なくすものがないぼくたち(後編) ◆npj8TUxVrE



V3は覚醒する。
気を失っていたのは一秒にも満たない。
その間に振り上げられた銃底が、再びV3の眉間に振り下ろされようとしている。
V3は右拳でそれを受け止めた。
傷口が更に抉れ、血液が迸るが気にはならない。
それよりも、心が痛い。
目の前の男は、悪などではなかった。
ただ、空虚なだけだった。
V3は泣いていた。
正義を失い、悪に堕ちることもできず、自分を空っぽにするしかなかった同胞を想って。
複眼から血の様な涙を流していた。
ボイルドの拳を通してV3は感じ取った。
彼がかつて抱いた醜い妄想を。
良心が炸裂する爆心地を望む心を。
その矛盾に苦しむ魂を。
V3は僅かながらそれらを自分のものとして共感したのだ。
だからこそボイルドの拳はV3の胸に響いた。
だからこそV3はボイルドを倒さなければならない。

「ボイルド……俺とお前は違う。
俺にはまだ多くの仲間がいる。お前にはもういない。
俺の敵は滅んでも誰も困らない真の悪。お前の戦場は利害が絡み合い、正義の方向は明確でない。
俺には、お前の抱える虚無が理解できない。
だがッ!」

V3は傷か広がるのも構わずに、全力でボイルドの腹を叩く。
ボイルドの体が吹っ飛ぶが、ただ押されただけといった感じでダメージを受けた素振りを見せず、悠然と着地した。

「だからこそ知って欲しい! まだ世界にはマルドゥック・スクランブルと理想を共にする仲間が存在することを!
安易な方法でなく、血の滲む苦労でしか得られない種類の幸福に、掛け替えのない価値が残っていることを!」

思い浮かぶのは、修羅の如く怒りに燃えるチンクの姿。
復讐を遂げ、シグマを過剰にいたぶり嘲り笑うチンク。
妹の存在を、それを失った悲しみもろとも忘れ、呆けた様に笑うチンク。
殺し合いでただ一人生き残り、シグマの褒美で蘇らせた妹達と喜び合うチンク。
最初以外の可能性はゼロに等しいけれど、ひょっとしたら有り得る未来。
どのチンクも笑顔だ。
しかし、仮面ライダーV3は望む。
もう一人の妹と共に生き残り、セインを失った現実を正面から受け止め、力一杯泣く。
その悲しみを胸に、生存者たちと共に前向きに生きる。
そんな未来に、いつか、見せてくれるだろう笑顔を。

「魂を取り戻せボイルド!
お前は空っぽなんかじゃない!
お前の悲しみも、お前の怒りも、この仮面ライダーV3が受け止めてやる!!」

轟然と襲い掛かるボイルド。
ボイルドの左拳がV3の頬を弾き飛ばす。
ボイルドの右膝がV3の脇腹に叩き込まれる。
ボイルドの右足がV3の顎を打ち砕く。
V3は血反吐を吐いて後ずさる。
しかし決して倒れない。
決して膝を折らない。

「どうしたボイルド! その程度では仮面ライダーは倒せないぞ!
もっと魂を込めて打ち込んで来い!」

両手を広げ挑発するV3。
何の躊躇いもなくボイルドはそれを叩き伏せた。
ボイルドの左アッパーが華麗に決まり、V3は錐揉みしながらぶっ飛ばされる。
意識が飛んでいる内に追撃すべく、ボイルドは拳銃を宙に舞うV3に向けトリガーを引いた。

「――――この瞬間を待っていた!」

頭を激しく揺さぶられたV3はしかし、気絶などしていなかった。
錐揉み状態のまま空中でバランスを取り戻すと、自身の回転をダブルタイフーンの力で加速させる。
宙返りしながら、V3とボイルドを結ぶ線を軸に、回転エネルギーを溜め込んで行く。
加速/加速/加速。

「V3スクリューキ――――ック!!」

V3の右足と50口径AE弾が激突する。
スクリューの様に回転するV3のキックは銃弾を粉々に打ち砕いた。
銃弾の持つ運動量自体は大したものではない。
V3の勢いが衰える兆しはない。

「やはりそういうことか!」

先程拳に銃弾を当てられた際、感じた違和感。
どうやらボイルドは銃を撃つ際に、銃弾を通すためにバリアーに穴を開けている様だ。
その僅かな隙間に針を通す様に、指向性の強いスクリューキックを放てば、防ぐ事はできないだろう。
V3の読みは当たっていた。
V3のキックは全くスピードを落とさず、そのままボイルドの胸に吸い込まれた。
ボイルドは堪らず吹っ飛ばされる。
二、三度地面をバウンド。
胸を押さえながらもひらりと身を翻して、膝立ち状態で止まった。
いまだ闘志を燃やす瞳で、V3を睨む。

「まだ倒れないか……ならばアレを使うしかない」

V3が走り出す。
腰のダブルタイフーンが逆方向に回転し始める。
力と技の風車から光が零れる。

「V3逆ダブルっ……タイフ――――ン!!」

V3を軸にして、膨大なエネルギーの渦が発生する。
渦は加速し竜巻となり、暴風となって当たり一面を無茶苦茶に吹き飛ばす。
更なる加速。
路面が剥がれ、粉々に砕けながら遥か上空に吹き飛ばされる。
建造物が跡形もなく粉砕され、瓦礫のつぶてとなって吹き荒れる。
地上の形あるもの全てがV3を中心にして炸裂した。
V3以外、何ものも存在を許されない。
その筈だった。

「――――ッ!」

ボイルドは立っていた。
大地に両足を着けて。
吹き荒ぶ嵐の中で、一歩も動かされることなく、微塵も揺れることなく。
相変わらずのうっそりとした眼付きで、V3を睨んでいた。

「馬鹿な……っ!」

V3の全エネルギーを載せた逆ダブルタイフーンをまともに受けて無事で済む筈がない。
V3は自ら渦中に飛び込み、渦巻く奔流に乗って空中で大きく回転し始める。
だが、遅い。
必殺の遠心キックが届く前に、銃口をもたげたボイルドの無慈悲な射撃がV3の胸を貫く。

「ぐわあァァァ――――っ!」

地面に打ち付けられ、倒れ付すV3の体。
逆ダブルタイフーンが終了し、嵐の時間は終わる。
ダブルタイフーンの回転が火花を立てて止まり、V3の変身が解除される。
うめきながら志郎が辺りを見回すと、周り一面廃墟と化していた。
まともに形を残しているものは、何もない。
ボイルドだけが立っていた。
男が呟く。

「俺の能力は無重力下での戦闘を考慮して開発されたものだ。
上下左右、どのベクトルから力を加えられても、俺は俺の軸を見失うことは無い」

志郎はようやく悟った.
ボイルドの能力は念動力などではなかった。
重力だ。
近くの物体を触れずに動かすこともできるが、それよりも自身にかかる力場を操作することに長けた能力なのだ。
V3の攻撃が当たってもそれほどダメージを受けていなかったのは、とっさにその方向に自分の体を加速して、衝撃を受け流していたからなの

だろう。
志郎は歯噛みする。
自分にとって相性が最悪な能力だ。
ストロンガーの電撃の様に、重力に作用されない攻撃手段を、V3は殆ど持ち合わせていない。
しかも、逆ダブルタイフーンの影響で、当分自分は変身できないのだ。
絶体絶命だった。
弾切れになった拳銃の弾倉を交換しつつ、ボイルドは一歩一歩志郎に近付く。
志郎もふらふらと立ち上がりながら睨み返してやるが、どうしようもない。
再装填を終えたボイルドが銃口を向けたその直後、どこからともなく飛来した棒状の物体が男の足元に突き刺さった。
赤い三角の道路標識="止まれ"。
けたたましい排気音が響き渡る。

「カザミイィィィ――――!」

おっかなびっくり、明らかに体に合っていない大きさのサイクロン号に跨って、去ったはずの隻眼の少女が猛烈な勢いでこちらに向かって来た


全くスピードを緩めずボイルド目掛けて突っ込む。
何の遠慮もなく大男を轢き飛ばすと、志郎の目の前で緊急停車。

「乗れッ!」

一瞬の躊躇。
目の前の暴走する強大な力を野放しにすることへの躊躇い。
だが変身できない現状では、ボイルドに正義を示すための力が足りない。
志郎は断腸の思いで単車の後部座席に飛び乗る。
再び発車しようとするバイクに向けられるボイルドの銃口。
チンクは左手でナイフを二本、後ろ手に投げ付ける。
ボイルドのフロート、重力能力が飛来するナイフを遠方へ弾き飛ばす。
しかし、ナイフはフェイクだ。
ボイルドとチンク達の間にある一時停止の道路標識が突然爆発。
一面に煙が充満する。
その間にチンクは再びエンジンを噴かせ、アクセルを全快にして、志郎と共に走り去った。




煙が晴れ、バイクが走り去って行く方向を確認しつつ、ボイルドは穿たれた胸を押さえる。
難攻不落のフロートによる防御、その数少ない弱点を見事に突かれた。
そしてその後の逆ダブルタイフーンもまた、少なからずボイルドにダメージを与えていた。
重量場の出力が明らかに落ちている。
そもそも本調子ならばV3を近付けることすら許していない。
恐らく修復される際に識閾値を落とされたのだろう。
痛む胸を押さえる。
ふと、V3の叫びを思い出した。

(――魂を取り戻せ!――)

ボイルドは矢張り、何も感じられない自分を自覚する。
その魂は全て、あのネズミに託してしまったのだから。
銃が必要だった。
今手にあるものよりもっと強力な銃が。
V3の拳を一撃で吹き飛ばせるものが。
V3の必殺キックに対抗できるものが。
でなければ、少なくとも弾薬が必要だった。
先の戦いでは、残弾数を気にする余り攻め手を欠いていた。
しかし補給無しでは、このままの調子で撃ち続ければじきに手詰まりになる。
ボイルドは地面に落ちているナイフを拾い上げる。
銀髪の少女が囮に投げたものだが、爆発する様子はない。
今回の収穫はこれだけだ。
しかも向こうに再転送されてしまったら意味がなくなる代物。
一方向こうには、こちらの手札を知られてしまった。
彼らが体勢を立て直し、包囲網を形成する前に、追撃する必要がある。
今すぐに、だ。
ボイルドはPDAを手に取る。
使い慣れない移動手段ではあるが、仕方がない。
ボイルドは最後の支給品を転送した。




「……何故戻った」

大型二輪を見るからに規定身長以下の少女が操り、後部に大の大人が乗せてもらっていると言う奇妙な現状。
運転を代わろうかを言いかけて、今の自分の手ではハンドルを握れないことに気付いた志郎は、代わりにそんなことを尋ねる。

「……お前には借りがあった。それを返しに来ただけだ。
お前の負ける様を見れば、何か突破口が閃くかも知れなかったしな」

つっけんどんな調子で答えるチンク。
始めからあの道路標識の様に、何か役立つものを探しに行っていただけなのではないか。
もしそうなら、まったく、素直じゃない奴だ。
そんな考えがよぎって、志郎は小さく笑う。

「何を笑っている……気持ちの悪い奴だ。
そんなことより、お前の事だ、ただ一方的にあの男にやられていたわけではないんだろう。
何か弱点は判ったのか」
「ああ、奴は重力を操る。
近くの物体だけでなく自分自身にまでその効果が及んでいた。
電気や光と言った、重力の影響が小さい手段しか通用しそうにないな。
ただ、攻撃の瞬間だけ、奴の重力の盾に穴が開く。
力学的な攻撃でなら、狙えるのはそこだけだろう」
「厄介だな……。
寝込みを襲うか、疲弊した所で不意を突くしかないか」

もっとも志郎が卑怯な手を認めるとは思えないが。
チンクにもV3にも、有効な攻め手がない相手だ。
二人は黙り込み、男に対抗するための手段を考える。
ただ、志郎の胸には、また別のやるせない思いがあった。

(奴が……ボイルドが人を殺めるのならば、俺は絶対に奴を倒さなければならない。
だが、もしできるのであれば、ボイルドには仮面ライダーになってほしい)

結城=ライダーマンの時の様な、何か仲間になってくれる切っ掛けのようなものは、おそらくない。
それでも、かつて仮面ライダーと同じ理想を持った人間を救うことを諦めるのは、志郎には耐えられない事だった。

「……なあ、カザミ」

不意に、チンクが話しかけてくる。

「どうした?」
「いや、大したことじゃないと言ったら、確かにそうなんだが……」
「?」

彼女らしくもない、曖昧な物言い。

「背筋が寒いというか、何か物凄く嫌な予感がするんだ。
後方の確認をしてくれないか。
いや、できればで良いんだが」
「バックミラーがあるじゃ……ああ、そうか」

彼女の座高では、ミラーの角度が合わず、後方確認ができない。
指摘されて若干彼女の機嫌が損なわれたような気がしたが、気のせいだろう。
志郎は痛む身を捻って後ろを振り向き――――凍り付いた。

「チンク、逃げろ」
「はあ? 何を言って……」
「奴が追って来た、逃げるんだ」
「馬鹿な、我々以外のエンジン音は聞こえないぞ。
こっちが一体時速何キロで走ってると思って……何いイイィィィ――――!!?」

苦労して運転座席から後方へと顔を捻ったチンクは、驚愕した。
ボイルドが凄まじい速度で迫っていた。
……自転車で。
どう見ても何の変哲もない、自前の動力無しの自転車が、二人乗りとは言え全速力のサイクロン号を、確実に追い上げていた。
全身から殺意を放つ怪物が、市販のスポーツ用自転車に乗って、前傾姿勢で一直線に猛追して来る。
幾多の修羅場を潜り抜けてきた二人をも震え上がらす程の、形容し難い未知なる脅威がそこにあった。

【F-4 道路/一日目・黎明】
【風見志郎@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:約三時間V3に変身不能、疲労大、両拳に重症、頭部と胸部と左肩に中程度のダメージ、
左腰から出血、全身に僅かな火傷、固い決意、やるせない思い
[装備]:なし
[道具]: 支給品一式、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本:殺し合いを破壊し、シグマを倒す
1:ボイルドを振り切り、体勢を立て直して反撃
2:チンクと共に本郷・敬介・茂・村雨・スバル・ギンガ・ノーヴェを探し、合流する
3:殺し合いに乗った危険人物には容赦しない
4:可能ならば、ボイルドを仮面ライダーにしたい
5:シグマの真の目的を探る。そのためにエックスと呼ばれた男、赤い男(ゼロ)と接触する
6:弱者の保護
7:北東へ向い金属を集める(優先順位は低い)
[備考]
※参戦時期は大首領の門に火柱キックを仕掛ける直前です(原作13巻)。また身体とダブルタイフーンは元通り修復されています
※チンクと情報交換をしました
※なんとなくチンクを村雨、そして昔の自分に重ねている節があります

【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:小程度の疲労、両腕に僅かな痛み、固い決意
[装備]:サイクロン号(1号)@仮面ライダーSPIRITS(志郎の支給品)、ヴィルマの投げナイフ@からくりサーカス(10/30)
[道具]: 支給品一式、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本:ノーヴェを守り、シグマを破壊する
1:ボイルドを振り切り、体勢を立て直して反撃
2:志郎と共に本郷・敬介・茂・村雨・スバル・ギンガ・ノーヴェを探し、合流する。
またノーヴェを最優先にする。
3:殺し合いに乗った危険人物には容赦しない
4:スティンガー、シェルコートを手に入れる
5:北東へ向い金属を集める(優先順位は低い)
[備考]
※参戦時期は本編終了後です
※優勝者の褒美とやらには興味がなく、信用していません
※志郎と情報交換をしました、また完全には志郎の事を信用していません


【ディムズデイル・ボイルド@マルドゥックシリーズ】
[状態]:中程度の疲労、全身に中~小程度のダメージ、胸部に中程度の打撲
[装備]:轟天号@究極超人あ~る、
    デザートイーグル(7/7)@魔法先生ネギま! 、弾倉(7/7)×1+(0/7)×1
    ※弾頭に魔法による特殊加工が施されています
[道具]:支給品一式、ネコミミとネコにゃん棒@究極超人あ~る
    ヴィルマの投げナイフ@からくりサーカス×2(チンクの支給品)
[思考・状況]
基本:ウフコックを取り戻す
1:目の前の二人を追撃
2:バロットと接触する。死んでいる場合は、死体を確認する
3:ウフコックがいないか参加者の支給品を確認する
4:充実した人生を与えてくれそうな参加者と戦う
5:もっと強力な銃を探す
[備考]
※ウフコックがこの場のどこかにいると結論付けています。


【轟天号@究極超人あ~る】
ブリヂストンサイクルのロードマンがベースのスポーツ型自転車。
R・田中一郎はこれに乗り、新幹線とほぼ同じ速度で東京―京都間を走破したが、轟天号はこの強行軍に耐えうる耐久性を持つ。

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022:赤い戦士と銀髪隻眼少女の邂逅 風見志郎 044:A/B LIVED
022:赤い戦士と銀髪隻眼少女の邂逅 チンク 044:A/B LIVED
029:充実した人生を ディムズデイル・ボイルド 044:A/B LIVED





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