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勝者と敗者 ◆5xPP7aGpCE



このままだとキョン君は殺される!

長門は黙って見てるだけだ、『絶体絶命の獲物にとどめの一撃が迫ってる』なんてプラカードを掲げている。
すると彼がこちらを見た、助けを求めているのがそれだけで解る。

あたしは放ってはおけなかった、さっき言われた事はもう気にしてなんかない。
彼はきっと弱い人なんだ、あんな考えを持ってしまうのは仕方ないかもしれない。

ダメージは酷いけどまだ動ける、ウォーズマンさんとリングに飛び込もうとしたその時だった。
無い筈の存在に遮られて足が止まる、突如出現した金網がリングとあたし達を隔てていた。

これは長門の仕業!?
一瞬でリングが隙間無く金網で覆われた、まるで鳥かごだ。これじゃ助けに行けない!
―――なら振動破砕で、と構えたあたしの背後にいきなり声が掛けられた、

「知ってるかい? これってケージファイトって言うんだよ、邪魔なんかしちゃ折角の試合が台無しじゃないか」

あたしはこの声を知っている、そしてウォーズマンさん達も知っている。
確信を持って振り向いた、そこに立っていたのは―――草壁タツオ!

異変に気付いてナーガや彼も動きを止めてこちらを見た。
彼の命に猶予が出来た事であたしは安心してタツオ相手に構えを取る、一体何の為に現れたっていうの!?

「やだなあ、そんな目で見ないでくれたまえ。君達が素直に戦ってくれるのなら何もしないさ、ただ釘は刺しておかないとね」

―――釘を刺す? どういう事?
落ち着き払った態度に殺し合いを心底楽しんでるような気持ち悪い笑顔、見てるだけであたしは気分が悪くなる。

「長門君が出るっていうから心配してたけど案の定だ、僕達に逆らっちゃいけないって忘れたのかい?」

―――ぞくり

タツオの口元が歪んだ、たったそれだけなのに何であたしは戦慄してるの?
足が動かなかった、あたしはこの男に恐怖を感じてしまってる!

―――だからって。

「舐めるなぁぁぁぁっっ!!!」
『Frigid Dagger!』

そんな気持ちを振り払ってあたしは足を踏み出した、拳をタツオ目掛けて叩き込む。
空曹長も攻撃魔法で出現させた無数の短剣を操って同時に狙う―――当たる!

「えっ!?」
『きゃうんっ!?』

拳も魔法もタツオには届かなかった、半透明に輝く壁が彼を取り巻いて全ての攻撃が防がれた。
拳を引いてもう一度渾身の力で叩き込む。
信じられなかった、鋼鉄だって打ち抜けるあたしの振動破砕がまるで効かない!

「僕の周りにはA・Tフィールドが張り巡らされている、その程度の攻撃では傷も付かないよ」

瞬間、光の壁が膨張した。
巨大なハンマーで正面から殴られたみたいだった、あたしと空曹長は吹き飛ばされる。
ウォーズマンさんが受け止めてくれなかったら危なかった、でなければ後ろの檻に頭からぶつかっていた。

三人でタツオに向き直るが圧倒的な力の差を感じる、否応無く”死”を意識してしまう。
―――あたしはここまでなの!? 絶対に嫌だ!

「安心したまえ、今回は見逃してあげよう。但し仏の顔も三度までだよ?」

言葉と共に突然プレッシャーが軽くなる、生かされた?
でも次は無い、頭でなく本能がそれを告げていた。

―――でも

それでも前に出ようとするあたしを引き止める手がある、ウォーズマンさんだ。
そして空曹長も服の端を引っ張ってあたしに止めろと伝えている。

(……ここで突っ込んだところで犬死でしかない、今は再起を期す以外に無い!)

あたしは止まるしかなかった、ウォーズマンさんがどれ程悔しくて無念なのか引き止める腕に伝わってきた。
自分一人だったらウォーズマンさんだって構わず立ち向かっていたと思う。

けどそれをしないのは一人じゃないから、仲間の事を考えているからこその決断。
ガルル中尉の言葉も地下で考えた結論も思い出す、強大な敵に立ち向かう為に決めた事。

―――それは仲間

認めなければいけない、今のあたし達では力が不足だと。
もっと仲間を集めて、体調を整えて、そして目に物見せる!

あたしはタツオを睨みつけたまま拳を下ろした。
それを見て機嫌良さそうに彼の笑みを増す―――堪らなく悔しかった。

「懸命な判断だね、君たちは物分りが良くて助かるよ。さて後は彼等だ」

タツオが檻へと向き直る、無念な気持ちであたし達もそちらを見る。
そこには苦々しい表情のナーガとキョン君、どうやらロープからは抜け出せたみたいだ。

「フン、俺はそこの腰抜けどもとは違う。小僧を血祭りに挙げた後で貴様らの相手をしてやるわ!」

ナーガはあたし達を侮蔑していた、当然だ。
彼はもうこちらを見ようともしていない、長門とタツオ、そしてキョン君だけを敵として睨み付けている。

「言ってくれるね、キョン君はともかくとして僕と長門君を襲うというのは見逃せないなあ。せめて試合が終わるまで大人しくしてくれる訳にはいかないのかな?」

聞き捨てならないとばかりにタツオが檻に近付いた、口調は穏やかだがあれはれっきとした警告だ。
”正常な試合進行に協力してくれれば長門への行いは目を瞑る、しかしあくまで逆らうのであれば対処する”、そういう事だと思う。

「無知な者と語るのはそれだけで苦痛だな、俺がその様な戯れ言を聞くとでも思うか!!」

タツオを含めた全員に見せ付ける様に腕を振り上げる、それが彼の選んだ選択だった。あたしには選べなかった道。
長門といえば『その破壊力は10tの鋼鉄が落下したのと同じ』なんてプラカードを掲げてた。

決して屈しないその態度は本当に凄いとあたしは思う、しかしそれと彼が行おうとしている行為は別だ。
キョン君を殺させたく無かった、体力を振り絞って檻に振動破砕を叩き込む―――無傷!?

「言い忘れてたけどその檻は対衝撃、対魔法、対熱、その他諸々情報改変されている。何度やっても体力の無駄だよ?」

そんな言葉に従う道理なんて無い!
二度目の振動破砕を、と拳を引いたあたしより先に動いたのは草壁タツオ。

彼がパチンと指を鳴らした途端―――リングのキョン君に異変が起こった。



               ※       



ああ解ってるさ、俺は弱い。
ナーガに勝てっこないなんて解っている、けどこんな終わりって無いだろう?

長門はただ見てるだけ、スバルって女を頼りにしようにもいきなり金網でリングが覆われちまった。
繰り返しになるが褒美一つぐらいくれたっていいんじゃないのか長門!?

一縷の望みをかけて長門を見ると『実況は公正』だとさ……ははは。
なら草壁のおっさんだけが頼りだ、なんとかしてくれと必死で呼びかける。

そしたらおっさんが俺に目配せした様な気がした。
しかし余所見してる暇なんか無かった、ナーガの爪がすぐそこまで迫ってたんだからな。
避けることもままならない距離だ、せめてコントロールメタルだけは無事でいてくれと覚悟を決めた。


―――突然俺を何かが包んだ、そして猛烈に力が漲ってきた。




               ※       



異空間から出現したのは大きな蛹。
そこから飛び出したのは大きな”ガイバー”
ナーガの爪よりも先に0号ガイバーに更なる殖装が行われる。

蛇が様子見に下がる中、檻の内外からの視線を集めてやがて巨人が立ち上がる。
見下ろされていた体躯は今や巨体の蛇と並ぶ程、長門はその正体を全能なる知識から取り寄せる。


 ギガンティック
” 巨 人 殖 装 ”


今の彼では使えぬ筈の力、この場でそれが出来るのは自身の他に一人だけ。
その人物に視線を送る、悪びれもせずに彼は口を開いた。

「特別サービスさ、キョン君はこの場にいる誰よりも正常な進行を望んでいる。僕の権限で今回に限り使わせてあげるよ」

すぐさま異議を唱える、これは特定の参加者への明らかな贔屓。
認めればゲームの公平性は大きく損なわれてしまう。

「おいおい、話は最後まで聞いてほしいな。君も解っているだろう? 参加者が主催に殺されてしまっては『つまらない』ってね」

無言で頷く。
それはこの場に居ない者の意志。

「だから参加者に殺してもらうのさ、キョン君はその執行人としてなかなか面白い存在じゃないか?」

納得、これは形を変えた参加者への制裁。
彼には仕事をしてもらうだけ、贔屓には当たらない。

「それにナーガ君が態度を改めてくれればすぐに殖装を解除するよ。生きるも死ぬもナーガ君次第さ」

その声はこの場に居る全員に聞かせる為のもの。
機会は公正に与えられた、全て問題無し。



事の成り行きを理解してナーガは高らかに笑った。
それは全てに向けられたもの。

二人の主催者を、彼らに媚びて力を得た元の手下を、先に屈してしまった最初の対戦相手を嘲笑した。
―――皆、愚かよ! そしてこのナーガの事を知らぬ!


その笑いに苛立った巨人が最初に動く。
彼が拳を突き出すとそれだけで爆風並の衝撃波がナーガをロープ際へと叩き付ける。

「……凄い!」

少年は己の力に驚嘆した。
傷付いた蛇は巨人の力量をそれだけで理解した。

「おっさん! 負けを認めるなら今のうちだぜ!」

少年は力量の逆転を知って態度までも翻す。
誇り高い蛇は己の現状を知りながらなおも態度は変わらない。


笑いながら巨人殖装に手を振る草壁タツオ、改めて実況に集中する長門有希。
与えられた力を噛み締めるキョン、あくまでも引かぬナーガ。
そして、戦いを檻の外から見詰める無力な者達。


―――ここに”試合”が開始される。




               ※       




そこからは圧倒的だった。
組み合いにすら至らない、ガイバーが拳を突き出すだけで衝撃波の塊が離れたナーガを吹き飛ばすのだ。
紫の鱗がボロボロと剥がれ飛び散る、スバルとの戦いで出来た傷が開き赤い血がナーガのみならずリングを染めた。

「アイ・ビーム!」

数度目の光線が巨人殖装を狙う、しかし届かない。
バリヤーだ、全身を覆いつくす不可視の障壁が完全に彼を守っている。

逆に巨人殖装のコントロールメタルが光る、三本ものビームが檻に閉じ込められた蛇を襲う。
負傷を感じさせぬ敏捷さで蛇はそれを回避する、しかしその度に体力は更なる消耗を強いられる。


『形勢逆転』

ここにきて長門は高々とプラカードを掲げた。
今や誰の目にもナーガの不利は明らかであった。




               ※       




はははは、何だよ、何でおっさんがこんなに弱いんだよ。
俺は続け様にヘッドビームを連射する、命中だ、おっさんの身体がチリチリと焼けた。

草壁のおっさんが長門より話が解る人で助かった。
いきなり身体がでかくなったのは驚いたけど嘘みたいに力が湧いてきた。

あんなに怖かったおっさんが今じゃガキ同然じゃないかよ、これなら俺は勝てる。
おっさんにも、ウォーズマンにも、スバルにも勝てる!
生き残れるんだ、ハルヒを生き返らせられるんだ。

「止めてキョン君、恥ずかしくないの? 言いなりになって力を貰って!」

外からあの女の声がする、恥ずかしくないかだと?
は、何とでも言え、俺は恥とかそんなくだらないものはとっくの昔に捨てているんだ。
おっさんには今まで散々こき使われたんだ、殺さない訳がないじゃないか!

今度は高周波ソードを使う。
近寄って斬りつける必要なんかナシ、刃だけががグンと伸びておっさんに襲い掛かる。
考えるだけで自由自在だ、しかも威力は折り紙付き。

おっさんは不自由な腕で捌くが生憎早さはこっちが上だ、ついにおっさんの指が飛んだ。
それでもさすがにしぶとい、おっさんは血塗れなのに全然くたばる気配が無い。

―――やるか

メガ・スマッシャー、この身体で使ったらどんな威力になるか楽しみだ。
今までさんざんこき使われたんだ、屈辱は倍にして返してやる!




               ※       




また目の前で人が死のうとしている。
それが誰だろうと関係ない、助けたい、そう思いながらスバルは何も出来なかった。

キョンとナーガ、殺す者と殺される者は逆転した。
なら今救うべきはナーガ、そう決めて必死に檻を破ろうとするのだが何度やっても壊れない。
無駄というタツオの言葉を完全に無視してそれでもスバルは拳を振るう。

「もう決着なんて付いてるんだよ! これ以上する必要があるって言うの?」

少年に良心が残ってるならとも期待した、しかし返答は更なる暴力の行使だった。
再度の呼びかけも止められた。

「黙れ女!」

止めたのはウォーズマンでもリインでもタツオでも誰でもない。
他ならぬナーガ自身だった。

「女! 貴様このナーガに恥をかかせる気か!」

ナーガは怒っていた、スバルがしている事に、彼の助命の嘆願に。
どれ程傷つこうとも、そんな事は彼の誇りが許さなかった。

「……助けたいんです、貴方に死んでほしくないんです!」

金網越しにスバルが叫ぶ、その悲痛な声を奇妙に思いナーガは彼女の顔を見る。
まるで肉親の死を嘆く様な表情がそこにあった。

「変わった女だ……、何故殺そうとした相手にそんな顔をする?」

ナーガは泣き顔など今まで数え切れぬ程見てきた。
だがそれは全て己が引き起こした惨劇の結果、スバルの様に己の為に泣く者など一人として存在しなかった。

「そんなの関係有りません! どんな人にも、誰にも死んで欲しくないんです!」

それがスバルの答え、開始以来決して変わらぬ彼女の願い。
偽りや気の迷いで無い事に重傷を負わせたナーガは気づく。

「どこまでも甘い奴だ。女、そういえば貴様の名をよく聞いていなかったな」
「スバルです、スバル・ナカジマ……」

スバルの頬を伝わって次々と涙の雫が落ちていく。
ナーガは初めて涙を美しいと思った、そして最後に見る涙だという事も知っていた。

「スバルか……悪くない名だ。お前の譲れぬものは解った、だが俺にも決して譲れぬものが有る!」

ナーガは再び巨人殖装に向き直る、スバルはその姿を見送る事しか出来なかった。
動きを止めていた巨人殖装も合わせる様に再び構える。

「おっさん、偽善者との話は終わったのかよ?」
「ふん、貴様に言う事など何も無いわ!」

ナーガは吐き捨てる様に言い放つ。
伝えるべき相手は自分勝手な元手下などでは無い、最後に目的を同じくした敵対者のみ。

「お前達の手助けなど何も要らぬ! ただ見ておけ、ここに屈せぬ者がいるという事を!」

ナーガは叫んだ、ここに居る全ての者に聞かせる為に。
スバルが、リインが、ウォーズマンが涙を流しながら頷いた。
彼は自らの誇りに殉じるつもりなのだ、三人はそれを見届けなければならなかった。

「ウォーズマン! 貴様と決着を付けられぬ事が残念だ! 俺が奪う筈だったその命、下らぬ事で失ったら承知せぬぞ!」
「約束しよう! お前のその姿、決して忘れはしない!」

今まで沈黙していたウォーズマンが叫び返す。
彼はここに居る誰よりもナーガの信念を解っていたのかもしれない、だからこそ助けようとはしなかったのだ。
この命、もはや自分一人のものでは無い―――戦友としての友情が確かに両者の間に在った。

「無駄口叩いてる暇があんのかよ! 死んだら何もかも終わりなんだよ!」

巨人殖装の胸部が開き始める、キョンは止めを最大威力の技と決めていた。
ギガ・スマッシャー、その威力は―――メガ・スマッシャーの100倍以上!

「さらばだおっさん!」

檻に囲まれたリングに逃げ場は無い、絶対の自信を持ってキョンはそれを発射した。
主催者の結界内に有る空気分子全てがその瞬間、超高熱のプラズマに変化した。

ナーガはこの時を待っていた、彼はスマッシャーを一度見て知っていた。
耐えてきたのはキョンに決め技とさせる為、手に入る最大の破壊力を得るのがその目的。

どこにそれ程の力が残されていたのか発射直前に一気に距離が縮まった。
今までナーガを寄せ付けなかった巨人殖装のバリアは消えていた、このタイミングでなければならなかった。

弱点のコントロールメタルは完全にがら空きだった、今なら確実に巨人殖装を倒せるのだ。
―――ふん、俺の命はお前などとは釣り合わんわ!

だが、ナーガはそれをしなかった。
彼が狙ったのはこんな元手下ではなく本当の敵。
巨人殖装の腕を掴んで身体の向きを強引に変える―――長門に向けて。


光が、満ちた。


スバル、リイン、そしてウォーズマン。
三人の見る光景が一瞬で白く塗りつぶされる。

「くっ、目が見えないっ!」
『リイン、リインも何も見えないですぅ!』
「何という光だ、だがこれなら長門も……」

それぞれが圧倒的な光に苦しむ中、傍らのタツオだけがサングラス姿で平然としていた。
彼はこの時、茶目っ気のあるアクションをしようとさえ思ったのだが―――誰も自分の方を見てないので結局止めた。


光が次第に晴れてゆく。
視力が戻りつつある中、スバルが最初に見たものは黒っぽい檻の輪郭だった。
はっきりとわからないので触ってみるが何処にも壊れた様子は無い、ほんのりと暖かくなっている程度でしかない。

ゴシゴシと目を擦りながら決着はどうなったのかと注視する。
だんだん輪郭が見えてきた、人影らしいものにスバルは気づいた。

(あれは……誰? ナーガさん? キョン君? それとも……)

やがて、心臓を掴まれたような衝撃がやって来た。
立っていたのは―――無傷の長門!

僅かに髪の毛だけが縮れていた、それも巻き戻る様に元通りになる。
呆然とするスバルに長門が無言でプラカードを見せた。

『私への攻撃は全てが閉鎖空間に転送される』

なんとなく意味が解った、長門を守るのは異空間への堀。
それを無効化しない限り全ての攻撃は無駄に終わる。


―――ナーガさんは!?


既に視力は回復していた、狭いリングならすぐに―――
しかしナーガの姿は何処にも無かった、長門の他に居るは巨人殖装を失ったガイバーのみ。

―――消し飛んだ? そんな筈無い!

やがて一つの物体が目に留まった。
リングの端にぽつんと円盤状の石が落ちていた、鈍く輝くそれは先程まで存在しなかった筈。
良く見れは地面に首輪も落ちていた。

何故かスバルにはそれがナーガの生きていた証の様に思われた。
手を伸ばそうとするが金網は目の細かくてリインですら通れなかった。

どうしようもない想いを抱えているとその石に近付く人影があった。
長門だった、無表情のまま円盤石をそっと拾い上げてリングを降りる。

「はい、欲しがっていたみたいだから持って来た」

警戒するスバル達の前で長門は円盤石を金網の隙間から差し出してきた。
掌に落ちたそれは暖かかった、思わず胸に抱きしめる。
これが―――最後まで従う事を良しとしなかった者の命のかけら。

込み上げる悲しみと共に涙が落ちた、暫しの黙祷が行われる。
リインもウォーズマンも敵として出会った男の死を悼んだ。

三人は誓った、決して忘れないと。
そして彼は負けたのではなく勝ったのだと。

自分達に出来る事は彼が見せてくれたものを受け継いで無駄にしない事。
―――絶対にこんなゲームを破壊する!

「……あ」

顔を上げた時は既に長門はリングの上に戻っていた、自分がお礼を言いかけた事に気付いてスバルは思わず戸惑ってしまう。
―――あんなに酷い事を言った相手なのに。

『む~、あんな行い一つで騙されちゃ駄目ですよスパル!』

リインがそんなスバルを諌める、しかしこの温もりは偽りなのだろうかという微かな想いが心に残る。
―――いつかは解る事だ。


その時、檻の中から『勝者』の声が聞こえてきた。




               ※       




―――良かった、長門は無事だ。


おっさんの悪あがきは結局、何を変える事もできなかったって訳だ。
何だよそりゃ!? 全く驚かせやがって!

俺は無性に可笑しくて笑いが込み上げてきた。
笑うたびに開放されたんだって実感が込み上げてくる。

おっさんはもういない、頭を下げる必要も無くなった。
何がナーガ様だ! ざまあみろ!

俺は長門に、草壁のおっさんに、そして偽善者連中に見せ付ける様に腕を高く掲げた。
そして馬鹿みたいに笑う、笑い続ける。

「ははははははははは! 勝った、ついに勝った! 俺を馬鹿にしたおっさんをとうとう打ち負かしてやったんだ!」

長門のプラカードが『勝者キョン、敗者ナーガ』と切り替わった。
草壁のおっさんが拍手してくれている、そしてあいつらの悔しそうな顔!


―――これが勝利の味って奴か。



               ※       




そんな祝勝光景を前にしてぶるぶるとスパルは拳を震わせていた。
どうしようもない気分の悪さが胸に込み上げてきて止まらなかった。

彼は何なのだろう、そんな勝利にどんな価値を見出しているんだろう。
考えた所で解らない、彼の様な人間の気持ちなんてスバルに解る筈が無い。

今すぐキョンに勝負を挑みたかった、そんなスバルの肩にウォーズマンの腕が乗せられる。
その腕は熱かった、震えはせずとも彼もスバル同様かそれ上に憤りを感じていたのだ。

―――力を認め合った相手を侮辱されるのは超人にとって自らが侮辱されたのと同じ、奴は許せん!

スバルは思う、決着を付けられぬまま相手が逝というのがどれ程無念な事なのかと。
一つ確かな事はそれがウォーズマンをここまで高ぶらせる程のものであるという事実だけ。

リインもまた強く憤っていた。
彼女は一番彼等と縁が薄い、だが小さな身体に似合わぬ程の正義感がその中には詰まっている。
強に媚び容易く屈したキョンの姿はリインにとっても我慢ならないものだった。

「今すぐ俺達を中に入れろ! 参加者同士が戦うなら何の問題も無い筈だ!」

ウォーズマンが怒声をタツオに向けて言い放つ。
その言葉を待っていたとばかりに男は笑う、それが尚更スバル達の怒りを掻き立てる。

「もちろんさ、やる気になってくれるのは僕も大歓迎だよ」

言葉と同時に檻の一部が開口した。
三人は黙って頷くとタツオを一瞥して中へと入る、まずは一人の協力者を倒す為に。

通り抜けた途端に開口部は閉まる、だが三人は誰もそれを不利とは受け止めない。
逆だった、今度は彼等が檻を利用する。


それは―――喜びに浸るガイバーを逃がさぬ為。




               ※       


俺は最高の気分だった。

手段なんて関係ない、決して勝てないと思ってたナーガを完膚なきまで叩きのめした。
その事実は誰が何と言おうと覆せない、言う奴がいたら負け惜しみだと笑ってやる。

だってそうだろう?
この島で素手の奴を銃で殺しても卑怯でも何でもない、負けた奴が弱かっただけなんだ。
なら俺が後ろめたくなる必要なんて有るか? 何処にも無いじゃないか!

とにかくこれで優勝に一歩近付いた、あの力が有れば直ぐにハルヒを生き返らせれるかもな。
そんな風に人が勝利の余韻に浸ってると突然檻の一部が開きやがった。

怒りのオーラを立ち上らせて偽善者連中が次々に入ってくる、俺はサーッと青くなった。
まだこいつらが残ってたんだ、おっさんに借りを返すのに夢中で次の事を考えちゃいなかった!

俺は踏ん張ったり、来いと強く念じたりしてアレを呼び出そうとするが一向に出てきちゃくれない、どうなってんだ!
こんな時に頼りになるのは長門だ、あいつなら何か知っているかもしれない!

『エネルギー切れ』

そんな文字が俺の目に飛び込んで来た。
ゾーッと背筋が寒くなる、冗談じゃない!

この姿じゃあいつらに袋にされるどころか生かしてもらえるかどうかも怪しいじゃないか!
しかし長門は黙って首を振るだけだ、おい!

「草壁のおっさん何とかしてくれ! アレ無しで戦うなんて無茶苦茶だ!」

巨人殖装を出してくれたのは草壁のおっさんだ、あつかましいと言われようがもう一度出してもらうしか無い。
縋るような目でおっさんを見た、しかし返ってきた答えはまたしても俺を絶望させるものだった。

「残念だけど巨人殖装はあの時限りの特例なんだ、だから君には今のまま戦ってもらうしかないんだよ」

そ、そんなのって有りかよ!
アフターサービスもするべきだろ! 人を喜ばせるだけ喜ばせておいて用が済んだらボイなんて酷いじゃないか!
詐欺だ、悪徳商法だ、訴えてやるぞ!

逃げるしかない、慌ててリングを飛び出して高周波ソードを振るったが火花すら飛ばないじゃないか!
振り向くとリングの上からあの女と黒い男、そして小さな女が俺を見下ろしてやがった。

『殺人の現行犯ですぅ! おしおきですぅー!』

しかも全員目が座ってやがる、とてつもなく嫌な予感がして俺は必死で金網に背中を押し付ける。
く、来るな! 来るんじゃない!

「ま、待て! ナーガはお前らにとっても敵だったじゃないか! 何でそんな顔するんだよ!」

さっきまで殺すか殺されるかの戦いをしてたのはお前らだろ!
敵が減ったんだ、感謝の気持ちぐらい抱いてもいいんじゃないのか!?

「戦ったからこそ解るものもある。俺達は奴から大事なものを受け継いだ、この気持ちお前には解るまい!」

そんなの解るかよ!
俺は二回、いや三回戦ったが大事なものどころかクソだのゴミだの言われただけだぞ!
なんとかしてくれ長門!

『驕れるものも久しからず、ただ春の世の夢のごとし』

平家物語かよ!
俺には戦うつもりなんてこれっぽっちも無いぞ! 試合放棄だ、今すぐ檻を消してくれ!

「キョン君、今の貴方……とっても格好悪いよ」

氷みたいな冷たい声を掛けられて俺はピクリと震えてしまった。
恐る恐る視線を移動させてゆく。
そしたら、スバルって女がおっさんの首輪を握り締めながら立っていた。

その顔には泣き跡があった。けど今は、


―――軽蔑しきった目付きで俺を見下ろしていた








【ナーガ@モンスターファーム~円盤石の秘密~ 死亡確認】
【残り30人】

【I-4 森のリング/一日目・夕方(湖のリング上での戦闘中)】


【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、0号ガイバー状態、激しく動揺
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)、 SDカード@現実、 カードリーダー
     大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹、タムタムの木の種@キン肉マン
【思考】
0:生き残るためには手段を選ばない。何をしても優勝する。
1:おい! 待て!
2:午後6時に、採掘場で古泉と合流?
3:ナーガが発見した殺人者と接触する。
4:妹やハルヒ達の記憶は長門に消してもらう。
5:博物館方向にいる人物を警戒。


※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)
※巨人殖装の残存エネルギーはあまり無いと思われます、どの程度で尽きるのかは次の書き手にお任せします。



【名前】ウォーズマン @キン肉マンシリーズ
【状態】全身に中度のダメージ、キョンに対する激しい怒り、ゼロスに対しての憎しみ、サツキへの罪悪感
【持ち物】デイパック(支給品一式、不明支給品0~1) ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ
     リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹
【思考】
1:キョンを倒す
2:1を終えたら神社に向かい、タママ達と合流する。
3:タママの仲間、特にサツキと合流したい。
4:もし雨蜘蛛(名前は知らない)がいた場合、倒す。
5:ゲンキとスエゾーとハムを見つけ次第保護。
6:正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間を守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒する。
7:超人トレーナーまっくろクロエとして、場合によっては超人でない者も鍛え、力を付けさせる。
8:機会があれば、レストラン西側の海を調査したい
9:加持が主催者の手下だったことは他言しない。
10:紫の髪の男だけは許さない。
11:最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。



【備考】
※ゲンキとスエゾーとハムの情報(名前のみ)を知りました
※サツキ、ケロロ、冬月、小砂、アスカの情報を知りました
※ゼロス(容姿のみ記憶)を危険視しています
※ギュオーのことは基本的に信用していますが、彼の発言を鵜呑みにはしていません
※加持リョウジを主催者側のスパイだったと思っています。
※状況に応じてまっくろクロエに変身できるようになりました(制限時間なし)。
※タママ達とある程度情報交換をしました。
※DNAスナックのうち一つが、封が開いた状態になってます。
※リインフォースⅡは、相手が信用できるまで自分のことを話す気はありません。
※リインフォースⅡの胸が大きくなってます。
 本人が気付いてるか、大きさがどれぐらいかなどは次の書き手に任せます。


【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(大)、魔力消費(大)、キョンに対する激しい怒り。
【装備】メリケンサック@キン肉マン、レイジングハート・エクセリオン(中ダメージ・修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【持ち物】 支給品一式×2、 砂漠アイテムセットA(砂漠マント)@砂ぼうず、ガルルの遺文、スリングショットの弾×6、ナーガの円盤石、ナーガの首輪
【思考】
0:キョンにケジメをつけさせる。
1:機動六課を再編する。
2:何があっても、理想を貫く。
3:人殺しはしない。なのは、ヴィヴィオと合流する。
4:人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう (ケロン人優先)。
5:オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(キョンとナーガと雨蜘蛛)を止めたい。
6:中トトロを長門有希から取り戻す。
7:ノーヴェのことも気がかり。

※ナーガのバッグはリングの傍に置いてあります。




そして二人の主催者も引き続きこの場に残る。
騒がしくなるリングを他所に、彼等だけに伝わる方法で一つのやり取りがなされていた。

(実況に来たのは失敗だったかもしれない、これは正常な進行とは言い難い)
(確かに当初の流れを変えちゃったねぇ……、戻ったらどうするかもう一度考えてみるべきだね)

実況役不在時の対処を再考する事を確認して二人は頷き合う。
それは現在とは関係の無いまだ先の話。
すぐに彼等も思考を目の前の試合に戻す。



―――新たな戦いが今、始まる。








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本当の敵 ナーガ GAME OVER
キョン 勝利か? 土下座か?(前編)
スバル・ナカジマ
ウォーズマン
長門有紀
誰がために 草壁タツオ




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