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 ◇ ◇ ◇


「倒れるほどの攻撃じゃなかったというなら、エックスは何を企んでいるんだ……」
「知るか」

 そんなことを話しながらエックスの元へ進むのは、Xライダーとナタク。
 Xライダーは徒歩で、ナタクは哮天犬に跨っての移動中だ。

 ドラスとチンクは少し離れた場所にいる。
 戦いを放棄したのではなく、遠距離からXライダーとナタクを援護するためだ。
 本来遠距離攻撃に最も長けているのは、ナタクであるのだが……援護役に甘んじるはずがなかった。

「貴様、いつまで寝たふりを続けている」

 ナタクが、マシンガンアームの銃口を横たわるエックスに向けた。
 その時であった。

 空間が引き裂けるような威圧感が、周囲に立ち込めたのは。

 Xライダーとナタクは、この感覚に似たものを知っていた。
 キングダークに聞仲、両者が相手をした中でも最強の部類。
 それらと対峙した際、肌と肉を通り越して脳髄を刺激したプレッシャー。
 まさに、それが両者に襲い掛かった。

「……ッ、貴様!」

 ナタクがマシンガンアームではなく、持ちうる最高の破壊力を持つ武器――乾坤圏を放とうと判断。
 Xライダーも両手で構えていた燕を左手だけに任せ、跳躍せんと両脚に力を篭める。
 しかし、すぐにナタクが気付く。
 射程が広く火力の高い宝貝を所持していながら、同じく射程が広く火力の高い宝貝を幾度となく相手にしたことがあるから。
 だからこそ、ナタクだけが察した。その鋭い嗅覚で。

 ――――地面の下に出現した高出力のエネルギーを。

 すぐさまナタクは右腕の方向を変える。
 エックスの頭部から、Xライダーの方へ。
 Xライダーが驚愕の声を零すよりも早く、ナタクは乾坤圏を放った。
 以前のようにガードすることもできずに、山をも粉砕する宝貝を受けたXライダーは耳にした。
 吹き飛ばされる寸前に、やけに静かに――

「ドラスを頼む」

 とだけ告げたナタクの声を。

「あの男――――!?」
「ナタク!? 何を――――!?」

 離れているとはいえ、はっきりとナタクの行動を目にしたチンクとドラス。
 彼女達は思わず素っ頓狂な声を上げそうになるが、それも半ばで中断させられる。
 ナタクを乗せていたはずの哮天犬が駆けつけると、チンクとドラスを銜えてさらに加速したからだ。
 どんどんとナタクから遠ざかろうとする哮天犬、その風圧に耐えてドラスは目を見開き――見てしまった。
 エックスの上下から巨大なエネルギー結晶体が出現し、先程までチンクとドラスがいた場所までも焼き尽くしているのを。
 あそこまで攻撃が届いているということは、エックスに近付いていたナタクは――?
 ドラスがそう考えたと同時に、加速していた哮天犬が急に原動力が切れたかのように停止した。

「ナタ、ク…………?」

 うわ言のように呟いたドラスの目の前で、エネルギー体が消えていく。
 立ち込めている煙の奥にドラスが捉えたのは、倒れていたはずなのに立っているエックス。
 そして、これまた棒立ちするナタク。

「ナタク! 早く逃げて!!」

 そう叫んだドラスの目の前で……――――


 ◇ ◇ ◇


「成る程、こういう攻撃か」

 激しい光に包まれながら、ナタクが吐き捨てる。
 上下から出現したエネルギーの塊によるダメージは、実のところ殆どない。
 かろうじて挙げれば、髪を逆立てていた石が砕け散ったくらいのものだ。
 しかし身体に痺れが生じて、当分動けそうにない。
 そんなナタクに、立ち上がったエックスが尋ねる。バスターからチャージ音を響かせて。

「どうして逃げなかった。あの犬を持つ君には、逃げられても仕方がないと思っていたのだが」
「三人乗れば、さすがに間に合わん」
「何?」
「……ふん、関係ないな」

 小声での返答は聞こえなかったようで、エックスが聞き返す。
 それには答えずに、ナタクはそっぽを向く。

「まあいいさ。君の不意打ちのおかげで、ギガアタックを放てるようになったからな。礼だけ言っておく」

 光が消滅して立ち込める煙さえも風に吹かれた中、エックスがチャージを終えたバスターを向ける。
 腕を動かそうとするがやはり動かないのを再確認して、ナタクは舌を打とうとするがそれも叶わない。

「ナタク! 早く逃げて!!」

 届いた声に、ナタクは閉じようとしていた瞳を見開く。まだ言うべきことがあるから。
 初撃で殺しておけばよかった、などという言い訳ではない。
 自分の末路に悪態をつくのではない。
 許しを請うのではない。
 諦めの言葉ではない。
 言い訳ではない。
 命乞いではない。
 虚勢ではない。

 ナタクのよく知る少年に、ナタクの中で苦い思い出となっている同属に、とてもよく似た少年に言うべき言葉。

 自分の死によって彼が悲しむことだけは、ナタクは望まない。
 ドラスが自分のせいで泣くことだけは、ナタクは避けたかった。
 それゆえに、ナタクは告げる。
 できる限り普段と変わらない口調を保ち、震える身体で無理矢理に声を張り上げる。
 ドラスに届かぬことのないように。

「ドラス、何を喚いているのかは知らんが――――俺は死なん」

 それを言い終わったのと同時だった。
 ナタクの左胸を光の矢が貫き、ナタクが彼らしくないほどに力なく倒れ臥したのは。
 ナタクの胸に開いた風穴の中で、白黒二色から成る球体が粉砕されていた。

「う……ぁ……?」

 目の前の光景、さらに一切動きそうにない様子。
 マニキューザーを放ったときのように、何事もなかったように立ち上がるのではないか。
 そんな夢を見るドラスの前で、エックスはナタクの装着していたマシンガンアームをもぎ取ると冷徹に呟いた。

「一体目、だ」

 武器を奪われたというのに、何も言わないナタク。
 そのありえない状況に、ドラスはナタクが起き上がることがないのだと理解をし――――

「う……あ、あああぁぁああああッあああああああああぁぁあっ!」

 何度目かの喪失に胸を焼くような感覚を抱いて、エックスの元へ駆け抜ける。
 道中で怪人態となって、固く握り締めた拳を振りかざす。
 チンクの静止の声も聞かずに、絶叫とともにただ直進する。
 そんなドラスを見つめるエックスの瞳は、やたらと冷え切っていた。


 ◇ ◇ ◇


「凱が騙されて殺されただと……?」

 風見志郎の死に様を聞いた時は、合点がいくような素振りを見せていたサブロー。
 別れた後の獅子王凱の顛末を知って、無意識のうちに情けない声を漏らしてしまう。
 偽名を名乗っていた男が、不意を付いて凱を殺した。
 その事実に恐竜を模したデストロン破壊大帝を連想し、血が滲むほどの力で拳を握り締める。

「本当なのか!?」

 言いようのない怒りに突き動かされ、ゼロの胸倉を掴んだサブロー。
 サブローの手首を掴み返して払いのけると、ゼロは嘘はないと断定する。
 ゼロもまた内に怒りを煮え滾らせており、彼らしくない厳しい口調になってしまう。
 その態度にサブローは、ゼロの感じている不甲斐なさを察する。

(凱…………お前はマヌケだ。一度不意を付かれて倒れていたというのに、再び……)

 自分を打ち負かした勇者に、サブローは胸中で厳しい言葉をかける。
 しかし凱に対して興味を持った自分が間違っていたと、サブローが思い直したのではない。
 言葉に出さずに、死んでいった金色のサイボーグにサブローは宣言する。

(お前と俺の決着を付ける戦い、その邪魔をしたT-800は俺が破壊する!
 そちらで見ていろ、お前を殺した男が完膚なきまでに破壊されるところをな!!
 ……お前の仇を取る決意を、二度もすることになるとはな…………)

 どこか遠くを見るような表情で、サブローは考える。
 その瞳が映すのは、この場にいない赤と青の人造人間。

(この命をくれてやってもいい、お前以外に俺にそう思わせた正義の戦士が散った。
 …………怒りこそあるが、お前の時のような感情は不思議と溢れてこない。やはり俺にとって真の宿敵はお前だけであるだな、キカイダー)

 己の存在意義を再確認しているサブローに、ゼロが尋ねる。

「それで、お前の頼みとは何だ」
「――ッ、そうだ。胸糞の悪い話になるが、その覚悟はあるか?」
「頼む。何も知らずに、要求を飲むワケにもいかないからな」

 そう答えた途端、奇妙な感覚に襲われるゼロ。
 上り坂を倒れるまで全力疾走した時に似た、そんな感覚。
 倒れこみそうになったところで収束し、踏みとどまるゼロ。

「何をフラフラしている、お前らしくもない」
「いや……何でもない。話し始めてくれ」

 KATANAに跨ったままのサブローに返答しつつ、ゼロはチンクの向かった方向に軽く視線を向ける。

(……ふっ、まさかな。
 こんなものを気にかけてしまいそうになるとは、エックスでもあるまいし)

 よもやそのエックスが彼の仲間を襲っていようとは、神に在らざるゼロは知る由もない。
 すぐに視線をサブローに戻した。


 ◇ ◇ ◇


 ドラスの繰り出した右ストレートを、エックスは仰け反るだけで容易く回避。
 そのままの体勢で、止まりきれないドラスに右の中段蹴り。
 走っていた勢いに蹴りの力が上乗せされて、倒れたドラスは地面に身体を擦り付けて数メートルほど移動する。
 ギガアタックの影響で雪が解け、夕立のあとのように土は泥となっている。
 銀のボディを泥で塗れさせるドラスに、エックスは手に入れたマシンガンアームを向ける。
 威力はチャージしていないバスターと変わりないが、連射性能は遥かにバスターを凌ぐためだ。
 エックスが引き金に力を篭め、発射される無数の弾丸。
 ドラスを庇うように現れた白い犬が、それを受け止める。
 スピアチャージショットを受け止めた哮天犬だが、それは宝貝を使い慣れたナタクが使っていたため。
 弾丸を一つ受けるごとに、少しずつドラスの元へと追いやられていく哮天犬。
 しかし哮天犬を向かわせたチンクは、そんなこと予想済み。
 宝貝の操作に体力を奪われながらも全速力で駆けつけ、指の間に挟んだ四つの金属片をエックスに投擲。すぐさまISを発動。

「乗れ、ドラス!」

 爆炎に覆われたエックスを見ることすらせずに、哮天犬に跨ると半ば無理矢理にドラスも乗せる。
 怪人態ではサイズ的に哮天犬に乗るのは厳しいため、チンクはドラスに少女を模した姿に戻るよう促す。
 チンクの勢いに押されて、ドラスはそれに従った。
 もう一つ金属の欠片をエックスに投げつけて、チンクは哮天犬を駆動させた。

「……逃がさない」

 煙が晴れて良好になった視界を見渡し、エックスはすぐに遠ざかろうとするチンクとドラスを見つける。
 フリームーブのエネルギーを壁としたとはいえ、アーマーを纏っていない部分は若干黒く焦げている。それでも、エックスは止まらない。
 地面を蹴って宙を駆けるエックスに、チンクが操作する哮天犬はすぐに追いつかれてしまう。
 エックスはマシンガンアームを鈍器として、操縦者と思われるチンクを殴りつける。
 パワーアームのカセットをエックスが所持していなかったのが、チンクにとって不幸中の幸いといえるだろうか。
 地面を転がるチンクが意識を落とし、哮天犬が静止する。
 哮天犬から飛び降りてチンクを抱えようとするドラスだったが、フリームーブで急接近したエックスにサッカーボールのように蹴り飛ばされてしまう。
 まっすぐと上昇していくドラスに、エックスはチャージ音を響かせるバスターを向けるが――撃たずして跳躍。

「Xキィィイイイイイック!!」

 直後、エックスがそれまでいた場所がクレーターとなる。
 現れたのはXライダー。受けたダメージが大きすぎたために、少し出遅れたのだ。
 ファルコンアーマーを纏っているとはいえ、Xライダーはエックスにとって油断ならない相手。
 それなのに、エックスは割り込んできたXライダーを胸中で嘲笑う。
 なぜか――Xライダーを見れば、すぐに分かる。
 防御行動なしで乾坤圏を受けたことにより、胸部装甲は完全に引き剥がされている。
 全身を血で染めて、垂れ下がる左腕などは奇妙にひしゃげている。完全に粉砕骨折してしまっているのだろう。
 しかしエックスは油断をしない。あくまで冷酷なイレギュラーとして動く。
 チャージの完了したバスターを、Xライダーではなく落下したばかりのドラスへ向けて射出。
 Xライダーは迷うことなく、スピアチャージショットを追う。目の前にエックスがいたというのに。
 一人でも多く助けるのが、仮面ライダーであるから。

「っ、おお! 間に合えええええええ!!」

 Xライダーが叫ぶ。
 その時、不思議なことが起こった。
 血を流しすぎて速度が落ちていたはずのXライダーが、普段と遜色ないスピードを出したのだ。
 その時、彼が右手に持つ燕が蒼く輝いたのだが――それは誰も見ていなかった。
 急加速によりスピアチャージショットを追い抜いたXライダー、ドラスの前に立つ。

「ライドルバリアー!!」

 この戦い、二度目のライドルバリアー。
 体勢を崩したとはいえ、前回は燕がスピアチャージショットを掻き消した。
 今回も、得物に変化はない。
 変わったのはただ一つ――Xライダーのコンディションだけ。
 それでも、Xライダーは失敗を信じない。
 ここで失敗すれば、自分が傷付けた少女がさらにダメージを負ってしまうから。
 それだけはあってはならないと、右手一本で燕を回転させるXライダー。
 再び、不思議なことが起こる。
 燕が蒼い光を放つと、片手だけでありながら前回以上の回転速度で燕が回転する。
 そして巨大な光弾は、跡形もなく大気中に霧散した。
 全て見ていたドラスが、Xライダーに感嘆の言葉をかけようと立ち上がり――――

「ぐ……あ…………」

 苦悶の言葉を漏らして、Xライダーが神敬介の姿に戻った。
 呆然とするしかないドラスの瞳が映したのは、特に損傷が酷い敬介の胸部に左拳を叩き付けているエックス。
 エックスが拳を敬介から離すと、敬介は抵抗することなく地面に倒れこむ。

「また消されるとは思っていなかったが……念には念を入れておいてよかったよ」

 エックスの言葉で、ドラスは気付く。
 別にスピアチャージショットを防がれようと、エックスは構わなかったのだと。
 防いだところで、エックスはフリームーブで接近していたのだから。
 ドラスを守りに向かった時点で、敬介はエックスの策に嵌っていた。
 自分のせいでナタクは核を破壊され、チンクと敬介は倒れた。
 その事実を受け止めたドラスに、エックスはバスターをチャージしながらゆっくりと接近する。
 怪人の姿を見たために、姿を変える前にドラスを殺害するつもりなのだ。

「哮天犬!!」

 ドラスの叫びに答えるように、倒れたチンクを眺めていた白い犬がエックスに飛び掛る。
 咄嗟にエックスは、フルチャージが完了していたバスターを哮天犬に放つ。
 哮天犬の性能を何度も目撃していたがゆえのドラスの行動だったが、彼の予想通りに事は進まない。
 使用者が違うために、供給されるエネルギーが足りず――――眉間を打ち抜かれた哮天犬は倒れこんだ。
 もうドラスの呼びかけにも、答えはしない。

「うわああぁぁああぁああああぁあああああああっ!!!」

 ナタクが残した宝貝までも破壊されて、絶叫するドラス。
 怪人態になる余裕も与えられずに、再びエックスに蹴り飛ばされた。


 身体は動かないというのに、音声だけが流れ込んでくる。
 かつて乾坤圏で顔面を打ち抜いて死んだ時と似た感覚、しかし確実に何かが異なる。
 ドラスが叫んでいる。悲痛な声だ。
 結局、俺はドラスを悲しませてしまったのか。

 ――――理想を語るには、それに見合う力が必要だ。

 何年前だったか、殷の大使である聞仲に告げられた言葉が蘇る。
 あの時、俺はあの男に手も足も出なかった。
 ヤツの操る禁鞭によって、俺の宝貝は軽々と破壊された。
 俺の感覚では強い部類に入るヨウゼンも、ヤツの前には赤子同然だった。
 仙界大戦において倒れたらしいが、ヤツには理想を語るだけの力があった。
 そして、俺にはない。
 理想を語るに見合う力が、俺には…………
 理想――俺の望みは、ヤツや太公望と比べたら小さなことだろう。
 殷だか周だか知らんが、国なんかどうでもいい。仙人界も知ったことではない。
 戦いは好きだが、それは理想ではない。

 母上が幸せで、天祥との約束を守れて、ドラスが笑っている。
 そもそも母上のために一度捨てた身なのだから、俺はそれだけでいい。

 人間界から仙人を排除しようと、太公望はやたらと他人を気にしている。だからこそ、封神計画などを任されたのだろう。
 俺は、他人などどうでもいい。
 俺が守りたい人を守れれば、それでいい。
 かつては母上だけだったが、最近になって増えた。それでも数人だ。
 だが、それすらも完遂する力が俺にはない。
 ここに呼ばれたのが太公望やヨウゼンならば、ドラスは悲しまなかったかもしれない。
 アイツ等がいれば、一体も死ぬことなく既にシグマを殺しているかもしれない。
 しかし、俺は頭の回るアイツ等とは違う。
 俺には策を練る頭脳などないから、力だけ求めた。
 新しい宝貝を作らせた。
 宝貝の出力を上げさせた。
 肉体自体を改造させた。
 霊珠の強度も、出来る限り高くさせた。
 何より、暇さえあれば修行をした。
 馬鹿兄弟やヨウゼンと、実戦経験も積んだ。
 誰かを殺すことで、その力を確かめようともした。
 それでも、それだけやっても、俺は俺の理想すら語ることができない。

 欲しい。
 心の底から欲しい。
 力が。
 力が欲しい。
 この世で最強になるほどの力じゃなくていい。
 母上を守れるだけの、天祥を育てられるだけの、ドラスが悲しまないだけの力でいい。



 チカラが、欲しい。



 ――――――――――…………クン、ドクン。


 蹴り飛ばされたドラスは、ネオ生命体の姿になる暇を一向に手に入れられない。
 空中にいる状態で機関銃を放たれ、それを何とか防御障壁で防ぐ。防ぎきれなかった数発を食らうが、ネオ生命体には致命傷になり得ない。
 そしてマシンガンアーム使用中にチャージされたバスターが、落下したと同時に放たれる。
 怪人態に変化しようとすれば直撃してしまうために、必死でもがいて回避する。
 そのおかげで何とかスピアチャージショットは回避できるのだが、その頃にはフリームーブでエックスが接近している。
 結果、またしても腹を蹴り飛ばされて宙を舞うことになる。少女を模した姿のままで。

(なぜ、まだ避けれるんだ……)

 ドラスが吐き出した緑色の血を顔に浴び、エックスが不快そうにそれを拭う。
 彼の予想では、数回蹴り飛ばせばスピアチャージショットを回避できる余裕がなくなるはずだった。
 それなのに、ドラスはスピアチャージショットだけは食らわないでやり過ごしている。
 鬼となったはずのエックスだが、少女の腹を何度も何度も蹴るのは気が引けた。
 しかし、またもやドラスはスピアチャージショットを回避する。
 もう立ち上がってくるなと胸中で嘆願しながら、エックスはドラスの腹を全力で蹴り上げた。
 例によって、バスターにエネルギー充填しながらマシンガンアームをドラスに向け――エックスは気付いた。

(アレは……)

 ドラスの右手首には、腕輪のようなものが装着されていた。
 それは、エックスも見覚えのある道具――ナタクが装着していた宝貝。
 そのことにエックスが気付いたのと、ドラスが乾坤圏を発射したのは同時だった。

「ふッ!」

 勢いよく息を吐いて、エックスはフリームーブの勢いで高く跳躍。
 ぎりぎりのところで、何とか当たることなくやりすごす。
 地面に作られたクレーターを確認して、冷や汗を流すエックス。
 同時に、勝利を確信する。

(倒れなかったのは、Xに使ったままのあの道具に望みを賭けていたからか……
 しかし、その希望も潰えた。もうあの少女に勝機はない……やっと諦めるはずだ)

 その考えの通り、空中にいるドラスはもう勝負を捨てようとしていた。
 どうにか乾坤圏を回収して反撃に転じる策だったが、それさえも水泡と化した。
 倒れている二人とナタクへの申し訳なさで、ドラスの視界が霞み始めた。

「そうじゃない」
「なッ!?」
「……嘘」

 ゆえにエックスとドラスは、唐突に浴びせられた声に驚くこととなる。
 彼等の驚愕など関係ないとばかりに、声の主は言葉を続ける。

「乾坤圏は強大だが、連射できない。連射可能な道具と合わせて使え」

 エックスは空中にホバリングしながら、ドラスは落下の衝撃で背を痛めながら、声のした方向に視線を向ける。
 瞳に映ったのがあり得ないはずの男であり、エックスとドラスが共に目を見開く。
 声の主がPDAを取り出し、数回ボタンを操作する。

「ッ、まず――」

 すると、エックスの手元からマシンガンアームが消滅。
 直後に、先程出来たクレーターの中央から乾坤圏も消滅。
 そして、その両方が声の主の眼前に再転送される。

「ぁ、え…………」

 言葉も出てこないドラスの視線を受けながら、声の主は『右腕』に乾坤圏を装着。左腕にマシンガンアームを構える。
 マシンガンアームの引き金に力をかけて、そのまま固定。ひたすらの乱射。
 前に声の主と戦ったときのように、エックスはフリームーブで飛び回り続ける他にない。
 バスターからの通常弾と機関銃の弾丸が相殺、残った弾丸はエネルギーのバリアでエックスに届かない。
 旋回するエックスに、声の主が乾坤圏を放つ。
 フリームーブをいったん停止させることで、エックスはそれを辛くも回避する。

「相変わらずいい反応だ。だが、死ね」

 かけられた言葉に、エックスは自然に息を飲む。
 回避したはずなのに余裕を持っているから? 否。
 その理由は、声の方向――――エックスの背後。
 自らが射出した乾坤圏に、声の主は『飛行』して追いつき再装着したのだ。
 エックスが振り向こうとするが――――その暇すら与えられなかった。
 ファルコンアーマーで守られているとはいえ、背中に乾坤圏をもろに受けてエックスは吹き飛んだ。

「えっと、あの、さ…………」
「ム?」

 自分の前に降り立った声の主に、ドラスは話しかけようとして口ごもる。
 数刻かけてどうにかこうにか落ち着きを取り戻し、ドラスは再び口を開く。

「ナ、タ……ク…………?」
「見れば分かるだろう」

 何を尋ねることがあろうといった表情で、返答する声の主――ナタク。
 目の前に立つのがナタクだと理解してなお、ドラスは困惑する。
 コアを破壊されて死んだはずのナタクが、切り落とされたという右腕が健在で、傷も回復して、立っている。
 逆立てていた髪を下ろしていて、裸であった上半身には腹筋以外の場所を黒いボディスーツを纏っていた。
 そして――――ナタクの両肩に無骨な刃物が乗っかり、その存在をアピールしていた。
 割と見た目は変わっているが、それでもナタク本人であるのは明白だった。

「え……死んだ、ん……じゃ…………」

 言っておくが、決して理由なく奇跡が起こったのではない。
 ナタクは呼び出される前に、彼の生みの親である太乙真人に身体のスペック向上を命令した。
 それによりナタクが改造されている時に、太公望が太乙真人の元に寄って提案したのである。
 『相手にバレてしまっている霊珠の位置を、変えてしまおう』と。
 そのようなことを聞いてしまえば、実行したくなるのが科学者という人種。
 霊珠を頭部へと移して、なおかつ左胸にはダミーの霊珠を入れておいたのである。
 太公望と太乙真人のナタク改造計画は、さらに続いた。
 手元にあったスーパー宝貝の一つを、ナタクの体内に埋め込んだのだ。
 わざわざダミーの霊珠が破壊されれば、傷を回復た上にスーパー宝貝が出現。衣装まで変更。
 スーパー宝貝があるのなら、面倒な工程を踏まずに最初から使えばいい。
 そう指摘する人もいるだろうが、ピンチからの逆転というのは仙人のロマンなのだ。
 未来起こり得る展開を予想して、太公望と太乙真人は笑いあっていたのだ。
 …………横で寝ていたナタクには、一切知らせずに。

(今回の改造には太公望が関わっているとか言っていたが……ふん、アイツ等もごくたまには面白いことをする)

 当のナタクがこう考えている以上、知る権利を侵害したなどと太乙真人が責められることもあるまい。
 クックと喉を鳴らすと、ナタクはドラスに不敵な笑みを見せて切り出した。

「そうそう何度も言わせるな、ドラス」

 高圧的に、ふてぶてしく、自分の強さに絶対の自信を持り、高慢な物言い。
 要するに、いつもと同じような態度で。

「俺は死なん」

 そう、言い切った。
 チンクと敬介が倒れている現状は決して良好なものではないのに、ドラスに笑みがこみ上げてくる。
 あまりにも簡潔で、突拍子もない内容。
 それを迷うことなく堂々と言ってのける目の前の男が、何だかとても面白おかしくドラスには思えたのだ。

「……ふふっ、もうナタクはやってくれるよ。本当に、本当にだよ?」

 理解出来んと言って、ナタクが首を傾げる。
 それすらも、ドラスにはおかしかった。
 しかしすぐに、ドラスの意識は戦場に戻る。
 奇妙な音がまたしても響き始めたのだ。
 ドラスはナタクに知らせようとしたが、ナタクは既に気付いていたらしくバスターを構えたエックスを見据えていた。

「あ、ナタク……僕のせいで哮天犬が死んじゃった……」

 混天綾を掴むドラスは、今にも泣き出しそうな表情だった。
 そんなドラスの頭に再生した右腕を乗せて、ナタクは穏やかな声をかける。

「構わん。許してやる」

 お前の宝貝ではないだろうと、ツッコミを入れる人間はこの場にいなかった。

「でも…………」
「気になるなら、帰って直させる。あの男は、宝貝に関してだけは役に立つ」

 何か言いたげなドラスに、ナタクは修理可能な旨を伝える。
 ドラスが胸を撫で下ろしたのと、チャージ音が止んだのが同時だった。

「背中に掴まれ」

 戸惑うドラスを、ナタクは半ば強引に背負う。
 空を駆けるエックスの位置を確認しながら、ナタクは告げる。

「それに、今の俺は哮天犬がなくても飛べる」

 そう宣言した途端、ナタク両肩に乗っかった二つの刃が輝く。
 いや、よく見るとその刃はナタクの肩に乗っかっているのではない。ナタクを貫いているのだ。
 それこそが、ナタクに埋め込まれていたスーパー宝貝『金蛟剪』。
 本来スーパー宝貝は仙人とて一朝一夕で操れる物ではないが、常時六つの宝貝を装備しているナタクには可能。
 まるで重力法則から逃れたかのように、直立したまま浮かび上がるナタク。
 スピアチャージショットを易々と回避する。

「すごい……」

 意図せずドラスから漏れた言葉に、ナタクは頬を緩める。
 しかし、金蛟剪の能力は飛行可能になるだけではない。
 むしろそれは、本来の能力に付随しているものに過ぎない。いわばオマケだ。

 金蛟剪の真の能力――――それは、仙人界でも二番目の攻撃力。

 一定の距離を保ったまま飛び回るエックスが、バスターの通常弾で弾幕を張る。
 ドラスを背負った状態では、ショットを受けないことなど不可能。
 しかしナタクはマシンガンアームを構えずに、両方の目蓋を閉じている。
 伝え聞いた金蛟剪の真の能力を思い出し、そして全身に力を漲らせる。
 普段沢山の宝貝を操るナタクですら、スーパー宝貝を使うには集中力を高める必要があるのだ。

 ナタクが、勢いよく双瞼を見開く。

「はあッ」

 ナタクが軽く叫び、二つの刃が上下する。
 エックスが飛行する時に纏う以上のエネルギーが、ナタクを貫く一対の剣から出現する。
 白と黒、二色の溢れ出すエネルギーは次第に何かの姿へと変化していく。

 誰もがその名を知る空想上の生物――――龍の姿を模る。

 出現した白龍と黒龍は、ナタクとドラスに抱き締めるかのように巻きつく。
 エックスがチャージすることなく放ったショット。数は約七十。
 地面に降りてフットパーツに動力源を蓄えていたエックスは、それらのショットが全てナタクに命中するのを確認する。
 百パーセント終幕に至ったと思い込んでいたエックス。その眼前で、少しずつ煙が晴れていく。
 その中に残っていたのは、焼け焦げた二体――――ではなかった。

「バ……カな……」

 エックスの瞳に映ったのは、ほぼ無傷で二体の龍に守られるナタクとドラス。
 龍の鱗を落とすことすら出来ずに、七十の光弾は役目を終えたのだ。
 出鱈目すぎる防御力に、唖然とするしかないエックス
 彼に向けて、ナタクはその指を伸ばす。珍しいことに、汗が頬を伝っている。

「行け!」

 それが合図となり、白と黒の龍が出撃する。
 仙人骨から溢れる力を変換したエネルギーから成る肉体は、すっかり日の落ちた屋外で激しい光を放つ。
 エックスは距離を取ろうと、フリームーブを酷使する。
 しかしどんどんと龍に距離を詰められ、ついにあと数センチのところまで接近を許してしまう。
 ナタクが口角を吊り上げると、二体の龍がさらに加速する。
 そこを狙って、フリームーブを停止させるエックス。
 結果、二体の龍はエックスを追い越してあらぬ所まで通り過ぎてしまう。
 強烈な咆哮を上げて、モノクロのドラゴンは消滅した。

「…………ッ、これは……?」

 耳をつんざく高音に、倒れていた敬介が目を覚ます。
 辺りを見渡して、地面に降り立ったエックスと宙に浮かぶナタクに気付く。

「ナタク、生きていたのか」

 勝手に口から漏れた敬介の声に、ナタクが振り返る。
 その時、敬介はドラスがナタクに背負われていることに気付いた。

「当たり前だ。次に、俺が死んだなどと下らないことを考えれば殺す」

 明らかに自分の時と異なるナタクの態度に、ドラスは額を押さえる。
 言われた方の敬介は、ナタクの変わらぬ態度に少し笑みを浮かべていたのだが。

 敬介に言葉を投げたナタクは、身体の向きを直す。
 通常弾では効果がないと踏んでエネルギーを充填するエックスに、彼を絶望の淵から叩き落す言葉を告げる。

「やはり、慣れない手加減をするものではないな」

 ハッタリであることを願うエックスの前で、ナタクは再び目を閉じる。
 全身に力を篭めて、呼気を整える。
 衣服が変わったことで肌が見えるのはごく一部だが、その全てに玉のような汗が浮かんでいた。
 エックスはチャージを続ける。このタイミングで引き金に手をかけたところで、その火力では傷すら与えられらないから。

 今度は静かにゆっくりと、再びナタクが目を開ける。

「はあああ……ッ!」

 搾り出すように、息を吐くナタク。
 埋め込まれた金蛟剪が上下に動き、前回を遥かに凌駕する高出力のエネルギーが出現する。
 今回は色彩も豊かで、白と黒だけではない。
 数種類の絵の具をミックスしたような状態から、四つのカラーに枝分かれする。
 その全てが、趣味の悪いほどの原色。闇夜を禍々しく照らす。
 伝え聞いたレインボードラゴンを繰り出すつもりだったナタクは、ほんの少しだけ歯噛みする。

「四匹か、まあいい。すぐに七匹全て従えてやる。とりあえず今は……殺せ!!」

 四体の龍が、エックスの元へと飛び掛る。
 一体は直進、一体は上空から、一体は渦を描きながら、そしてもう一体も直進。
 高鳴る動悸に耳を貸さずに、エックスはスピアチャージショットを放つ。標的は、直進してくる二体。
 しかし、貫通性に特化しているはずのそれは――――

「喰われた……!?」

 大口を開けた真紅の龍に咀嚼され、そのまま何もなかったかのように真紅の龍はエックスに襲い掛かる。
 エックスはフリームーブで飛翔。上空にいたブルーの龍の突撃を、どうにかこうにか触れることなくやり過ごす。
 下方から突っ込んでくる黄色と緑を、再びフリームーブを切って回避。
 それを予想してナタクが向かわせた真紅が、牙を剥き出しにして横合いから出現。
 フットパーツの回路をすぐに回して、エックスが上昇。真紅は虚空を噛み砕く。

「もういい」

 その展開に業を煮やしたのは、他ならぬナタク。
 ある方向を示すと、そこに発現している四体の龍が集う。
 四体全てが絡みつき、エネルギーへと戻る。
 そして分離しないまま、一体の龍の姿をとる。

 ――――現れたのは、巨大な四色の龍。

 エックスの背筋に氷塊が落ちた。
 不本意ながら、理解してしまったのである。
 あれが向かってくれば、避けきれないと。
 エックスは着地、直後に跳躍。ひたすらに上昇する。

「行け……!!」

 呼吸を荒くして、水浴びでもしたかと間違うほどの汗を流すナタク。
 彼の命令に従って、直径が丸太の八倍はありそうな龍が宙を奔り出した。

「くッ、ああああ!」

 言葉にならない喝を自らに入れて、エックスは上空を目指す。
 全力でフリームーブを行使するエックスを、その数倍の速度で龍は追いかける。
 あえて見下ろすことなく、エックスは昇り続け――ついにコロニーの天井に追いやられた。
 そこで初めて視線を下にして、あまりに近くまで接近している龍に驚愕するエックス。
 ほぼ同時に、フリームーブのエネルギーによるバリアと龍が接触する。
 しかし、バリアはバリアの役目を果たせない。
 溢れたエネルギーは、その都度龍に食らわれているのだ。
 龍の姿をしているとはいえ、それもまたエネルギーの結晶体。
 出力の高さゆえに、触れていないのにファルコンアーマーの表面を炙っていく。
 アーマーに守られていない箇所は、既に黒ずんでいる。顔面さえも。

「ま、だ……俺、は! 死ねないんだァァアアアア!!」

 叫びながら、エックスはバリアを解除する。
 諦めたのではない。その分のエネルギーを、全て移動に使うため。
 右方向へと駆けるエックス。しかし、龍はそれ以上の速度。
 ついにエックスの左肩に喰らいつく。
 だが、それはエックスの計算通り。
 エックスは装甲が削がれ、バスターの存在しない左腕を犠牲にしたのだ。
 エックスの左肩口から先がもぎ取られる。流れる激痛に顔を歪めながらも、エックスは右へ加速。
 対象に逃げられた龍は、コロニーの天井に激突。
 たかが壁如きが、仙人界ナンバーツーの攻撃に耐えられる道理はなく。
 壁は完膚なきまで焼き尽くされ、消滅した。
 偽りの夜空は消滅し、あまりにも深い闇が広がる。
 煌びやかな無数の星を確認して、エックスは頭の中でガッツポーズをとる。

(そのまま、宇宙に消えろォ……!)

 流れ出ようとする空気の流れに、フリームーブで抗うエックス。
 その願いも虚しく――――巨大な龍は、地面に向かおうとするエックスに顔を向けた。



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