ロクノベ小説保管庫 四章 RainbowChaser

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ディグアウトという職業を世界で最初にした人間は、どういう人間だったんだろう?
エネルギー危機にやむにやまれて?
それとも無敵の勇気を持っていたのか、無謀な人間だったんだろうか。

俺が思うに、少なくとも好奇心の無い奴じゃあ無かったんだろうな。
そうじゃなきゃ遺跡になんて潜ろうとさえ思うもんか。
先に何があるか、何ひとつわからない危険な場所に延々おりて行くなんて、
とてもじゃないが俺はごめん。
今だってこの遺跡の深奥に虹色ディフレクターがあると思わなきゃ、
とっくにくじけて家に帰ってるぜ。
でも、裏を返せば何かちょっとでもいいものがあったらガンガン進めるってわけで…

われながら現金だね。

俺は肩をすくめてから、もう何枚目になるか、遺跡の扉を開いて先に進んだ。
『いいわ。その道に沿ってまっすぐ…うん、そして三つ目の横道を左!』
少女の声がベルトに装着した無線機から響く。
ロールの指示は的確だった。複雑な遺跡の内部をわかりやすく導いていく。
俺はその手腕につくづく感心した。まだ十四、五歳にしか見えないのに、たいしたもんだ。
…でも、それが『プロ』ってやつなのかもしれないな。

俺は指示どおりに進みながら、変わり果てた『七色の遺跡』の入り口付近を思い出していた。
そこはいつもの遺跡よりも格段に広く、形も長方形の部屋だったはずが滑らかな楕円形の広い空間に変じていた。
俺は心底驚いたが、それより俺が一番面食らったのは遺跡内を照らす光の変わりよう。
いつもはどこが光源なのかわからない白い光にてらされているんだけど、
目の前に広がったそこは、不吉な赤い光で塗り込められていた。
まるでエマージェンシーの軍事基地みたいじゃないか。と、俺は思った。
…ま、見たことは無いんだけどさ。イメージでそう思った。

とにかく、ここは本当に俺が知っていた遺跡じゃない。
こうまで変ってしまうなんて、…遺跡を造った人間たちは何を想定していたのだろう。

「それにしても、リーバードがでないじゃないか」
『仕方ないわよ。だって、もう先にディグアウトした通路なんだから』
確かにね。でも、入り口からここまで一匹も出ないと逆に不安になってくるよ。
それとも、先に行ってるディグアウト担当とやらが
リーバードを全滅させながら進めるくらいのおっそろしい手馴れとか?

俺は苦笑した。…まさかなぁ。ありえないぜ。
ディグアウトの目的はあくまでディフレクターの発掘だ。
わざわざ全滅なんてさせてたら命がいくつあっても足りない。
どんな奴なんだろう?…そのディグアウト担当者は。

俺は頭をふって余計な考えを振り払った。
集中集中。今は危険な遺跡のディグアウト中だ。それでなくても俺初心者なんだから、
余計なこと考えてる場合なんかじゃない。
『グランド、ディーアさんって知ってる~?』
「!?」
無線からのとんでもなく予想外のセリフに、
俺は思わず急停止した。もうすこしですっころぶところだ。
なんでロールがディーアのことなんて知ってるんだ!?

「なっ!?なんでディーアの名前を!?
 それって赤毛でそばかすのちびで、やたら怪力の子供のことだよな!?
 あ、奴のことだからあんたのとこに野次馬に来たのか!?」

無線から聞こえたのはロールの声じゃなかった。
真っ赤な照明に染まる遺跡の通路に、耳を聾せんばかりの聞き慣れた声が炸裂した。
『どさくさにまぎれて何言ってるんだボケグランドーーー!!』

…おいおいディーアだよ!

おかしいじゃないか、あいつの家は門限が厳しくて今ごろ外出なんてしたら、
親にめちゃくちゃ怒られるはずだぞ。
「それはともかく、お前なんでそこにいるんだ!?」
『ともかくじゃないよ!さっきの発言については後できっちり追求するからな!』

…うっ。
『グランドのおばさんから家に電話があったんだ。
 「すぐ帰るって言ったのにまだ帰って来ない。そちらにお邪魔していませんか」ってな!
 聞けば西の湾に行ったって言うし、
 これは間違いなくディグアウターを見に行ったんだと思って、
 俺グランドのことだからディグアウターと話すうちについついその気になって
 一緒にディグアウトしちゃってるんじゃないかって思ったんだよ』

あ~。そうだった。俺、すぐ帰るって言ったんだった!
でも、なんだよこのディーアの鋭さ。あいつテレパシーとか使えるんじゃないのか?
漁の相棒だし、いつも一緒に遊んでるし、家は丘をひとつ越えたとなりだし。
両親より俺の性格とかは理解している存在だとは思うけど。
…なんか悔しいなあ。

『…だからおばさんには
 「さっきここに来て話してたらうちに泊まるって言ってさっき寝ちゃいました」って言っといたぜ。』
「ナイス!!ディーア最高!!感謝する」
俺は思わず無線をつかんで叫んだ。
俺がディーアの家に泊まることなんてしょっちゅうあるし、
親はそういうことなら。って納得するだろう。言い訳にしちゃ最高だ!!
「…でも、それじゃなんでお前そこにいるんだ?」
『こっそり家抜け出してきた。だってずるいじゃんか!グランドばっかりぬけがけしてさ。
 ディグアウターになりたいのは俺も同じだって知ってるだろ!!』
そうだ。ディーアもディグアウター志望だ。いつか飛空挺が買えたら、
一緒に組んでディグアウトをしよう、といつか約束していた。
あいつは俺以上に外の世界に憧れている。ごくごくたまに飛空挺が島の近くを通ると、
それを見上げたディーアは見えなくなるまで見つめつづける。
それはもう食い入るように。

奴の夢も俺の夢も、先はともかく今は同じなんだ。
それりゃあ抜け駆けしたら怒るよな。
「…わかった。そこにロールさんいるんだろ?
 彼女に聞いてからお前も来い。別にナビをするんでもいいぜ」

ディーアは笑ったようだった。
『ああ!ちょっとロールさんに話聞いて、
 どっちか気に入った方やらせてもらう。グランド、俺が行くまで自爆すんなよ!』
誰が自爆するか。そっちこそ遺跡の変わりようにおびえんなよ!
「じゃ、一旦切るぜ」
俺はベルトに無線を戻して、再び先に進んだ。
途中分かれ道やエレベーターのありかはロールが冷静なナビで教えてくれた。
バックでディーアがうるさく何か言ってるのにも動じることなく。
…う~ん、やっぱ大物だぜあの子。

遺跡を満たす赤い光のせいで非常に視界が悪い。
普通の時の倍は物が見えにくくなっている。ともすれば扉を見落としてしまうんじゃないだろうか。
普通の視力ならそうとう難儀するだろう。俺、目が良くてよかった。
『グランド! 戦闘反応! …そこを曲がった先にいるわ。
 よかった、なんとか合流できたわね。あっちには私が無線で知らせておくけど、
 いきなり出てってリーバードと間違われないようにね』
「おっけー! わかったぜ」
まっすぐに伸びた通路は右に曲がっている。その向こうで、巨大な何かが倒れる音と、閃光が閃いた。誰かがリーバードと戦ってるんだ!
俺は注意してそっと歩いて角を曲がった。
(うおっ!?)
そこでは予想外に激しい戦闘が繰り広げられていた。

シャルクルスが2体、ひとりの少年めがけて襲いかかっている。
少年の方は丸みを帯びた紫のアーマーに身を包んではいるものの、
細身であまり強そうと言う感じはしない。
見ている間に、一体がダッシュと同時に少年の頭めがけて凶器と化した己の腕を叩きつける。
それを少年は軽くかいくぐり、そいつの背中側に抜けるとシャルクルスの背に片腕をついて高くジャンプした。
その足の下でもう一体のシャルクルスが悔しげに腕をふりまわす。

すごい、もう一体の動きまで読んでいたんだ。
驚くのはまだ早かった。少年はなんと、その悔しがるシャルクルスの顔面に両足で着地し、バランスを失って仰向けに倒れたそいつにバスターを連射。
瞬時にとびすさって爆発から逃れると同時に壁際を疾駆し、
ようやく爆発した仲間を振り返ったもう一体のシャルクルスの後ろにすべり込んでいた。
―――驚いた!なんて身体能力だろう!!
驚く俺の目の前で、再びのバスター連射を体中に浴びた残りのシャルクルスが爆発した。

…すごい。こいつだったらリーバードを全滅させながら進むなんて真似ができるのかもしれない。
「すごいな! あんたがロールさんの相棒か?」
こちらに背を向けて汗をぬぐっていたその少年がはっと振り向いた。

やっぱり14、5歳くらいだろう。褐色の髪に灰色の瞳。片手のバスターはまだゆっくりと煙の筋を引いていた。
ビックリした表情で目を2、3回瞬かせ、少年はにこっと明るい笑顔をみせた。
「相棒っていわれるとちょっとビックリするよ。あんまりそうは言われないからさ」
照れたようなその顔に俺は気付いた。
そうか、ロールとおなじくらいの年齢のこいつが並んで歩いていたら、
ディグアウターというより恋人同士だ。なるほどね。

「俺はグランド。もうロールさんから聞いてるか?」
その少年は嬉しそうにうなずいた。
「ええ。僕はロイ・G・ビヴ。ロイって呼んでください」
あれ。フルネームの自己紹介だ。じゃあ俺もフルネームで自己紹介しないと。
「俺はグランド・リヒトエアっていうんだ。 変ってるし、言いにくいだろ? だからこっちもグランドでオッケーだ。俺はこの島で弓漁師をやってる」
いいながら、俺は預かった特殊武器をバックパックから取り出した。
「あっ! ブレードアーム…と、シャイニングレーザー!? やった、二つも!」

喜びの声をあげて、ロイがブレードアームを片手に取り付ける。
「でも2つもなんて。重かったんじゃないですか?」
そんなもの。10キロを越える魚を担いで断崖絶壁を上り下りする弓漁師だぜ?俺は。
5,6キロにしかならない荷物なんて重いの内にも入らない。
「大丈夫。ふだんから重い荷物は運び慣れてるから」
にっと笑ってみせると、ロイもつられて笑う。へえ、結構気さくな奴だなあ。
「あとはこいつ」
仕上げにエネルギーボトルを放ってやる。
しかし、エネルギーボトルを忘れていくなんて、結構抜けてるやつなのかもしれない。

…崖で足をすべらせかけた弓漁師が言えることじゃないかもしれないけどさ。
器用に片手で受け取ったロイがそれをしまうのを待って、
俺はここに来た本来の目的を切り出した。だって…黙っておくのは卑怯だろ?

俺は俺の夢のこと、虹色のディフレクターのことをロールから聞いたことをまず話した。
「でさ、この島にいる限り大金稼ぐチャンスなんて滅多に無いんだ。
 頼む。俺もこのディグアウト、手伝わせてくれ。
 …それで…その…よければ、虹色ディフレクターを売った金のほんの一部でいいから、もらえないか」
我ながらなんて虫のいい話だとは思っていた。
最悪このまま帰れといわれるかも、とも覚悟していた。…が。

ロイは気持ちいいほどあっさりうなずいてくれてしまった。
「いいよ。じつはもうロールちゃんから話は聞いていたんだ。
 …でも、僕が君にはついて来れないと判断した場所がでたら、
 そのときには戻ってもらいたい。いいかな?」

・・・信じられない!
「ああ! ありがとう、この恩は一生忘れないぜ!」
「大げさだなあ。面白い人だね、グランドさん」
…そうか?

 先に進みながら聞いたロイの話によると、入り口から入ってすぐのところに
(俺はそこには寄らないで直行してきたから見てない)巨大な空間があって、
そこにいかにもな扉があるんだそうだ。
その扉はなにかの鍵でしっかり封印されていて、ロイはその鍵を探しにここまで来たという。
「…でもおかしいんだ。そんな鍵なんか全然ある気配が無い」
「先にあるかもしれないだろ?」
「それはそうなんだけど・・・」
そこで、俺の無線とロイの無線がザザッと作動音を立てた。
『二人とも! おしゃべりはそこまで。リーバード反応よ!』

―――来た!

通路のどん詰まりに小さい扉があって、そこはT字路になっている。
その、壁で先が見えない左右の通路からそれぞれ小さく素早い影が踊り出た。
オルフォン!
胴体が円の形になった、狼型のリーバード。4頭だ!
すでに構えていたロイのバスターが赤色の通路に光弾を放つ。
一瞬遅れて俺もつがえていた矢を解き放った。
バシュンッ!
三つの光弾を浴びたオルフォンがなすすべもなく転倒して弾け、ばらばらになって消える。
もう一頭は俺の矢に前足を片方ふっ飛ばされ、
悲鳴を上げてのけぞった首に第二矢を受けてガシャリと倒れた。
しかし、その二頭を踏み越えて残りのオルフォンが迫る!予想以上に素早い機動だ。

ロイは冷静にさっき以上のバスター連射で打ち倒す。
しかし俺はそうは行かなかった。弓は連射がきかない。
あっという間にオルフォンが1m手前に迫り、視界の端に映るロイの顔が青ざめた。
今から撃ってる暇は無い。どうする、どうする!?
「このっ!!」
ガギンッ
俺は弓そのものでオルフォンの強靭な顎を殴り飛ばした。
さすがご先祖様が拾ってきた古代人の武器!ひびも入ることなくリーバードに直撃した。

体も小さいこともあって、オルフォンはくるくる回りながら後方にふっとんだ。
そこへ、俺が放った矢が襲い掛かる。
狙う暇があったから、鋼鉄の矢はオルフォンの開いた口の奥から尻尾の先までまっすぐに貫いた。
―――ギャンッ!
悲鳴をあげて崩れ落ちるリーバード。…ふぅ。ちょっと危なかったぞ、俺。


「すごいじゃないか、グランド! これが初めての戦闘?」
バスターを降ろしたロイが自分のことのように嬉しそうに叫ぶ。
「そうだよ。ホロッコくらいなら戦ったことあるけど、これくらいやばかったのは初めて」
床に落ちた矢を拾い集める。
オルフォンの前足を吹き飛ばした矢以外は回収できた。
きちんと回収していかないと、制限があるからなあ…

ブツブツ言っている俺に、突然ロイが叫んだ。
「まずい! グランド、伏せろっ!!」
な、なんだ!?
驚きながらもその場に伏せると、すぐ頭上を小さい人形みたいなものが通り過ぎていった。

…なんだありゃ???
俺の頭上をすぎた直後に、ロイが強烈な蹴りをその人形にぶち当てる。
…ということは、あれもリーバードなのか!?
遠くまで蹴り飛ばされた人形は、通路全体を揺るがすような大爆発を起こした。
「うわっ!?」
「ミータンっていう。攻撃をくわえたり、
 一定以上近くに寄られたりしたら今みたいな大爆発を起こすんだ。
 まずいぞ、大量に来てる!!」
俺は立ち上がってロイが見ている方を見た。
…本当だ、俺たちが進んできた方から2、30体飛んで来てるっ!

あれが全部爆発したら、どうなるか。…考えたくも無い。
「いったんどこかに逃げるぞ!」
ロイが叫んで、通路の終わり、扉へ走った。なるほど、扉の向こうならあいつらも追って来れない。
「よし!」
リーバードの動きは速くない、逃げ切れる!!
俺とロイは全力で疾走した。扉まで後5m、4m、3m、…。
走っているうちに、背中にぞくぞくする殺気が当たる。近い、振り返りたく無いっ!

二人は怒涛の勢いで扉の向こうに走りこんだ。