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Dies irae / まいご ◆S828SR0enc



 新緑の森の平穏を乱す足音を響かせ、一人の少年が走る。
 枝をかき分け、道なき道を踏み荒らし、藪を乗り越えてどこまでも。
 今の少年――シンジに目的地などあるはずもない。
 そもそも彼は、ここがどこであるのかさえわかっていなかった。

(怖い……怖い……死にたくない……!)

 息は荒く、汗は目の前が見えなくなるほどに顔を覆い、疲労は限界に達している。
 それでも彼は止まらない。止まれない。
 後ろから追いかけてくる恐ろしい何かに急かされるように、シンジは森を走り続けている。

(ごめんなさい、みくるさん……ごめんなさい、ごめんなさい……)

 シンジが思うのは、置いてきてしまった女性のことだ。
 美しい容姿のその人は、自分が傷ついてでもシンジを逃がそうとしてくれた。
 どんなに自分が彼女にひどいことをしたか、シンジは一つも忘れていない。
 疑い、襲い、怪我を負わせた。それなのに守ろうとしてくれた。

(僕が……僕は間違っていた……?)

 あの悪魔のような主催者達の仲間だと思った自分がどこまでも恥ずかしかった。
 いや実際、朝比奈みくるはあの主催者たちのことを知っていたのかもしれない。
 それでも彼女は命をかけてシンジを助け、夏子たちを導こうとしていた。
 シンジは彼女に感謝をしこそすれ、恨む必要などどこにもなかったのに。

(ごめんなさい、ごめんなさい……!)

 傷つけてしまった。見捨ててしまった。
 助けてくれた人を捨てて、今のシンジはただ逃げている。
 それを心のどこかの勇敢な自分が咎め、逃げちゃだめだ、助けに行くんだ、と叫ぶ。
 もし彼女を捕えているのが自分になんとかなる相手なら、今のシンジは勇気を持って戦っただろう。
 いつかの使徒を相手取った戦いで、彼自身が幾度となくそうしたように。

 しかし。

『――お前にはもう用はない、死ね』

「――ひぃっ!?」

 頭の中に響いた声にシンジの喉から悲鳴が上がる。
 そのまま足がもつれ、シンジは藪に突っ込む形で倒れ込んだ。
 ろくな受け身も取れず、膝を地面に打ち付ける。
 しかし今のシンジには、痛いという感覚が頭に上ってこない。
 彼を支配するのはあの悪魔の声――そして、背筋が凍るような死の恐怖だけだった。

「あ、ああ、ああああ……」

 起きることもできず、ガタガタと震える。
 あれほどの恐怖を感じたことは、生まれてから一度もない。
 画面の向こうでもなく、エヴァ越しでもない、突き刺すような生身の死の恐怖があそこにはあった。

 あの底冷えのする声を思い出すだけで、吐きそうになる。
 あの万力のような力を思い出す時など、失神してしまいそうだ。
 そうやって意識を失えたらどんなにいいだろうとシンジは思う。
 しかし今の彼には、そうしているだけの時間も余裕もないのだ。

『ウォーズマン、という男を次の放送までに探し出して殺せれば、お前と朝比奈みくるの命を助けてやる。
 言っておくが、逃げた場合は朝比奈みくるを殺した後、貴様を地の果てまで追いかけてこの私の手で殺してやる』

 あの男は確かにシンジにそう言った。
 殺さなければお前は死ぬ、と。
 だが、男が言うにウォーズマンというのもまたあの男とおなじ超人である。
 超人を殺せ、さもなくば超人の自分が殺す、と言われたも同然なのだ。

 見つけ出せば、ウォーズマンという男に殺される。
 見つけなければ、悪魔将軍が追いかけてきて殺される。
 探しても殺される。
 探さなくても殺される。
 逃げても殺される。
 逃げなくても、殺される。

「いやだ、いやだ、いやだぁぁぁぁ……!」

 シンジの頭には悪魔将軍に頭を砕かれて死ぬ自分と、ウォーズマンという男に胴を引きちぎられて死ぬ自分の姿が交互に浮かぶ。
 飛ぶのは薄ピンクの脳髄か、それとも血に濡れた内臓か。
 前に行っても後ろに行っても、待っている結果は“自分の死”だけだ。
 偶然にそのウォーズマンが死ぬ幸運を祈るような呑気さなど、今のシンジにあるわけもない。

「死にたくない、死にたくないよぉ……」

 震え、ぼたぼたと涙とよだれとを地面にたらしながらシンジは悲鳴を上げる。
 それが何一つ解決しないとわかっていても、怖くて怖くて動くことが出来ない。

「助けて、助けてよ誰か、綾波、カヲル君……!!」

 そうして震え、すでにいなくなった者への助けを請う彼の眼に、一つの岩が飛び込んできた。
 茂みの中のその岩は、何があったのか片側が大きく抉れている。
 その抉れ、削り出された部分は鋭く、指先で強く押せば指が傷つくだろうと思えた。
 無意識のうちに、シンジはずりずりと這ってその岩に近づいていた。

「……はぁ……はぁ……はぁっ……」

 触れてみれば岩はひんやりと冷たい。
 ぐっと指先を押し付ければ、予想通りにぷつりときれて血の玉が浮かぶ。
 その浮かんだ血と尖った岩を、シンジは充血した目でじっと見つめた。

 死んでしまおうか。そんな考えが浮かんだ。

 これから先はどう頑張っても死ぬのだと決まっている。
 そこには二人の男のどちらに殺されるか、どんな風に殺されるか程度の差しかない。
 だったら嬲られて殺されるより、ここでひと思いに死んでしまった方がマシだ。
 死んでしまえば、もう痛むことも苦しむこともない。

「はぁ……はぁ……」

 ずりずりとさらに近付く。
 岩は鋭くと尖って輝き、先のシンジの指先の血をつけたまま待ち構えている。
 じっとりと汗でぬれた体を起こし、シンジはそっと岩に頭を向けた。
 距離を測り、ちょうどいい位置に膝立ちになる。
 このまま勢いよく前に倒れれば、この頭は鋭い岩に打ちつけられ、容易く破壊されるだろう。

「…………」

 ひゅー、ひゅー、と喉が鳴る。
 怖い。でもここで死ななければもっと怖いことになる。
 がたがたと震える体を抑え込み、シンジは深く何度も息を吸い、吐く。
 殺される自分と、ここで頭から血を流して死ぬ自分が交互に浮かんでは消えていく。

 どっちだって同じだ。どっちにしたって死ぬんだ。
 だったら苦しいのも怖いのも短い方がいい。今すぐ、終わったほうがいい。

 目を血走らせ、シンジは何度も何度も唾を呑み、頭を揺らす。
 そして幾度かの躊躇いの後、固く目をつぶり、頭から前に倒れ込んだ。

「――――」

 衝撃は、なかった。
 岩のとがりの数センチ前で、シンジの頭は停止している。
 シンジ自身の両手がしっかりと岩について体を支え、自らを死から遠ざけようと震えていた。

「……ぃやだ、いやだ……」

 そのままずるりと下に倒れ込み、冷たい地面に頬を付ける。
 再びあふれ出した涙が乾いてもいない頬を濡らす。

「いやだ、死にたくない、死ぬのは怖い……」

 死ぬと決めたのに怖かった。死ねなかった。
 結局のところ、自分には死ぬ勇気もないのだ。

 そう思った瞬間、シンジはもう全てがどうでもよくなった。

「は、あ……あは、は」

 このままここで横になって、もう何もしたくない。
 悪魔将軍に探し出されて殺されてもいいし、通りすがりの誰かに殺されてもいい。
 もう生きて怖い思いをするのも、死の恐怖を思うのも嫌だ。
 だったら何もせず、何も考えなければいい。

 そう思ってしまうと手足からはとたんに力が抜け、涙は止まる。
 いっそ笑いたいくらいだった。笑おうと思った。

 しかし、笑おうと開けた口が大声を出す前に、大きく揺れた茂みがそれを遮った。

「あ――」

 いつかの毛むくじゃらの怪物が、すぐそこに立って、にんまりともせずシンジを見つめていた。


 ◇ ◇ ◇


 彼女――ケリュケイオンには、相変わらず状況がよくわからない。
 神殿を出てからは、山小屋の近くで巨獣はオオカミやフリードリヒと戯れていた。
 そこにどこからか男の声が聞こえてきて、巨獣は笑うのをやめた。やめてその声を聞いているようだった。
 それからしばらく、巨獣はオオカミをなでたりするだけで、動かなかった。
 ケリュケイオンには人ならざる彼の心などわからないが、それは悲しんでいる様に見えた。
 ただ、それは深い悲しみというよりは、何かを懐かしむような様子だったと思う。
 巨獣の様子が一変したのは、それからしばらくしてからだった。

 ぴくり、と耳を動かし、巨獣が立ち上がった。
 立ち上がって、背伸びをするように遠くを見据えた。
 いったい何が見えるのか、と不思議そうにフリードリヒが鳴き、わずかに飛びあがったときだった。

『――ヴォオオオオオオオオオオオ!!』

 巨獣は突如として叫んだ。いや、吠えた。吠え猛った。
 激しく体を揺らし、しまいには地面を揺らして飛び跳ねながら、吠え続けた。
 もし仮にケリュケイオンに人の心があったとしたら、間違いなく恐怖で口がきけなくなるような声だった。


 そして、今。
 一通り吠え終わった巨獣は踵を返し、森の中を進んでいた。獣たちがそれに続く。
 巨獣は依然と同じく丸い目で前を見て、ずんずんと進んでいく。時折フリードリヒが鳴き、オオカミが吠える。
 先ほどとの違いは、巨獣がにんまりとしたあの笑みを浮かべていないことくらいだ。

『どこへ、行くのですか?』

 こっそりと問いかけると振り返るが、巨獣は小さく『ヴォ、』と言うだけで返事らしいものは返さない。
 フリードリヒたちの様子を見るに、尽きそう獣たちもよくわかっていないらしい。
 そうして巨獣に導かれるままに歩き、森を進み、小さな木立を抜けたあたりだった。
 茂みの中に、ようやくケリュケイオンと言葉をかわせそうな生物――人間がいたのだ。

『あの――』
「ひ、あ、うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 ようやく人間と、という彼女の喜びに反し、その人間はいきなり悲鳴を上げた。
 いや、巨獣を見ればそれは仕方のない反応のような気もするが、それにしても様子がおかしい。
 血走った目、頬には涙の、口元にはよだれの跡もあり、ところどころに打ち傷、擦り傷がある。
 そして見るからに錯乱した様子で、少年は周辺の石を拾い、巨獣に向かって投げ始めた。

「うわ、うわああぁぁ!あああああ!!」

 コントロールも何もない、癇癪を起こした子供のような投石。
 それは全て巨獣のとなりを歩いていたオオカミの足のひと振りではじかれる。
 やがて少年が疲れて石が飛ばなくなったころ、巨獣はゆっくりと手を上げた。
 ケリュケイオンには人が話しかける時のしぐさに見えたそれは、少年にはよほど恐ろしく思えたようだ。

「い、し、死ぬ、死ぬのはいやだ、いやだあああああ!!」

 涙を飛び散らせながら身をひるがえし、少年は茂みの向こうへ飛び込んでいく。
 こうして声をかける間もなく、ケリュケイオンと人とのファーストコンタクトは終わった。
 巨獣はただ、悲しそうな目で逃げた彼の背を見つめるのみだった。


 ◇ ◇ ◇


「ひっ、ひっ……ひぃぃ……」

 逃げる。逃げる。
 いったいどこへ向かっているのか、どこにいるのかさえわからない。
 わからないが、逃げなければ死ぬ。殺される。
 振り返ればあの化け物がいる気がして、シンジは足を止めることが出来ない。

 そうしてどこをどう走ったのか、シンジは気がつけばまた転んでいた。
 いつ転んだのかもわからない。あまりの恐怖に周りなど見えなくなっていた。
 周りは相変わらず背の高い樹がずらりと生えているだけの景色だ。
 そういえば走っている途中でちらりと屋根らしきものが見えた気もするが、よくわからない。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 あたりを見回し、あの獣の姿がないのを知ってようやく一息つく。
 バッグはかろうじて握りしめているが、全身が疲労に悲鳴をあげていた。
 そして何よりも、心が恐怖で死んでしまいそうだった。

「いやだ、死にたくない……死にたくない……」

 がたがたと再び震える体を抑え、シンジは必死に考える。
 死にたくない、死にたくない。
 一度はどうでもいいと思ったが、やはり死ぬのは怖い。どうしても怖い。
 だから、死なないためにはどうすればいい?
 酸素不足の頭はろくに回らず、延々と死にたくない思いだけが募っていく。

「怖い、怖い……皆怖い……」

 あの化け物は、かつて自分を殴り、そして自分は夏子のもとへ戻された。
 その経緯はよくわからないが、今のシンジにとって目に映る全ての者が敵だ。
 どこに行っても死の恐怖が追いかけてくる。

「誰か助けて……助けて夏子さん……」

 ようやく動いた頭が思い出したのは、自分を助けてくれた女性のことだった。
 彼女の所に行けば、と頭のどこかが希望を打ち出す。
 だが、

「だめだ、だって夏子さんは逃げたんだ……きっと僕も見捨てられる」

 そう、その夏子はあの兎のような生き物と一緒にシンジを見捨てて逃げたのだ。
 それにシンジが彼女やみくるにしたことを思えば、憎まれていても仕方ない。
 たとえ会えたとしても、冷たい態度を取られ、置いていかれるのが関の山だ。

「誰か、誰か……」

 あとはいくら頭を動かしても、ろくな知り合いが出てこない。
 万太郎と呼ばれた男と、夏子と一緒にいたハムという兎のことはよくわからないから頼れない。
 さっきの獣と最初に会った男、そして悪魔将軍たちは論外だ。
 そうするとシンジに残されたのは、元の世界からの知り合いだけとなる。

「冬月さん、加持さん……アスカ」

 冬月コウゾウ。父の側近だった男。
 これは父親と同類の、子供を道具としか見ない男に違いない。だから却下だ。

 加持リョウジ。死んだはずの男。
 かつて自分を励ましたりしてくれたが、この男も結局は大人だ。だから駄目だ。

 アスカ……アスカは、どうだろう。
 プライドが高くて、強くて、明るくて、何でもできる少女。
 アスカなら、こんな僕を助けて、守ってくれるかもしれない。

 アスカと過ごした日々がシンジの頭に去来する。
 その自信たっぷりな言動はいかにも頼もしく、シンジを守ってくれそうだった。
 アスカなら、とシンジは思う。
 少し前までアスカを守ってやらなければと考えていたことなど、すっかり忘れて。

 しかし。

「――?」

 シンジの中に、ふいにあるイメージが浮かんだ。
 絨毯の上にこぼれるコーヒー。乱れたテーブルとイス。
 肩が熱いのは、自分にコーヒーがかかっているからだ。
 椅子が飛び、テーブルが引き倒される。
 やっているのは自分だ。シンジ自身がテーブルを倒しながら、助けてと叫んでいる。
 助けて、助けて、僕を助けてよ。
 その声に対し、目の前に立ったアスカが言うのだ。ゴミでも見るような眼で。

『 い や 』


「…………」

 それが現実なのか、ただの幻想なのかはわからない。
 いつかあったような風景の中で、アスカはこれ以上なく自分を拒絶する。
 そしてそれはきっと、この島でも。

――ダメだ、アスカもダメだ。皆ダメだ。
――誰も僕を助けてくれない。誰も、誰も。

 暗闇の中で、処刑を待つような気分だった。
 これから先、どうあがこうと自分は死ぬ。だけど死ぬのは怖い。
 悲鳴のような声で喘ぎながら、シンジは必死に一人で生きるすべを考える。

「死、ぬ……隠れなきゃ、隠れなきゃきっと死ぬ……」

 このまま森の中にいたら、きっと見つかって殺される。
 だったら、どこかに隠れてしまえばいい。小さい頃のかくれんぼのように。
 そう思い、シンジは震える体をそっと起こした。

 森の中は安全ではない。
 開けた場所は、人に見つかりやすい。
 地図に載っている施設は人が来る。
 市街地には危ない人間が多い。
 人がいない場所には、罠が仕掛けてあるかもしれない。

「はぁ……はぁ……」

 ポケットの中の石を握りしめ、ぜいぜいと喘ぎながらシンジは考える。
 どこか、どこか隠れられる場所は、安全な場所はないのか。
 誰も来ない場所、自分を侵食しない場所は、どこにある?

 ぐちゃぐちゃになった頭は答えをはじき出さない。
 その上、たとえ安全な場所があったとしても、今のシンジには安息は訪れない。

「……もし、誰かが来たら……」

 安住の地にも、誰かが来るかも知れない。移動中に見られるかもしれない。
 そして誰かが自分を見た事を、人に伝えたら。
 あの悪魔に、伝えたとしたら。

「―――、ひ」

 地の果てまで追いかけまわして殺す、といった恐ろしい形相が蘇る。
 誰かに見られたら、その時点でアウトだ。
 誰にも自分を知られてはならない、決して、そう決してだ。
 だから、これから先誰かが近づいてきたら、自分は、僕は――。


「――僕は一人で生きるんだから、だから一人で、一人で……」

 もはや自分でも何を口走っているのかわからない。
 恐怖に支配された頭はめちゃくちゃな安全策をはじき出し、体はそれに従う。 

 近づく者は、自分を知っている人は黙らせるしかない。
 そうしなければ、いずれ居場所を突き止められて自分が死ぬ。
 死ぬのはいやだ。何よりも死ぬのがいやだ。
 だからどうにかして、例え力づくでも口をふさぐしかないのだ。

(力づく……力づくってなんだろう……)

 自分が考えていることすらよくわからない。
 だが、どうにかして黙らせるしかないのだ。
 どうにかして、いかなる手を使ってでも――相手を殺してでも。

「死ぬのはいやだ、死ぬのはいやだ、死ぬのはいやだ……!」

 ぶつぶつと呟きながら、シンジは歩きはじめた。
 行き先もなく、見通しもなく、ただ死の恐怖に背中を押されるままに、ゆっくりと。



【D-5 森/一日目・昼過ぎ】

【碇シンジ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】疲労(極大)、左肘に銃創、恐慌・錯乱状態
【持ち物】デイパック、基本セット(水は小川で補充済み、ノーヴェにより食糧補充)
     護身用トウガラシスプレー@現実、木の枝、ポケットに石を数個
【思考】
0.死ぬのはいやだ、死ぬのはいやだ、死ぬのはいやだ……
1.全てから逃げて、どこか安全な場所を見つけて、そこでじっとしていたい。
2.自分に近づく人、自分を知る人は力づくでも“黙らせる”。
3.超人、特に悪魔将軍が恐ろしくてたまらない。
4.優勝したらカヲル君が――――?


【備考】
※自分がどこにいるのかわかっていません。
※第二回放送の内容をまったく把握していません。
※地図の裏面には「18時にB-06の公民館で待ち合わせ、無理の場合B-07のデパートへ」と走り書きされています。


 ◇ ◇ ◇


 フリードリヒの飛ぶままに上下しながら、ケリュケイオンは考える。
 巨獣の様子に気を取られていたが、あの男の声は極めて重要なことを言っていた。
 たとえば、「殺さないと意味がない」。
 あるいは「沢山殺している人」に「ご褒美」。そして「頑張って殺し合ってね」。
 いやになるキーワードばかりだが、これで少しは状況がわかる。

――要するに、これは殺し合いの場なのだ、と。

 そうと知っては当然ながら穏やかではいられず、彼女は何度もフリードリヒに話しかけた。
 まずは主が無事なのかを、続いて時空管理局の人間がここにいるのかを。
 竜の言うことは相変わらずよくわからないが、その反応からすると主はここにはいないようだった。
 時空管理局についてはわからないが、先ほどの放送を考えるといてもおかしくはない。

『あの……』
「……」

 幾度となく巨獣には話しかけてはいるが、どうも反応が悪い。
 本人(人ではないが)は何か考えているのか、さっきから足取りが悪く、時々よろけもする。
 先ほどまでは常に浮かんでいたにんまり笑いも消えてしまっていた。
 それを心配してキュルル、とフリードリヒが鳴けばほんわりと笑うものの、表情はすぐに戻ってしまう。
 そんな調子でのしのしと、ケリュケイオン達は山を登っていた。

『ええと……』

 当然ながら初めて見る景色に、ケリュケイオンは戸惑いを隠せない。
 巨獣はこっちの言葉が通じているのかいないのか、これまでほとんど会話が成立しなかった。
 かろうじてフリードリヒは自分の言っていることがわかるようだが、はたして他の二匹はどうなのか。
 そんなことを考えているうちに、ふいにオオカミが足を止めた。

「?」
「?」
「……がう」

 ぺし、とさみしげに尻尾をふる。
 ついで、その青いオオカミの腹がくるるるる、と鳴った。
 それを聞いて申し訳なさそうに項垂れるオオカミに反し、巨獣はようやくにんまりと笑う。

「♪」

 なんだか楽しげな様子でオオカミをその場にとどまらせ、巨獣はのしのしと歩いていく。
 フリードリヒごと後を追えば、茂みの中へと迷いもなくどんどん入って行ってしまった。

「キュア~」

 フリードリヒの羽は枝の多い森の中を飛ぶのに適さない。
 絡まる枝を払うのに竜が必死になっている間に、巨獣はとことこと戻ってきた。
 その手に木苺らしき木の実を、たっぷりと抱え込んで。

『それは……』
「キュックル~♪」

 巨獣はにんまり顔でオオカミの元に戻り、それを地面に置く。
 そして今度は反対の茂みの方へ行き、なにやらがさがさと木を揺らし始めた。
 待つこと数十秒、木々からはドングリやら栗やらが降ってくる。

「♪」

 そうやって食べ物を集めてはまた茂みへを繰り返し、巨獣は食べ物を集めていく。
 茂みに入って数分も戻らない時もあれば、すぐに帰ってくる時もあった。
 いちいちフリードリヒが追いかけるので、ケリュケイオンは何度も小枝の洗礼を受ける羽目になった。
 しかし彼女とは裏腹に、巨獣もフリードリヒも実に楽しそうだ。

 そうこうしているうちに、いつしかオオカミの前には食料が山のように積み上がっていた。

「ガウ!」
「キュックルー!」
「ヴォオオ」

 巨獣の声とともに、三匹は一斉にその食料にかぶりつきだす。
 木苺や栗以外にも、柿やらあけびやら何やらと盛りだくさんだ。
 はた目からは見えないのに、よくこれだけ集めたものだと思う量だった。
 それをケリュケイオンが茫然と眺めているうちに、山はあっという間に消えてしまった。

「キュア~」
「ガウガウ!」
「♪」

 満足げに尻尾を振る二匹を認め、巨獣はまたにんまり顔だ。
 そのまま巨獣が腰を落ち着けると、すかさずオオカミは体を丸めてあくびをする。

『おなかがいっぱいだから昼寝、というところですかね……』

 すぐに目を閉じて眠り出したオオカミと巨獣の背中で休み始めた竜を認め、ケリュケイオンは呟いた。
 人間だったらため息でもついていたところだろう。

『…………』

 しばらく、森は静かだった。
 がさがさと葉が風でなる以外は何の音もしない。
 そして唯一起きている巨獣は、耳をぴんと立てて目を閉じている。

『……何をしているのですか?』 

 このまるで風の音を聞くようなしぐさは、実は先ほどからよくやっていた。
 森の中を歩く間、巨獣は時折立ち止まってはこうして耳を澄ましている。
 何か聞こえるのですか、と聞くと、片目だけを開けてちらりとケリュケイオンに目線をよこしてきた。

『ひとつ、聞いてもよろしいでしょうか?……あなたは何者ですか?』

 その問いに、巨獣は両目を見開いた。
 あえていうならきょとん、としている感じだ。
 そして目をゆっくりと細めると、にんまりと笑ってみせる。

『……ええと』

 どうにも埒があかない。
 なんというか殺し合いの場だというのに、この獣はやたらと呑気に見える。
 人間の言葉というものをきちんと理解しているのだろうか。

『ここ、がどこだかご存じですか?』

 にんまり。

『今、私たちがどういう状況にあるかわかっていますか?』

 にんまり。

『……ええと、私の言っていることはわかりますか?』

 にんまり。しかし微妙に頷いた気がした。
 とりあえずこちらの言葉はわかっているようだ。
 そう思い、ケリュケイオンはさらに質問を重ねた。

『ここの近くに、街か何かはありませんか?人間の多くいる場所です』

 その言葉に、巨獣はようやくにんまり顔を解いた。
 少し難しげな表情で、わずかに頷いてみせる。
 街は近くにある、しかしあまり行きたくない、といったところだろうか。

『あなたは、あまり森から離れたくないのですね?』

 今度もわずかに頷いた。
 そして、そろそろと指先で寝ているオオカミをつつき始める。

「……がう?」
「ヴォ、ヴォオオ」
「ガウ!」

 ひょい、とオオカミが身をおこし、続いて巨獣も立ち上がる。
 それに合わせて背中で寝ていたフリードリヒも飛び起き、再び羽ばたき始めた。
 それを相変わらずのにんまり顔で見ながら、巨獣は再び歩きはじめる。
 その後ろを楽しそうに鳴きながらついて行く竜の足首で、ケリュケイオンは何度目かの困惑を味わった。

『森に属する魔獣、といったところでしょうか……』

 主につき従いいくらかの人外を見た身ではあるが、この巨獣は初めてのケースだ。
 森に詳しく、街を苦手とし、森から離れたくない様子から推測するしかない。
 時折耳を澄ますのは、森の声とやらでも聞いているのか。

 少ない情報で忙しく頭を動かし、ケリュケイオンは必死で状況の把握を試みる。
 その視界に、にわかに不思議なものが飛び込んできた。

『!?』

 巨獣が歩いた後の、地面。
 これだけの体重に踏みつけられれば、当然草花は無事ではいられず、折れてしまう。
 しかし巨獣が通り過ぎると、それらは何事もなかったかのように生き生きと背を伸ばすのだ。
 よく見れば頭上の枝も、巨獣が通る時に折れた分はきちんと元に戻っている。

『……あなたはただ魔獣ではないのですか……』

 ケリュケイオンのつぶやきに、巨獣は答えない。

『ただの獣ではなく、もっと高位の……』

 ケリュケイオンの言葉に、巨獣は依然として答えない。

『……あなたは、何者なのですか……』

 いかなるケリュケイオンの問いにも、巨獣はわずかに目を細めるだけで、まったく答えない。
 黒く大きなまなざしはいったい何を見据えているのか。
 その足取りはいったいどこへ向かっているのか。
 全てを無言のうちに秘めて、獣たちは森を行く。


【F-6 森/一日目・昼過ぎ】

【トトロ@となりのトトロ】
【状態】左足の付け根に軽い火傷(毛皮が焦げている)、腹部に中ダメージ 、???、満腹
【持ち物】ディパック(支給品一式)、スイカ×5@新世紀エヴァンゲリオン、古泉の手紙
     フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     円盤石(2/3)+αセット@モンスターファーム~円盤石の秘密~、ライガー@モンスターファーム~円盤石の秘密~
【思考】
1.誰にも傷ついてほしくない
2.キョンの保護?古泉の手紙を渡す?
3.????????????????

【備考】
※ケリュケイオンは現在の状況が殺し合いの場であることだけ理解しました。



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彼の心乱せ魔将(前編) 碇シンジ 砂漠妖怪カンタ Sand Destiny
トトロ 獣の葬列






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