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寸善尺魔~善と悪の狭間、あるいは慮外にて~ ◆2XEqsKa.CM



胸部の装甲が閉じる。そこから放たれた灼光は標的を穿ったのか?
それすらも確認できないまま、アサシンは零の次元へ回帰していく。
幅が、奥行きが、高さが、面が、線が、点が断ち切られて解かれ解され、持ちうるすべての意味を消失させる。
彼の終焉は、そんな風に到来した。
自分と同じ『暗殺兵』の戦駒に破れ、脱落者の烙印を押されたのだ。
だが盤上から外されたから諦める、そんな潔さをズーマは持ち合わせず。

―――― 問題などない。

彼の意識は嬉々明朗。一切の不備はなく、その殺意には一切の濁りが混ざらない。

―――― 恐怖はない。肉体も魔力も全て正常に働いている。まだ……仕事ができる。

―――― ?

殖装体(ガイバー)と化した我が身を憚らんとして、異変に気付く。
不備なく、神経も完全に通っている筈の身体が動かないのだ。いや、それだけなら以前に幾度か経験はあった。
............
息さえ出来ていないのに、まるで苦痛を感じないのはいかなる奇跡か?
今、ズーマは初めて周囲の光景を目に焼き付ける。瞼無き、異形と化した眼球に光を容れる。

ああ、そこは不自然にも"オレンジ色に赤く"、"オレンジ色に紅く"、"オレンジ色に赫い"海だった。
明らかにオレンジ色と分かる彩色ながら、膨大な群水が爛々紅蓮と燃えている。
ズーマの異形の体は頭頂から爪先まで、全てがその異常な媒質に包まれていた。
呼吸が出来たとしても無意味だったろう。そこにはきっと、空気がなかった。
このような地獄においても自身が生存できているのは、ガイバーユニットの恩恵か?
それすらもはっきりとしない、とても曖昧な空間。
周囲にはオレンジ色の水しかないが、それは時折、生物に、景色へ、現象と、姿を変じて元に戻る。

―――― ……何だ、ここは。



ズーマは今始めて、不安を覚えていた。といっても、この状況への恐怖や戸惑いはない。
その不安の元は極めて単純な、自分が現在いる場所から受け続ける疎外感。
途切れず、弛まず、その疎外感はズーマを冒す。

................... ......................
自分だけが、周囲と何かが違う。ここは自分のいるべき場所ではない。


そんな当たり前の事を、ズーマは今までにないほどに痛感していく。
アサシンである彼の心象に、自分のいるべき場所など何処にもなかった。
たった一つ……あるいは二つだけあったそんな場所も、既に失われている。
それでも、この場は異質すぎた。否、この場に自分がいるという事が異常すぎると、それだけの事かもしれない。
ともかくズーマは今すぐここを離れたい、と切実に祈る。
自分の身体さえ信じられなくなった彼が何に祈ったのかは疑問だが、その祈りは確かに届いた。

―――― あれ、は。

ズーマの目の前に、いつの間にか巨大な多角錘が到来していた。
発する威容は無双の域。恐らくは兵器の類だろうが、何に対してその力を揮うべく生み出されたのか?
次々と沸く疑問に頭を抱えるズーマだったが、やがてその物体の全容を掴む。

それは蛹、だった。

凶悪な意匠と、どこか優しい巨きな印象。
ズーマの目を特に引いたのは、蛹の隅々から漏れる金色の光。

―――― 私と、同じか。

だが、それらの特徴は問題ではない。
ズーマにとってその蛹は自分と同じ、"周りと違う物"でしかない。
蛹から、金色の光が伸びる。
ズーマの生きた鎧を、何かを確かめるように弄る。
その光はやがてガイバーの装甲を透し通り、ズーマの肉体に直接触れた。
ズーマにそれから逃れる術はなく、抵抗する意志も薄れていた。
この空間にいると、そういった感情・本能が磨耗していくらしい。
だからズーマは、自分の肉体の全ての隙間から侵入し、内部を掻き回す金色を受け入れた。


―――― そうか、これは。
                   ....
ズーマが、魔道の探求者でもあったアサシンが、気付く。
この金色の光は、自分がいた世界の最も重要なカケラ。
自分など本来は近づくことすら出来ない高次の存在。
きっとあの蛹も、どこかの世界の重要なパーツなのだろう。

金色の光が斬性を得て、無数の刃のようにズーマの体内で暴れ始めた。
ぞりぞりと、臓腑が、骨が、体液が、肉が、皮が、衣類が混ざり合う。
LCL化とは全く違う、乱暴で物理的な液状化。ミキサーにかけられたように、ガイバーの鎧の中でズーマが融ける。
しかし、それでもズーマは生きていた。少なくとも思考することが出来た。理由など分かるはずもない。
脳を完全に破壊されても思考できるということは、きっとそれを裏付ける真理がどこかにあるのだろう。
ズーマは傍っと自分の肉体が破壊されていく痛みを甘受しながら、目のない視界を、耳のない音界を満喫する。

―――― ああ、こういう蟲がいるのか。

獲物の肉体に酸のような毒を流し込んで腐らせ、液状化したそれを啜る虫がいる、という知識が何処からか流れ込む。
ズーマの知識体はそれを記憶しながらも、金色の光の目的はそれ(=自分の肉体)ではないと気付く。
金色の光が物質化し、ガイバーの鎧を内側から貫いたのだ。開いた穴から、自分の肉体だった物が流れ出す。
オレンジ色の海を汚すそのヘドロは、遺されたガイバーの装甲と金色を孕む蛹の周囲をゆらゆらと舞う。
金色の光の目的は、初めからガイバーユニットだった。再生能力を停止されたのか、強殖装甲が稼動する様子はない。
蛹が開き、金色の光が鎧の中で唯一原型を保たせておいた首輪諸共、ガイバーユニットを包み込む。

金色の光は蛹の中に戻りながら、蛹の表面に"眼"を形成する。
どこか遠くを―――何かを通して―――睥睨している。
だが、その様をズーマの意識は見ていなかった。
ガイバーから除外され、変わり果てた生身で漂う彼の眼差しは、オレンジ色の水が変化した二つの人影に向けられて。
おぼろげな、今にも消えそうにこちらに迫ってくるその二つの人影は……。


    ..............
そう、ラドック=ランザードの。



――――― うふえへ。


パシャッ。


懐に飛び込んできた二つの人影に抱かれるように。
"ラドック"はオレンジ色の水へと変じ、盤上からも盤外からも排除された。

残された"疎外者"は、金色を孕む蛹。
そして、その蛹の金目が覗く、此処より遥か遠き何処に。

巨大な、球状の形を保った建造物が、オレンジ色の海の中で、揺られていた。

蛹が、消える。"何処"へ向かう為か、それとも――――。






脱衣所は重い空気に包まれていた。
清潔にした床に、布団を敷いて寝かされている戦闘機人・スバルはすやすやと眠っている。
が、それ以外の者たちの表情は沈痛だ。
重苦しい雰囲気を振り払うように、少女の姿のなのはがテーブルを立って数歩進み、ロッカーを蹴り飛ばす。
思慮に耽っていた冬月も、丁度廊下から脱衣所に帰ってきたケロロもぎょっとしてなのはを見遣る。
彼らの知る高町なのはとは、いきなりロッカーを蹴飛ばすような女性だったろうか。否。

「いつまでも落ち込んでいても仕方ありません。これからの事を考えないと」

「なのは君……」

にこっ、と明らかに無理をしている笑顔で二人を激励するなのはに衝撃を受ける冬月とケロロ。
そうだ、今は先刻犯した失態に胸を痛めている場合ではない。
冬月は気を取り直すと、おたおたしているケロロに首尾を尋ねる。

「ケロロ君。キョン君は……」

「あ、ええ、キョン殿は見失っちゃったけど、トトロ達に頼んで追いかけてもらったであります!」

冬月は軽く頷き、なのはに視線を戻す。
凹んだロッカーを内側から押して元に戻していたなのはも、振り返って冬月と視線を合わせる。

「あの怪物がキョン君だという事は間違いないのかね?」

「そのようです。ね、レイジングハート?」

『確かです』

「ゲロロ……ペコポン人は見かけによらないでありますなあ。記憶喪失というのも嘘なのでありましょうか?」


凶行に走り、逃走したキョン。その行動を追憶し、彼の思考を推測しようと、二人と一匹の議論が始まる。
脱衣所に備え付けられた扇風機の風に煽られながら、まず冬月が客観的に意見を述べた。

「彼はやろうと思えば油断していた我々を皆殺しにすることも出来たはずだ。それなのにスバル君だけを狙い、
 攻撃に失敗しても逃げ出したという事は……あまり冷静な判断力を持っていたとは考えられないな」

「キョン殿がこの殺し合いに乗っていたのは確かとしても、錯乱して暴れまわっていただけ、という事も……」

『Mr.キョンはMs.スバルに対してあまり良い印象は持っていないようでした。
 また、彼の行動は下賤ながらも理性的なもので、暴走していたという様子ではありませんでした』

淡々と語るレイジングハートに、なのはが手をやる。

「レイジングハート、ありがとう……でも、あまりキョン君を悪く言わないであげて。
 彼もきっと、何かに怯えているだけだと思うから……心底から悪い人じゃないはずだと思うの」

「高町君、本気でそう思っているのかね? 私も彼を信じたいという気持ちはあるが……。
 このような場所、このような事態の中でそのような甘い考えは」

「甘えているわけじゃありませんよ、冬月さん。私は信じているんです。
 だって、スバルが……私の部下が、彼を救える、救って欲しいって言ったんですから」

なのはの鋭い声が、冬月の苦言を断つ。
ぐむ、と黙った冬月に、穏やかだがしっかりとした口調でなのはが言い切った。
一方のケロロは、なのはの部下への信頼に目頭を熱くし、うんうんと頷いている。

「素晴らしいであります、高町殿! その部下への信頼、同じ指揮官として深く感じ入るであります!」

「ありがと、ケロロ。冬月さん……だから私は、スバルの信頼を裏切らないためにも、キョンくんを探し出して鎮圧、
 無力化した上で更正させます。どんなに歪んでも、人の根っこの部分は変わらないはずですから……。
 私はスバル程優しくはないから、彼に恨まれるかもしれないけれど。それでも全力全開で、彼の性根を叩き直します。
 スバルが私に寄せてくれた信頼だけは、疑う訳にはいかないから」


「……そして君も、スバル君の事を信頼しているのだな。分かった、私にも彼を宥めきれなかった責任がある。
 高町君、私も協力させてもらうぞ。ただし、今日はもう皆休んだ方がいい。今動くのは自殺行為だからな」

「そうでありますな……スバル殿はもちろん、高町殿も相当疲れておられるようでありますし……」

私は大丈夫だよ、と言葉を返そうとするなのはの口を、今度は冬月が視線で塞ぐ。しばしの沈黙。
若さに重石を付けて軽挙妄動を抑える、そういった手腕に長けた者同士の無言の応酬は冬月の勝利に終わった。

「……わかりました。キョン君を一晩放置するのは危険だと思うけど……今は、動きません」

「まあ、トトロ達がキョン殿を連れて戻るって事も考えられるし。高町殿、それが賢明だと思うであります!」

「この判断が正しいとは言えない。あるいは我々は彼を見捨てたことになるのかもしれないが……やむをえまい。
 下手に動いて共倒れ、では話にならんからな。……このような打算をする性が、時々煩わしくなるよ」

冬月が溜め息をつき、なのはとケロロに心情を吐露する。
それは、懺悔にも似ていた。

「私の所属していた組織には信頼など何処にもなかった。管理と男女関係と情感しかない、寂しい職場だったよ。
 私が高町君のように部下を真に信頼することが出来れば、あるいは加持君も、と考えるとな……未練だよ、全く」

「……冬月さんは御立派ですよ。加持さんの事は残念でしたけど……。
 きっと冬月さんなら私達を正しく導いてくれる、そんな気がするんです」

「我輩もそう思うであります。冷静に物事を判断できる、参謀の素質を冬月殿からは感じるし……。
 ペコポン侵略のブレインとして、ケロロ小隊に迎え入れたいくらいであります!」

(私はどちらかというと地球防衛隊のポジションなのだが……)

自分にスバルに向けるのと変わらない信頼を寄せてくれるなのはと、能力を認めて勧誘してくるケロロ。
そんな二人に、自分もまた強い仲間意識と連帯感を覚えながら、冬月は笑った。
だが次の瞬間、和んだ場の空気を引き裂くように、かたん、と音がする。
見れば、テーブルの上に置かれていたスバルのディバッグから何かが落ちたようだ。
冬月が席を立って拾い上げたそれは、"ナーガ"の名が内側に刻まれた首輪だった。


「確か、ナーガはキョン君が斃したのだったな。これはその時にスバル君が入手したのか?」

『私は修復中でしたのではっきりと認知していたわけではありませんが、その通りでしょう』

「ゲロリ……」

緊張した面持ちで押し黙るケロロ。
この首輪を外せるかどうかに長門達への反抗の成否が関わっているのだ、無理もない。
砕け散ったマッハキャリバーの残骸と、辛うじて無事だったリボルバーナックルをスバルのディバッグに仕舞う冬月。
その様子を見て、なのはの顔が再び悲しみに染まる。
リィンフォース、マッハキャリバーはデバイスとはいえ仲間だった。スバルにとって後者はそれ以上だった筈だ。
そんななのはを気遣うように、冬月は静かに席に戻って首輪をテーブルの中心に置く。

「……何故、ルールを破った参加者への制裁はLCL化なのだろうか?」

「え?」

しばらく沈黙していた冬月の吐いた疑問に、なのはとケロロが首を傾げる。
冬月は自分が所属していた組織とLCLの概要について手短に語り、首輪を眺めながら問い続けた。

「単に制裁――殺害が目的ならば、爆弾でも仕込めばいいだろう。何故わざわざLCL化などという手段を用いる?」

「それは……自分達の技術力を誇示して反逆の目を潰すため、とか?」

「ケロロ君が所属するケロン軍の技術力は我々ネルフのそれより遥かに上の筈だ。LCL化を選ぶ意味はあるかな?
 ケロロ君、ケロン軍にLCL化のようなテクノロジーはあるかね?」

「人間を液状化して、しかも自在に動く事が出来るような現象は見たことがありますなぁ」

「ケロロ君たちを拉致し、更に支給品としてその軍の道具をこちらに渡している以上、
 草壁たちがそれらのノウハウを得ていないはずがない。他にいくらでも便利な技術があるというのに」

何故、ATフィールドを解き放ち、LCL化させるという手段を選んだのか。冬月が思慮に耽る。
そんな冬月に、なのはがふと思いついたように伺いを立てた。

「あの、冬月さん。あのオレンジ色の水に変わった人間が元に戻る事はあるんでしょうか?」


「うん? ……理論的には、不可能ではないが……」

「ゲロッ!? じゃあ、皆で液体化してから草壁らの目を誤魔化して、それから元に戻って脱出すれば……!」

「誰がLCL化した我々を元の形に戻すのかね? 一人残してゲームの終了を装うにしても、
 それくらいの事を草壁が予想していない筈もない。そう上手くいくとは思えないな。
 それに、LCL化した人間を元に戻すには相応の機器が要るのだよ。それを揃えたとしても、成功率は極めて低い」

ケロロの無謀な提案を却下し、冬月は首輪を手に取った。
外装を見る限りでは、盗聴や監視の為の物は見当たらない。
もっとも、魔法や超能力が跋扈するこの地を支配する草壁達なら、他の方法で監視・盗聴をしている事もありうる。

(スバル君に許可を貰えれば、解体してみるか……)

冬月が首輪を元の場所に置くと、幼い姿のなのはがテーブルに上半身を乗せて、手を目一杯伸ばして首輪を掴んだ。
椅子に座りなおし、まじまじと首輪を眺め、撫で回すなのは。冬月は彼女が何をしているのか分からなかったが、
恐らくは魔法的なアプローチを行っているのだろうと推察し、成り行きを見守る。

「やっぱり、この首輪は特殊な魔力波動を発しています。何のためかは分かりませんけど……。
 付けられていた人から外れても機能を止めないのは、信号の類を送って首輪の位置を把握する為でしょうか?
 それとも、死体を禁止エリアの進捗によってLCL化させて、後々の為に証拠を隠滅するのが目的なの……?」

「いや……LCLは生命のスープであり、ヒトという種の死に対する逃避手段だ。完全な補完が起こったわけでもないのに、
 肉体と魂が死んだ人間がLCL化する事はまずない。……! 待てよ、あるいは逆、なのかも知れん」

「逆? どういうことでありますか?」

突然何かを思いついたように目を見開き、立ち上がる冬月。
いぶかしむケロロとなのはに、首輪をコンコンとつつきながら答える。

「首輪の機能でLCL化させるのではなく。我々は既にLCL化し、首輪の機能で人の形を保たされているのではないか?」

「な……!?」

「そんな馬鹿な! それじゃあ我輩たちが首輪を外せば、その瞬間に……それじゃ、あまりに希望がないであります!」

「草壁たちが我々に希望を与える意味があるのかね……?」


皮肉気に笑いながら、冬月は二の句を継ぐ。

「この推測が正しければ、何故制裁手段にLCL化を選んだのかという疑問は氷解する。
 初めから各々の肉体に反逆防止の措置を打っておけば、たとえ首輪を外して立ち向かおうとする参加者がいても
 その目論見は水泡に帰す。もしその者に仲間がいたなら、残された者達は首輪を外してもLCL化するという
 現実の前にさらなる恐慌・疑心暗鬼に陥り、殺し合いは更にエスカレートしていくだろう……。
 高町君の魔法力が抑えられているというのも、LCL化の際に肉体の情報を改竄された、と考えれば説明はつく」

「悪趣味にも程がある趣向でありますな……つまりこの首輪がATフィールドって奴を発生させていて、
 我輩たちの命綱になっている、と冬月殿は推測しているわけでありますか……」

「この首輪の魔力波動は……確かに、なにか圧迫するような、包み込むような感じがありますけど……」

「無論、これはまだ推測に過ぎない。そもそも私の知識の中では、LCL化の対象は人間だけの筈だからな。
 ケロロ君のような宇宙人にもLCL化と同様の現象が起き得るのなら、まるで違う技術と考えるほうが妥当だ。
 草壁たちがLCL化と呼んでいた、その事自体が引っ掛けなのかも知れない……だが、覚悟はしておいてくれ。
 首輪を外しても何の意味もない、それどころか死に繋がる可能性もあるという事をな」

押し黙るなのはとケロロを尻目に、冬月がゆっくりと目を閉じて記憶を辿る。
そうだ。思えば、最初に少年が溶けてなくなった時、自分は気づくべきだった。
              ...........
あの銀髪の少年は、服ごと溶けていたと言う事に。
冬月の知るLCL化は、人間の肉体にのみ作用する。
エヴァに乗っていて、シンクロ率が上昇しすぎた場合にパイロットに起こり得るLCL化現象などの例外を除いては、
ヒトの身を縛るものでしかない装身具が肉体と共にLCL化することなどありえないのだ。

(もし私の予感が正しければ。この首輪が齎すのは、LCLの上位現象―――ヒトだけでなく、"全て"の……)

「冬月殿……では我々は、一体どうすれば……」

冬月の思考を、ケロロの不安げな声が妨げた。
同じく所在無さげにこちらを見つめる幼い姿のなのはを見て、冬月はいかん、と気を引き締める。


「とにかく……今は休むことだ。高町君とスバル君には失礼だろうが、ここで雑魚寝することになる。
 敵襲の際、バラバラでは各個撃破されてしまうからな……私は少し、外に出てくる」

「ゲロ? 一体何を……」

鳴子のような物を仕掛けて侵入者に備えるのさ、と背中で語り、冬月は脱衣所を後にする。

黙々と館内外に出入りできる全ての位置を確認。数十箇所の窓と表口、裏口。
それらを全てカバーするように、館内で失敬した巻き糸を窓の前、扉の前に張り巡らせた。
ピン、と張るようにして設置された糸を人が通れば切れるように細工して、脱衣所の前に結び合わせた伏線を引く。
何処か一箇所でも切れれば、それが即座に脱衣所に伝わる仕様。
脱衣所はもちろん広い温泉の近くにある為、逃げるにせよ戦うにせよこの仕掛けは有用だ。
仮に温泉側から外敵が忍び込んだとしても、水音で気付くだろう。

それらの作業をかなりの時間を掛けて進めながらも、冬月は心に灯った不安をかき消せない。

(高町君とケロロ君が所属する組織は異世界間、惑星間を悠に移動できる埒外の存在だという。
 二人とも部隊全体丸ごと連れて来られた訳ではないから、その組織の上層部に既に仲間から報告がいっている筈だ。
 そんな組織ですら、一日近い時間をかけても見つけられない場所などあるのだろうか……?)

作業を終え、脱衣所に戻る。
たった今生まれた冬月の不安は杞憂なのか、それとも。

.................................
最初から生まれていた不安が、杞憂ではなかったのか。

.................
あの夢の意味は、あるいは。


(あるいは、それらの組織自体が、既に―――)

脱衣所に戻ると、なのはとケロロは既に目を閉じ、じっと動かなくなっている。
既に寝付いているかどうかは分からないが……冬月はドアの隙間から伸びる鳴子線の伏線を自分の水筒に繋いだ。
この伏線が切れれば、水筒が倒れてテーブルから落ちるだろう。

(君達は、今は休んでくれ……何、不眠症は老人のサガさ)

電気の消えた暗い部屋の中で、冬月は言葉には出さずに仲間達におやすみを言い、しかし自分は眠らない。
自分に出来るのは考えることだけなのだから、と心を引き締め。

あらゆる事象の想像を眠気覚ましに、思考を深めていく―――。

無駄になるかもしれないと、わかっていながら。

それが、冬月コウゾウの覚悟だった。




【G-2 温泉内部・脱衣所/一日目・夜】
【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】元の老人の姿、疲労(中)、ダメージ(中)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、不眠症
【服装】短袖短パン風の姿
【持ち物】基本セット(名簿紛失)、ディパック、コマ@となりのトトロ、白い厚手のカーテン、ハサミ
     スタンガン&催涙スプレー@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン
     SOS団創作DVD@涼宮ハルヒの憂鬱、ノートパソコン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹
【思考】
0、……。
1、ゲームを止め、草壁達を打ち倒す。
2、仲間たちの助力になるべく、生き抜く。
3、夏子、ドロロ、タママ、キョンを探し、導く。
4、タママとケロロとなのはとスバルを信頼。
5、スバルに許可を得られればナーガの首輪を解体。後でDVDも確認しておかねば。
※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています。しかし……。
※「深町晶」「ズーマ」「ギュオー」「ゼロス」を危険人物だと認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢については、断片的に覚えています。
※古泉がキョンとハルヒに宛てた手紙の内容を把握しました。

【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)、身体全体に火傷、熟睡
【持ち物】ジェロニモのナイフ@キン肉マン
【思考】
1、なのはとヴィヴィオを無事に再開させたい。タママやドロロと合流したい。
2、加持となのは、スバルに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
3、冬樹とメイと加持の仇は、必ず探しだして償わせる。
4、協力者を探す。ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです。

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】9歳の容姿、魔力消費(大)
【装備】レイジングハート・エクセリオン(修復率85%)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【服装】浴衣+羽織(子供用・下着なし)
【持ち物】ハンティングナイフ@現実、女性用下着上下、浴衣(大人用)、
     リインフォースⅡの白銀の剣十字
【思考】
0、もう迷わない。必ずこのゲームを止めてみせる!
1、冬月、ケロロ、スバルと行動する。
2、一人の大人として、ゲームを止めるために動く。
3、ヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)、タママ、ドロロたちを探す。
4、掲示板に暗号を書き込んでヴィヴィオ達と合流?
5、休息が済んだらキョンを探し出し、スバルのためにも全力全開で性根を叩き直す。
※リインからキョンが殺し合いに乗っていることとこれまでの顛末を聞きました。

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】ダメージ(回復中)、疲労(小)、魔力消費(中)、気絶、覚悟完了
【装備】 メリケンサック@キン肉マン、
【持ち物】支給品一式×2、 砂漠アイテムセットA(砂漠マント)@砂ぼうず、ガルルの遺文、スリングショットの弾×6、
     SDカード@現実、カードリーダー、リボルバーナックル@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹、ナーガの円盤石、ナーガの首輪
【思考】
0:………………。
1:キョンが殺し合いに戻るようなら絶対に止める。
2:なのはと共に機動六課を再編する。
3:何があっても、理想を貫く。
4:人殺しはしない。ヴィヴィオやノーヴェと合流する。
5:パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。
※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)


カタカタと、キーボードを叩く音がする。
其処は管理場。殺し合いの舞台を見下ろす、神々の御所。
長門有希は、何かを一心に記録していた。記録、というのは正しくないのかもしれない。
PCのテキストフォルダに常軌を逸した速度で書き溜められる情報は、彼女にとっては記録するまでも無い、
分かりきった事の羅列。眼下の会場の事細かなデータ、参加者の行動履歴。
深々と連ねられるそのデータは、一体全体誰のための、何のための物なのか。

「根をつめると、よくないって言っただろう? 長門君。それも、そんな無意味な物を……」

「無意味。確かにそう。でも、やる」

「……止めはしないけどね。精神衛生上悪いと思うなぁ、そういうのってさ」

いつの間にか、PCの前でキーボードを叩く長門の背後に、草壁タツオが立っていた。
やれやれ、と手を振りながら、止まる様子のない長門のタイピングを眺めている。

「私のこれは片手間だけど……あなたは、そもそも仕事をしていない」

「そんな事はないよ。必要最低限の事はちゃんとやってるさ。選ばれた物の義務としてね」

「最低限では困る。だから、あなたは―――」

長門がタイピングを止め、振り向く。そこに何があるのかを、確信しながら。

「―――省かれた」

「うん。もう少し持つと思ったんだけどねぇ」

草壁タツオの身体は、8割ほどがLCL化していた。
顔と、右腕だけが地面に生えている異様な姿で、床にへばりついている。

「君なら、こんなことにはならないんだろうけどね。僕は普通の人間だからさぁ」

「情報改変でも、"それ"を完全に防ぐことはできない」

「そういうことじゃないよ……そういうことじゃないんだ。僕が言っているのは心の事さ」

「……」

右腕も、徐々に解け始める。
同時に、床に浸みこむようにオレンジ色の水が目減りしていく。

「自分の娘が殺し合いに巻き込まれるのを眺めながら……仕事なんて、できないのさ、普通の人間は」

「……」
                                  ..........
「例え、"他"と混じって、性格を変え、倫理感をずらし、自分を薄めても、ね」

「そう」

短く言うと、長門はタツオから視線を外し、再びキーボードを叩き始める。

「こんな時でも、君は普段と変わらないんだね。それは本当に凄いと思うよ。ああ―――最後に、聞きたいんだった」

もはや目と口だけが床にへばり付いている、人間の面影のないタツオが問う。
ザッ……と、砂嵐を一瞬映すモニターを見ながら。

「涼宮ハルヒの力は……『共犯者』全てへの希望に、なるのかい?」

「その力はもう存在しない。調査の結果、あなたの思い違いだと断定できた」

「……えっ?」

その返答は、タツオにとって本当に予想外だったようで、素っ頓狂な声が上がる。

「でも……それじゃ……え?」

「外部からの介入の可能性がある。最も、もうあなたには関係ない」

長門の第二の返答は、予想外を越えて理解不能だったらしい。
ゲームの始まりからここまで、一度もうろたえなかったタツオが、片目だけになった眼を見開く。

         .....
「外部って……何処に?」



その言葉を最後に、草壁タツオは溶け去った。
よって、長門が彼の最後の質問に答えることは無い。

『進行役Bの消失を確認。進行役Bのバックアップを要請する』

代わりに長門は、短く呟いた。
それは、彼女が情報統合思念体に呼びかける言葉に似て。
確かに"何か"に届き、受理される。

長門がいる部屋から少し離れた、全く同じ間取りの、しかしPCの無い部屋。
その部屋の中心には、心臓のような、オレンジ色の血肉の塊があった。
それはどくん、と脈動した。それはどろり、と何処からか引っ張ってきたオレンジ色の水を、飛び出した血管から吐き出す。
その水は、たちまち人間――否、最後の使徒の姿を形取り、司って。
                                                        ......
「……奇跡にも近い偶然だけど。君が生きている内に選ばれたかったと思うのは残酷かな、シンジ君」

最初に溶けたはずの、最後のシ者が舞い戻った。
生贄から、語り部へとその役割を変えて。

「生と死は同価値……だけど、この様には」

反吐が出るよ、と言い捨てて。
渚カヲルは、自分の職場に向かう。



バックアップの召還を確認し、長門は再びキーボードを叩く。
その内容は、首輪についての記述に移っていた。
見る人が……そう、冬月コウゾウ辺りが見れば、十分理解できる内容。
しかし、一箇所だけ、彼に理解できない部分がある。

『"LCL"と書かれる筈の記述のすべてが、"ksk"に入れ替わっている』

長門は全てを理解していて、キーボードを叩き続ける。


しかしそれ以後、その文章が誰かに読まれることは"なかった"。



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