過去と、現在と、将来と 1 恋人握り


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 true tears  SS第二十五弾 過去と、現在と、将来と 1 恋人握り

 比呂美はまだ眞一郎に訊けないことがある。
 手を繋いだままのふたりは仲上家の敷居の前で立ち止まる。
 箒を持った理恵子がいて居間に来るように提案される。

 眞一郎父は博、眞一郎母は理恵子、比呂美父は貫太郎、比呂美母は千草。

 前作の続きです。
 true tears  SS第二十二弾 雪が降らなくなる前に 前編
 http://www39.atwiki.jp/true_tears/pages/287.html
 true tears  SS第二十三弾 雪が降らなくなる前に 中編
 http://www39.atwiki.jp/true_tears/pages/306.html
 true tears  SS第二十四弾 雪が降らなくなる前に 後編
 http://www39.atwiki.jp/true_tears/pages/315.html

 true tears  SS第十一弾 ふたりの竹林の先には
 http://www39.atwiki.jp/true_tears/pages/96.html
 true tears  SS第二十弾 コーヒーに想いを込めて
 http://www39.atwiki.jp/true_tears/pages/245.html
 true tears  SS第二十一弾 ブリダ・イコンとシ・チュー
 http://www39.atwiki.jp/true_tears/pages/275.html



 雪がまだ降ってくれている。淡くてきれいで儚げで。
 はしゃいでいればお父さんとお母さんが喜んでくれていた日々を思い出させる。
 おばさんに眞一郎くんがお兄さんと言われて雪を嫌いになっても、
眞一郎くんがさらに好きになるようにしてくれる。
 今も手を繋いでくれて仲上家に向う。
 眞一郎くんはさりげなく私を壁側を歩かせている。
「繋ぎ方を変えよう」
 眞一郎くんは右手を放してから、私の左手の指に絡めてくる。
 急に割り込まれてしまって手元を見てしまう。
 がっしりと固く結ばれていて解けそうにない。
「恋人握り」
 囁いてみると現実感が湧いてくる。
「そういう名前が付いているとは知らなかった。夫婦握りってある?」
 眞一郎くんは呟いてから私にそっと訊いてきた。
「知らない。おばさんに結婚のことまで話すの?」
「そうするつもり。こちらから本心を打ち明けておけば、向こうも反応してくれると思う。
 今まで誰もが話し合おうとしてこなかったので、こちらから攻めてみようかと」
 淡々としていながら静かな強さを秘めた口調だった。
「話していれば良かったこともあるわね」
 話せないこともあるのを自覚している。
 石動さんとどういう付き合い方をしていたのかとだ。
 奉納祭りの後に私を置いておきながら、今では私と付き合ってくれている。
 どういう心境の変化があったのだろう。
 薄氷の上にいるかのごとく不安定で寄り添っているだけの関係かもしれない。
 だから結婚という確実なものを願い、竹林での告白をプローポーズにしてしまった。
 本当はたった一言があればいいのに、それ以上のものを提供された。
「昨日の今頃は待たせていたのに、一日で変わってしまった」
「ずっとどうなるか考えていたわ。気分転換にいろいろしていた」
 料理やストレッチ、掃除や読書までと新たに手を伸ばしてもすぐにやめた。
 落ち込んだり期待したりと困惑していても、あらゆる結果を受け入れようとした。
「ただ乃絵に絵本を見せるだけでなく乃絵のことも考えてあげたかった。
 だから時間をかけてみたんだ。
 それとあの絵本はカラーコピーしてあるので、比呂美が見たかったらいつでも見せてあげる」
 眞一郎くんは疑われないように私の様子を窺う。私は右手を顎の下に運ぶ。
「今度にするわ」
 しばらく間を置いてからにした。
 即答で拒否をしたくてもできずにいた。
 竹林であの絵本を見たいと言ったのは、強がりな対抗心だった。
 絵本だから読者にさまざまな感想を引き起こす。
 今の私なら石動さんとの仲が終わっていないような都合の悪い解釈をしてしまうだろう。
 たとえ眞一郎くんが後ろめたくない内容に描いていてもだ。
「深呼吸しよう」
 仲上家の門の付近で立ち止まる。
 手を繋いだままで両腕を広げる。
 冬の冷たい空気を肺に入れてから吐くと、息は真っ白だ。
 眞一郎くんと見つめ合ってから、小さく頷き合う。
 眞一郎くんが先に外回りで門の前に姿を見せると、私も後から同じようにする。
 箒を両手で握り締めて掃いているおばさんがいた。
 まだ敷居をまたげていない私たちの気配を感じたようだ。
 私たちの姿を捉えてから繋がれている手に視線を落とした。
「おかえりなさい」
 最近してくれている優美な会釈だった。
「ただいま……」
「ただいま」
 言い淀んだ眞一郎くんに対して、私は最後まで言い切った。
「そんなところにいないで居間でお茶にしましょう」
 くすりと微笑んでから提案してくれた。
「手伝います」
 おばさんのそばに行ってから伝えようとしたくても、眞一郎くんの手を払えない。
「こういうときは、比呂美が連れて来た男の人のそばにいてあげるものよ。
 ちょっと用事を済ませるわね」
 おばさんは一方的に会話を終えて箒を持ったまま去っている。
 雪はまだ降っているし、掃くほどに落ち葉があるわけでもない。
「俺はお袋の息子なのに」
 寂しげに洩らしていた。
「おばさんは私の立場でおしゃってくれたのかも。
 いつか私が男の人を連れて来るようになるって」
 わざと復唱して眞一郎くんを責めてみた。
「こういうことは女のほうが意識するものだろうな。
 昔と重ねてもらえているのを実感できたが、親父のときはどうしたのだろう」
 眞一郎くんから足を動かしてくれて、私も合わせてみる。
 このまま敷居をまたいで玄関まで行けた。

               (続く)



 あとがき
 今回から比呂美視点に戻ります。
 情緒が豊かになり独自設定の情報量が増えるでしょう。
 前回までは楽観的な眞一郎だったのですが、比呂美は現実的です。
 理恵子はあの管理人さんのごとく箒を握っていました。
 あの人は掃除しか仕事がないほどに掃いてばかりです。
 同じ行動をしていた理恵子が用事を済ませてから、ふたりと向き合います。
 理恵子が家事をしている場面を見たかった。

 次回は、『過去と、現在と、将来と 2 白い結婚』。
 居間で待たされている気がするふたり。
 ようやくお盆にお茶を運んで来る理恵子。
 真っ先に比呂美との結婚の決意を明かす眞一郎。
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