ ぅ ぅ ぅ ん。とうとう出しましたねェ。それが、サッキーから盗んだ……あのビンの中身ですか。
 これで大義名分も出来たですぅ」


現実ってのは残酷だよなぁ、葛城。もう笑うしかない。
俺が立て続けに撃った自動装填される銃弾。
一発目はタママの頬を掠め、浅く抉った。
二発目、三発目、四発目……この辺りまでが、俺が希望を持って撃ち出した弾丸だ。
その3弾は驚異的な反応で屈んだタママに避けられた。
五発目、六発目、七発目、八発目、九発目。
その5弾は、弾ける様に横に飛んだタママの影を撃ち抜くに留まり。
十発目、十一発目。
最後の2弾はやけくそ気味に追射した結果、一発は木の幹に、一発はタママの帽子を貫いた。

タママは健在。
この結果を招いた最大の原因は、俺の体中の痛みからくる射撃の精度の低下か?
いや……違う。
それは。


「ねえカジオー。お前、サッキーの事を弱者って言いましたよねぇ……」

「……」


こいつ……タママは、激情に駆られた様でいて、恐ろしいほどに冷静だった。
ワープ後に俺の視線が何度も俺のディバッグに伸びるのを見て。
未練そうな、その俺の視線を見て。
"なにかある"と、確信し、警戒していたのだ。
俺のディバッグを探らなかったのは、俺のディバッグを取り落としたのは、俺の行動を誘発するトラップだったのだ。
射撃が外れたのは、タママが冷静に、"何か来る"と確信していたため。
今、タママの顔は、穏やかな笑顔……マスコット系に戻っている。

恐らく、つい最近激情に駆られて失敗したのだろう。
だからこその、このしたたかさか。
アスカのような子供だと思っていたが……違った。
彼は、自分自身でいつか口走ったように……腹黒、なのだ。


「きっとサッキーの力が弱いからそういう目で見てたんでしょうけどぉ……ボクの考えは違うんですぅ」

タママが、ゆっくりと俺に近づいてくる。
俺がグロックのマガジンを換えられない―――左腕はごらんの有様だ―――事も、把握している。
左腕を執拗に狙ったのも、こういう事態を想定していたからか。

……しかし、疑問がある。
そこまで読んでいたのならば……なぜ、タママはわざわざ俺が賭けに出るのを待つ必要があった?
それが危険を冒すということが分からなかったはずがない。
何故……?
ああ、俺の今の顔を、見るためか。


「弱者ってのはぁ……」

「……」

「ボクのような強者に! 気に入られなかった奴の事を言うんですぅぅぅ!!!! 」

「う……ああああ!!! 」


違った。
腹黒? こいつの、顔は。
俺が見た、タママの、顔。
それは、それは、それは……。
腹黒、などと言う言葉では表しきれない。
義憤を孕んだ凶悪。
狂気を孕んだ正義。

何故俺があの時タママを子供だ、と感じたのかわかった。
理解できないからだ。
俺には、子供もタママも、同じく理解できない。
だから混同し、内心でほんの少し侮ってしまった。
自分よりも下等だと。

触れえざる者。
交わる筈の無い者。
蛙に擬態した、異星生物。
俺は、この生き物を見た瞬間、逃げるべきだった。
それは、副指令も、サツキちゃんも同じこと。いつか……思い知る事になるだろう。
こんなものに、関わるんじゃ……。


「ボクのキューティクルフェイスに傷を付けた罰だぜぇ! 楽に死ねると……思うんじゃねぇぞぬっしゃぁぁぁぁぁ!! 」



なかった、と。






「ぬぬぬ……どうする……どうするギュオー! 」


森の中……草壁メイの死体の前で、リヒャルト・ギュオーは頭を抱えていた。
その理由は単純。
草壁メイの死体を弄び、首輪を奪い、埋めることすらせずに捨てた。
その事に対する後悔などでは、ない。
理由はより単純明快。
第二回放送で、今いる場所……H-05が禁止エリアに選ばれた、からだ。

「あの正義ぶったウォーズマンの奴のこと……放っておけば液状化するようなところに少女の死体を放置するなどありえん」

ギュオーはウォーズマンの身振り、言葉を思い出しながら一人韜晦する。
小屋に帰る前に近頃近くなった小便を済まし、更に微妙に迷って神社に戻るのが遅れたのが幸いした。
こうしてメイの死体の場所まで戻り、ウォーズマンが来るまでに対策を練れるのだから。

「他の場所に埋め直したと言えば……いや、いかん。奴が信じるとは限らんからな」

メイの死体を片手で持ち上げながら、どうしたものかと悩むギュオー。
しばらくしてから、いい事を思いついた、とばかりに口元を歪める。
ギュオーはメイの死体を振り回し、あちこちの木々にぶつけ、酷かった損傷を拡大させていく。
仕上げに首輪を外して用済みになった頭部を踏み潰し、ポイと投げ捨てた。
そして、自分も倒れて死んだフリをする。

「シナリオはこうだ……私が草壁メイを埋葬している途中、謎の悪漢が登場。首輪を渡せと迫る悪漢に負け、私は気絶。
 無常にも草壁メイの死体はより蹂躙されてしまった。どうするウォーズマン! 怒れウォーズマン……ハッ! 」

ブツブツと独り言を言って、何かに気付いたように手で口元を押さえる。

「このシナリオでは私もある程度負傷していなければ……消耗は避けたい……ええい! 面倒くさいわ! 」

ギュオーはやおら立ち上がり、全力全開で草壁メイの死体を投げ飛ばせる限界の距離まで投げ飛ばした。
割った頭は、元の茂みの中に放り投げて隠す。

「ウォーズマンには草壁メイの死体は別のエリアに埋め直したと言う……信じなければ、メイの後を追わせてやるまでよ! 」

グフフと笑い、結局最初の案に立ち返るギュオー。
神社まで戻るのも面倒なので、ウォーズマンが来るのを待つか、と座り込んだ。


「暇だな……少し頭を捻ってみるか」

まず考えるのは、放送の内容。
知り合いは一人も呼ばれなかったがケロン人が一人、ノーヴェの仲間が一人、ウォーズマンの仲間が一人、死んでいる。
ギュオーにとって特に痛手だったのは、戦力になりそうだったアシュラマンが死んだこと。
詳細参加者名簿では悪役そのものの説明が目を引いた男だったが、あのお人よしなウォーズマンが仲間と呼ぶ者。
扱いやすい奴だったのかもしれない、とギュオーは残念そうに呟く。
三人殺せば受けられるご褒美については、無理に狙うほどの物でもないと判断した。
禁止エリアについては、ギュオーは主催者達が海を塞いだ理由を特に問題視した。

(海から脱出した奴でもいたのか……? もしそうならば、其奴は首輪を外していると言うことになる。
 私も急がなくては……脱出するつもりは無いが、この首輪を外したいのは事実だからな)

首輪を外す為に必要な事を考え、同時に思いつくギュオー。

(待てよ……この首輪、長門たちに逆らうものを液状化させるのは確かだが……一体どういう仕組みだ?
 クロノスにもこんな技術は無い。考えられるのはこの首輪が我々になんらかの遺伝子改竄を行っているとかか?
 そういえば、私の力や体力がいつもより落ちているのも不思議だ。それもこの首輪のせいだとしたら……)

ギュオーの性格から考えれば、いざとなれば自己最大の技であるところの擬似ブラックホールを使って、
市街地辺りに人を集めてからまとめて消し飛ばそうとしてもなんらおかしいところはない。
それを今まで一度も考えなかったのは、獣神将としての力が低下していて擬似ブラックホールを扱う自信がないからだ。

(むう……死体から剥ぎ取った首輪だけでは、イマイチ情報……餌が足りん。
 生きている人間にどう作用しているかが問題なのだからな)

ここまで考えて、ギュオーはふと自らの空腹に気付いた。
食事を取ろうとしたが、水が無いので中止。
ウォーズマンからどうやって水をせしめようかと思案しているギュオーの耳に、突然叫び声が届いた。

「む……」

声がした方に目を向けると、木と草が生い茂って一つの壁のようになっている。
この向こう側から、聞こえてきているようだ。
ギュオーが壁の隙間から目を凝らすと、そこには……。

「あれは……ケロン人、タママ二等兵か。人間を襲っているようだな……襲われているのは……加持リョウジか」

詳細参加者名簿で目の前の者たちの素性を照合するギュオー。
数秒間が開いて、ギュオーの目に光が燈った。

「ククク……あの二人の性格、素性を利用すれば……」

ふとギュオーの背後から足音が聞こえた。
走っている……振り返れば、そこにはウォーズマンが立っていた。

「ギュオー! 草壁メイの」

「ウォーズマン。面白いことになっているぞ、見てみろ」

ギュオーがウォーズマンの言葉を遮る。
指で草壁の向こうを指しながら、木葉の壁に顔を向き戻し……ウォーズマンに見えないよう、ギュオーが、薄く笑った。





「……何をしているんだ! 」

ボクがカジオーをフルボッコしているところに、突然叫び声が聞こえてきた……ですぅ。
むう……誰かに見られたか? だとすれば、ボクはまた同じ失敗を繰り返したことになる。軍人失格ですぅ。
まあ最もサッキーを攻撃しちゃった時とは違って、この作戦について反省する要素なんざありませんがねぇ。
ボクが声の主を探していると、右手の壁から全身真っ黒の男が飛び出してきた。
言い訳をしようと、そちらに向き直った瞬間。
注意を払い、動きを常に把握していたカジオーの体が、ビクンと跳ねた。
糸が切れたように、木に寄りかかっていた状態から仰向けに寝転がる。
まだトドメを刺すつもりは無かったんですが……と、黒尽くめの男が凄い勢いでカジオーに迫り、胸に耳を当てた。

「ゲーーッ! 心臓が止まっている! 貴様……なんという事を! 」

「ボ、ボクは悪く……ん? 」


黒尽くめの男の怒りは、ボクではなく、遅れて草の壁から姿を現した男……っていうか怪物に向けられてるですぅ。
どういうわけか女が着てそうなウェットスーツを小脇に抱えた怪物は、今にも飛び掛らんとする黒尽くめに紙を放り投げた。
黒尽くめはその紙を受けとり、書かれていることを読む……っていうか、ボクを置いてけぼりにするなですぅ!


「な……この男が三重スパイ!? このデータは一体……」

「それは私がクロノスから得た情報だ。加持リョウジ……工作活動に長けた男というわけだな」

「しかしお前クロノスとは縁を切ったと……」

「奴等から逃げるためには、奴等の情報を得ることも肝要。それを手に入れた直後に、この島に呼ばれたのよ」

「……だが、それとこれとは別だ! 何故この男を殺した!? 」


なぁるほど。
カジオーにトドメを刺したのはあっちの怪物ってわけですか。
怪物はカジオーの体を持ち上げ、ボクに視線を飛ばす。
一体何をしたのかは分からなかった……だからこそ、グラップラーとしての血が騒ぐですぅ。
でも、ここはTPOを弁えるですぅ。
どうすればいいか、考える必要もありそうですしぃ……。


「わからんのかウォーズマン! その男、加持はスパイ! つまり……主催者の手下だったんだよ! 」

「な、なんだと!? 」

「そこのカエル……ケロン人は、奴に襲われ、抵抗していたのだ! 私は見ていた! 聞いていた! 」

「そうなのか!? 」

黒尽くめがボクに尋ねてくる。
怪物め、ボクに振るんじゃねえですぅ……しかし、これは……。

「……そう……ですぅ……仲間だと思ってたのに……カジオーはボクやサッキー、軍曹さんを裏切ったんですぅ! 」

「サッキー? 」

「草壁サツキですぅ」

「む? ウォーズマン、たしかその名前は……」

「……君は、草壁サツキの仲間だったのか」

ん? なんでこんな変な連中がサッキーの事を知ってるんですぅ?
ボクは問い詰める。そしてサッキーの妹を殺した奴の特徴を、サッキーの妹の末路を、聞いた。
拳を痛いほどに握り締める。許せないですぅ……サッキーの妹をそんな目に合わせるなんて。
なんとしても探し出して……おっと、今はまだ焦る時じゃないですぅ。

「えっと……」

「私はウォーズマン。こちらは、リヒャルト・ギュオーだ」

「タママ君、よろしく頼む。……ウォーズマンよ、私は加持を隣のエリアに埋葬してくる」

「何!? 主催者の手先などを……いや、失言だった……今度は私が行こう」

「い、いや、それには及ばん。草壁メイも違うエリアに埋葬し終えているしな」

「頼む、私に行かせてくれ! お前にばかり辛い思いをさせたくはないんだ! 」

「私に任せろ、と言っているのだ! 」

ギュギュッチが、なにやら焦ったようにクロッチ……いや、これは被ってる予感……ウォーズマンの好意を跳ね除ける。
ボクは、すかさずウォーズマンの前に乗り出してフォローを入れる。

「ウォーズマンさん、もっとお話聞きたいですぅ〜! 」

「む……いや、私は加持を埋葬してくるので、ギュオーと」

「ええ〜あの人は怖いですぅ〜」

「仕方ないな……」

ボク、ブリっ子全開!
ギュギュッチに目をやると、悪そうにニヤリ、と笑って感謝の意を伝えている。
なあに、いいって事よ、タマタマタマタマタマ……。
それにしても、カジオーへ振り上げた拳を急に止められたようで、ちょっとバツが悪い。
っていうかギュギュッチの奴、何気に僕の名前を知ってたって事は一部始終を見てやがったんですかぁ?
でも止めなかった、と言う事は……やはり。
ボクは口元を目立たない程度に歪め、ギュギュッチを見送ってからウォーズマンと情報交換を行う。

「……殺る気満々のケロン人に会ったんですかぁ? 」

「うむ。会ったのはギュオーだがな。名前もちゃんと聞いている。えーっと……」

「……」

「すまん、思い出せん……連れの名前は覚えているんだが……コンピュータの調子が悪いのかも知れんな」

「何度も電撃喰らったらしいし、仕方ないですぅ。でも一体誰が……軍曹さんは違うし、ガルル中尉とも考えられないですぅ。
 ボクの知らないケロン人がここにいるって可能性も……トトロとか怪しいですぅ」

「いや、それは……」


このようにして、色々とおいしい情報を得ることが出来た。
そして、情報交換の最後に……。


「君は、これからどうするつもりだ? 」

「……」


軍曹さんやサッキーたちのところに戻るか。
それとも……。
ボクはじっくり考えてから、結論を出した。




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